著者
酒々井 眞澄 沼野 琢旬 深町 勝巳 二口 充 津田 洋幸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-25, 2014 (Released:2014-08-26)

多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のラット肺内投与に伴う長期経過後の中皮腫発がんに関わるエビデンスはない。本研究ではラットにMWCNTを経気管的肺内スプレー法により投与する実験システムを用いて2年経過での中皮腫発がんを検証した。雄F344ラット(5群を設定、各群15匹)にMWCNT(FT分画平均長2.6 µm、W分画平均長4.2 µm、R分画平均長>2.6 µm)を 2週間で計8回(total amount 1.0 mg)を肺内スプレーし96週目までの間に死亡あるいは瀕死解剖された個体および109週目に剖検された個体について中皮腫発生を調べた。65週目に1個体に縦隔原発の中皮腫が発生し、以降剖検までに11個体に中皮腫が発生した。計12個体中10個体が縦隔あるいは心外膜原発であり、2個体が精巣tunica vaginalis原発と考えられた。胸腔での中皮腫発がんまでの平均経過は94週であった。無処置群およびvehicle control群には腫瘍は認めなかった。腫瘍および各臓器の組織学的検索の結果、気管内にスプレーされたMWCNTは上縦隔リンパ節、中皮腫組織、肥厚した横隔膜中皮などに存在した。少なくとも本実験条件下では、CNTが気管あるいは肺内から胸腔に移動し、胸膜や縦隔中皮を標的に中皮腫発がんに至ったと考えられる。
著者
福山 朋季 田島 由香里 林 宏一 上田 英夫 小坂 忠司
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20126, 2011 (Released:2011-08-11)

一部の有機リンおよび有機塩素系化合物による免疫抑制作用の報告は数多くなされており,我々の研究室でもin vivoおよびin vitro下で検証を実施した。近年,免疫抑制反応の回復段階で増殖した異常リンパ球細胞により,アレルギーや自己免疫性疾患といった免疫異常の発症リスクの上昇が危惧されている。本研究では,有機リンおよび有機塩素系化合物といった環境中化学物質により引き起こされる免疫抑制作用と,化学物質アレルギー発症の関連性について調査を行った。実験には4週齢の雌性Balb/cマウスを用い,免疫抑制化学物質として有機リン化合物のパラチオン(0, 0.15, 1.5 mg/kg)と有機塩素系化合物のメトキシクロル(0, 30, 300 mg/kg)を4週齢時に5日間経口投与した。8週齢時にTh1タイプアレルゲンのDNCB(0%, 0.03%, 0.1%, 0.3%)とTh2タイプアレルゲンのTMA(0%, 0.1%, 0.3%, 1%)を用いたLocal Lymph Node Assay(LLNA法)を実施した。また,DNCB 0.1%とTMA 0.3%についてリンパ節中のT細胞分類,サイトカイン産生量およびアレルギー関連遺伝子発現解析を行った。LLNA法の結果,DNCBおよびTMAのEC3値 (感作陽性の指標)が,パラチオンおよびメトキシクロルの用量依存的に減少し,パラチオンおよびメトキシクロルの投与がアレルギー反応の増大に寄与していることを示していた。また,採取したリンパ節を詳細に解析した結果,パラチオンおよびメトキシクロル投与により,Helper-およびCytotoxic-T細胞,サイトカイン産生量およびアレルギー関連遺伝子発現が有意に増加しており,LLNA法の結果を補佐していた。上記結果は,パラチオンやメトキシクロルといった免疫抑制化学物質による免疫機能の破綻が,化学物質アレルゲンに対する反応性を増大させることを示唆していた。
著者
小島 肇
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.S12-1, 2012

