著者
後川 昭雄 高橋 慶治 河端 征彦 高橋 武 富田 秀穂
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京大学宇宙航空研究所報告 (ISSN:05638100)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.773-798, 1977-09

衛星が軌道中にあるとき,重要な電源である太陽電池の出力がどれ位かを正確に推定するために地上においてその特性が予め正確にわかっている必要がある.本来,太陽電池の出力較正は大気圏外で行うのが最もよい方法であるが,現在まだ回収が不可能であるため,一般には高々度気球を使用して,大気効果の少ない約36km以上の高空で出力較正を行うのが普通である.そこで昭和49年度から50年度にかけて実験装置の設計,製作,地上試験を行ない,昭和51年5月25日に三陸大気球観測所においてB_5気球により衛星用太陽電池の出力較正実験を実施した.今回は第1回目ということもあり飛翔高度は約27kmであった.しかしこの高度ではまだ散乱光の影響が残っており,また気球の反射も当初予想したように大きかった.今後,上記影響を充分に注意して実験を行えば,太陽電池の出力を正しく較正することが可能であり,標準太陽電池の気球による設定化の目途がついたといえる.
著者
林 紀幸 東 照久 吉田 裕二 岡山 房雄
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙科学研究所報告. 特集 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.315-323, 1986-10

M-3S型ロケットは1号機から4号機まで順次, MS-T 4たんせい4号, ASTRO-Aひのとり, ASTRO-Bてんま, そしてEXOS-Cおおぞらをそれぞれの目標軌道に投入したミュー型第4世代のロケットであるが, これらの尾翼および尾翼筒はミューロケットシリーズでは14号機から17号機にあたる。各号機共設計, 製造から打上げに結び付く各オペレーション作業までを行なってきているが, ここではM-3S-1号機から同4号機までの尾翼および尾翼筒について全般の報告をのべる。
著者
梁 忠模 青山 剛史
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.1-24, 2008-02

ロータの回転や6自由度の機体運動等の複雑な動きのため、メイン/テールロータ及び胴体からなるヘリコプタの数値シミュレーションにおいて、正確で速い補間アルゴリズムの重要性が高まってきている。本報告では、直交格子と曲線格子で構成される移動重合格子を利用したCFD コードに対して、より正確で早い補間法を提案した。新しい補間法では、(1)直交格子の特性、(2)ヘリコプタ・ブレードの特殊な幾何学的配置、及び(3)並列計算時の計算負荷バランスなどを十分有効に利用できるアルゴリズムが考案されている。第一章では、Alternating Index Searching (AIS) アルゴリズムを提案し、従来のLinear Searching アルゴリズムに対し、2 次元の簡単なケースと実際のヘリコプタを模擬した3 次元計算のケースで補間計算の速度を比べた。第二章では、並列計算における各計算ノードの負荷バランスを考慮したReverse Index Searching (RIS) アルゴリズムを提案した。この補間法を利用することによって、ヘリコプタのより効果的な大型計算を実現することができた。
著者
OBAYASHI Tatsuzo KURIKI Kyoichi KAWASHIMA Nobuki NAGATOMO Makoto KUDO Isao NINOMIYA Keiken USHIROKAWA Akio Ejiri Masaki SASAKI Susumu
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
ISAS report (ISSN:03721418)
巻号頁・発行日
vol.43, no.8, pp.141-174, 1978-08

SEPAC (Space Experiment with Particle Accelerators) accelerators were tested in NASDA Large Space Chamber. The accelerators were Engineering Models of EBA (Electron Beam Accelerator) and MPD (Magnetoplasmadynamic arcjet). EMI (Electromagnetic Interference) data were obtained for EBA and MPD arcjet and no interference both electronic and via plasma was observed between these accelerators. Charge neutralization was successfully attained when MPD arcjet or NGP (Neutral Gas Plume) and EBA were simultaneously operated. Beam and plasma injections were clearly observed by a monitor TV camera.
著者
鎌田 哲夫
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京大学宇宙航空研究所報告 (ISSN:05638100)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.168-175, 1970-03

