著者
白井 みち代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.66, no.2, pp.88-95, 2019-02-15 (Released:2019-02-26)
参考文献数
29

目的 高齢者の健康は,精神的健康を含め健康を多面的に捉えることが重要であり,今後の介護予防は,老化をポジティブに捉え健康促進していく必要がある。本研究は,要介護リスクとポジティブ思考の関連を明確にするため,地域在住の75歳高齢者における生活機能評価により判定された要介護リスク者と健常者のポジティブ思考を評価することを目的とした。方法 A市の平成27年度(2016)に75歳となった高齢者593人を対象者とし,自記式質問紙調査による郵送調査を行った。前期調査はA市の実態把握調査で,有効回答者数は141人,後期調査の有効回答者数は178人であった。ゆえに,分析対象者は319人とした。分析方法は,基本チェックリストにより,「要介護リスク群」と「健常群」に分け,ポジティブ思考と要介護リスクの関連についてポジティブ思考の構成要素得点を比較検討した。検討では,2群間の連続量の比較に,正規分布とみなされる尺度についてはt検定,偏りのある尺度はMann-WhitneyのU検定を用い,離散量の比較にはχ2検定を用いて行った。要介護リスク判定におけるポジティブ思考の各要素の程度を評価するため,判別分析を実施した。いずれも有意水準は5%未満とした。結果 健常群と要介護リスク群の比較で有意差のあったポジティブ思考の構成要素は,生活満足度K,改訂PGCモラールスケール,ソーシャルネットワーク・スケール,社会参加,自己ネガティブ信念,状態自尊感情であった。判別分析の結果,要介護リスク判別に寄与していた主な変数は自己ネガティブ信念(標準判別係数−0.550),生活満足度K(標準判別係数0.346),自己保存(標準判別係数−0.333)であった。また,他者ネガティブ信念を除くすべてのポジティブ思考の構成要素は,「うつ傾向」と相関していた。結論 要介護リスク者は自己をネガティブにとらえている傾向があり,社会関係が希薄で生活満足度やモラール,自尊感情が低い傾向を示した。とくに,「自己ネガティブ信念」,「生活満足度」は重要な要素であることが示唆された。今後は,ポジティブ思考の構成要素を再考し,要介護リスクとの関連を明確にしていく必要がある。
著者
坂口 早苗 坂口 武洋
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 = JAPANESE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.477-485, 2005-06-15
参考文献数
17

<b>目的</b>&emsp;本研究は,大学生を対象に,喫煙行動,未成年者を取り巻く喫煙に関する社会環境,喫煙健康被害についての知識などに関する調査を実施し,大学生の喫煙行動に関連する要因を喫煙行動別および性別に探ることを目的とした。<br/><b>調査方法</b>&emsp;2002年の 4 月および 9 月に,関東地方にある 5 大学の公衆衛生学関係の講義に出席した学生を対象に行った。調査対象数は1,052人で,男性341人(32.4%),女性708人(67.3%),未記入 3 人(0.3%)であった。有効回答率は98.6%であり,1,037人の結果について報告した。<br/><b>結果</b>&emsp;20歳未満の男性の喫煙率は24.7%,女性では11.9%であり,20歳以上の男性の喫煙率は40.7%,女性では19.4%であった。<br/>&emsp;日本は未成年者を取り巻く喫煙に関する社会環境が悪いと考えている男性学生は90.0%,女性学生は96.6%であり,女性の方が高かった。中でも,未成年の喫煙に「タバコ自動販売機の設置」が原因であると指摘した学生は約90%であった。<br/>&emsp;未成年者の喫煙は成年より健康障害が大きいと考えている者は,男性より女性の方が多く,喫煙者よりも非喫煙者の方が多かった。<br/>&emsp;健康日本21のタバコについての目標値のひとつである「未成年者の喫煙率を2010年までに 0%とする」に関する知識を有する者の割合は,3.5%と非常に少なかった。