著者
菊島 良介 高橋 克也
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.261-271, 2020-04-15 (Released:2020-05-08)
参考文献数
27

目的 本研究は食料品アクセス困難者(以下,アクセス困難者)の栄養および食品摂取にみられる特徴を把握することを目的とした。方法 食料品アクセス問題に関する調査項目が唯一調査票に含まれている平成23年国民健康・栄養調査と平成23年国民生活基礎調査の両個票データのデータリンケージを行い,分析に用いた。 65歳以上の高齢女性1,051人を対象に,アクセス困難者の栄養および食品摂取状況について計量経済学的手法を用いて把握した。分析の目的変数としてエネルギー産生栄養素の蛋白質,脂質,炭水化物の摂取熱量(kcal),17品目の食品群別摂取量(g/1,000 kcal)を用いた。目的変数の同時決定による内生性に対処した同時方程式モデルの一種であるSeemingly Unrelated Regressionsモデルを推計した。この推計により各栄養素摂取熱量や食品群別摂取量の多寡を規定する要因(変数)の影響の程度が係数として示され,各栄養素間や各食品群間の代替・補完関係が誤差項間の相関行列として表現された。結果 アクセス困難者の特徴として65歳以上女性において,食料品アクセスとエネルギー産生栄養素摂取量との関連をみた結果,炭水化物の摂取熱量(kcal)が有意に高く,脂質の摂取熱量(kcal)が有意に低いことが明らかになった。このことは食品群別摂取量(g/1,000 kcal)をみても穀類が高く,油脂類が低いことからも確認された。これらのことから,アクセス困難者は代替・補完関係を考慮しても炭水化物摂取に偏った食生活を送っている可能性が高いと推察された。結論 本研究により栄養摂取状況に関してアクセス困難者が炭水化物摂取に偏る局面もみられた。単純に価格や嗜好の問題ではなく食環境の要因として,すなわち食料品へのアクセスの制約によりアクセス困難者は炭水化物摂取へ偏った食生活を送っている可能性が高いと推察される。個人が直面する経済的状況の影響を考慮しても食環境は食生活を規定しており,フードチェーンを構成する各主体間や行政との連携・協力による買い物サービスの利用促進に向けた環境整備の必要性が示唆された。
著者
山本 覚子 藤本 眞一 神尾 友佳 小窪 和博 稲葉 静代 藤原 奈緒子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.371-376, 2004 (Released:2014-08-29)
参考文献数
27

目的 全国の保健所およびその統合組織の実態を把握し,保健所の重要な任務である健康危機管理の体制を今後とも推進するためのより良い組織および権限付与のあり方を提言していくことを目的とした。方法 全国の保健所設置主体,合計123都道府県市区(以下,「県市区」という。)に郵送による自記式調査を実施し,平成14年10月現在の,各地方自治体の保健所と福祉事務所等の統合組織(以下,「統合組織」という。)の実態,および名称等について情報を得た。それらの調査資料をもとに,各県市区の健康危機管理対応のあり方を考察した。結果 112県市区(全都道府県,48市,17区)から回答(回収率91.0%)があった。統合組織は,市区では 7 市 1 区,都道府県では31府県存在していた。統合組織の長は,統合組織全体では医師34.7%,事務吏員63.5%,医師以外の技術吏員1.6%であった。統合組織の長と保健所長との間の情報提供のルールをあらかじめ作っているところはなかった。外部からの電話による問い合わせや,文書送付時の名称は,統合組織名を使用しているところが多かった。統合組織名は様々であったが,富山県や横浜市では,法律上の保健所の名称として「保健所」の名称は使用せず,それぞれ統合組織名である「厚生センター」,「福祉保健センター」を使用していた。考察・結論 保健所と福祉事務所の組織統合については,市区ではあまり進んでいなかったが,都道府県では31府県で,組織統合があり,約 7 割を占めており,単独の組織として保健所を考えることはもはや無意味である。統合形態としては,今後「ミニ県庁型」の組織統合が流行するものと予想される。また,統合組織の長からみた保健所長の位置付けから,健康危機発生時に,敏速な対応ができるのか疑問が残る。さらに,「○○保健所」と名乗らない「保健所」もあり,重大な問題があると考える。
著者
乾 愛 横山 美江
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.638-648, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)
参考文献数
40

