著者
山本 政一郎 尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

高校の「地理」の自然地理分野および「地学」の地球・大気・海洋分野は共通する内容が多い。共通分野については、両科目が協調して対象を取り扱うことで、より系統的・総合的な地球物理に関する理解が深まるはずである。しかしながら、同科目内においても教科書によって同じ概念を示す用語が異なる、あるいは、同じ用語の説明が異なる用語が散見される。これでは、共通理解どころか教えられる生徒側に理解の混乱をもたらす。これらの相違を即時に解消することは困難としても、教育者側が相違の現状を把握しておくことで、それらに留意した説明をするなど、教育現場での対応ができよう。 そこで本発表では、上掲の分野の中で、教科書によって異なる記載が見られる事項を中心に、地学・地理の全ての現行教科書(地理B3冊、地理A6冊、地学2冊、地学基礎5冊、科学と人間生活5冊の計21冊)を対象として表記の比較検討を行った。地形分野では大地形および、沖積平野に関する記述がどのように区分されているか、またそれらの発達過程の扱い方はどのようであるかについて、気象・気候分野では大気大循環で使われる用語・説明の範囲、および気候区分に関する記述の違いを中心に比較検討した。
著者
辻 健 石塚 師也 池田 達紀 松岡 俊文
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-19

衛星データの解析、地表調査、地震データの解析を用いて、2016年熊本地震の断層活動とその断層セグメントの境界の特徴を調べた。衛星データに干渉SAR解析を適用した結果から、一連の断層活動に伴う地表変動を明瞭に知ることができる。その干渉SAR解析の結果をもとに現地調査を実施し、実際の地表変動を確認した。特に阿蘇山周辺にみられた複雑な地表変動に注目した。干渉SAR解析の結果から、九州西部(熊本市〜阿蘇山)では北東—南西方向に伸びる直線状の断層システムを確認できるが、局所的な変動に注目すると火山といった地質の不均質性に影響を受けた断層活動や地表変動を確認できる。4月16日に発生した本震(M7.3)では、阿蘇山より南西側の断層が活動しており、阿蘇山周辺で断層運動が止まったことが分かる。断層運動は右横ずれであるため、断層のエッジの南側にあたる阿蘇山では水平方向への引っ張りの力が働き、北側にある大津町周辺は圧縮の力が働いている。実際に、阿蘇山のカルデラ内部は引張による地表の沈降が明瞭に認められる。特に大きく沈降している地域はマグマ溜まりの位置とも整合的で、引張に伴うマグマ溜まりの変形が関係している可能性がある。このような変動は2011年の東北地方太平洋沖地震でも確認されている。現地調査でも、引張に伴うとみられる巨大な開口亀裂が阿蘇市狩野(カルデラ内部)に見られた。巨大亀裂の開口幅は約1m以上あるものもあり、走向は北東—南西方向で本震の断層と方向が整合的であった。一方で、断層の北側に位置する菊池郡大津町では、本震断層とは異なったいくつかの断層運動が認められた。これらの断層の走向は東西方向で、逆断層運動をしている可能性がある。現地調査では、この大津町でみられた地表変形には横ずれ方向への運動は認められなかった。これらは阿蘇山という火山岩体西部での急激な本震断層の停止とそれに伴って生じる局所的な圧縮の力によって形成されたと考えられる。本震の約2時間後(4月16日3:55)に阿蘇で発生したマグニチュード5.6の地震では、震源が阿蘇山の北東側へと進展し、九重連山へと達している。干渉SAR解析の結果からも、その直線的な変動を見ることができる。熊本〜阿蘇〜九重にかけての地震メカニズム(横ずれ断層)と九重〜大分にかけての地震メカニズム(正断層)は異なることから、九重連山は地殻に働く応力分布の境界として働いている可能性がある。これらのことから火山(阿蘇山や九重連山)は、地震のセグメンテーションの境界として働いている可能性がある。これは火山体や火山性堆積物の強度は他の場所とは異なっていることや、断層の摩擦特性に影響を与える地殻温度が火山周辺では異常に高いことに影響している可能性がある。
著者
織原 義明 鴨川 仁 長尾 年恭
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

現時点において、「確度の高い地震予知は困難」というのが科学的な見解である。しかし昨今では、民間による地震予知・予測情報が注目を集めている。そのなかには、例えば、国土地理院が観測・公開しているデータを用いていることから、一見すると科学的な手法による予知・予測と思われてしまうものもある。マグニチュード6以上の大きな地震を予測する場合であっても、数多くの警告を発していれば地震を的中させることができるであろう。そして、多くの場合、マスコミは地震を言い当てた事例だけを紹介するため、人々はその地震予知・予測が当たっていると信じてしまうのである。これは人々が誤った判断をしてしまう典型的なケースである。本発表では、巷にあふれる地震予知・予測情報に対して、一般の人々がどのように接すれば正しい判断ができるのか、地震予知・予測情報そのものと、それを宣伝するメディアの2つのリテラシーについて議論する。
著者
前澤 裕之 松本 怜 西田 侑嗣 青木 亮輔 真鍋 武嗣 笠井 康子 Larsson Richard 黒田 剛史 落合 智 和地 瞭良 高橋 亮平 阪上 遼 中須賀 真一 西堀 俊幸 佐川 英夫 中川 広務 笠羽 康正 今村 剛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