<br/>&emsp;テレビの喫煙シーンが未成年の喫煙に影響を与えると考える学生は,喫煙者より非喫煙者の方が多かった。テレビの喫煙シーンへの関心については,喫煙者では「それ程多くない」,非喫煙者では「今後減らすべき」を選択する学生が多かった。<br/><b>結論</b>&emsp;タバコの有害性については,中学や高校で学習しており,一般的知識は有しているが,「未成年者喫煙禁止法」の意味する未成年の喫煙が成人より健康への被害を大きくすることや,健康被害の詳細な内容についてまで熟知している学生は多いとはいえなかった。とくに,喫煙者は非喫煙者より,未成年者への喫煙の健康被害を過小評価していた。<br/>&emsp;また,喫煙者は,テレビの喫煙シーンが未成年の喫煙に影響を与えることは少なく,喫煙シーンもそれ程多くないと考えている者が多い傾向が認められた。
著者
野原 真理 宮城 重二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.849-862, 2009

<b>目的</b>&emsp;本研究では,妊産婦に対する親族サポートの実態を確認し,妊産婦の QOL と親族サポートとの関連性を明らかにする。<br/><b>方法</b>&emsp;都心にある病院産科の母親学級に参加した妊婦362人を対象に自己記入式質問紙を配布し,妊娠後期・生後 1 か月・生後 6 か月(以下妊娠育児 3 時期)に郵送法にて調査した。有効回答を得た151人を解析した。調査内容は,属性,親族サポート,育児,健康状態,QOL である。QOL に関してはオリジナルスケールを使用した。分析方法としては,特に QOL 等の要因分析については,パスモデルによる重回帰分析を行った。<br/><b>結果</b>&emsp;1) 夫のサポートは妊娠育児 3 時期を通して徐々に高まり,親のサポートは生後 1 か月で最も高かった。しかも,親族サポートが夫や親の協働の中で進められていた。<br/>&emsp;2) 親族サポートを 4 類型化し,タイプI(夫・親とも高得点群)の割合は妊娠後期より出産後に増え,逆に,タイプIV(夫・親とも低得点群)は減る。しかも,タイプIではタイプIVに比べて,妊娠育児 3 時期において,育児要因,健康状態,QOL の平均得点が高かった。<br/>&emsp;3) QOL のオリジナルスケールは因子分析をした結果,第 1 因子(心理ポジティブ因子),第 2 因子(物的生活因子),第 3 因子(日常生活因子)が抽出・命名された。<br/>&emsp;4) QOL の 3 因子に対する要因分析の結果,心理ポジティブ因子では,妊娠育児 3 時期を通して,夫サポートが,物的生活因子では,妊娠後期,生後一か月で夫サポートが,日常生活因子では,生後 6 か月に夫サポートが強い影響要因となる。<br/><b>結論</b>&emsp;妊産婦への親族サポートの存在とその意義が実証され,しかも,親族サポートと妊産婦の QOL との関わりが確認された。良好な親族サポートが維持されれば,妊産婦の育児,健康状態,QOL も良好であることが示された。
著者
劔 陽子 池田 洋一郎 稲田 知久 緒方 敬子 木脇 弘二 小宮 智 長野 俊郎 服部 希世子 林田 由美 渕上 史
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.755-768, 2018-12-15 (Released:2018-12-27)
参考文献数
7

目的 2016年4月に発生した熊本地震における熊本県内各保健所の災害対応を振り返り,今後の災害時における保健所・保健医療行政の役割・あり方について考察する。方法 2016年8~9月にかけて,県内各保健所長が発災後超急性期~亜急性期における自分が勤務する保健所の対応について,また県保健所長会長が同時期における所長会としての活動について,記述的にまとめた。これらを「所長会の活動」,「被害が大きかった地域を管轄する保健所の活動」,「被害が比較的小さかった地域を管轄する保健所の活動」に分けてまとめ,KJ法により課題や反省点を抽出した。活動内容 所長会は県の医療救護対策本部における「コーディネーター連絡会議」に参画し,全県的な対応が必要な事項について調整する等の活動を行った。被害が大きかった地域を管轄する保健所は,支援者・団体の調整,市町村支援として避難所の衛生管理や感染症対応支援等の活動を行った。