著者
中下 幸江 大久保 芳伸 堀之内 彰 松本 朱美 北崎 直 佐藤 恵一朗
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第33回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.215, 2006 (Released:2006-06-23)

【目的】ラットはヒトと比べて体重あたりのエネルギー消費量が多く、消灯時の活動期に断続的な摂食活動を継続しなければ正常な発育を維持することができない。一方、ラットの毒性試験では、血液検査条件の標準化や肝臓の病理組織学的検査の精度向上などを目的として剖検前夜の消灯前から絶食処置を施すことが多い。しかし、絶食開始から剖検までのエネルギー代謝の変動を経時的に調べた報告は少ない。本報告では、ラットにおける絶食条件下のエネルギー代謝の経時変動を調べた。【方法】消灯1時間前から絶食を開始し、25時間後までの肝臓や血液などにおける糖新生酵素PEPCK、β酸化、蛋白分解酵素をはじめとするエネルギー代謝関連項目を測定し、絶食処置を施さなかった場合と比較した。【結果及び考察】絶食処置を施したラットでは、絶食後5時間以内に肝グリコーゲンが急速に枯渇する一方、速やかに肝臓及び腎臓のPEPCKの活性が亢進した。また、糖新生の活性化と関連して、肝臓の細胞質あるいはミトコンドリア画分及び血中においてAST/ALTの高値が確認された。しかし、血糖値の低下を止めるには至らず、糖新生による血糖維持には限界があることが示唆された。これらの変動とほぼ並行して、代替エネルギー源である遊離脂肪酸やケトン体の血中濃度の増加がみられ、特に、ケトン体は絶食3時間後より増加し、その後著しく上昇した。ラットにおけるこれらの変化は、ヒトの絶食時の変動と比較して、非常に短時間で生じることが特徴的であった。以上の結果から、ラットではヒトと異なり、短時間の絶食がエネルギー代謝に著しい影響を及ぼすことが示唆された。エネルギー代謝系に何らかの影響を及ぼす被験物質では、げっ歯類の非絶食時やヒトの絶食時には発現しない、げっ歯類の絶食時に特有の変化が投薬によって顕在化する可能性があると考えられた。
著者
宇田 一成 樋口 仁美 土井 悠子 今井 則夫 原 智美 杉山 大揮 米良 幸典
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.P-246, 2016

【目的】<br>中期皮膚発がん性試験は投与局所(皮膚)における発がん性評価を目的とし、従来の長期発がん性試験と比べ、使用動物の削減(Reduction)、大幅な試験期間の短縮などのメリットがある。近年では従来医薬品の塗布剤や貼付剤への剤型変更、新製剤または効能追加などによる製品寿命(LCM)の延長戦略により、投与局所(皮膚)の発がん性評価が可能な中期皮膚発がん性試験が用いられている。<br>昨年、中期皮膚発がん性試験で用いるICR系マウスのIGS(International Genetic Standard)生産システムへの移行に伴い、同試験において使用している非IGSマウスとの皮膚腫瘤発生に対する感受性の影響について発表した(第42回日本毒性学会学術年会)。今回は雌雄のIGSマウスを用いて皮膚腫瘤発生に対する雌雄差について検討した。<br>【方法】<br>動物は7週齢の雌雄IGSマウス(Crl:CD1(ICR);日本チャールス・リバー株式会社)を用い、全動物の背部被毛を約2×4 cmの広さで剪毛した後、イニシエーション処置として7,12-Dimethylbenz[<i>a</i>]anthracene(DMBA)を100 µg/100 µLの用量で単回経皮投与した。<br>その1週後より、雌雄各20匹に陽性対照物質である12-<i>O</i>-tetradecanoylphorbol-13-acetate (TPA) を4 µg/200 µLの用量で週2回、19週間経皮投与した(TPA投与群)。また、イニシエーション処置1週間後より雌雄各20匹にアセトンを19週間反復経皮投与する群を設けた(陰性対照群)。<br>投与期間中は発生した皮膚腫瘤を経時的にカウントし、各群における腫瘤発生率及び平均腫瘤発生個数を算出した。<br>【結果・まとめ】<br>TPA投与群では、雌雄共に実験7週時より腫瘤の発生がみられ、発生率は実験18週時に100%に達し、腫瘤の発生時期並びに発生率に違いはみられなかった。また、投与終了時におけるマウス1匹当たりの平均腫瘤発生個数は雄で20.0個、雌で18.8個であった。なお、陰性対照群に腫瘤の発生はみられなかった。<br> 現在、背部皮膚に発生した腫瘤の病理組織学的検査を進めており、その結果とあわせてIGSマウスの皮膚腫瘤発生に対する雌雄差について報告する。
著者
山田 隆志
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S1-3, 2018 (Released:2018-08-10)