近年、火星では赤外望遠鏡やキュリオシティなどによりメタンが検出され、その起源については、生物の可能性も含めた活発な議論が展開されている。また、2010年には、ハーシェル宇宙望遠鏡に搭載されたHeterodyne Instrument for the Far Infrared(HIFI)により、低高度で酸素分子の濃度が増加する様子が捉えられ謎を呼んでいる。系外惑星のバイオマーカーの挙動を探る上でも、こうした分子の変動を大気化学反応ネットワークの観点から詳細理解することが喫緊の課題となっている。現在、東京大学航空工学研究科の中須賀研究チームが火星への超小型深宇宙探査機/着陸機の検討を進めており、我々はこれに搭載可能な簡易なTHz帯のヘテロダイン分光システムの開発検討を進めている。火星大気の突入速度とのトレードオフの関係から超小型衛星に搭載できる重量に制限があるため、現時点で観測周波数帯は450 GHz帯、750 GHz帯の2系統で検討しており、地球の地上望遠鏡からでは地球大気のコンタミにより観測が難しいO2やH2O,O3や関連分子、それらの同位体の同時観測を見据えている。これにより、昼夜や季節変動に伴う大気の酸化反応素過程に迫る予定である。これらの分子の放射輸送計算も実施し、バージニアダイオード社の常温のショットキーバリアダイオードミクサ受信機(等価雑音温度:4000 K)、分光計にはマックスプランク研究所が開発したチャープ型分光計(帯域1GHz)を採用することで、火星の地上から十分なS/Nのスペクトルが得られる見込みである。重量制限から追尾アンテナなどは搭載せず、ランダーではホーンアンテナによる直上観測を想定している。着陸はメタン発生地域近傍の低緯度の平原を検討中であるが、現時点ではまだランダーとオービターの両方の可能性が残されている。ランダーによる観測の場合は、off点が存在しないため、通常のChopper wheel法による強度較正が行えない。そこで、局部発振源による周波数スイッチと、2つの温度の黒体/calibratorを用いた較正手法を検討している。システムを開発していく上でPlanetary protectionも慎重に進めていく必要がある。本講演では、これら一連のミッションの検討状況について報告する。システムや熱設計の詳細は、本学会において松本他がポスターにて検討状況を報告する。
著者
上村 剛史 横井 成行
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

学校教育においては,日常生活や社会の様々な事物を,教科・科目に細分化し学習している.中学や高等学校では,教科ごとに専門の教員が授業を行うが,教室での生徒は受身であることが多い.それに対して,身の回りにある事物は,色々な教科・科目の内容が混在しており,それを取り巻く様々な社会的な問題は,複雑かつ解決困難であることが多い.そのような問題に向き合うためには,対象となる事物を多角的に捉え,異分野の人たちと協力し,粘り強く取り組む力が必要である.そこで,演者らは前任校で同僚教員と協力して,中学3年から高校2年の希望者15名程度を対象にした「総合フィールド演習」という講座を2017年に立ち上げ,2年間にわたり実施した.この講座では,学習対象を「地域」と設定し,多様な参加者が「地域」を実際に歩いて観察することで,総合的に「地域」を捉えることを目的とした.担当教員は,地学,日本史,国語と異なる教科・科目の教員で構成され,できるだけ生徒と同じ目線に立って議論しながら,共に学ぶ態度を大切にした.また,あらかじめ学校内で参加者での話し合いの機会を何度も設け,そこでの提案や希望に基づいて訪問先を設定した.実際のフィールドワークは,学校近隣の品川から始まり,神事でつながる府中へと発展して計3回行った.また,夏休みを利用して大阪で2泊3日のフィールドワークも行った.例えば,大阪でのフィールドワークでは,上町台地という地形とその周辺の文化財を中心に巡りながら,1400年以上の長い歴史を持つ四天王寺を訪れた.まず四天王寺の参道から西側に見える大きな下り坂を前に,地学教員が上町台地を形成した断層運動と坂道の関係を説明する.次に,日本史教員が境内の歴史的建造物を案内しながら,安政地震津波碑の存在を紹介する.この碑は,1854年に起こった安政南海地震と安政東海地震による犠牲者の供養と災害の記憶を後世に伝えるため,町人によって四天王寺の境内に建てられたものである.実際の碑の前に行くと,生徒は日本史と国語教員と議論しながら,碑文の解読を始める.さらに,安政の地震津波については,日本史と地学の教員が先導して話が弾む.四天王寺の見学が終わると,上町台地の下り坂周辺の寺社仏閣をもう少し歩いてみようと,再び歩き始めるというような形でフィールドワークが進んでいく.このようにして,日本史で四天王寺の成り立ちを,地学で上町台地のような地形の形成を,国語では古典や漢文をというように,普段は切り分けてきた教科・科目の枠がなくなり,目の前にある事物を取り囲んでいる歴史や地形などの要素が混在していることが実感できた.また,大きな方向性は教員側で誘導しても,途中で生徒の反応を見ながら臨機応変に変更し,生徒や教員という立場を相互に変えながら,主体的で深い学びを行うことができた.
著者
萬年 一剛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

