著者
伊藤 誠悟
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

無線LANを用いた位置推定手法に関して,受信電波強度の変化量を考慮し近接性方式(Proximity)および環境分析方式(Scene Analysis)を組み合わせた無線LANハイブリット位置推定手法について提案した.本手法では位置推定の際に,第一段階として,受信電波強度から近接性に基づき位置推定に使用するアクセスポイントを選択し,選択されたアクセスポイントを利用しベイズ推定により位置推定を行った.本手法を用いる事により,無線LANアダプタを保持する端末ならば,屋内環境において2m〜10m程度の精度で位置推定が可能となった.また,市中の実環境において無線LANを用いた位置推定システムに関する基礎検討を行った.無線LAN位置情報システムで利用するための基準点情報を住居地域及び商業地域において収集し,収集方法に関して収集効率と位置推定精度及びカバー率の観点から検討および評価を行った.実験結果より,屋外環境において基準点情報を用いた位置情報システムの推定精度は約30m〜50mであり,名古屋,大阪,東京の商業地域,住居地域等において全ての街路の半分の経路による収集でもカバー率が80%程度になることが分かった.この推定精度は,基準点情報の誤差に,無線LANによる屋外位置推定誤差が相加された精度である.また,収集時間は1平方キロメートルあたり5000秒程度であることが分かった.例えば,東京のJR山手線内側(総面積約65平方キロメートル)において,80%程度のカバ「率の広域な位置情報システムを構築する場合,162500秒(約45時間)程度の収集時間が必要である.我々の検討がこのような概算を行う際の指針となる.
著者
中島 章光
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

太陽活動の影響によって磁気嵐やサブストームなどの擾乱現象が発生すると、太陽風エネルギーが磁気圏を介し電離圏に流入する。このエネルギー流入過程を解明するためには、地磁気擾乱時のオーロラ粒子の加速・加熱過程について調べることが重要である。昨年度は、磁気嵐中のサブストーム発生時に、広いエネルギー範囲(50eV-30keV)にわたって降り込み電子が増大する現象"broadband electrons(BBEs)"について調査を行った。本研究によって、BBEsは磁気赤道面で加熱された高エネルギー電子と、より地球近傍で加速された低エネルギー成分により構成されていることが示唆された。磁気嵐中のサブストーム発生時に観測されるBBEsの研究に加え、本年度は、サブストーム回復相において数秒から数十秒の周期で点滅するオーロラ現象である、パルセイティングオーロラについて、その原因となるオーロラ粒子降り込みについての調査を行った。パルセイティングオーロラの生成については、磁気赤道面で粒子が散乱され、数keV~100keVの高エネルギー電子が電離圏へ降り込むというモデルが提案されてきた。しかし、近年では磁気赤道面より地球に近い領域からの粒子降り込みであることが示唆されている。先行研究のほとんどが低高度衛星のデータを用いていたのに対し、本研究ではTHEMIS衛星のデータを用いて、パルセイティングオーロラ発生時の磁気赤道面付近における電子のピッチ角分布の特徴を初めて明らかにした。パルセイティングオーロラ発生時に磁気赤道面付近で1-10keVの電子フラックスが沿磁力線方向に大きく変動し、特に1-5keVの電子のフラックスは、地上から観測したオーロラの点滅とほぼ同じ周期で振動していることを示した。本研究の結果から、パルセイティングオーロラに寄与するオーロラ電子の一部が磁気赤道面付近から電離圏へ降り込んでいる可能性が示唆された。
著者
中條 直樹 佐藤 昭裕 神山 孝夫 岡本 崇男 酒井 純 塚原 信行 山口 巌 山田 勇 今村 栄一 水野 晶子 田中 大
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

2008年度には、本プロジェクトにおいて正本と位置づけた『ラヴレンチー版原初年代記』のコンコーダンス(CD)を作成し、2009年度には、その異本の一つである『ラジヴィル年代記』のコンコーダンス(CD)を作成した。最終年度においては前年度に電子化を終えていた『トロイツァ年代記』について徹底した校正を行い、そのコンコーダンスを作成し、これら三つの年代記のコンコーダンスを一枚のCDに収めることにより、共通する語の文脈等の環境の差異の検証を飛躍的に容易に可能にした。
著者
片木 篤
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
2000

