著者
前田 雄一郎 成田 哲博 甲斐荘 正恒 渡邊 信久
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

蛋白質アクチンは高等生物の細胞に最も多量に含まれ多くの重要な細胞機能を担う。筋細胞中では数珠のように連結した重合体として筋収縮とその調節に関与し、他方一般細胞では他の蛋白質の助けを借りて重合と脱重合を繰り返す循環的分子運動によって細胞を動かす。本研究でははじめてアクチン重合体の原子構造を解明し、またアクチンと他の蛋白質の複合体構造を解明した。それら構造情報を基に機能発現メカニズムの理解を進めた。
著者
丹羽 美苗
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

覚せい剤や麻薬による薬物依存は大きな社会問題であるが,治療法がほとんど確立されていないのが現状である.治療薬の開発が遅れている理由として,依存形成の鍵となるタンパクが明らかになっていないことが挙げられる.そこで,PCR-select cDNAサブストラクション法を用いて,薬物依存形成の鍵となる新規機能分子の探索を試みた.その結果,覚せい剤メタンフェタミンを連続投与されたマウス脳側坐核から新規機能分子`shati'を同定した.昨年度までに、shatiが,メタンフェタミン誘発自発運動量亢進および場所嗜好性の形成に対して抑制的に働くことを明らかにした.さらに,shatiがメタンフェタミンによって引き起こされる細胞外ドパミン量の増加およびドパミン再取り込み能低下を抑制することを示した.本年度は,メタンフェタミン依存形成段階においてshatiが関与していることを検討するに留まらず,薬物依存抑制因子として報告されているTNF-αとの関連についても明らかにした.PC12細胞へshati発現ベクターをトランスフェクションすると,コントロール細胞と比較して,shatiおよびTNF-αmRNAの発現量の増加,ドパミン再取り込み能の促進,メタンフェタミン誘発ドパミン再取り込み能低下の抑制が観察された.これらshatiの作用は,可溶性TNF受容体およびTNF-α抗体を前処置しTNF-αを中和することよって抑制されたことから,shatiはTNF-αを介してドパミン再取り込みを促進していると考えられる.今後,shatiの依存形成メカニズムへの関与をさらに詳細に解明することが,薬物依存形成機構の解明と治療薬の開発に繋がると考えられる.
著者
林 能成
出版者
名古屋大学
雑誌
名古屋大学情報連携基盤センターニュース (ISSN:13478982)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.13-22, 2007-02-28
被引用文献数
7
著者
辻 誠一郎
出版者
名古屋大学
雑誌
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書
巻号頁・発行日
vol.8, pp.30-33, 1997-03

名古屋大学タンデトロン加速器質量分析計シンポジウム(平成8年(1996年度)報告 「第2世代タンデトロン加速器質量分析計(加速器年代測定システム)による高精度・高分解能14C年代測定の利用分野・方法の開拓」 Proceedings of Symposium on Researches with a Tandetron Accelerator Mass Spectrometer at Nagoya University in 1996"Studies on New Fields and New Methods of Applications of High-Precision and High-Accuracy Radiocarbon Dating with a Second-Generation Tandetron Accelerator Mass Spectrometer at Nagoya University"日時:1997 (平成9)年3月10日 場所:名古屋大学年代測定資料研究センター古川総合研究資料館講義室
著者
福和 伸夫 飛田 潤 護 雅史
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