この報告は,ロケットによる雑音電波観測の科学的な目的と,この目的を実行するのに用いた装置と,実際に観測を実施してえられた結果のpreliminaryな事柄に関するものである.実験に用いられたのはK-9M-26号観測ロケットで,他の相乗り機器の電気系統からの電波交渉をさけるため,VLF雑音電波の測定に対する受動的な機器のみを搭載した雑音電波観測専用のものである.さらに飛しょう体が電離層プラズマを乱すことによりつくり出される雑音が実際存在するか否かを検出するために親子方式を採用し親と子とで同一周波数値域の観測を実施した.実験は昭和44年8月24日17時03分JSTに鹿児島県内之浦の東大宇宙空間観測所で実施された.ロケットは正常に飛しょうし,発射後約5分で最高高度341kmに達した.搭載機器もすべて正常に動作し,ホイスラー空電およびその他の電離層プラズマ内での雑音電波観測に成功した.この結果のpreliminaryなものを本文で報告する.
著者
雨宮 宏 小山 孝一郎
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙科学研究所報告. 特集 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.25-33, 1990-03

本報告は1988年1月25日11時に内の浦から打ち上げられたK-9M-81号ロケットにより観測された電離層正イオン密度および熱的電子のエネルギー分布に関する。今回の測定では真空封じファラデーカップを使用し特に電子の高エネルギー尾部の測定に重点を置いた。正イオン電流は90kmから, 熱的電子の高エネルギー尾部は170km以上の高度で観測出来た。正イオン飽和電流と電子温度計のデータから求めたプラズマ密度を従来の冬の同じ時刻のデータと比較した。F層では比較的再現性の良い密度分布が得られたが, E層は従来のデータより多少くい違いを示した。
著者
小山 孝一郎 雨宮 宏 Piel A. Thiemann H.
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙科学研究所報告. 特集 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.3-23, 1990-03

高度100km∿120km付近において電子温度を中性ガス温度より高くする熱電子の加熱機構を探るため1988年1月25日, 1月26日日本標準時間午前11時にK-9M-81号機及びS-310-18号機がそれぞれ発射された。太陽電波束は1月25日, 26日はそれぞれ94.9,93.5で太陽黒点数は33及び44であった。K-9M-81号機において得られた電子温度は高度100kmではほぼ中性ガス温度を示し, S-310-18号機においては高電子温度層が見られ, 層中の最大電子温度は700Kであった。両者の違いはSq電流系の目玉からの距離によるものと考えられる。
著者
小原 嗣朗 立沢 清彦
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京大学宇宙航空研究所報告 (ISSN:05638100)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.493-504, 1981-03

液相焼結に対する重力の影響について,理論的な考察およびAl-CuとAl-Fe系を用いて実験を行った.液相焼結の再配列過程における毛管現象に対する重力の影響は,用いた系では実験的に検出できなかった.また,固相粒子の液相金属中における沈降速度の測定値は,計算値より小さかった.このことは,液相中の対流を計算に入れる必要があることを示している.また,このような重力の影響を検出するためには,融点差500℃以上,密度差10g/cm^3以上の系が適している.
著者
吉田 純 高橋 幸弘 福西 浩 堤 雅基 牛尾 知雄
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-54, 2005-03