平成13年度においては、近代ヨーロッパで成立した1)郊外と郊外住宅 2)山岳リゾートとサナトリウムを取り上げ、それらを「衛生」概念から分析した。産業革命を先導したイギリスでは、工業都市への人口集中とそれに伴う労働者の住環境劣化が「都市問題」化され、E.チャドウィックによる公衆衛生法の制定(1848年)以降、公衆衛生法と建築法により、住棟の前面道路幅員や「囲い地」、住戸の窓面積や天井高等が規制された。これらの規制項目を抽出することで、当時の「衛生」概念では、採光(=「太陽」)と通風(=「空気」)のサーキュレーションが重視されていたことが明らかとなった。また中流階級の郊外住宅では、そこに屋外活動として農業のシミュラークルとしての園芸(=「緑」)が加わり、そのことが郊外住宅地のパンフレットで宣伝されたり、更に啓蒙的企業家による工業モデル・ヴィレッジでも公共菜園が設けられたりした。E.ハワードの「田園都市」論(1898年)では、「太陽の輝き」「新鮮な空気」「樹木と牧草地と森」という利点をもつ農業-村落と工業-都市とをそれぞれ独立した1対として、両者の均衡が図られており、「田園都市」でも「衛生」概念が下敷きにされていたことが明らかとなった。「太陽」「空気」「緑」は、「労働」からの心身の再生(recreation)、すなわち「余暇」の場であるリゾート地の必須要素となったが、海浜リゾートに労働者階級が押し寄せ大衆化されたこと、「オゾン」や「森林浴」といった新鮮な「空気」の摂取が喧伝されたことなどが相俟って、山岳にリゾートやサナトリウムが建設されるようになった。興味深いことに、J.ダイカー設計のサナトリウム(1919年-)やA.アアルト設計のサナトリウム(1928年-)では、桟橋や甲板といった海浜リゾートの差異的要素が持ち込まれていることが読み取れた。
著者
岩田 好一朗 川嶋 直人 富田 孝史 水谷 法美 渡辺 増美
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

本年度は,非線形2方向波と非線形多方向波を対象として,斜面上に設置された大口径円筒構造物に作用する波力の発生機構と波変形の研究を行うと共に,3年間の研究のまとめを行った.平成8年度から平成10年度に亘って得られた成果は,次の様に要約される.1) 単円柱に作用する一方向不規則波の作用波力を,有義波や1/10最大波などのような代表波として,規則波換算して求めることには無理がある.2) 単円柱に作用する多方向不規則波の波力は,方向集中度パラメターにより変化する.しかし,主波向き方向の波力は,方向集中度パラメターが大きい方が大きくなるとは限らない.斜面上では、波の屈折により,沖波の方向集中度パラメターの変化に伴う,発生波力の変化特性は,一定水深の場合と異なる3) 二円筒構造物の場合の作用波力は,波の方向集中度パラメターが小さいとき,方向集中度パラメターより,円筒構造物の設置間隔と波の周期に支配される.方向集中度パラメターが大きくなるにつれて,構造物どうしの回折波の影響は,明瞭でなくなる.4) 多方向不規則波浪場に複数の大口径円筒構造物を近接して設置する場合,外側円筒構造物の外側域の波高分布は,構造物の設置間隔に依存しないが,内側域では,部分重複波が形成されるので,円筒構造物の間隔が小さい程,波高は大きくなる.従って,円筒構造物表面の作用波力も,円筒構造物の設置間隔が狭くなるほど,大きくなる.一方,外側円筒構造物の外側域の波高は,波の方向集中度パラメターが大きい程,大きくなるので,外側円筒構造物の外側表面に作用する波力も,波の方向集中度パラメターが大きくなるにつれて,大きくなる.
著者
岩田 好一朗 川嶋 直人 富田 孝史 水谷 法美 IWATA Koichiro 渡辺 増美
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

