著者
徳本 真紀 李 辰竜 藤原 泰之 佐藤 雅彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-50, 2017 (Released:2018-03-29)

【目的】カドミウム (Cd) は、鉄の体内動態に影響を及ぼすことが報告されているが、その機構はほとんど検討されていない。そこで本研究では、Cdを慢性曝露したマウスにおける肝臓中鉄濃度および十二指腸中の鉄輸送関連遺伝子の発現変動を検討した。【方法】5週齢の雌性C57BL/6Jマウスに300 ppmのCdを含有した餌を21ヶ月間自由摂取させた。経時的に血清、肝臓および十二指腸を採取し、各種解析に用いた。十二指腸は胃の直下2 cmとした。【結果および考察】Cd曝露によりGOT・GPT活性およびBUN値が有意に高値を示したため、肝毒性並びに腎毒性が出現していることが示された。Cd曝露群の肝臓中Cd濃度は300 µg/g以上となり、投与期間に依存して増加したが、肝臓中の鉄濃度は対照群の50%以下となり顕著な低値を示した。次に、十二指腸における鉄輸送関連遺伝子の発現レベルを測定した。非ヘム鉄 (Fe3+) は十二指腸刷子縁膜上でDuodenal cytochrome b (Dcytb) により二価に還元され、Divalent metal transporter 1 (DMT1) により小腸上皮細胞内に取り込まれる。CdはDMT1 mRNAレベルに影響を及ぼさなかったが、Dcytb mRNAレベルを曝露期間を通じて有意に減少させた。また、葉酸輸送体であるHeme carrier protein 1 (HCP1) はヘム鉄 (Fe2+) の輸送にも関与することが知られているが、HCP1 mRNAレベルはCdの曝露期間を通じて有意に低下した。以上の結果から、Cdは十二指腸における鉄吸収機構に影響を及ぼしてヘム鉄・非ヘム鉄の吸収をともに阻害し、生体内鉄蓄積量を減少させることが示唆された。
著者
登田 美桜
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.JH-5, 2015

食品安全に関する措置は科学的根拠に基づかなければならないというのが国際ルール(WTO-SPS協定)である。当研究所は我が国の食品安全行政を科学的視点から支援すること(レギュラトリーサイエンス)を業務の一つとしている。<br>食品安全上の問題は、食品中に非意図的に存在する汚染物質(重金属、天然毒素、製造副生成物)や病原微生物・ウイルス、意図的な使用により存在する食品添加物・香料、残留農薬・動物用医薬品、遺伝子組換え食品、欺瞞的な行為による混入物等、その範囲は多岐にわたり、取り組む問題も多種多様である。食品安全行政では、それらの問題に優先順位を付け、リスク評価で得られた科学的根拠に基づき有効と考えられる施策を選択する。リスク評価では、危害要因(ハザード)となる化学物質や病原微生物等の特性、体内動態、毒性、疫学、分析・サンプリング法、汚染分布、食品摂取量、並びに国内外の既存のリスク評価結果など、入手できる多様な科学的情報をもとに総合的に検討した上で結論が出される。その際、迅速性、情報の質(信頼性、妥当性等)の判断能力、様々な分野の専門家が互いの情報や知見をわかりやすく説明しあうコミュニケーション能力が要求される。従って、食品安全のレギュラトリーサイエンスで係わる専門分野や求められる能力は非常に幅広いのが特徴である。<br>現在の所属部は、食品安全上の問題の特定、行政施策の選択及びリスク評価に必要な情報の調査や集約を日常業務としており、一つの専門分野に限定せず物事を包括的に捉える広い視野が求められている。また、各種分野の専門家と情報交換を行う一方、専門家ではない行政担当者に分かりやすく説明する能力はもちろんのこと、一般市民に対しても科学的知見を分かりやすく伝えるという能力も必要となる。本発表では食品安全のレギュラトリーサイエンスとは何か、その従事者に求められることは何かを説明したい。
著者
林 宏一 田島 均 元村 淳子 小松 豊 藤江 秀彰 首藤 康文 青山 博昭
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-229, 2015