現在、NHK総合で土曜日の午後7:30から8:15に放映されている「ブラタモリ」は、タモリと女性アナウンサーが地元の専門家とともに歩き、地域の歴史や成り立ちを解き明かしていく番組である。2008年から東京とその周辺を巡る深夜放送として始まり、2011年に日本地理学会賞を受賞したほか、現在の放映時間になった2015年以降は、国土地理院の「『測量の日』功労者」、日本地質学会表彰、地盤工学貢献賞(地盤工学会)を矢継ぎ早に受賞するなど、地球科学の専門家から高い評価を受けている。本セッションは、地球科学の専門家も満足できるエンターテイメント番組がどのようにして作られているのか、制作者の意図や工夫、出演者の経験、番組視聴者の分析など、多角的な視点から解き明かし、地球科学のアウトリーチ活動へのヒントを探ろうと企画された。以下では、参考までに私が出演した回の日程と感想を述べる。私は同番組の「箱根」(2017年4月22日本放映、以下括弧内本放映日)、「箱根関所」(同年5月13日)、「箱根の温泉」(2018年10月6日)の3回に箱根の地質の専門家として出演した。2017年放映分についていうと、協力依頼の電話が初めてあったのは2016年12月末であった。その後、翌年1月中は各所での材料集めに費やされたが、2月中頃にはおおまかなストーリーが決まり、案内人としての出演依頼がされた。3月初めには具体的なセリフが入った「構成」が示されて現地の下見が行われ、中旬に収録が行われた。収録後は、ナレーションのセリフや解説のアニメーションについて適切かどうかの問い合わせが放映の2週間前まであった。ブラタモリの制作で印象的だったのは、取材期間で様々な材料が検討・取材された上で、放送内容が専門家の意見も踏まえて決まっていく番組製作過程である。また、出演者が楽しみながら地域を回れるよう配慮しているスタッフの努力には感銘を受けた。昨今、研究者が納税者である市民に向き合い、自分の研究を説明するアウトリーチの機会が増えている。そのような研究者にとって、ブラタモリの製作過程からは、伝えられそうな内容をたくさん集める「取材力」、素材を精選し地域の本質を捉える「洞察力」、伝えるべき内容を載せるストーリーを作る「構成力」、ナレーションやアニメーションを用いた「表現力」、収録現場を明るく楽しくする「現場力」など、必要な「力」とそのあり方を学ぶことができる。一方、番組でとりあげられる専門的な内容は大幅な簡略化が行われており、専門家としてはどの辺まで許容できるか、呻吟するところとなる。講演では、私の直面した若干の具体例を紹介し、検討を加えたい。

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著者
尾方 隆幸
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

ブラタモリに関するフロアからの質問を受け付けて議論する。
著者
増田 耕一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

気象学は地学の、気候学は地理の、それぞれ部分と考えられてきたけれども、両者の内容は大きく重なっている。ここでは両者をあわせて、何を必修事項としたらよいかを考えてみたい。地理にも関連するのだが、ひとまず理科の地学を念頭において、内容を分類するための、いくつかの軸をあげてみる。1. 基礎と応用。地学の場合とくに、防災や環境問題解決などの公益につながる応用が重要だろう。2. 過去・現在・未来。現在は、近代科学による観測データが得られる時代をさす。過去はヒトが出現してからの時代も含むが、地学ではそれよりも古い時代を扱うことが重要だ。未来についてできるのは不確かな予測だが、それがほしいこともある。3. 注目する空間スケール。4. 対象を単純化したとらえかたと、多様性や個別事実を重視したとらえかた。5. 数理物理的考えかた、つまり物理法則に基づいて原因から結果に向かう態度と、博物学的考えかた、つまり現実世界の観察で得られる物証からそれが生じた原因を考えていく態度。最重要と主張するつもりはないが、全地球規模の気候変化のしくみを理解することは、地球温暖化の「緩和」(温室効果気体排出削減)が世界の政治課題となった現代の民主主義国家の主権者がもつべき知識項目だと思う。文部科学省が2018年2月14日に出した次期高校学習指導要領の案の「地学基礎」での大気・水圏関係の内容は、これに合っている。基礎として、「大気と海洋」のうち「地球の熱収支」で、太陽放射と地球放射の収支を扱い、温室効果にふれ、「大気と海洋の運動」では海洋の層構造と深層循環にもふれる。その応用として「地球環境の科学」のところで地球温暖化を扱うことができる。ただし、地球温暖化とエルニーニョ現象が単純に並列されているのはうまくない。気候変動には内部変動と外部強制による変動があり地球温暖化は後者だという認識が必要だ。(「地学基礎」の範囲でエルニーニョ現象を扱うのは無理があると思う。)ただしこの主題は、さきほどあげた軸3では全地球規模、軸4では単純化したとらえかた、軸2では数理物理的アプローチに偏っている。人為起源の地球温暖化があろうがなかろうが、人は気候に適応することが必要だ。そしてその適応する対象は、世界平均値ではなく、それぞれの場所のローカルな気候なのだ。また、地理学の観点で、人間社会と、また地形・水文・植生などとの相互作用を考えるとき問題になる気候も、おもにローカルなものだ。ただし、ローカルな気候には多様性がある。また、ローカルな気候の変化を因果関係を追って述べることはむずかしい。教科内容のすべてが必修ではなくoptionalな項目もあることを前提として、ローカルな気候に関する学習はoptionalな項目とし、その基礎となりうることがらを必修項目にすることを考えるべきだろう。●大気・水圏の現象にはさまざまな空間・時間スケールのものがあること。そして、空間スケールの大きいものは時間スケールも大きい傾向があること。●天気。気温、気圧、風向風速、降水量などの数値はどのように表現されるか、温帯低気圧とはどんなものか、など、テレビなどの天気予報を理解できるための基礎知識。(次期学習指導要領案では「地学基礎」ではなく「地学」のほうに含まれている。) 空間スケールは数百kmから数千kmであって、地球全体よりは小さいが、ローカルよりは大きい。●地表面(地面・海面)での熱収支・水収支。ここでいう「熱」とはエネルギーのうち運動エネルギーを省略したものの便宜的表現である。熱収支は、放射と、顕熱・潜熱の乱流輸送からなる。水収支は、降水・蒸発・流出からなる。蒸発の潜熱が両方にはいっている。雪氷がからむ場合はもう少し複雑になる。●気候帯の概略。熱帯、温帯、寒帯と 乾燥地帯が地球上でどのように分布するか。「地学基礎」の「大気と海洋」で教えられる「大気の大循環」とリンクさせたい。●気候と植生(陸上生態系)の関係。ケッペンから引き継ぐべきことは、気候区分ではなく、植生のタイプが気候によって制約されているという認識だと思う。制約要因としては、生育期間の温度または利用可能なエネルギー、利用可能な水分、最低温度があげられる。
著者
窪田 薫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