平成10年度は,傾斜面に設置された潜堤を取り上げて研究を行った.多方向不規則波造波水槽に1/20の一様勾配斜面上に不透過潜堤を設置して,潜堤天端水深と作用波(多方向不規則波)を変化させた詳細な実験を行い,ヴィデオテープレコーダと本研究で開発した砕波水位計を使って,砕波限界を計測した.水理実験は,研究代表者と分担者が共同で行った.そして,水理実験値を解析して,多方向不規則波の砕波状況を考究すると共に,砕波限界の定式化を行った.そして,10年度の成果を含めて,3年間の研究成果のまとめを行った.平成8年から平成10年の3年間で得られた成果は,次のように要約される.1) 多方向不規則波の砕波を高精度で計測する水位計がなかったので,世界に先駆けて,12本のセンサーから構成される砕波水位計を開発した.2) 多方向不規則波の方向集中度パラメター,S_<max>が大きくなるにつれて,砕波相対波高、H_b/R(H_b:砕波波高,R:天端水深)が平均的に小さくなり,砕け易くなる.3) 多方向不親則波の限界波形勾配,H_b/L_o(L_o:深海波としての波長)は,H_b/L_o=0.107tanh(k_oR)で精度高く算定できる(k_oは深海における波数である).4) 砕波相対波高,H_b/Rの実験値はばらつくが,その分散度合は、方向集中度パラメター,S_<max>が小さくなるにつれて,大きくなる.5) 潜堤の横先端部での砕波波高は,急激な屈折の影響を受けるので,潜堤中央部での砕波波高より,一般的に大きくなる.
著者
高井 治 APETROAEI NECULAI APETROAEI Neculai
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

本研究では液中での放電現象(ソリューションプラズマ)を利用した金属ナノ粒子(主に銅ナノ粒子)の作製と形状制御を試みた。以下に本年度で得られた具体的成果を示す。(1)作製法ワイヤもしくはロッド電極には銅やタングステンを用い、平板電極に銅を使用した。放電が発生した領域において電極の溶融・蒸発が進行し、誘電液体中、核生成とそれに続く凝縮によりナノ粒子へと変化し液中に分散した。ナノ粒子生成の確認にはTEMを用いた。(2)形状制御誘電液体の種類を変えることで、生成するCuOナノ粒子の形状を制御した。純水中では幅10nm、長さ100nm程の針状構造を確認した。エタノールもしくはエチレングリコール中では銅-炭素合金状を、水-ヒドラジン系では多角形構造やロッド構造の生成を確認した。初期状態の形状は同じだが、最終的には液体自体の特性に因るところが大きいことが分かった。(3)電極表面銅、モリブデン、タングステンなど各種電極の表面形状をSEM観察したところ、放電前後で表面形態が変化していることが分かった。以上より、本年度はソリューションプラズマによるナノ構造制御の基礎的知見を得て、作製プロセスを確立することができた。
著者
坂神 洋次 小鹿 一 近藤 竜彦
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

(1)枯草菌のクオラムセンシングフェロモンComXの構造決定、構造活性相関、in vitro酵素反応を用いて特異な翻訳後修飾機構を解明し、さらに翻訳後修飾の普遍性に関する研究をおこなった。(2)前駆体遺伝子が明らかになっているが、実際に作用している化学構造が不明な植物ペプチドホルモンの化学構造を解明する手法を確立し、シロイヌナズナの成長点(茎頂分裂組織)の機能維持に必須の遺伝子CLV3に由来する生理活性ペプチドとしてMCLV3を、同じくシロイヌナズナの気孔形成を誘導するSTOMAGEN遺伝子に由来するstomagenを同定し、その構造を明らかにした。
著者
竹下 享典 沼口 靖 新谷 理 柴田 怜 室原 豊明
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

血管新生は既存の血管から新たな血管枝が分岐して血管網を構築する生理的現象であり、その制御は、虚血をきたした組織の血流の改善、あるいはがん細胞増殖の抑制のために重要な治療ポイントである。本研究では、受精卵から成体になる過程で重要な役割を果たすことで知られるNotchシグナルが、成体の虚血組織の血管新生においても重要であることを、細胞内シグナル解析および遺伝子改変マウスを用いて明らかにした。
著者
山形 英郎
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

