著者
花村 克悟 三松 順治 熊田 雅弥
出版者
岐阜大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、熱可塑性高分子ポリマー微粒子の超高速溶融・凝固プロセスを解明すべく、粒子内の粘弾性流動及び伝熱のメカニズムを実験的に明らかにすることを目的としている。本年度はラジアントフラッシュ定着(溶融)過程における単一実用トナー(高分子ポリマー)微粒子のふく射吸収特性を把握することに焦点を絞って研究を進めた。直径10μmの実用トナー粒子1個を、粒子と成分が等しい直径4μmの高分子繊維の先端に静電気にて付着させ、He-Neレーザーの平行光を照射し、溶融前の不定形粒子とわずかに溶融した後の球形粒子の散乱相関数を測定した。この場合、球形粒子については粒子内部のふく射吸収過程を含めたRay-Tracing法による理論値と比較することで吸収係数が見積もられ、その値は0.18(1/μm)であり、主成分がポリスチレンに近いと考えると複素屈折率は1.592-0.009iであることがわかった。さらに表面反射による散乱現象が支配的であり、それに1次の透過光が前方散乱を助長している。また、2次以上の透過光の寄与は小さく無視していることが明らかとなった。一方、溶融前の不定形粒子については粒子の外周近傍では前方散乱が強く、それ以外では拡散反射を呈する平板の性質に近い散乱位相関数が得られた。このモデルを構築することは容易ではないので測定された位相関数そのものを用いて先のふく射輸送を解析したが、実験との良好な一致は得られず、むしろ、散乱体が一様に分散された均質モデルを仮定し、Heneyey-Greensteinの近似位相関数を用いた解析手法がよく実験結果を説明できた。すなわち、不定形粒子層では単一粒子の特徴がそれ程強く反映さないことが明らかになった。
著者
川上 紳一 大野 照文 高野 雅夫 酒井 英男 石渡 良志
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は、ナミビアで採集した縞状炭酸塩岩の解析に基づいて、スノーボール・アース仮説を検証することである。現生代後期の氷河堆積物を覆う縞状炭酸塩岩は温暖な気候で堆積したものと考えられており、地質学における大きな謎であるとされた。氷河堆積物と縞状炭酸塩岩の組み合わせは、地球表面が前面的に凍結したとすると合理的に説明ができる。しかし、そのようなことは気候学的にありえないとされてきた。申請者らは、ナミビアで採集したラストフ縞状炭酸塩岩の化学的分析を行い、縞の解析から堆積速度の見積もりを試みてきた。層厚14mの縞状炭酸塩岩は、酸素、炭素同位体比からみて、3つの区間に区分されることが明らかになった。酸素同位体、炭素同位体比の変動は、スノーボール・アース仮説から導かれる論理的帰結と合致しているものと解釈された。現生代後期の炭酸塩岩の堆積環境の解析に、酸素同位体比が利用できることを世界に先駆けて示すことができた。一方、縞の解析では、区間2にメートルオーダーの明瞭な堆積サイクルが認められていた。このサイクルは、カルサイトに富んだ部分とドロマイトに富んだ部分の繰り返しで特徴づけられる。それぞれのサイクルには、ミリメートルスケールのラミナがあり、メートルスケールの堆積サイクルには、約1500枚のラミナが含まれていることが明らかになった。ラストフ縞状炭酸塩岩のラミナが1年ごとの環境の繰り返しを反映していることを論じた。一方、ナミビアのマイエバーグ縞状炭酸塩岩にはミリメートルスケールの縞とセンチメートルスケールの縞が形成されている。このような縞が潮汐リズムを反映したものである可能性を指摘した。この解釈によるとマイエバーグ縞状炭酸塩岩の堆積速度は、約25cm/年となる。これらの縞の解析から縞状炭酸塩岩に記録された炭素同位体比の変動の時間スケールは、数1000年であると見積もられた。これは新生代古第三紀の突発的温暖化事件(LPTM)における炭素同位体比の変動の時間スケールに比べ、一桁近く小さいことになる。以上の結果を総合すると、われわれが採集した氷河堆積物を直接覆う縞状炭酸塩岩の地球化学的特徴は、スノーボール・アース仮説と符合していることが明らかになった。
著者
高木 伸之 王 道洪 ウ ティン
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では風力発電での落雷による被害を現状の数分の一に削減するための新たな安価な落雷の予知技術の開発を行った。この落雷による被害低減技術は風車先端からの放電に伴う電波を落雷の30秒前に検知して風車を停止させるという方法である。風車を停止させれば避雷回数を80%以上低減できる。風車先端からの放電に伴う電波を落雷発生の30秒以上前にほぼ100%検知できることを確認した。さらに開発した電波放射源3次元可視化システムを用いて多くの新たな知見を得ている。
著者
大島 勉 土肥 修司
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