WSSD2020年目標の達成に向けて、膨大な数の試験データのない化学物質の安全性評価が大きな課題となっており、現状のin silico評価の技術レベルの向上、適用範囲の拡大、安全性評価での実運用が強く求められている。近年OECDでは、AOP(毒性発現経路)の開発が精力的に進められており、QSARの適用が困難と考えられる複雑な毒性エンドポイントについて、AOPに基づいてin silico、in vitro、in vivoの情報を組み合わせて化学物質の安全性を評価する統合的アプローチ(IATA)のコンセプトが整理されつつある。2020年以降は動物実験への依存度を軽減しつつ、化学物質が発現しうるヒトへの毒性を高精度で予測するin silico評価技術を確立し、IATAに基づいてヒト健康リスク評価のストラテジーを進化させる動きが加速すると考えられる。 我々は、これまでにヒト健康影響に関するスクリーニング毒性エンドポイントのうち、遺伝毒性に関して、安衛法により実施されたAmes変異原性データから大規模のデータベースを構築した。これをデータセットとして世界中のQSARベンダーに提供することにより、QSARツールの改良を目指す国際共同研究を先導し、予測精度の向上を達成した。さらに、in vitro染色体損傷に関連した新規構造アラートを構築し、染色体損傷の予測性の向上を図った。反復投与毒性に関しては、代謝、メカニズム、毒性データを統合したHESSプラットフォームを開発した。カテゴリーアプローチによるリードアクロスのケーススタディーを作成し、OECD専門家によるレビューを経て、本手法の国際的な調和へ向けた経験を積み重ねてきたところである。リードアクロスでは、信頼性のある試験データを用いて適切な類似性の仮説を設定し、評価の透明性と再現性を確保することが重要である。さらにデータやリソースの制限等に起因する種々の不確実性を解析することによって、利用目的に対する不確実性の許容レベルを議論することが必要となる。
著者
本田 大士 トーンクヴィスト マルゲリータ 西山 直宏 笠松 俊夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

化学物質とヘモグロビン(Hb)との結合体,Hbアダクトは化学物質の暴露マーカーとして広く活用されており,グリシドール(G)はN-(2,3-dihydroxy-propyl)valine (diHOPrVal)として,Hbアダクトを形成する。今回我々は,G暴露評価指標としてのdiHOPrValの有用性を確認するため,用量相関性,生体内安定性,<I>in vivo</I> dose (AUC)予測性について解析を実施した。まず,用量相関性を確認するため,異なる用量のGをSDラットに単回経口投与し(0-75 mg/kg),投与1日後にdiHOPrValをGC-MS/MSを用いて定量した。diHOPrVal形成量とG投与量の間には,高い相関性が認められた(R<sup>2</sup> = 0.943)。次に,生体内安定性を確認するため,一定用量(12.5 mg/kg)のGをラットに単回経口投与し,投与後10-40日におけるdiHOPrVal量を定量することで,Hbアダクトの消失挙動を解析した。一次消失を仮定したとき,消失速度定数(<i>k<sub>el</sub></i>)は0.000623となり,diHOPrValは赤血球寿命に従って,ほぼ直線的に減少することが示唆され,生体内で安定に維持されると考えられた。最後に,GのHbへの反応性を,ラットおよびヒトの血液を用いて,<I>in vitro</I>条件で解析した結果,二次反応速度定数(<i>k<sub>val</sub></i>)はラットで6.7,ヒトで5.6 pmol/g-globin per &mu;M・hと見積もられ,有意差は認められなかった。さらに,得られた<i>k<sub>val</sub></i>を用いて,Gをラットに単回経口投与したトキシコキネティクス試験のAUCを予測したところ,予測値は実測値に近い値を示した。以上の検討から,diHOPrValは用量相関性に優れた安定な指標であり,AUC予測にも活用可能なことから,Gの生体内暴露評価に有用であると考えられた。
著者
田中 利男
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.EL3-1, 2018 (Released:2018-08-10)

動物愛護の観点からなるべく実験動物を使用しない方法に置き換え(Replacement)、使用動物数を削減し(Reduction)、動物に与える苦痛を少なくする(Refinement)という3R の原則が求められています。動物実験代替法としてのin vitro 試験は動物愛護に寄与し、多数の被験物質をハイスループットに評価できる、感度が高い、再現性が良いといった利点が認められます。しかしながらin vitro試験法の限界について多くの研究がなされ、in vivo動物実験が不可欠な分野が多くあることが明らかとなりました。この課題に対応するモデル動物としてのゼブラフィッシュが、脊椎動物として哺乳類やヒトとのゲノム相同性が高いこと、多産性や飼育管理が容易であり、体外受精であり臓器形成が驚くべき速さで完成することなど多くの優越性が認められ、まずはじめに発生毒性試験に使用されると思われます。そこで、世界的に最も頻用されているABラインの受精後自然歴を、12,609個の受精卵で解析すると6dpf(受精後日)までに2544個の受精卵が死亡し、956個体に形態異常が認められ、このまま発生毒性試験に使用すると精度が低いことが明らかとなりました。しかしながら、3-5hpf(受精後時間)における画像診断により5-7dpfにおける、正常、異常、死亡を予測できることを見出し、化合物投与の6hpfまでに選択することが、可能となりました。これを基盤に世界に先駆けたゼブラフィッシュ受精卵品質管理プロトコルを確立しました。その後、多施設において、このゼブラフィッシュ受精卵品質管理プロトコルの有効性を検証しました。さらに、ゼブラフィッシュ受精卵のハイスループット共焦点タイムラプス法により、5-7dpfにおける形態異常の連続発生時系列解析を可能としたので、サリドマイド発生毒性研究に応用し、その成果を報告します。
著者
北垣 忠温 鈴木 登志郎 小池 嘉秀 小野 正博 白川 清美 永田 充宏 小西 良士
出版者
日本毒性学会
雑誌
Journal of toxicological sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.21, pp.325-343, 1996-07-05
参考文献数
13
被引用文献数
2