住民保護責任を中心概念として、「人間の安全保障」と「国家の安全保障」の関係を研究した。人間の安全保障には、日本を中心とした平和的なアプローチとカナダを中心とした軍事的なアプローチがある。前者によれば、人間の安全保障は国家の安全保障と矛盾するものではなく、相互に補完的な関係を有している。その一方で、後者であれは、人間の安全保障の優位が認められ、国家の安全保障が毀損される場合がある。とりわけ、破綻国家のような場合には、国際社会の介入が許されるとされ、破綻国家の王権=安全保障が害される可能性があるめである。しかも、そうした介入の対象となるのは、破綻国家であり、途上国を中心として中小国である。しかも、そうした介入が、介入国にとって、テロ防止の名目で行われる場合があり、被介入国の主権=安全保障を犠牲にして、介入国の主権が強化されることになる。そうした一方性が存在していることを明らかにした。アフリカ連合では、住民保護責任概念の拡大傾向がある。また、国際司法裁判所のジェノサイド条約適用事件では、住民保護責任の影響が判決の中に出始めている。その一方、国連事務総長が作成した「住民保護責任の実施」文書によれば、国際社会が実施する住民保護責任は、国連の集団安全保障制度の枠内でのみ可能であるとされ、住民保護責任限定花が行われている。濫用を戒めているのである。住民保護責任が一般国際法上の概念として確立するまでには至っていないが、国際法上の主権概念に大きな変容をもたちす可能性をもっていることに注意が必要である。
著者
櫻井 龍彦
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

今年度は5月6日〜13日に春季廟会、9月3,4日に秋季廟会の調査をした。(1)廟前にある歴代の石碑を調査し、撮影した碑文を解読し、データベース化した。→康煕・乾隆時代から残存するものを含め、現在45基の碑を確認した。碑の写真と碑文の内容、現在復活した香会との関係等についての詳細データは、2006年3月に出版した中国語による報告書(総490ページ)にまとめた。(2)日本で未見の資料を収集した。→関係者の協力をえて、民国時代の貴重な資料はもとより、雑誌、新聞記事などに掲載された断簡零墨に近い資料も網羅的に収集し、A4コピーで3,600ページの分量になった。(3)香会および香客(参拝者)の現地調査。→2年間で、これまでに復活した香会を完全に把握することはまず不可能であるが、少なくとも約80の存在は確認した。そのうち重要な香会については、個別に密着調査をはじめた。また廟会の当日だけではなく、その準備段階における香会の行程についても参与観察した。密着型の追跡調査と準備段階の調査は従来だれも行っていない。香客については、初年度にアンケート調査をし、275人から回答をえた。また個別の聞き取り調査もおこなった。その結果は報告書に入れてある。(4)秋季廟会の調査。→従来、全く報告のなかった秋の廟会について、ほぼ実態を知ることができた。これは妙峰山廟会研究史の空白を埋めるものである。参加した香会などのデータは報告書に記載してある。(5)碑文の分析から香会の成立背景及び現在の組織のあり方を探った。→報告書に中国側協力者を含めた調査報告、論文などを21本収めた。研究成果としては、上記の中国語による報告書とは別に、論文として「妙峰山における「香会」の復活と現代的意義」加地伸行先生古稀記念事業会編『中国思想の十字路』所収(研文出版、2006)を発表した。
著者
山下 宏明 小川 正廣 神澤 榮三
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

