著者
矢萩 智裕 宮川 康平 川元 智司 大島 健一 山口 和典 村松 弘規 太田 雄策 出町 知嗣 三浦 哲 日野 亮太 齊田 優一 道家 友紀
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2014年大会
巻号頁・発行日
2014-04-07

国土地理院では全国に約1,300点のGNSS連続観測施設(電子基準点)を設置し,1HzサンプリングのGNSS連続観測を実施している.データ取得及び解析系まで含めた一連のシステムはGEONET(GNSS連続観測システム)と呼ばれ,GEONETで得られた観測データや解析結果等は,我が国の位置の基準を定める測量や地殻変動監視,高精度測位サービス等の幅広い分野で利用されており,現代社会を支えるインフラの一つとしての役割を担っている.防災面においても,これまでGEONETは地震や火山活動に伴う地殻変動の検出等で大きな貢献を果たしており,平成23年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)後には,短周期地震計等により推定された地震発生直後の地震規模が過小評価だったことを踏まえ,より信頼度の高い津波警報初期値への利用を視野に,GEONETのリアルタイムデータを用いた地殻変動結果による地震規模の即時推定技術について大きな期待が寄せられているところである.このような背景を踏まえ,国土地理院では,平成23年度から東北大学との協同研究の下,新たなGEONETのリアルタイム解析システム(REGARD:Real-time GEONET Analysis system for Rapid Deformation Monitoring)の開発を進めてきた.REGARDでは,GEONETで収集されたデータをRTKLIB 2.4.1(Takasu, 2011)をベースとした解析エンジンで処理し,RAPiDアルゴリズム(Ohta et al., 2012)又は緊急地震速報(Kamigaichi et al., 2009)を用いて検知された地震発生に伴う各電子基準点の変位量を入力値として矩形断層モデルの即時自動計算(西村, 2010)を実行することで,地震規模が推定される.平成24年度からは東北地方を中心とした143観測点によるプロトタイプ版を開発して連続稼動の試験運用を実施するとともに,GEONET運用後に発生した過去の大規模地震時の観測データ等を利用したシステムの能力評価を行ってきた.一例として,平成23年東北地方太平洋沖地震のケースでは,推定される矩形断層モデルとCMTとの比較では位置及びメカニズムに若干の差異はあるものの,地震発生から約3分でMw8.9を推定可能であること,Mw7.5を下回る規模の地震の場合にはS/N比が低くなり推定精度が落ちること等が明らかとなった.平成25年度には,プロトタイプシステムをベースに,解析範囲を全国の電子基準点に拡大するとともに,解析システムをGEONET中央局内で二重化すること等により冗長性を高めた新たな全国対応システムを構築した.また,解析設定ファイル作成や結果ファイル閲覧等の支援機能についても追加で実装している.同システムについて平成26年4月から本格的な運用に向けた試験を開始している.本講演では,過去の観測データから得られた検証結果及び全国対応システムの概要を報告するとともに,将来的な津波警報への活用に向けた取り組みや課題について報告する.
著者
丸山 茂徳 戎崎 俊一 大島 拓
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

生命の起源は、おそらく生物学者だけでは解けない問題だろう。この問題は、生物学のみならず、天文学、地球物理学、化学、地質学などを総動員した超学際研究によってのみ解明できるはずである。われわれは、地球史研究を通して、生命を育んだ器としての地球の歴史を、横軸46億年研究と特異点研究の2つの手法を利用して解明してきた。そこから導かれる生命誕生場はどのようなものであり、最初の生命はどのようなものだったのかをまとめたのが、地球生命誕生の3段階モデルである。本モデルでは、生命は、第一次生命体、第二次生命体を経て第三次生命体(原核生物)が誕生したことを提唱する。以下に、各段階における生命体について詳述する。第一次生命体は、それぞれの個体そのものだけでは生存できなかったが、多数が外部共生することによって生き延びることが可能であった生物群だと考える。第一次生命体が持っていたワンセットの遺伝子をミニマム遺伝子と考える。おそらく、ミニマム遺伝子は約100個の遺伝子からなっており、「膜+代謝+自己複製」を可能にした。しかし、生存するためには細胞外共生をする必要があった。当時、ミニマム遺伝子の周囲には、この微小生態系の100倍以上の量のオルガネラ(現代のウイルスに酷似の状態)が存在していたが、これらの微小生態系が活動するためには、連続してエネルギーを供給することが必要で、当時の冥王代地球表層では太陽エネルギーが利用できなかった。その代わりに、地下の自然原子炉から供給される強力なエネルギーによって地表と間欠泉内部をつなぐ環境でのみ存在が可能だった。自然原子炉間欠泉は、熱湯が周期的に噴出するため、内部の温度は100℃が上限がとなる。従って、高温によるRNAの損傷を受けることは少なかった。 間欠泉から地表に投げ出される第一次生命体は、地表に降り注ぐ原始太陽風(現在の1000倍の放射線)によって分解され死滅する。それによって、これらはタールと化す。冥王代表層環境の厚い大気(CO2100気圧)が薄くなり、次第に太陽が顔を出し始めると、可視光(太陽エネルギー)を利用することができるようになった新しい生命(第2次生命体)が生まれる。これは地下の自然原子炉間欠泉で生まれた第一次生命体を基本とし、太陽からの弱い電磁エネルギーを利用するために、半導体(FeSなど)を利用した反応システムを創り出した。第一次生命体に引き続き、第二次生命体も無限に近い種類のアミノ酸の高次有機物からできるので、第二次生命体の多様性はさらに増加し、種類は無数にあったと考えられる。第二次生命体も細胞外共生していた。原始海洋は猛毒(pH<1、超富重金属元素濃度、塩分濃度は現在の5-10倍)である。したがって、淡水をたたえる湖沼環境で生まれた第二生命体は、原始海洋に遭遇すると大量絶滅する。大陸内部のリフト帯の湖沼環境で生まれた生命体は、リフトが割けて海洋が浸入することによって大量絶滅を起こすことになる。このプロセスが何度も繰り返され、幾度となく第二次生命体は大量絶滅を経験する。一方、プレート運動によって、海洋の重金属は鉱床として硫黄とともに固定され、マントルへプレートと共に沈み込むことによって海洋から取り除かれていった。更に、陸地の風化浸食運搬作用によって、細かく砕かれた大陸の岩石と海洋が反応することによって、海洋の中性化が進む。このように浄化されていった海洋にやがて適応した生命体は遺伝子の数を桁違いに増加して、細胞壁を作り、耐性強化した。これが真正細菌でシアノバクテリアの起源だと考えられる。 こうして、原始生物は、生き延びるための防御構造を、次々と発明して、遺伝子数を急増させた。理論的に可能なアミノ酸の種類はほぼ無限(1020)に近いが、現代地球の生物は20種類のアミノ酸だけを使う。これは、第二次生命体が、無限に近い種類のアミノ酸を組み合わせたものであったが、猛毒海洋への適応戦略で淘汰された結果であろう。これが地球型生命体の起源である。
著者
上条 藍悠
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-05-11

山脈周辺のAMeDASでは平地部よりも早い時間に降水を観測していた.そこで山脈周辺の相当温位場の解析とタイムラプスカメラによる雲の様子の撮影を行った結果、日中斜面が日射によって加熱されることにより山脈付近で上昇流が発生していることが分かった.動画中での雲の流れに疑問を持ちAMeDASのデータを集め解析すると夕立のあった日では午後地上で熱的低気圧による海風である日本海側からの北風と広域の南風がぶつかる収束線がある場合が多く、その収束線に沿って東西方向の雲列が発生し平地部に夕立をもたらしていることが分かった.また地上風の様子より山脈上に発達した対流雲が盆地底部上空の雲列へもたらす影響もあると思われる.
著者
小林 昭夫
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