MC903の安全性を検討するため,0,0.4,2および10 μg/kg/dayをSlc:SD系雌雄ラットの頸背部皮下に26週間投与した。さらに,2および10 μg/kg/day群について,5週間の回復試験を実施し,以下の結果を得た。1. 死亡例は試験期間を通して,各群の雌雄に認めなかった。一般状態では10 μg/kg群の雄に眼球表面の一部白濁の発生頻度が増加した。2. 体重および摂餌量は,試験期間を通して,雌雄とも対照群とほぼ同様に推移した。10 μg/kg群の雌雄に,摂水量の増加ないし増加傾向を認めた。3. 投与期間終了時に,眼科学的検査で,10 μg/kg群の雌雄に角膜表面の一部混濁の発生頻度が増加した。尿検査で,2 μg/kg群以上の雄に尿中カルシウム排泄量の増加,10 μg/kg群の雄に尿中ナトリウム・クロライド・無機リン排泄量の増加,雌に尿量の減少,雌雄にpHの低下を認めた。血液化学的検査で,2 μg/kg群の雄および10 μg/kg群の雌雄に血中カルシウム濃度の増加,10 μg/kg群の雄に血中ALP活性の上昇を認めた。器官重量で,2 μg/kg群以上の雄に腎臓絶対重量・相対重量の増加,10 μg/kg群の雌雄に副腎絶対重量・相対重量の増加を認めた。病理組織学的検査で,2 μg/kg群以上の雄に角膜・腎臓の鉱質化の発生頻度の増加を認めた。電子顕微鏡検査で,10 μg/kg群の雌雄の腎臓に遠位尿細管上皮細胞の滑面小胞体を主とした小胞体の拡張を認めた。4. 5週間の休薬により,眼球表面の一部白濁,角膜表面の一部混濁および角膜・腎臓の鉱質化は回復しなかった。その他の変化は回復または軽減し,可逆性の変化であった。5. 以上の結果,本試験条件下におけるMC903の無毒性量は,雌雄とも0.4 μg/kg/dayと推定した。
著者
岡﨑 裕之 竹田 修三 竹本 幸未 水之江 来夢 田中 沙和 松本 健司 新藤 充 荒牧 弘範
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-229, 2016 (Released:2016-08-08)

【目的】糖尿病は「現代の国民病」といわれている。治療薬であるチアゾリジン(TZD)誘導体はPPARγを活性化し、アディポネクチン(AdipoQ)遺伝子の発現を亢進させることで症状を改善する。一方で、浮腫などのoff-target効果が知られている。この原因は不明であるが、TZDの物性に起因する可能性などが示唆されている。したがって、TZDとは「全く異なる化学構造」を有するPPARγの活性化剤が希求されている。ボンクレキン酸(BKA)は、ココナッツ発酵食品から単離された脂肪酸様の構造を有するカビ毒である。これまでに我々は、BKAがPPARγを選択的に活性化すること見出している(JTS., 40:223, 2015)。しかし、細胞膜透過性には課題があった。本研究では、この課題を克服し、PPARγの刺激作用を示す新規BKAアナログ合成し(9種類)、AdipoQ遺伝子および肥大化脂肪細胞に与える影響を検討した。【方法】常法により、脂肪前駆細胞であるラット3T3L1細胞をDEX/IBMX/insulinで脂肪細胞に分化させ、ピオグリタゾン(PIO)およびBKAアナログで処理し、肥大化脂肪細胞に与える効果を比較した。脂肪細胞の染色はOil Red O染色にて行い(JTS, 38:305, 2013)、脂質の定量はAdipoRedTM(Lonza)を用いた。遺伝子の発現はリアルタイムRT-PCRにて解析し、レポータージーンアッセイにてPPREの活性化を評価した。【結果および考察】既存薬のPIOを対照として、3T3L1細胞をBKAアナログで処理し、PPARγの活性化の有無を解析した。アナログの中で、BKA-#2がPIOと同程度の転写活性を示した。次に、肥大化脂肪細胞をPIOおよびアナログで処理した結果、PIOと同様にアナログにより脂肪細胞の顕著な小型化が確認された。また、AdipoQ遺伝子のレベルを解析した結果、発現が亢進していた。チアゾリジン薬の副作用に「浮腫」が挙げられる。HEK293(不死化ヒト胎児腎細胞)細胞を用いた検討で、PIOは浮腫に関与するSLC4A4のレベルには影響を与えなかったが、BKA-#2はその顕著な低下作用を示した。本研究でBKA-#2の有望性が示された。
著者
平 久美子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S5-4, 2018 (Released:2018-08-10)