前年度の成果を踏まえ、研究分担者各自の専攻領域の研究を改めて問いなおすことを課題とした。すなわち、山下は、改めて平家物語を内在的に規定している‘語り'の問題を物語と音曲の両面にわたって検討し、説話文学との差異を明らかにし、語り行為論的観点からする平家物語論に対して評価を加えた。音曲面については東京芸術大学を場とする共同研究グループとの音楽的成果を生かしたり、語り行為論的側面については、これも芸大での共同研究者の一人である兵藤裕己氏による肥後に伝わる座頭琵琶の語りの実情からする成果をめぐって、平家物語を口誦詩的観点のみに限定して論じきれないことを論じた。神澤はローランの歌との比較から口誦詩論的に平家物語を論じ、その成果を國文学者たちが企画した“あなたが読む平家物語"の1冊『芸能としての平曲』に求められて執筆、近く東京都内の出版書肆から刊行の予定である。なお山下の成果も、その企画の1冊『平家物語の受容』におさめ、すでに刊行ずみである。フランスの口誦詩との比較研究については先例もあるが、外国文学研究者が平家物語に即して検証したのは、佐藤輝夫氏以来の成果であろう。小川については専攻のギリシャ古典の関する学位論文の出版に従事し、その作業を進めるうえで本研究の成果を踏まえた。ギリシャの口誦詩は、世界のいわゆる叙事詩の原型をなすもので、平家物語を口誦詩論的に検討するうえでも有効なモデルであることを改めて確認した。
著者
佐々木 重洋 和田 正平 井関 和代 慶田 勝彦 武内 進一 野元 美佐 和崎 春日
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、今日のアフリカ諸社会にける青少年に注目し、彼らがそれぞれどのように文化を継承、再創造、あるいは破壊しているのか、その実態を明らかにした。また、それぞれの地域社会において継承されてきた伝統的な成育システムや相互扶助組織、各種の結社等の調査研究を通じて得られた成果をもとに、今後グローバル化の一層の進展が予想されるアフリカにおいて、将来的に青少年の人権を保護し、彼らの生活上の安全を保障するとともに、彼らが文化の担い手としての役割を十全に発揮できるような環境づくりに寄与し得るような指針のいくつかを提供することができた。グローバル経済の急激な浸透に直面する今日のアフリカの青少年にとって、人間の安全保障や人間的発展などが提唱する「能力強化」は、法的権利の行使や政治的発言力の獲得、女性の地位向上と彼女たちによる自らの主体性への覚醒、グローバル経済にアクセスして相応の利益を獲得するうえで確かに重要であり、そのために読み書きや計算などの基礎教育を充実させることには一定の意義がある。ただし、それぞれの地域社会で継承されてきた伝統的な成育システムがもつ今日的意義は決して過小評価されるべきでない。基礎教育の普及は、しばしばこれら伝統的成育システムの否定に結びつきがちであるが、それぞれの地域社会の文脈において、こうした伝統的成育システムがもつ多面的意義を正確に理解し、それらへ基礎教育を巧みに接合させる方途を探求することが有効である。本研究におけるこれらの成果は、人類学やアフリカ地域研究のみならず、コミュニティ・べースの開発論があらためて脚光を浴びている開発・経済学の分野にも一定の貢献をなし得るものと考える。
著者
林 良嗣 加藤 博和 〓巻 峰夫 加河 茂美 村野 昭人 田畑 智博
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

社会基盤整備プロジェクトのLCAにはSocial/Dynamic LCA概念の具体化が必要であることを示し、各社会システムに対してLCAを実施したところ、以下に示す成果を得た。1.交通・流通システム:1)道路改良事業の事業計画段階において、環境負荷削減効果を自動車走行への波及効果を含めて定量的・包括的に評価するための方法論を構築し、自動車走行状況に応じた削減効果の発現条件を明らかにした。2)航空路線を削減し新幹線輸送に転換させることの有効性について、LCAを導入して検証を行う方法を提案し、新幹線整備をCO_2排出量の観点から評価した。3)容器入り清涼飲料水の流通段階の環境負荷排出の内訳をLCAにより詳細に分析し、流通・販売形態によってLC-CO_2が大きく異なることを明らかにした。2. 廃棄物処理・上下水道システム:1)ごみ処理事業を対象とし、中長期視点から処理施設の維持・更新とごみ処理に係るLCC、LC-CO_2を算出することで、将来からみた現在のごみ処理施策の実施効果を評価するモデルを開発した。地方都市でのケーススタディでは、現在のごみ処理施策実施に伴うLCC、LC-CO_2を積算し、これらを削減するための処理政策を提案・評価した。2)生活排水処理システムについて、計画段階でLCAを適用のするために必要な原単位を整理・分析し、実際の計画へ適用したところ、排水処理技術の進展についても考慮が必要なことが明らかになった。3. 都市システム:1)地域施策や活動にLCAを適用する際の課題を整理し、地域性の表現、地域間相互依存の考慮といったLCAの手法面で検討が必要な項目を明らかにした。2)郊外型商業開発のLCAを用いた分析の枠組みを整理し、時系列的な変化を考慮することの必要性や統計データの精度に改善の余地があることを示した。なお、日本LCA学会誌Vol.5 No.1(2009年1月発行)において、研究分担者・加藤博和が幹事を務めた特集:「社会システムのLCA:Social/Dynamic LCAの確立を目指して」は、本研究の成果公表の一環として位置づけられている。
著者
西村 浩一 阿部 修 和泉 薫 納口 恭明 伊藤 陽一
出版者
名古屋大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