保健所内の指揮命令系統がうまく動かなかった,市町村や外部支援団体に保健所の機能が知られていなかった,県本部との意思疎通が困難であった,などが課題として挙げられた。被害が比較的小さかった地域を管轄する保健所は,職員の安否や管内の被害状況を確認後,待機体制をとった。その後,県本部からの指示により職種別に職員を被災地域の保健所に応援派遣し,また二次避難者を管内に受け入れた。保健所「チーム」としての応援派遣はなかった。長期間の待機による職員の疲弊,ニーズと実際の応援のミスマッチ,被害が小さかった地域にも開設された避難所への対応が保健所により異なっていたこと等が課題として挙げられた。結論 次の災害に備え,災害時の保健医療部局における一本化した指揮命令系統の確立,管理職のマネジメント能力の強化,市町村や関係団体との平時よりの連携強化,災害時保健所活動についてのマニュアルの整備,被災地域を管轄する保健所への人員補強計画の作成等に取り組む必要がある。
著者
田中 泉澄 北村 明彦 清野 諭 西 真理子 遠峰 結衣 谷口 優 横山 友里 成田 美紀 新開 省二
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.744-754, 2018-12-15 (Released:2018-12-27)
参考文献数
20

目的 大都市部在住の高齢者における孤食の実態についてその頻度を含めて明らかにするとともに,孤食と食品摂取の多様性との関連を示す。方法 2016年6月に,東京都大田区に在住する65歳以上の男女を対象とし,15,500人に自記式調査票を郵送した。回答を得た11,925人(回収率76.9%)のうち,データ欠損を含まない8,812人(有効回答率56.9%)を分析対象とした。毎食一人で食事をとる1週間当たりの日数を孤食頻度として0,1~3,4~6,7日群に分類した。食品摂取多様性得点(DVS)は,10の食品群それぞれの1週間あたりの摂取頻度から算出し,3点以下の場合をDVS低値と定義した。統計解析は,DVSまたは各食品群について「ほぼ毎日食べる」の有無を従属変数,孤食頻度を独立変数,年齢,居住地域,BMI,教育歴,等価所得,就業,独居,既往歴,飲酒,喫煙を調整変数とした二項ロジスティック回帰分析を行った。結果 男性の47.1%,女性の48.5%が週1日以上の孤食であり,さらに男性の14.9%,女性の16.9%が週7日(毎日)孤食であると回答した。孤食頻度0日群と比較して,男性ではすべての頻度の孤食群でDVS低値に対するオッズ比が1.51~2.00と有意に高値を示した。女性では,孤食頻度7日群でのDVS低値のオッズ比は1.15(95%信頼区間0.92-1.43)と有意差はみられなかった。男女とも孤食習慣のある群では,非孤食群と比較して緑黄色野菜類,果物類,油を使った料理を「ほぼ毎日食べる」オッズ比が有意に低値を示した。結論 大都市部の高齢者では,男女ともに半数近くに孤食習慣があることが明らかとなった。孤食群は非孤食群と比較して年齢や等価所得,同居家族の有無とは独立して食品摂取の多様性が低い傾向を示した。本成績は,孤食習慣のある大都市部高齢者の低栄養対策に資する有用な知見となると考えられる。
著者
秋本 美加 斉藤 功 﨑山 貴代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.12, pp.769-776, 2018-12-15 (Released:2018-12-27)
参考文献数
19

目的 産後の母親の疲労は,身体的・精神的健康と関連があり育児困難感にも影響する。よって効果的な産後のケア実践において,母親の産後の疲労の状態を知ることは重要である。そこで本研究は,産後1か月までの母親の疲労感の変化および影響する要因を明らかにすることを目的とした。方法 A 市内の調査施設BおよびCで出産した20歳以上の母親154人を対象とし,出産後の産院入院中と1か月健診時に無記名自記式アンケート調査を行った。調査内容は,産後に受けたサポートの内容,睡眠・食事の状況,身体的ストレス状態,精神的ストレス状態,睡眠が不足した状態,育児困難感で構成される山﨑らの産後の疲労感尺度とした。この尺度は合計点が高いほど産後の疲労感が強いことを意味しており,本研究では1か月健診時と産院入院中のスコアの差を従属変数として重回帰分析を行った。