近年,農薬等の化学物質による複合暴露影響に対する社会的関心が高まっているものの,複合毒性を評価するためには多数の動物と労力を要する。そこで,使用動物数の削減と簡便なスクリーニング法の確立を目指して,安全性薬理試験で用いられている摘出回腸テストによる複合毒性影響試験法を検討した。まず,一般的に使用されるモルモットと神経毒性影響の背景値が多いラットを使用して,代表的なコリンエステラーゼ活性(ChE)阻害剤を中心にして単剤に対する反応を確認した。<br>動物はSD系雄ラットおよびハートレイ系雄モルモット8~12週齢を使用した。動物を吸入麻酔下で放血殺し,回腸を1動物から2~3試料切り出した。試料は35℃,95%O<sub>2</sub>+5%CO<sub>2</sub>混合ガスを通気したタイロード液を満たしたマグヌス管にいれ,等張性トランスデューサに設置した。30分間以上静置した後,試料の反応を確認して実験に供した。検査は有機リン剤のパラチオン,その代謝物のパラオキソン,メタミドホス,カーバメイト剤のMPMC,ネオスチグミンを2×10<sup>-6</sup>~2 mg/mL濃度で,硫酸ニコチンは5×10<sup>-6</sup>~0.5 mg/mLの濃度で,それぞれ10倍段階系列で作成し,低濃度から累積暴露した。観察時間は各用量15分とした。パラチオンではラット,モルモットともに明瞭な反応は認められなかった。パラオキソン,メタミドホス,MPMC,ネオスチグミンではラット,モルモットともに用量相関性の収縮反応が認められ,その反応に種差は認められなかった。硫酸ニコチン暴露群では,ラットでは明瞭な収縮反応が検出できず,高濃度暴露に従って弛緩する傾向が認められた。モルモットでは一過性の明瞭な収縮反応の後,速やかに弛緩する反応が観察された。
著者
チョウ ヨンマン 今井 俊夫 高見 成昭 西川 秋佳
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.35, pp.178, 2008

【目的】Zucker fattyラットは突然変異レプチン受容体遺伝子faのホモ接合体(<I>fa/fa</I>)で、若齢期から著しい肥満を呈し、単純性肥満/糖尿病モデルとして用いられている。一方、ヘテロ接合体(<I>Fa/fa</I>)及び野生型(<I>Fa/Fa</I>)のZucker leanラットは肥満にならないことから、ホモ接合体の対照として用いられているが、その生理学的/解剖学的な違いについての詳細は明らかではない。今回、Zuckerラットが乳腺発がんモデルとして応用可能か否かを検討する目的で、各遺伝子型動物の血清生化学的検査及び肝臓/乳腺/脂肪組織の組織学的検査を実施した。【材料と方法】6-7週齢の各遺伝子型の雌ラットあるいは10%コーン油添加飼料で5週間飼育した<I>Fa/fa</I>及び<I>Fa/Fa</I>雌ラットを対象とした。【結果】血清総コレステロール、インスリン及びレプチン濃度は、<I>Fa/fa</I>及び<I>Fa/Fa</I>に比し<I>fa/fa</I>では有意に(p<0.05)高値を示した。中性脂肪及び血糖値には遺伝子型間の明らかな差はみられなかった。組織学的には、<I>Fa/fa</I>及び<I>Fa/Fa</I>に比し<I>fa/fa</I>では乳腺組織の発達が著しく乏しく、脂肪組織においては細胞肥大が認められた。<I>Fa/fa</I>と<I>Fa/Fa</I>の比較において、基礎飼料飼育下では主な血清生化学値に明らかな差はみられなかったが、10%コーン油飼料を与えることにより、<I>Fa/fa</I>ではHDL-コレステロール値は僅かながら有意に(p<0.05)低下したのに対し、<I>Fa/Fa</I>では変化を示さなかった。<I>Fa/fa</I>及び<I>Fa/Fa</I>のいずれにおいても、コーン油を与えることによる肝臓/乳腺/脂肪組織の組織学的変化はみられなかった。【結論】<I>fa/fa</I>は乳腺発がんモデルへの応用には適さないが、<I>Fa/fa</I>及び<I>Fa/Fa</I>は脂肪負荷により脂質代謝と乳腺発がんとの関連性を解析するモデルとしての応用が可能であることが示唆された。
著者
鳥塚 尚樹 羽毛田 真弓 橋口 晃一 前川 竜也 渡辺 仁 金子 吉史 新田 浩之 浜田 淳 榊原 雄太 佐藤 玄 佐藤 耕一 諏訪 浩一 高見 清佳
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.P-93, 2018

<p> 2017年8月,FDA Data Standards Catalog v4.6にSEND Implementation Guide ver. 3.1(以下,IG 3.1)が収載され,2019年3月15日以降開始の試験はNDA/BLA申請時にIG 3.1準拠のSENDデータ提出が義務化された。IG 3.1の対象試験には心血管系及び呼吸系安全性薬理試験が含まれるため,それらのSEND対応はCJUG SENDチームの最重要課題の一つと考えられた。そこで,ITベンダー,ソリューションプロバイダ,非臨床試験CRO,製薬企業が所属するCJUG SENDチームの全27施設を対象に,安全性薬理試験のSEND対応状況及び想定される課題等に関するアンケートを実施し,匿名で回答を収集して分析した。</p><p> その結果,ほぼ全ての施設が安全性薬理試験のSEND対応への必要性を認識している一方,IG 3.1の詳細把握から具体的な業務手順の整備等の体制構築を進めている施設は少数のみであった。今後の対応方針を業種別にみると,製薬企業の多くは外注での対応を想定し,受託側のソリューションプロバイダ及びCROは自社対応やパートナリングで積極的にSENDデータ作成受託を進めようとしている傾向が示された。また,機器からの印刷物や手書きの記録を安全性薬理試験の生データとしている施設も依然多く,データの電子化自体が安全性薬理試験SEND対応の大きな課題であることが明らかとなった。さらに,SENDデータセット作成・検証の担当者に安全性薬理研究者の配置を想定している企業は少なく,統制用語の適切な利用など,安全性薬理試験SEND対応のプロセスに専門家がどう関与すべきかという潜在的な課題も見出された。本発表では調査内容を更に精査し,安全性薬理試験SEND対応の課題及び今後のデータセット作成に有用な情報を提供したい。</p>
著者
COHEN Mitchell D.
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.S19-6, 2014

