著者
星野 裕紀子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.S3-3, 2016

平成25年6月に閣議決定された日本再興戦略において国民の健康長寿の延伸がテーマの一つとして示された。これを受けて、健康・医療戦略(平成25年6月14日内閣官房長官・厚生労働大臣・関係大臣申合せ、平成27年7月閣議決定)ではその具体策としてPMDA自らが臨床データ等を活用して解析や研究を推進すべき旨が述べられている。このような状況の下、PMDAでは平成25年9月に次世代審査・相談体制準備室を設置し、電子データを利用した審査のパイロット(臨床試験成績に限る)を開始すると共に関連通知等の整備を経て、本年10月より、医薬品の承認申請時には原則として臨床試験成績については電子データの提出が求められることとなった。この電子データはCDISC(Clinical Data Interchange Standards Consortium)の規格(以下、「CDISC標準」)への準拠が求められており、標準化された電子データの利用による審査の効率化や高度化、Modeling & Simulationを活用した品目横断的な検討等により、患者数が少なくデータの集積が困難な希少疾病医薬品等の開発促進が期待されている。<br>一方、将来的には、非臨床試験成績に関しても承認申請時にPMDAへの電子データ提出を求める方向であり、具体的な検討を開始したところである。検討に際しては、国内での臨床試験電子データの受入れ状況や、既にNDA申請等に際してCDISC標準に準拠した電子データの提出を非臨床試験に関しても義務化することを決定している米国の状況等に留意しつつ、その活用方針について議論する必要がある。<br>本講演では前述の点を踏まえ、日本における非臨床申請電子データの利用とその展望について述べたい。
著者
Shuji Tsuda
出版者
日本毒性学会
雑誌
The Journal of Toxicological Sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.41, no.Special, pp.SP27-SP36, 2016-12-20 (Released:2016-12-20)
参考文献数
57
被引用文献数
66

Perfluoroalkyl substances (PFASs) are persistent environmental contaminants. Perfluorooctane sulfonate (PFOS) and Perfluorooctanoic acid (PFOA) are representatives of PFASs. Recently, the U.S. Environmental Protection Agency (US EPA) set the health advisory level as 70 parts per trillion for lifetime exposure to PFOS and PFOA from drinking water, based on the EPA’s 2016 Health Effects Support Documents. Then, a monograph on PFOA was made available online by the International Agency for Research on Cancer, where the agency classified PFOA as “possibly carcinogenic to humans” (Group 2B). The distinction between PFOS and PFOA, however, may not be easily understood from the above documents. This paper discussed differential toxicity between PFOS and PFOA focusing on neurotoxicity, developmental toxicity and carcinogenicity, mainly based on these documents. The conclusions are as follows: Further mechanistic studies may be necessary for ultrasonic-induced PFOS-specific neurotoxicity. To support the hypothesis for PFOS-specific neonatal death that PFOS interacts directly with components of natural lung surfactant, in vivo studies to relate the physicochemical effects to lung collapse may be required. PFOA-induced DNA damage secondary to oxidative stress may develop to mutagenicity under the condition where PFOA-induced apoptosis is not sufficient to remove the damaged cells. A study to find whether PFOA induces apoptosis in normal human cells may contribute to assessment of human carcinogenicity. Studies for new targets such as hepatocyte nuclear factor 4α (HNF4α) may help clarify the underlying mechanism for PFOA-induced carcinogenicity.
著者
山本 秀樹 矢本 敬 真鍋 淳
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第33回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.21, 2006 (Released:2006-06-23)

a) PPAR alphaThe use of PPAR-null mice revealed that PPAR alpha is required to mediate hepatomegaly and subsequent hepatocarcinogenesis in rodents. Human PPAR alpha appears to be different in function as compared to the rodent isoforms. The fundamental roles of PPAR alpha in reproductive toxicity reported in some environmental contaminants (e.g., phthaletes), in myopathy mainly reported in fibrates and in heart pathophysiology have not been fully understood to date.b) PPAR gammaSynthetic PPAR gamma agonists cause weight gain due to both fat deposit and fluid retention in both human and experimental animals. The fluid retention is thought to contribute to an increase in heart weight and edema observed after PPAR gamma agonist treatment. Recent studies using rodents reveal that PPAR gamma-dependent upregulation of renal sodium transport protein secondarily influences fluid retention and increases in body mass and heart weight. However, it is unclear whether this mechanism is relevant to the clinical situation in humans or not. PPAR gamma-dependent enhanced adipogenesis in bone marrow leads to hypocellularity and consequently affects hematopoiesis. c) PPAR beta/deltaToxicity information for PPAR beta/delta agonists is not as well characterized as compared to that for PPAR alpha and PPAR gamma agonists. There is evidence suggesting that PPAR beta/delta is involved in valproic acid-induced developmental toxicity. Furthermore, recent studies shows PPAR beta/delta may be implicated in hepatic stellate cell proliferation and liver fibrosis.
著者
三森 国敏 岡村 美和 金 美蘭
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第33回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.24, 2006 (Released:2006-06-23)