ネオニコチノイドは、農作物、愛玩動物、建築資材などに適用がある浸透性殺虫剤で、imidacloprid、acetamiprid、thiacloprid、nitenpyram、thiamethoxam、clothianidin、dinotefuranの7種に加え、中国で使用されているcycloxaprid、paichonging、imidaclothizがある。ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChR)に対し競合的変調作用を有するが、脊椎動物nAChRへの作用が比較的弱いことを安全性の根拠とする。近年、種子への予防的な大量使用によりミツバチをはじめとする授粉者やその他の生態系サービスを担う広範な種に悪影響を与えたという世界的な科学的証拠に基づき使用の制限が進んでいる。他方、ネオニコチノイド系ではないが浸透性かつ同様の作用のあるsulfoxaflor、flupyradifuroneが新たに市場に導入され、triflumezopyrimが開発中である。これらの浸透性は、水溶性、高いオクタノール/水分配係数、極性溶剤への高い溶解度、生理的pHでの非イオン性、比較的低い分子量(概ね300未満)などと関連する。 ネオニコチノイドはヒトの腸管からよく吸収され、血液脳関門及び胎盤を通過する。生物濃縮は起きにくいが、毒物動態的には、慢性暴露により組織濃度は定常状態レベルに達するか増加する。acetamipridの代謝物N-desmethyl-acetamiprid およびimidaclopridの尿中排泄半減期は約1.5日である。代謝物には原体よりも生物活性の高いものもある。 ネオニコチノイドは一般人の試料から頻繁に検出され、高用量急性もしくは持続暴露による中毒事例が報告されている。哺乳類への慢性暴露は、神経機能および胎児の神経発達に悪影響を及ぼすことが知られている。哺乳類の神経細胞を用いた系では、ニコチンと同等の濃度で作用する例が見出されている。ヒトや哺乳類のnAChRには様々なサブタイプと遺伝多型が存在するが、原体および代謝物がどのくらいnAChRと結合しやすく、また解離しやすいかの毒物動力学はほとんど知られていない。 nAChRをはじめとする神経受容体に競合的変調作用を有する浸透性殺虫剤について毒性評価の枠組みを新たに設け、ヒトでの中毒事例のデータベース化、神経発達毒性、ヒトでの毒物動態、哺乳類nAChRとの毒物動力学など、健康リスク評価に必須なデータの蓄積を学際的かつ包括的に行う必要がある。
著者
広瀬 明彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.44, pp.S21-5, 2017

発がん性物質の定量的なリスク評価においては、リスク算定の対象となる腫瘍の発現メカニズムが遺伝毒性、特に遺伝子の変異に基づくものであるかどうかでそのアプローチが異なる。発癌のメカニズムが、プローモーション作用に基づく場合や、細胞傷害を起因とした組織の再生過程で誘発される場合、変異原性の伴わない染色体異常に基づくと考えられる場合では、NOAEL等のPODに不確実係数を適用してTDIを算定している。一方、変異原性が明らかな場合は、数理モデルを用いたユニットリスク、最近ではベンチマークドース(BMDL)からの直性外挿に基づく計算した10<sup>-5</sup>から10<sup>-6</sup>リスクに相当する値を基準値や管理のための参照値として設定する手法を採用する。しかし、この変異原性の有無を科学的に明らかにすることは困難であることが多い。このような場合に、同じ発がん性が疑われる物質の評価でも、管理機関やリスク評価を審議する委員会等の科学的なポリシーの違いが反映され、異なった評価結果がもたらされることがある。さらに、選択するモデルの違いによる算定結果が、低用量まで外挿する場合に比べて小さくなる利点を持つと考えられているベンチマークドース法においても、実際のリスク評価に採用するモデルの選択により数倍から10倍近くの違いをもたらすことことがあり、例えば、数理モデルの選択基準の違いが反映された結果、同じ発がん性物質のリスク評価が国際的な評価機関の間でも大きな隔たりが示されることがある。本発表では、変異原性の有無の違いに基づく閾値の有無が行政的な発がん性評価の結果に違いをもたらした事例や、同じ閾値なしとして評価したにもかかわらずベンチマークドース法の数理モデル選択の違いにより、異なったPODが算定された事例を紹介することにより、行政的な観点における発がん性物質のリスク評価にたいする閾値の有無の判断が与えるインパクトについて考えてみたい。
著者
萩原 正敏
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S16-3, 2015 (Released:2015-08-03)

