著者
白井 紀充 高橋 守 田代 俊文 古田 千香子 二井 愛介 堀井 郁夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第33回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.280, 2006 (Released:2006-06-23)

【目的】NMDA受容体は、中枢神経の主要興奮性伝達物質であるグルタミン酸に対する受容体のサブタイプの一つである。NMDA受容体拮抗薬の毒性は、MK-801によるラット大脳の神経細胞障害が知られているが、イヌでの報告は乏しい。我々は、あるNMDA受容体拮抗薬を投与したイヌで認められた大脳病変をMK-801によるラットでの変化と比較検討した。【材料と方法】ビーグル犬4例にNMDA受容体拮抗薬の一定用量を単回、静脈内投与し、投与48時間後における脳の病理組織学的検査を実施した。脳は灌流固定後、全体を一定間隔で切り出し、各組織片についてHE染色標本を作製して観察した。また、神経細胞の壊死を同定する目的でFluoro-Jade蛍光染色による観察も行った。ラット大脳病変については、MK-801の4.4 mg/kgを単回、皮下投与したSD系雌8例における投与4時間後(4例)および24時間後(4例)の脳を病理組織学的に観察した。【結果と考察】イヌ1例が、投与直後より間欠性のjaw snapping(顎をがくがくさせる)・流涎を呈し、投与2日後には自発運動の減少を示した。この動物では、海馬および大脳底部の嗅脳皮質における神経細胞壊死が認められた。他の3例は、投与直後より投与1日後にかけて間欠性のjaw snappingを呈したが、脳に形態学的変化はなかった。イヌ脳病変は1例にみられたのみであったが、NMDA受容体拮抗薬によりイヌの大脳神経細胞に障害が起こる可能性が示唆された。MK-801を投与したラットでは、大脳の膨大部後方皮質における神経細胞空胞化および神経細胞壊死が、それぞれ投与4時間後、投与24時間後に全例で認められ、既に報告されている結果と符合した。MK-801のラット大脳病変は膨大部後方皮質に限られ、イヌでの報告はない。しかし、NMDA受容体は大脳皮質や海馬に広く分布していることから、NMDA受容体拮抗薬による病変の発現部位は拮抗薬の種類あるいは動物種に依存して、多様であると推察された。
著者
鈴木 将 水町 秀之 行 卓男 宮澤 正明
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第49回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-93E, 2022 (Released:2022-08-25)

近年の動物実験に対する法規制や動物愛護の観点から、動物を用いない皮膚感作性評価手法が求められる。2021年、代替法を組み合わせることで動物実験と同等の感作強度予測が可能とされるdefined approach (DA)としてITSv1/v2がOECD Guideline 497へ収載された。一方、既存DAの適用限界として難水溶性物質およびpre/pro-haptenが挙げられ、これに対し、我々はヒト皮膚モデル(RhE)を用いた代替法Epidermal Sensitization Assay (EpiSensA)とin silicoモデルTIMES-SSを組み合わせた新規DAとしてRhE based Testing Strategy (RTS)を検討してきた。RTSはITSv1/v2と同様、スコアベースのDAであり、動物実験LLNAを基にしたGHS強度分類(1A, 1B, NC)に対して一致率78.7%とITSv1の一致率71.2%と同等の予測性を有している。一方で定量的リスクアセスメントにおいては、LLNAデータより導出される EC3値が有用であるが、DA単独では感作強度を3分類で判定するためEC3値の精緻な予測ができない。また、リスクアセスメントにおいては過小評価の回避も重要であるが、これまでの検討からRTS単独ではEpiSensA構築時の化学物質データセットに対して18物質で過小評価が確認されている。そこでRTSと類似化合物から毒性を予測するread-acrossを組み合わせることで、EC3値の精緻な予測と過小評価の回避が可能な評価体系の構築を目指した。最初に評価対象化合物に対して適切な類似化合物をin silicoツールを用いて探索した。続いて評価対象化合物、並びに選ばれた類似化合物に対してRTSを実施した。その後、類似化合物のEC3値と比較してRTSの結果の信頼度が高い場合に類似化合物のEC3値を評価対象化合物に適用することでpredicted EC3値 (pEC3値)を導出した。本評価体系の有用性を確認したところ、GHS1Bに分類される感作性物質において精緻なpEC3値の導出が可能であること、さらにRTS単独で過小評価していた全18物質についても過小評価の回避とpEC3値の導出が可能であることが確認でき、本評価体系の感作リスクアセスメントへの有用性が示された。
著者
柳場 由絵 豊岡 達士 王 瑞生 甲田 茂樹
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第47回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-116, 2020 (Released:2020-09-09)