製薬業界において、医薬品の探索試験としてのin vitro試験の活用が増えつつある。これらの試験法を用い、多くの創薬候補物質のスクリーニングを進めることは、新規医薬品の開発を短期かつ安価に促すことになり、国際的な新薬開発競争が激化する昨今、極めて有用であると思われる。この試験法にはもちろんin vitro毒性試験も該当する。市場から撤退を余儀なくされる医薬品のほとんどが動物実験では検出できなかったものや、個人差の大きい副作用によるものであることもあり、ヒト細胞を用いた探索毒性試験に掛ける期待は大きい。 これら試験は探索毒性試験法であることもあり、行政的な公定化はもちろん不要であり、JaCVAM(日本動物実験代替法評価センター)の出番はない。しかし、新規に開発された技術やキットを利用する場合は、専門家による第三者評価が十分になされていないこともあり、科学的妥当性はあるのか、偽陽性の判断で有用な候補物質を見殺しにすることはないのか、偽陰性の判断で余分な追加実験を科すことにならなかいという利用者の不安を払拭できないことも確かである。このような試験法を導入する場合、学会や業界などにおける有志の協力を得て、共同研究を行うことにより、試験法の意義やプロトコルを見直すことが無難である。これにより、試験法が揉まれ、より有用性の高い試験法に磨かれていくと感じている。 このような試験法の開発に、協力者を呼び掛け、少ないながらも金銭的な支援をする、バリデーションのノウハウを用いて技術的な協力をすることも、国立医薬品食品衛生研究所にある新規試験法評価室の使命でもあると考えている。
著者
上山 純 野村 洸司 斎藤 勲 近藤 高明 杉浦 友香 村田 勝敬 岩田 豊人 涌澤 伸哉 上島 通浩
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.1002019, 2013 (Released:2013-08-14)

現在,殺虫剤の化学物質曝露が及ぼす健康への影響について国内外で関心を集めており,尿中バイオマーカーを用いた曝露レベル等を評価する試みがアメリカやドイツ等で多く実施されている。合成ピレスロイド系殺虫剤(PYR)は農業用あるいは家庭用殺虫剤として日本人にも馴染のある化学物質であるが,PYR曝露マーカーである尿中クリサンテマムジカルボン酸(CDCA)および3フェノキシ安息香酸(3PBA)排泄量に関する日本人のデータは少ない。本研究では日本人成人の尿中に排泄されるCDCAおよび3PBA量をモニタリングし,それらの季節変動,職域間差および曝露源について検討した。調査対象は食品配送小売業者(FD, n=92),リンゴ農家(AF, n=144)および殺虫剤撒布職域従事者(PCO, n=24)とし,それぞれ夏季および冬季に採尿とアンケート調査を行った。ガスクロマトグラフ質量分析計で定量された尿中3PBAとCDCAは非正規分布を示していたため,対数変換値(正規化)を用いて季節変動はpaired t-検定,職域間差は一元配置分散分析,その後の検定にはScheffeの方法を用いて有意差を検出した。全対象者における尿中3PBAとCDCAの検出率は92%以上であり,ほとんどの日本人が日常的にPYRに曝露していることが明らかとなった。夏と冬における3PBA濃度の幾何平均値(GM)はそれぞれ0.7および 0.5 (FD),0.9および0.4 (AF),2.6および1.8 (PCO) (μg/g creatinine)であった。また,CDCAのGMは0.33および0.13 (FD), 0.30および0.21 (AF), and 0.56および0.26 (PCO)であり,PCOの3PBAを除き,代謝物量は冬に比べて夏で有意に高い値を示した(p<0.05)。すなわち,冬に比べて夏におけるPYRの曝露レベルが高いことが示唆された。PCOの3PBA量は他群のそれに比べて高い値を示した。一方,CDCAにはその傾向が見られなかったことから,CDCAに代謝されるPYRの職業的曝露は多くないことが推察される。FDのみを対象とした予備的解析において,夏における蚊やハエ防除のための家庭用殺虫剤使用者(n=12)の尿中CDCA量は,殺虫剤非使用者(n=80)に比べて有意に高いことが明らかとなった(GM 0.70 v.s. 0.29 mg/g creatinine, p<0.05)。すなわち,室内で使用したPYR殺虫剤がPYR曝露源の一部であることが示唆された。
著者
Machida Kazuhiko Suemizu Hiroshi Kawai Kenji Ishikawa Tsuyoshi Sawada Rumi Ohnishi Yasuyuki Tsuchiya Toshie
出版者
日本毒性学会
雑誌
Journal of toxicological sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.123-127, 2009-02-01
参考文献数
21
被引用文献数
2 35