本研究は、「地震と豪雪」の複合災害の中で、「冬に地震が発生」した際の雪崩災害危険度の評価手法を開発し、被害軽減に資することを目的とした。今年度は、主に地震時の積雪の破壊強度とその挙動を調べる目的で、防災科学研究所の雪氷防災実験棟において小型振動台を用いた積雪の破壊実験を実施した。実験にはロシアのAPATIT雪崩研究所殻からChernouss博士も参加し、共同で実施された。加速度計を埋め込んだ積雪ブロックを凍着させ、一定振幅のもとで2次元の振動数を増加し、積雪がせん断破壊した時点の加速度、上載荷重、断面積から、「新雪」、「しまり雪」、「しもざらめ雪」の「高歪速度領域の積雪破壊特性」とその密度依存性が求められた。また2次元振動に伴う、法線応力の効果についても議論を行った。さらにこの破壊特性を積雪変質モデル(Snowpack)に組み込んで、対象領域の地震発生時の雪崩発生危険度予測図を作成した。一方、こうした一連の取組みに対して、トルコの公共事業省災害監理局から共同研究と技術支援の依頼があり、研究協力者2名とともに現地視察を行ったほか、地震による雪崩発生の現況および危険度評価と災害防止手法開発に関する意見交換を実施した。現在、今後の共同研究策定に向けて調整を実施中である。
著者
高橋 誠 田中 重好 木村 玲欧 島田 弦 海津 正倫 木股 文昭 岡本 耕平 黒田 達朗 上村 泰裕 川崎 浩司 伊賀 聖屋
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

インド洋大津波の最大被災地、インドネシアのバンダアチェとその周辺地域を事例に、被災から緊急対応、復興過程についてフィールド調査を行い、被害の状況、被害拡大の社会・文化的要因、避難行動と緊急対応、被災者の移動と非被災地との関係、住宅復興と地域の社会変動、支援構造と調整メカニズム、災害文化と地域防災力などの諸点において、超巨大災害と地元社会に及ぼす影響と、その対応メカニズムに関する重要な知見を得た。
著者
竹内 恒博
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2005

エネルギー枯渇問題と,化石燃料消費による地球温暖化問題の観点から,廃熱や太陽熱を利用しエネルギー利用効率を高める技術の開発が急務である.熱を電気に変換できる熱電材料はこれらの諸問題を解決する機能性材料として注目を集めている.現在実用化されている熱電材料による熱電発電は変換効率が悪く,現状では大規模な熱電発電が行われる迄に至っていない.熱電材料の特性を向上により大規模熱電発電を実現することは,21世紀の材料研究者に課せられた最も重要な課題の一つである.申請者は,近年,様々な金属材料の異常な電子物性(電気伝導率,熱伝導率,熱電能,電子比熱係数,ホール係数)を電子構造と結晶構造を解析することにより解明する基礎研究を行ってきた.これらの基礎研究により得られた知見から,熱電材料に対して今までに提案されていない全く新しい材料設計指針を構築するに至った.本研究では,申請者が提案する熱電材料設計指針により高性能熱電材料を開発することを目的としている.平成19年度に行った研究では,電子構造に数k_BT程度のエネルギー幅の微細構造がある場合に,熱伝導度に異常が生じWiedemann-Franz則を適用することができなくなることを明らかにした.バンド計算と低温比熱の測定から求めた電子状態密度とBoltzmann輸送方程式を用いて電子熱伝導度を解析した結果,観測される異常な熱伝導度を完全に理解することに成功した.平成19年度に得た成果も含め,本課題研究により蓄積してきた研究成果により,全く新しく,かつ,極めて有効な熱電材料の設計指針を構築することができたと考えている.
著者
阿草 清滋 坂部 俊樹 小谷 善行 大岩 元
出版者
名古屋大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1991