目的 妊娠間隔12か月未満で出産した母親の育児負担感の実態とその関連要因を明らかにすることを目的とした。方法 A市3か所の保健福祉センターにおける3か月児健康診査に来所した母親を対象に,妊娠間隔やEPDS,育児感情尺度等を問う無記名自記式質問紙調査を実施した。回答が得られた757人のうち,欠損項目を有する72人を除く685人(有効回答率90.4%)を分析対象とした。妊娠間隔は,妊娠間隔12か月未満群,妊娠間隔12か月以上24か月未満群,妊娠間隔24か月以上群,およびきょうだい児なし群に分類し,育児負担感との関連を分析した。統計学的分析方法は,χ2検定,一元配置分散分析またはKruskal-Walisの検定,および重回帰分析を実施した。結果 妊娠間隔12か月未満群が35人(5.1%),妊娠間隔12か月以上24か月未満群が114人(16.6%),妊娠間隔24か月以上群が194人(28.3%),きょうだい児なし群が342人(49.9%)であった。育児感情尺度の3つの下位項目に関連する要因を重回帰分析した結果,育児への束縛による負担感では,妊娠間隔(P=.032),家族構成(P=.014),睡眠時間(P=.010)および夜間起床回数(P=.001)と有意な関連が認められた。子どもの態度や行為への負担感では,妊娠間隔(P<.001),母親の年齢(P=.003),睡眠時間(P=.009)および夜間起床回数(P=.002)と有意な関連が認められた。育ちへの不安感では,妊娠間隔(P<.001),母親の年齢(P=.016)および在胎週数(P<.001)と有意な関連が認められた。加えて,妊娠間隔12か月未満群は他の妊娠間隔群に比べ,ひとり親世帯(P=.005),未婚(P=.007),最終学歴が中学卒業(P=.0027),24歳以下の若年(P<.001)が有意に多かった。結論 妊娠間隔は,育児感情尺度の育児への束縛による負担感,子どもの態度や行為への負担感および育ちへの不安感と有意に関連していた。さらに,育児への束縛による負担感,ならびに子どもの態度や行為への負担感は,妊娠間隔が短くなるほど母親の負担感が増大する可能性があることが示された。妊娠間隔12か月未満の母親は,ひとり親世帯,未婚者,低学歴,若年の割合が有意に高いことが明らかとなり,支援の必要性が示された。
著者
三原 麻実子 原田 萌香 岡 純 笠岡(坪山) 宜代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.629-637, 2019-10-15 (Released:2019-11-09)
参考文献数
21

目的 避難所生活での食事状況の改善は喫緊の課題である。避難所における栄養改善のための新たな要因を探索する目的で,弁当等の食事提供方法の有用性について解析した。方法 宮城県による「避難所食事状況・栄養関連ニーズ調査」の結果を2次利用解析した。2011年3月に発生した東日本大震災から約2か月後(216避難所)と約3か月後(49避難所)における弁当の提供有無とエネルギー・栄養素提供量,食品群別提供量等の関係について解析した。また,炊き出し回数との関連性についても解析した。結果 発災約2か月後では弁当の提供有無によってエネルギー・栄養素提供量に有意差がみられたが,発災約3か月後では有意差は認められなかった。発災約2か月後では,弁当の提供が無い避難所に比べ弁当を提供した避難所では,エネルギー,たんぱく質,魚介類,油脂類の提供量が有意に高値を示した。一方,弁当を提供した避難所ではビタミンB1,ビタミンC,いも類,野菜類の提供量が低値を示した。発災約2か月後に炊き出しが有る避難所では,いも類,肉類,野菜類の提供量が有意に高値を示した。結論 発災約2か月後において,避難所での弁当の提供は,エネルギー・たんぱく質や,避難所において不足するといわれている魚介類の提供量も増やす可能性がある一方,ビタミンB1やビタミンCの提供量は低くなる可能性が示唆された。これらの結果から,エネルギーやたんぱく質の提供が求められる発災後の早い段階で弁当を提供することは食事状況改善につながると考えられる。しかしながら,弁当の提供のみでは提供できる栄養素に限界があるため,炊き出し等を柔軟に組み合わせて食事提供をすることが望ましい。
著者
田口 敦子 村山 洋史 竹田 香織 伊藤 海 藤内 修二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.712-722, 2019-11-15 (Released:2019-11-26)
参考文献数
25

目的 地域保健に関わる住民組織には食生活改善推進員,健康づくり推進員,母子保健推進員,愛育班等がある。これらの住民組織は,行政によって育成・支援され,住民の身近な存在として,住民への健康情報の提供や意識啓発を行っている。その活動効果が報告されている一方で,成り手の減少等の課題がある。そこで,本研究では,全国調査により地域保健に関わる4つの住民組織の特徴と課題を明らかにすることを目的とした。これにより,住民組織の養成・支援の方策を立てるのに有益な資料となり得ることを目指す。方法 対象は,全国の市町村1,873か所であった。全国の市町村のうち政令指定都市は行政区ごとを対象とし,特別区は除外した。市町村自治体の健康増進担当者を対象に,メールまたは郵送にて調査を実施した。調査期間は2017年2月~3月末であった。食生活改善推進員,健康づくり推進員等,母子保健推進員等,愛育班について,それぞれ住民組織の設置の有無,組織の設立年,会員数,最も多くを占める年代,メンバーの主な選出方法,等について尋ねた。組織の現在の課題は12項目を6件法(1=全くそう思わない~6=非常にそう思う)で尋ねた。活発に活動しているメンバーの割合を0~10割の範囲で尋ねた。結果 全国の市町村808件の回答を得た(有効回答数805件,有効回答率43.0%)。設置の有無は,食生活改善推進員が最も多く全対象市町村の84.7%であり,続いて健康づくり推進員等(64.3%),母子保健推進員等(26.4%),愛育班(10.1%)であった。組織の課題について「非常にそう思う」,「そう思う」,「まあそう思う」の回答を合計した割合は,「新しいメンバーがなかなかみつからない」,「活動の対象者が固定化している」等で4組織共に50%以上であった。また,4つの組織に共通して「活動を楽しめていないメンバーが多い」,「仕事や介護等の理由により活動への関わり方に制約があるメンバーが多い」,「活動の目的がメンバー全体で共有されていない」の課題は,組織の中で活発に活動しているメンバーの割合と,中程度または弱い負の相関がみられた。結論 4つの住民組織の特徴には違いもみられたが,組織の課題は全国的に共通するものが多いことが明らかになった。
著者
原田 萌香 瀧沢 あす香 岡 純 笠岡(坪山) 宜代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.9, pp.547-555, 2017 (Released:2017-10-07)
参考文献数
21