The purpose of tumorigenicity testing, as applied not only to cell substrates used for viral vaccine manufacture but also stem cells used for cell-based therapy, is to discriminate between cells that have the capacity to form tumors and cells that do not. Therefore, tumorigenicity testing is essential in assessing the safety of these biological materials. Recently developed NOD/Shi-scid IL2Rg^<null> (NOG) mice have been shown to be superior to NOD/Shi-scid (SCID) mice for xenotransplantation of both normal and cancerous cells. To select a suitable mouse strain as a xenogenic host for tumorigenicity testing, we compared the susceptibility of NOG (T, B, and NK cell-defective), SLID (T and B cell-defective), and the traditionally used nude (T cell-defective) mice to tumor formation from xenotransplanted HeLa S3 cells. When 10^4 HeLa S3 cells were subcutaneously inoculated into the flanks of these mice, the tumor incidence on day 22 was 10/10 (100%) in NOG, 2/10 (20%) in SCID, and 0/10 (0%) in nude mice. The subcutaneous tumors formed reproducibly and semiquantitatively in a dose-dependent manner. Unexpectedly, half of the NOG mice (5/10) that had been inoculated with a mere 10^1 HeLa S3 cells formed progressively growing subcutaneous tumors on day 78. We confirmed that the engrafted tumors originated from inoculated HeLa S3 cells by immunohistochemical staining with anti-HLA antibodies. These data suggest that NOG mice may be the best choice as a suitable strain for testing tumorigenicity.
著者
篠原 一之
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.S6-4, 2012

最近、自閉症や注意欠陥障害などの発達障害が増加していることや、疾患とは診断されない、衝動的暴力、ひきこもり等の思春期問題行動が増加していることから、対人関係の問題と化学物質の関連性が指摘されている。 しかし、対人関係能力の定量的評価法が確立されていないため、それら対人関係の病態・病因は明らかにされていない。つまり、これまでの対人関係能力の評価は、医師の問診・行動観察による診断や心理アンケートによる調査であり、定性的評価の域を出ず、定量的評価が行われてこなかったのである。 そこで、我々はPCベースの思春期以降の対人関係能力評価法を確立し、検証を行ってきた。①情動認知能力評価課題(モーフィングテクニックを用いて情動表出強度を変え、表情や音声から相手の情動を読み取る能力を測定)を用いて、思春期生徒の表情と音声による情動認知能力とダイオキシン受容体(AhR)遺伝子多型が相関していることを明らかにした。また同じ課題を用いて、自閉症群と健常群を比較したところ、自閉症群は音声による情動認知能力は低下するが、表情による情動認知能力はあまり低下してないことも示した。その他、②衝動性評価課題、③不安、孤独感、ネガティブ感情評価課題を用いて、それら項目と化学物質の影響を受けうるホルモンの濃度との相関等を見いだしている。 一方、化学物質の脳への毒性作用は、胎児期に起こると考えられているので、直接的に「化学物質の母体血中濃度や新生児体血中濃度」と「児の対人関係行動」の相関を調べるためには、乳幼児の対人関係能力を調べなければならない。我々は、乳幼児期の対人関係行動の定量評価を行うための手法(④共感性、⑤衝動性)を開発し(PC上のプログラムを用い、画像や音に対する乳児の反応を記録)、現在、コホート集団における母と子のPCB類濃度と乳児期の対人関係行動能力との因果関係について検討している。
著者
白井 真紀 佐藤 靖 藤川 真章 山田 弘 堀井 郁夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第33回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.89, 2006 (Released:2006-06-23)

