著者
川上 ちひろ 西城 卓也 恒川 幸司 今福 輪太郎 中村 和彦
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.337-346, 2019-08-25 (Released:2020-03-20)
参考文献数
57

障害者差別解消法により, 医療者養成機関においても発達障害およびその特性がある学生への合理的配慮の提供が求められている. 合理的配慮とは, できる権利を保障するための配慮であり, 教育機関には提供の義務がある. 本稿では, 医療者養成機関における発達障害およびその特性がある学生の「入学」, 「在学中」, 「就職」の面から合理的配慮の考え方と, 具体的な支援について概説した. 発達障害およびその特性がある学生の支援においては, 明確な基準の提示, 教職員同士の連携・協働, さらに特性のある学生との関わり方の基本の理解が必要である.
著者
福士 元春 名郷 直樹
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.65-73, 2011-04-25 (Released:2013-03-25)
参考文献数
14
被引用文献数
4 7

われわれは指導医講習会での経験を通じて,指導医が現場でどのような問題に直面しているかについて十分に把握できていなかったことに気づいた.そこで,指導医講習会のニーズ調査の一環として,質的研究を計画した.1)指導医が初期臨床研修プログラムについて困っていることを探索的に調査することで,これまで明確になっていなかった根底にある問題を分析・構造化することを目的とした.2)指導医講習会に参加した医師214名に対して質問紙調査を行い,自由記述で得られた回答を質的分析した.3)「受け入れることから始めたい」を端緒に,臨床研修制度が受け入れられずに批判し,自身の無知には無自覚となっている指導医の現状【批判にすりかえられた無知】が浮き彫りとなった.4)新医師臨床研修制度導入により,組織に帰属して研修するシステムとしての関係構築フレームが機能しなくなり,現場に大きな混乱をもたらしている.
著者
岡崎 史子 中村 真理子 福島 統
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.361-368, 2012-10-25 (Released:2014-01-09)
参考文献数
21

背景:J医科大学医学科3年生に実施している訪問看護同行実習で学生が何を学んでいるのかを明らかにする.方法:平成22年に行った本実習後に提出された実習報告書の記述を質的に分析し,実習の学びについてカテゴリーの抽出を行った.結果:コアカテゴリーとして(1)在宅医療の特徴,(2)患者,(3)家族,(4)訪問看護師,(5)チーム医療,(6)医師・医学生に対する生の声,(7)医師として大事なことが抽出された.(6)ではカテゴリーとして医師への不信感,医学生への期待の存在が抽出された.考察:本実習で医師として大切な様々な学びが得られ,特に医師への不信感,医学生への期待は訪問看護同行実習ならではの学びと思われる.
著者
横尾 英孝
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.453, 2022-10-25 (Released:2023-01-29)

コーチングは, 高いパフォーマンスを発揮するスポーツ選手や, ミュージシャンの養成法を体系化したものとされており, 設定した目標に向かって双方向の対話による対人支援を行うことが特徴である. 「コーチ」という言葉の由来は15世紀のヨーロッパまで遡り, ハンガリーのコチという町で質の高い四輪馬車が生産され各地で重用されたことより, コチという言葉が馬車を意味するようになった. また, 馬車は大事な人や荷物を目的地まで運ぶ役割を担っていることから, この対人支援技術がコーチングと呼ばれるようになったといわれている. その後コーチングは, 欧米のビジネス界で広く採用され, わが国においても1990年代後半から普及が始まった. 医療の世界では2000年頃よりコーチングに関する文献が増加し, 現在では医療コミュニケーションや病院経営, そして医学教育にもコーチングが用いられるようになった. 今回の連載では, プロフェッショナリズム教育にコーチングを導入した事例を個人に対するコーチングと, 医療チームに対するコーチングという2つの視点で紹介する.
著者
宮田 靖志
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.331-335, 2021-08-25 (Released:2022-01-23)
参考文献数
10

アンプロフェッショナルな行動への対処には, 同定 (定義), 予防, 発見, 評価, 是正, 経過観察の各段階があると思われる. アンプロフェッショナルな行為とは何か. それをどう回避するか. それをどう発見するか. その行為はどうして生じたか, どういう影響を及ぼしたか. アンプロフェッショナルな学習者・医療者の行為をどのようにして是正するか. その行為者・行為はその後どうなっているか. アンプロフェショナルな行動への対処は複雑である. また, アンプロフェッショナルな行動への対処の具体的事例を共有する機会は少なく, 対応のノウハウを共有することが困難である. このため, 時に教育者はアンプロフェッショナルな事例への対応で疲弊することさえある. アンプロフェッショナルな行動への対応を少しずつでも共有していくことは非常に有意義なことである.
著者
武田 裕子
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.415-420, 2019-10-25 (Released:2020-05-18)
参考文献数
11
被引用文献数
5