The Immunotoxicology Specialty Section of the Society of Toxicology (SOT) celebrated its 50<sup>th</sup> Anniversary in 2011. At the time the IMTOX SS - as well as the field of Immunotoxicology - was established by its pioneers Drs. Jack Dean, Al Munson, Mike Luster, and Jeff Vos, research focused primarily on gaining an understanding of which occupational/envi- ronmental agents might impact on the immune system and establishing guidelines (i.e., the Tier I/II system) to standardize analyses of these effects. Soon thereafter, with growing numbers of investigators entering the field, the focus of much immunotoxicology research shifted to defining mechanisms of toxicity for these agents. With time and increasing innovations in technology, research into induced alterations of immune cell-cell interactions and changes in immune cell signaling pathways/molecular integrity moved to the forefront. As with many strong research fields, immunotoxicology became a tree with many roots reaching into other areas of scientific study. In part, this was because changes in immune function/components impact on many other organ systems/bio-processes apart from altering host immunocompetence. Novel studies being performed by up-and-coming immunotoxicologists around the world now cross into areas including Developmental, Neurologic, Reproductive, Ocular, and Cardiovascular Toxicology. Indeed, immunotoxicology is also an important aspect of research in the novel fields of Nanotoxicology, Stem Cell Biology, Drug Discovery, and Biotech- nology. Following up on the previous presentations in this forum, this talk will introduce JSOT attendees to some of the investigations being performed by the next generation of Immunotoxicology researchers in the US/Europe.
著者
李 成倍 金 鉉榮 韓 叮熙 姜 民球 申 浩相 梁 貞善
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.36, pp.4096, 2009

塗料用エナメルペイント希薄制シンナー(012)に対し有害,危険性の文献調査とこれを試験物質で物理化学的特性試験および危険性を評価して,レットを利用1日6時間,週5日,13週全身反復露出試験を通じ,物質の危険特性と吸入毒性を中心に生殖器に及ぼす影響研究を通じて,次のような結果を得た。臨床検事,体重変化で特異的所見はなかったが,200,1,000ppm君で血液学的および心臓,身長,肝臓,脳重量の露出濃度依存的有意性(p<0.01)ある変化があった。 しかし病理組織検査で呼吸器を含む閉場,身長,心臓,肝臓などで特異的病変は観察されず,標的長期全身毒性物質では分類されず,労働部告示第2008-1号<化学物質の分類,表示および物質安全保健資料に関する基準>により急性毒性区分3以上の物質に該当した。生殖器に及ぼす影響検討で雄1,000ppm群の場合有意性(p<0.05)ある精子の奇形性増加傾向と雌1,000ppm君で有意性(p<0.01)ある性周期の地縁,血清を利用したホルモン分析でestradiolの濃度依存的減少傾向などで試験物質による高濃度長期露出時生殖毒性の影響があると判断されたし,しかし定所の重さ変化や精子数の減少および病理組織学的怪死など異常所見は観察されなくて,強い有害物質と評価されることはなかった。試験物質の物理化学的特性試験結果比重0.793,沸点155.8℃,蒸気圧2.1kPa,引火点34.5℃, 自然発火点280℃であり火災爆発など熱分解特性は吸熱の場合371.4J/g,発熱の場合159.1J/g,爆発下限界は48 mg/l,爆発上限界は214mg/lでありこれは労働部告示第2008-1号により幅発声物質等級1.2流および引火性液体3流(23-60℃)に該当した。
著者
坂本 峰至
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.S8-1, 2016

