著者
福岡 まどか Madoka Fukuoka
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.349-367, 2015-11-27

The Indian epic poem the Ramayana has become widespread throughoutmany regions of Southeast Asia, being adopted as the main theme in variousperforming art forms such as theatre, dance drama, and mask dance upto the present day. In Indonesia, the art forms include wayang kulit (shadowpuppets), wayang golek (rod puppets) and sendratari (dance drama).This study takes up the subject of the Ramayana epic poem in Indonesiancomic works, indicating their characteristic structures and plots. Amongthe Indonesian comic books, the works of R. A. Kosasih (1919–2012) arethe best-known and most successful. His comic style is called komik wayangbecause of its close relationship to wayang theatre. Kosasih adopted manyepisodes from the wayang tradition, but dealt with them in his own way. Heintentionally changed the episodes and developed his own adaptation of theRamayana tale. In the process he created a new version that is not peculiar toany specific region such as Java, Sunda or Bali. Through the production ofcomic books, Kosasih succeeded in presenting the entire plot of Ramayanain a unique manner.
著者
杉田 繁治 尹 載秀 劉 仁善 全 京秀 高 恵星 (全 恵星) 朝倉 敏夫 嶋 陸奥彦 KOH Chun He-sung CHUN Kyung-soo YOON Jae-soo YU In-sun
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、一つに18世紀における中国、日本、韓国、ヴェトナムの四ケ国の刑律および刑事判例を使い、それぞれの国の家族・親族の構造を折出し比較すること、二つに18世紀の東アジアにおける刑律および刑事判例のデータベースを作成することにある。ことに第一の目的において、刑律および刑事判例を使うことによって、これまでなされてきた上層階級ばかりでなく、すべての社会階層における東アジアの家族・親族の比較を考えている。これら四ケ国は、7世紀に中国の『唐律』を受容し、それぞれの国の要求および状況に即しこれを修正し、17・18世紀にはそれぞれの国における刑律が確立し、刑事判例がだされている。これらの刑律と刑事判例の中から、本研究の目的に合致し、最も信頼すべき、かつ比較に供する史料を慎重に選択し、四ケ国において共通する漢字による原本をコンピュータに入力し分析することが、本研究の一義的な作業となる。これにそって今年度は、昨年度に続き、第3次、第4次、第5次の三回のワークショップで以下の研究作業を進めた。1.各国の刑律および刑事判例のうち、コンピュータに入力する史料を特定し、入力作業を行う。そのサンプルとして、韓国の『増補文献備考:刑考』とヴェトナムの『黎朝刑律』に加えて、韓国の『続大典』『秋官録』『審理録』、中国の『刑案匯覧』『清律』、日本の『御仕置例類集』を選択する。そして、それらの史料を基とした用語解の作成と、参考とすべき各国の刑律・刑事判例の書誌解題の作成する。なお、史料の選択の過程で、ヴェトナムの法が『唐律』に、韓国の法が『明律』に基づいていることから、これらの法を考慮すべきであることを確認する。2.コンピュータに入力する時のコード化の開発とその分析方法を検討する。3.韓国とヴェトナムの史料の具体的入力と編集を行う。中国、日本の史料についても順次入力と編集の作業を進めていく。4.四ケ国それぞれにおける親族研究の回顧と展望をする。5.四ケ国それぞれにおける刑法の展開についての研究の回顧と展望をする。また、以下の点について討議を行った。1.本研究に使用する史料が総合的な法規の実行記録であるため現代西洋の概念との対照が困難であり、法と文化に関する概念の再検討が必要であることを確認する。2.四ケ国における親族の概念の違いが明らかになる。これに関して、さらに社会学、歴史学など各国の専門家との討議が必要であることを確認する。3.コンピュータに入力するための刑律・刑事判例の構文解釈をどのように行うかを各国の法学研究者に諮問し、批判と教示をあおぐ。4.入力・出力の一貫性のため四ケ国の漢字使用の対照表を作成する。四ケ国における漢字のコンピュータ入力の互換性について、今後さらに検討していく。本研究は学際的な研究であり、その構成員も幅広い学問分野から構成されているが、研究を効率的に推進するために、研究作業の分担とともに、研究成果の発表と最終報告の執筆についても試案ではあるが、すでに調整してある。なお、本研究は平成9年度からも2年間の予定で継続していく計画であるが、そこでは本研究で入力されたデータを出力し、これを分析するとともに、さらに入力のコード化を比較文化研究に使用できるよう再検討し、より汎用性と精度の高いデータベースの作成を行い、このデータベースに基づいて、各研究者がそれぞれの学問分野においてテーマを定めて研究を展開していく予定である。
著者
柳沢 英輔 Eisuke Yanagisawa
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.421-453, 2014-03-25

本稿は,ベトナムにおけるキン族のゴング製作方法について,中部沿岸部のホイアン近郊にあるフッキウ村を事例に報告するものである。フッキウ村では,ゴング製作の知識や技術を代々受け継いだ職人がゴングを生産し,少数民族に販売してきた。ゴング製作の工程は,1 日目に原型の製作を,2 日目に鋳込み,研磨,調音などの作業を行う。鋳造によるゴング製作では原型の製作が最も重要であり,特に高度な技術を要する。また職人は少数民族の需要に合うように,鋳込みの材料に使用する金属の種類やその配合割合を変えている。村で最も優れたゴング製作職人の一人,ユン・ゴック・サン氏は,鋳造したゴングを少数民族ごとに異なる音色,音階に調律することができる。このようにゴング製作職人は,少数民族の需要に合わせてゴングを製作することで,ベトナムのゴング文化を支えてきた。
著者
黒崎 龍悟 Ryugo Kurosaki
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.271-313, 2014-11-28