医学生の卒業時の到達目標を示す「医学教育モデル・コア・カリキュラム」 (平成28年度改訂版) では, 初めて, 「社会構造と健康・疾病との関係 (健康の社会的決定要因 : SDH) を概説できる」という学修目標が設定された. 生活に困窮しているため外来受診を控える糖尿病患者, 抑うつ・自殺企図のリスクを抱える性的マイノリティの方々など, 社会の様々な状況・要素が「健康」に影響し健康格差の原因となっている. WHOはそれを「健康の社会的決定要因 (Social Determinants of Health : SDH) 」と呼び, 医療者に取り組みを求めている. 本稿では, 格差が広がるなか, SDHを医療者教育で取り上げる意義を概説し, 既存の講義や実習を活用して新たにSDH教育を導入する可能性について論じる.
著者
田中 丈夫 木下 牧子 野村 英樹 山本 昌弘 清水 貴子 神代 龍吉 船崎 俊一 向原 茂明 松村 真司
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.239-242, 2011-08-25 (Released:2013-03-25)
参考文献数
4
被引用文献数
1

1)調査した10カ国での生涯教育(CME・CPD)履修が義務化されていたのは7カ国で,2カ国では義務に近い推奨の制度であった.我が国と同様「自主性」で運用されている制度はスペインのみであった.2)2000年以降,CME,CPD制度変革がグローバルな潮流として窺えた.3)医療の社会的説明責任をはたすために,我が国のCME・CPD制度のあり方と継続について幅広い論議が必要である.
著者
安陪 等思 淡河 喜雄 上野 隆登 堀田 まり子 林 明宏 吉田 一郎 早渕 尚文 佐田 通夫
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.193-199, 2002-06-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
9
被引用文献数
1

【目的】医師となる過程に医療人としての自覚を認識するための明確な通過儀式がなかったので, これを白衣授与式として行った. 学生に対するアンケート調査を元に評価したので報告する.【方法】臨床研修として患者に初めて直に接する直前の2001年1月11日に第4学年112人を対象に白衣授与式を行った. 白衣授与式は学長, 医学部長, 病院長の出席を得て, 臨床の場にこれから第一歩を踏み出す学生に白衣と顔写真付きの名札を授与し, 医師を目指す医学生としての心構えを新らたにする目的で行われた. 式の翌日にアンケート調査を行い, 学生の意識調査を行った. 調査項目は医療に携わる責任感, 患者さんへの優しさ, 愛校心, 白衣に対する愛着, プロフェッショナルとしての意識, 医師としての使命感, 勉学する意欲, 厳粛な気持ち, 倫理的・道徳的生活を実行する意欲の9項目である. また, 教職員, 学生の聞き取り調査を加えた.【結果】アンケート調査のすべての項目において意識の向上が認められた (P<.0001). 約8割の学生が来年も引き続き行うことに賛意を示した. 確立した儀式の様式がないことに多少の問題もあったが, 意義深い試みであったとの評価を得た. 一方, 進級の決定と異なった時期であったので違和感をもった学生が多かった.【結論】不慣れな点もあったが教職員, 医学生ともに意義深い通過儀式としておおむね肯定的な意見が得られた. 医師としての専門職意識を育成するひとつの方法として有効な手段であると思われた. 今後は効果の継続性の有無, 意義, 利点や欠点について教職員と学生を含めた検討, 考察を行い, バランス感覚の取れた通過儀式として修正を加えたい.
著者
二至村 菁
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.44, no.6, pp.421-428, 2013-12-25 (Released:2015-07-06)
参考文献数
32

《学士課程修了者のみを医学部に入学させる》という8年制医師養成教育計画は,1945年末に連合軍総司令部(GHQ)内の日本医科学審査委員会によって提案され,1946年からGHQ公衆衛生福祉局のクロフォード・F・サムス局長によって推進された.この計画は厚生省の医学教育審議会の賛成を得たが,文部省の教育刷新委員会の安倍能成座長が敗戦国日本の困窮を理由に強硬に反対し,GHQ民間教育情報局も協力せず,廃案となった.  日野原重明氏は学士課程修了者を対象とする大学院医学校を計画しておられるが,もし実現すれば戦後先進国となった日本が初めて18歳ではなく22歳の成熟した学生を医師として養成するという興味深い試みとなろう.
著者
春田 淳志 錦織 宏
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.121-134, 2014-06-25 (Released:2016-05-16)
参考文献数
68
被引用文献数
2