1997年に開催された第4回医薬品に関する国際ハーモナイゼーション会議では、1種類のゲッ歯類を用いた長期がん原性試験と遺伝子改変マウスなどを用いた短期がん原性試験のデータから医薬品のがん原性は評価可能であると結論され、新しいがん原性試験ガイドラインが策定された。今までにこれらの遺伝子改変動物についての検証作業が実施されてきており、ヒトプロト型c-Ha-ras遺伝子導入トランスジェニックマウス(rasH2マウス)やp53の片側アレルをノックアウトしたマウス[p53(+/-)マウス]は遺伝毒性発がん物質に非常に感受性が高いことが示されている。さらに、rasH2マウスではPPARαアゴニストのような非遺伝毒性発がん物質に対しても感受性を示すことが報告されている。我々の研究室では、今までに多くの発がん物質についてのrasH2マウスに対する発がん感受性に関する研究およびその発がん増強機序についての研究を実施してきており、導入遺伝子の過剰発現がその腫瘍発現増強に関与しており、内因性のras遺伝子もその発がんに関連していることを見出した。さらに、その発がんには、osteopontin、 Cks1b、Tpm1、Reck、gelsolinなども関与していることを見出している。一方、2004年7月には、米国FDAは、PPARγないしα/γアゴニストの発がん性はp53(+/-)マウスでは評価できないことから、これらの医薬品の発がん性評価には従来のラットやマウスを用いた2年間がん原性試験のデータの提出を要求するという規制を開始した。しかし、γアゴニストであるトログリタゾンのrasH2マウスを用いた6ヶ月混餌投与試験を実施したところ、血管系腫瘍が6000ppm投与群(長期がん原性試験での発がん用量)で誘発され、rasH2マウスがPPARアゴニストの発がん性を検出できないわけではないことが示されている。
著者
Ikuo Horii
出版者
日本毒性学会
雑誌
The Journal of Toxicological Sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.41, no.Special, pp.SP49-SP67, 2016-12-31 (Released:2017-03-01)
参考文献数
65
被引用文献数
7

Pharmaceutical (drug) safety assessment covers a diverse science-field in the drug discovery and development including the post-approval and post-marketing phases in order to evaluate safety and risk management. The principle in toxicological science is to be placed on both of pure and applied sciences that are derived from past/present scientific knowledge and coming new science and technology. In general, adverse drug reactions are presented as “biological responses to foreign substances.” This is the basic concept of thinking about the manifestation of adverse drug reactions. Whether or not toxic expressions are extensions of the pharmacological effect, adverse drug reactions as seen from molecular targets are captured in the category of “on-target” or “off-target”, and are normally expressed as a biological defense reaction. Accordingly, reactions induced by pharmaceuticals can be broadly said to be defensive reactions. Recent molecular biological conception is in line with the new, remarkable scientific and technological developments in the medical and pharmaceutical areas, and the viewpoints in the field of toxicology have shown that they are approaching toward the same direction as well. This paper refers to the basic concept of pharmaceutical toxicology, the differences for safety assessment in each stage of drug discovery and development, regulatory submission, and the concept of scientific considerations for risk assessment and management from the viewpoint of “how can multidisciplinary toxicology contribute to innovative drug discovery and development?” And also realistic translational research from preclinical to clinical application is required to have a significant risk management in post market by utilizing whole scientific data derived from basic and applied scientific research works. In addition, the significance for employing the systems toxicology based on AOP (Adverse Outcome Pathway) analysis is introduced, and coming challenges on precision medicine are to be addressed for the new aspect of efficacy and safety evaluation.
著者
五十嵐 芳暢 中津 則之 青枝 大貴 石井 健 山田 弘
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-197, 2015 (Released:2015-08-03)