南海トラフ沿いでは長期的スロースリップイベント(SSE)や短期的SSEなどのスロー地震が発生しており、その分布や規模、発生頻度などを把握することは、プレート境界の特性の時空間変化に関する理解をもたらすことが期待される。特に長期的SSEの発生領域は将来の巨大地震に関連する固着域に隣接しており、短期的SSEと比較して規模も大きい。SSEの分布や発生頻度、規模などの情報は地震発生シミュレーションの再現対象にもなっており、より現実に近いモデルを構築する上でもSSEの詳細な把握は重要である。GEONETのF3解座標値を用い、各点についてアンテナ交換などによるオフセット、地震によるオフセット、年周・半年周成分、直線トレンドの補正を行った。アンテナ交換などに伴うオフセットは、国土地理院による値(corrf3o.dat)を用いた。地震によるオフセットは、地震をはさむ前後10日間の平均値の差から求めた。非定常変位が小さく、2011年東北地震の余効変動が続いているため、2017年6月から半年間の変位から前年同期間の変位を差し引いた。余効変動はこの1年間であまり変化がないため打ち消され、前年の変動とは異なる非定常変動のみが抽出される。その結果、志摩半島に5mm程度の南東向きの動きが見られた。なお同様に処理した2017年前半には志摩半島に動きは見られない。志摩半島の北西にあたる丹後半島付近との基線長を見ると、志摩半島の志摩、南伊勢など数点には2017年後半から伸びが見られる。志摩半島数点の周囲の点と丹後半島付近との基線長には特に傾向の変化は見られないため、2017年後半からの基線長の伸びは志摩半島側の非定常変位によると考えられる。変化は一時的なオフセットや短期的SSEによるものではなく、複数点に見られていることから、原因として長期的SSEが考えられる。2017年6月から半年間の変位(前年同時期除去)を用いて大域的探査法により矩形変動源を推定したところ、志摩半島に断層が推定され、すべりの規模はMw6.0相当であった。すべり領域の中心の深さはプレート等深線25km付近にあり、南海トラフ沿いの他の長期的SSEと同程度の深さである。まだ長期的SSEとしては小規模であるが、志摩半島での発生とするとGNSSの観測開始以来初めてであり、今後の推移に注目したい。本調査には国土地理院GEONETの座標値およびオフセット値を使用させていただきました。 上図:若狭湾付近と志摩半島との基線長変化(トレンド、年周補正、11日移動平均)下図:2017年6~12月の変位から2016年6~12月の変位を差し引いた水平変位(赤)とその値をもとに大域的探査法により推定した矩形断層による理論変位(黒)
著者
星野 健 大竹 真紀子 唐牛 譲 白石 浩章
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Introduction:Recently, it has been suggested that water ice might be present in the lunar polar region based on spectral measurements of artificial-impact-induced plumes in the permanently shadowed region, and remote sensing observation of the lunar surface using a neutron spectrometer [1], [2] and visible to infrared spectrometer [3]. In addition to the scientific interest about the origin and concentration mechanism of the water ice, there is strong interest in using water ice (if present) as an in-situ resources. Specifically, using water ice as a propellant will significantly affect future exploration scenarios and activities because the propellant generated from the water can be used for ascent from the lunar surface and can reduce the mass of the launched spacecraft of lunar landing missions.However, currently it is unclear if water ice is really present in the polar region because of the currently limited available data. Therefore, we need to learn that by directly measuring on the lunar surface. If there is water ice, we also need to know it’s quantity (how much), quality (is it pure water or does it contain other phases such as CO2 and CH4), and usability (how deep do we need to drill or how much energy is required to derive the water) for assessing if we can use it as resources. Therefore, JAXA is studying a lunar polar exploration mission that aims to gain the above information and to establish the technology for planetary surface exploration [4]. JAXA is also studying possibility of implementing it within the framework of international collaboration with Indian Space Research Organisation (ISRO).Spacecraft configuration:The spacecraft system comprises a lander system and a rover system. The system does not have a communication relay satellite but is based on direct communication with the Earth. The minimum target for the landing payload mass is several-hundred kilograms. The launch orbit is the lunar transfer orbit (LTO). After the spacecraft reaches the Moon it is inserted into a circular orbit having a 100km altitude via a few orbital changes. During powered-descent phase, the position of the lander is estimated by landmark navigation using shadows created by the terrain. After landing, the rover is deployed on the lunar surface using ramps. The rover then prospects water ice with its observation instruments..Spacecraft configuration:The spacecraft system comprises a lander system and a rover system. The system does not have a communication relay satellite but is based on direct communication with the Earth. The minimum target for the landing payload mass is several-hundred kilograms. The launch orbit is the lunar transfer orbit (LTO). After the spacecraft reaches the Moon it is inserted into a circular orbit having a 100km altitude via a few orbital changes. During powered-descent phase, the position of the lander is estimated by landmark navigation using shadows created by the terrain. After landing, the rover is deployed on the lunar surface using ramps. The rover then prospects water ice with its observation instruments..Landing site selection:Considering the mission objectives and condition of the lunar polar region, we listed the following parameters as constraints.