【背景・目的】国内の化学工場において膀胱がんの発症が多数報告された事例では、芳香族アミン類が主に皮膚経路で吸収され、がんを誘発したと疑われている。現場で生じた膀胱がん症例の一部は、オルト-クロロアニリン(OCA)のばく露歴もあり、またインビトロ実験でこの物質は強い遺伝毒性が観察された。しかし、OCAについては、その経皮吸収に関する報告や定量的情報はなく、体内に入った後どの臓器に分布するかは不明である。そこで本研究では、ラットを用いて、OCA 経皮投与後のOCAの全身への分布・動態等について検討した。【方法】雄性Crl:CD(SD)ラット(7週齢)を用い、イソフルラン麻酔下で背部を剪毛、毛剃毛し、[14C]OCA経皮投与液を50mg/748kBq/4ml/kgの用量で塗布したリント布を用いて、8時間、24時間経皮投与した。投与終了後、リント布を剥離し、イソフルラン吸入麻酔下、炭酸ガスの過剰吸入により安楽死させ、全身オートラジオルミノグラムを作成した。投与後代謝ケージに収容し、採尿区間は投与開始後0~4時間、4~8時間、8~24時間の3時点とした。【結果・考察】投与後8時間、24時間の膀胱に放射活性が高く、投与したOCAのほとんどが膀胱へ移行していることが観察された。一方、肝臓や腎臓などの臓器への分布はほとんど観察されなかった。尿中排泄率からも投与後8~24時間の間で投与したOCA濃度の86%が排泄されており、これらの結果から、OCAは投与後、速やかに経皮吸収され、膀胱等に高濃度で移行する。また、24時間以内に投与濃度の大部分が尿中へと排泄され、肝臓や腎臓への蓄積が少ない物質であることが示唆される。
著者
野村 由美子 野田 清仁 大橋 祐介 鹿野 真弓
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S5-2, 2021 (Released:2021-08-12)

感染症予防ワクチンは、免疫反応の惹起を介して有効性を発揮する特徴があり、通常の医薬品を対象とした非臨床試験ガイドラインが適用可能とは限らない。日本では、「感染症予防ワクチンの非臨床試験ガイドラインについて」(2010年5月27日)により考え方が示されてきたが、近年はワクチンの開発環境が変化しており、ワクチンの改訂の必要性が認識された。 ワクチンの開発に係る困難な点を企業アンケートによって抽出したところ、非臨床試験に関して、投与経路追加時等の全身暴露毒性試験の要否や安全性薬理試験要否の判断基準等が指摘され、これらの課題について、開発品目における対応状況の調査や国内外のガイドラインの比較等を実施した。 投与経路追加に関しては、筋肉注射と皮下投与が可能な7品目について、いずれも反復毒性試験は一方の投与経路のみで実施し、局所刺激性試験を両方の投与経路で実施していた。また、WHOのガイドラインでは、経鼻投与に際しての脳神経系への影響など代替経路開発時の留意点が具体的に示されていた。 安全性薬理試験については、国内ガイドラインでは他の毒性試験であらかじめ安全性薬理のエンドポイントを評価できる必要があるのに対し、WHOガイドラインでは他の試験で生理機能への影響が懸念される場合に実施することとされていた。この違いを反映して、国内のみで開発されているワクチンの方が海外でも開発されているワクチンより、安全性薬理試験の実施率が高かった。 これらの結果に基づき、投与経路追加時等について全身暴露の毒性試験は必ずしも全投与経路で必要ないこと、安全性薬理試験については他の非臨床安全性試験で評価可能とする等の改訂を提案した。ワクチンについても、日本で遅滞なく新規ワクチンが導入されることが重要であり、ガイドラインの違いによる非臨床試験のやり直しを防ぐため、要求事項の国際整合性を踏まえた改訂の提案を行った。
著者
武田 知起
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.SY2, 2017 (Released:2018-03-29)

環境化学物質が次世代の健全な発育を障害する可能性については、長年にわたり国内外で危惧されている。これらの多くは、ホルモンのアゴニストやアンタゴニスト、いわゆる内分泌撹乱作用によって毒性作用を示すと考えられてきた。しかし、ホルモン受容体への親和性は、内在性ホルモンと比べると遥かに小さい物質が殆どであるため、障害性の全てを受容体への作用のみで結論づけることは難しいと思われる。さらに、ホルモン作用の亢進や抑制がどの種の障害にどのように直結するのかは殆ど理解されていない。 ホルモンは、発達期において組織の分化や成熟を制御する生理活性物質として重要である。しかし、このような視点での発達期に着目した研究は、これまで十分に行われていなかった。演者は、発達期におけるホルモン作用の撹乱が内分泌撹乱物質による次世代影響の根底にあるとの仮説の検証を目指し、ラットを用いた解析研究を行ってきた。具体的には、代表的な内分泌撹乱物質であるダイオキシンの妊娠期曝露が胎児~新生児期の内分泌系に及ぼす影響を解析すると共に、成長後の障害との関連性を検証した。種々の解析の結果、ダイオキシンは出生前後に脳下垂体 luteinizing hormone (LH) の発現抑制によって生殖腺の性ホルモン合成を低下させること、ならびにこの一過的な影響が成長後に見られる性成熟障害の一端を担うとの新規毒性機構が実証された。本成果は、化学物質による次世代影響が胎児期の一過的影響を起点に生じることを明確に示すものであり、毒性学的研究における新たな展開として重要と考えられる。引き続き、障害の全容解明を目指し、胎児期の性ホルモン低下が神経成熟に及ぼす影響に着目した研究を実施している。 演者は最近、上記の成果を基盤とする次世代影響の in vivo 評価法への応用に向けた取り組みも展開中である。すなわち、di(2-ethylhexyl)phthalate (DEHP)、ビスフェノールA (BPA)、臭素系難燃剤および重金属等の十数種類の内分泌撹乱物質につき、妊娠ラットへの単回経口投与による胎児脳下垂体-生殖腺系への影響を調査した。その結果、DEHP、BPAおよびBPAF (フッ素化BPA) が、胎児精巣における性ホルモン合成能を低下させうることを見出した。さらに、現実の曝露に即した妊娠期飲水曝露法を用いた検討の結果、CdCl2 および Pb(OCOCH3)2 も同様に性ホルモン合成系の発現を低下させる事実が判明した。しかし、これらの化合物には、いずれも胎児期の LH発現抑制作用は見られず、多くの内分泌撹乱物質がダイオキシンと異なる機構で胎児の性ホルモン撹乱作用を発揮する可能性が浮上した。多種多様な化学物質が存在する現代社会において、各々が異なる機構で生体影響を示す事実から、複合曝露による相加・相乗的影響の問題が懸念される。本研究をさらに発展させ、内分泌撹乱物質が次世代に及ぼすホルモン撹乱作用とこれに基づく障害の実態を明らかにしていきたい。
著者
田山 邦昭 藤谷 知子 坂本 義光 安藤 弘 久保 喜一 高橋 博 長澤 明道 矢野 範男 湯澤 勝廣 大橋 則雄 中江 大 小縣 昭夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第36回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.4034, 2009 (Released:2009-07-17)