有意水準は0.05とした。結果 産後の疲労感尺度の全体得点は産院入院中76.1点,1か月健診時69.7点と有意に低下した(P<0.001)。下位尺度では身体的ストレス状態と育児困難感で有意に得点が低下した(P<0.001)。産後の疲労感尺度全体およびすべての下位尺度得点には,産院入院中と1か月健診時の2時点で正の相関が認められた(P<0.001)。2時点の産後の疲労感尺度のスコアの差を従属変数とした重回帰分析により,産後の疲労感尺度全体と下位尺度の身体的ストレス状態,育児困難感において,正常からの逸脱による児の入院が抽出された。その他,産後の疲労感尺度の下位尺度において,身体的ストレス状態ではバランスのよい食事,精神的ストレス状態では出産年齢,睡眠が不足した状態では母子同室,出産前に自分の母親と同居に有意な関連があった。結論 産後の疲労感尺度全体の得点は,産院入院中と1か月健診時で比較すると有意に低下した。産後の疲労感尺度全体に対して産後1か月までの正常からの逸脱による児の入院は産後の母親の疲労感を増加させる要因であった。下位尺度では,正常からの逸脱による児の入院の他,バランスの良い食事,高齢出産,出産前に自分の母親と同居の有無,産院入院中の母子同室が影響した。産後の母親の疲労感を予測し,分娩後早期から継続して疲労回復に向けた専門的なケアを実施する必要がある。
著者
川崎 千恵
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.602-614, 2018-10-15 (Released:2018-10-31)
参考文献数
26

目的 本研究は,乳幼児を育てる母親を対象とした地域活動の機能とその実態,機能の構造を明らかにするとともに,機能に関連する母親の先行要因,地域活動の形態を明らかにすることを目的とした。方法 先行研究から得られた概念枠組みに基づき,地域活動の機能を測定する5つの下位尺度から成る45項目,母親の先行要因,地域活動の形態等から成る調査票を作成し,首都圏近郊の地域活動に参加している母親に1,100人に配布した。各下位尺度の構成概念妥当性と信頼性について,確認的因子分析と信頼性係数により検討した。地域活動の機能を測定する5つの下位尺度の構造について,共分散構造分析により検討した。地域活動の機能に関連する母親の先行要因,地域活動の形態については,相関係数および重回帰分析の結果により検討した。結果 回答を得た405人(回収率36.8%)のうち379人を分析対象とした(有効回答率93.5%)。地域活動の機能を測定する「母親に効果をもたらす地域活動機能評価尺度」の確認的因子分析の結果,5つの各下位尺度(39項目)のモデル適合度と信頼性係数が高く,内的整合性が確保されていた。共分散構造分析の結果,下位尺度の構造が明らかになった(CFI=0.858, RMSEA=0.060)。重回帰分析の結果,地域活動の5つの機能に関連する母親の先行要因や地域活動の形態が明らかになった。結論 「母親に効果をもたらす地域活動機能評価尺度」(CAFES)で測定する,地域活動の5つの機能は,他の機能と関連しながら働くことが示唆された。地域活動の機能に関連する先行要因や活動の形態が確認され,とくに参加回数が「10回以上」であること,活動の形態では「運営に母親が携わる」「半日開催」であることが,機能を促進する可能性が示唆された。CAFESを一般化して使用するためには,集団特性に多様性を持たせ,精錬することが今後の課題である。
著者
原田 小夜 種本 香
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.10, pp.575-588, 2018-10-15 (Released:2018-10-31)
参考文献数
29