【背景】近年,創薬初期でのminiaturizeされたげっ歯類のin vivo毒性試験が展開されてきている。我々は,ラットを用いたin vivo Mini-tox studyを探索研究早期のin vivo毒性スクリーニング試験として立ち上げ,毒性情報の乏しい新規化合物の多面的安全性評価を進めている(第31, 32回日本トキシコロジー学会)。今回,マウスを用いたバリデーション試験を示す。【材料および方法】動物:頚静脈カニュレーション(JVC)施術済みのICR マウス(8週齢,雄)を溶媒対照群,低用量群(L),高用量群(H)の各群に3例づつ振り分け,化合物Xを単回経口投与し,投与翌日にネンブタール麻酔下で放血,安楽殺し,剖検した。検査項目:体重(毎日),機能観察総合評価法(FOB),自発運動測定Motor Activity (MA),心拍数・血圧測定(HR,BP with BP Monitor MK-2000),薬物血中濃度測定,剖検,臓器重量測定および血液生化学的検査を行った。【結果および考察】JVCマウスを用いた今回のバリデーション試験において,ラットとほぼ同等の結果を得ることができた。創薬早期においては使用化合物量の少量化が求められること,また,薬効評価のための疾患モデルとしてマウスが用いられることも少なくない。今回,ラットに比べて,より少ない化合物量で毒性学的評価が可能であり,創薬早期のin vivo毒性スクリーニング試験としてマウスが有用となる場合があることが示唆された。
著者
吉川 理恵 藤川 真章 山本 利憲 堀井 郁夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第32回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.43, 2005 (Released:2005-06-08)

近年医薬品開発における安全性評価は、多種類の化合物を短期間に評価することが求められており、in vivoの毒性を反映するin vitroスクリーニング系の確立が必要とされている。前回,医薬品開発において問題視される肝毒性を標的とし、肝細胞における毒作用のスクリーニング系確立のためのbiomarker探索を目的として、初代培養肝細胞のプロテオミクス解析を行ない,ミトコンドリアに存在する代謝関連タンパク質や酸化ストレス関連タンパク質の変動を認めたことを報告した。今回,肝毒性を惹起することで知られている各種化合物の単回投与ラット肝細胞を用いて酸化ストレス関連タンパク質の免疫組織学的検出を試み,in vitro プロテオミクス解析の結果とin vivo病理組織学的および免疫組織学的検索結果を比較することによりin vitroおよびin vivo肝毒性の発現の相違を比較検討した。その結果,投与後24時間において,アセトアミノフェンおよびテトラサイクリン投与肝において,化合物に特徴的な肝毒性を再現することができた。また,全ての群において発現の増減が共通する酸化ストレス関連タンパクはみられなかったが,いずれの化合物を投与した肝細胞においても投与後6時間より何らかの酸化ストレス関連タンパクの増加を認めた。これらの酸化ストレス関連タンパク質はミトコンドリア呼吸の調整に関連して動くことが知られており,形態学的変化は軽微であっても,細胞の機能低下が起こっていることが明らかになった。
著者
周 玉 石橋 麻子 崎村 雅憲 藤川 真章 山田 弘 堀井 郁夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第33回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.258, 2006 (Released:2006-06-23)

ある種の化合物は光吸収により分子共役構造部位の電子が基底状態から励起状態に励起し、次いでエネルギーの放出によりフリラジカルを生成し、光毒性を引き起こす。この電子励起の起こりやすさ(HOMO-LUMO gap)はIn Silico化学計算により予測ができると考えられている。本研究ではHOMO-LUMO gap化学計算値による光毒性の予測法の3T3 Neutral Red Uptake Phototoxicity Test (3T3試験)を用いた In vitro試験およびモルモットを用いたIn vivo試験結果に対する予測性について検討した。「方法」134のin house化合物及び光毒性の有無が知られた30化合物を用いて検討を行った。HOMO-LUMO gapはSoftware-Jaguar 5.5を用いて計算した。 3T3試験はOECDガイドライン案に示された方法に準拠して実施した。 In vivo試験では、モルモットにCPFX、LFLXまたは8-MOPをそれぞれ単回経口投与し、UVA照射した後の皮膚反応を評価した。「結果」134化合物のHOMO-LUMO gap値をA(10.5未満)、B(10.5以上 11.7以下)およびC(11.7より大)の3領域に区分し、3T3試験の陽性結果との相関性を検討したところ、それぞれA=100%、B=44% 、C=17%の相関率を示した。光毒性の有無が知られた30化合物の3T3試験結果およびCPFX、LFLXまたは8-MOPのIn Vivo試験結果はいずれもHOMO-LUMO gap値(<10.5)による光毒性予測との相関性を示した。
著者
鈴木 睦 堀井 郁夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.75, 2010 (Released:2010-08-18)