東海・東南海・南海地震や首都直下地震に対する地震防災戦略が策定されたにも関わらず国民の防災対策は遅々として進んでいない。その最も大きな原因は、地震災害の発生をまだ十分に「納得」せず、「わがこと」と捉えていないことにある。そこで、この研究では、国民が地震災害の発生の危険性について十分に「納得」し、さらに災害がわが身に降りかかったときの状況を「わがこと」と感じるためのウェブシステムを構築する。このウェブシステムは、インターネット接続環境さえあれば、時間や場所を選ばず、誰もが地震時に経験する揺れや、周辺の状況をリアルに体感できるものとする。平成22年度は、まず、相互分散運用でデータを相互参照できるシステムをWebGIS上に構築し、分散する地図・空中写真・標高・地下構造などのデータを利用して、当該サイトの立体地形・建物画像・地盤モデルなどを自動生成する新たなシステムを開発した。次に、PC画面上を床応答変位で移動する室内画像に、家具を転倒させる動画機能を持たせると共に、ウェブ上で、室内写真・屋外写真などを入力すると、当該居室の揺れを予測し、この床応答変位で写真をPC画像上で移動させるソフトを完成させた。さらに、相互分散運用型データベースシステム、WebGIS、強震動・応答予測システム、PC上を画像が移動する動画生成システム、床面と壁面と側面の動画を表示する3台のプロジェクターを同時制御するPCが、連携して動作する全体システムを構築し、Webを介した入出力で全てを制御できるバーチャルウェブ振動台を実現した。最後に、名古屋市域を対象としたプロトタイプシステムをウェブ上で公開した。これに加え、国や自治体が評価した地震動に対する揺れ体感も可能にした。
著者
高橋 公明 池内 敏 ロビンソン ケネス 橋本 雄
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

大陸沿岸・半島部・島嶼部で構成される東アジアでは、海を舞台とした人間の営みが大きな意味を持つ。本研究では、東アジアの国際関係史、文化交流史および海事史などで扱われている諸課題を相互に連関させ、かつそれらを基礎づけるとものとして「海域史」を位置づける。その立場から既知・未知を問わずに資史料を発掘し、新たな方法論を提示して、これまで見えてこなかった局面に光をあてた。こうした「海域史」の立場から資史料を見たとき、常に大きな困難となるのは資史料の性格である。第1に、中心(国家)から周縁(地域)を見る立場から作成された資史料が多いこと、第2に、「嘘」や「誇張」が含まれた記述を解釈しなければならないこと、第3に、文学作品や舞台表現など、そもそも「事実」であることを保証していないものも、資史料として活用しなければならないことなどである。以上の認識に基づいて、(1)古地図は何を語っているのか、(2)文学表現のなかの言説と「事実」のあいだ、(3)偽使の虚実を超えての3点の課題を設定し、これからの海域史研究における史資料活用の可能性を広げるための検討をおこなった。その結果、研究代表者・研究分担者だけでなく、研究協力者からも多様な成果が提示された。それらの成果は、国際的な学術誌を含め、論文・著書として発表され、最新の成果に関しては研究報告書に結実した。
著者
島田 弦
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、インドネシアにおける外国法の影響および「法の移植」論の再構成であった.具体的には、法分野においてインドネシアに体系的な影響を与えてきた、オランダ、アメリカ、オーストラリアなどについて調査を行い、インドネシア法への影響を明らかにすることを目的とした。その結果、特にオランダにおける歴史法学論争、自由主義と保守主義の対立などと植民地法政策の関係について研究を中心に成果を上げることが出来た。
著者
藤田 耕史
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

本年度は前年度に引き続き、南極ドームふじにて採取した降雪中の安定同位体に関する解析を進めた。ドームふじの年間降水量は28mmと極めて乾燥しているが、そのほとんどの期間で少量ながらも降雪が観測された。日降水0.3mm上の日は1年間で18日、11イベントを数えたが、これらのイベント的降雪だけで年間降水量のほぼ半分がもたらされていた。これらの降雪イベントが生じる際には昇温が観測されており、このために降水量で重み付けをした気温が年平均気温よりも5℃程度暖かいという結果が得られた。降水試料の安定同位対比は分析の標準試料をはるかに下回る値を示していたため、検量線の直線性が問題となった。そこで、同研究科の阿部理助手の協力を得て実験をおこない、検量線の直線性を確認した。以上の結果をまとめ、Fujita and Abe(2006)として出版した。上記解析の結果は、アイスコア中の安定同位体から過去の気温復元をおこなう際に用いられる気温と同位体比の関係が、イベント頻度の多少に伴って大きく変化することを示唆している。そこで降雪イベントをもたらしている気圧場について、全球気候データを解析し、高気圧ブロッキングによって氷床内陸に水蒸気がもたらされていることを明らかにした。この気圧場が形成される頻度を解析したところ、ここ数十年という短い期間においても、気温と降水の同位体の関係は大きく変動していることがわかった。現在論文化に向けて最終的な解析を進めている。降雪の解析を進める一方、長岡雪氷研究所の協力を得て、雪の作成・昇華・温度勾配実験をおこなった。これは積雪内水蒸気輸送にともなう安定同位体の変化を明らかにするための実験である。これまでは昇華は一方的に雪粒子から水分子が失われる現象として理解されていたが、日本と南極の雪を同時に実験にかけた結果、昇華が進む間にも周辺の水蒸気の凝結と氷粒子からの昇華が生じていることが明らかになった。これらの現象を説明するために新しいアイデアのモデルを使い、両者の雪の同位体変化をうまく説明することができた。
著者
田村 均
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010-04-01