より高度なシステムの仕様化を支援するために,継承により階層化された代数的仕様の直接実現による検証,代数的仕様の類似性の定義とそれに基づく仕様ベ-スについて研究を進めた.また,プログラム理解のモデルを定義することによりソフトウェアの開発・保守に有効なソフトウェアデ-タベ-スを開発した.その他,文書執筆協調作業の作業割当問題を定義し,その近似解を高速に求めるアルゴリズムを提案した.ユ-ザ主導の対話システムとして,自由知識獲得システム第2版の作成と評価を行った.これは対話を通しテフレ-ム構造の知識を集積していく創造性開発指向の教育ツ-ルである.また,ソフトウェア(要求)仕様獲得するシステムの概念設計を行った.これはこの自由知識獲得システムにソフトウェアや仕様の枠組みを与えたもので構成され,仕様を獲得するとともに,利用者に仕様を自動的に意識化・具体化させるものである.前年度に作成した仕様形成のためのカ-ド操作ツ-ルKJエディタのワ-クステ-ション版を完成させた.また,いくつかの機能拡張を加えたパソコン版を実際のソフトウェアの仕様作成に適用した.要求分析の途中経過を示すカ-ド配置は,思考過程の記録としてその内容を把握し易く,エディタが仕様作成のツ-ルとして有効であることが知れた.要求仕様の直接実行による検証の理論的モデルとして,動的項書換え計算(Dynamic Term Rewriting Calculus,DTRC)について研究をすすめ,停止性と合流性に関するいくつかの結果を得た.また,値表現の体系として項書換え系を含むCCSを提案し,テスト正確度という新しい概念に基づく意味論について検討した.さらに,ブロ-ドキャスト通信機構を持つ並行プロセスの体系としてCCS+bを提案し,並行演算,選択演算の結合則と可換則,ならびに,展開則が成立することを示した.
著者
山木 昭平 金山 喜則 山田 邦夫
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

インベルターゼ遺伝子の発現調節と肥大成長に対する役割を、ニホンナシ果実成長とバラ花弁の肥大成長によって検討した。(1)ニホンナシ果実より2つの液胞型インベルターゼの全長cDNA(PsV-AIV1,PsV-AIV2)をクローニングした。PsV-AIV1は細胞分裂の盛んな初期成長に関与し、PsV-AIV2は糖集積を伴う細胞肥大成長に強く関与した。(2)バラ花弁の肥大成長は、酸性インベルターゼ遺伝子の発現増加に伴う活性上昇により、スクロースがヘキソースに変換し、大きな膨圧を形成することによって生じる。そしてこの活性上昇はオーキシンによって引き起こされた。ソルビトール脱水素酵素遺伝子の発現調節とソルビトールの蓄積についてイチゴ果実を用いて検討した。(1)イチゴ果実のソルビトール脱水素酵素(NAD-SDH)の全長cDNA(FaSDH)をクローニングし、その活性も検知した。しかし、ソルビトールー6ーリン酸脱水素酵素遺伝子は存在したが、タンパク質と活性を検知できなかった。そしてNAD-SDH活性のキネティックスから、フルクトースの還元反応によってソルビトールが生成されることを明らかにした。(2)NAD-SDH活性はフルクトース、ソルビトール、オーキシンによって促進された。しかしmRNA量の大きな変化はなかった。(3)NAD-SDHのmRNAはイントロンを含んだpre-mature mRNAとmature mRNAを含んでおり、フルクトース、ソルビトール、オーキシンによる活性促進は転写後のスプライシング速度を促進することによって生じた。以上のように、インベルターゼとソルビトール脱水素酵素はバラ科植物の肥大成長、糖集積に密接に関わり、それらの基質や植物ホルモンによって発現が調節されていることを明らかにした。
著者
山田 功夫 深尾 良夫 深尾 良夫 浜田 信生 鷹野 澄 笠原 順三 須田 直樹 WALKER D.A. 浜田 信夫 山田 功夫
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1992