- Presence of water- Surface topography- Communication capability- Duration of sunshineAs a first trial of the landing site selection, sunshine is simulated using digital elevation models to obtain the sunlight days per year and the number of continuous sunshine periods at each site. Also, slope and the simulated communication visibility map from the Earth are created. These conditions can be superimposed to select the landing site candidate.Current status:Recently, we finished joint mission definition review (JMDR) with ISRO, in which JAXA provide a launch rocket and a rover while ISRO provide a lander system. Related to the instruments which will be carried on the rover or the lander, JAXA selected several candidate instrument study teams for accelerating development of these instruments. In this presentation, we are going to introduce current status of the mission planning.References:[1] Feldman W. C. et al. (1998) Science, 281, 1496-1500.[2] Sanin A. B. et al. (2017) Icarus, 283, 20-30.[3] Pieters C. M. et al. (2009) Science, 326, 568-572.[4] Hoshino T. et al. (2017) 68th IAC, IAC-17-3.2B.4.
著者
冨永 紘平 久田 健一郎 上野 勝美
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

西南日本内帯の秋吉帯に分布するパンサラッサ海起源の海山型石灰岩には,石炭紀最後期–ペルム紀再前期に北方型要素を伴う造礁生物群集が記録されている.Nakazawa et al. (2011) は,それをもとにパンサラッサ海の熱帯–亜寒帯地域でのゴンドワナ氷床の発達に伴った寒冷化の影響を議論した.しかしながら,この群集が当時のパンサラッサ海の中でどれくらいの地理的な広がりを持っていたのかは明らかにされてこなかった.本研究では,ジュラ紀付加体コンプレックス中に分布する叶山石灰岩において堆積相および生相を記載し,それをもとにパンサラッサ遠洋域における北方型群集の空間的な広がりを考察する.叶山石灰岩は関東山地の秩父帯北帯ジュラ紀付加コンプレックスの蛇木ユニットに属しており(Kamikawa et al., 1997),蛇木ユニットの泥岩からは前期ジュラ紀の放散虫化石が報告されている(久田・岸田, 1987).叶山石灰岩からは後期石炭紀Moscovianから中期ペルム紀Wordianのフズリナ化石が産出しているが(例えば高岡, 1977),本研究で扱った叶山鉱山内のセクションからはDaixina sokensisや “Pseudofusulina” kumoasoanaなど概ね石炭紀末のGzhelianを示すフズリナ化石が得られている.また,叶山石灰岩南縁付近の泥岩中には玄武岩のブロックが含まれており,海洋島玄武岩と類似した全岩化学組成を示す.叶山石灰岩は明灰色,塊状の石灰岩で,algal bafflestone(MF1),microbial bindstone(MF2),crinoidal packstone-rudstone(MF3),fusuline packstone(MF4),wackestone-mudstone(MF5),bioclastic grainstone(MF6),oolitic grainstone(MF7)の7種類の微岩相が識別された.生物による結合組織が観察されるMF1,MF2は,石灰藻AnthracoporellaやPalaeoaplysinaが生息時の姿勢を保った状態で保存されており,石灰質微生物であるArchaeolothoporellaやTubiphytesによって結合されている.生物骨格の間を埋める堆積物は,石灰泥のほか生砕物,ペロイドを含み,セメントが発達する空間も存在する.MF3–5は石灰泥を豊富に含む堆積物であり,ウミユリ骨片やフズリナを中心とした生砕物を含む.一方で,MF6とMF7は石灰泥を欠き淘汰の良い砂サイズの粒子の間にはセメントが発達する.叶山石灰岩には外洋に面した礁斜面が崩壊・再堆積したことを示す巨大な角礫状のイントラクラストや混濁流による級化構造が存在しないことから,いずれの岩相も背礁環境の堆積物に相当すると考えられる.MF1–5は礁湖堆積物に相当し,MF1とMF2は礁湖にパッチ状に存在する石灰藻や微生物によるマウンドであると考えられる.一方で, MF6とMF7は,波浪の影響を受ける砂堆堆積物である.叶山石灰岩のMF1,MF2の産状から,AnthracoporellaおよびPalaeoaplysina等の石灰藻がバッフラー,ArchaeolithoplrellaやTubiphytesといった石灰質微生物がバインダーの役割を果たしていたであろう.これらの群集は秋吉石灰岩のPalaeoaplysina-microencruster群集(Nakazawa et al., 2011)と類似している.石炭紀末から前期ジュラ紀にかけてのイザナギプレートの移動速度(Müller et al., 2016; Matthews et al., 2016)に基づくと,叶山石灰岩はパンサラッサ海を5,000 km以上移動してきたことになる.秋吉帯ペルム紀付加コンプレックスの泥岩の年代は中期–後期ペルム紀のWordianからWchapingian(260–270 Ma)であるとされており(Kanmera et al., 1990),秋吉石灰岩は石炭紀末から沈み込みまでの期間はわずか40万年程度であると推定できる.よって,石炭紀末には叶山石灰岩よりも沈み込み帯により近い場所に存在していたと推定される.本研究により,秋吉帯の海山起源石灰岩だけでなく,秋吉石灰岩と離れた位置に存在した叶山石灰岩からも Palaeoaplysinaから成る造礁生物が見られた.このことから,Palaeoaplysina-microencruster群集は石炭紀最後期からペルム紀再前期にかけてパンサラッサ海に広く分布した群集であったと考えることができる.
著者
Bahareh Kamranzad Nobuhito Mori
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Indian Ocean experiences intensive tropical cyclones in both northern and southern parts. The Northern Indian Ocean (NIO) includes 7% of the global tropical cyclones which results in generating severe wave climate during the extreme events. In this study, future change of tropical cyclone-induced waves due to climate change is assessed in terms of change in the spatial distribution patterns and magnitude. The cyclone seasons in NIO are divided by pre-monsoon (especially May) and northeast monsoon (October–December). Moreover, there are few cyclones form the southwest monsoon during June and September. Hence, the assessment of future change of intensity of tropical cyclones and the generated waves is necessary to be performed on a monthly scale. For this purpose, wind field obtained from super-high-resolution atmospheric global climate model MRI-AGCM3.2S of the Japan Meteorological Agency (JMA) -with horizontal spatial and temporal output resolutions of 20 km and 1 hr., respectively- was used to force a numerical wave model (SWAN) in historical (1979-2003) and future (2075-2099) periods (based on Representative Concentration Pathway (RCP) 8.5 scenario).Spatial distribution of annual extreme events in the domain shows that the concentration of tropical cyclones is in the NIO and around Madagascar (located in the Southern Indian Ocean (SIO)) generating high waves of the magnitudes of around 20 m during the events. Spatial distribution of monthly maximum values of the historical and future wind speed (WS) and significant wave height (SWH) indicates that according to historical projection, intense cyclones happen during May and June in NIO, while they can be observed mostly during December to April in the SIO. The future monthly distribution of cyclone induced waves in SIO shows a similar pattern to the historical events, except for winter tropical cyclones (November and December), which are decreased in the future, while increasing in the intensity can be observed during October and April in NIO.Monthly variation of maximum events in the domain was assessed in the NIO and SIO, separately. According to the past studies, due to the global warming, tropical cyclones of hurricane intensity -which currently occur only in the pre and post-monsoon seasons- will likely be formed even during the summer monsoon in NIO. Our results illustrate an increase in the intensity of cyclones in the future, not only during the summer monsoon (July) but also during the winter monsoon (September and October). Results show that the range of change in the highest SWH in NIO is between -27% (in February) and +26% (in October). In the northern part of SIO, the intensity of future tropical cyclones will increase during the southwestern inter-monsoon season (March and April), whereas it will decrease at the end of southwestern monsoon season (September). In the southern part of SIO, the intensity of tropical cyclones will increase around 20% during northeastern monsoon (February and March), which results in a future increase of 40% in maximum SWH in February. Generally, change in highest SWH in the future follows the pattern of WS except for the northern parts of SIO when the highest increase in maximum SWH (21%) occurs in March whereas the highest increase in maximum WS occurs in April (25%). There is a 20% increase in maximum WS during February in southern parts of SIO which can be a reason for the increase of SWH during March in northern parts. It can be concluded that the change in the intensity of future tropical cyclones in NIO is higher than SIO. The range of change in highest SWH in NIO is larger than SIO, except for February when the maximum wave height in southern parts of SIO will increase about 40% in the future. Furthermore, the change in maximum SWH in northern parts of SIO seems to be affected by the change of tropical cyclones in southern parts of SIO.
著者
山内 啓之 小口 高 早川 裕弌 飯塚 浩太郎
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-05-17

Free and open source GIS software has been utilized for GIS education all over the world. However, as far as we recognize, GIS education in many Japanese universities underutilize such software packages. Therefore, we developed GIS exercise materials explaining spatial data analyses using free and open-source GIS. We have been providing these materials for higher education and designated them as the GIS Open Educational Resources. We used the materials in a university exercise class, which was held as an intensive course for three days at The University of Tokyo. During the exercise, we have conducted questionnaire surveys to clarify the three criteria: difficulty, understanding and satisfactory levels of the students. The results showed that the students felt difficulty in some situations such as the utilization of GIS for the first time and complex operations using different types of data. The contents of the exercise syllabus and materials were improved based on the feedback. We conducted another GIS exercise class at the university to verify the utility of improvements. In this presentation, we show the improvements in the exercise syllabus and the comparison of educational effects on students before and after the improvements.