目的 地域ケア会議は地域包括ケアの推進に重要な役割を担っている。本研究目的は,地域包括支援センター(地域包括)職員の地域ケア会議の企画運営の課題と運営における工夫を明らかにし,保険者の効果的な地域ケア会議の企画運営を推進することである。方法 地域ケア会議を運営している職員30人(1グループ5~9人),委託地域包括職員3グループと保険者職員1グループに「地域ケア会議の進め方,困ったことや課題に思ったこと,効果のあったこと」をテーマにグループインタビューを実施し,質的帰納的に分析した。グループごとに,逐語録を作成し,コード化し,サブカテゴリを抽出した。その後,4グループのサブカテゴリを比較,内容の共通性から,中位カテゴリを抽出し,その共通性からカテゴリを抽出し,カテゴリを比較し,その共通性からコアカテゴリを抽出した。サブカテゴリを比較して中位カテゴリに統合する段階で,すべてのグループで共通するものか,グループにより異なるものかを比較した。 結果 4グループインタビューの結果,454コード,91サブカテゴリ,29中位カテゴリ,11カテゴリ,4コアカテゴリを抽出した。地域ケア会議の企画運営における課題は,【地域ケア会議の位置づけ・目標設定に対する迷い】,【会議運営のスキル不足に伴う負担感】,【地域包括の介護支援専門員(以下,CM)や住民を巻き込んだ地域づくりへの足踏み】の相互に関連する3コアカテゴリを抽出した。課題を解決するための工夫として,【効果的な会議にするための工夫によって得られた効果の実感】の1コアカテゴリを抽出した。【効果的な会議にするための工夫によって得られた効果の実感】は,地域ケア会議の構造化と経験の蓄積によるスキル強化とCMの地域ケア推進力の育成,地域ケア会議を住民と一緒に活動するきっかけと捉えるという地域包括職員の地域ケア会議に関する認識の変化であった。結論 地域ケア会議の効果的な企画運営には,保険者の地域ケア会議の目的の明確化と体系化,地域包括職員のファシリテート能力の向上が必要であり,また,保険者による委託包括への支援,CM研修とともに,保険者の地域ケア会議結果と関連するデータの収集,分析から政策化に向けた保険者機能の強化が必要である。
著者
佐藤 厚子 北宮 千秋 李 相潤 畠山 愛子 八重樫 裕幸 面澤 和子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.318-326, 2008 (Released:2014-07-01)
参考文献数
27
被引用文献数
1

目的 育児不安を「育児ノイローゼ,育児不安,育児ストレス,育児疲労,育児葛藤などを諸要因とした Child Rearing Burnout」として捉えた。4 か月健康診査時での訪問群(訪問指導を受けた母親)と非訪問群(訪問指導を受けなかった母親)の育児不安の実態を調査し,育児不安得点を比較することを目的とした。方法 対象者は H 市保健センターの 4 か月健康診査に来所した母親169人であり,自記式質問紙による調査を行った。調査用紙は受付けで配布し,健康診査終了後にその場で回収した。配布部数は196部であった。調査用紙配布の際に本研究の目的,意義他,研究によって得られた個人情報は研究以外の目的には使用されないこと,研究者以外の者がデータを用いることはないこと,アンケートの回答は任意であることを明確に記した文書を示し,口頭で説明した。同意が得られたものを対象者とした。結果 有効回答率は86.2%であり,訪問群は92人(54.4%)であった。アンケート結果を因子分析し,育児不安因子として 5 因子22項目を抽出した。各因子を次のように命名した。第 1 因子:「気分変化の因子」(気分変化)(7 項目)第 2 因子:「身体的疲労の因子」(身体疲労)(5 項目)第 3 因子:「家族関係の因子」(家族関係)(4 項目)第 4 因子:「子育てに関する不安・心配の因子」(子育て)(3 項目)第 5 因子:「人付き合いの因子」(人付き合い)(3 項目)。訪問群・非訪問群とも「育児の協力は夫であるか」の質問に「いいえ」と回答した対象者に「子育てに失敗するのではないかと思うことがある」,「この子がうまく育つかどうか不安になることがある」,「子供のことでどうしたらよいかわからないときがある」と答えたものが有意に多かった。育児不安項目と関連していた対象者の特性は,初産婦,拡大家族,無職,30才代以降の出産であった。訪問群と非訪問群では第 1 因子(気分変化),第 2 因子(身体疲労),第 4 因子(子育て)において有意差があり,訪問群の育児不安得点が高かった。結論 訪問群は非訪問群よりも育児不安得点が有意に高く,訪問指導時に Child Rearing Burnout の内容を把握することで,継続支援が必要な母親を把握できる可能性がある。
著者
服部 真