目的 避難所の食事を改善する新たな要因を探索する目的で,東日本大震災の避難所における食事提供体制(炊き出し回数,炊き出し献立作成者等)が食事内容を改善するか否かを検討した。方法 宮城県内の避難所386か所を対象とした,「避難所食事状況・栄養関連ニーズ調査(調査主体:宮城県保健福祉部)」の結果を二次利用し,被災から約1か月後の2011年4月時点での食事内容や炊き出し回数,献立作成者等について解析を行った。結果 1日の食事提供回数が0回または1回だった避難所はなかった。食事提供回数が2回の避難所に比べ3回の避難所では主食の提供は有意に多かった(P<0.05)が,主菜・副菜・乳製品・果物について著しい改善はみられなかった。食事回数以外の改善要因について検討したところ,炊き出し回数が多い避難所では,主食・主菜・副菜・果物の提供回数が多かった(P<0.05)。また,栄養士らが献立を作成した避難所では,乳製品および果物の提供回数が多かった(P<0.05)。結論 炊き出し実施は,災害時に不足するといわれている主菜・副菜・果物の提供を多くし,さらに献立作成者が栄養士らの場合,乳製品および果物の提供が多かった。これらの結果から,主食が中心となる災害時の食事は炊き出し実施や栄養士らが食事に関わることで改善される可能性が示唆された。
著者
小林 良清
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.615-620, 2018-10-15 (Released:2018-10-31)
参考文献数
11

目的 2015年の都道府県別生命表において長野県男性の平均寿命が滋賀県男性の平均寿命に準じて全国2位に後退したが,20歳以上の平均余命がいずれも全国1位であることから,20歳未満の年齢層における死亡率が2位後退に大きく影響していると考え,既存の統計資料等を活用してその状況を明らかにする。方法 政府統計から都道府県別生命表を入手し,長野県,滋賀県,全国における男性のそれぞれの年齢別死亡率を確認した。そして,平均寿命の計算式を作成し,仮の年齢別死亡率における長野県男性の平均寿命を試算した。さらに,長野県の衛生統計から男性の年齢階級別死因別死亡数を入手し,死因の状況を確認した。結果 2015年長野県男性の年齢別死亡率は,9歳から13歳において2010年長野県男性の年齢別死亡率より2倍以上高く,9歳から14歳において2015年滋賀県男性の年齢別死亡率より2倍以上高くなっていた。そして,平均寿命の計算式を用い,9歳から13歳における2015年長野県男性の年齢別死亡率が2010年長野県男性の年齢別死亡率と同じだったと仮定して平均寿命を試算すると81.77885歳となり,2015年滋賀県男性で試算される平均寿命81.77882歳を上回った。また,9歳から14歳における2015年長野県男性の年齢別死亡率が2010年長野県男性の年齢別死亡率と同じだったと仮定すると,平均寿命が81.78154歳となった。10歳から14歳において2015年長野県男性の死亡数は,2010年長野県男性の死亡数に比べて2.4倍に増えており,死因別死亡数がわかっている2014年から2015年を2010年と比較すると,「傷病および死亡の外因」に含まれるもの,含まれないものがともに増えていた。結論 平均寿命は,すべての年齢の死亡状況が反映された一つの数字であり,その値から課題を抽出するためには年齢に着目した分析が不可欠である。今回の分析により,2015年長野県男性の平均寿命が2015年滋賀県男性の平均寿命に準じて全国2位に後退したのは,10代前半の死亡数・率の増加が大きく影響していたものと推測された。
著者
間瀬 知紀 宮脇 千惠美 甲田 勝康 藤田 裕規 沖田 善光 小原 久未子 見正 富美子 中村 晴信
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.371-380, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
30
被引用文献数
2