著者
宋 苑瑞 西浦 忠輝 小口 千明
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

沖縄の首里城公園内にある園比屋武御嶽石門は「琉球王国のグスクおよび関連遺産群」の一カ所として2000年に世界遺産に登録された.石門とその奥の森を園比屋武御嶽といい,琉球王国の国王が外出するときに安全を祈願する礼拝所として使われてきた.1519年に琉球石灰岩で建てられ,1933年には旧国宝に指定されたが沖縄戦で大破され,1957年に復元された後に解体修理し1986年に完成し,1972年国指定建造物になった.解体修理時には古い屋根石を使用したが,この際にクリーニングや撥水性シリコーン樹脂の含浸や表面の穴埋めを行った.現在は図1でも確認できるように,石門全体の色は黒っぽくなり,屋根(右側が古屋根材を使用したところ)の部分の穴埋め箇所とオリジナル石材とは色の差も目立つようになっている.穴埋めとシリコーン樹脂塗布から30年後の状況を色彩計を用いて定量的に把握し,今後の修理処置に役立てられることを本研究の目的とする. 修復された屋根の表面の色や石門の全体的な色の把握するために,石門の表面の51か所で分光測色計(コニカミノルタ社製,CM-700d,測定径Φ8mm)を用いて定量的測定を行った.この測定器は,測定時間はわずか1秒程度で,簡便に携帯できる特徴があり,多様な分野で使用されている.石門の正面から見た際に黒色化した部分の割合をPhotoshopを用いて求めた.石門の表面温度を測定擦るため,FLIR社製の熱カメラを用いて,表面の温度分布を把握した.一年中の気温と湿度の変化を把握するために,那覇市市民文化部文化財課の許可を得て,ボタン型温湿度測定器(ハイグロクロン)を石門の南側の左上の方に設置し,観測を行った. 分光測色計による測定の結果,修復当時は石灰岩の色が明るく,屋根部分に修復材とほぼ同じ色だったが,30年後は変色速度や状況が異なり,修復材の方は灰色に,本来の石材はより黒色になっている箇所が多かったことが分かった.園比屋武御嶽石門の屋根の下で観測された年間平均気温は24℃,平均湿度は81.5%で,高温多湿な亜熱帯気候の特徴が見られた.冬季の平均気温も22.1℃で,湿度も80%に至り,最低気温も8.5℃だった.そのため,植生の成長がとても速く,建物の表面の色に影響を与えた可能性がある.
著者
武村 俊介 松澤 孝紀 野田 朱美 利根川 貴志 浅野 陽一 木村 武志 汐見 勝彦
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

沈み込みプレート境界浅部で発生するスロー地震は、プレート境界の摩擦状態などの構造的特徴を知る鍵となる(例えば、Saffer and Wallace, 2015 Nature Geo.)。本研究では、室戸岬沖から紀伊半島南東沖にかけての領域で発生した浅部超低周波地震に着目し、浅部超低周波地震の活動の空間変化から発生域の構造的特徴を明らかにすることを目的とする。Asano et al. (2008 EPS)の手法で得られた浅部超低周波地震の検知時刻周辺を解析時間窓として、周期20-50秒の帯域のF-net速度波形に対してTakemura et al. (2018 GRL)のCMT解析を行い、浅部超低周波地震の発震時刻、震央位置、地震モーメントおよび震源時間関数のパルス幅を推定した。CMT解析のためのGreen関数は、Takemura et al. (2019 PAGEOPH)の3次元不均質構造モデルを仮定した地震動シミュレーションにより評価した。2003年6月から2018年5月の期間に検知された浅部超低周波地震に対してCMT解析を行ったところ、室戸岬沖、紀伊水道沖および紀伊半島南東沖のトラフ軸付近に低角逆断層の解が多く推定された。得られたCMTカタログから、それぞれの領域における積算モーメントを評価し、その空間変化を調べた。室戸岬沖、紀伊水道沖および紀伊半島南東沖の領域で積算モーメントが高く、紀伊半島南方沖では小さいことがわかった。浅部超低周波地震の活動域の構造的特徴を明らかにするため、得られた積算モーメントの空間変化と、すべり欠損速度(Noda et al. 2018 JGR)およびS波速度構造(Tonegawa et al. 2017 Nature Comm.)を比較した。浅部超低周波地震の積算モーメントが高い領域は、すべり欠損速度が大きい領域の周囲に位置し、プレート境界直上に顕著な低速度領域が存在することがわかった。低速度領域から流体の存在が示唆され、浅部超低周波地震の発生は流体とすべり欠損速度の両方が鍵をにぎると考えられる。謝辞F-netの広帯域速度波形記録を使用しました.スロー地震学のスロー地震データベースよりカタログをダウンロードしました(Kano et al., 2018 SRL).地震動計算には地球シミュレータを利用しました.