メチル水銀は中枢神経毒性を有し、特にヒトでは胎児の発達期脳の感受性が高いことが知られている。一方、セレンは必須微量元素であり水銀との結合性が高く、海洋哺乳類の組織には共に高濃度で存在することから、その役割が注目されてきた。加えて、1970年代にセレンが水銀化合物の毒性発現抑制効果を持つことも知られるようになり多くの研究が行われてきた。しかし、無機水銀と異なり、メチル水銀の毒性に対するセレンの防御効果とそのメカニズムについては諸説あり十分には解明さていない。今回は、セレンは本当にメチル水銀の脳での神経細胞傷害作用を防御することが出来るのか? 鯨肉を食べる風習を持つ住民の血液中水銀とセレンの関連は? 歯クジラはどうしてメチル水銀中毒にならないのか? また、歯クジラ肉を食べることのヒトへのリスクは? というメチル水銀とセレンに関するいくつかの疑問について、最近の研究成果を紹介し検討を加える。<br>【ラット発達期大脳における神経細胞変性メカニズム並びにセレノメチオニンによる防御】 ヒトの脳発達のピークは出産前の3ヶ月間で、脳のメチル水銀に対する感受性もその時期が最も高いとされている。一方、ラットの脳の発達ピークは出生後であり、胎児期ではなく新生仔期のラットにメチル水銀を投与することによって、ヒト胎児性水俣病で見られたような影響が観察できると期待される。そこで、我々はラット新生仔を用い、メチル水銀による特異的神経症状と大脳皮質における神経細胞死のメカニズムの検討を行なった。更に、メチル水銀によって引き起こされる発達期の大脳皮質での神経変性を、自然界に存在するセレノメチオニンが防御した成果について紹介する。<br>【ヒトにおけるメチル水銀とセレンの共存について】 ヒトはメチル水銀とセレンを主に魚介類摂取によって取り込み、ヒト血液における水銀とセレンの共存が注目されている。一般住民及び歯クジラ類を摂食する集団における血液中の水銀とセレンの関係を紹介する。<br>【歯クジラにおける水銀の化学形態別分析とセレンの共存について】 海洋ほ乳類や一部鳥類はメチル水銀を無機化し、臓器、特に肝臓に高い濃度で不活性なセレン化水銀を蓄積し、メチル水銀の解毒能を有しているのではないかと考えられている。一方、筋肉や脳ではメチル水銀化はそれほど起こらないと考えられている。今回は、多数例の歯クジラ筋肉を用い、筋肉中の水銀の化学形態別分析とセレンとのモル比に関する検討を行った。更に、X線吸収微細構造分析、電子プローブ・マイクロ分析による水銀・セレン化合物の構造分析を行った結果を紹介する。
著者
増田 茜 増田 雅美 関本 征史 根本 清光 吉成 浩一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-16, 2015 (Released:2015-08-03)

化学物質の曝露により肝細胞及び肝臓はしばしば肥大するが、その機序や毒性学的意義は不明である。肝細胞肥大の多くは薬物代謝酵素誘導を伴うことから、肝細胞肥大は一般に生体の適応反応と考えられている。しかし、我が国における農薬の安全性評価では、肝細胞肥大は毒性とされ、NOAEL及びADIの根拠となることもある。そのため、肝細胞肥大の毒性学的意義の解明が必要とされている。そこで本研究では、毒性試験公開データを利用した統計学的データ解析により、肝細胞肥大の毒性学的特徴付けを試みた。食品安全委員会で公開されている全266の農薬評価書をダウンロードした。このうちラット90日間反復投毒性試験結果が報告されていた196農薬の評価書から、試験で認められた全1032毒性所見を抽出した。各所見を、大項目(臓器・組織、血液学、血液生化学、尿・便、外観・行動、腫瘍・がん等)、中項目(所見・徴候、検査項目等)、小項目(部位・細胞、毒性学的特徴等)で分類し、それぞれの所見に7桁のコード番号を割り当てた。また、各毒性所見が認められたか否かを1(陽性)または0(陰性)としてデータシートを作成した。使用した196農薬のうち、雄では中心性肝細胞肥大は54農薬(28%)、びまん性肝細胞肥大は35農薬(18%)で認められた。雌でもほぼ同様の比率であった。さらに、カイ二乗検定(統計解析ソフトJMPを使用)の結果、肝細胞肥大の発現と複数の毒性徴候(肝重量増加、肝腫大、血中総タンパク増加、血中コレステロール増加、甲状腺肥大等)との間に有意な関連性が認められた。興味深いことに、中心性とびまん性の肝細胞肥大では、有意に関連する毒性所見が異なった。また一部では性差も認められた。なお、酵素誘導との関連が推察される甲状腺の所見は、中心性肝細胞肥大のみと関連した。以上本研究により、公開されている農薬の90日間反復投与毒性試験結果を利用することで、ラットにおける肝細胞肥大と他の毒性所見との関連性を解析可能なデータベースを構築し、肝細胞肥大の毒性学的特徴の一端を明らかにできた。
著者
喜古 健敬 鳥塚 尚樹 太田 恵津子 永山 裕子 揚村 京子 今出 寿雄 藤川 康浩 菅沼 彰純 築舘 一男
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.38, pp.20183, 2011