目的 本研究は,女子学生を対象として,若年女性における正常体重肥満者,いわゆる「隠れ肥満」の体組成に影響を及ぼすと考えられる食行動,運動習慣および身体活動量について検討した。方法 対象は京都府内の大学 6 校に在籍する18~21歳の女子学生530人である。体脂肪率,歩数の測定および無記名自記式の質問紙調査を2010年 1 月~2010年 7 月にかけて実施した。質問紙調査項目は生活環境,体型認識,体型への希望,ダイエット経験,運動習慣,睡眠時間および食行動に関する 7 項目であった。食行動調査は EAT–26(Eating Attitude Test 26:摂食態度調査票)を実施した。BMI が18.5以上25.0未満の「標準体重(n=439)」判定者の中で,体脂肪率が75%タイル以上の者を「High group(n=115)」,体脂肪率が25%タイル以下の者を「Low group(n=111)」,この 2 群以外の者を「Middle group(n=213)」と分類し,3 群について比較検討した。結果 質問紙調査より,グループ間に体型認識,体型への希望,やせたい理由,ダイエット経験の有無,ダイエットの失敗の有無および睡眠時間についての回答の比率に有意な差がみられた。しかしながら,身体活動量はグループ間に差がみられなかった。さらに,EAT–26を用いて食行動を検討すると第 3 因子「Oral control」においては High group は Low group と比較し,有意に高値が認められた。結論 標準体重者で体脂肪率が高い者は,やせ願望やダイエット行動が関連していた。やせ願望の強い学生に対し,適正な体組成の維持と適切な食生活を確立させるための健康教育の必要性が示された。
著者
渡辺 晃紀 早川 貴裕 佐藤 栄治 三宅 貴之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.96-106, 2019-02-15 (Released:2019-02-26)
参考文献数
21

目的 第7次医療計画の策定に向け,栃木県(人口196.8万人)内の入院患者の受療動向を把握する。方法 栃木県内の病床を有する全221医療機関(病院107,診療所114)を対象とし,対象日(2016年9月1日)の全入院患者および対象月(2016年9月)の全退院患者について,調査票またはDPCデータにより,住所(郵便番号),性,年齢,入退院日,診療科,入院前の場所,救急搬送,傷病名(調査票は疾病分類コード,DPCはICD基本分類),手術(診療報酬のKコード),転帰,退院後の行き先を尋ねた。活動内容 回収率は施設単位で68%,病床単位で一般87%,療養74%,精神89%で,入院票13,052件,退院票17,468件の回答を得た。 一般・療養病床では,入院10,407件のうち,年齢別では65歳以上72%(75歳以上51%),診療科別では内科系49%,外科系19%,整形外科系15%,疾病分類別では循環器系21%,新生物17%,呼吸器系10%であり,2次医療圏ごとで,人口10万対入院受療率は385-647,居住する圏内に入院(圏内入院)した割合は58-90%,救急搬送ありは12-18%,救急搬送ありのうち圏内入院の割合は69-95%だった。 退院17,161件のうち,年齢別では65歳以上57%(75歳以上34%,以下同じ),Kコードが記載されていた割合は43%で,多いものは水晶体再建術833件,内視鏡的大腸ポリープ・粘膜切除術398件等であり,転帰では退院後の在宅医療ありは65歳以上で4.3%(5.2%),介護・福祉施設へは65歳以上で5.2%(7.8%),死亡退院は4.9%(9.5%)だった。 精神病床では,入院2,640件のうち65歳以上48%,疾病分類別では統合失調症67%,躁うつ病を含む気分障害9%,退院302件の平均在院日数は359日だった。 調査後,住所,疾病,診療科,手術ごとの医療機関別入退院数等,必要な項目で集計し,結果を表で出力できるマクロを含むMicrosoft Excelファイルを作成し,活用できる環境とした。結論 医療計画策定にあたり,疾病,診療科,手術ごとの患者数や流出入,退院後の行き先や在宅医療導入の割合などの把握は有用であり,DPCデータの活用や調査による継続的な観察が必要と考えられた。
著者
小笹 晃太郎 鷲尾 昌一
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.18-24, 2009 (Released:2014-06-13)
参考文献数
19

インフルエンザ予防接種は,インフルエンザに罹患することによって重篤な合併症を生じやすい高リスク者を守るという考え方に基づいて勧奨されているが,高齢者でのインフルエンザ予防接種の有効性は,無作為化対照試験が少なく観察研究に負うところが多く,観察研究にはその実施上種々の課題がある。まず,評価のアウトカムは,できるだけ診断の特異度が高く,誤分類の小さいものが望ましい。しかし,医療機関で診断されたインフルエンザをアウトカムとすると,特異度は高いが医療機関への受診行動や医療機関での診断過程で,ワクチン接種群と非接種群でのインフルエンザ診断の精度に差異の生じることが考えられる。したがって,このような差異的誤分類を避けるために,特異度が比較的高くなくて非差異的誤分類が生じるアウトカムであっても,接種群と非接種群から同じ精度で把握するほうが,正確な評価の観点から望ましい場合もあると思われる。 高齢者を対象としたインフルエンザ予防接種の有効性を評価する従来の観察研究の結果から,ワクチン接種者は非接種者に比べてインフルエンザ罹患や死亡等のアウトカムを生じにくい低リスク者が多く,そのためにワクチンの有効性が過大評価されているのではないかという疑問が指摘されている。このような偏りや交絡を評価して調整するために,インフルエンザ流行期と非流行期,ワクチン合致度の高いシーズンと低いシーズン,大規模流行シーズンと小規模流行シーズン,および特異度の高いアウトカムと低いアウトカムを使用することで有効性の比較を行うことが求められる。いずれも後の群で有効性が低くなることが期待され,そうでない場合には偏りや交絡が残されている可能性が高いので,それらの偏りや交絡を除去して得られる高リスク因子を見いだす必要がある。その結果として見いだされたインフルエンザによる死亡が生じやすい高リスク者,たとえば,基礎疾患と機能性障害を併せ持つような人たちでの有効性の評価と,その人たちに対する接種を進めていくことが望まれる。
著者
町田 夏雅子 石川 ひろの 岡田 昌史 加藤 美生 奥原 剛 木内 貴弘
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.637-645, 2018-11-15 (Released:2018-12-05)
参考文献数
17