現在,金星大気超回転の解明を主目的とした金星気象衛星(VCO:Venus Climate Orbiter)を打ち上げるPlanet-Cミッションが宇宙航空研究開発機構/宇宙科学研究本部を中心として進行中である.我々はVCOに搭載する雷・大気光カメラ(LAC:Lightning and Airglow Camera)の開発を行っている.LACは金星夜面における雷放電発光・大気光を2次元で高速イメージングする観測器である.雷放電観測では,まずこの現象の存在の決定的な証拠を得て,長年の論争を収束させることを目標とする.さらに,その電荷生成・分離メカニズムの解明や硫酸雲物理学の理解,惑星メソスケール気象学の発展,金星大気中における熱的・化学的寄与の見積もりなど,様々な分野に貢献することが期待される.大気光観測では,発光強度の緯度・経度分布から金星超高層大気の運動を継続的にモニターし,さらに波状構造をイメージングすることで,金星下部熱圏と下層大気の力学的結合過程の解明,金星熱圏大気大循環メカニズムの理解の進展が期待される.さらに近年,地上望遠鏡で発見された558nm[OI]の連続観測も実施し,その発光強度分布や時間変動を捉え,オーロラとも解釈できるこの発光現象の解明を目指す.LACのセンサーとしては,高感度を有し,かつ高速サンプリングが可能なものが要求される.また本観測器は,雷放電発光観測用に波長777nm[OI]の干渉フィルタを採用し,50kHzプレトリガーサンプリングでデータを取得する.一方,大気光観測時には波長551nm[O_2Herzberg II],558nm[OI]で連続サンプリングを行い,積分時間10secで1枚の画像を作成する.VCOは金星低緯度を周回する長楕円軌道をとるが,LACはこのうち近金点(高度300km)付近から金星より3Rv離れた地点までの高度範囲で運用する.その際,雷放電発光観測に関しては距離3Rvの地点から地球の平均的発光強度のものを,1000kmの高度からはその1/100レベルのものまでを検出することを目標とする.一方,大気光に関しては発光強度100Rのものを,SN比=10を確保して検出することを目標とする.上記の性能を達成するため,我々は第一に,LACのセンサーとして光電子増倍管(PMT:Photo Multiplier Tube)とアバランシェ・フォトダイオード(APD:Avalanche Photo Diode)の2つを検討した.いずれも8×8の2次元配列素子である.絶対感度校正実験から得られた出力電流値と,暗電流測定試験から得られた暗電流値から,本観測器で100Raylieghの光源を観測した場合の暗電流統計揺らぎによるSN比が10以上であることを確認した.しかしながらAPDについてはバックグラウンドレベルの温度安定性が低く,光量の小さい大気光観測は適さないことがわかった.またPMTに関しては波長777nmにおける量子効率がAPDに比べて小さく,雷放電発光観測は困難であることが判明した.第二に,金星夜面観測の際に視野内に混入することが予想される迷光(太陽直達光,金星昼面光)の量を見積もり,迷光減衰要求量11桁を達成する高い遮光技術を有する光学系の設計・開発を行った.衛星側面に設置し片側を宇宙空間に暴露させ,対物側に4枚の遮光板(vane)と1段バッフルを取り付けた光学系を設計した.本光学系を採用する際,衛星表面を覆う金色のサーマルブランケットや設置面上にある突起物を介して,迷光が観測視野内に混入することが懸念されるため,我々は暗室内で精密な模型実験を行った.その結果,衛星突起物がベーン陰影内にある場合,その迷光量はカメラ部の1段バッフルから検出器間の遮光対策で十分減衰可能な量であることを定量的に示した.第三に,高速サンプリング時におけるデータ取得方法の考案・検討を実施した.忘却係数という概念を用いてトリガーサンプリング方法を考案し,地上フォトメータで捉えられた地球雷放電発光の波形で試験した結果,ノイズと分離して信号を検出することに成功した.本研究成果により,LAC開発に必要不可欠な基礎技術の活用に見通しを立てることができた.
著者
平島 洋 山上 隆正 宮岡 宏 奥平 清昭 小玉 正弘
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙科学研究所報告. 特集 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.113-128, 1989-12

10km のオーダーの細部空間構造をもったオーロラ X 線像が, 二次元 X 線像観測装置によって1985年7月6日に北極域オーロラ帯のL=5.2の地点で観測された。同時に活発なオーロラが, 南極昭和基地付近の地磁気共役な位置に出現した。局所的な高エネルギー電子降下が, 沿磁力線電場の効果を定量的に評価することによって調べられた。捕捉電子が沿磁力線電場によって加速されることにより高エネルギー電子降下が十分に起ることが示唆される。
著者
河村 洋
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-10, 2006-03

本研究は,微小重力科学国際公募(IAO)のテーマの一環として,国際宇宙ステーション(ISS: International Space Station)に搭載される実験装置の相互利用を目的として行われた.ハーフゾーン液柱内の対流場を可視化する方法として,一般にトレーサ粒子法が用いられる.地上実験において,対流場が三次元回転振動流を呈する際,トレーサ粒子が1 つの閉じたひも状に集合する現象を捉えている.これをSpiral Loop Particle Accumulation Structure(SL-PAS)と名づけた.本研究では,実験用小型ロケットMAXUS6 を用いた宇宙実験を,2004 年11 月22 日に欧州宇宙機構(ESA)の支援により行った.これにより,微小重力環境下においても粒子が集合し,SL-PAS が形成されることが始めて明らかになった.さらに周方向波数m = 2 及び3 のいずれの場合もSL-PAS の形成に成功した.SL-PAS の上面及び側面の2 方向からの可視化により,微小重力環境下におけるSL-PAS の三次元的構造を再構築することに成功した.さらに同条件での数値シミュレーションによってもSL-PAS の再現に成功した.
著者
竹内 端夫 林 友直 関口 豊
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙科学研究所報告 (ISSN:02852853)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-28, 1983-08

