著者
Ng Peter K.L. 武田 正倫
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum. Series A, Zoology (ISSN:03852423)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.111-116, 1993-09

The identity of the poorly known Philippine freshwater crab, Telphusa cumingii, is clarified on re-examination of the type in the British Museum. The species, briefly described by MIERS in 1884 and never reported since, has been regarded as belonging to the superfamily Gecarcinucoidea, and allied to species like Sundathelphusa picta and Holthuisana transversa. Telphusa cumingii in fact, belongs to the superfamily Potamoidea, family Potamidae, in the recently established genus Ovitamon NG et TAKEDA, 1992.
著者
重井 陸夫
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.195-201, 1982

伊豆半島東岸浅海域の海胆相について, 次の諸調査を総合して取りまとめた。(1) 著者とその補助者が1971年4月, 1981年2月, 1981年10月に爪木崎, 須崎, 鍋田湾, 城ケ崎海岸において行なった潜水・磯採集を中心とする調査。 (2) 国立科学博物館が1981年10月に日本列島の自然史科学的総合研究の一環として, 筑波大学下田臨海実験センターの調査船「つくば」によって行なった下田沖ドレッジ調査の一部 (St. 3∿6,St. 9). (3) 生物学御研究所所蔵の標本で1972年6月から1975年6月にかけ, 天皇陛下が下田湾, 田の浦, 西島, 爪木崎など15地点から18回にわたって御採集になったものについての分類・分布学的調査。 得られた種は次の28種で, 5目14科に分類された。 Asthenosoma ijimai, Diadema savignyi, Diadema setosum, Temnopleurus toreumaticus, Temnopleurus reevesii, Mespilia globulus levituberculatus, Temnotrema sculptum, Toxopneustes pileolus, Tripneustes gratilla, Pseudoboletia maculata, Pseudoboletia indiana, Hemicentrotus pulcherrimus, Pseudocentrotus depressus, Echinostrephus aciculatus, Anthocidaris crassispina, Echinometra mathaei, Clypeaster japonicus, Fibularia japonica, Fibularia sp., Fibulariella acuta, Echinocyamus crispus, Peronella japonica, Astriclypeus manni, Schizaster lacunosus, Brissus agassizii, Brissus latecarinatus, Pseudomaretia alta, Lovenia elongata. 上記の内, マメウニの一種 (Fibularia sp.) は未記載種であり, マダラウニ (Pseudoboletia maculata) とミナミオオブンブク (Brissus latecarinatus) は新たな北限分布の記録であり, Pseudoboletia indianaについては日本近海での分布の初記録である。 海胆相は全体として種数の上では熱帯要素が60.7%, 暖温帯要素が35.7%, 冷温帯要素が3.6%で, 熱帯要素が優占しているかに見えるが, 生息数の点では温帯要素の比率が遥かに高く, 温帯系種の内, 特にムラサキウニとバフンウニは極めてふつうに見られ, ヨツアナカシパン, タコノマクラ, アカウニ, オオブンブクなども多数生息していることが分った。熱帯系種の内, ガンガゼ, アオスジガンガゼ, ラッパウニの生息数は多いが, ナガウニ, シラヒゲウニ, マダラウニ, ミナミオオブンブクは少なく, 熱帯海域にふつうのトックリガンガゼモドキ, ガンガゼモドキ, クロウニ, パイプウニ等は調査を通じて1個体も見出されなかった。
著者
大和田 守
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.197-214, 1989