目的 東京五輪開催決定後,国内外で受動喫煙規制強化を求める声が増え厚生労働省が対策強化に取り組んでいる。本研究では受動喫煙規制に関する新聞報道の現状と傾向を内容分析により明らかにし,行政側の報告書との比較から課題を示すことを目的とした。方法 分析対象は全国普及率が上位の3紙(朝日・読売・毎日)の2013年9月7日から2017年3月31日までに発行された東京本社版の朝刊と夕刊で,キーワードとして「受動喫煙・全面禁煙・屋内喫煙・屋内禁煙・建物内禁煙・敷地内禁煙」を見出しか本文に含む記事のうち,投稿記事および受動喫煙規制に関係のない記事を除いた182記事である。規制に対する肯定的記載および否定的記載に分けた全37のコーディング項目を作成した。また行政側が発表した内容を記事が反映しているかを考察するため,平成28年8月に厚生労働省が改訂発表した喫煙の健康影響に関する検討会報告書(たばこ白書)より受動喫煙に関する記載を抜き出し,コーディング項目に組み入れた。結果 コーディングの結果,記事数の内訳はそれぞれ肯定的107,否定的7,両論併記50,その他18であった。両論併記のうち否定意見への反論を含むものが14記事(28%)であり,反論の内容は主に「屋内禁煙による経済的悪影響はない」,「分煙では受動喫煙防止の効果はない」という記載であり,いずれもたばこ白書に明示されている内容であった。結論 受動喫煙規制に関する新聞記事は,規制に肯定的な内容の一面提示が最も多く,最も読み手への説得力が高いとされる否定意見への反論を含む両論併記の記事は少数であったが,社説においては両論併記の記事が一定数認められた。もし新聞が受動喫煙規制に対して賛成なり反対なり何らかの立場を持つのであれば,記者の意見を述べる社説において,反対意見への反論を含む両論併記を行えば,社説の影響力が高まるかもしれない。また,報道が不十分と考えられるトピックも見られ,受動喫煙規制に関する新聞報道の課題が示唆された。
著者
藤原 佳典 西 真理子 渡辺 直紀 李 相侖 井上 かず子 吉田 裕人 佐久間 尚子 呉田 陽一 石井 賢二 内田 勇人 角野 文彦 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 = JAPANESE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.702-714, 2006-09-15
参考文献数
29
被引用文献数
16

<b>目的</b>&emsp;高齢者の高次生活機能である社会的役割と知的能動性を継続的に必要とする知的ボランティア活動&mdash;子供への絵本の読み聞かせ&mdash;による介入研究&ldquo;REPRINTS&rdquo;を開始した。その 1 年間にわたる取り組みから得られた知見と課題を整理し,高齢者による社会活動の有効性と活動継続に向けた方策を明らかにする。<br/><b>方法</b>&emsp;&ldquo;REPRINTS&rdquo;プログラムの基本コンセプトは高齢者による「社会貢献」,「生涯学習」,「グループ活動」である。対象地域は都心部(東京都中央区),住宅地(川崎市多摩区),地方小都市(滋賀県長浜市)を選び,2004年 6 月一般公募による60歳以上ボランティア群67人と対照群74人にベースライン健診を行った。3 か月間(週 1 回 2 時間)のボランティア養成セミナーを修了後,6~10人単位のグループに分かれ地域の公立小学校,幼稚園,児童館への定期的な訪問・交流活動(主な内容は絵本の読み聞かせ)を開始し,2005年 3 月に第二回健康診査を行った。<br/><b>結果</b>&emsp;ベースライン健診において,孫のいない者の割合(41.8% vs. 20.3%,<i>P</i>=0.006),就学年数(13.4&plusmn;2.5 vs. 12.3&plusmn;2.5年,<i>P</i>=0.008),過去のボランティア経験あり(79.1% vs. 52.7%, <i>P</i>=0.001),通常歩行速度(86.7&plusmn;12.3 vs. 81.3&plusmn;12.9 m/分,<i>P</i>=0.012)で,ボランティア群は対照群に比べそれぞれ有意に高かったが,他の諸変数では両群に有意差はなかった。第二回健診時点での活動継続者56人は社会的ネットワーク得点で,孫,近隣以外の子供との交流頻度および近隣以外の友人・知人の数が対照群に比べて有意に増加した。社会的サポート得点でボランティア群は対照群に比べて友人・近隣の人からの受領サポート得点は有意に減少したが,提供サポート得点は有意に増加した。ボランティア群は対照群に比べて「地域への愛着と誇り」,健康度自己評価,および握力において有意な改善または低下の抑制がみられた。<br/><b>結論</b>&emsp;9 か月間の世代間交流を通した知的ボランティア活動により健常高齢者の主観的健康感や社会的サポート・ネットワークが増進し,地域共生意識および体力の一部に効果がみられた。自治体との協働により,新たな地域高齢者のヘルスプロモーションプログラムを構築しうることが示唆された。
著者
豊田 泰弘 中山 厚子 藤原 秀一 真 和弘 松尾 吉郎 田中 博之 高鳥毛 敏雄 磯 博康
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.247-253, 2008 (Released:2014-07-01)
参考文献数
25