昭和58年初は原子炉衛星「コスモス1402」, 「たんせい2号」, 「たんせい4号」, と人工衛星の大気圏突入による消滅が相次いだ。宇宙研においては, 従来から使用していた軌道推定用プログラムの一部を改修して, これに対処したが, 「たんせい4号」の落下の推定についてはかなりの信頼度が得られたと考えるのでその結果を報告する。 なお, 付録として「SIRIUSの概要」, 「シュミットカメラの追跡フィルムから軌道算出まで」, 「SOEV83プログラムの概要」, 「大気モデルについて」を記載した。
著者
林 友直 横山 幸嗣 井上 浩三郎 橋本 正之 河端 征彦 大西 晃 大島 勉 加藤 輝雄 瀬尾 基治 日高 正規
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙科学研究所報告. 特集 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.141-171, 1991-06

M-3SII型ロケットでは, M-3S型と異なり, 新たに装備されたサブブースタSB-735の性能計測等のために, サブブースタにテレメータ送信機を搭載した。また, サブブースタの分離状況を画像伝送するため第2段計器部に画像伝送用テレメータ送信機を搭載し, さらに3号機では新たに開発された第3段モータの性能計測のために, 第3段計器部を設けてテレメータ送信機を搭載する等の大幅なシステム変更がなされている。搭載テレメータ送信機で新規に開発されたのは, 画像伝送用テレメータ送信機で, M-3SII型ロケットの試験機であるST-735ロケットで予備試験を行い, 地上追尾系を含めて総合的に性能の確認を行ったのち, M-3SII型1号機から本格的に搭載された。地上系では, 第2段モータの燃焼ガスが通信回線に大きな障害をもたらす等の問題が生じ, 2号機から高利得の18mパラボラアンテナを使用し, 従来の高利得16素子アンテナに対する冗長系を構成した。また, 第3段目の機体振動計測データ等を伝送していた900MHz帯テレメータは3号機から送信周波数がS帯へ変更されたのに伴い, 地上受信アンテナとしてはこれまで使用していた3mφパラボラアンテナをやめ衛星追跡用10mφパラボラアンテナを使用する事となった。データ処理系では, 計算機によるデータ処理が本格化し, 姿勢制御系, 計測系, テレメータ系のデータ処理のほか, 従来のACOSやRS系へのデータ伝送に加えM管制室へもデータ伝送が出来るようになった。コマンド系では, 1∿2号機は従来と同様であるが, 3号機から第1段の制御項目等を増やす必要からトーン周波数を増し, コマンド項目を3項目から6項目にし, さらに操作上の安全性を向上させた。集中電源は, 充電効率や管理の点等から見直しをはかり, 従来M-3S型で用いられていた酸化銀亜鉛蓄電池に替わりニッケルカドミウム蓄電池が使用されるようになった。
著者
藤井 正美
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙科学研究所報告 (ISSN:02852853)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.1-86, 1984-12
被引用文献数
1