【目的】蔓延する違法(脱法)ドラッグについて、行動・中枢神経系以外への影響はあまり調べられていない.今回、違法ドラッグの雄性生殖器系への障害性をみるためにスクリーニング的に施行した投与試験において、薬事法指定薬物となったtryptamine系薬剤が、精巣・精子への障害性を認めたので報告する. 【方法】薬物:5-methoxy-N,N-dimethyltryptamine(5MeO-DMT). 投与法:薬物はプロピレングリコールに溶解し、0(対照), 100, 250 mg/kg/day投与量で11週齢の雄性マウス(Crlj:CD-1)5匹に5日間連続経口投与後、1, 5週目で剖検し、生殖器系の臓器重量計測後, 機器による精子ハ゜ラメータ検査をし、さらに固定標本の組織学的検討を行った.機器:精子数計測および形態異常検出(粒度分布曲線係数MODALの比較)にはCDA-500を、運動性計測にはSQA-IICを用いた.測定法:既報(Repro Toxicol, 2006)により行った. 【結果・考察】臓器重量:1, 5週共に、いずれの用量も対照群と差はなかったが、精巣・精巣上体などで低下傾向がみられた.精子ハ゜ラメータ:精子数・運動性は、1週目の250 mg/kg群では、有意に低下し、形態異常マーカーのMODALは低下傾向を示した.5週目では両用量共に精子数・MODALで低下傾向を示した.組織学的観察:1週目の250 mg/kg群で、精巣では精上皮の変性・壊死、精巣上体では、管腔内の精子数が減少し、細胞残屑が認められ、体部で管腔が拡張していた.5週目ではこれらの変化の回復がみられた.以上より、5Meo-DMTは、精巣・精子障害性を有することが明らかとなり、本薬物連用の危険性が示された.現在、投与量を4用量設定し再度実験を実施しており、この結果と合わせて報告する.
著者
早瀬 環
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第33回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.68, 2006 (Released:2006-06-23)

Nicotine (NC) has been reported to cause both sedative and anxiogenic effects, and participation of various brain receptors, including brain cannabinoid (CB) receptors, has been demonstrated. In the present study, the behavioral effects of repeated NC were examined in male ICR mice. Methods and Results: In the repeated subcutaneous NC (0.5 mg/kg, 4 days) administration group, unlike the acute single dose group, prolonged anxiety-related behavioral alterations were observed in the elevated plus-maze test, and sedative hypolocomotion was also caused at an earlier time point. Furthermore, NC caused stress-related depressive behavioral alterations in the forced swimming test, and these alterations were prolonged by repeated administration. Against the anxiety-related symptoms, the serotonin receptor antagonist WAY 100635 and the mixed agonist/antagonist virodhamine provided significant antagonistic effects. For the early sedative hypolocomotion, the non-CB1/non-CB2 brain CB receptor agonist O2093 had some antagonist activity. Furthermore, O2093 and virodhamine antagonized the stress-related depressive behavioral alterations in the forced swimming test. Discussion and Conclusion: These results demonstrated a prolongation of the NC-induced anxiety-related and stress-related behavioral alterations by repeated administration, which was accompanied by early sedative effects and may contribute to the persistent use of this drug. Furthermore, a characteristic participation of brain CB receptors in these prolonged behavioral effects was elucidated.
著者
寺山 隼人 梅本 佳納榮 曲 寧 坂部 貢
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-134, 2019 (Released:2019-07-10)