オキナワルリチラシは, スリランカ, インド, ネパール, ビルマ, タイ, 中国, 台湾をへて琉球列島から本州中部まで広く分布する種で, 多くの亜種に分けられている。井上 (1982) は, 日本の亜種を, それまでの知見と多くの標本をもとに, 本州, 四国, 九州, 沖ノ島, 隠岐, 対馬のものを亜種 sugitanii MATSUMURA, 1927,屋久島のものを亜種 micromaculata INOUE, 1982,トカラ列島から奄美大島と沖縄のものを亜種 okinawana MATSUMURA, 1931,八重山諸島のものを亜種 ishigakiana INOUE, 1982 とした。最近, 当館の友国雅章氏が奄美大島で採集した多数の標本が, 屋久島や沖縄のものと違うことに気づき, もう一度琉球列島を中心に本種の亜種を再検討し, 以下のような結論に達した。Eterusia aedea sugitanii MATSUMURA, 1927 分布 : 本州, 四国, 九州, 沖ノ島, 隠岐, 対馬。本亜種は常緑広葉樹林内に生息し, 茶の害虫とはならないようで, 年1化を基本的な生活環としている。成虫は 8∿9 月に出現するが, 九州南部では6月に1♂が採集されているので, 2化することもあるようである。雄はよく灯火に飛来するが, 雌ではそういうことはない。伊豆の湯ヶ島では多数の雄が採集されているが, そのほとんどが灯火に来たもので, 昼はあまり活動していないようである。また, この地では, 幼虫が野外でヒサカキから採集されている。一方, 隠岐で採集された雌から採卵されたものはヤブツバキを好み, ヒサカキはあまり食べなかったという。たいへん局地的な発生をし, 分散力もあまりないようで, 地域による変異が認められる。伊豆湯ヶ島のものがもっとも大きく, 奈良と和歌山のものが最小, 四国や九州のものはその中間くらいで, 隠岐や対馬の雄の前翅の白帯は幅広く, 中国大陸のものにすこし似てくる。これらの関係はもうすこし標本を集めてから論じたい。 Eterusia aedea micromaculata INOUE, 1982 分布 : 屋久島, 中ノ島(トカラ列島)。斑紋や大きさは奈良・和歌山のものに似ているが, 雄交尾器はむしろ隠岐のものに似る。年2化すると考えられる。トカラ列島のものは斑紋がやや異なるが, この亜種のものとして扱かっておく。Eterusia aedea tomokunii OWADA, 1989 分布 : 奄美大島。屋久島亜種に似るがより小型で, 前翅は赤褐色のことが多く, 中央の白帯は中室の下で外方へずれ, 内縁が直角をなす。雄交尾器の差は大きい。友国氏によると, 湯湾岳の発達した暖温帯林を通る林道で, 曇天の午後, 高さ 3∿4m の梢をゆっくりと飛翔していたという。雄の方が活発で, 雌のほとんどは葉上に止まっていたらしい。少なくとも年2化はしている。 Eterusia aedea sakaguchii MATSUMURA, 1931 分布 : 沖縄北部, 渡嘉敷島。小型で奄美大島のものに似るが, 前翅が幅広く, 斑紋も顕著。沖縄北部の山原地方の暖温帯林に生息する。井上 (1982) が亜種 okinawana として図示したものは本亜種である。学名の適用については次亜種の項で述べる。渡嘉敷島の雄の斑紋は sakaguchii とほとんど変わらないが, 交尾器はかなり違う。Eterusia aedea okinawana MATSUMURA, 1931 分布 : 沖縄南部?, 八重山諸島。大型で, 前翔はあざやかな緑色, 赤みを帯びる変異があるのはほかの亜種と変わらないが, 黄金色を帯びるものもいる。後翅外縁の黒帯内の青の輝きも, もっともあざやか。井上 (1982) は沖縄で採集されるものすべてを同一の亜種と考え, 八重山諸島産のものだけを別亜種 ishigakiana INOUE, 1982 としたが, 八重山諸島タイプのものは沖縄南部でも採集され, okinawana のホロタイプは明らかにこちらに属している。亜種 sakaguchii との分布の境界は今のところはっきりしていないが, 本部半島の名護で sakaguchii の雌が採集されている一方で, 伊豆味では okinawana の雌が採れている。沖縄で採集された okinawana は, 八重山諸島から侵入したものかもしれない。雄の第8腹板後側にある1対の角状の突起には, 微小ではあるが明瞭な副突起が認められる。この微小突起は sakaguchii までの日本の亜種にはなく, 台湾とアジア大陸のものにはある。ただし, okinawana のホロタイプはこれを欠く。このような変異は, ほかには台湾のものから1個体見いだしているにすぎない。年に数世代の発生があると考えられる。幼虫は, 飼育下ではツバキ, サザンカ, チャをよく摂食した。成虫は, これも飼育下ではあるが, 室温15度以上で雌雄とも活発に飛翔し, 砂糖水を与えれば1カ月は生きるとのことである。Eterusia aedea formosana JORDAN, 1908 分布 : 台湾。前亜種にたいへんよく似ているが, 前翅の地色ははるかに暗く, 後翅外縁の輝きも少ない。
著者
馬場 悠男 鈴木 一義
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum. Series D, Anthropology (ISSN:03853039)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.1-9, 2005-12