医薬品の評価で,「腎臓の近位直尿細管上皮の好酸球性腫大は,中及び高用量群では全例で認められたが,生理学的変動の範囲内の 組織像と判断された。本所見の発現頻度が増加した原因は不明であるが,高用量群でも組織所見の増悪は認められず,障害性もないこ とから,これらの所見の毒性学的意義は低いと考えられる」などと言う評価は良く見受けられる一節である。その一方で,「サルで認め られた腎臓の鉱質沈着所見は対照群の動物でも観察されることから,自然発生病変と考えられる」としながらも「このような腎所見がヒ トに生じていても見落とされている可能性があり,同様の所見がヒトで生じている可能性について考察し,長期投与により当該所見が 進行して腎機能に影響を与える可能性の有無を考察するべき」と指摘されるケースもある。このように「対照群で認められているから自 然発症病変」と考え毒性評価から除外することは,臨床試験の安全性を保証するには適切では無いケースもあり,所見の発生頻度とそ の時期を含めて十分に考察し,ヒトの有害事象発現を抑制することにできるだけの努力が払われるべきである。 上記のようなケースは一例に過ぎないが,「XXで変化が認められたが,器質的な変化が認められなかったので毒性学的意義は少ない」 とする常套句は,よく見かけられるものである。しかし,ここ数年の間で毒性の評価対象となる化合物は,分子標的やバイオ医薬品へ と変遷し,その非臨床試験評価系の特徴から器質的変化のみに比重を置いた評価には限界も見え隠れする。また,分子毒性学的な手法 や新規バイオマーカーによる毒性評価も広がりつつあるが,試験責任者にとっては従来の評価方法との関係をどう捉え,統合し解釈す るのか戸惑いがあるかもしれない。“器質学的な変化が認められなければ毒性学的意義は低い”という紋切り型の常套句に,更なる新し い概念を加えて整理する必要性があると考えられる。
著者
堀井 郁夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S14-1, 2012 (Released:2012-11-24)

医薬品開発過程における安全性評価は、これまでIND/NDA申請・承認に必要とされる毒性試験に焦点が当てられ、ヒトへの最初の臨床適用・臨床第一相試験における薬物の安全性評価と新薬申請・承認時の検証・承認のための安全性評価・管理を主目的として展開されてきた。最近では、それらに先んじた創薬初期段階における毒性スクリーニングとしてのリード化合物の適正化、臨床適用候補化合物の選定に安全性評価が求められ、試験法そのものもハイスループット・トキシコロジーとしての研究体制が整えられつつある。安全性評価において、発現毒性の特定とそのエンドポイントとしての毒性学的バイオマーカーの設定は重要であり、得られた知見は毒作用発現機序の解明の一助となる。従来の毒性評価は、毒性学的バイオマーカーとしての臨床検査的、組織化学的指標などを基とした伝統的なパラメーターが用いられ、病理組織学的評価と合わせて評価されてきた。この伝統的な毒性評価に加え、分子毒性学的手法・解析やイメージング技術などの新しい科学・技術を基とした多様性科学が積極的に取り入れられ、毒性発現機序の多面的な解析が進み,厳格なリスクアセスメントと賢明なリスクマネジメントの面から毒作用を捉える必要性も増してきている。 最近、毒作用機序解明と意義のある毒性学的バイオマーカー設定のため、多様性科学的アプローチから得られたデータを駆使し、システムズ・トキシコロジー展開への足がかりが出来つつある。分子毒性学的科学・技術の進展は目覚ましいものがあり、遺伝子発現に関しても従来の分子生物学的思考に加えてNon-Coding RNAやEpigeneticsの毒作用発現への関与を視野に入れる必要が生じてきている。 本シンポジウムでは、毒性スクリーニングに関する過去・現在の状況を解説し、将来展望について述べると共にRegulatory Scienceとしての位置づけについても言及する。
著者
今井 則夫 市原 敏夫 萩原 昭裕 玉野 静光 今吉 有理子 岩渕 久克 鈴木 幸雄 中村 幹雄 白井 智之
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第33回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.138, 2006 (Released:2006-06-23)