医療専門職の多職種連携に関する理論は多くの学問分野から成り立っており,実践への援用が難しい要因になっている.そこでこれらの理論を整理し,まず基盤となる社会構成主義・社会関係資本理論を説明し,その他の理論についてミクロ/メゾ/マクロの視点で記述する. まず社会構成主義では社会的相互作用と個人間の相互作用の必要性を,また社会関係資本では共通の規範や価値観,理解を伴ったネットワークの重要性を,多職種連携の文脈で説明する.さらに社会福祉の理論を援用し,社会集団をミクロ・メゾ・マクロに分類して,多職種連携に関する理論を概説する.ミクロ(個人の学び)の視点からは,医学/医療者教育全般にとって基盤となる成人教育理論を提示し,さらに偏見を軽減するための条件を示した接触仮説,内集団と外集団をどのように区別しながらアイデンティティを確立していくかを示した社会的アイデンティティ理論を紹介する.メゾ(チームでの学び・実践)の視点からは,チームで学習すること・協働することをチーム学習・協働論で示し,チームが道具を使って,分業・協業しながら対象を拡大していく状況を活動理論で,チームプロセスをタックマンモデルで示す.またマクロ(組織での学び・実践)の視点として,複雑系と社会化についての理論を紹介する. 最後に,多職種連携をメタ視点でとらえた文献を紹介する.これらの理論と実践の往復に基づく経時的・多面的な省察により,多職種連携が促進することを期待する.
著者
渡部 健二 和佐 勝史 濱崎 俊光 河盛 段 樂木 宏実 奥村 明之進
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.77-83, 2013-04-25 (Released:2015-07-06)
参考文献数
4
被引用文献数
1

背景 : 大阪大学は平成23年度より卒業試験を廃止し,臨床能力を総括的に評価する新しい試験を導入した.方法 : 新しい試験では,診療における問題解決の過程を再現するシーケンシャルシナリオを作成した.評価者はシナリオに沿って病棟回診と同じような口頭試問を受験生に対して行ない,態度,知識,思考に基づいて臨床能力を評価した.試験終了後にアンケートを行なった.結果 : 試験は円滑に実施された.試験後のアンケートにおいて評価者の約9割,受験生の約6割は本試験の意義を肯定的に回答した.考察 : 今回の試みは主に評価者に好意的に受け入れられた.今後の課題は,パフォーマンスに基づく試験の導入である.
著者
丸井 英二
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 = Medical education (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.147-150, 2012-06-25

&nbsp;&nbsp;公衆衛生(学)はpublic health を日本語に翻訳した用語であるが,日本語と英語の意味するところは必ずしも同一ではない.そこには歴史的背景によるズレがある.わが国の医学教育における公衆衛生学の位置づけは,むしろ基礎医学,臨床医学そして「社会医学(social medicine)」として,医学の一部として位置づけられることが望ましい.Public health としての公衆衛生学は医学と並行したかたちで独立した領域として,医学生のみならず広い対象について教育を行うことが,「公衆衛生大学院」において始まっていることは,今後への期待となる.
著者
高橋 理 大生 定義 徳田 安春 萱間 真美 福井 次矢
出版者
日本医学教育学会
雑誌
医学教育 (ISSN:03869644)
巻号頁・発行日
vol.40, no.6, pp.411-417, 2009 (Released:2010-09-01)
参考文献数
15

世界レベルで関心の高い医師のプロフェッショナリズムは,社会との関係性が十分考慮されることが重要であるといわれている.しかし,医療を受ける側・患者の視点から考える医師のプロフェッショナリズムの構成概念を実証的に検討した研究は少ない.1)東京と大阪の市民各6人を対象に約2時間グループインタビューを行った.2) インタビューの逐語録を質的・帰納的に分析し市民が認識する医師のプロフェッショナリズムを構成する要素を探索した.また,それらを欧米の医師憲章と比較した.3) 探索の結果,医師のプロフェッショナリズムと関連すると考えられる要素は,(1)患者への献身・奉仕 (2)公正性 (3)医師の社会的責任 (4)企業との適切な関係 (5)患者との適切な関係,の5つに分類された.4) 欧米の医師憲章とは重なる要素もあるが,抽出されなかった要素も認めた.患者との適切な関係では,医師への謝礼に関して患者間で相反する意見もみられた.5) 医師のプロフェッショナリズムについて社会から理解を得るためには,わが国の市民の認識を考慮した構成概念が必要であろう.