ネオニコチノイド系農薬(NP)はニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)へのアゴニスト作用によって害虫に対しては強い毒性を発揮するが、哺乳類には安全であるとされ世界中で汎用されている。しかし、近年、実験動物でNPが神経系、免疫系、生殖器系など様々な器官に悪影響を及ぼす事が報告されている。精巣内環境は思春期を境に精子・精子細胞が出現するため劇的に変化する。成獣雄マウスにNPを投与すると、血清テストステロンの低下や造精障害が報告されているが、幼若雄マウスにNPを投与した報告はない。そこで本研究は、幼若雄マウス(3週齢)にNPであるアセタミプリド(ACE)を投与し、精巣に与える影響を検討した。ACEを水道水に溶かし自由飲水させる実験(ACE1およびACE2)群、ACEを溶解している界面活性剤(DMSO)のみを水道水に溶かし自由飲水させるDMSO群、水道水のみ自由飲水させるUntreated群の4群に分け、180日後に精巣を深麻酔下で摘出し、形態学的および分子生物学的に評価した。その結果、180日後の体重は実験群で有意に減少したが、精巣の重量や組織に有意な変化はなかった。ステロイド合成系、増殖細胞因子、nAChRサブユニットのmRNA発現は実験群で有意に低下していた。ACE曝露は形態学的変化を誘導しない投与量でも、精巣内に蓄積し、遺伝子発現に様々な変化を及ぼすことがわかった。さらに、過去の文献と比較すると種差、ネオニコチノイド系農薬種、週齢において、かなり感受性の違いがある事もわかった。
著者
宮崎 育子 村上 真樹 菊岡 亮 磯岡 奈未 北村 佳久 浅沼 幹人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-225, 2017 (Released:2018-03-29)

農薬ロテノンやパラコートへの曝露がパーキンソン病発症率を高めることが報告され,これらの農薬はパーキンソン病発症に関与しうる環境要因として注目されている.ロテノン慢性曝露は中枢神経系,末梢消化管神経系にパーキンソン病様の病態をもたらすことから,モデル作製に用いられている.これまでに,農薬ロテノンを慢性皮下投与したパーキンソン病モデルマウスにおける中枢(黒質線条体,嗅球)・末梢(上行結腸)神経障害とアストロサイト(様細胞)活性化の部位特異性・時間依存性について報告した.今回,初代培養細胞を用いてロテノン誘発ドパミン神経障害におけるアストロサイトの関与について検討した.妊娠15日齢の胎仔中脳からの神経細胞単独培養あるいは神経細胞+アストロサイト共培養にロテノンを添加した.中脳神経細胞単独培養ではロテノン添加によるドパミン神経毒性は認められなかったが,中脳神経細胞+アストロサイト共培養ではチロシン水酸化酵素陽性ドパミン神経細胞数が有意に減少した.また,あらかじめロテノンで処置したアストロサイトの培養液を中脳神経細胞単独培養に添加したところ,ドパミン神経障害が惹起された.以上の結果より,ロテノンにより惹起される中脳ドパミン神経障害は非細胞自律性の障害であり,アストロサイトが関与することが示唆された.
著者
住田 佳代 五十嵐 芳暢 鳥塚 尚樹 松下 智哉 阿部 香織 青木 幹雄 漆谷 徹郎 山田 弘 大野 泰雄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.246, 2010 (Released:2010-08-18)

【目的】ジメチルスルホキシド(DMSO)は細胞を用いたアッセイにおいて脂溶性の化合物を添加するときによく用いられる。しかし,DMSOはその濃度が高くなると, 細胞毒性を呈することが知られており,DMSOの細胞に対する種々の影響をよく踏まえておくことが必要である。今回,我々はDMSOがヒト凍結肝細胞の遺伝子発 現に与える影響を検討した。 【方法】1.2x106個のヒト凍結肝細胞を6ウエルプレートに播種し,4時間後に培地交換した後,さらに20時間培養した。0,0.1,0.5,0.75,1,2%(v/v)DMSOを 含む培地に交換し,24時間培養した。細胞播種から48時間後に培地及び細胞の全RNAを回収した。培地内のラクテートデヒドロゲナーゼ(LDH)活性を測定し,細胞 毒性を評価した。また,HGU133Plus2.0アレイ(アフィメトリックス社,約55,000プローブ搭載)を用いて網羅的遺伝子発現解析を行い,DMSOの影響を検討した。 【結果】LDH活性を指標とした細胞毒性は,DMSO濃度2%(v/v)まで認められなかった。遺伝子発現データを解析した結果,DMSO濃度0.75%(v/v)において,2倍 以上あるいは1/2以下の発現変動を示した遺伝子数はそれぞれ11個,46個と少なかった。また,薬物代謝酵素の発現への影響を解析した結果,大半の酵素に関して, DMSO濃度0.75%(v/v)までは発現変動の振れ幅が1標準偏差内に収まり,大きな影響は認められなかった。今回得られた結果を総合的に考察すると,少なくとも DMSO濃度0.5%(v/v)までは遺伝子発現データに大きな影響を与えないことが示唆された。現在,ラット初代肝細胞を用いてDMSOの影響を検討中であり,合わせ て報告したい。
著者
森岡 洋貴 西尾 隆佑 竹内 梓紗 玉野 春南 武田 厚司
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-38, 2018 (Released:2018-08-10)