目的 地域の救急活動記録を元に自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)の特徴を分析し,今後の自殺対策に資することを目的とした。方法 2004年 4 月から2006年 3 月までの岸和田市消防本部の救急活動記録より,246例(延べ人数)・196人(実人数)の自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)を把握した。これらにつき,性,年齢,調査期間内の自殺企図回数,企図手段,月,曜日,救急覚知時刻(救急隊に連絡のあった時刻)について集計解析した。結果 196人の自殺企図者のうち,自殺死亡者は52人(男性32人,女性20人),自殺未遂者は144人(男性32人,女性112人)であり,2 回以上にわたって自殺企図を繰り返した実人数は29人(男性 3 人,女性26人)であった。 男性の自殺死亡者は40歳代から70歳代の中高年に多く,女性の自殺死亡者は40歳代に多かった。男性の自殺未遂者には30歳代になだらかなピークがあり,女性の自殺未遂者は20歳代から40歳代の比較的若年者に急峻なピークがあった。 自殺死亡者の主たる手段は男性では縊頸,ガス,女性では縊頸,飛び降り・飛び込みであった。自殺未遂者の主たる手段は男女ともに服薬,四肢切創であった。 月については,男性の自殺死亡者は 4 月から 6 月に多く,女性の自殺死亡者は11月に多かった。男性の自殺未遂者は 7 月,8 月,9 月に多く,女性の自殺未遂者は 1 月,8 月,9 月に多かった。 曜日については,男性の自殺死亡者は月曜,水曜が多く,女性の自殺死亡者は日曜が多かった。男性の自殺未遂者は金曜が多く,女性の自殺未遂者は月曜と火曜に著明なピークがあった。 覚知時刻については,自殺死亡者は男女とも夕方から夜半に少なく,未明から日中に多かった。男性の自殺未遂者は午前日中と夕方に多かった。女性の自殺未遂者は午前日中にきわだって少なかった。結論 救急車が出動する自殺企図者の大部分は女性の自殺未遂者であった。女性の自殺未遂者は男性に比べて若年者に多く,自殺企図を頻回に繰り返すという特徴があり,これらを考慮した対策がのぞまれる。
著者
中原 由美 柳 尚夫 相田 一郎 城所 敏英 本保 善樹 中本 稔 中里 栄介
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.8, pp.409-415, 2016

<p><b>目的</b> 平成26年4月に改正精神保健福祉法が施行された。全国保健所長会においては,さまざまな方法で,保健所に対し,改正法への取り組みを促してきた。</p><p> 26年度地域保健総合推進事業全国保健所長会協力事業においては,保健所の取り組みの普及を目的としたガイドラインを作成するために,改正法施行後の保健所の取り組み状況や課題について実態把握を行った。</p><p><b>方法</b> 対象は全国の490保健所で,平成26年10月~12月に,26年度地域保健総合推進事業全国保健所長会協力事業として,全国保健所長会一斉電子メールを使って調査を実施した。調査内容は,管内に精神科病院がある保健所については,全国保健所長会が提案した保健所が取り組む具体的項目を踏まえ,退院支援委員会の参加状況や精神科病院実地指導の状況,また保健所に提出されている入退院届や入院診療計画書等を活用して,管内精神科病院の新規医療保護入院患者の状況や退院支援委員会の開催状況等についてとした。管内に精神科病院のない保健所については,退院支援委員会への参加状況等についてとした。</p><p><b>結果</b> 回答保健所数は281か所(回答率57.3%)であった。管内に精神科病院がある253保健所では,退院支援委員会の開催状況を全く把握していない保健所が38.7%あった。退院支援委員会へは,開催状況を把握している131保健所の71.0%が参加していなかった。保健所等の退院支援委員会への参加について,病院への働きかけは,63.6%が行っていなかった。</p><p> 253保健所から回答を得た855の精神科病院については,26年4月から9月末までの新規医療保護入院患者の推定入院期間で1年以上と記載があったものが1.6%あった。そのうち認知症患者でみた場合,1年以上が2.6%あった。26年4月から9月末までの新規医療保護入院患者における9月末までに医療保護入院を退院となった患者の処遇については,自宅が42.1%,その病院での入院継続が21.7%であった。</p><p> 管内に精神科病院のない28保健所では,退院支援委員会へは82.1%が参加していなかった。保健所等の退院支援委員会への参加について,病院への働きかけは,64.3%が行っていなかった。</p><p><b>結論</b> 改正法における保健所の役割として,入退院届等を活用した管内精神科病院の現状把握,退院支援委員会への参加,実地指導への積極的な関与,推定入院期間「原則1年未満」の徹底,入院継続患者の情報把握および地域移行の推進に向けた保健所の関与が必要であると考えられた。</p>
著者
土井 陸雄 伊藤 亮 山崎 浩 森嶋 康之
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1066-1078, 2003 (Released:2014-12-10)
参考文献数
78
被引用文献数
1