アジュバントデータベースプロジェクトでは、各種アジュバントを投与した動物の網羅的遺伝子発現情報を取得解析したデータベースを構築している。アジュバントとは抗原とともに投与することで、抗原に対する免疫原性を増強、加速、延長する免疫増強製剤の呼称である。しかし、これまでアジュバント自体の作用メカニズムについては、明らかではない部分が大きかった。そこで、アジュバント単体を投与したラットの脾臓、肝臓等の網羅的遺伝子発現情報を取得することによって、アジュバントの副作用や毒性および作用メカニズムを探索、評価することを目指している。一方、これまでトキシコゲノミクスプロジェクトでは、薬剤を投与したラット肝臓や腎臓の遺伝子発現情報を用いた毒性予測モデルを構築してきた。これら毒性予測モデルにアジュバント投与の遺伝子発現情報を適用することによって、アジュバント単体の安全性や毒性、作用メカニズムを評価できる可能性がある。本報告では上記毒性予測モデルに改良を加え、外部データによって再評価したモデルと、その予測モデルにアジュバント投与の遺伝子発現情報を適用した例について紹介する。
著者
六角 香 大中 浩貴
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.2002091, 2013 (Released:2013-08-14)

【目的】CHL/IU細胞はチャイニーズハムスター肺由来の線維芽細胞である。当細胞は,培養方法に難しい技術を必要としないこと,染色体数が少なく,染色体標本の観察が比較的容易であることから,遺伝毒性試験(特に染色体異常誘発性を評価する試験)において汎用されている。通常,培養細胞をこれらの試験に用いる際,あらかじめ継代培養を行った細胞を適宜使用するが,継代培養操作を繰り返すことによる品質の変化についての基礎データは少なく,とくに数週間から数箇月以上に及ぶ試験において,試験使用時毎にその細胞の品質の劣化の有無を確認することは容易ではない。今回,継代操作を多数回繰り返した細胞について,その特性の変化及び劣化の程度を検討した。【方法】CHL/IU細胞を,10%牛胎仔血清含有MEMアール液体培地を入れたシャーレを用いて,5%CO2,37℃の条件で継代培養した。継代回数が10回未満,20回,40回,60回の細胞を用い,各々について特性検査を行った。検査は1)細胞の倍加時間,2)染色体数,3)自然発生による異常細胞出現頻度,4)既知の染色体異常誘発物質(マイトマイシンC,ジメチルニトロサミン及びシクロフォスファミド)で処理した際の異常細胞出現頻度の各項目について実施した。【結果及び考察】細胞の倍加時間,染色体数(異数性異常細胞の増加)並びに自然発生による異常細胞出現頻度(構造異常・数的異常)は,いずれの継代回数の細胞にも差は認められなかった。一方,既知の染色体異常誘発物質で処理した際の異常細胞出現頻度は,いずれの物質においても継代回数40回以上の細胞において減少したことから,継代操作の多数回の繰り返しは染色体異常誘発性の検出精度を低下させると考えられた。
著者
市原 学 小林 隆弘 藤谷 雄二 尾村 誠一 市原 佐保子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

ナノテクノロジーは,並行して発展してきた分子生物学との融合を通じ新しい学術分野と革新的な技術を生み出すことが期待されている。ナノテクノロジー全体の中で,工業ナノマテリアルはその第一段階を形成するものである。一方,工業ナノマテリアルの健康,環境への影響,安全性についての研究は十分とは言えない。なかでもヒト健康へのリスク評価は優先順位の高い課題である。暴露評価はハザード評価と統合され,リスクを評価するために用いられる。工業ナノマテリアルに暴露された労働者を対象とした疫学コホート研究を立ち上げる構想が国際的にも議論されているが,その基盤としても暴露評価は重要な課題となっている。暴露評価におけるナノマテリアルに特異的な問題の一つは用量計測基準として何を選ぶかということである。この問題に関して国際的なコンセンサスはまだ得られていない。ナノマテリアルの個数,表面積が生体分子との反応性に貢献していると考えられていることから,従来の重量濃度に基づく計測基準が,ナノマテリアルの暴露を定義する上で十分かどうか疑問がある。走査式モビリティーパーティクルサイザー(SMPS)によりナノ領域を含む粒子を分級し連続的にモニターすることが可能であるが,高価で可動性に問題があり,労働現場でより簡易にナノ粒子を測定する機器の開発の必要性が唱えられてきた。米国国立労働安全衛生研究所は凝集粒子カウンター(CPC)と光散乱粒子計測装置(OPC)の併用を提案している。また,比較的安価で小型化されたSMPS,あるいは新しい小型計測機器も開発されている。長期の累積的な暴露の評価には多くの困難が伴う場合があることも指摘しなければならない。生体試料を用いた内部暴露評価のためにバイオロジカルモニタリング法の開発も求められ,そのためには様々な分野の研究者の共同が必要である。
著者
Xin Cao Yuji Nakamura Takeshi Wada Hiroko Izumi-Nakaseko Kentaro Ando Atsushi Sugiyama
出版者
日本毒性学会
雑誌
The Journal of Toxicological Sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.439-447, 2016-06-01 (Released:2016-05-17)
参考文献数
21
被引用文献数
14