本研究の継続期間中に8篇の論文を公表した。最初の論文は、行為の演技論的説明によって自己犠牲的行為を説明するものであった。自己犠牲への関心は期間中のすべての論文に関わっている。第二の論文では、実験哲学の手法により、行為説明の比較文化論的な考察を行なった。そして、日本的な行為説明がしばしば行為者と周辺環境の協同による結果として行為を説明するものであることを見出した。残る6篇の論文は、周辺環境の要因を行為のためのシナリオと見なす立場をとり、自己犠牲のように見かけ上は不合理な行為でも、シナリオによって与えられる虚構空間において合理的説明が与えられるということを見出した。
著者
菅野 望
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

エタノール低温酸化反応の初期段階で重要であるα-ヒドロキシエチルラジカルと酸素分子の反応についてレーザー光分解/近赤外波長変調分光法による実験計測及び量子化学計算とRRKM/支配方程式解析による理論計算を行った.理論計算による反応速度定数の温度依存は実験計測と良く一致し,若干の負の温度依存性を示した.理論計算による主生成物は100気圧以下においてアセトアルデヒドとHO_2ラジカルであり,高圧ではCH_3CH(OH) O_2ラジカルの生成が競合することが示された.
著者
越智 和弘
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究が目的として掲げた資本主義が発展するうえで不可欠な要素として起きる女性的他者の抑圧構造の解明に関し、研究期間内において具体的に達成できた内容は以下の通りである。1. 女性に帰属するものとみなされた快楽を敵視する禁欲の思想が、16世紀の近代の開幕と共に強化されたことを突き止めたこと。2. 女性的快楽敵視の思想がヨーロッパ全土に共通するものであるように見えるなか、じつはアルプス北方地域においてとりわけ強く浸透している顕著な事実があり、それが、近代資本主義が誕生した地域と重なることを確認したこと。3. 快楽を敵視する禁欲の思想が、一般にはキリスト教にその源泉を求めるべきものであり、それによってとかく西洋全般に共通するものとみなされがちだが、同時にそれがアルプス北方地域にことさら強く表れる原因をゲルマン的性格に見いだしうることを、5〜7世紀にかけての、とかくヨーロッパ人が語りたがらない「空白の2百年」に着目する中から解明した。本研究がもつ最大の意義は、今日西洋だけがあらゆる面にわたって規範を提供する支配文化となりえた真の理由を解明しようとしたことにある。その重要性は、西洋が支配文化となり得た核心的原因を、女性を快楽の体現者として他者化し、他のいかなる文化にも先駆けて快楽に結びつく要素を巧みに抑圧する術を見いだしたことにあることを、ゲルマン的な女性恐怖と快楽敵視という観点から初めて分析したことにある。
著者
斎藤 彰子
出版者
名古屋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