患者の染色体や遺伝子の異常に起因する先天性疾患に対して、mRNAレベルで病態に影響を与える化合物を見つけ、症状の発現を抑えることは論理的に可能である。TG003のような特異的な蛋白リン酸化酵素阻害剤は特定のmRNAのスプライシングパターンだけを変化させる。最近我々は、TG003を使ってジストロフィンの変異部位を含むエクソンのスキッピングを促進することで、ジストロフィン蛋白の発現を亢進させ、デュシェンネ型筋ジストロフィーの薬剤治療が可能であることを示した。一連のリン酸化酵素阻害剤の開発途上で、抗ウイルス薬、疼痛抑制薬、加齢横班症治療薬などを見出した。一方で我々は、エクソンの選択的使用に応じてGFP/RFP等異なる蛍光タンパク質が発現するスプライシングレポーター技術を開発し、スプライシング制御因子の同定を進めてきた。その独自技術を発展させて、家族性自律神経失調症(Familial Dysautonomia)の原因遺伝子であるIKBKAPのスプライシング異常を可視化するスプライシングレポーターを作製し、家族性自律神経失調症の病態解明を行うとともに、異常スプライシングを是正できる低分子化合物RECTASを見出した。RECTASを患者細胞に投与すると病態が改善し、この遺伝病も薬物治療が可能であることが判明した。このように染色体や遺伝子に異常があっても、そこから発現するmRNAに影響を与える化合物によって症状の発現を抑え得る。我々は、独自のトランスクリプトーム創薬技術をさらに発展させ、難治のウイルス性疣贅治療薬の臨床試験に向けて準備を進めている。当然ながら標的遺伝子以外のmRNAも創薬候補化合物投与の影響を受ける。トランスクリプトーム創薬における毒性を如何にして評価すれば妥当であるのか、この場を借りて議論したい。
著者
中田 北斗 中山 翔太 水川 葉月 池中 良徳 石井 千尋 Yared B. YOHANNES 今内 覚 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.P-187, 2014

ケニア共和国の首都ナイロビ市内の大規模ゴミ集積場・ダンドラ地域は、世界第二位の巨大・高密度スラム街であり、地域内の子供の半数はWHO基準(100 μg/kg)以上の血中Pb濃度であることが報告されているが、家畜の汚染や生体への曝露源に関する報告はない。本研究では、ダンドラおよび対照区として同国・ナクル地域に生息するヤギ、ヒツジ、ブタおよびウシの血中金属類(10元素)濃度およびPb安定同位体比をICP-MSにより、PCBsおよび有機塩素系農薬(OCPs)濃度をGC-MSとGC-ECDにより測定した。<br> その結果、全てのサンプルでCr, Mn, Ni, Cu, Zn, As, Mo, Agの高濃度蓄積は認められず、PCBsおよびOCPsは検出限界以下であった。Pb濃度はナクルに比べてダンドラで高い蓄積傾向を示し、ヤギおよびヒツジでは有意差が認められた。ブタの平均Pb濃度はダンドラ(2600 μg/kg, dry wt:dw)がナクル(73 μg/kg, dw)の約35倍の高値を示した。ダンドラのウシからは、ヘム合成に関与するアミノレブリン酸脱水酵素活性が低下するとされる値(100μg/kg)と同程度のPb濃度(91 μg/kg以上)が検出され、血液毒性等の中毒症状の蔓延が示唆された。Cd濃度の地域差および種差は認められなかったが、総じて高値(570±460 ng/kg, dw)を示し、ウシの摂食によるヒトのCd曝露が示唆された。Pb安定同位体比は地域および動物種により異なる傾向を示し、地域内に複数の曝露源があること、動物種により主要な曝露源が異なることが示唆された。<br> 本研究より、両地域に生息する家畜には高濃度のPb, Cdが蓄積し、特にPb汚染はダンドラで深刻なレベルであり、その曝露源が複数存在することが示唆された。家畜と生活環境を共にするヒトへの同様の汚染も強く示唆された。
著者
山田 恭史 浅野 育子 久保田 友成 杉山 美樹
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第44回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-159, 2017 (Released:2018-03-29)

【目的】前回当学会で、3系統のモルモットのターンオーバーの違いについて報告したが、今回は別の動物種であるミニブタ及びヘアレスマウスのターンオーバーの違いについて報告する。また、ニキビの治療薬のディフェリンゲル及びダラシンTゲルを塗布し、皮膚ターンオーバーの促進作用を比較検討したので、その結果を報告する。【方法】ミニブタ及びヘアレスマウスの背部皮膚に、蛍光発色剤のダンシルクロライドを塗布し、その蛍光発色の輝度を測定した。蛍光発色が消失した時点を皮膚ターンオーバーの完了とした。また、ダンシルクロライドを塗布した他の部位にディフェリンゲル及びダラシンTゲルをそれぞれ1日1回開放塗布し、蛍光発色が消失した時点を投与終了とした。【結果】蛍光発色の消失は、ミニブタが37日、ヘアレスマウスが16日であった。ディフェリンゲル及びダラシンTゲル塗布部位ではミニブタが23または33日、ヘアレスマウスが9または12日であった。以上の結果、皮膚ターンオーバーが完了するのに必要な期間はヘアレスが非常に早く、ミニブタでは白色モルモットより長い期間を要すると考えられる。また、薬剤塗布部位では両動物種とも皮膚ターンオーバーが正常皮膚よりも早く完了したことから、ディフェリンゲル及びダラシンTゲルに皮膚ターンオーバーを促進作用が確認された。
著者
小島 肇
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