北日本の浅海底から見つかった二枚貝の一種ビノスガイ(Mercenaria stimpsoni)は100歳を超す寿命を持ち、日本産の二枚貝としては最長寿であることが最近明らかになった。本発表では、 岩手県大槌・船越湾から得られたビノスガイの殻の成長パターンについて概観するとともに、年輪解析と放射性炭素分析を通じて明らかになった、過去の海水の放射性炭素変動と、2011年3月の大津波に伴う船越湾のビノスガイの大量死について発表する。年輪幅の変動は個体間で同期しており、厳密な暦年代を構築することを可能にしている(年輪年代学)。複数個体のビノスガイの殻の放射性炭素分析結果をもとに、北西太平洋高緯度域としては初となる、1950~1960年代に盛んに行われた大気圏核実験に伴う14C濃度の急増を含む、海水の放射性炭素変動曲線(Bomb-14C曲線)を復元した。復元されたBomb-14C曲線の形状から、三陸沿岸の浅海域においては、津軽暖流(対馬海流を起源とする)の影響が強く見られることがわかった。さらに、得られたBomb-14C曲線を船越湾の海底から得られた死殻の高精度の年代決定ツールとして用いることで、2011年3月の大津波に伴う海底環境への擾乱がビノスガイの大量死を招いていたことが明らかになった。さらに、過去の大津波(1933年の昭和三陸地震および1896年の明治三陸地震)が同じくビノスガイの大量死を招いていた可能性についても示す。
著者
小山 真人 早川 由紀夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
JpGU-AGU Joint Meeting 2017
巻号頁・発行日
2017-03-10

1986年噴火は、地層として残る降下スコリアをカルデラ外に降らせたこと、カルデラ外で側噴火を起こしたこと、の2点で過去の伊豆大島の「大噴火」(Nakamura,1964,地震研彙報)と類似し、1986年と同程度の噴出量であった1912〜14年噴火や1950〜51年噴火とは異なっている。しかしながら、数年間にわたって継続的に火山灰を降らせる時期(火山灰期)がないこと、総噴出量が大噴火にしては小さいこと、の2点で過去の大噴火と異なっていたため、これらの欠損条件を満たすためにやがて火山灰期が始まると当初は予想された。ところが1987年11月18日の噴火をきっかけに火口直下のマグマはマグマ溜りに戻り(井田ほか,1988,地震研彙報)、 火山灰期は訪れなかった。1986年噴火は、カルデラ形成以降の過去1500年間に一度も起きたことのない特殊な噴火だったのか、それとも前提となる大噴火の概念に問題があるのか、の疑問が残された。その後、伊豆大島のカルデラ外に地層として確認できるテフラとそれを挟む噴火休止期堆積物の層序と分布を注意深く検討した小山・早川(1996,地学雑誌)は、明瞭な噴火休止期間に隔てられた24回の中〜大規模噴火を識別した上で、降下スコリアと降下火山灰の両方をともなう12噴火(Type 1)、降下スコリアのみをともなう7噴火(Type 2)、降下火山灰のみをともなう5噴火(Type 3)、の3類型に分類した。Type 1には噴出量1億トン以上の大規模な噴火が多く、1986年噴火はType 2のひとつである。また、Nakamura (1964)の提唱した降下スコリア→溶岩流出→火山灰期の噴火サイクルを厳密に満たす噴火は、Type 1の12噴火中の7つにすぎないこともわかった。こうして1986年噴火が伊豆大島の噴火史上とりたてて特殊な噴火でないことが明らかとなったが、肝心の噴火類型の成因は未解明のままであった。また、先述した1912〜14年噴火や1950〜51年噴火などの非爆発的な小〜中規模噴火の位置づけも十分できていなかった。中村 (1978,岩波新書)は、1)噴火末期に主火道内のマグマ頭位が低下すると、火道壁の崩落などでマグマ頭部のガス抜けが阻害されるために爆発的噴火が繰り返して火山灰を放出する火山灰期となり、2)さらにマグマ頭位が低下する場合には、火道内に地下水が浸入して水蒸気マグマ噴火が起きると考えた。噴火末期にマグマ頭位が中途半端に低下したまま停滞する場合には火山灰期が訪れるだろうが、すみやかに地下深部へ低下してしまえば火山灰期がないまま噴火が終了するだろう。主火道のマグマ頭位をすみやかに低下させる原因としては、側方へのマグマ貫入が考えやすい。貫入から約1年のタイムラグはあったが、実際にそれが起きたのが1986-87年噴火と考えることができる。三宅島2000年噴火でも、マグマの側方貫入によって主火道のマグマ頭位が約2ヶ月間かけて低下し、その後8月18日や29日の爆発的噴火が生じたが、火山灰期に相当する噴火は起きずに噴火が終了した。一方、カルデラ外に堆積物が確認できない1876年から1974年までの伊豆大島の一連の小〜中規模噴火は、全般的にマグマ頭位が高かった期間(火道内の赤熱したマグマ頭部が断続的に目視された期間)に発生した。この視点にもとづいて、カルデラ外に堆積物を残さなかった小規模噴火も含む伊豆大島の噴火の特徴とその成因を、統一的に次の5類型に再分類することができる。すなわち、(1)マグマ頭位が高い時期に生じた非爆発的な小〜中規模噴火(1974年、1950-51年など:旧類型の対象外)、(2)マグマの側方貫入が起きず、マグマ頭位低下が緩慢かつ限定的であったため短い火山灰期が生じた5つの中規模噴火(Y0.8、Y3.8、N3.0など:旧類型のType 3)、(3)マグマの側方貫入が起きてマグマ頭位低下がすみやかに進行したため火山灰期が生じなかった7つの中規模噴火(1986年、Y5.2、N3.2など:旧類型のType 2)、(4)マグマの側方貫入が起きたが、何らかの原因でマグマ頭位が中途半端に低下したまま停滞して長い火山灰期が生じた9つの中〜大規模噴火(1777-78年=Y1.0、Y4.0、N4.0など:旧類型のType 1)、(5)マグマの側方貫入が起きたが、何らかの原因でマグマ頭位が中途半端に地下水位付近で停滞し、大量の地下水浸入にともなう水蒸気マグマ爆発や岩屑なだれが生じた3つの中〜大規模噴火(S1.0、S1.5、S2.0:旧類型のType 1)。
著者
猿渡 隆夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-05-19