公務員の職務遂行に際しての不適切な行為や不作為が原因となり国民の死傷結果が発生した事件・事故につき、公務員個人の刑事責任の適正な根拠と限界を探究し、それによってその責任の不当な拡張を防止するために、刑法理論上検討する必要のある問題のうち、作為犯と競合する不作為の評価(正犯か共犯か、その区別の基準)、過失犯における正犯と共犯の区別、過失犯の共同正犯の肯否・要件などに関する日独の議論を分析した結果、とくにわが国において注目される複数の重要な判例に対して、理論的な検討を深めることができた。
著者
紙野 健二 市橋 克哉 下山 健二 高田 清恵 高橋 祐介 豊島 明子 大沢 光 山田 健吾 前田 定孝 大河内 美紀 林 秀弥 藤枝 律子 稲葉 一将 岡本 裕樹 宮澤 俊昭
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2010

グローバルな規模で展開再編する市民社会は、少子化、大規模災害や自然環境の破壊が典型的であるように、自らの存続にとっての数多くの脅威に直面して、国家に解決すべき、しかし困難な多くの課題を突きつけている。このような国家と市民社会のそれぞれの運動に対抗するものとして、双方性を有する行為である契約が観念される。それは、国民生活に必要な役務の交換が国家から市場へと転化した結果一方的に提供される役務の「選択」の法制度に対して、またこのような法制度に対する多数の国民意思を正確に反映できなくなっている民主主義の機能不全に対して、ますます強く観念せざるをえない。このような意義を有する契約が、いかなる行政領域の法を反映して、どのような実体法手続法的な形態となって表現しているのかを論証するべき必要を明らかにしたことが、本研究の成果である。研究成果の一書による公表が、計画されている。
著者
平川 均 多和田 眞 奥村 隆平 家森 信善 根本 二郎 小川 光 山田 基成 中屋 信彦 奥田 隆明 佐藤 泰裕 森杉 雅史 瀧井 貞行 蔡 大鵬 崔 龍浩 徐 正解 厳 昌玉 陳 龍炳 蘇 顕揚 劉 慶瑞 宋 磊 李 勝蘭
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2006

急速な東アジアにおける発展と国際競争力の源泉を産業集積と結びつけて論じた。その結果は一般的通念とされる低賃金に基づく単なる産業の発展を超えた側面の発見であり、東アジア地域のイノベーションの持つ役割である。独自のアンケート調査を実施した。日中韓台、ベトナムなどの海外の主要な研究機関の研究者との研究ネットワークの構築に成功し、国際会議も北京、南京、名古屋、ハノイで開催した。学術刊行物として、日本語、中国語、韓国語の図書の公刊、英語での学術雑誌への発表も行った。
著者
藤吉 康志
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

雪片を灯油中で融かすことにより、個々の雪片が融解する際に、どのような粒径分布の水滴を形成するかを測定した。その結果、平均的には、雪片の質量が増大するにつれて、ほぼ直線的に生成される水滴の個数が増大することが明らかとなった。これは、本研究によって世界で初めて明らかとなった事実である。雪片の質量の増加によって、急激に分裂する水滴の個数がふえるため、生成される水滴の平均粒径は、雪片の質量が増えるにつれて逆に減少することも明らかとなった。また、生成される水滴の粒径分布を調べると、質量の大きな雪片ほど相対的に小さい粒径の水滴を作りやすいことが示された。雪片の最大粒径、雪片の断面積、雪片の凹凸度、雪片のモーメントと生成された水滴の個数との関係をしらべると、数多くの水滴を生成する雪片は、最大粒径、断面積、凹凸度及び質量が大きいが、しかし、これらの値が大きいからといって必ずしも数多くの水滴が生成されるとは限らない(必要ではあるが十分条件ではない)ことが明らかとなった。各特徴量との間の相関を調べると、凹凸度と断面積、及びモーメントと質量との間にはほとんど相関が無いことが分かる。即ち、雪片がどの程度複雑な形をとり得るかは、雪片の大きさによらないということが分かる。言い換えれば、雪片が大きかろうと小さかろうと、その形は等しく複雑であると言える。また、重い雪片(あるいは大きな雪片)であるからと言って、中心部に質量が集中しているとは限らず、逆に、軽に雪片(あるいは小さな雪片)であるからと言って質量が一様に分散しているとは限らないことを意味している。モーメントも凹凸度も、何れも空中での雪粒子の併合様式に関係した値である。従って、雪粒子の併合様式は、その大きさや重さによらないランダムな現象であることが示唆された。
著者
山本 晃士 松下 正 小嶋 哲人
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