著者
小宮 剛
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

日本で近代科学が産声をあげて約150年、この間、日本の研究者は公的資金を用いて国内外から、非常に多くの地球試料や隕石、地質・地形情報など(宇宙・地球研究資料)を集めてきた。しかし、博物学が重要な位置付けを占める欧米と異なり、日本では研究のために資料を保管し、キュレーションするといった設備の整備が極めて立ち遅れている。そのため、学術的価値の高い試料や大きな発見につながった科学的遺産試料でさえ放置・紛失・廃棄されてきた。さらに、開発や紛争などによって試料採取が不可能になるケースや各国で岩石・生物・化石試料の採取や輸出が制限されるケースが年を追うごとに増加し、研究試料の確保の困難が浮き彫りになってきた。 しかし、カンブリア爆発を創出したバージェス頁岩や最近注目を集める希土類元素に富む深海泥の研究は、30〜50年もの長い間、公的機関に保管された試料の研究から始まっている。さらに、現時点では不可能な古代ゲノム研究、岩石・化石試料の超微量分析、東日本地震を引き起こした断層岩の極微量・微小解析なども、急速に進歩する研究技術の進展を考えると、近い将来可能となることが期待されるが、その時には対象の試料を確保することがもはやできないといった問題に直面することが危惧される。 また最近、科学の社会的還元や信頼性の保証のため、論文やデータのオープンアクセス化やデータの元となった資料の保管の必要性がヨーロッパ諸国から強く唱えられ、今や中国さえもそのような国際的な取り組みに主体的に参加する大きな潮流が生まれている。しかし、日本では、このような世界的動向に主導的に参画するための基盤的設備が立ち遅れてしまっている。 我々は、現在、分散保管されている宇宙・地球研究資料を一つのプラットフォームでアーカイブし、公開・キュレーションすることと、それらを保管する施設を建設することを提案する。過去に採取した試料を保管することは一見、生産性が無く、浪費と見なされがちであるが、上述の深海泥を採取するには30以上の航海を必要とし、多大な費用がかかり、今や現実的でない。さらに、基本記載の済んだ資料は研究の進展を迅速にする。つまり、将来の研究のために資料を保管することは金銭的にも十分見合う投資となる。そこで、我々はそのような保管・頒布体系を早急に構築することで、100年後を見据えた科学の発展に寄与することを目指す。 実施主体:産総研・地質調査所。提案・支援機関:地質学会、国立極地研究所、国立科学博物館、海洋研究開発機構、神奈川県立博物館、各大学の地球惑星関連専攻、各自然史系博物館など。事業期間は10年間で、その後は地質調査所の敷地内で保管する。費用は、施設費に100億円、アーカイブ化のため、各大学に人員を配置する人件費として200億円を見込む。
著者
丹羽 達哉 山下 聡 八久保 晶弘 小西 正朗 坂上 寛敏 仁科 健二 南 尚嗣
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

オホーツク海網走沖におけるメタンハイドレート(MH)の存在の可能性については,我が国が世界に先駆けてMHの資源化プロジェクトを立ち上げた1995年当時,網走沖の北見大和堆にはBSR(海底擬似反射面)らしき反射面が存在すると指摘されたのが始まりである。また,産業技術総合研究所が2001年に実施したGH01航海では,網走沖に顕著なBSRを確認している。この海域から採取した表層柱状試料では,ガスを含むことによる膨張や断裂などの特徴を示しており,海底表層部にMHが存在する可能性が強く示唆された。その後,MHを対象とする継続的な調査は行われていなかったが,2011年に北見工大と東京大学との共同での調査を開始し,2012年の東京海洋大学練習船「海鷹丸」による調査において,網走沖で初めてMHが採取された。その後は,本学が主体となって北海道大学練習船「おしょろ丸」による調査や海洋研究開発機構調査船「なつしま」による調査など継続的に調査を行っている。しかし,調査内容の主体は,計量魚群探知機やマルチビーム音響測深機によるガスプルームや海底地形観測,シングルチャンネル音波探査,サブボトムプロファイラー等の音波探査装置による海底下構造調査,コアラーによる海底堆積物の採取など,洋上からの調査が主体であり,海底面における湧出ガスやMHの胚胎状況などの目視観測は行ってはいなかった。そこで,2017年7月に第一開洋丸(海洋エンジニアリング(株))搭載の遠隔操作無人探査機(ROV;KAIYO 3000)により,北海道網走沖のオホーツク海の水深550m程度の海山頂部および水深750m程度の海底谷の2地点において潜航調査を行った。調査の結果,湧出口は狭い範囲に多数確認され,多量のガスが噴出している様子を撮影することに成功した。また,湧出ガスを漏斗状の容器で捕集し,漏斗上部に取り付けた圧力容器で湧出ガスを直接回収した。さらに,噴出孔付近をROVのマニピュレータで掘削したところ,ガスとともにメタンハイドレートの小片が上昇する様子も見られ,メタンハイドレートが表層付近から存在していることも確認された。調査地点一帯には,多数のバクテリアマットが観察されるとともに,カーボネートの集合体も多数確認された。カーボネート集合体やガス湧出口付近には多くのカニ類も観察され,また,メタン湧出域で生息するシロウリガイと思われる二枚貝の生体個体も採取された。また,潜航調査での撮影画像から,水深550m程度の海山頂部の200×100mの範囲内におけるガス湧出量の概算も行った。調査範囲内において,20か所程度のガス湧出地点が確認され,各地点での湧出口は1か所の場合や複数の湧出口が密集している場合などさまざまであった。湧出ガス量を算定したところ,5m程度の湧出口密集範囲での1年間の湧出量は170,000m3程度と算定された。この量はガス価に換算すると400万円程度であった。また,範囲内全体での湧出量は1,000,000m3,ガス価で2500万円程度と見積もられた。
著者
吉田 聡
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

2018年7月豪雨は気象庁が豪雨発生前の7月5日14時に「西日本と東日本における8日頃にかけての大雨について」という報道発表を行っており、実際の雨も8日まで持続した。本研究では気象庁週間アンサンブル予報データと気象庁長期再解析データJRA-55を用いて、梅雨前線の形成要因である対流圏中層ジェットと下層水蒸気フラックスに着目し、この豪雨の始まりと持続の予測を左右した要因について解析した。豪雨発生期では、対流圏中層ジェットの南下の予測可能性が低く、予測のばらつきが小さくなったのは6月30日以降であった。これは中国大陸から伝搬してくるトラフの発達が関係していた。一方、対流圏下層水蒸気フラックスはその時点では東シナ海に流れ込む予測で、7月1日に台風7号の位置が定まった時点で西日本への流入が予測された。しかしまだ豪雨の持続と終息時期については、バイアスと不確実性が大きく、中層ジェット、水蒸気フラックスともに7月2日まで予測精度が低かった。特に水蒸気フラックスについては、台風7号の発達とユーラシア大陸上からのリッジの伝搬が関係しており、予測を難しくしていた。
著者
関澤 偲温 宮坂 貴文 中村 尚 Akihiko Shinpo Kazuto Takemura 前田 修平
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