1978年に Cartwright らによって発見されたプラスチック飛跡検出器 CR-39 は, 従来一般に使用されていたポリカーボネート (PC) やセルロースナイトレート (CN) と比較すると非常に高い感度を有している。また CR-39 のシートは, その均質性, 一様性が大変良い。そのため宇宙線重粒子の観測, ウラン濃度の定量, 中性子線量計, マイクロフィルターの製作など宇宙物理, 地球物理, 放射線計測, 工学の広い分野で応用され, その重要性は最近ますます高くなっている。もし CR-39 の感度をさらに向上させることができると, たとえば高エネルギーの L_i, B_e, B などが観測可能となる。これは宇宙線の起源, 銀河中での伝播などに関する新しい情報をもたらすものである。本論文ではまず第I章で固体飛跡検出器の歴史を簡単に振返り, 次に CR-39 の感度に関する従来の研究についてまとめる。荷電粒子に対する CR-39 の感度は, 使用したモノマーの純度, 重合時の温度条件, 重合開始剤の濃度などによって変化している。このことは CR-39 の感度をさらに改善できる可能性が残されていることを示すものである。 CR-39 を観測に応用する上での問題点としては, シートの場所による感度のばらつき, 使用する温度による感度の変化, 荷電粒子の入射角による感度の変化などがある。感度の入射角依存性の原因としては, バルクエッチング速産 V_b が, シート表面からの深さによって変化しているためではないかと考えられている。この入射角依存性と関連して, 荷電粒子に対する固体飛跡検出器の応答を調べるため, 第II章ではエッチピットの形状を求める一般的方法について議論する。従来よく知られているエッチピット形状の式は, V_g が一定の場合にしな適用できない。ここでは変分法を用いて, エッチングによる飛跡の成長速度 V_t とバルクエッチング速度 V_b が共に変化する場合にも適用可能な一般式を導いた。この一般式は CR-39 のように V_b が変化している場合のエッチピットの解析には欠かすことのできないものである。この一般式を用いて感度の入射角依存性やエッチピットの形状を定量的に説明できることを示した。第III章では CR-39 の感度を改善するために, プラスチックの放射線による劣化を促進する働きのある塩素化合物を添加するという新しい試みについて述べる。少量の塩素化合物を添加した CR-39 と, 添加物を加えない純粋の CR-39 について数種類のテストサンプルを用意し, 気球に搭載して上空で宇宙線を照射した。回収したサンプルは同一の条件でエッチングし, 荷電粒子に対する感度を比較した。このテストの結果, ジアリルクロレンデート (DACD) を2%添加したものは, 無添加のものと比較して数10%の感度上昇を示すこと, 一方ヘキサクロロブタジェン (HCB) を0.5%添加したものについては, 感度はあまり変化しないが, 長時間のエッチング後もシートの透明度が非常に良くなることを見出した。第 IV 章では, HCBを添加した CR-39 の特長を生かした応用として, 宇宙線重粒子の観測について述べる。長時間のエッチングを行うと, エッチピットは裸眼で見える程度の大きさに成長する。HCBを添加した CR-39 では, 長時間エッチングの後にもシートの透明度が失なわれないため, 9枚のシートを重ねて, 重粒子の飛跡を効率よく追跡することができた。この裸眼によるスキャンは, 従来の顕微鏡によるスキャンと比較するとそのスピードが格段に速く, 大変効率がよい。またスキャンロスも無い。このようにHCBを添加した CR-39 は位置検出器として, 特に大面積検出器を心要とする実験で有効性を発揮するものと考えられる。最後にV章では, CR-39 に代わる新しいプラスチック検出器の可能性について述べる。従来調べられたプラスチックは CR-39 を例外として, すべて熱可塑性樹脂である。これに対し CR-39 は3次元的に架橋した熱硬化性樹脂である。この3次元構造が CR-39 の高感度の大きな要因の1つと考えられる。アジピン酸ジアリル (DAA) , コハク酸ジアリル (DAS) など,いくつかの新しい熱硬化性樹脂の重合を行ない,低エネルギーのα線に対する感度を調べた。感度の高い方から並べると, CR-39 , DAS, DAA の順である。このうちDAAの感度は低いが, エッチピットの形状は大変良く, 超重核の観測に応用できる。これらの樹脂の分子構造を比較することによって, 荷重粒子に対する感度の高い樹脂を発見する手掛りを得ることができた。
著者
村上 義隆 多田 章 滝沢 実 中野 英一郎
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.1-66, 2007-03

小型超音速実験機NEXST-1(以下,ロケット実験機)の第2回飛行実験は,平成17年10月10日早朝,南オーストラリア州ウーメラの実験場で実施され,CFD検証データ取得を始め全てのミッションを達成して飛行実験は成功した。 ロケット実験機の通信系統は,機上と地上を一対の通信系として,飛行データ伝送系のテレメータ装置,非常指令系のコマンド装置,飛行追跡系のレーダ・トランスポンダ装置の3つの通信系で構成されている。本研究開発報告書においては,第2回飛行実験における各通信系の改良設計およびシステム改修について,飛行実験前にオーストラリアARA社の小型飛行機を用いて実施した各通信系装置の機能確認飛行試験の結果について述べ,最後にロケット実験機の飛行15分22秒間で得られた各通信系受信信号強度指示値(RSSI)と回線設計値の解析・比較を行い,通信系統設計の妥当性ならびにIMUと追跡レーダの測位を比較した結果について報告する。実験機は背面状態でロケットブースタにより打ち上げられる。本回線設計の検証評価ではロケット噴煙損失モデルの妥当性についても触れた。
著者
斎藤 芳隆 江澤 元 釜江 常好 窪 秀利 鈴木 清詞 関本 裕太郎 高橋 忠幸 田中 光明 平山 昌治 松崎 恵一 矢島 信之 山上 隆正 秋山 弘光 郡司 修一 田村 忠久 能町 正治 宮崎 聡 村上 浩之 森 国城 山崎 典子 EDBERG Tim
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙科学研究所報告. 特集 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.71-88, 1995-03