肥満・糖尿病のモデルとして遺伝的肥満マウス(ob/obマウス)を用い、血栓傾向の分子メカニズムを検討した。肥満マウスでは、対照マウスと比較して血中PAI-1抗原量は数倍に上昇しており、組織におけるPAI-1 mRNAの発現増加も認められた。もっとも顕著だったのは脂肪組織で、血管平滑筋細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞等においてPAI-1 mRNAの発現が著明に増強していた。また肥満マウスでは外因系凝固の起始因子であるTFの発現も亢進していた。このTF mRNA発現増加も脂肪細胞自体によることがわかったが、脂肪組織内の血管を構成する細胞(血管外膜細胞)においても発現の増強が認められた。PAI-1に加えてTFの発現増加が、肥満個体における凝固亢進状態を増幅しているであろうと推測された。さらに、脂肪組織におけるPAI-1およびTFの発現を強力に誘導するTGF-βの発現自体も、肥満マウスの脂肪組織では週齢依存的に増加しており、血栓傾向を増悪させるTGF-βのメディエーターとしての役割は非常に重要であろうと考えられた。一方、肥満マウスに心因性ストレスを負荷し、線溶阻害因子PAI-1の発現と組織内微小血栓形成について解析を行った。肥満マウスおよび対照マウスを50ml用チューブ内に閉じ込めて拘束ストレスを負荷すると、肥満マウスではストレス負荷2時間後に早くも著明な血中PAI-1抗原量の上昇と組織におけるPAI-1 mRNAの発現増加を認めた。特に、脂肪組織や心臓、腎臓におけるPAI-1 mRNA発現は対照マウスに比べて顕著に増加していた。この傾向は20時間という長時間ストレスでも同様であった。また、このPAI-1 mRNA発現は腎糸球体の内皮やメサンギウム細胞、心筋内微小血管内皮細胞、脂肪細胞等に一致して認められた。さらにストレス負荷後の肥満マウスでは腎糸球体微小血管内にフィブリン沈着を認めたが、対照マウスでは認めなかった。以上より、肥満およびインスリン抵抗性を有する個体ではストレス負荷によってPAI-1遺伝子発現が著明に亢進し、これが組織内微小血栓形成を促進するひとつの原因と考えられた。これらの研究成果は、肥満・糖尿病患者における血栓症発症の病因・病態を考える上で重要な知見と言える。
著者
黒田 俊一
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009

我々は B 型肝炎ウイルス(HBV)表面抗原 L タンパク質粒子が中空ナノ粒子であり、ヒト肝臓特異的に感染できる性質を有することを利用して、非ウイルス性DDS ナノキャリア「バイオナノカプセル(BNC)」を開発した。マウス静脈内に投与されたBNC は細網内皮系(RES)に富む臓器を避けつつ、標的組織まで効率よく到達することができた。本研究では、ナノ医薬品の表面をアルブミンでコートすることにより血中半減期を延長することができることから、我々は BNC 表層にある重合血清アルブミンレセプター(PAR)がマウス肝臓の RES を回避するのに有効であることを証明した。その結果は、BNC のみならず HBV が、本来 RES回避機構を有することを強く示唆していた。そこで、PAR ペプチドの表面修飾は、次世代ナノ医薬品の薬物動態および薬物力学の改善に貢献する新しい方法であるのかもしれない。
著者
宇治原 徹 手老 龍吾
出版者
名古屋大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

本研究では生体膜/半導体アクティブデバイスの基本動作のデモンストレーションとして、生体膜に光照射をして任意の位置に相分離ドメインの形成を行った。特にレーザー光照射によるパターニングを行うために、より効率的にパターニングが生じるための蛍光脂質組成および拡散係数の制御を行った。さらに、タンパク質凝集の可能性を調べるために、Annexin Vを導入したところ、ドメインの位置とAnnexin Vの存在位置が一致し、ドメイン制御によるタンパク質凝集制御が可能であることを示唆した。
著者
高橋 義雄
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