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.20-31, 2000-01-15
参考文献数
27
被引用文献数
1
著者
志澤 美保 義村 さや香 趙 朔 十一 元三 星野 明子 桂 敏樹
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.411-420, 2018-08-15 (Released:2018-09-14)
参考文献数
27

目的 本研究は,地域在住の幼児の養育者を対象に,子供の食行動の問題への子供側の要因および環境要因の食行動への影響を検討することを目的とした。方法 対象は,A県2市において研究協力の同意が得られた保育所,幼稚園,療育機関に通う4~6歳の子供1,678人の養育者であった。協力機関を通じて養育者に無記名自記式質問紙を配布し,回答は協力機関に設置した回収箱および郵送で回収した。調査項目は,①子供の基本属性,②養育者による食行動評価,③対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale; SRS)日本語出版準備版,④日本感覚インベントリー(Japanese sensory inventory revised; JSI-R)および⑤育児環境指標(Index of Child Care Environment; ICCE)であった。統計学的解析は,χ2検定,Fisherの正確確率検定,相関分析,および重回帰分析を行った。結果 調査は843人から回答を得て(回収率50.4%),有効回答数は583人(有効回答率34.7%)であった。養育者の捉える食行動の問題数は,一人平均2.43±2.26個,男女ともに約4割に偏食が認められ,次に「じっと座っていられない」は約3割に認められた。食行動の問題数と関連要因についての重回帰分析では子供の食行動の問題数と有意な正の関連を示した変数は,個人要因のSRST得点total(β=0.188, P<0.001),JSI-Rの味覚(β=0.319, P<0.001),聴覚(β=0.168, P<0.001),環境要因のICCEの人的かかわり(β=0.096, P=0.010)と社会的サポート(β=0.085, P=0.022)であった。一方,負の関連を示したのは,個人要因のJSI-Rの嗅覚(β=−0.108, P=0.013)ときょうだい(β=−0.100, P=0.005),年齢(β=−0.077, P=0.029),および性別(β=−0.091, P=0.010)であった。結論 本研究において,「偏食がある」,「じっと座っていられない」はこの時期の典型的な食行動の問題と考えられた。食行動の問題の多さには,自閉症的傾向,感覚特性などの個人要因だけでなく,人的かかわり,社会的サポートなどの育児環境要因についても関連が認められた。食事指導には,これらの関連要因を合わせて検討することの重要性が示唆された。
著者
眞崎 直子 橋本 修二 川戸 美由紀 尾島 俊之 竹島 正 松原 みゆき 三徳 和子 尾形 由起子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.164-169, 2018

<p><b>目的</b> 人口動態統計に基づく東日本大震災後の自殺死亡数を観察し,岩手県,宮城県と福島県(以下,3県と記す)の沿岸部の市町村と沿岸部以外の市町村での大震災後の自殺の超過死亡について,検討した。</p><p><b>方法</b> 基礎資料として,統計法第33条による人口動態統計の調査票情報から,2010年1月1日~2013年3月31日の死亡情報を利用した。死亡の定義としては,死亡年月日,死亡者の住所地市町村,性別,死亡時年齢,原死因コード(国際疾病分類第10回修正;ICD-10)とした。それ以外に,2009~2013年度の住民基本台帳人口と2010年の国勢調査人口を利用した。地域と期間別に自殺による死亡数を集計した。死亡者の住所地市町村を用い,3県の市町村およびそれ以外に区分し,沿岸部と沿岸部以外に分類した。期間としては,死亡年月日を用いて,東日本大震災の発生月(2011年3月)の1年前から2年後までの3年間とし,月に区分した。自殺は,ICD-10のX60~X84と定義した。