硬X線/γ線検出器Welcome-1 (mk2)の気球実験における方位角制御のために, リアクションホイールとよじれ戻しモーターを用いた制御方法による方位角制御システムを構築した。制御に用いた部品のパラメーターの評価, 地上, および上空でのパフォーマンスについて報告する。
著者
菅井 榮松
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京帝國大學航空研究所報告
巻号頁・発行日
vol.17, no.227, pp.425-459, 1942-04

過渡的外力による彈性翼の撓み振動に就いて考察を試みた.演算子法を用ひることによつて,靜的撓みを表す式と,過渡的外力によつて誘起されるn次振動の振幅を表す式との關係が容易に求められる.即ち,重心に相對的な,翼の任意の點に於ける撓み振動は一般に[numerical formula]の如き式で表されるのであるが,茲に本式中のT_n(t)を總て恒等的に1とおいて得られる量[numerical formula]は,過渡的外力の時間的に最大な値が靜的に加へられた場合の靜的撓みとなる.過渡的外力に依つて起る高次振動の最大撓みに及ぼす影響はこの無限級數の收斂性を吟味することによつて確かめられる.S_n(x)は振動のn次のモードに對應するものであるが集中質量がある爲に直交性を有しない.撓みのモーメント及び剪斷力に關しても類似の關係が存在する.吾々は先づ短時間に働く外力としてf(t)=csinωt(0≦ωt≦π),[numerical formula](-∞<t<∞)及びf(t)=t/k(0≦t≦k),(2k-t)/k(k≦t≦2k)なる3個の型を選び,その各々の場合に就いて上記のT_n(t)の性質を調べ,特にT_n(t)の最大値と外力の持續時間との關係を圖示して置いた.T_n(t)のとる時間的の最大値は外力の持續時間に依つて大いに左右されるものなることがわかる.例へば,外力の型がf(t)=csinωt(0≦ωt≦π)なる場合には,持續時間に關するパラメターωが小,從つて衝撃が極めて緩慢で靜的荷重と殆ど變らぬ間はT_n(t)の最大値は1なる値を有するが,n次の固有振動數ν_nとωとの關係がほぼω=0.62ν_nに在る時T_n(t)は最大の値1.77をとり,更に衝撃が急激となりωが大となるに從ひT_n(t)の最大値は零に近づく.他の型を有する外力に就いても同樣な性質が見られる.[numerical formula](-∞<t<∞)の時はkν_n=1.7に於いてT_n(t)は最大値1.61をとり,f(t)=t/k(0≦t≦k),(2k-t)/k(k≦t≦2k)の場合はkν_n=2.8に於いてT_n(t)の最大値は1.52となる.以上は加へられた外力の最大値を一定に保ちつつ持續時間を變へて行つた場合であるが,外力の力積を一定として考察する時は,衝撃が急激となるに從ひ振動の式は力積に比例する一定の形に近づき,其と同時に高次振動の影響が段々著しくなつて來ることがわかる.又,同じ型の衝撃が週期的に働く場合に就いても簡單な考察を加へた.相隣れる衝撃の時間的間隔をkとすればsinkν_n=0なる關係が成立する時,強制振動の共鳴に似た現象が現れる.演算子法を用ひることにより,個々の衝撃力の最大値が幾何級數的に増大又は減少する樣な場合に於ける振動の式も比較的容易に導くことが出來た.次に,垂直突風によつて生ずる翼の撓み振動を取扱つた.其際吾々は,W. R. Searsに依つて與へられた二次元理論に基づく揚力變化の嚴密な式[numerical formula]を簡単で近似的な式[numerical formula]に置換へて計算を行つた.ここに,ρaは空氣密度,Uは翼に相對的な風速,Vは突風の速度,2cは翼弦長,tは時間,K_0及びK_1は第二種の變形ベツセル凾數である.正確な式と近似式との値の相違は,原點の近傍を除いてはほぼ1%の程度である.突風に依つて起る翼の上下運動から生ずる揚力變化は翼幅に沿うて一樣なものと假定し,見掛けの質量とワグナー凾數とを考慮に入れて,先の場合と同樣にT_n(s)の性質を調べた.sはUt/cである.この場合T_n(s)は,2πρacUVなる力が單位翼幅毎に靜的に加へられた時恒等的に1なる値を有する量である.機體の運動から生ずる揚力の減少は機體と翼との質量の比1+a,翼密度ρ/(4c^2)及び空氣密度ρaを含む單一のパラメターδ=πc^2ρa/(ρ(1+a))に依つて決定されるが,T_n(s)の最大値はこのパラメターの同一の値の下では還元振動數cν/Uが大なる程小となる.例へばδ=0.005に對してはcν/Uが0.5,1.0,1.5となるに從つてT_n(s)は1.34,1.24,1.17となる.この結果は,若し高次振動の影響がないものと假定すれば突風に依つて起る翼の最大の撓みは夫々の場合に應じて,翼が單位翼幅毎に2πρacUVなる靜的荷重に依る撓みの1.34,1.24,1.17倍なることを示して居る.又,同一の還元振動數の下ではδの大となるに從つてT_n(s)の最大値は減少してゆく.而もその減少する量は,揚力の時間的變化と振動の位相との關係から生ずる若干の偏倚を除けば,風速U,Vにはほぼ無關係に,單にパラメターの二つの値δ_1,δ_2のみによつて定まる.吾々の計算ではδ_1=0.000とδ_1=0.010との間ではT_n(s)の最大値は20%以上の減少が見られた.最後に,[numerical formula]の收斂性を問題とした.翼の模型として中央に單一な集中質量を有するものをとる場合には最大撓みを知るには第一次の項のみで事實上充分である.双發機の如く集中質量が中央以外に更に左右に一個づつ存在する場合には第二次の項を無視することは出來ない.撓みのモーメント及び剪斷力の計算に於いては第二次の項が一層重要なものとなる.この場合には,[numerical formula]の收斂が緩慢である結果として,翼の或個所では,衝撃に依つて生ずる例へば最大の撓みモーメントが,衝撃力の時間的に最大の値に等しい荷重が靜的に加へられた際のモーメントの2倍を超えることが有り得ることになる.以上吾々は,着陸の際や突風を受けた場合の如き過渡的外力に依る彈性翼の振動を考察し,夫々の場合に於ける外力の條件に應じて,翼幅の各點に於ける最大の撓み,其モーメント乃至は剪斷力の大いさと靜的撓み,其モーメント,剪斷力との各々の比をば高次振動の影響をも考慮しつゝ,之を定量的に導いた.
著者
吉村 慶丸
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京大學航空研究所報告 (ISSN:03761061)
巻号頁・発行日
vol.25, no.8, pp.161-219, 1959-09