自然植生が大きく後退したアフリカ農村における植林の普及は重要な現代的課題である。アフリカ農村での植林の実態については,人々の植林する動機に焦点を当てた研究が蓄積されてきた。しかし,植林技術が地域社会でどのように受容され継承されてきたかについての詳細な研究はほとんどない。本論文では,植民地期から植林の歴史をもつタンザニア南部の農村を対象にして,植林のような多年にわたる取り組みを必要とする外来技術が,地域社会にどのように根づいていくのかについて考察することを目的とした。同村ではイギリス委任統治時代に植林技術が持ち込まれ,村人は徐々に植林を受容していき,1950年代頃から積極的に植林を始める村人が現れ,2000 年以降には植林に取り組む人数が目に見えて増加していた。本論文では,関連政策や開発プロジェクトなどの動向を考慮しつつ,個々人の植林行動を長期的に追うことで,村人がどのような動機で,またどのような条件の下で植林を試み/繰り返しているのかを明らかにする。そして,植林技術の伝わる複数の経路について着目し,植林技術が地域社会内で広がり,世代を越えて継承されていく様子を動態的に把握する。
著者
小山 修三 杉藤 重信 Shuzo Koyama Shigenobu Sugito
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-39, 1984-03-31

This paper applies techniques of computer simulation to theanalysis of Jomon demographic patterns. The computer programsare based on the following assumptions: (1) Population grows exponentially,with the equation Nt=No*evt; (2) there is an upperlimit to population size in a given area, termed carrying capacity(K); and (3) at the level K, population growth stops. In this program,we divided Japan into nine regions, such that when populationreaches the level K, the surplus migrates to other areas, according toprobablistic models.In dealing with carrying capacity, we initially assign the constantM, a hypothetical population maximum for an area; subsequentlyM is converted to K as a consequence the impact of climate andtechnology.Pollen analysis indicates significant climatic change during theJomon Period. This was precipitated by a warming trend, whichbegan after the last glacial, and continued until about 6000 B.P.,followed by a cooling trend which lasted until about 2000 B.P.This climatic wave caused significant change in the vegetation of theJapanese archipelago. In the East during the warming trend,coniferous forests were replaced by deciduous Fagus-Quercus forests,comprised of a variety of nut-bearing trees, which constituted animportant food source for the Jomon people. However, the nutbearingtrees are sensitive and often succumb in cold weather. Basedon these facts, we assume that carrying capacity increased during thewarming trend and decreased during the cooling trend in the regionsof East Japan. In West Japan, however, Yasuda [1980] suggeststhat during the warming trend the environment deteriorated owing todry summers. So here we assume that carrying capacity declinedduring the warming trend and then remained constant.The technology of Jomon food production, including the toolelements used for hunting, fishing and gathering, are well known froman early stage in East Japan. Thus we assume that although tools musthave been refined and systematized as Eastern Jomon technologydeveloped, they were not powerful enough to influence carryingcapacity, because the system did not prevent population decline in thecooling period. By contrast, farming, the true technological innovation,introduced from the Asian continent to Kyushu, changedJomon society into an agricultural one. In this simulation we stipulatethat when rice is introduced into a region it not only doubles theratio of population growth but also increases carrying capacity(five times).The results were compared with earlier estimates [KOYAMA 1978]based on the number of sites. Both data coincide well, especiallywith respect to the population curve throughout the Jomon period.In the East this curve shows a sharp increase of population until theMiddle Phase, where a rapid decline is observed (Late Phase). Inthe West population remained almost constant throughout the entireperiod. During the Jomon, the distribution of pupolation was highin the East, whereas in the Yayoi it was high in the West—representinga complete reversal between the two periods.
著者
杉本 良男 Yoshio Sugimoto
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.267-309, 2015-11-27

小稿は,神智協会の創設者にして,のちの隠秘主義(オカルティズム)や西欧世界における仏教なかんずくチベット仏教の受容,普及に決定的な役割を果たしたマダム・ブラヴァツキーが,具体的にどのようにチベット(仏教)に関わり,どのような成果を収め,さらにその結果後世にどのような影響を及ぼしたのかについて,とくに南アジア・ナショナリズムとの関連に議論を収斂させながら,神話論的,系譜学的な観点から人類学的に考察しようとするものである。ここでは,マダム・ブラヴァツキー自身のアストラハン地方における幼児体験をもとに,当時未踏の地,不可視の秘境などととらえられていたオリエンタリスト的チベット表象を触媒にして,チベット・イデオロギーへと転換していったのかが跡づけられる。その際,マダム・ブラヴァツキーのみならず,隠秘主義そのものが,概念の境界を明確化する西欧近代主義イデオロギーを無効化するとともに,むしろそれを逆手にとった植民地主義批判であったことの意義を明らかにする。
著者
Yuki Konagaya 小長谷 有紀
出版者
国立民族学博物館
雑誌
国立民族学博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Ethnology (ISSN:0385180X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.517-567, 2021-01-28

本稿は,19 世紀末から 20 世紀初頭にかけてモンゴルを訪問したさまざまな調査隊が撮影した写真について,研究上の重要な資料として利用されるように概要を紹介するものである。一次資料となる写真は各国のアーカイブなどで保管されているため,国別に扱う。具体的には,ロシア地理学協会などの地理学協会や,北欧諸国の博物館など,調査隊の派遣元や資料の所在地ごとに写真コレクションを紹介する。こうした総合的な紹介は,とりわけコレクションの横断的な比較分析研究に寄与するであろう。