1.予測方法 多くの地震を解析した結果、台風が温帯低気圧になる時や低気圧が発達する時、激しい下降気流が発生し、地面・水面に当たった地点で、数か月後、地震が発生していることが分かった。下降気流が当たった地点では、最大瞬間風速の増加が認められた。また衛星画像では、雲の無い領域として写っていることが分かった。1)数ヶ月から数年ぶりの最大瞬間風速が記録された地点で地震発生の可能性が高い。2)地震の大きさは、強風域の幅または雲の無い領域の幅が震源域の幅と一致することから、推測できる。3)強風日から1週間から7ヶ月後位に地震が発生する。4)震央近傍の風向が、メカニズム解の軸と一致する。2.予測方法の実証 2010年地震学会で予測方法を発表以降、2011東北沖地震など、多くの予測例・解析例があり、この予測方法が実証されたと考えている。3.2016年4月7日の発達した低気圧からの地震予測 前線を伴った低気圧が日本海を進み、東北付近を通過して、夜には三陸沖へ。全国的に雨となり、西日本や東日本で南寄りの風が強く吹いた。 熊本県阿蘇山では午前09:53に最大瞬間風速43.9メートル(南南西の風)(2007年以来9年ぶり)が観測された。また、長崎県では、長崎で最大瞬間風速29.3メートル(南風)、雲仙岳で35.2m/s(南西の風)が観測された。4月1位の記録が更新された。 予測方法に基づき、雲仙岳から阿蘇山付近にかけて地震の可能性があると予測された。発生時期は1週間後から7か月後と予測され、7日後に発生した。4.2016年熊本地震4月14日 21時26分 熊本県熊本地方 M6.5 4月16日 01時25分 熊本県熊本地方 M7.3 5.詳細解析と結論 別表・別図に気象庁の熊本県・大分県の全観測地点の4月7日の最大瞬間風速を示した。赤字は最大瞬間風速が高い地点である。別図の赤枠は、気象庁作成の震央分布図の枠である。阿蘇山の南西から北東にかけて、最大瞬間風速が周辺と比べて高い領域がある。この領域は、別図に示した気象庁作成の震央分布図(赤枠)とほぼ一致している。すなわち、他の多くの地震同様、地震発生前の最大瞬間風速等から、地震の発生場所と地震の大きさを予測することができる。 マントル対流や活断層が地震の原因ではなく、下降気流の強風が地震の原因と考えるべきである。 参考文献1. http://www2.jpgu.org/meeting/2011/yokou/MIS036-P85.pdf2. http://www2.jpgu.org/meeting/2015/PDF2015/S-CG56_P.pdf
著者
鈴木 敬子 石川 剛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

数値標高モデル(DEM)から作成した陰影起伏図は,地形の視認性に優れ,地図の背景にも適した地形表現の一種である.しかし,陰影は光源設定や標高値の強調率に依存し,微地形や複雑な地形を正確に描くことは不可能であった.本研究では,陰影起伏図において光源が与える影響と,斜面方位に応じた陰影の濃度分布に着目し,起伏の規模に関わらず総ての地形が表され,かつ,地図の背景として適した陰影起伏表現の作成を試みた.まず,地形に複数の光源を設定し,最適な光源分布を検討した.複数光源では,全ての斜面に光量と濃度が異なる陰影が与えられ,方向依存性を軽減できるものの,極めて小さな起伏の表現が難しい.そこで,新たに陰影の不足箇所の抽出と補間方法を検討した.その結果,水平方向からの適切な光量と,それらと直交する方向のうち第3,4象限における方位クラスタリング処理から濃度を動的に変化させた陰影を合成することで,従来は表現不可能であった大小の地形が明瞭に描かれることを確認した.本手法による地形の陰影表現は適度な過高感を持ち,任意の色調の段彩と合成しても違和感が少なく,背景図としても利用可能であると考えられる.
著者
林 衛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

自然にはたらきかけ,自然を改変しながら進化的適応をはたしてきた人間やその営みを理解するためには,はたらきかけの対象である自然環境の理解が欠かせない。自然環境の理解は,人間やその営みの限界(ポジティブな表現では到達点)や矛盾を照らし出すはたらきをもっている。地球惑星科学の探究者はしばしば,その最先端にいてそれら限界や矛盾にいちはやく気づける。 社会の代表者として探究をしている科学研究者ならではの役割は,市民社会の構成員であるほかの主権者(市民)と共有を図ることにある。しかし,地球惑星科学によって得られる知見や批判的思考力はしばしば「抑制」され,活用されず,学問が軽視あるいはねじ曲げられる状況が放置され,自然災害や原発震災の原因となってきた。 「御用学者」問題発生に通ずる科学リテラシーや批判的思考力の「抑制」とその克服の道筋を,認知科学的な「共感」と理性のはたらかせ方のメタ認知から始まる人の「倫理」の視点から考察する。
著者
中村 淳路 Boes Evelien Brückner Helmut De Batist Marc 藤原 治 Garrett Edmund Heyvaert Vanessa Hubert-Ferrari Aurelia Lamair Laura 宮入 陽介 オブラクタ スティーブン 宍倉 正展 山本 真也 横山 祐典 The QuakeRecNankai team
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