創薬の開発段階において,in vitro試験によるスクリーニングの必要性が増している。作用機構に立脚した試験法は,低コストかつ短期間に薬効や毒性を評価できると期待できる。さらに,iPS細胞の利用においても,再生医療よりも創薬開発が容易との意見もあり,その開発には社会的な追い風も吹いていると想像できる。本シンポジムでは,そのような最先端の創薬スクリーニング試験法をご紹介頂くことになった。 試験法については,その方法が一企業・一国・一地域での認知ではなく,世界的に受け入れられる方法として位置づけられることが重要であるとの見解がある。確かに行政的な受入れに必要なガイドラインではそうかもしれないが,ある企業がスクリーニングに用いるものにそれが当てはまるとは思えない。行政的な受けがなされるまでには,バリデーションが必要であり,それを当てはめようとするとバリデーションラグにより,in vitro試験の垣根が高くなり過ぎる。 ただし,in vitro試験の利用をむやみに増やせばよい訳ではなく,科学的な裏付けもなく,再現性が乏しい方法は相応しくない。できれば,in vitro試験の導入にあたっては,同業他社との共同研究を通して,プロトコルが開発者の思い込みで作られていないか,施設間の再現性は良いか,予測性も十分かを確認しておくことをお薦めする。In vitro試験は使い方により,その高い偽陽性率から誤って有用な候補物質を脱落させてしまうか,または,高い偽陰性率から重大な安全性上の懸念を見落とす可能性を持っている。これを十分に念頭において利用すべきと考えている。
著者
王鞍 孝子 永山 隆 米田 保雄 服部 健一 荻野 大和 田牧 千裕 高島 吉治 安木 大策 橋場 雅道 久田 茂 中村 和市
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S11-1, 2012 (Released:2012-11-24)

臨床副作用と非臨床毒性所見の相関性については、医薬業界に携わる多くの者が興味を抱いているところであり、過去にもいくつかの調査がある。国内においては、1992年から1994年にかけて、製薬協で開発中止薬のアンケート調査や市販薬の文献調査1-3)などが実施されている。これらの調査は、主に非臨床試験ガイドラインの作成に当たり、その妥当性を確認することを目的として実施されたものである。海外においてはOlsonら4)の報告がある。 過去の製薬協の調査から20年近く経過し、多数の生物製剤や治療ワクチンの登場など、状況も大きく変わっていることから、現在販売されている医薬品(調査対象:平成13年~22年承認の新有効成分含有医薬品)を中心に、臨床副作用と非臨床毒性の相関性を添付文書・審査報告書・承認申請資料などの公開資料を情報源として調査した。特に、本調査では、相関性が認められない副作用の種類を確認することに主眼を置いて、多方面から解析を行った(例えば、薬剤の薬効群、投与法、副作用発現頻度及び相関のある副作用に関しての動物の種類、暴露量や投与期間等)。これらの結果から、非臨床毒性試験における限界と今後の課題を考えたい。1) 製薬協、医薬品評価委員会、基礎研究部会資料52, 1992年, 毒性試験結果と臨床副作用の関連性 2) 製薬協、医薬品評価委員会、基礎研究部会資料61, 1993年, 臨床副作用と動物試験データの関連性に関するアンケート調査3) 製薬協、医薬品評価委員会、基礎研究部会資料65, 1994年, 臨床副作用と動物試験結果の関連性に関する文献調査4) Olson H et al. Concordance of the toxicity of pharmaceuticals in humans and in animals. Regul. Toxicol. Pharmacol. 2000, 32, 56-67
著者
三森 国敏
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.S8-3, 2012

新しい医薬品のがん原性試験ガイドラインがICHで1997年に策定され、ラットの2年間がん原性試験に加えて遺伝子改変(Tg)マウスを用いた短期がん原性試験からもがん原性が評価できるようになった。一方、そのガイドラインの策定から約15年が経過し、Tgマウスの欠点も明らかとなり、また、2年間のがん原性試験においても種々の問題が派生してきている。例えば、rasH2マウスやp53 ヘテロ欠損マウスは遺伝毒性発がん物質に感受性が高いが、一部のin vitro遺伝毒性試験で陽性で、Tgマウスでの短期がん原性試験で陰性の場合、長期がん原性試験が必ずしも陰性となる保証はないとの指摘がなされている。また、従来の遺伝毒性試験が陰性で、長期がん原性試験が陽性であった医薬品の場合は、ビッグブルーマウスの遺伝子突然変異試験のように、in vivo遺伝毒性試験を追加してその作用が遺伝毒性によって生じたものかを明確にせざるを得ない場合もある。一方、追加in vivo遺伝毒性試験で陰性であった場合は、その発癌促進作用の機序解明が必要となるが、必ずしもその機序を解明するための動物モデルが開発されておらず、さらなる機序解明ができない場合もある。最近gptデルタラットが開発され、一つの試験系で同一臓器での遺伝子変異と発がんとの関連性を明確にすることができる。この試験系では、従来のような遺伝毒性とがん原性試験を別々に実施することはなくなり、今後の遺伝毒性発がん物質を検出できる試験系として有用であると思われる。 反復投与毒性試験から発がんの懸念がない場合は、ラットの長期がん原性試験を省略できるとの新しいガイドラインがICHから提案されているが、上記のように、がん原性を評価する試験系においても種々の問題点が派生してきており、医薬品開発の迅速化を求めるために本来のリスク評価が疎かになるようなことは絶対に避けるべきである。
著者
田保 充康 長谷川 清 本多 正樹 大田 雅照
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.62, 2010 (Released:2010-08-18)