Since amantadine-induced long QT syndrome has been clinically reported, we investigated its electropharmacological effects to estimate the extent of proarrhythmic risk by using the halothane-anesthetized beagle dogs (n = 4). Amantadine in doses of 0.1, 1 and 10 mg/kg was infused over 10 min with a pause of 20 min under the monitoring of multiple cardiovascular variables. J-Tpeak and Tpeak-Tend were separately measured on the lead II electrocardiogram to precisely analyze the net balance between inward and outward current modifications by amantadine. The low dose increased the ventricular contractile force, but suppressed the intraventricular conduction. The middle dose prolonged the QT interval besides enhancing the changes induced by the low dose. The high dose increased the mean blood pressure, left ventricular end-diastolic pressure and total peripheral resistance, and accelerated the atrioventricular nodal conduction, but decreased the cardiac output besides enhancing the changes induced by the middle dose. A reverse use-dependence was confirmed in the repolarization delay. Amantadine hardly affected the J-Tpeak, but prolonged the Tpeak-Tend. Amantadine can be considered to stimulate Ca2+ channel but inhibit Na+ and K+ channels in the in situ heart. J-Tpeak and Tpeak-Tend analysis suggests that amantadine may possess modest risk for arrhythmia.
著者
Biswadev BISHAYI Subhashree ROYCHOWDHURY Soumya GHOSH Mahuya SENGUPTA
出版者
日本毒性学会
雑誌
The Journal of Toxicological Sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.139-146, 2002 (Released:2003-01-31)
参考文献数
25
被引用文献数
30 89

Effect of Tinospora cordifolia extract on modulation of hepatoprotective and immunostimulatory functions in carbon tetrachloride (CCl4) intoxicated mature rats is reported here. Administration of CCl4 (0.7 ml/kg body weight for 7 days) produces damage in the liver as evident by estimation of enzymes such as serum glutamate oxaloacetate transaminase (SGOT), serum glutamate pyruvate transminase (SGPT) and alkaline phosphatase (ALP) as well as serum bilirubin level. CCl4 administration also causes immunosuppressive effects as indicated by phagocytic capacity, chemotactic migration and cell adhesiveness of rat peritoneal macrophages. However, treatment with T. cordifolia extract (100 mg/kg body weight for 15 days) in CCl4 intoxicated rats was found to protect the liver, as indicated by enzyme level in serum. A significant reduction in serum levels of SGOT, SGPT, ALP, bilirubin were observed following T. cordifolia treatment during CCl4 intoxication. Treatment with T. cordifolia extract also deleted the immunosuppressive effect of CCl4, since a significant increment in the functional capacities of rat peritoneal macrophages (PMφ) was observed following T. cordifolia treatment. The results of our experiment suggest that treatment by T. cordifolia extract may be the critical remedy for the adverse effect of CCl4 in liver function as well as immune functions.
著者
佐々木 大祐 関 二郎 宮前 陽一 黄 基旭 永沼 章 神吉 将之 西原 久美子 平本 昌志 由利 正利 梅野 仁美 森口 聡 見鳥 光 廣田 里香
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.P-17, 2012

腎乳頭部壊死(RPN; Renal Papillary Necrosis)は糖尿病や,鎮痛剤・抗癌剤等の服用等によって生じる腎障害の一つであり,薬剤の開発や臨床的使用に支障を来すことがある。しかしこれまでヒトにおいてRPNの発生初期から鋭敏に変動するバイオマーカー(BM)は知られていない。そこで我々は,トキシコプロテオミクス(TPx)及びトキシコゲノミクス(TGx)の技術を利用してRPNを検出するための新規BMを探索した。<br> 2-bromoethylamine hydrobromideによるRPNモデルラットを作製し,その尿をTPx解析に,剖検後摘出した片腎の乳頭部をTGx解析に用いた。もう一方の片腎では病理組織学的検査を実施し,各BM候補と比較検証した。更に腎臓内障害特異性確認のため,puromycinやcisplatin等で糸球体或いは近位尿細管を障害させたモデルラットでの結果と比較した。<br> RPNモデルラットのTPx解析の結果,急性期炎症性蛋白質を複数含む計94種の蛋白BM候補が得られた。TGx解析の結果,アポトーシスシグナルやIL-1シグナルの活性化,酸化ストレスの亢進等をうかがわせる遺伝子群の変化が認められた。特にfibrinogenとC3はTPx解析及びTGx解析から共に検出されたため,これらはRPNと関連した着目すべきBMと考えられた。しかし障害部位特異性検討の結果,尿中のfibrinogenとC3は近位尿細管障害でも増加することが判明した。よって,fibrinogen及びC3はRPNを検出することは可能であるもののRPN特異的ではなく,近位尿細管の障害をも検出するBMであり,これら急性期炎症性蛋白質の増加は腎臓内障害部位における炎症関連シグナルの活性化に起因するものと考えられた。<br> 現在,RPNを特異的かつ鋭敏に検出するBMを残りの92候補から見出すべく,各候補に対する検討を実施中である。
著者
佐々木 大祐 宇波 明 関 二郎 宮前 陽一 黄 基旭 永沼 章 神吉 将之 西原 久美子 平本 昌志 由利 正利 梅野 仁美 森口 聡 見鳥 光 廣田 里香
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