農薬暴露はパーキンソン病の環境要因とされる。除草剤のパラコートは、NADPH酸化還元酵素等を介した酸化還元サイクルにより、活性酸素種を細胞内外で持続的に産生する。実験動物においてパラコート暴露はパーキンソン病に特徴的な黒質ドパミン作動性神経変性を惹起するが、その神経変性機序は明らかではない。本研究では、パラコートによる黒質ドパミン作動性神経変性には細胞外Zn2+流入が関与し、運動障害を惹起すると仮定し検証した。 ラットの片側黒質にパラコートを投与して2週間後、投与側黒質組織は脱落した。さらに、投与側の線条体ではドパミン作動性神経マーカーであるチロシン水酸化酵素の染色が顕著に減弱した。これより、パラコートによる黒質—線条体ドパミン作動性神経の顕著な変性が認められた。パラコートの片側黒質投与2週間後の運動障害をアポモルフィン皮下投与による回転運動回数で評価したところ、回転運動回数は増加し、運動障害が認められた。また、パラコート投与10分後において黒質細胞内Zn2+レベルは顕著に増加した。このパラコート投与による神経変性および運動障害は、細胞内Zn2+キレーターとパラコートの同時投与により改善された。パラコートによる黒質ドパミン作動性神経変性を介した運動障害には黒質ドパミン作動性神経細胞内Zn2+レベルの増加が関与することが示唆された。細胞内Zn2+レベルの増加の機序を追究するため、パラコートをラット黒質に灌流すると細胞外グルタミン酸濃度は増加した。また、脳スライスにパラコートを添加すると黒質細胞内Zn2+レベルは増加し、細胞外Zn2+キレーターならびにグルタミン酸受容体であるAMPA受容体の阻害剤存在下で抑制された。これより、パラコートは神経終末からのグルタミン酸放出を促進させ、AMPA受容体活性化を介して細胞外Zn2+が黒質ドパミン作動性神経に取り込まれることが示唆された。以上、パラコートによる黒質ドパミン作動性神経への細胞外Zn2+流入は黒質ドパミン作動性神経変性を介した運動障害の一因であることが示された。
著者
竹内 咲恵 ラン トラン ソニア ボーランド 市原 学 サンドラ ブラニッチ 渡邊 英里 長田 百合果 平野 明穂 櫻井 敏博 佐藤 聡 市原 佐保子 ウ ウェンティン
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.P-70, 2018

<p>【背景・目的】</p><p>ナノテクノロジーが発展途上にある現在、その基盤となっているナノマテリアルの特性と生体影響との関係を明らかにすることは、安全なナノマテリアルを開発するため、あるいは安全に使用するために必要である。ナノマテリアルの中でも多く用いられているシリカナノ粒子(SiO<sub>2</sub>NPs)にカルボキシル基、アミノ基、水酸基を付加してマウスの肺に曝露し、肺胞洗浄液中のマクロファージ、好中球の数をカウントしたところ、水酸基を付加したSiO<sub>2</sub>NPs(OH-SiO<sub>2</sub>NPs)を曝露したときのみマクロファージや好中球が他の2種類の粒子よりも少なかったことが先行研究より明らかになっている。また、OH-SiO<sub>2</sub>NPsはマウスマクロファージ細胞株RAW264.7細胞への曝露において、細胞生存率を著しく低下させたことも明らかになっている。そこで本研究では、それがアポトーシスによるものであると仮説を立て、経時的にLDHとCaspase-3,Caspase-7の活性を測定することにより検討を行った。</p><p>【方法】</p><p>マウスマクロファージ細胞株RAW264.7を96wellプレートに15,800 cells/cm<sup>2</sup>で播種した。37℃、5%CO<sub>2</sub>で24時間培養後、メディウム中に分散させたOH-SiO<sub>2</sub>NPsを19.5 µg/mLの濃度で曝露し、曝露から1,6,12,18,24時間後にLDH活性を、0,6,12,18時間後にCaspase-3,Caspase-7の活性を測定した。</p><p>【結果】</p><p>LDH活性、Caspase-3,Caspase-7の活性は共にOH-SiO<sub>2</sub>NPs曝露後6~18時間で著しく増加し、相関していた。</p><p>【考察・結論】</p><p>LDH活性の測定結果から、OH-SiO<sub>2</sub>NPs曝露後6~18時間の間に細胞障害、あるいは細胞死が起こっていると考えられる。また、同じタイミングでCaspase-3,Caspase-7の活性が上昇していることから、OH-SiO<sub>2</sub>NPsがアポトーシスを誘導すると考えられる。</p>
著者
斎藤 芳郎
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第47回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S4-5, 2020 (Released:2020-09-09)