【目的】亜酸化窒素は、無色、無臭のガスで、日本を含めた20カ国以上で食品添加物(噴射剤)として用いられている。日本薬局方にも収載されており、吸入による安全性試験は多数報告されているが、経口投与による報告はない。そこで今回、F344ラットに亜酸化窒素を28日間経口投与し、毒性学的影響を検討した。【方法】亜酸化窒素は気体でそのまま経口投与することは不可能であるため、米国で市販されている亜酸化窒素を含有するホイップクリームを6週齢のF344ラット(雌雄各群6匹)に0, 2.5, 5.0および10 g/kg/day(亜酸化窒素として0、16.8、33.6、67.1 mg/kg/day)の用量で28日間強制経口投与した。また、亜酸化窒素だけではなく、クリームそのものおよび気体の容積による影響が考えられることから、亜酸化窒素を含まないクリームだけを10 g/kg/dayで投与する群、クリーム10 g/kg/dayに亜酸化窒素量にほぼ相当する容積の空気を加えた群も設定した。投与期間中、体重、摂餌量および摂水量を週1回測定した。投与最終週に尿検査および眼科学的検査を行った。投与期間終了後、腹部大動脈より採血し、得られた血液および血漿を用いて血液学的検査、血清を用いて血液生化学的検査を行った。また、放血致死させた後に剖検を行い、採取した主要器官の重量を測定するとともに、全身諸器官の肉眼的病理学検査および病理組織学的検査を実施した。【結果】亜酸化窒素含有ホイップクリームの10 g/kg/day(亜酸化窒素67.1 mg/kg/day)投与で、いずれの検査項目においても亜酸化窒素投与による毒性学的影響を認めなかった。【結論】亜酸化窒素の無毒性量(NOAEL)は雌雄とも67.1 mg/kg以上であると結論した。
著者
広瀬 明彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S4-2, 2016 (Released:2016-08-08)

近年の分析技術の発展により、環境由来の化学物質による汚染以外にも認可された食品添加物等の中の不純物質や調理中に生成する化学物質として、極めて微量の遺伝毒性発がん性物質が食品中に含まれていることが明らかになってきた。そのため、これらの遺伝毒性発がん物質の食品経由による曝露を可能な限り低減・管理するためには、推計学的手法を用いた定量的評価を行うことが必要となってきている。国際的な食品関連分野における評価における本格的な遺伝毒性発がん物質の定量的な評価は2005年のJECFA会議から始まり、アクリルアミドを含む遺伝毒性発がん物質に対して、ベンチマークドース(BMD)手法よって求められたBMDL(BMDの95%信頼下限値)と曝露量の比を表す曝露マージン(MOE)が、JECFAとして初めて定量的な評価指標として導入された。一方で水質や大気中などの汚染物質の基準値設定では、以前よりBMDLから求める直線外挿法による10-5等のリスクに相当する曝露量が基準値として採用されている。このことからMOEはリスクの大きさを直接示す指標であると捉えられがちであるが、基準値への適用も含めてリスク管理のための定量的指標の一つに過ぎない。現実的に動物試験や疫学研究で発がん性の有意差が検出可能な曝露レベルにおける誘発データのみでは、10-5レベルのリスクに相当する低用量域の曝露モデルを確立することができないために、生物学的に最も保守的なモデルに近い直線外挿モデルを管理の基準として採用せざるを得ない事情によるものである。今後リスク推定をより精緻なものにするためには、低用量域の曝露における発がん性機序や体内動態などを定量的に説明できるモデルの構築が望まれる。本講演では、食品安全委員会が本年にその健康影響評価を取り纏めたアクリルアミドの事例を中心にBMD手法の基本原理とその適用事例、今後の課題について解説する。
著者
Kanako Noritake Toshihiko Aki Moe Kimura Takeshi Funakoshi Kana Unuma Koichi Uemura
出版者
日本毒性学会
雑誌
The Journal of Toxicological Sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.42, no.5, pp.545-551, 2017-10-01 (Released:2017-09-13)
参考文献数
31
被引用文献数
2