腎乳頭部壊死(RPN; Renal Papillary Necrosis)は,糖尿病患者や鎮痛剤・抗がん剤等の服用等によって生じる腎障害の一つであるが,発症初期からヒトのRPNを鋭敏に検出するバイオマーカー(BM)の報告はなく,薬剤の開発や臨床的使用を困難にしている。そこで我々は,トキシコプロテオミクスの技術を利用してRPNを早期検出するための新規BMを探索した。<br>2-bromoethylamine hydrobromide(BEA)を雄ラット各5例に単回腹腔内投与(0,3,10,30,100mg/kg)し,投与直後から24時間蓄尿後剖検した。血液化学的検査及び腎臓の病理組織学的検査の結果,30mg/kg以上の投与群でBUNの増加やRPNが認められた。これらの結果を基に尿検体を4グループ(対照群,10mg/kg・RPNなし,30mg/kg・RPN有・BUN正常値,30mg/kg・RPN有・BUN増加)に分けプール尿を調製した。それらを脱塩濃縮後,トリプシン消化及びiTRAQラベル化し,2次元LC-MS/MSによるグループ間比較定量分析を実施した結果,RPNの認められた動物の尿中で増加していた94種の蛋白質BM候補を見出した。<br>次に,これらのBM候補のうち変動の程度が大きかった25候補について,まずは早期診断BMとしての可能性を検討した。BEAを雄ラット各8例(対照群は各6例)に単回腹腔内投与(0,30,100mg/kg)し,投与直後~6時間(0-6h)蓄尿後に剖検する群,0-6h及び投与後6時間~24時間(6-24h)蓄尿後に剖検する群をそれぞれ設けた。投与後6時間の剖検群ではRPNは認められなかったが,投与24時間ではいずれの投与群でもRPNが観察された。6-24h蓄尿について各BM候補をMultiple reaction monitoring法にて定量した結果,いずれのBM候補もRPNの認められた動物の尿中で増加していた。そのうちの4種のBM候補は,24時間後にRPNの認められた動物の0-6h蓄尿中でも増加傾向が見られたため,RPNが発症する前に変動するBM候補である可能性が考えられた。
著者
浅川 直之 大塚 純 角 将一 水谷 立美 吉澤 和彦 古田 富雄 松本 常男 栗田 晃伸 鈴木 勝也 鈴木 倫 小林 稔秀 金子 公幸 船橋 英行 兼田 憲昌 加藤 幾雄 内田 和美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.260, 2010 (Released:2010-08-18)