必須微量元素であるセレンは反応性が高く、強い毒性を持つ元素であるが、生体はセレンの特性を巧みに取り込み、生体防御に利用している。セレンはセレノシステイン(Sec:システインの硫黄がセレンに置換したアミノ酸)の形で主にタンパク質中に含まれ、過酸化物を還元・無毒化するグルタチオンペルオキシダーゼやレドックス制御因子チオレドキシン還元酵素の活性部位を形成する。セレンは、これらの抗酸化酵素の生合成に必須であり、生体の酸化ストレス防御において要となる栄養素である。しかし、近年セレンの代謝異常が糖尿病など生活習慣病に深く関与することが明らかとなった。高血糖・高脂肪により誘導された血漿セレン含有タンパク質セレノプロテインP(SeP)が、インスリン抵抗性やインスリン分泌を悪化し、糖尿病の発症進展に“悪玉”として作用することが明らかとなっている。 食品中に含まれるセレンは消化された後、消化管から吸収され、セレン含有タンパク質の合成経路に入るが、その代謝経路はセレンの形態によって異なる。Secは生体により“セレン”と認識され、Secリアーゼにより分解されて生じた無機セレンがSec合成系に入る。一方、体内に吸収されたセレノメチオニン(SeMet:メチオニンの硫黄がセレンに置き換わったアミノ酸)は生体内でセレン・硫黄の区別されずに代謝され、一部はタンパク質中にも取り込まれる。本発表では、セレンと硫黄代謝の接点、特に各元素を含むアミノ酸の代謝経路および生体内における各元素の識別機構について概説する。さらにセレンと硫黄代謝のクロストーク、特に親電子性物質に対する生体応答・解毒作用について議論する。
著者
植木 眞琴
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.S16-3, 2018

<p> ロシアは地元開催のソチ冬季五輪で組織的ドーピング不正を行ったとして,リオ夏季五輪および先の平昌冬季五輪には国としての大会参加が認められず,ロシア国外に活動拠点を置きドーピングを行っていないことを第三国による検査で立証された選手の個人としての参加のみが認められた。不正行為の立証は検査記録の調査,内部告発者の証言のほか,過去の大会で採取され保管されていた試料の高感度法による再検査によって行われ,再検査で陽性となった選手には資格停止,永久追放などの厳しい追加処分が課された。</p><p> 世界アンチドーピング機構(WADA)の独立調査団の報告いわゆるマクラーレンレポートによれば,判明した組織的不正の主なものは,選手を管理する国内スポーツ団体,検査システムに熟知した国内アンチ・ドーピング機構(RUSADA),モスクワの公認機関検査機関責任者らによる,検査で検出されにくいステロイドカクテルの選手への提供,非公式検査による薬物痕跡消失の確認,自国選手の陽性尿すり替えによる薬物使用の隠蔽で,それらの不正はドーピングを強要され報酬の提供を要求された選手によるドイツマスコミARDへの内部告発によって発覚した。その時点で検査システムは不正防止に十分配慮して設計され,ソチ五輪期間中も外部科学者の監視の下に検査が行われたが,監視員が退出した後に別室で被験検体のすり替えが行われることまでは想定していなかったのである。</p><p></p><p>東京五輪へ向けた再発防止策として,</p><p>1.検査開封時まで試料の入れ替えを不可能とする,より確実な封印容器の開発</p><p>2.再検証を可能とする被験検体および公式記録書の10年間保管(現状規則による)</p><p>3.薬物使用を使用停止後も長期間検出でき,法的な取り扱いに対応できる検査方法の開発</p><p>4.新規禁止物質分類検査法の拡充</p><p>5.複数の外部専門家による検体採取から検査結果報告,処罰決定の全プロセスの監視</p><p>6.不正通告のための内部告発の制度化</p><p>7.ドーピング防止のための教育啓発</p><p>などが実施され,または予定されている。</p><p></p><p>発表では上記のうち,おもにドーピング分析の科学的内容について言及する。</p>
著者
星 香里
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.S16-1, 2018

<p> ドーピングとは、スポーツの世界において競技能力の向上を目的として、世界統一のルールで禁止されている物質や方法を使用することであり、フェアプレーの精神に反してスポーツの価値を脅かす行為であるとともにアスリートの健康を害する行為で絶対に許されない。</p><p> 我が国のアンチ・ドーピングに関する状況としては、日本人アスリートのドーピング違反確定率が他国と比較して格段に低いことや、世界ドーピング防止機構(WADA:World Anti-Doping Agency)の創設時から文部科学副大臣が継続して常任理事を務め、国際的なアンチ・ドーピング活動に貢献してきていること、また、我が国唯一のアンチ・ドーピング機関である日本アンチ・ドーピング機構(JADA:Japan Anti-Doping Agency)を中心とした検査活動、教育・啓発活動等が安定して実施され、着実に成果を上げていることなどから国際的にも高い評価を受けている。</p><p> 一方、国際的な状況としては、昨今、ロシアで起こったとされる組織的ドーピングの問題がリオデジャネイロと平昌のオリンピック・パラリンピック競技大会におけるロシア選手の参加に影響し、両大会に影を落とす結果となったり、過去の大会時に採取・保管された検体から禁止物質が検出されて、後から記録やメダルが剥奪されるという事案もたびたび発生しており、WADAを中心としたアンチ・ドーピング活動のより一層の充実が求められているところである。</p><p> 2年後に迫った東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催国として、日本に対しては、国際オリンピック委員会(IOC:International Olympic Committee)やWADAからドーピングのないクリーンな大会にしてほしいと強い期待が寄せられている。</p><p> その期待に応えて万全のアンチ・ドーピング体制を整えるべく、日本政府としては、まず文部科学省内に「アンチ・ドーピング体制構築・強化のためのタスクフォース」を設置し、現状と課題を明らかにするとともに、課題解決に必要な方策について取りまとめた。同タスクフォースの議論においては、喫緊に取り組むべき方策の中に法的措置が必要な事項もあると整理された。これを受けて、超党派のスポーツ議員連盟にアンチ・ドーピングワーキンググループが設置され、我が国初となるアンチ・ドーピングに関する法律の制定に向けた議論が重ねられて、2017年4月にスポーツ議員連盟総会で法律案が了承された。現在は、国会への提出に向けて諸々の手続きが進められているところである。</p><p> 本講演では、我が国におけるドーピング違反の具体的事例とドーピングを防止するための様々な取組を紹介するとともに、国内外のアンチ・ドーピング体制やアンチ・ドーピングに関する法案の内容、2020年東京大会に向けた取組等について、紹介したい。</p>
著者
廣田 泰 上野 恵理子 江口 真嗣 大杉 史彦 若園 博 柳 浩由紀 Beatrix Blume 阿瀬 善也
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第34回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.5016, 2007 (Released:2007-06-23)