Great earthquakes have repeatedly occurred along the Nankai Trough, the subduction zone that lies south of Japan’s heavily industrialized southern coastline. While historical records and geological evidence have revealed spatial distribution of paleo-earthquakes, the temporal variation of the rupture zone is still under debate, in part due to its segmented behavior. Here we explore the potential of the sediment records from Lake Hamana and Fuji Five Lakes as new coherent time series of great earthquakes within the framework of the QuakeRecNankai project.We obtained pilot gravity cores form Lake Hamana and the Fuji lakes Motosu, Sai, Kawaguchi, and Yamanaka in 2014. In order to image the lateral changes of the event deposits, we also conducted reflection-seismic survey. Based on these results, potential coring sites were determined and then 3–10 m long piston cores were recovered from several sites in each lake in 2015. The cores consist of 2 m long sections with 1 m overlaps between the sections allowing us to reconstruct continuous records of tsunamis and paleo-earthquakes. In this presentation we introduce the progress of QuakeRecNankai project and discuss the potential of the lakes as Late Pleistocene and Holocene archives of tsunamis and paleo-earthquakes.
著者
橘 省吾 田近 英一
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Japan Geoscience Letters (JGL) は,JpGU発足時に地球惑星科学分野全体に情報を伝達する初めての媒体として創刊された.季刊誌として,これまでに15巻1号まで計55号が発行されている(2019年大会時には15巻2号が発行されている予定である). 対象,手法が多岐にわたる地球惑星科学においては,時に互いの研究の理解が難しいこともあり,分野全体で興味を持たれそうな話題を共有することを目的に,JGLでは毎号最大4本のトピックス記事を掲載してきた.分野や著者の所属機関などのバランスを考慮しながら,編集委員会でトピックスを選定し,15巻1号までに157本の記事を掲載してきた.執筆依頼を快く引き受けてくださり,限られた誌面のなかで,地球惑星科学分野の様々な話題をわかりやすく紹介してくださったすべての著者の皆様に感謝したい. これまでの15年の間に議論はされたものの実現できなかったことのひとつに,執筆いただいたトピックス記事をもとにして,一般向けの書籍を出版することがある.JGL誌面ではひとつの記事は4500文字程度で,図表が2-3枚含まれる.これに解説を加えたり,新たな成果を盛り込んだりしていただき,分量を倍にすれば,1万字となり,4-5年分の記事で新書一冊程度にはなる.地球惑星科学分野の研究最前線を一般の方に楽しんでもらう書籍として出版できれば,JpGUの広報普及活動としての新たな柱となるのではないかと考える. 国際化のために,英語版ニュースレターをつくってはどうかなどの意見もあるかもしれない.しかし,編集の現場は人手が足りず,現状では手が回らない.地球惑星科学全体をできるだけ広くフラットに見渡す意識で,編集作業に加わっていただける方がおられれば大変有難い.とはいえ,大学や研究機関が現在置かれている状況や,現在のJpGUの規模や今後の国際戦略を考えると,研究者だけで実現できることには限界がある.大学では昨今URAを導入し,大学マネジメントと研究者を繋ぐ活動の強化を進めているが,そのような仕組みをJpGUでも取り入れられないだろうか.地球惑星科学という研究コミュニティを代表するJpGUだからこそ,JGLをひとつの軸とした広報普及活動を発展させ,コミュニティ内の共通理解をさらに進め,社会とのつながりを強固にするために,そのような人材活用も考えるべきではないだろうか. JGLの15年は,我が国における地球惑星科学分野全体をまとめるコミュニティの形成と発展の15年でもある.JGLは地球惑星科学コミュニティ全体をまとめることに対し,ある程度の貢献をしてきたと編集委員会では考えているが,JpGUの財政状況などを考慮し,今年からJGLの配付は希望する会員限定となっている.JGLではこれまでアンケート調査など読者の皆様からのフィードバックを受ける機会を設けてこなかったが,本講演の場ではぜひJGLのこれまでや今後のあり方について,参加者の皆様からのご意見を頂戴したい.
著者
北本 朝展 市野 美夏
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