【目的】ペントバルビタール(PB)ナトリウム製剤は実験動物の全身麻酔薬として広く使用されている。我々はヒト・動物用医薬品であ るネンブタール注射液(NT)を繁用していたが,近年,販売中止となったことから,動物用医薬品であるソムノペンチル(SP)を使用す ることとした。しかし,NTとSPでは成分含量や添加物が異なること,これまでNTを用いたマウスの麻酔において,成書で謳われて いる至適投与用量(saline希釈,50 mg/kg,腹腔内投与)を投与しても十分な麻酔効果が得られない個体が出現することから,SPの使 用に先立ち,マウスにおけるSPの最適な麻酔法を確立するため,まず麻酔用量の検討を行った。さらに,マウスでは製剤を希釈して 投与する必要があることから,希釈溶媒をsalineからNTおよびSPの添加物であるEtOH(10%)に変更して比較検討を行った。また, 上記検討において得られた最適な麻酔用量を用いて,希釈溶媒による麻酔効果の差を体内動態の面から解析した。 【方法】10%EtOHまたはsalineで希釈した各用量(50.5,64.8および84.3 mg/kg)のSPを8週齢のCrlj:CD1(ICR)マウスに腹腔内投与 し,麻酔深度の判定基準に従って麻酔効果を比較した。また,最適な麻酔用量(salineまたは10%EtOH希釈)での血漿中および脳中PB 濃度をHPLCを用いて測定し,薬物動態学的解析を行った。 【結果および考察】10%EtOHで希釈したSP 64.8 mg/kgを腹腔内投与する麻酔条件がその効果の確実性,持続性の面から最適であっ た。また,64.8 mg/kgでは,脳のT1/2(消失半減期),AUC(濃度-時間曲線下面積)およびMRT(平均滞留時間)はsaline希釈と比べて 10%EtOH希釈で高値傾向を示したが,血漿中濃度推移は顕著な差が認められなかった。このことから,マウスでのSP投与では,希 釈溶媒がPBの脳移行性に影響を与え,10%EtOHはsalineよりもSPの麻酔効果を増強させることが明らかとなった。
著者
Kyoichi ASANO Masaya YAMANO Kiyoshi HARUYAMA Etuo IKAWA Kazumasa NAKANO Masayasu KURONO Osamu WADA
出版者
日本毒性学会
雑誌
The Journal of Toxicological Sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.19, no.SupplementII, pp.131-143, 1994-10-15 (Released:2008-02-21)
参考文献数
15
被引用文献数
3 4 6

A histopathological study was performed to examine the influence of propagermanium and germanium dioxide (GeO2) on chemically induced renal lesions in rats. Animals were treated with adriamycin or mercuric chloride to induce glomerular or proximal tubular damage, and then given drinking water containing propagermanium (480 or 2, 400 ppm solution) or GeO2 (300 or 1, 500 ppm solution: equivalent to propagermanium in terms of germanium contents). The distal tubular epithelium after 8 weeks dosage with the 1, 500 ppm solution of GeO2 was characterized by vacuolization and deposits of PAS-positive material not only in adriamycin-treated rats, but also in normal rats. In contrast, propagermanium administration was not associated with any alteration in the changes induced by adriamycin or mercuric chloride. We previously clarified that propagermanium had no biochemical influence on the renal function of these renal injured rats. The histological demonstration that this compound does not exert renal toxicity, even when given at a high dosage to renal injured rats, further indicates that it would not exacerbate renal dysfunction already present. This confirms that propagermanium may be a safe compound for use in individuals with compromised kidneys.
著者
早瀬 環 山本 淑子 山本 啓一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第32回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.121, 2005 (Released:2005-06-08)

我々はこれまで、濫用薬物であるコカイン(COC)やメタンフェタミン(MA)の不安惹起作用について、マウスにおける高架式十字迷路法などの方法によって調べてきた。COCやMAによる不安症状は、他の原因による不安症状同様、ベンゾジアゼピン受容体やセロトニン受容体などの受容体と関係があるといわれ、様々な抗不安薬による抑制効果が検討されてきたが、最近カンナビノイド(CB)受容体との関係が示唆されている。特にanandamide(AEA)など内因性CB受容体作用薬(内因性CB)は抗不安作用など様々な治療効果を示すことが証明されている。本研究ではCOC及びMAによる不安症状に対する内因性CBの影響を調べ、他の抗不安薬との比較を試みた。【方法】雄ICRマウスでCOC及びMAの不安惹起作用に対するベンゾジアゼピン受容体(diazepamなど)、セロトニン受容体(ketanserin、ondansetronなど)などに関係のある抗不安薬、及び内因性CBであるAEA、2-arachidonylglycerol、N-arachidonyldopamine(NADA)、noladin ether、virodhamine(VD)の影響を高架式十字迷路法(壁のあるenclosed armへの嗜好性の変化)によって調べた。【結果と考察】高架式十字迷路法では、COC 30mg/kg又はMA 4mg/kgの急性投与群(腹腔内投与)、及びCOC 15 mg/kg又はMA 2mg/kgの慢性投与群(7日間の投与)の両方で、3日間以上の不安症状(壁のないopen armへの移動回数の減少、壁のあるclosed armへの移動回数の増加、open armでの滞在時間の減少、open armに最初に移動するまでの時間の延長、すくみ緊張姿勢の増加など)の継続が認められたが、(最終)投与40分後では、急性投与群のみで著明な不安症状が認められた。抗不安薬については、投与40分後では、diazepam(5mg/kg)、chlormethiazole(10mg/kg)、ketanserin(5mg/kg)、ondansetron(0.01mg/kg)、及びCB受容体に対して部分antagonistとしても作用するVD以外の内因性CBの抗不安作用(上記の評価値の回復)が急性投与群で認められたが、投与3日後では、内因性CBのみに急性投与群と慢性投与群の両群での抗不安作用が認められ、作用の継続性とCOCやMAの退薬症状に対する効果の可能性が示唆された。また内因性CBなどの効果がCOC群とMA群の両群で認められることが示された。
著者
田中 豊人 高橋 省 大石 眞之 大橋 則雄 中江 大 小縣 昭夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.387, 2010 (Released:2010-08-18)