薬剤誘発性QT延長作用を引き起こす薬剤の多くがKチャネルの一つであるhuman ether-a-go-go related gene(hERG)チャネルを阻 害することによりQT間隔を延長させることから,hERG阻害に対する評価が創薬早期段階から実施されている。オートパッチクラン プにより多数の化合物のhERGスクリーニングが可能となり,膨大なスクリーニングの産物としてhERG阻害作用の弱い化合物を見出 すことが可能になってきた。しかしながら,薬効,薬物動態を含め薬剤としての特性を維持しながらhERG阻害の弱い化合物を効率的 に創製するためには,化合物の構造活性相関,物性情報,構造-hERG阻害相関,化合物とhERGとの相互作用などに基づいた合理的 な分子設計が必要と考えられる。特に化合物とhERGの原子レベルでの相互作用,すなわち,化合物とhERGの複合体の立体構造モデ ル情報は合理的な分子設計にとって大きなインパクトがある。hERG阻害作用を示す化合物のほとんどがhERGチャネル内部のポア領 域に結合して遮断作用を示すことが知られており,より効果的な分子設計方針を見出すためにはポア領域における結合様式を特定す ることが重要となる。hERGに対する相互作用部位として報告されているアミノ酸残基をアラニンに置換したmutant hERGに対する 化合物の阻害作用について検討し,その実験情報を考慮してhERG 3Dモデルに対する化合物のドッキングを実施することにより,化 合物の結合部位と結合様式を詳細に推定することができる。そして,この化合物/ hERG 複合体の立体構造モデル情報に基づいて, hERG阻害を回避するための合理的な構造変換アイデアの創製が可能となる。本発表では,当社の取り組みも合わせて,in vitro及び in silicoを統合したhERGチャネル阻害の回避方法について紹介する。
著者
CHOI Kyungho KYONG Yeon Young PARK Jeng Tak
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.P-233, 2016

Benzodiazepines are frequently prescribed for many diseases and are also most commonly involved in drug overdose. Although most benzodiazepine overdoses are known to be safe and nonfatal without co-ingestions, morbidity or mortality after benzodiazepine overdose is closely related with the duration of unconsciousness or depth of compromised airway. Proper use of flumazenil, a potent antidote of benzodiazepine, seems to accelerate the recovery from the toxicity after benzodiazepine overdose. However, careful attention and repetitive evaluations before and after flumazenil administration may be needed in benzodiazepine overdose because resedation occurs in approximately 30% of total flumazenil-treated cases, which suggests that the risk of aspiration or incidental death after flumazenil administration might be significant without careful monitoring. A 67-year-old woman came to our hospital unconscious 19.5 hours after clonazepam overdose, due to delayed detection. The chest x-ray showed focal segmental atelectasis on the left lung field. Before flumazenil administration, we examined the patient’s airway and assessed the presence of contraindications for flumazenil administration. Next, we briefly evaluated the Ramsay sedation scales (RSSs) and Richmond agitation–sedation scales (RASSs) using, in order, a loud voice, a light glabellar tap, and physical stimuli. Her initial RSS and RASS were 5 and −4, respectively. The RSSs and RASSs were repetitively evaluated before and after flumazenil administration. In conclusion, we successfully managed the comatose patient after clonazepam overdose using sedation score–based applications of flumazenil. Therefore, we suggest that repetitive evaluations conducted before and after the use of flumazenil may be needed in cases of benzodiazepine overdose.
著者
池田 正明 熊谷 恵 中島 芳浩
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.44, pp.S13-2, 2017

概日リズムは、地球が24時間で自転しながら太陽の周りを回ることにより地球上に起こる明暗の光環境リズムを、地球上の生物が体内に取り込む形で形成されたと考えられている。地球上の生物は、生体内に概日リズムシステムを獲得したことにより、24時間周期の明暗変化を予測して体内を変化させ、恒常性の維持や環境適応を有利にしていったと考えられている。概日リズムが遺伝子レベルで制御されていることは、1971年にベンザーらがショウジョウバエからリズム変異体<i>period</i>を発見したことを端緒に、これが1984年の<i>period</i>遺伝子の発見へつながり、1997年の<i>Clock, Bmal1, Per</i>などの哺乳類の時計遺伝子の発見、1998年のCLOCK/BMAL1/PER時計遺伝子群の転写翻訳によるフィードバック機構からなるコアフィードバックループの同定へと続き、20世紀末に明らかにされた。コア時計遺伝子であるCLOCK/BMAL1/PERは転写因子として機能しているが、これらの分子にはPASドメインというドメイン構造があり、PASドメインは転写因子間の相互作用のインターフェースとして機能している。CLOCK/BMAL1はこのPASドメインを介してヘテロダイマーを形成し、<i>Per, Cry</i>時計遺伝子のプロモーターにあるE-boxに結合してこれらの遺伝子の転写を促進、産生された産物はCLOCK/BMAL1の転写促進活性を抑制することによって約24時間のリズムを形成している。時計遺伝子は概日リズムの発振という機能を生体内の殆どの細胞で発現することに加えて、CLOCK/BMALが、時計制御遺伝子(<b>clock controlled genes</b> (CGG))を直接転写制御することにより、生体内の代謝リズム発現を起こし、生体内の恒常性維持に働いている。本シンポジウムでは概日リズムの分子機構を概説するとともに、毒物代謝との接点についても論考したい。
著者
富田 貴文 岡村 早雄 今野 芳浩
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-14, 2015