We reported previously that when mouse atrium-derived HL-1 cardiomyocytes undergo apoptosis upon exposure to 2% ethanol, the cellular cytoskeleton is severely disrupted and the anti-apoptotic transcriptional co-activator Yes-associated protein (YAP) is inactivated. Consistent with our previous observations, the expression of connective tissue growth factor (CTGF), an anti-apoptotic growth factor and a target of YAP, decreases in a time-dependent manner during exposure to 2% ethanol. The restoration of YAP activation rescues the cells from apoptosis: both the retrovirus-mediated expression of constitutively active YAP and the stabilization of the actomyosin cytoskeleton by jasplakinolide prevent cell death. In contrast, YAP inhibitors have no effect on cell death, confirming the inactivation of YAP in ethanol-exposed cells. Thus, a decrease in actin tension and YAP inactivation should be crucially involved in the cytotoxicity of ethanol on HL-1 cardiomyocytes.
著者
高野 裕久
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S8-1, 2015 (Released:2015-08-03)

近年、アレルギー疾患に代表される生活環境病や、肥満、糖尿病を代表とする生活習慣病が激増し、新たな現代病となっている。これらの悪化、増加要因としては、遺伝要因よりむしろ環境要因の急変が重要と考えられており、種々の環境要因の中でも、日々増加しつつある環境化学物質や粒子状物質などの環境汚染物質が及ぼす影響に注目が集まっている。一方、環境汚染物質に対して影響を受けやすい高感受性・脆弱性群が存在することも指摘されている。例えば、粒径2.5μm以下の微粒子(PM2.5)に関し、疫学的な報告では、呼吸器系、免疫系や循環器系、代謝系の疾患を持つ人、特に、気管支喘息や気管支炎、虚血性心疾患や糖尿病の患者さんの症状が悪化しやすいことが報告されている。この事実は、アレルギーをはじめとする生活環境病や糖尿病等の生活習慣病の患者さんが、ある種の環境汚染物質に対し、高感受性、あるいは、脆弱性を示すことを示唆するものと考えられる。現在、わが国を含む先進国においては、高毒性物質の曝露や環境汚染物質の大量曝露の可能性は減じている。しかし、低毒性物質の少量曝露は普遍的に広がり、ありふれた疾患である生活環境病や生活習慣病の増加・悪化との関連が危惧され始めている。本シンポジウムでは、ありふれた環境汚染物質が、ありふれた現代病(生活習慣病やアレルギーを代表とする生活環境病)を悪化・増加させうるという実験的検証と増悪メカニズム解明の現状・進展を紹介し、環境毒性学に新たな視点を加える。本講演はそのイントロダクションの役を担う。
著者
菱田 尚樹 久世 博 山村 高章 野口 通重 川合 是彰 堀 正樹
出版者
日本毒性学会
雑誌
Journal of toxicological sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.327-334, 1997-11-13
参考文献数
7
被引用文献数
1

新規TRH誘導体であるタルチレリン水和物(TA-0910)の急性毒性試験を, マウスおよびラットにおいて経口, 静脈内および皮下投与で, イヌにおいでは経口および静脈内投与で実施した。マウスおよびラットの経口および皮下投与では死亡は認められず, LD_<50%gt;値は全て5000 mg/kg以上となった。また, イヌの経口投与でも死亡は認められず, 最小致死量は2000 mg/kg以上となった。一方, マウスの静脈内投与では, 700 mg/kg以上で死亡はみられたものの, LD_<50%gt;値は雌雄とも2000 mg/kg以上, ラットでは, 640 mg/kg以上で死亡がみられ, 雄で799 mg/kg, 雌で946 mg/kgとなった。死亡は全て投与中ないし投与直後であった。イヌの静脈内投与では, 最高用量の1000 mg/kg投与で死亡はみられなかったが, 500 mg/kg投与の雌1例が投与翌日に死亡し, 雌の最小致死量は500mg/kgとなった。一般状態の観察では, マウスおよびラットの全ての投与経路に共通して, TA-0910の中枢神経賦活作用を反映する, 運動性充進, 振せん, 挙尾反応等が認められ, さらにラットの各経路ではwet dog shakingが認められた。イヌの経口投与では, 嘔吐, 興奮症状が, 静脈内投与では, 投与中の興奮, 投与後の鎮静等が認められ, さらに両経路に共通して, 流涎および一過性の心拍数の増加等が認められた。また, 血液生化学検査では, 蛋白, 糖, 脂質, 血清酵素に一過性の変動がみられた。剖検では, マウス, ラットおよびイヌとも, 被験物質起因の異常はみられなかった。
著者
下村 和裕
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.4016, 2013 (Released:2013-08-14)