In the late Edo era, a human skeleton intended for medical education was carved from cypress wood by a craftsman, Ikeuchi under the supervision of a medical doctor, Banri Okuda in Osaka City. The model for the carving was based on a criminal's skeleton. The skeleton was beautifully made to be articulated and assembled by various methods, which reveals excellent craftsmanship. By and large, the wooden skeleton shows morphological characteristics usually seen in early middle-aged females of the Edo era. The wooden skeleton might have been used for the promotion of European medicine, which was emergent in the Edo era Japan, rather than for practical medical education.
著者
田中 法生 中野 紘一
出版者
国立科学博物館
雑誌
筑波実験植物園研究報告 (ISSN:02893568)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.1-2, 2005-12

Najas guadalupensis (Sprengel) Magnus var. floridana Haynes and Wentz (イバラモ科)が日本で初めて確認された。その分布域は,南フロリダ,グアテマラ,イスパニョーラ島である。
著者
山田 格 Chou Lien-Siang Chantrapornsyl Supot Adulyanukosol Kanjana Chakravarti Shyamal Kanti 大石 雅之 和田 志郎 Yao Chou-Ju 角田 恒雄 田島 木綿子 新井 上巳 梅谷 綾子 栗原 望
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.1-10, 2006

台湾,タイ,インドの研究施設に保存されている中型ナガスクジラ属鯨類標本22点を調査し,骨格の形態学的特徴から,ミンククジラBalaenotera acutorostrata 4点,カツオクジラB. edeni 7点,ニタリクジラB. brydei 1点,ツノシマクジラB. omurai 10点を確認した.1970年代以来議論は提起されていたもののWada et al.(2003)が記載するまで不明瞭であったツノシマクジラの標本点数が相対的に多かったことは特筆に値する.本研究の結果は,これまで混乱が見られたいわゆる「ニタリクジラ類」の分類学的理解を解きほぐすものである.さらにこの混乱を完全に解決するためには,とくにカツオクジラのホロタイプ標本の分子遺伝学的調査が強く望まれる.
著者
加瀬 友喜 アギラー ヨランダ・マーク
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.44, pp.175-183, 2006

フィリピン・ルソン島中部のブラカン地方に分布する前期鮮新世後期のタルタロ層から得られたツキガイ科二枚貝の新属新種Bulacanites obtusiplicatus gen. et sp. nov.を記載した.Bulacanitesは大型でこう歯を欠く点ではAnodontia属とMeganodontia属に似るが,殻が厚く,殻頂部がより前方に傾き,さらに殻表面に特徴的な分岐をする放射肋をもつ点で容易に区別される.産出した地層の堆積相と随伴する他の貝化石の解析から,この二枚貝は熱帯の潮間帯あるいは潮下帯に生息していたと考えられる.
著者
坂上 寛一
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.51-60, 1979-03