自殺SMRは,地域と期間ごとに,3県以外の全国の同年同月の死亡率を標準死亡率として計算し,その有意性を近似的な検定方法で検定した。人口としては,2009~2012年度の住民基本台帳人口から線型内挿法で算定した。ただし,住民基本台帳人口では,公表資料の最終年齢階級が80歳以上のため,性別に80歳以上人口を2010年の国勢調査人口で80~84歳と85歳以上に比例按分した。</p><p><b>結果</b> 3県の沿岸部と沿岸部以外における東日本大震災前後の自殺SMRを算出した。震災後2年間(2011年3月~2013年2月)を通して,自殺SMRは沿岸部と沿岸部以外ともに増加傾向がなかった。3県において,震災前1年間に対する震災0~1年の自殺SMRの比は0.92,震災1~2年の自殺SMRの比は0.93であり,いずれも有意に低かった。3県の県別に沿岸部と沿岸部以外ごとにみると,震災前1年間に対する震災0~1年と1~2年の自殺SMRは0.73~1.07であり,福島県沿岸部の震災1~2年で0.73,宮城県の沿岸部で震災後1~2年で0.83および全体で0.90,3県全体の沿岸部以外について,震災1~2年で0.80,沿岸部以外で0.90,全体で震災0~1年,1~2年それぞれ0.92,0.93と有意に低く,一方,有意に高いものはなかった。</p><p><b>結論</b> 東日本大震災後の3県の自殺死亡について,震災から2年間には自殺死亡の増加がなかったと示唆された。今後は,中長期的に観察を継続していくことが大切であると考える。</p>
著者
岡辺 有紀 關 明日香 三宅 裕子 熊谷 修
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.347-355, 2018-07-15 (Released:2018-07-31)
参考文献数
30

目的 高齢者において食品摂取の多様性を促進することがたんぱく質栄養の改善に有効なことは確認されている。一方,高次生活機能との関連については複数報告があるが,食品摂取の多様性を向上させる介入施策が高次生活機能の変化に及ぼす影響を長期に渡って検討した例は未だない。本研究の目的は地域在宅高齢者を対象とした食品摂取の多様性を改善するプログラムの継続が高次生活機能の変化に及ぼす影響を評価することにある。方法 対象は東京都北区在住の自立高齢者,男性44人女性112人,計156人である。12食品群の摂取の有無をチェックするシート「しっかり食べチェックシート12」(以下,チェックシート)を用いた食品摂取の多様性を促進する介入活動は,2013年から2015年の2年間行い,その1年後である2016年に継続実施の有無を追跡調査した。高次生活機能の自立度の変化は老研式活動能力指標にて測定した。食品摂取の多様性は食品摂取多様性得点で評価した。チェックシートの継続有無による老研式活動能力指標と食品摂取多様性得点の変化とその差は,反復測定による一般線形モデルで解析した。食品摂取の多様性を改善するプログラム継続の影響における独立性の検証は,3年後の老研式活動能力指標総合得点が10点以下か否かを目的変数とした,多重ロジスティック回帰分析によった。結果 活動開始時の対象者の平均年齢は71.76±5.78歳,老研式活動能力指標総合得点は12.48±0.82点,食品摂取多様性得点は4.10±2.36点であった。2016年にチェックシート継続実施が確認できた者は67人(継続群),中断した者は78人(中断群)であった。食品摂取の多様性得点は両群で有意な増加が認められた。一般線形モデルでの解析の結果,継続群では老研式活動能力指標総合得点の有意な低下はみられなかったのに対し中断群では有意に低下し,両群間の変化が異なる傾向が認められた(P=0.087)。さらに,多重ロジスティック回帰の結果,チェックシートの継続は,老研式活動能力指標総合得点が10点以下になることに対して,抑制的に影響する傾向が確認された。(P=0.064,95%CI=0.04-1.09)。結論 高齢者を対象とした栄養改善のためのチェックシートの継続実施は食品摂取の多様性の改善することに加え高次生活機能の自立度の低下を予防する効果もあるのかもしれない。
著者
岩佐 一 吉田 祐子
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.356-363, 2018-07-15 (Released:2018-07-31)