【目的】非臨床安全性研究における薬剤性肝障害の早期予測・評価は,ヒトでの有害事象や開発中止等のリスク回避に向けての重要な課題である。近年,循環血中に存在する25塩基前後のmicroRNA(miRNA)が,既存の血中肝毒性マーカーであるALTやASTなどの血中酵素よりも鋭敏に肝毒性を評価するマーカーになりえると報告された。そこで本研究では,肝細胞壊死,胆汁うっ滞,フォスフォリピドーシスを誘発する化合物をラットに投与し,血漿miRNAの変動を解析した。【方法】8週齢の雄性Crl:CD(SD)ラットに肝細胞壊死誘発化合物としてアセトアミノフェン,ブロモベンゼン,四塩化炭素,胆汁うっ滞誘発化合物としてα-ナフチルイソチオシアナートを単回経口投与した。また,フォスフォリピドーシス誘発化合物として,アミオダロン,クロロキン,トリパラノール,フロキセチンを2週間反復経口投与した。ALTを含む生化学検査を行うとともに,マイクロアレイ(GeneChip miRNA Array)にて包括的に血漿miRNAを解析するとともに,特に注目すべき変動を示したmiRNAについて定量的PCR解析を実施した。【結果及び考察】肝細胞壊死化合物の投与により,miR-122およびmiR-192は,ALTの上昇が見られた用量で著明に増加し,さらにALT上昇が認められない用量でも増加した。また,ALT上昇は24時間後のみに見られた一方で,miR-122およびmiR-192は投与1時間後から上昇した。したがって,これらmiRNAはALTの増加と相関を示すのに加え,より早期に肝毒性を検出できることが示唆された。肝細胞壊死,胆汁うっ滞,フォスフォリピドーシス誘発化合物の比較では,それぞれのメカニズムで特異的に変化するmiRNAが複数見出された。以上より,血漿miRNAは,特異性と感度に優れた新規肝毒性マーカーとしての利用が期待された。
著者
村上 善紀 Fujii Hisako Ichimura Akitoshi MURATA Akiko YAMASHITA Noriaki TAKAGI Hidetoshi TAUCHI Kiyonori
出版者
日本毒性学会
雑誌
Journal of toxicological sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.11-29, 1998-05-09
参考文献数
19
被引用文献数
1

To clarify whether levofolinate calcium (1-LV) enhances 5-fluorouracil (5-FU) toxicity, a 4-week toxicity study of 5-FU (10 mg/kg/day) in combination with 1-LV (6, 20 or 60 mg/kg/day) was conducted in rats. In the 5-FU alone group, a decrease in body weight gain, food consumption, RBC parameter and WBC counts were detected. Histopathologically, lymphoid depletion of lymphatic organs, hematopoiesis enhancement of the spleen and myelosuppression were observed. In the group for which 5-FU was combined with 1-LV, the RBC counts decreased, extramedullary hematopoiesis increased and the suppression of lymphatic organs was enhanced. Changes in the lymphatic organs were observed at 20 mg/kg/day of 1-LV and above. In monitoring of blood drug concentrations of 1-LV, 5-methyl tetrahydrofolic acid, a metabolite of 1-LV, and 5-FU after the 1st and 14th dosings, there was no apparent difference between 5-FU alone and 5-FU combined with 1-LV in C_<max> and AUC_<0-∞>. The potentiation induced by 1-LV in the toxicity of 5-FU appeared to be mainly immuno-suppression and myelosuppression, which were related to the anti-tumor activity of 5-FU. Plasma concentrations of 5-FU and 1-LV in this study overwhelmed the concentrations that enhancement of thymidylate synthetase (TS) inhibition due to 5-FU was observed by addition of 1-LV in vitro. Therefore toxic potentiation of 5-FU due to simultaneous 1-LV dosing is presumed to be concerned with an increased ternary complex (FdUMP-TS-5, 10-methylenetetrahydrofolate) formation and a greater extent of TS inhibition.
著者
玉井 朝子 出口 芳樹 安楽 理香 沼田 洋輔 洲加本 孝幸 戸門 洋志 永田 良一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第34回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.5178, 2007 (Released:2007-06-23)

<目的>安全性薬理コアバッテリーとは生命機能における薬物の作用を検討することであり,新薬開発に必須とされている。通常,心血管系、中枢神経系及び呼吸器系が安全性薬理コアバッテリーにおいて試験すべき項目となっている。今回、Whole Body Plethysmograph(WBP)法を用い、ラットに各種薬物を投与して、呼吸機能パラメーターに及ぼす影響を評価した。<実験方法>実験には、8週齢の雄性SD系ラットを用い、Morphine hydrochloride、Baclofen及びChlorpromazine hydrochlorideを経口投与後、呼吸機能測定システム(ソフトウェア:Ponemah Physiology Platform、Data Science International Inc.)を用いて、呼吸機能パラメーター(呼吸数、1回換気量、毎分換気量)の測定及び解析を実施した。<結果>Morphine hydrochloride(100 mg/kg)は、呼吸数及び毎分換気量を増加させたが、1回換気量は変化させなかった。Baclofen(30 mg/kg)は呼吸数を減少させ、1回換気量を増加させたが、毎分換気量は変化させなかった。Chlorpromazine hydrochloride(100 mg/kg)は、呼吸数及び毎分換気量を減少させたが、1回換気量は変化させなかった。<結論>WBP法を用いてラットにおける呼吸機能に対する薬物の作用を評価できることが示唆され、本法は安全性薬理コアバッテリーの評価法として有用であると考えられた。
著者
田畑 肇 坂本 和仁 門倉 豪臣 蓑毛 博文 瀬戸山 孔三郎 谷口 康徳 福岡 香織 北村 知宏 所 和美 洲加本 孝幸 宮前 陽一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20139, 2011 (Released:2011-08-11)