我々はPATS(ポンペイ農業商業学校)や現地邦人の方々の協力を得て,平成5年3月ミクロネシア連邦ポンペイに地震観測点を開設することができた.平成4年9月の現地調査以後,手紙とファクスのみでのやりとりのため,現地での準備の進行に不安があったが,現地邦人の方々のご協力もあって,我々は計画を予定どうり進めることができた.その後,地震観測の開設は順調に進んだが,我々の最初の計画とは異なり,電話が使えない(最初の現地調査の際,電話の会社を訪ね相談したとき,「現在ポンペイ全体の電話線の敷設計画が進んでおり,間もなくPATSにもとどく.平成5年3月であれば間違いなくPATSで電話を使うことができる」とのことであったが,工事が伸びた).このため最初に予定した,電話回線を使った,観測システムの管理やデータ収集はできなくなった.近い内に電話回線を利用することもできるようになるであろうことから,観測システムの予定した機能はそのままにし,現地集録の機能をつけ加えた.そして,システム管理については,我々が予定より回数を多く現地を訪問することでカバーすることにして観測はスターとした.実際に観測初期には色々な問題が生じることは予想されるので,その方が効率的でもあった.現地での記録は130MバイトのMOディスクに集録することにした.MOディスクの交換は非常に簡単なので,2週間に1度交換し,郵送してもらうことにした.この記録の交換はPATSの先生にお願いすることができた.実際に電話回線がこの学校まで伸び,利用できるようになったのは平成6年1月のことであった.よって,これ以後は最初の予定通り,国際電話を使った地震観測システムが稼働した.観測を進める中で,いくつかの問題が生じた.(1)この国ではまだ停電が多いので無停電装置(通電時にバッテリ-に充電しておき,短い時間であればこれでバックアップする)を準備したが,バックアップ時ははもちろん,充電時にもノイズが出ているようで,我々のシステムを設置した付近のラジオにノイズが入るので止めざるを得なかった.(2)地震観測では精度の良い時刻を必要とする.我々はOMEGA航法システムの電波を使った時計を用意したが,観測システム内のコンピューター等のノイズで受信状態が悪く,時々十分な精度を保つことができなかった.結局,GPS衛星航法システムを使った時計を開発し,これを使った.このような改良を加えることによって,PATSでは良好な観測ができるようになった.この観測点は大変興味深い場所にある.北側のマリアナ諸島に起こる地震は,地球上で最古のプレート(太平洋プレートの西の端で1億6千万年前)だけを伝播してきて観測される.一方,ソロモン諸島など南から来る地震波はオントンジャワ海台と言われる,海底の溶岩台地からなる厚い地殻地帯を通ってくる.両方とも地震波はほとんどその地域だけを通ってくるので,地殻構造を求めるにも,複雑な手続きはいらない.これまでにも,これらの地域での地殻構造に関する研究は断片的にはあるが,上部マントルに至るまでの総合的な研究はまだ無い.マリアナ地域で起こった地震で,PATSで観測された地震の長周期表面波(レーリー波)の群速度を求めると,非常に速く,Michell and Yu(1980)が求めた1億年以上のプレートでの表面波の速度よりさらに速い.このレーリー波の群速度の分散曲線から地下構造を求めてみると,ここには100kmを越える厚さのプレートが存在することが分かった.一方,オントンジャワ海台を通るレーリー波の群速度は,異常に遅く,特に短周期側で顕著である.この分散曲線から地下構造を求めると,海洋にも関わらず30kmもの厚い地殻が存在することになる.これは,前に述べたように,広大な海底の溶岩台地の広がりを示唆する.同様のことは地震のP波初動の到着時間の標準走時からの差にも現れている.すなわち,マリアナ海盆を伝播したP波初動は標準走時より3〜4秒速く,オントンジャワ海台をとおる波は2〜3秒遅い.この観測では沢山の地震が記録されており,解析はまだ十分に進んでいない.ここに示した結果は,ごく一部の解析結果であり,さらに詳しい解析を進める予定である.