この研究の目的は, 従来塑性力学において慣用されている, 歪増分の概念に本質的な修正を行なうことによって, 塑性力学の理論に内在する矛盾を除去し, 該理論を微小, 有限変形の全領域にわたって完全に矛盾のない論理的体系に拡張かつ改良することである。まず, 一般に弾性論において用いられている, 物体要素の幾何学的形状の変化によって規定される, 歪およびその増分は塑性変形を記述する目的のためには不合理であることが例証される。現在の塑性力学, 更に正確にいえば歪増分理論, は特殊の変形を除いて, このような歪および歪増分を用いている点で本質的な誤りを侵しており, そのための矛盾は変形の増大と共に顕著になる。塑性変形の記述のために合法的な歪および歪増分の概念を導入するために, 著者は塑性変形の本質的性格についての明確な検討を行ない, その結果, 応力と共に, 歪, 歪増分の補足すべき基本条件を誘導した。かかる必然的推理に基づいて, ある変形状態における歪増分はその変形状態が同時に無変形の状態であるように定義される。歪はこのような歪増分を与えられた変形経路に沿って積分することによって得られ, それはその経路に依存し, 変形後の幾何学的形状には直接には依らないことが示される。この歪は対象とする物質の微視的構造変化に対応するものと考えられ, 塑性変形を記述するための歪テンソルとしてのみならず, たとえば異方性のような変形履歴に依存する状態を規定するところの歪履歴テンソルとしても役立つ。更にこの歪は, 単純伸張に対していわゆる対数歪を与えることが示される。したがってそれは履歴依存性一般自然歪と名付けることのできるものである。かくして塑性変形は二重の意味において, すなわち第1に歪それ自身において, 第2に応力・歪関係において, 履歴現象であることが明らかとなる。応力は物質中の単位面積に対して, それに作用する現実の力を与えるようなテンソルとし定義される。この応力は, 特に単純引張りに対しては, いわゆる真応力を与える。歪, 歪増分および応力をこのように定義することによって初めて, 仮想仕事の原理が, 微小, 有限変影の全領域にわたって, 微小変形の場合と全く同じ形式で表現されることが示される。この結果, このような一般の変形に対する平衡方程式, 状態方程式等のすべての関係がまた, 微小変形の場合と同様の形で成立する。このようにして塑性力学, すなわち歪増分理論, はその根本から組換えられ, 極めて自然に微小および有限の一般の変形の場合に拡張される。
著者
中川 道夫 海老原 祐輔 江尻 全機 福田 真実 平田 憲司 門倉 昭 籠谷 正則 松坂 幸彦 村上 浩之 中村 智一 中村 康範 並木 道義 小野 孝 斎藤 芳隆 佐藤 夏雄 鈴木 裕武 友淵 義人 綱脇 恵章 内田 正美 山上 隆正 山岸 久雄 山本 幹生 山内 誠
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙航空研究開発機構研究開発報告 (ISSN:13491113)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.75-90, 2009-02