Fluoride is a natural component of the biosphere, the 13th most abundant element in the earth’s crust. Fluoride has been known to play an important role in mineralization of bone and teeth, and can be therapeutically used at low doses for dental care and prevention or at high doses for the treatment of osteoporosis. Particularly in cases of the development of a fluoride compound as a proprietary drug, liberated fluoride ions may bring the risk of causing dental or skeletal fluorosis in animals treated with high doses of fluoride drugs in toxicity studies. However, there are limited data on changes in fluoride levels in hard tissues of the body over animal life spans. In the present work, we obtained plasma, teeth (incisors and molars), bones (alveolar, femur and tibia) and nails from SD rats at 8, 11, 20, 33, 46, 59 and 72 weeks of age and determined fluoride levels individually. Fluoride accumulated time-dependently in bones, nails and molars in a similar manner, with fluoride levels increasing 2-3 folds from 8 to 72 weeks of age. In contrast, fluoride levels in plasma and incisors, which grow continuously in living rats, showed almost constant values. These data can be used not only as a historical database for the effective evaluation of data from toxicology studies, but also as a contribution to biological characterization of SD rats.
著者
廣内 康彦 鈴木 詠子 光岡 ちほみ 金 海栄 北島 俊一 榎本 眞 久木野 憲司
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.33, pp.284, 2006

虚血による梗塞とは部位的に異なった遠隔非虚血部の黒質および視床に遅発性の障害が起こることをサルで確認できたので報告する。 5歳齢カニクイザル雄の5頭を用いて、麻酔下で内頸動脈分岐近位部のMCA本幹を縫合糸により永久閉塞し、6時間、1、2、4および8週後にMRI検索を実施、安楽死後に10%緩衝ホルマリン液で灌流固定した脳を摘出した。さらに定法に従い脳パラフィン標本を作製し、病理組織学的検索を行った。 その結果、MRI-T2強調画像上の高信号抽出像にそれぞれ一致し、梗塞側黒質と視床域にMCA閉塞1週後には浮腫を、また4週から8週後には、神経細胞の減少、軸索変性による硝子体の出現、反応性アストロサイトの増生および肥大の増強を観察した。梗巣を反映するMRI像は、その部位や浮腫および上記病変の程度と一致することから、遠隔非虚血部の障害の早期発見と病像の経時的変化を臨床的に追及できる可能性が示唆された。
著者
有坂 宣彦 平尾 雅郎 西尾 綾子 友澤 寛 松本 清司 武藤 信一 奥原 裕次 松見 繁 筒井 康貴 酒井 里美 竹澤 英利 山田 寛臣 三上 博史
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.36, pp.4164, 2009

【目的】Wistar Hannover(WH)ラットは欧州での毒性試験における頻用系統であるが,本邦での使用実績は少ない。近年,WHラットはSprague Dawley(SD)ラットに比して小型,温順な性質,優れた長期生存性等の理由で毒性試験における有用性が期待されている。しかし,WHラットと頻用系統であるSDラットとの比較例は少ない。今回,亜急性毒性試験を想定した週齢でWH及びSDラット間の系統差を検討したので報告する。【方法】無制限給餌で飼育した雌雄のWH(Crl:Wl(Han))及びSD(Crl:CD)ラットについて,8及び10週齢で血液生化学(Hitachi 7180),血球計測(Sysmex XT-2000),血液凝固(Sysmex CA530)及び骨髄検査,臓器重量測定を実施した。また,9~11週齢で回転かご付ケージ内での体重,摂餌量及び摂水量測定,自発行動解析を実施した。【結果及び考察】WHラットはSDラットに比して以下の特徴を示した。血液生化学検査では,雌雄でAST,ALT及びALPの低値が,10週齢のみでUNの高値がみられた。血球計測検査では,雌雄で赤血球及び網赤血球数の高値,好中球及びリンパ球数の低値に基づく白血球数の低値,MCV及びMCHの低値がみられた。末梢血と同様に骨髄でも赤芽球系細胞数の高値及び骨髄系細胞数の低値がみられ,両系統間で造血能又は造血ステージが異なる可能性が考えられた。凝固系項目には両系統間の差はみられなかった。臓器重量測定では,雌雄とも脾臓体重比重量の高値を示した。体重,摂餌量及び摂水量は雌雄とも低値を示し,自発運動量は雄で少なかった。以上,WH及びSDラット間でWHラットの小型かつ温順な性質という特徴と一致する差異に加え,血液パラメータを中心とした差異がみられた。これらはWHラットを理解する上での一助になるものと考えられた。
著者
横井 毅
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第35回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.16, 2008 (Released:2008-06-25)