Western Japan experienced torrential rainfall in early July 2018, which caused severe floods and landslides especially over western Japan. Japan Meteorological Agency (JMA) reported that this extreme event was associated with extreme enhancement of northward moisture flux and its convergence over western Japan. Some recent studies have pointed out an essential role of surrounding oceans for extreme rainfall events through the anomalous heat and moisture supply to the warm, moist monsoonal airflow. This study investigates anomalous oceanic evaporation during the torrential rainfall event over western Japan based on the objective analysis data from the JMA Meso-Scale Model. We have found that the heavy rainfall was associated with enhanced oceanic evaporation extensively around Japan, especially along the Kuroshio and entirely over the Japan Sea. We then conducted a linear decomposition of local surface latent heat flux anomalies based on the bulk formula to determine factors for the enhanced evaporation. Our results show that the enhanced evaporation under the pronounced southerly inflow toward the extreme rainfall region was mainly due to increase in the surface wind speed along the Kuroshio south of Japan, with an additional contribution from warm SST anomalies to the enhanced moisture inflow into central Japan. In order to quantitatively assess contribution of the enhanced evaporation to anomalous moisture transport in the mixed layer, we also performed a backward trajectory analysis for moist air parcels. It reveals that anomalous moisture supply from the ocean to air parcels along trajectories is dominated by enhanced evaporation due to the stronger surface wind speed, which corresponds to about 20 % of the column water vapor anomaly and about 5 % of the total column water vapor.
著者
大木 聖子 永松 冬青 所 里紗子 山本 真帆
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

本発表では,高知県土佐清水市立清水中学校にて実践されている「防災小説」の効果について考察を行う.筆者らは2016-2017年度の2年間,清水中学校にて防災教育の実践研究を行ってきた.土佐清水市は,2012年に内閣府から発表された南海トラフ巨大地震の新想定で最大34m以上という全国一の津波高が算出された地域である.これを受けて地域住民からはあきらめの声も聞こえていたが,清水中学校が始めた「防災小説」作りはこの絶望的な状況を打破しつつある.「防災小説」とは,近未来のある時点で南海トラフ巨大地震が発生したというシナリオで,生徒ひとりひとりが自分が主人公の物語を800字程度で執筆したものである.発災後のどの時点を綴ってもいいが,物語は必ず希望をもって終えなければならない.この「防災小説」は,執筆した生徒自らの変化をもたらしただけでなく,教員・保護者・地域にも大きな影響を与えた.なぜいわば架空の物語にすぎない「防災小説」がこれだけの影響力を持つのかを探るべく,防災小説の分析と並行して,その後の生徒や教員・保護者の行動変容を一年間にわたって追跡することで,防災小説の理論的考察を行った.結論から言うと,「防災小説」には大きく2つの効果があった.ひとつは,防災の範疇を超えて生徒たちが自己実現を果たすことに寄与した点,もうひとつは,生徒自身やその周辺を含むコミュニティを防災の理想的な状態に先導した点である.「防災小説」はナラティヴ・アプローチの防災分野への応用と位置づけられる.内閣府の発表した新想定はドミナント・ストーリーに相当し,事態の硬直化を招いている.防災小説が,南海トラフ巨大地震が発生したときの描写を「最後は必ず希望を持って終える」物語として綴られたものであることを考えれば,まさにこれがオルタナティヴ・ストーリーとなり,硬直化した事態を解消しつつあると説明できる.また,防災小説は小説の中では過去であっても実際には未来に相当する地震発生までの期間をどのように過ごすべきかを,自ら綴った言葉で制約している(ナラティヴの現実制約作用).「防災小説」執筆後の防災教育活動やひいては日常生活にも良い影響がもたらされたのは,自分で具体的に描写した目指すべき自分像を,生徒ひとりひとりが持ったことによると考察できる.矢守・杉山(2015)は,もう起きたことをまだ起きていないかのように語る「Days-Beforeの語り」と,まだ起きていないことをもう起きたかのように語る「Days-Afterの語り」という概念を導入し,両者が両立されたとき「出来事の事前に立つ人々をインストゥルメンタル(目的志向的)に有効な行為へとより効率的に導くことができるのではないだろうか」と予測している.防災小説は言うまでもなく「Days-Afterの語り」である.そして,自らの死に匹敵しうる出来事を「防災小説」の中において経験する生徒たちは,実際にはまだその出来事が起きていない「今この時」を思うときまさに「Days-Beforeの語り」の状況におかれており,コンサマトリー(現時充足的)の重要性に気づいている.つまり,「防災小説」は「Days-Afterの語り」であると同時に,「Days-Beforeの語り」にもなっており,矢守・杉山が予測していた状態を実証したものと言える.そして,この状況を効率的に導くことができる理由も,上記のナラティヴ研究の文脈において明らかにできたといえる.さらには,防災小説は学校現場で実施されることで,終わらない対話(矢守, 2007)に導いている.その結果,防災の理想的状態と位置づけられているステータスである,〈選択〉を重ねてなお残るリスクを〈宿命〉として住民全員で引き受ける未来に向かって,防災小説が生徒とその周辺コミュニティを先導していると結論した.