製薬企業では新薬の開発にあたり生殖発生毒性試験として,3種類の動物実験を実施し,妊娠と授乳に及ぼす影響を評価している。生殖発生毒性試験のガイドラインは1961年のサリドマイド事件を契機に,1963年に通知されたのが始まりである。1975年には3節試験ガイドラインに改訂が行われ,さらに,1994年には国際協調されたICHガイドラインへと発展した。試験の結果として,母動物の一般毒性学的影響,母動物の生殖に及ぼす影響,次世代の発生に及ぼす影響の3つのカテゴリーごとに無毒性量が評価される。受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験は交配前から交尾,着床に至るまでの被験物質の投与に起因する毒性および障害を検索する試験である。雌では性周期,受精,卵管内輸送,着床および着床前段階の胚発生に及ぼす影響を検索する。雄では生殖器の病理組織学的検査では検出されない機能的影響(例えば性的衝動,精巣上体内の精子成熟)を検索する。出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験は着床から離乳までの間,雌動物に被験物質を投与し,妊娠および授乳期の雌動物,受胎産物(胎盤を含む胚・胎児)および出生児の発生に及ぼす悪影響を検索する試験である。この試験で誘発される影響は遅れて発現する可能性があるので,観察は出生児が性成熟期に達するまで継続する。出生前および出生後の児(胚,胎児および出生児)の死亡,成長および発達の変化,行動,成熟(性成熟を含む)および生殖を含む出生児の機能障害を検索する。胚・胎児発生に関する試験は着床から硬口蓋の閉鎖までの期間中雌動物に被験物質を投与し,妊娠動物および胚・胎児の発生に及ぼす悪影響を検索する試験である。着床から硬口蓋の閉鎖までの期間は胎児の器官が形成される時期であり,妊娠期間中で最も奇形が起こりやすい期間である。胚・胎児の死亡,成長の変化および形態学的変化を検索する。
著者
BAKER Gizelle ZULOETA A. GONZALEZ BENZIMRA M. VALLELIAN J.F. SANDALIC L. PICAVET P. BOURDONNAYE G. DE LA LÜDICKE F.
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.O-53, 2016

Tobacco harm reduction is a public health strategy to lower the health risks to individual tobacco users and benefit the health of the population as a whole. Philip Morris International is developing a portfolio of products, including iQOS with the potential to reduce the risks of diseases associated with smoking conventional cigarettes. <br><br>PMI has conducted a series of clinical studies in Japan to assess the nicotine pharmacokinetic profile and reductions in exposure to harmful and potentially harmful constituents (HPHCs). Now that has been launched in Japan, PMI is starting a Post-Market Program in Japan including an observational cohort study, the “LYFE” Study (April 2016).<br><br>The LYFE Study will enroll 2000 iQOS users, 2000 CC smokers and 760 never-smokers over a period of 4 years in equally distributed annual waves and will follow participants for up to 5 years. The study is designed to assess how consumers use of tobacco and nicotine products (including iQOS) change over time, the patterns of product use and behavioral trajectories of smoking. Participants will complete questionnaires at enrollment and then at up to 13 time-points over the follow-up period. <br><br>In addition a Clinical Sub-Study will enroll 2280 participants, 760 iQOS consumers, matched 1:1 with CC smokers and never-smokers. Participants in the Clinical Sub-Study will have 2 clinical site visits (at 1 and 3 years) to perform physical exams and collect biological samples to assess population-level differences in biomarkers of exposure and clinical risk endpoints.