自然教育園の代表的な植生であるシイ林, ミズキ林, コナラ林, マツ林の土壌の腐植の形態を分析するとともに, 樹種や水分環境との関連を考察した。得られた結果は以下のように要約される。1) 4地点の水分環境はシイ林が最も乾燥しており, コナラ林が最も湿潤であった。ミズキ林とマツ林は両者の中間であり, 林内雨量と土壌水量は高い相関があった。2) ミズキ林とコナラ林の落葉広葉樹はCa含量が高く, pHが比較的高いが, マツ林とシイ林はCa含量低く, pHも低い。また, マツ林の炭素率は他の3地点の2倍ほど高い。3) 堆積腐植の近似組成分はマツ林で脂質類が多く含まれ, 蛋白質が少ないこと, コナラ林でリグニンの比率が高いことなど地点によりいくらか相違がみられたが, 表層土の有機物組成はシイ林がリグニンを始め, 各成分の含量が高いことを除けば, 非常に近似した値を示し, 有機物組成では地点間の差異がなかった。4) 水酸ナトリウム抽出部, ピロリン酸ナトリウム抽出部とも概して腐植酸よりフルボ酸の割合が高かった。特にコナラ林でその傾向が著しかった。5)コナラ林は腐植化過程の初期段階にあり, 水酸化ナトリウム抽出部腐植酸はRp型→P型を示した。ミズキ林はコナラ林より腐植化が進んでいるが, P型→A型→P型と一定した傾向は示さなかった。シイ林とマツ林は腐植化過程の後期段階にあり, 火山灰土壌の主要な腐植化経路と考えられるPo型→B型→A型を示した。
著者
遊川 知久
出版者
国立科学博物館
雑誌
筑波実験植物園研究報告 (ISSN:02893568)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.43-46, 1995-12

フィリピンに自生する,ラン科セッコク属の1新分類群Dendrobium ×usitae Yukawaを記載する。1994年4月,フィリピン,ルソン島北部のカラヤン諸島,バブヤン島海抜500-700mでVillamor T. Usita氏が発見した植物の同定を依頼された。Dendrobium bullenianum Rchb. f.とDendrobium goldschmi-dtianum Kraenzl.にきわめて類似した形質を持っものの,花色が赤紫をおびたオレンジ色で濃赤紫色の条が入ること,唇弁基部の隆起がやや鋭形であること,小し体が鈍頭の三角形であることで,両種から明確に区別される。表1に示されるように,これらの形質は1花序あたりの花数,花の大きさといった量的形質とともに,両種の中間を示す。さらにこの植物は, D. bullenianumとD. goldschmidtianumがそれぞれ約40,60%混生する場所に,少数の個体が自生する。一方,D. bullenianumとD. goldschmidtianumの多数の個体を観察した結果,上記の諸形質は安定しており,この植物がいずれかの種の種内変異とは考えられない。これらの点からこの植物を,D. bullenianumとD. goldschmidtianumの自然交雑種と判断し,Dendrobium ×usitaeと命名する。なお親分類群のひとつ,Dendrobium bullenianumは,異名のDendrobium topaziacum Amesで栽培されることが多い。他方,Dendrobium goldschmidtianumは,従来Dendrobium miyakei Schltr.とされてきたものだが,Christenson (1994)によって,前者が正名であることが明らかにされた。D. miyakeiの分類学的問題については,Yukawa and Ohba (1995)を参照されたい。
著者
黒川 逍
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.27-"30-2", 1978

当館の井上浩博士が父島で採集した地衣類39種を1969年に報告したが, それらを含めて小笠原諸島産地衣類として報告されているのは74種である。本報告では1977年夏, 筆者が小笠原諸島の父島および母島で採集した地衣類と既に当館に保存されている標本を検討して, 3種について報告した。Parmelia cristifera TAYL. は熱帯に広く分布しているが, 日本では今回の小笠原での記録が初めてである。Parmelia pacifica KUROKAWA は新種として記載したが, 1969年の報告では P. conformata VAIN. として発表したものである。本種は琉球列島にも分布しており, 西太平洋地域に特産と考えられる。アカチクビゴケ Trypetheliopsis boninensis ASAH. は小笠原特産種と考えられていたが, 琉球, 台湾にも産するこを報告した。なお, Lopadium hiroshii も同様の分布を示す。種子植物については, 小笠原産のものと日本南部の温暖な地方, 琉球, 台湾, 中国南部のものと同一種であったり, あるいは極めて近縁であったりして, 西太平洋における, 植物地理学的なつながりのあることが既に報告されている。地衣類についてはこのような研究はなかったが, Parmelia pacifica, Trypetheliopsis boninensis, Lopadium hiroshii は西太平洋地域に特産と考えられ, 種子植物の場合と同じように, 琉球や台湾と植物地理学的な関連を示しているようである。
著者
西城 惠一
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum. Series E, Physical sciences & engineering (ISSN:03878511)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.1-25, 2000