著者
小山 真人
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2018年大会
巻号頁・発行日
2018-03-14

火山防災対策を進める上で、岩屑なだれ等の低頻度大規模現象の扱いは悩ましい問題である。富士山火山防災マップ(2004年)では、過去の実例(2900年前の御殿場岩屑なだれの流下範囲)を図示するにとどめ、ハザード予測図は描かれなかった。このため、このマップをベースとした現在の地域防災計画や避難計画は岩屑なだれを想定していない。ところが、1707年宝永噴火の際に生じた宝永山隆起(宮地・小山2007「富士火山」)をマグマの突き上げによって説明するモデル(Miyaji et al., 2011, JVGR)から類推して、噴火が長引けば山体崩壊に至った可能性がある。宝永山隆起のような肉眼でも観察可能な山体の隆起は、1980年セントヘレンズ火山の山体崩壊前にも生じた。つまり、現実問題として宝永山隆起のような現象が起きれば麓の住民を避難させざるを得ないだろう。この点をふまえた富士山火山広域避難計画対策編(2015年)には、「本計画で対象外とした岩屑なだれ(山体崩壊)等については、具体的な場所や影響範囲、発生の予測等が明らかになった時点で対象の是非について検討を行う」と記述され、ハザードマップ改訂の議論を始めた富士山火山防災対策協議会の審議課題のひとつとなっている。同協議会の作業部会(2016年)では、御殿場岩屑なだれ(11億立方m)の約1/30にあたる1984年御嶽山伝上崩れ(3500万立方m)程度の崩壊体積であっても、山頂付近で発生した場合には岩屑なだれが山麓に達する計算結果(産総研)が提示された。これまで岩屑なだれのハザード予測を描いた火山防災マップは、北海道駒ヶ岳の例などわずかである。低頻度大規模現象の想定は、住民や観光客に過度の恐怖や誤解を与えると懸念されたからであろう。しかし、自然災害リスクを発生頻度だけから判断するのは適切でない。日本の主要な地震・噴火のリスクを「平均発生頻度×被災人口」によって定量化した試算によれば、富士山の山体崩壊リスク(避難なし)は1立方kmクラスすなわち貞観噴火級の大規模溶岩流リスクと同程度である(小山2014科学)。つまり、山体崩壊は対策されるべきリスクとする考え方も可能である。岩屑なだれを、被災範囲が広すぎて対策不能な現象と単純に考えてはいけない。山腹から生じた場合や発生点の標高が低い場合の流下範囲は限られるし、宝永山のように小さな崩壊体積を想定できる場合もある。さらに、山体崩壊の要因として(1)マグマの突き上げ、(2)爆発的噴火、(3)大地震の3つが考えられるが、(1)は予知が期待できるので避難が可能である。つまり、山体崩壊に対して思考停止しない姿勢が望まれる。日本の防災対策は、ハザードの種類や規模を想定した上で対策を立て、それが完成すれば危機管理はできたと判断する想定主義に従って実施されている。しかしながら、ひとたび想定を超えた災害が発生すれば、その対策は「お手上げ」となりやすく、実際にそれが起きた3.11災害で数々の悲劇が生じた(関谷2011「大震災後の社会学」)。岩屑なだれを想定しない現在の富士山の避難計画においても、それが起きた場合は「お手上げ」となって大きな被害が生じることは想像に難くない。そもそも富士山の火山防災マップは過去3200年間(その後のデータ増により3500年間に相当)の履歴にもとづいて作成されており、御殿場岩屑なだれはこの期間内に起きた現象である。前述した宝永山の山体崩壊未遂の可能性も考慮し、山体崩壊を現象ごと想定から外すのではなく、「お手上げ」状態を避けるために、予知できた場合に備えた現実的な避難対策を立てておくことが望ましい。 岩屑なだれの速度は火砕流並みかそれ以上と考えられるので、山体の変動や亀裂の有無を注意深く監視し、一定以上の異常が生じた場合は麓の住民に事前避難を呼びかけるしかない。その際の危険区域を事前に計算しておけば、異常検知から避難完了までの時間を短縮でき、住民の被災リスクを下げられるだろう。具体的には山体の各所で3ケース程度の崩壊体積を仮定し、到達範囲の数値シミュレーションをおこなってデータベースを作成しておく。実際の運用としては、異常が検知された地点と、異常の程度から推定した崩壊量を上記データベースと照合し、避難を要する範囲を多少の余裕をもって決めることになるだろう。国交省雲仙復興事務所は、平成新山溶岩ドームの山体崩壊対策を検討する委員会を2011年に立ち上げ、作業を続けている。複数の崩壊規模を仮定した上で岩屑なだれの流下範囲を計算し、ハード対策と避難対策を検討した上で、住民を巻き込んだ避難訓練まで実施している。他火山の山体崩壊対策が参考とすべき先行事例であろう。