小児期は生体機能が年齢とともに大きく変化するため、各年齢における薬物動態の特徴に基づいた薬物療法が必要である。経口薬の消化管吸収については、新生児の胃液のpHが高いことや、生後数ヶ月から半年は胃内容排泄時間が長いため、脂溶性の薬物を除いて一般に吸収が悪い傾向にある。腸管吸収率も新生児では低い。薬の体内分布については、血清蛋白量が低いため、蛋白結合率が低いが、生後1~3年で成人レベルになる。代謝活性は生後速やかに発達し、一般に2~3年で成人レベルになるが、例外も多く知られている。CYP3A7の活性は生後直後に活性が高いために、基質となる薬のクリアランスに大きく影響する。抱合酵素活性については、硫酸抱合の発達は速く、グルクロン酸抱合の発達は遅い。グルクロン酸転移酵素(UGT)分子種でも、UGT1A1やUGT2B7は生後3ヶ月程度で成人のレベルになるが、UGT1A6、UGT1A9やUGT2B7は数年から10年かかる。小児の酵素誘導能についての確かな報告はないが、CYPおよびUGTのいずれも成人よりも酵素誘導を受けやすいことが示唆されている。肝代謝については、小児は体重当たりの肝重量が大きく、肝重量当たりの肝血流量が大きいことの影響を十分に考慮する必要がある。薬の腎排泄能は新生児で未発達であり、生後2, 3ヶ月までは成人の半分以下であるため、有効量と中毒量の幅が狭いことに注意する必要があるが、生後1年程度で成人レベルになる。糸球体ろ過量は新生児では低いが、その後急速に高くなり、1年で成人の2倍になりその後減少する。以上、乳児、幼児や小児における薬物動態は個々の薬によって発達との関係が異なっているために、一様に論ずることはできない。個々の薬において薬物動態のデータに注意をした適切な薬物療法が安全性の確保には必要である。
著者
竹村 誠洋
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.35, pp.24, 2008

ナノテクノロジーは社会に多大な恩恵をもたらすことが期待される反面、健康・環境へのリスクなど、社会的影響に対する懸念も少なくない。現時点でリスクが顕在化したという勧告はないが、その潜在的リスクが研究開発関係者、リスク専門家のみならず、一部の市民にも意識されている。ナノテクノロジーの社会的影響に関する課題は環境・健康・安全関連の課題と倫理・法・社会関連の課題の二つに大別される。前者に関しては、ナノマテリアルの健康・環境リスク評価管理が至近の最重要課題である。一方後者に関しては、人文社会科学者らによるテクノロジー・アセスメントなどを通して、課題が抽出・整理される段階にとどまっている。ナノマテリアルは代表寸法(粒径、断面径、膜厚など)が100nm以下の工業材料と一般認識されている。そのリスクを被る対象として、労働者、消費者、環境の3つが挙げられる。中でも被ばくする可能性が最も高いのは労働者であり、現在実施されているプロジェクトのほとんどが彼らの安全衛生を目的としている。ナノマテリアルの管理においては、従来の化学物質管理と同様、ハザード(有害性)ではなくリスクを管理する、ということが世界的に大前提となっている。ハザードが大きい場合でも曝露を低減するように管理すればリスクを小さくできる、という考え方である。現状ではリスク評価を行うための十分なデータが蓄積されておらず、規制などが確立されるまでの間は、現実的な安全衛生対策の中で最善のものを行う、ベストプラクティスの実行が求められる。ナノテクノロジーの社会受容に関する取り組みは米国で始まり、欧州、日本がそれに続いている。例えば米国ではNIOSH、EPAなどの公的機関に加え、ICONなどの産学官およびNGOを含む組織の活動も活発である。またリスク評価に関する国際協力の重要性も認識され、OECD、ISOが国際合意形成の場として活動している。
著者
門田 利人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.S4-1, 2018

<p> 1960~80年代(昭和の後半)、日本は薬害・公害の時代であった。ペニシリン/ショック、サリドマイド禍、コラルジル/リン脂質症、キノホルム/スモン病、有機水銀/水俣病、カドミウム/イタイイタイ病、ヒ素/ミルク事件、PCB/カネミ油症など枚挙にいとまがない。これらの痛ましい事故・事件の教訓から薬物安全性評価の充実が希求された。医薬品分野では、1984年「薬審第118号、医薬品の製造(輸入)申請に必要な毒性試験のガイドライン」が策定され、Minimum Requirementとして準拠が求められた。臨床適用以外の経路でも単回投与試験を実施し、LD50値や無影響量を算出する目的で数多くの動物が犠牲となった。ヒトへの外挿性が乏しいと知りつつも試験を実施した。これらへの反省は、国際調和という形で促された。1991年(平成3年)の効率的な新医薬品開発を目指した規制の国際調和会議(ICH)の設立である。日本は、ICHからの勧告を受け入れ、無影響量から無毒性量へと改めた。ICHでは、日本は欧州と共に非げっ歯類の長期反復投与試験の投与期間を最長6か月と主張したが、9か月で妥協・合意せざるを得ないという苦い経験もした。今日まで、S1(がん原性試験)からS11(小児用医薬品の毒性試験)まで、改訂を重ね、また、新たなトピックについて議論されてきた。このように、平成の30年間は、国際調和した規制・ガイドラインが策定・施行された時代であったが、平成時代の終わりとともに、ガイドラインに依存した画一的試験の時代から医薬品毎に熟考された多様な試験の時代となることを期待したい。</p><p> 核酸医薬品、遺伝子治療、再生医療などの革新的医療技術において、本当に従来型の毒性評価方法は通用するのか。50年間も医薬品の毒性評価に関わった経験から、新たな時代に毒性評価に携わる若い毒性研究者にとって参考になる情報を提供できたら幸いである。</p>
著者
山下 浩平 吉岡 靖雄 潘 慧燕 小椋 健正 平 茉由 青山 道彦 角田 慎一 中山 博之 藤尾 滋 青島 央江 小久保 研 大島 巧 鍋師 裕美 吉川 友章 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-36, 2012 (Released:2012-11-24)