参考文献数
31

目的 本研究は,日本全国に居住する中高年者を対象とした標本調査を行い,「ビッグファイブ理論」(神経症傾向,外向性,開放性,協調性,勤勉性)に基づく簡易性格検査である「日本語版Ten-Item Personality Inventory」(TIPI-J)の中高年者における粗集計表の作成,標準値の報告,性差・年齢差の検討を行った。方法 日本全国に在住する中高年者(60~84歳)1,200人を無作為抽出して郵送調査を行い,849人から回答を得た(参加割合70.8%)。このうち,TIPI-Jに欠損のない者776人(男性368人,女性408人)を分析の対象とした。TIPI-J(10項目,7件法)のほか,居住形態(独居),教育歴(義務教育),経済状態自己評価,有償労働,健康度自己評価,主観的幸福感(WHO-5-J;5項目,6件法),高次生活機能(老研式活動能力指標;13項目,2件法)生活習慣病(脳卒中,心臓病,糖尿病,がん),総合移動能力,飲酒,喫煙の習慣を測定した。TIPI-Jの,①粗集計表の作成,②標準値(平均値,99%信頼区間,標準偏差)の報告,③性差ならびに年齢差の検討を行った。結果 TIPI-Jにおけるいずれの因子も概ね正規分布に近い形状を示した。神経症傾向では女性の方が男性よりも平均値が大きかった。開放性では男性の方が女性よりも平均値が大きかった。いずれの因子にも年齢差は認められなかった。結論 本研究は,一定程度の代表性が担保されたデータを用いて,TIPI-Jにおける,粗集計表の作成,標準値の報告,性差・年齢差の検討を行った。今後は,健康アウトカムを外的基準としてTIPI-Jの関連要因,予測妥当性の検証を行い,地域疫学調査等での有用性を確認することが課題である。
著者
山﨑 さやか 篠原 亮次 秋山 有佳 市川 香織 尾島 俊之 玉腰 浩司 松浦 賢長 山崎 嘉久 山縣 然太朗
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.7, pp.334-346, 2018-07-15 (Released:2018-07-31)
参考文献数
38

目的 健やか親子21の最終評価における全都道府県の調査データを使用し,母親の育児不安と母親の日常の育児相談相手との関連を明らかにすることを目的とした。方法 対象は,2013年4月から8月の間に乳幼児健診を受診した児の保護者で調査票に回答した75,622人(3~4か月健診:20,729人,1歳6か月健診:27,922人,3歳児健診:26,971人)である。児の年齢で層化し,育児不安(「育児に自信が持てない」と「虐待しているのではないかと思う」の2項目)を目的変数,育児相談相手および育児相談相手の種類数を説明変数,属性等を調整変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施した。結果 育児に自信が持てない母親の割合と,虐待しているのではないかと思う母親の割合は,児の年齢が上がるにつれて増加した。すべての年齢の児の母親に共通して,相談相手の該当割合は「夫」が最も多く,相談相手の種類数は「3」が最も多かった。また,「夫」,「祖母または祖父」を相談相手として選んだ母親は,選ばなかった母親と比べてオッズ比が有意に低かった。一方,「保育士や幼稚園の先生」,「インターネット」を相談相手として選んだ母親は,選ばなかった母親と比べてオッズ比が有意に高かった。育児不安と相談相手の種類数との関連については,すべての年齢の児の母親に共通した有意な関連はみられなかった。一方,児の年齢別にみると,1歳6か月児と3歳児の母親において,相談相手が誰もいないと感じている母親は,相談相手の種類数が「1」の母親と比べてオッズ比が有意に高く,「虐待しているのではないかと思う」の項目では,相談相手の種類数が「1」の母親と比べると,相談相手の種類数が「3」,「4」,「5」の母親はオッズ比が有意に低かった。結論 相談相手の質的要因では,すべての年齢の児の母親に共通して有意な関連がみられた相談相手は,夫または祖父母の存在は育児不安の低さと,保育士や幼稚園教諭,インターネットの存在は育児不安の高さとの有意な関連が示された。相談相手の量的要因(相談相手の種類数)では,幼児期の児を持つ母親においては,相談相手の種類数の多さが育児不安を低減させる可能性が示唆された。