目的 わが国における単包虫症(単包性エキノコックス症)患者発生の歴史を検討し,その発生要因,予防対策,臨床的対策を検討する。方法 既刊の関係論文・抄録,医学中央雑誌,病理剖検輯報,感染症発生動向調査週報,と畜関連法規,日本帝国統計年鑑,食肉文化・皮革およびと畜場の歴史に関する資料を原資料として,単包虫症患者の発生動向を把握し,畜産,と畜関連法規およびと畜場管理の実態との関係を考察した。結果 わが国における単包虫症患者発生76例を確認した。患者発生は屠場法施行を境として大きく 2 時期に分かれ,屠場法以前には九州,四国,中国地方を中心に単包条虫の感染環が存在していたこと,またそれが軍備増強のための畜産奨励や日清・日露戦争を始めとする中国大陸との人的物的交流と深く関係していたこと,次に屠場法施行後,と畜場衛生管理の整備と不衛生な小規模と畜場の整理統合が行われ,日本国内における患者発生が激減したことなどが示唆された。ただし,この時期に中間宿主(牛およびヒト)からは単包虫症が発見されているが,終宿主(犬)から単包条虫を検出した報告がないため,屠場法施行が単包虫症患者発生減少の原因となったことを示す科学的実証はない。戦後も一時的に国内感染と思われる少数の単包虫症患者発生はあるが,近年は患者の大部分が海外の単包虫症流行域に滞在したことのある日本人および外国人である。結論 単包条虫の感染環を駆逐し,ヒト患者発生を予防するには,と畜場の衛生管理がとくに重要である。近年の海外流行国からの来日外国人の発症に対しては,検査機関の整備と医療情報の周知が重要である。また,海外の流行国から無検疫で輸入されている畜犬に対してエキノコックス検疫体制の整備が急務である。
著者
山田 知佳 小林 恵子 関 奈緒
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.12, pp.718-726, 2017 (Released:2018-01-05)
参考文献数
21

目的 問題飲酒の早期発見と適切な介入のための示唆を得るために,交代勤務労働者の飲酒行動の特徴と問題飲酒に関連する要因を明らかにする。方法 A工場の全従業員を対象に無記名自記式質問紙調査を実施した。交代勤務労働者が全員男性であったため,性差を考慮し,日勤者から女性を除外し,230人を分析対象とした。調査内容は問題飲酒の有無,飲酒行動,問題飲酒の関連項目等とし,交代勤務と問題飲酒,交代勤務および問題飲酒と各飲酒行動等の関連について分析を行った。また「問題飲酒の有無」を従属変数とし,単変量解析でP<0.20の変数を独立変数として,年齢を強制投入した上で,変数減少法による二項ロジスティック回帰分析を行った。結果 交代勤務労働者の飲酒行動の特徴として,「自宅」での飲酒が日勤者に比べ有意に多かった(P=0.037)。交代勤務労働者の飲酒理由は日勤者に比べ「よく眠れるように」(P=0.006)が有意に多く,入眠のために飲酒することがある交代勤務労働者が,日勤者に比べ有意に多かった(P<0.001)。 「入眠のための飲酒あり」(OR 6.38, 95%CI:2.11-19.29, P=0.001),「(職業性ストレスの)身体的負担が高いこと」(OR 2.24, 95%CI:1.11-4.51, P=0.024)は問題飲酒のリスク増加と有意に関連が認められ,「家族・友人からのサポートが高いこと」は問題飲酒のリスク減少と有意な関連が認められた(OR 0.75, 95%CI:0.58-0.97, P=0.030)。結論 男性交代勤務労働者の飲酒行動の特徴と問題飲酒の関連要因について検討した結果,日勤者に比べ「自宅での飲酒」,「入眠のための飲酒」が有意に多いことが特徴であった。 男性交代勤務労働者の問題飲酒のリスク増加には,「入眠のための飲酒あり」,「身体的負担が高い」ことが関連し,「家族・友人からのサポート」は問題飲酒のリスク減少に関連していたことから,夜間の勤務終了後の入眠困難感を把握し,飲酒以外の対処行動を支援するとともに,友人や家族からのサポートの重要性について啓発が必要である。
著者
今村 晴彦 村上 義孝 岡村 智教 西脇 祐司
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.25-35, 2017 (Released:2017-02-21)
参考文献数
27