化合物Aのラットを用いた胚・胎児発生への影響に関する試験では,無眼球,小耳,上下顎の形態異常といった頭部顔面に特徴的な変化が異常胎児の多くに認められ,このほか曲尾や短尾といった尾の異常も認められた.これらの表現形はレチノイン酸の催奇形性と類似している点が多いことから,化合物Aの毒性ターゲット(主薬効とは異なるoff-targetへの作用)として,核内受容体・レチノイン酸レセプター(RAR)に対する作用が考えられた.そこでRARα,β,γを含め26種類のヒト核内受容体に対する作動性をレポーターアッセイにて検討した.その結果,化合物AはヒトRARα,βおよびγに対して弱いながらもアゴニスト活性を有しており,そのEC50値は1.5~5μg/mL(終濃度)であった.RAR以外に催奇形性に繋がり得る核内受容体への作用は認められなかった.また,ラットのRARに対する作用も検討したところ,ヒトRARと同様にアゴニスト活性を有していた.さらに,妊娠ラットに化合物Aの催奇形性発現用量を投与し胎児の血漿中濃度を測定したところ,Cmaxは117μg/mL,AUCは1577μg・h/mLであった.レチノイン酸をラットやマウスに投与すると,小眼球,無眼球,耳介形態異常,上下顎の形態異常,口蓋裂,曲尾,短尾といった化合物Aの催奇形性と類似した催奇形性が認められることが知られている.これらのことから,化合物AではRARアゴニスト作用のEC50値(1.5~5μg/mL)をはるかに上回る濃度が持続的にラット胎児に暴露された結果,催奇形性が発揮されたものと推察された.
著者
三村 雄一 柴田 誠司 久田 茂 児玉 晃孝 吉田 正尚 増山 剛 成田 隆博 立花 滋博 古谷 真美 桑形 麻樹子 早川 和宏 青木 豊彦 細川 暁 牧 栄二
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.P-44, 2012

Wistar HannoverラットはSDラットに比して小型であり、生存率が高く、自然発生腫瘍が比較的少ないことから、安全性試験への利用が注目されている。今回、IGSラット研究会の活動として、4施設参画によるCrl:WI(Han)ラットの一般毒性試験に関する背景データの収集を実施した。下記の共通プロトコールを基に、各施設で試験条件を設定し、Crl:CD(SD)ラットの背景データとの比較を行った。共通プロトコール: • 観察・投与期間 : 4週、13週または26週 • 動物数 : 雌雄 n=10/ 性 (無処置または溶媒投与) • 飼育条件 : 任意 (実施施設で決定,飼料等の条件設定はしない) • 検査項目 : GLP 適用試験で実施する検査項目結果及びまとめ:Crl:WI(Han)ラットは、Crl:CD(SD)ラットと比較して、以下の特徴が認められた。なお、主要な所見について、施設間に相違は認められなかった。 • 体重及び摂餌量:低値 • 眼科学的検査:角膜混濁 頻度増加 • 血液学的検査:WBC、Platelet低値 • 血液生化学的検査:脂質系、AST及びALT低値 • 器官重量(相対):胸腺高値 • 眼の病理組織学的検査:角膜鉱質沈着 増加
著者
高橋 祐次 相磯 成敏 大西 誠 石丸 直澄 菅野 純
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.S6-4, 2018