オーロラX線イベントの2 次元イメージを得ることと,30keV から778keV の領域でエネルギースペクトルを得ることを目的として,大気球を編隊飛行させ観測を行うバルーンクラスター計画の下に,2003 年1 月13 日にPPB8 号機とPPB10 号機の2機が南極の昭和基地より放球された.両機は大気深さ9-12 g / cm^2を保ち,磁気緯度55°.5-66°.4 の範囲を飛翔し南極大陸を半周した.両機はフライト中に多くのオーロラX線イベントを観測した.特に,1月22 日から1 月25 日には,数例のイベントが両機で同じ時間帯に観測されている.2003 年1 月23 日には,始めに10 号機,218sec. の間隔をあけて8 号機でイベントが観測された.このとき8 号機は10 号機の西650km に位置していた.このことはオーロラX線源が速さ約3.0km / sec.で西に向かって移動していたことを示唆している.本論文では同じ時間帯に観測された,オーロラX線イベントについてその描像を述べる.
著者
長野 勇 木村 磐根 岡田 敏美 山本 正幸 橋本 弘蔵 鶴田 浩一郎 川口 正芳 杉森 明志
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
宇宙科学研究所報告. 特集 (ISSN:02859920)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.77-91, 1991-03

EXOS-D衛星は1989年2月21日に打ち上げられ, その後伸展物の展開, 高圧電源の投入を経て, 観測態勢に入った。VLF装置によるプラズマ波動の観測は, 一部他の搭載機器との電磁干渉が見られるが, 概ね良質のデータが取得されており, PFX装置で観測されたオメガ信号及びホイスラ空電のk及びPoynting vectorの解析に成功している。また, WB受信機やMCA装置により, オーロラに関連したHissやfunnel typeのエミションのスペクトラムが観測されている。この様に, 概ね良質な波動データを取得できたのは, 次のようなEMI対策によるところが大きい。すなわち第1次噛み合わせにおいて, 全てのサブシステムを衛星に組み込んだ後に各サブシステムからの放射磁界雑音特性を測定し(システム全体により構成されるループからの放射も含む), その雑音強度がVLF班の測定対象としている波動のレベル(磁界センサーが検出できる最小レベルを基準にすることが望ましいが)を越えている場合, そのサブシステムについてEMI対策をお願いした。改修後, 単体によるEMI測定を行なった。更に, 第2次噛み合わせにおいて, 組み上げ後再度EMIテストを行なった。このようにして, 各サブシステムのPIのご協力により, 放射磁界干渉雑音強度を減少させることが出来た。しかし, 一部の搭載機器においては, その改修によるシステム全体に与える影響を避けるため, そして改修にかかる時間的制約のもとで, 干渉を減らす為の装置の改修を諦めざるを得なかった。本報告では, EXOS-Dの干渉試験を通して得られたいくつかのEMI対策方法や資料について述べる。また, 打ち上げ後の軌道上におけるVLF装置と他サブシステムとの干渉結果についても述べる。そして, これらの経験を通して作成された1992年打ち上げ予定の科学衛星(GEOTAIL)に於けるEMC規制値についても触れる。