目的 地域住民を対象とした,健康づくりに関わる地区組織活動の経験の有無が,その後の医療費に影響を及ぼすかを明らかにするため,長野県須坂市(2016年3月の人口は51,637人)の保健補導員活動(1958年に発足し,2年任期で毎期300人近い女性が担当する地区組織活動)を対象に,その経験の有無と国民健康保険医療費(以下,医療費)との関連を検討した。方法 須坂市において,2014年2月に,要介護度3以下の65歳以上の全住民を対象とした質問票調査を実施し,匿名化IDを用いて回答データと各種行政データを突合した。質問票には,保健補導員経験の有無に加え,経験年代,役職経験の有無,活動満足度に関する質問を含めた。本研究の解析対象者は,上記の女性回答者5,958人のなかの国民健康保険被保険者(74歳以下)2,304人とし,2013年度の1年間の入院および外来医療費を使用,検討した。分析として医療費発生の有無をアウトカムとした修正ポアソン回帰分析を実施した。また医療費発生者を対象とし,対数変換した医療費をアウトカムとした重回帰分析もあわせて実施した。分析の調整変数は年齢,婚姻状況,教育歴,同居人数,等価所得,飲酒習慣,喫煙習慣,健康的な食生活の心がけ,歩行習慣とした。結果 解析対象者2,304人のうち,保健補導員を経験した者は1,274人(55.3%)であった。解析の結果,外来医療費ありの割合は,保健補導員経験者が未経験者と比較して1.04倍(多変量調整済みリスク比(95%信頼区間;1.02-1.07))と高い一方で,入院医療費ありの割合は,0.74倍(同;0.56-0.98)と低かった。また医療費ありを対象者とした重回帰分析の結果,外来と入院それぞれについて,保健補導員経験と医療費に負の関連がみられた。調整済み幾何平均医療費は,外来では経験ありで14.1万円,なしで15.1万円と経験者の方が7%低く,入院においても経験ありで41.8万円,なしでは54.0万円と経験者の方が23%低かった。以上の関連は経験年代が60歳以上,役職経験者,活動の満足度が高い者で,概して強くなる傾向がみられた。結論 保健補導員経験者は未経験者と比較して,外来医療費の発生者割合が高い一方で,入院医療費は発生者割合および発生した医療費ともに低い結果が示された。このことは,保健補導員としての経験が,特に入院医療費と関連している可能性を示唆しており,地区組織活動の健康への波及効果がうかがえた。
著者
本田 浩子 斉藤 恵美子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.252-259, 2016

目的 発達障害は症状や障害の範囲が広く,外見から障害があることがわかりにくいことも多い。また,乳幼児期から青年期・成人期に進むと発達障害の特性に二次障害による生活障害が加わることも多く,家族の負担が増加することが予測される。そこで,本研究では成人の発達障害者の親を対象として親の負担感に関連する要因を明らかにし,家族への支援について検討することを目的とした。<br/>方法 首都圏で活動している発達障害者の親の会,精神保健福祉センター,発達障害者支援センターを利用している発達障害者(18歳以上)の親125人を調査対象とした。調査期間は2011年10~11月として,無記名自記式質問紙による郵送調査を行った。調査項目は,対象者の基本属性,負担感として日本語版 Zarit 介護負担尺度短縮版(以下,J-ZBI_8),子どもの状況(性別・年齢・診断名・診断年齢・日常生活の状況・二次障害の有無等),家族内外のサポート状況として情緒的サポート(配偶者,配偶者以外の同居家族等),相談者の有無等とした。<br/>結果 有効回答64票を分析対象とした。女性54人(84.4%),50歳以上89.1%,家族人数の平均3.5人(標準偏差1.1,以下 SD),子どもの平均年齢28.9歳(SD 6.6)であった。子どもの診断は,自閉症32人(50.0%),アスペルガー症候群16人(25.0%),広汎性発達障害(自閉症・アスペルガー症候群以外)13人(20.3%)であり,J-ZBI_8 の平均値は12.8(SD 7.2)であった。負担感を目的変数とし,2 変量の単回帰分析で統計的に有意差のあった家族人数,二次障害の有無,日常生活の状況,情緒的サポート(配偶者)を説明変数,対象者の年齢および診断名を調整変数とした重回帰分析を行った。その結果,二次障害がありの方が(P=0.001),また,日常生活の状況として援助が必要であるほど(P=0.041),負担感が高かった。<br/>考察 本研究は,自閉症を中心とした限定した発達障害者の親を対象としており解釈に限界はあるが,親の負担感は,統合失調症や高次脳機能障害などの精神障害者等を介護している家族の負担感とほぼ同様の結果であった。子どもに二次障害があり,また,日常生活の状況として援助が必要であるほど,親の負担感と関連があった。今回の結果から,親の負担感を軽減するために,二次障害への支援と日常生活の状況に応じた援助が重要であることが示唆された。