Investigation of Japanese celestial globes made in Edo era tell us the development and popularization of Japanese astronomy during Edo era. We have the largest collection in Japan in National Science Museum, eight of about fity known celestial globes. In this paper, I study three globes from our collection, which considered to be made by Harumi SHIBUKAWA, known to be first astronomer of Edo era. Discussions are also given by comparing them with other known celestial globes studied before.
著者
樋口 正信
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Museum of Nature and Science. Series B, Botany (ISSN:18819060)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.115-121, 2007-12

Eleven species in three genera in Hypnaceae and four species in four genera in Hylocomiaceae are reported based on the collections made in the Tien Shan Mountains in 1995. Hypnum callichroum and H. subimponens subsp. subimponens are new records for the moss flora of Kazakhstan, and Hypnum cupressiforme var. subjulaceum and H. recurvatum are new to Kyrgyxstan. A key for the Hypnum species in Kazakhstan and Kyrgystan is shown.
著者
吉村 庸 黒川 逍
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.77-"84-3", 1973

琉球八重山諸島の地衣類については今日までほとんど研究されていなかった。幸にして, 筆者らは, 国立科学博物館が主宰した琉球列島の自然史科学的総合研究の一部を分担し, 八重山諸島の地衣類を研究することになった。吉村は1973年1月, 陰花植物班の一員として, 八重山諸島(西表島, 石垣島, 竹富島)で地衣類を採集調査した。これらの採集標本は筆者らによって研究中であるが, 今回, 下記の日本未記録の9種について発表することが出来た。これらのうち樹皮生の Coccocarpia fenicis を除くと他の8種はいずれも葉上地衣である。Arthonia macrosperma (ZAHLBR.) SANT. ヨウジョウソバカスゴケ(新称)。大型 (50-62.5×12-13μ) で多室 (8-10) の胞子と長い(約100μ)粉子を持つのが特徴である。今迄マレーシアからのみ知られていた。Byssoloma leucoblepharum (NYL.) VAIN. ヤシノビッソロマ(新称)。子器の縁部が白色で, ゆるくこうさくした菌糸でできているのが Byssoloma 属の特徴の1つである。本種は子器盤が褐色で周辺部は連続している。また地衣体は多少緑色がかっている。熱帯地方に広く分布し, 一部欧州や北米の温帯にも知られている。Byssoloma rotuliforme (MULL. ARG.) SANT. タラヨウノビッソロマ(新称) 子器盤が黒色で, 灰白色の地衣体の周辺部は小部分に分かれ散在しているのが特徴である。熱帯地方に広く分布するが, 北米や欧州の温帯の一部でも知られている。Coccocarpia fenicis VAIN. チヂレバカワラゴケ(新称) 葉状の中型地衣で樹皮に着く。細かい扁平な裂芽を持つのが特徴である。フィリピンで記載されて以来, 現在迄どこからも報告がなかった。Dimerella epiphylla (MULL. Arg.) MALME ウスチャサラゴケ(新称) 淡褐色の子器を持ち, 日本ですでに知られている橙色の子器を持つダイダイサラゴケと区別される。熱帯地方に広く分布している。Mazosia bambusae (VAIN.) SANT. コクテンマゾシア(新称) 4室の胞子を持ち, 地衣体表面に粒状突起があり, その先端に細微な黒点があるのが特徴である。スマトラ, ボルネオ, フィリピン, ニューギニアからのみしか知られていなかった。Mazoasia phyllosema (NYL.) ZAHLBR. ナミマゾシア コクテンマゾシアに胞子の形状など似ているが, 地衣体表面に粒状突起がなく平坦である。熱帯地方に広く分布している。Mazosia melanophthalma (MULL. ARG.) SANT. ハクテンマゾシア(新称)。コクテンマゾシアに似るが地衣体表面の粒状突起が白色である。熱帯地方に広く分布する。Tricharia albostrigosa SANT. ヨウジョウシロヒゲ(新称) 地衣体に白色の毛を持ち, 胞子は巨大な石垣状であるのが特徴である。熱帯地方に広く分布しているがアジアではジャワでしか知られていなかった。
著者
濱尾 章二
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.71-76, 2008-03