ナノテクノロジーの進歩により、粒子径が100 nm以下に制御されたナノマテリアルが続々と新規開発され、工業品・化粧品・食品など、多くの分野で既に実用化されている。さらに、近年開発されているサブナノ素材(10 nm以下)は、分子とも異なるうえ、ナノマテリアルとも異なる生体内動態や生体影響を示すなど、新たな素材として期待されている。特に医療分野において、ナノ・サブナノ素材を用いた医薬品開発が注目されており、抗炎症作用などの薬理活性を発揮するナノ・サブナノ医薬の開発が世界的に進められている。サブナノ素材の一つであるC60フラーレン(C60)は、ラジカルスポンジとよばれるほどの強い抗酸化作用に起因する抗炎症作用を有するため、炎症性疾患に対する新たな医薬品としての実用化が待望されている。しかし、非侵襲性・汎用性の観点で最も優れた経口投与製剤としてC60を適用した例は無く、医薬品化に必須である安全性情報も乏しいことから、C60の医薬品化は立ち遅れているのが現状である。本観点から我々は、C60の経口サブナノ医薬としての適用に向けて、経口投与時の安全性情報の収集を図った。異なる数の水酸基で修飾された4種類の水酸化C60をマウスに7日間経口投与し、経日的に体重を測定した。また、各臓器・血液を回収し、臓器重量測定・血清生化学的検査・血球検査を実施した。その結果、各種水酸化C60投与群で、マウスの体重、臓器重量に変化は認められず、白血球数などの血球細胞数や、血漿中ALT・AST・BUN値など組織障害マーカーにも大きな変化は認められなかった。以上の結果から、短期間での検討ではあるものの、水酸化C60は、ナノ毒性の懸念が少なく、安全な経口サブナノ医薬となり得る可能性が示された。今後は、腸管吸収性や体内動態を評価するなど、有効かつ安全なナノ・サブナノ素材の開発支援に資する情報集積を推進する予定である。
著者
杉田 学
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

【はじめに】薬剤の使用は現代医学では不可欠なものであり,その有効性と毒性・副作用については治験結果をもとに強く認識されている。一方で,治験結果から危険性を認識するように警告するようになっていても,使用する患者や医師の認識不足によって重篤な病状をおこしたり,稀と言われている副作用に遭遇したりすることもある。本発表では実際に経験した症例を2例提示し,非臨床/臨床治験を行う側と臨床で使用する医師側,それぞれの問題を考察する。【症例1】29歳男性,4年前から統合失調症で某病院精神科通院中。某日,心肺停止として当院へ救急搬送。来院時心肺停止状態,心電図は心静止,瞳孔は両側散大。直ちに心肺蘇生術を開始し,病着後10分で心拍再開しICU入室。来院直後の血糖値は854 mg/dL,血漿浸透圧は373 mOsm/L,血液/ガス分析ではpH6.558, HCO<SUB>3</SUB>-7.8 mmol/L, BE-35.4と高血糖,高浸透圧血症,代謝性アシドーシスを認めた。心停止に至る原因が他にすべて否定され,糖尿病性ケトアシドーシスによって心停止に至ったと考えた。患者に糖尿病の既往はなく,前医に問い合わせたところ1ヶ月前にOlanzapineが開始され,薬剤開始後2週間,1ヶ月後(今回の来院3日前)の採血で既に高血糖,多飲・体重減少の高血糖を示唆する所見があったにも関わらず主治医は認識していなかった。本症例を含め同薬と因果関係が否定できない重篤な高血糖,糖尿病性ケトアシドーシス,糖尿病性昏睡が9例(死亡例2例)報告されたため注意喚起がなされ,本邦での発売元は同薬剤を,糖尿病患者やその既往歴のある患者への投与を禁忌とした。【症例2】79歳男性, 意識障害を主訴に来院。高血圧,慢性腎臓病,糖尿病で降圧剤,Vildagliptinを内服。来院時の意識はJCS3-R,簡易血糖測定で34 mg/dl,Whipple3徴を満たしたため低血糖性昏睡と診断。DPP-4阻害薬は作用機序から血糖依存性に作用するため低血糖発作のリスクは低いとされるが,本症例の如く単独でも低血糖となり得る。【考察】症例1では医師側の認識不足が,症例2では稀な副作用が,重篤な病態を起こした。開発現場と臨床現場それぞれで情報を密にやりとりすることが必要であり,非臨床/臨床治験の結果を紐解く作業が臨床現場にも求められる。