【目的】薬剤性肝障害(Drug-Induced Liver Injury: DILI)は、医薬品の開発中止や販売中止の主要な原因の1つである。医薬品の研究開発において化合物のDILIリスクを早期に予測することは、研究開発の成功率を上げるために重要である。DILIリスク予測評価系として、ヒト初代培養肝細胞及びHepG2細胞を用いた肝細胞毒性試験が多く報告されている。しかしながら、ヒト初代培養肝細胞ではドナー差や安定した供給面、HepG2細胞では肝機能の保持に問題がある。一方、ヒト肝腫瘍由来細胞株HepaRGはヒト肝細胞様形態や各種機能を保持していることから薬物動態及び毒性研究に有用と考えられる。我々は第40及び41回日本毒性学会学術年会において、HepaRG細胞を使用してDILI陽性化合物の毒性評価について報告した。今回、DILI陽性及び陰性化合物を追加評価し、HepaRG細胞のDILIリスク予測評価系としての有用性を検討した。<br>【方法】試験物質として、DILI陽性17化合物及びDILI陰性15化合物を使用した。処理濃度は、ヒト臨床Cmaxの100倍を最高濃度に設定した。HepaRG細胞に試験物質を24時間処理後、主要なDILI機序を反映する6種類のパラメータ(細胞生存率、グルタチオン量、Caspase 3/7活性、脂肪蓄積量、LDH漏出量、アルブミン分泌量)について測定した。各パラメータの最適なカットオフ値は、receiver operating characteristic curveを使用して決定した。さらに、DILIの予測性を評価するために、感度及び特異度を算出した。<br>【結果及び考察】DILIの予測性は、Cmaxの100倍では感度67%及び特異度73%、Cmaxの25倍では感度41%及び特異度87%であった。また、Cmaxの25倍でパラメータの変動が認められた化合物の70%は、DILI高リスク化合物であった。さらに、構造類似薬において、DILI高リスク化合物は低リスク化合物と比較して強い毒性を示した。以上より、HepaRG細胞は医薬品の研究開発においてDILIリスク予測評価系として有用と考えられた。
著者
筧 麻友 中山 翔太 水川 葉月 池中 良徳 渡邊 研右 坂本 健太郎 和田 昭彦 服部 薫 田辺 信介 野見山 桂 石塚 真由美
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.P-78, 2014

【目的】グルクロン酸抱合酵素(UGT)は、生体外異物代謝の第Ⅱ相抱合反応を担い、各動物の化学物質感受性決定に関与することが報告されている。食肉目ネコ亜目(Feliformia)では環境化学物質や薬物等の代謝に関与するUGT1A6の偽遺伝子化が報告されており、この偽遺伝子化に伴いアセトアミノフェン等の薬物の毒性作用が強いことが知られている。一方、食肉目に属する鰭脚類(Pinnipedia)では、環境化学物質の高濃度蓄積が報告されているが、感受性に関与するUGTについての研究はほとんど行われていない。そこで、鰭脚類を中心とした食肉目において、肝臓でのUGT活性の測定と系統解析を行った。<br>【方法】食肉目に属するネコ(<i>Felis catus</i>)、イヌ(<i>Canis familiaris</i>)、鰭脚類であるトド(<i>Eumetopias jubatus</i>)、キタオットセイ(<i>Callorhinus ursinus</i>)、カスピカイアザラシ(<i>Phoca caspica</i>)及び対照としてラット(<i>Rattus norvegicus</i>)の肝臓ミクロソームを作成し、1-ヒドロキシピレン(UGT1A6、UGT1A7、UGT1A9)、アセトアミノフェン(UGT1A1、UGT1A6、UGT1A9)、セロトニン(UGT1A6)を基質としてUGT活性を測定した。また、NCBIのデータベースからUGT1A領域の系統解析およびシンテニー解析を行った。<br>【結果及び考察】1-ヒドロキシピレン、アセトアミノフェン、セロトニンに対するUGT抱合活性を測定した結果、ラットに比べ食肉目では極めて低い活性を示した。また、系統解析及びシンテニー解析より、解析した全ての食肉目において、UGT1A分子種は特徴的な2遺伝子であるUSP40 とMROH2の間に保存されていることが明らかになった。さらに、食肉目は齧歯目に比べUGT1A領域が短く、UGT1A分子種数が少ないことが確認された。以上の結果から、鰭脚類を含めた食肉目はUGTによる異物代謝能が低く、環境化学物質に対する感受性が高い可能性が考えられた。