1. はじめに過去の書籍や文書から情報を抽出し、それを統合することで、過去の世界を復元して分析する。このような歴史研究を我々は「歴史ビッグデータ」と呼ぶ。それはこのアプローチが、現代を対象に行われる「ビッグデータ」の研究と同じ構造や同じ目的を持つため、現代ビッグデータを過去に延長していくことに意味があると考えるからである。しかしそこに立ちはだかるのがデータ構造化である。過去のドキュメントにくずし字(手書き文字)で書かれたデータから、過去の世界を計算処理で復元するための高品質データを整備するには、デジタル化から品質管理に至る長大なデータ構造化ワークフローを支援する情報基盤が必要である。しかし自動的な構造化は困難なため、人間と機械の共同作業による効率的なデータ構造化ワークフローが必要である。そこで本研究は、非構造化データ(画像・テキスト)を構造化データ(解析準備データ)に変換するワークフローを設計し、再利用かつ検証可能な人文学データセットを構築するための情報基盤を構築する。EUでは「Time Machine Flagship」(https://timemachineproject.eu/)という巨大プロジェクトが200機関以上の参加を得て立ち上がりつつある。そして、イタリアのベニスやオランダのアムステルダムなど、都市の歴史のビッグデータを集めて時空間を自由に行き来する「タイムマシン」の構築が始まっている。この動向は日本やアジアにはまだ波及していないため、本研究で構築する情報基盤は日本の拠点となってグローバルな活動と連携できる可能性がある。2. 課題過去の世界を復元するための研究はこれまでも数多く行われてきたが、歴史ビッグデータ研究は以下の点で既存のアプローチとは異なる。第一に、対象とするデータの種類である。例えば古気候研究の場合、気候に関するあらゆるデータを用いるため、書籍や文書に限らず、自然界に残された痕跡(アイスコアや年輪などのプロキシデータ)なども活用することになる。しかし歴史ビッグデータの対象はあくまで人間が残した記録に限定し、文字記録の読み解きを含めた新しいデータ構造化の研究に焦点を合わせる。第二に、対象とする分野である。単一分野の研究では、過去の世界の一部の現象のみを対象とし、それ以外の現象には注意を払わないことが多かった。例えば同じ日記を研究対象としていても、書誌データや抽出データは研究者グループを越えて共有されず、多数の研究者が同じような作業を繰り返す状況に陥ることが多かった。この状況を解決するため、歴史ビッグデータは分野横断的に活用可能な構造化ワークフローを提供し、情報共有のメリットを活用した研究を可能とする。3. データの掛け合わせと読み替え現代ビッグデータを過去に延長するには、技術の過去への延長に加えて、コンセプトや方法論の延長も重要な課題である。第一に、データの掛け合わせとは、異なるデータを重ねて意外な関係性を見出すという方法論である。その典型的な例が地図である。複数のデータを位置合わせして重畳表示することで、データから得た洞察をアクションにつなげることができる。そこで課題となるのが、APIの相互運用性や語彙の共有などである。この問題を解決するために、我々は研究グループの今後の研究課題を共有し、作業の重複を避けてお互いの強みを活かすことで、限られたリソースを最大限に活用した情報基盤を開発している。第二に、データの読み替えとは、ある目的に作られたデータを別の目的に再利用することの価値を見出す方法論である。現代ビッグデータにおいて有名な例は、車の走行データを震災時の通れる道マップに再利用するという事例であるが、同様のアイデアは歴史ビッグデータでも有用なはずはずである。例えば、人名録の変遷は気候変動の社会影響評価に使えないかなど、柔軟に発想を巡らせてデータを創造的に活用する必要がある。4. 同床異夢を越えて歴史ビッグデータ研究は、多分野を融合した研究である。もちろん人文学と理工学など文理の間には大きな違いがあるが、理工学の中でも分野による考え方の違いは決して小さくはない。こうした違いをどのように乗り越えるか。我々の基本的な考え方は、まず同床異夢であること、すなわち共同研究のメンバーが目指す個々の夢は異なることを認めた上で、なお同床であることの意義を積極的に評価するというものである。例えばデータやツールは夢が異なるものの間でも共有できるはずである。こうした共有のメリットを最大化した上で、個々の研究者は過去世界の異なる部分の復元に挑むというのが歴史ビッグデータ研究の構想である。
著者
加納 靖之 橋本 雄太
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

京都大学古地震研究会では,2017年1月に「みんなで翻刻【地震史料】」を公開した(https://honkoku.org/).「みんなで翻刻」は,Web上で歴史史料を翻刻するためのアプリケーションであり,これを利用した翻刻プロジェクトである.ここで,「みんなで」は,Webでつながる人々(研究者だけでなく一般の方をふくむ)をさしており,「翻刻」は,くずし字等で書かれている史料(古文書等)を,一字ずつ活字(テキスト)に起こしていく作業のことである.「みんなで翻刻」では,正式公開から約1年で,東京大学地震研究所図書室が所蔵する資料のうち「古文書」に分類されデジタル画像化されている421点のうち386点のの翻刻がひととおり完了している.総入力文字数は約356万文字である.古地震(歴史地震)の研究においては,伝来している史料を翻刻し,地震学的な情報(地震発生の日時や場所,規模など)を抽出するための基礎データとする.過去の人々が残した膨大な文字記録のうち,活字(テキスト)になってデータとして活用しやすい状態になっている史料は,割合としてはそれほど大きくはない.「みんなで翻刻」によって大量のテキストデータを生成することができた.このテキストデータに対して,計量テキスト分析を行なった.分析には,計量テキスト分析(テキストマイニング)のために開発されたソフトウェアであるKH Coder(http://khc.sourceforge.net/)を利用した.まず,頻出語の計数を行った.頻出語の上位には「地震」「崩」「水」「人」「山」「火」「町」「寺」「宿」「川」「破損」などが挙がった.これらは,地震とその被害に関する語であり,既刊の地震史料集(たとえば,『大日本地震史料』,『新収日本地震史料』など)による翻刻からの印象とほぼ同じである.この印象を定量的に評価できたことになる.また,共起関係についても分析した.「地震」という語には,方角や地名に関する語だけでなく,被害に関する語が伴なうことが多いことがわかった.それぞれの資料で対象となっている地震によって,被害のあらわれ方が違うことから,資料ごとにより詳細に分析することによって,テキスト分析から地震の様相を抽出できる可能性がある.これらのテキスト分析には適切な辞書が必要である.資料の年代や地震記事であることに対応した辞書を作成する必要がある.既存の辞書を利用しつつ,ここでの分析の結果を再帰的に反映させることによって,よりよい辞書を作成できるだろう.謝辞:「みんなで翻刻【地震史料】」は京都大学古地震研究会によって公開・運営されている.「みんなで翻刻【地震史料】」では,東京大学地震研究所所蔵の資料の画像データを利用した.「みんなで翻刻【地震史料】」の翻刻は,有志の参加者によって実施されている.
著者
HyeJeong Kim Hitoshi Kawakatsu Takeshi Akuhara
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