<p>吸入曝露経路は、工業的ナノマテリアル(NM)の有害性発現が最も懸念されるところである。NMを利用した製品開発が進展する昨今、有害性が人々に及ぶことを防止するための基準作りに必要となる基礎的かつ定量的な毒性情報を迅速かつ簡便に得るための評価法の構築が望まれている。一般的に、生体内で難分解性である粒子状物質の急性毒性は弱く、むしろ、発がんや線維化といった慢性的な影響が問題となることが過去の事例から明らかであり、動物実験による評価が必須であると考えられている。吸引されたNMが毒性を発現する過程において、各種の細胞及び生体内分子との様々な相互作用が想定されるが、慢性毒性発現の起点として、異物除去を担うマクロファージ(Mφ)が重要な役割を果たしていることは論を俟たない。我々は、これまでMφに貪食されたNMのMφ胞体内の蓄積様式(長繊維貫通、毛玉状凝集、粒状凝集)と蓄積量、Frustrated phagocytosis誘発の関係に着目し、マウスを用いた吸入曝露研究を進めている。ここでは長繊維について報告する。吸入曝露には汎用性の高い高分散性NM全身曝露吸入装置(Taquannシステム)を用い、モデル物質として多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を選び、対照群、低用量群(1 mg/m<sup>3</sup>)、高用量群(3 mg/m<sup>3</sup>)の3群の構成で1日2時間、合計10時間の吸入曝露を行った。曝露終了直後(Day 0)において、肺胞Mφ(CD11b<sup>low</sup>CD11c<sup>high</sup>)は用量依存的に減少したが、単球(CD11c<sup>+</sup>CD11b<sup>high</sup>)は用量依存的に増加した。病理組織学的には、MφがMWCNTを貪食し肺胞壁に定着、または細胞死に至っている様子が観察された。Day 0における肺負荷量は、低用量群では約6 µg/g lung、高用量群では約10 µg/g lungであった。MWCNTを貪食したMφは細胞死に至るが、その際に放出するサイトカインが残存するMφ及び単球から分化するMφのM1へ分化を促し、肺全体として炎症が惹起されている状態に移行することが想定される。本シンポジウムではMφの機能に着目したNMの慢性影響評価について報告する。(厚生労働科学研究費補助金等による)</p>
著者
森田 英利
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.45, pp.S8-3, 2018

<p>Lederbergは「宿主とその共生微生物はそれぞれの遺伝情報が入り組んだ集合体である"超有機体"として存在していると考えるべき」と提唱しているが、そのタイミングが2003年のヒトゲノム解読完了以前であることは興味深い。その後、Gordonらのグループにより次世代シークエンサーによる細菌ゲノムの16SリボソームRNA遺伝子領域を用いた腸内細菌叢の網羅的な解析により"肥満腸内細菌叢"の考え方が発表された。</p><p>また、1945年にReyniersによって無菌動物飼育装置が開発され、無菌動物を飼育できると同時に、ノトバイオート動物の確立が可能となった。その結果、インターロイキン-2ノックアウトマウスにおいて、SPFマウスでは潰瘍や炎症を起こすが無菌マウスでは潰瘍や炎症は起きないことやがん自然発症モデルマウスを、無菌化するとがんを発症しないことが報告された。無菌マウスでは、様々な組織や免疫系の異常や未発達であることがわかってきた。Hondaらの報告によると、ヒト腸内細菌叢による17型ヘルパーT細胞の誘導は、腸内細菌の強い接着は必須であった。また、制御性T(Treg)細胞も無菌マウスではほとんど誘導されず、抗生剤投与したマウスではTreg細胞数が激減することから腸内細菌の関与が考えられ、無菌マウスにヒト腸内細菌叢を投与しTreg細胞誘導能によりスクリーニングした結果、<i>Clostrdium</i>属細菌によってTreg細胞が強く誘導されていることが明らかとなり、これらの菌株群をマウス大腸炎モデルとアレルギー性下痢モデルマウスへの経口投与によりその症状を緩和させている。唾液細菌叢の<i>Klebsiella pneumoniae</i>が腸管に定着することで1型ヘルパーT細胞を誘導し、そのため慢性炎症性腸疾患の発症する原因となっている可能性が、ノトバイートマウスとSPFマウスの比較に加え抗生物質処理での結果から導かれている。</p><p>以上、Gordonらの2006年の報告に端を発しての約12年間に各種疾病や生体影響と腸内細菌叢との関係が次々と明らかにされてきた一連の報告について概要する。</p>
著者
設楽 悦久 安島 華子 奥田 拓也 堀江 利治
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第34回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.5011, 2007 (Released:2007-06-23)

【目的】薬剤によるミトコンドリア障害は、細胞障害の引き金となり、有害事象の原因の一つとなりうる。これまでに一部の非ステロイド性抗炎症薬、スタチン系高脂血症治療薬およびtroglitaozoneが、ミトコンドリアにおける透過性遷移(mitochondrial permeability transition; MPT)を引き起こすことが報告されている。一方で、一部の培養細胞株においてP-糖タンパク (P-gp)がミトコンドリアに局在していることが最近報告されており、これが薬剤性ミトコンドリア障害に影響する可能性が考えられる。実際に、troglitazoneによるMPTに対して、P-gp阻害剤であるketoconazoleやverapamilを添加したところ、効果を減弱した(奥田ら, 日本薬学会第127年会)。そこで、各種スタチンによるミトコンドリア障害を観察し、P-糖タンパク阻害剤の影響について検討を行った。【方法】ラット肝および心筋より調製したミトコンドリア画分に薬剤を加えたときの540 nmにおける吸光度の低下により、ミトコンドリア膨潤を評価した。【結果】各種スタチンにより、ラット肝および心筋から調製したミトコンドリアにおいて膨潤が観察された。その効果は、simvastatin, cerivastatinおよびfluvastatinが特に強く、lovastatinがそれに続き、atorvastatin, rosuvastatinおよびpravastatinでは非常に弱かった。この順序は、筋障害の程度の順序と類似していた。Simvastatinによる膨潤に対するP-gp阻害剤の影響を見たところ、MPT阻害剤にもなるcyclosporin Aで抑制されたものの、ketoconazoleやverapamilの効果は小さかった。これはtroglitazoneとは異なる結果であった。