2006年8月20〜25日に東欧,ブルガリアにおいて渡り時期の鳥相を調査したところ,13目35科129種が観察された.タカ目・チドリ目・スズメ目で多くの種が記録されたこと,多数のモモイロペリカンPelecanus onocrotalus・ヨーロッパコウノトリCiconia ciconiaが記録されたことは,当地が秋季の渡りの重要なコース上の中継地であることを示唆する.この調査は(財)科学博物館後援会の寄付金による補助を得て行われた.
著者
小野 展嗣
出版者
国立科学博物館
雑誌
Bulletin of the National Science Museum. Series A, Zoology (ISSN:03852423)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.35-40, 1992-03
被引用文献数
1

A new spider of the genus Xysticus C. L. KOCH, 1835,is described from the mountainous areas of Taiwan 1,500-3,300m in elevation, under the name of Xysticus chui. At present, this is the only species of the genus recorded from the island. Though its male palp appears unique in bearing three, much developed tegular apophyses, it seems to belong to the species-group of Xysticus luctans.
著者
菅原 十一
出版者
国立科学博物館
雑誌
自然教育園報告 (ISSN:0385759X)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.411-423, 2001-12

東京では, 著しい都市化に伴い年々気温が上昇し, 湿度が低下している。自然教育園は,都心部に残された自然緑地である。このため都市の高温化などによる自然生態系への影響が懸念されている。本報告は, 自然教育園で気象観測が開始されてから過去30年間(1971年〜2000年)の気温及び湿度, 降水量の平均値について, 東京の気候表との比較をとおし検討した。東京都内の平年気温は15.9℃, 平年最高気温は19.7℃, 平年最低気温は12.5℃を示す。この内, 年代別では, 特に, 最低気温の年平均値が'70年代12.1℃, '80年代12.4℃, '90年代13.1℃を示し, 都市化の影響によリ気温は年々上昇する傾向がみられた。園内の平年気温は15.3℃, 平年最高気温は19.2℃, 平年最低気温は12.5℃を示し, 東京都内と比較し平年気温が0.6℃差, 平年最高気温が0.5℃差, 平年最低気温が1.1℃差と低くなっていた。さらに, 年代別の年平均気温では'70年代15.1℃, '80年代15.3℃, '90年代15.4℃, 年最高気温は'70年代19.1℃, '80年代19.2℃, '90年代19.4℃, 年最低気温は'70年代11.3℃, '80年代11.5℃, '90年代11.4℃を示し, 園内では東京都内と比較し年々の気温上昇が小さくなっていた。平年湿度については, 東京都内が63%に対し, 園内は69%と東京都内より6%の高湿度がたもたれていた。また, 年代別にみた年平均湿度の経年変化では, 東京都内が62%〜63%, 園内が68%〜69%の範囲を示し, 過去30年間では都市の低湿度化の傾向が小さく, 横ばい状態となっていた。この他, 降水量については, もともと年による変動差が大きいため現状報告に止めた。平年の年間雨量は, 東京都内が1,465.6mm, 園内が1,305.0mmを示した。この内,園内の雨量は樹林の影響により阻止され東京都内の89%に止まり減少していた。また, 梅雨期(6月, 7月)と秋霧期(9月, 10月)には雨量が増加し, 年間雨量の50%弱を占め, 反対に冬季(12月, 1〜2月)は雨量が減少し年間雨量の10%を示していた。この結果, 園内では, 高木層及び亜高木層,低木層などからなる樹林の効果により, 気温及び湿度変化がやわらげられ, また, 隣接する都市の高温・低湿度化による影響が小さく抑えられていることが確かめられた。そして, 園内では'60年代(昭和40年前後)の東京都内に相当する気温及び湿度環境がたもたれていると推測された。
著者
田中 次郎
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.53-60, 1988