昨年は、多くのスポーツ種目のトップアスリートが雇用され、トレーニングできる環境を与える市場による経済システムについて調査してきた。しかし平成不況による業績不振、さらには資本の国際化により海外投資家や機関投資家らによる事業の見直しもあり、アスリートを雇用してきた企業が本来の事業ドメインとは異なるトップアスリートの育成から撤退している。そこで本年度は、文部科学省が推進している総合型地域スポーツクラブにおける競技力向上に関連する経済的なシステムについて、ヒアリングや質問紙調査を実施した。特にスポーツ競技連盟などのNPO組織が、トップアスリート育成を直接実施している事例をとりあげ、NPO組織と行政、企業との連携を考察した。具体的には、鶴岡市水泳連盟の事業である鶴岡スイミングクラブを調査した。そこでは公共財である市民プールの運営委託を受け、運営・管理するとともにアスリート育成システムを構築している。直接の公共投資ではなく、ソフトの部分をNPOが請け負うことで、公的資金をアスリート育成に還流させるシステムである。このような公的資金を還流させるシステムに成功している競技団体に共通することは、学校では施設や指導者の関係でアスリート育成が難しい点である。例えば、温水プール、スケートリンク、スキージャンプ、スキーアルペンなどである。学校施設ではないために、競技者の意思により選択されるために、アスリートのモチベーションが高く、そして施設の維持管理のために市場とともに公的な資金が支えていることが共通していた。これらの結果から、総合型地域スポーツクラブが単に学校スポーツクラブの代用になるのではなく、アスリート自らの選択が可能となる選択の多様性の確保が大事であることが示唆された。また競技団体やクラブ、学校などが組織横断的にコミュニケーションをとること、さらには今後の資金現となるスポーツ振興投票の配布先についても多様なニーズを汲み取る必要性が示唆された。
著者
田中 隆之
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年度は地球方向のダークマターWIMP起源イベントに着目した解析を行った。WIMPは地球でspin-independent散乱を起こして地球の重力場にトラップされた後、地球中心方向に集積され対消滅を起こし、最終的にニュートリノを放出すると考えられている。そこでスーパーカミオカンデ検出器にて今まで取得された3109.6日分の上向きミューオン(upmu)イベントを用いて地球中心からやってくるイベントの到来方向分布を調査した。バックグラウンド源である大気ニュートリノに対して有意なWIMP起源イベントは観測されなかった。そこで、地球中心方向WIMP対消滅起源upmuイベントのフラックスリミット、WIMPと核子のspin-independent散乱断面積リミットを算出した。この手法でspin-independent反応断面積にリミットを付けた他の実験は類が無く、他実験への一つの指標を作ることが出来た。これらの結果はneutrino2010国際会議、Novel Searches For Dark Matter 2010などの国際学会にて発表され、APJ誌に論文を投稿中である。また、現行の解析手法の問題点や誤差、また将来に向けてさらに精度のよい解析手法に関して議論するために、宇宙素粒子研究の世界的な機関であるオハイオ州立大学のCCAPPに赴き一カ月半程度滞在した。そこでは、現行の手法に内在するさまざまな不定性をリストアップしそれらの影響の大きさをまとめた。これらは以前よりニュートリノを用いたWIMP探索に関して多くの研究者が興味、疑問に感じていた部分でありそれらに対する初めて明確な回答が出せたといえる。この研究結果に関してはオハイオ州立大学のCarsten Rott氏との共著論文としてJCAP誌に投稿予定である。以上のようなWIMP解析(昨年度行った太陽方向からのWIMPイベント探索も含む)を柱として、以前から進めていたスーパーカミオカンデでの各種キャリブレーション、upmuイベントサンプル作りに関してなどをまとめ、博士学位論文として執筆した。