【目的】ネオニコチノイド系農薬の殺虫剤であるクロチアニジンについて行動発達毒性試験を行い,マウスの次世代の行動発達に及ぼす 影響の有無について検討する。 【方法】クロチアニジンを混餌法によりCD1マウスに0(対照群),0.002%,0.006%,0.018%となるように調製してF0世代の雌に妊 娠期及び授乳期に投与して,次世代マウスの行動発達に及ぼす影響について検討した。 【結果】F1世代の授乳期における仔マウスの体重は用量依存的に増加した。また,授乳期間中の行動発達では雌仔マウスの7日齢時正向 反射が用量依存的に促進された。探査行動についてはF1世代の雄仔マウスの平均移動速度が用量依存的に増加する傾向が見られた。さ らにF1世代の自発行動では雌成体マウスでは投与によると思われる影響は見られなかったが,雄成体マウスでは総移動距離・水平移動 回数・移動時間・平均移動速度・一回あたりの平均移動時間・立ち上がり時間・一回あたりの平均立ち上がり時間が中濃度投与群で促 進される傾向が見られた。 【まとめ】本実験においてクロチアニジンの妊娠期及び授乳期投与により,次世代マウスの行動発達に対していくつかの影響が観察され た。本実験で用いられたクロチアニジンの用量はADI値を基に算出された(0.006%がADI値の約100倍相当)ものであるが,実際の人 の摂取量はADI値の1/25以下であるので現実的なクロチアニジンの摂取量では人に対して影響を及ぼさないものと思われる。
著者
Yin Jinzhu Zhang Qinli Yang Jin Kang Pan Huang Jianjun Niu Qiao
出版者
日本毒性学会
雑誌
The Journal of Toxicological Sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.365-373, 2015-06-01 (Released:2015-05-09)
参考文献数
46
被引用文献数
15

Toxic and harmful factors co-exist in the environment; these factors often interact to induce combined toxicity, which is the main focus of toxicological research. Furthermore, a large number of studies have shown that aluminum (Al) and benzo[a]pyrene (BaP) are neurotoxic and target the central nervous system to cause neuronal apoptosis. Because we are exposed to both Al and BaP in the air, water, food, and even medicine, the combined effects of these agents in humans must be examined. The present study examines the ability of Al and BaP co-exposure to intensify neuronal apoptosis. The primary neurons of newborn rats were cultured for 5 days, and cells from the same batch that were growing well were selected and assigned to the blank control group, the solvent control group (DMSO+S9+maltol), BaP groups (10, 40 μmol/L), Al (mal)3 groups (50, 100, 400 μmol/L) and co-exposure groups with different combinations of BaP and Al (mal)3. The cell viabilities indicated that 10 μM BaP or 50 μM Al (mal)3 was mildly toxic, and we selected 10 μM BaP+50 μM Al (mal)3 for subsequent co-exposure experiments. The morphological characteristics of cell apoptosis were much more obvious in the co-exposure group than in the Al-exposed cells or the BaP-exposed cells, as observed with a transmission electron microscope and a fluorescence inverted microscope. The apoptotic rates and caspase-3 activity quantitatively significantly differed between the co-exposure and Al-exposure groups, while the BaP-exposure group did not significantly differ from the control group. These results indicate that Al and BaP co-exposure exert synergistic effects on neuronal cell apoptosis.
著者
豊國 伸哉
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.1044, 2013 (Released:2013-08-14)