Conventional receiver function methods assume horizontal geometry and isotropy for velocity discontinuity analysis. However, in subduction zones, the isotropy assumption unlikely holds. In case of anisotropic velocity or dipping velocity discontinuity P-to-S receiver function show variation by back azimuth (Shiomi & Park, 2008). We employed the harmonic decomposition method (Bianchi et al. 2010, Agostinetti & Miller, 2014) to extract non-isotropic component from receiver functions to image the Pacific plate subduction under Japan. The harmonic decomposition gives five components (isotropic, cos(kθ), sin(kθ) terms for k=1, 2) from linear matrix inversion using radial and transverse receiver functions. The preliminary analysis using data from three Hi-net stations (ANIH, IHEH, KZMH) located along the 40N latitude with varying distance from trench shows following features: (1) Within first harmonics, the EW (sin(θ)) component is larger than the NS (cos(θ)) component at timing of the oceanic Moho phase. This well reproduces westward dipping of the Pacific slab. (2) In upper most crust (0-1 s), amplitude of k=2 harmonics is larger than k=1 harmonics, which implies large horizontal symmetric axis anisotropy. (3) Between continental Moho and top of subducting oceanic crust, large k=1 and k=2 harmonics are observed in mantle wedge . (4) Below subducting oceanic crust, both k=1 and k=2 harmonic components decrease consistently for all three stations, but locally large k=1 harmonics appear. Signature of previously reported hydrated mantle above subducting oceanic crust (Kawakatsu & Watada, 2007) is observed in station ANIH. At later positive peak, large amplitude of k=1 and k=2 harmonics is observed, which might indicate existence of dipping structure having horizontal symmetric anisotropy beneath. Our results show a possibility of applying the harmonic decomposition method to image non-isotropic component of subduction zones using receiver functions.
著者
長谷川 精 吉田 英一 勝田 長貴 城野 信一 丸山 一平 南 雅代 淺原 良浩 西本 昌司 山口 靖 Ichinnorov Niiden Metcalfe Richard
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

Spherical Fe-oxide concretions on Earth, in particular in Utah, U.S.A, have been investigated as an analogue of hematite spherules discovered in Meridiani Planum on Mars, in order to support interpretations of water-rock interactions in early Mars. Although several formation mechanisms have been proposed for the concretions on Earth and Mars, it is still unclear whether these mechanisms are viable because a precise formation process and precursor of the Fe-oxide concretions are missing. Here, we show evidence that Fe-oxide concretions in Utah and newly discovered Fe-oxide concretions in Mongolia, had spherical calcite (CaCO3) concretions as precursors. Observed different formation stages of calcite and Fe-oxide concretions, both in the Navajo Sandstone, Utah, and the Djadokhta Formation, Mongolia, indicate the formation process of Fe-oxide concretions as follows: (1) calcite concretions initially formed by groundwater evaporation within aeolian sandstone strata; (2) the calcite concretions were dissolved by infiltrating Fe-rich acidic waters; and (3) mobilized Fe in acidic waters was fixed to form spherical FeO(OH) (goethite) crusts on the pre-existing spherical calcite concretion surfaces due to the pH-buffering dissolution reaction. The similarity between these Fe-oxide concretions on Earth and the hematite spherule occurrences in Meridiani Planum, combined with evidence of acid sulfate water influences on Mars, suggests that the Martian spherules also formed from dissolution of pre-existing carbonate concretions. Formation of recently discovered spherical-shaped nodules in Gale crater on Mars can also be explained by a similar process, although evidence of acid water influence is not obvious in lower strata of the Gale crater. The hematite spherules in Meridiani Planum and spherical nodules in Gale crater are possibly relics of carbonate minerals formed under a dense thick carbon dioxide atmosphere in the past.
著者
吉田 英一 山本 鋼志 長谷川 精 勝田 長貴 城野 信一 丸山 一平 南 雅代 浅原 良浩 山口 靖 西本 昌司 Ichinnorov Niiden Metcalfe Richard
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

海成堆積岩には,球状の炭酸塩コンクリーション (主にCaCO3)が普遍的に産出する. その形状は多くの場合,球状を成し,かつ非常に緻密で風化にも強く,またその内部から保存良好の化石を産する. しかし,なぜ球状をなすのか,なぜ保存良好な化石を内蔵するのかなど,その形成プロセスはほとんど不明であった.それら炭酸塩球状コンクリーションの成因や形成速度を明らかにすることを目的に,国内外の試料を用いて,産状やバリエーションについての多角的な調査・解析を行ってきた.その結果,生物起源の有機物炭素成分と堆積物空隙水中のカルシウムイオンが,急速(サイズに応じて数ヶ月~数年)に反応し,炭酸カルシウムとして沈殿しつつ成長していくことを明らかにした(Yoshida et al.,2015, 2018a).そのプロセスは,コンクリーション縁(反応縁)の幅(L cm)と堆積物中での重炭酸イオンの拡散係数(D cm2/s)及び反応速度(V cm/s)を用いてD = LVと単純化できることから,海成堆積物中の球状コンクリーションに対し,汎用的にその形成速度を見積もることができる(Yoshida et al.,2018a,b).また,風成層中においては,アメリカ・ユタ州のナバホ砂岩層中の球状鉄コンクリーションがよく知られているが,ゴビ砂漠やヨルダンの風成層中からも産出することを初めて確認した.これらの球状鉄コンクリーションは,風成層中の空隙水の蒸発に伴って成長した球状炭酸塩コンクリーションがコアとなり,鉄を含む酸性地下水との中和反応によって形成されることを明らかにした(Yoshida et al.,2018c).さらに,このような酸性水と炭酸塩との反応は,火星表面堆積層中で発見された球状鉄コンクリーションの生成メカニズムと同じである可能性がある(Yoshida et al.,2018c).本論では,これら球状の炭酸塩および鉄コンクリーションの形成メカニズムと,将来的な研究の展開について紹介する.