北海道南部沿岸に分布する海産植物(スガモ, アマモ, ホンダワラ類, コンブなど)には多くの褐藻類が着生している。これらの種類組成を調査した結果, シオミドロ科4種, ミリオネマ科2種, ナミマクラ科7種, ポゴトリクム科1種, クロガシラ科2種の計16種類の藻類が同定された。このうちLeptonematella fasciculataは日本では初めての記録である。
著者
近田 文弘 清水 建美
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.95-107, 2002

帰化植物は種数が多く,地域の植物相の重要な要素となっている.また,環境が変化した場所に侵入することが多く,帰化植物の分布状況は自然環境の改変を示唆すると考えられている.このような観点から富士山の帰化植物の分布を梅村(1923),近田・杉本(1983)の植物相調査と比較し,また垂直分布に注目して調査した.梅村(1923)には,1,110種の分布が記録されこの内,帰化植物は5種である.近田・杉本(1983)は,1,557種を記録し,この内,帰化植物は86種である(表1).今回の調査では31科113種の帰化植物を記録した.近田・杉本(1983)以後に新たに記録された種は42種である.これらの内,ナガミゲシ,ショカツサイ,シンジュ,オッタチカタバミ,マツヨイグサ,アレチウリ,ウラジロチチコグサ,セイバンモロコシは,東京とその近郊では普通であるのに,富士山ではごく限られた小地域で生育していて,最近富士山に侵入したことを思わせる.富士山の南面と北面では帰化植物の分布に違いが見られた.南面では86種が記録されこの内,40種は南面でのみ記録された.北面では53種で,17種は北面のみの記録である.南面は交通の便が良く都市化が進んでいるので,帰化植物の侵入口であることが予想される.帰化植物の垂直分布を,海岸から亜高山帯まで500mづつ標高を区切って各種の分布上限から調べると,大部分の帰化植物は標高1,000m以下に分布し,それより上では限られた少数の帰化植物が分布する.亜高山にまで分布できる帰化植物はセイヨウタンポポ,オオアワガエリ,カモガヤ,グンバイイナズナ,コイチゴツナギ等少数である.富士山の帰化植物数を他の地域と比較してみると,富士山では帰化植物数が少ないと言える.富士山の中腹以上の地表は火山灰で栄養や水分が乏しく,地表の大部分は帰化植物が生育し難い樹木の密生した森林で被われているいるので,帰化植物の生育できる範囲は限られていることが大きな原因ではないかと思われる.
著者
小林 享夫
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.85-"94-5", 1976

屋久島はその多雨と高い山があるという気候的地理的特徴によって植物相の変化にとんでいる。それに伴って植物寄生菌相もまた, 北方系, 南方系の要素が混在し, 地理誌的に興味深い。屋久島からは今まで約60属140種の樹木類寄生菌類が知られるが, 1975年7月の調査において新たに約20属30種を追加できた。これらの全貌については別報(KOBAYASHI, 1976)の予定であるが, ここにはその中から新種と考えられる8種について病徴と形態の記載を行なった。以下その種名とともに, 主に病徴から名づけられた病名を挙げて新病害として登録する。 1. Ascochyta yakushimensis, KOBAYASHI, sp. nov. ホソバタブ白斑病菌 2. Hypoderma insularis KOBAYASHI, sp. nov. ツガ葉ふるい病菌 3. Mycosphaerella cleyerae KOBAYASHI, sp. nov. サカキ円(まる)斑病菌 4. Plagiosphaera quercicola KOBAYASHI, sp. nov. 5. Plagiostigme neolitseae KOBAYASHI, sp. nov. イヌガシ黒点円星(まるほし)病菌 6. Plectosphaera actinodaphneae KOBAYASHI, sp. nov. バリバリノキ褐斑病菌 7. Trematospharia yakushimensis KOBAYASHI, sp. nov. (不完全世代 Hendersonula yakushimensis) カンザブロウノキ黒点病菌) 8. Vestergrenia daphniphylli KOBAYASHI, sp. nov. ヒメユズリハ褐紋病菌