1981年以降,日本人死因の第1位はがんである。喫煙や特定の感染症が発がんリスクとして同定された。しかし,産業・経済を重視するあまり,リスク評価が十分になされず,ナノマテリアルが社会に多量に持ち込まれ,がんの原因となったことも忘れてはならない。それが繊維状鉱物のアスベストであり白石綿・青石綿・茶石綿が使用された。日本では2006年に禁止となったが,アジアの諸国やロシアなどでは今も使用されている。日本の中皮腫発生ピークは2025年で今後40年間に10万人以上の方が中皮腫で死亡すると試算されている。ラットを使用して上記3種の石綿で,腹腔内10mg投与により中皮腫発がん実験を行った。2年の経過でほぼ全動物に中皮腫が発生した。石綿投与に伴い,同部の中皮細胞や貪食細胞に著明な鉄沈着を認め,Fenton反応促進性のニトリロ三酢酸の追加投与でどの石綿でも中皮腫発生が早くなった。93%の腫瘍でCdkn2A/2Bのホモ欠損を認めた。アスベスト発がんでは局所の過剰鉄病態が重要なことが示唆された。このような背景のもと,すでに中皮腫の危険性の報告のあった多層カーボンナノチューブ(CNT)の評価を行った。CNTは軽量・高強度で熱伝導性が高く導体・半導体になることからすでに電池・液晶パネルのマテリアルとして使用されているが,形状は石綿に酷似している。直径が15/50/115/150nmのCNTを使用し中皮細胞毒性実験と上記と同様のラットを使用した発がん実験を行った。中皮細胞への毒性と発がん性はほぼ一致し,50nmの発がん性が最も高かった。Cdkn2A/2Bのホモ欠損をほぼ全例で認めた。このことは,剛性が高い50nm直径のCNTは特に注意して扱うべきことを示唆している。一方,石綿はendocytosisで中皮細胞に取り込まれるが,CNTは突き刺さり入ることも明らかになった。ヒトで体腔に繊維が到達することはそう簡単ではないと考えられるが,ますます長寿化が進む現在,十分なリスク評価が必要と考えられる。
著者
井上 貴雄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S15-4, 2014 (Released:2014-08-26)

アンチセンス、siRNA、アプタマーに代表される核酸医薬品は、これまで“Undruggable”とされてきた分子をも標的にすることから、抗体医薬品に続く次世代医薬品として注目を集めている。これまでに上市された核酸医薬品(2品目)は局所投与であったが、最近になり、全身投与が可能な核酸医薬品として初めてKynamro(ApoB-100 mRNAを標的とするアンチセンス医薬品)が承認されている。現在、臨床試験段階にある核酸医薬品は約80品目であり、うち11品目がphase 3に入っている。核酸医薬品はその物質的性質、機能的性質から、ひとつのプラットフォームが完成すれば短期間のうちに新薬が誕生すると考えられており、この数年で承認申請に至る候補品が増加すると予想されている。 以上のように臨床開発が大きく進展している核酸医薬品であるが、開発の指針となるガイドラインは国内外で存在しておらず、規制当局が個別に対応しているのが現状である。この背景から、ガイドラインの策定、品質/安全性を評価する試験法の確立、審査指針の根拠となる実験データの創出など、開発環境を整備するレギュラトリーサイエンスの重要性が指摘されている。 本シンポジウムでは、核酸医薬品の規制に関わる国内外の動きを整理すると共に、国立衛研における取り組みも紹介したい。
著者
吉田 緑 鈴木 大節 松本 清司 代田 眞理子 井上 薫 高橋 美和 小野 敦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.P-72, 2012

現在日本では農薬のヒト健康影響指標には、一日許容摂取量が慢性曝露に対する指標として設定されている。近年、海外や国際評価機関においては、この指標に加え、ヒトが極めて短期間に農薬を摂取した際の急性曝露影響に対する健康影響が評価され、その指標として急性参照用量(acute reference dose, ARfD)が設定されている。日本では急性影響評価は実施されていないが、ヒトが農薬等を短期間曝露した場合の急性影響評価およびその指標を設定は、食の安全のために重要である。そこで本研究では、食品安全委員会で公開された評価書およびFAMICで公開された農薬抄録を用いて、これらの農薬のARfDの設定を試みた。設定の基準として農薬の国際評価機関であるFAO/WHO 合同残留農薬専門家会議の基準を基本とした。[結果及び考察] 約200農薬の公開データからシミューレーションを行った結果、90%以上の農薬についてARfDの設定を行うことができた。ARfD設定根拠となる試験は発生毒性試験、急性神経毒性試験、薬理試験が多く、約30%の農薬で設定の必要がないと考えられた。農薬の作用機序別の比較では、全てのコリンエステラーゼ(ChE)阻害剤でARfD値設定が必要であり、その値は他の剤に比べて低く、ADIと近い値を示した。これはChE阻害作用が短時間に起きるためと考えられた。長鎖脂肪酸の合成阻害、細胞分裂時の紡錘糸機能阻害および昆虫の神経細胞に作用する剤ではADIとARfDの乖離が平均で300倍以上と大きいものが多かった。約10の農薬では急性影響に関するデータ不足によりARfDを設定できなかった。これらのデータ不足の多くは、評価書内の記載の充実(=投与開始直後に認められた変化の種類と観察時期)や投与翌日の検査を追加することで、多くの場合改善されると考えられた。