平成14年度における研究成果は以下の通りである。1)経口麻酔前投薬としてのセロトニン1A受容体作動薬タンドスピロン:セロトニン1A受容体作動薬タンドスピロンを麻酔前投薬に用いることによって、鼓室形成術後の悪心嘔吐を抑制することが判明した。2)吃逆の系統発生学的起源:パリ、カルガリーの研究者と吃逆の系統発生学的起源について討論を行った。数多くの類似点を有することから、吃逆の系統発生学的起源は鰓呼吸であるという仮説を論文として作成した。この論文は雑誌BioEssaysに掲載された直後に雑誌New Scientistで紹介され、その後は英国BBC、オランダのテレビ放送などで取り上げられ、反響を呼んでいる。3)GABAの相反する吃逆への作用:ペントバルビタール麻酔ネコにおいて背側鼻咽頭部の機械的刺激による吃逆様反射がイソフルラン吸入によっていかなる影響を受けるかを検討した。GABA-A、GABA-B受容体の拮抗薬を中枢もしくは末梢投与することによって、イソフルランは吃逆様反射を中枢、末梢両方のGABA-A受容体を介して促進、GABA-B受容体を介して抑制することが判明した。この実験結果にかんしては、American Society of Anesthesiologistsの年次大会(オーランド)で発表し、現在論文投稿中である。4)全身麻酔導入時の咳、欠伸:日常の臨床において、フェンタニル静注による咳、チオペンタール静注による欠伸を免疫学的に検討した。前者はAmerica Society of Anesthesiologistsの年次大会(オーランド)、後者はAmerica Thoracic Society国際学会(シアトル)で発表し、今後、論文作成に向かう予定である。
著者
古屋 康則 山家 秀信 松原 創
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2017-04-01

雄が繁殖期中に営巣するトゲウオ科、カジカ科、ハゼ科魚類では、雄の腎臓で粘性物質の合成が活発化し、膀胱に尿を蓄えるという共通した現象を見出した。トゲウオ科では雄の腎臓で巣材を接着する物質(スピギン)が合成されることが知られているが、カジカ科の雄の腎臓でもスピギンと相同の遺伝子が繁殖期中にのみ発現していることを見出した。また、トゲウオ科で雄の腎臓抽出物が成熟した雌を誘引する作用を持つことが示唆された。このことから、営巣繁殖するトゲウオ科、カジカ科、ハゼ科魚類の腎臓で合成される粘性物質の機能は、雌の巣への誘引であり、トゲウオ科では雌の誘引に加えて巣材の接着の機能が付加されたと考えられた。
著者
田島 弥生
出版者
岐阜大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2015-08-28

日本語母語話者の周辺認知の高さと、周辺情報から先に言語化するという日本語の言語習慣との関連性を検証するために、日本語、英語の母語話者を対象に、言語描写を求められているときといないときの2つの条件下で、静止画像に対する眼球運動を計測した。同時に、談話レベルに観察される情報構造の特徴を明らかにするために、静止画像に対する言語描写を録音し、データ分析を実施した。諸事情により、当初の計画通りに実験が進まず、残念ながら、未だ、データ採取、およびデータ分析の途中である。今年度中に研究を完了させる予定である。
著者
好川 聡
出版者
岐阜大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究では、これまでの研究成果―中唐の異文化認識―を発展させて、唐代の異文化認識の全容を解明することを目指した。まず、初唐の詩人が、南方独特の風土に関心を示した詩を作りはじめ、盛唐になると杜甫によって、南方異民族の風俗にも着目した詩が数多く作られるようになり、それが中唐へと受け継がれていく流れを明らかにした。また、中唐の韓愈は、最初の左遷で異文化認識が変化したことが、二度目の左遷に際して、左遷の悲哀を克服するのに大きな役割を果たしたことを考察した。
著者
土田 浩治 小島 純一 工藤 起来
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本から侵入したと考えられてきたニュージーランドのフタモンアシナガバチの遺伝的多様性を、日本の個体群の遺伝的多様性と比較した。比較した部位は、ミトコンドリアのCOI 領域である。全個体群からは26ハプロタイプが見つかり、そのうち、日本からは16ハプロタイプが、ニュージーランドからは19ハプロタイプが見つかった。両個体群に共通したのは9ハプロタイプのみであり、日本以外の地域からの侵入が有ったことが示唆された。
著者
李 富生 吉村 千洋 笠原 伸介
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

水中の微量有機物を除去することを主な目的として導入される活性炭吸着プロセスによるウイルスの吸着容量と吸着後のウイルスの生残性の変化を明らかにするため、活性炭によるモデルウイルスの吸着容量実験、吸着後のウイルスの誘出実験、実活性炭処理施設に対する調査実験を行い、ウイルスの吸着容量と生残性に対する活性炭細孔分布や共存有機物の影響を検討した。
著者
森重 健一郎 竹中 基記 上田 陽子 鈴木 紀子 森 美奈子
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

卵巣がん細胞株TOV21, KOC-7CでRAS変異が確認され、OVISEでは確認されなかった。RAS変異のある細胞では、フェロトーシス誘導剤エラスチンを添加したところ、WST-1アッセイにより細胞死が誘導されていることがわかった。鉄のキレート剤であるDFO添加により、その細胞死が解除されたたため、エラスチン添加による細胞死は鉄依存性細胞死=フェロトーシスであることが考えられる。一方、RAS変異のない細胞株ではフェロトーシスは誘導されなかった。RAS変異のある卵巣がん細胞株でさらに検討したところ、エラスチン添加時に細胞内ROS量は上昇、GSH量は低下しており、その結果として細胞死が引き起こされていることが予想された。一方、RAS変異のない細胞ではエラスチン添加時にはROS量の若干の上昇が見られたが、元々の細胞内ROS量が高いためフェロトーシスに抵抗性があると考えられる。フェロトーシス誘導剤はいくつか報告されているが、その中でもアルテスネートは抗マラリア薬であるため、臨床応用が速やかに行える利点がある。現在、我々はアルテスネートを用いて上記同様の実験を行っている最中であるが、エラスチンとは効果が異なる点も見られ、同じフェロトーシスでも異なるメカニズムで作用していることが考えられる。引き続き検討していきたい。またフェロトーシス誘導時には膜の脂質酸化が引き起こされることが知られているため、脂質酸化マーカーであるBODIPYを用いたイメージング実験を試みているところである。