著者
関野 祐子 諫田 泰成
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.S1-6, 2015

オールジャパン体制でのヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)研究への取り組みの中、研究成果の出口としてiPS細胞の創薬応用に対する関心が近年急激に高まっている。特に、医薬品の安全性評価法の開発が期待されており、政府の「健康・医療戦略」には「新薬開発の効率性の向上を図るため、iPS 細胞を用いた医薬品の安全性評価システムを開発する。」と掲げられている。<br> ヒトiPS細胞由来の分化細胞は、誘導条件、培養条件などの違いにより異なる薬理学的特性を示すために、学術論文発表データだけからでは安全性評価法への応用可能性を判断することは難しい。分化心筋細胞は、種々のiPS細胞由来の組織細胞の中でも最も創薬プロセスへの実用化が早いと期待されているが、実際に利用可能かどうかの判断を行うには、多施設間で再現性を確認した頑健な実験プロトコルを用いた検証実験が必須となる。そのためには催不整脈性リスクを評価するための客観的指標を定め、評価法を決定しておくことが必要である。そして、催不整脈性リスクの陽性化合物と陰性化合物により予測性を検証する。<br> 我々は、平成24年度から「ヒトiPS分化細胞を利用した医薬品のヒト特異的有害反応評価系の開発・標準化」研究にとりかかり、多点電極上に高密度に培養した心筋細胞シートを使った実験プロトコルよる実験結果の再現性を検証し、現在多施設大規模検証実験に取りかっかっている。<br> 米国ではICH E14の廃止とICHS7Bの改訂の議論がすでに開始されているが、S7B改訂の科学的根拠を提出するために、Comprehensive in vitro Proarrythmia Assay (CiPA)という日米欧規制機関による国際研究チームを結成している。我々は、科研費研究班を中心に、Japan iPS Cardiac Safety Assessment (JiCSA)を結成して、CiPAと協調している。昨年夏から急激に激化した心臓安全性薬理試験法改訂に関する国際開発競争に対応し、日本の技術のグルーバル化と日本の分化細胞を海外に展開するための研究の強化が望まれる。
著者
林 泰司 矢田 英昭 Blair Malcolm Laughlin Kathryn A. Blanchard Gary Lee Tucek Paul C. Geil Robert G.
出版者
日本毒性学会
雑誌
The Journal of Toxicological Sciences (ISSN:03881350)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.177-197, 1994
被引用文献数
1

雌雄ビーグル犬にTAZ/PIPC 200, 400, 800 mg/kg/dayおよびTAZ 40, 80および160 mg/kg/dayを6ヵ月間静脈内投与し, その反復投与毒性ならびに回復性について検討し, 以下の知見を得た。1. 投与および回復期間を通じて, TAZ/PIPCおよびTAZ投与群に死亡例はみられず, 一般状態の観察, 体重測定および摂餌量には被験物質投与に起因した変化はみられなかった。2. 血液学的検査, 血液生化学的検査, 尿検査, 眼科学的検査, 生理学的検査および心電図検査では, 被験物質投与に起因した変化はみられなかった。3. 剖検および臓器重量では, 被験物質投与に起因した変化はみられなかった。4. 病理組織学的検査では, TAZ/PIPC 400 mg/kg/day以上の群およびTAZ 80 mg/kg/day以上の群で肝細胞内に著明なPAS陽性物質の蓄積がみられた。電子顕微鏡観察では, 肝細胞の細胞質内中にグリコーゲン顆粒および滑面小胞体の増加がみられた。5. 上記変化は, 1ヵ月間の回復試験によりいずれも回復あるいは回復傾向がみられ, 可逆性の変化であった。6. 肝の病理組織学的変化から判断し, TAZ/PIPCおよびTAZの無毒性量はそれぞれ200 mg/kg/dayおよび40 mg/kg/dayであった。
著者
福岡 鮎美 藤井 悦子 唐澤 弥生 堤 秀樹 伊藤 恒夫 鈴木 雅実 杉本 哲朗
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.32, pp.129, 2005

生体に存在するタンパク質の多くは糖鎖を持つ糖タンパクであり、腎臓においては尿細管、糸球体の各細胞で糖鎖の種類と分布が異なることが知られている。レクチンは特定の糖鎖を認識する物質であり、組織中のレクチン結合性によって各種糖鎖の分布が検索可能である。近年、ミニブタは実験動物として安全性評価に用いられつつあるが、ブタ腎臓におけるレクチン結合性の報告はわずかにみられるものの、ミニブタにおける報告はない。そこで今回、G&ouml;ttingen系ミニブタの腎臓における各種レクチンの結合性を検索した。G&ouml;ttingen系ミニブタの雄(40週齢,ならびに260週齢)を使用した。腎臓の20%中性緩衝ホルマリン液固定・パラフィン標本を作製し、Lotus Tetragonolobus Lectin(LTL)、Ulex Europaeus Agglutinin I(UEA I)、Peanut Agglutinin (PNA)、Concanavalin A (Con A)、Dolichos Biflorus Agglutinin (DBA)、Ricinus Communis Agglutinin I (RCA I)、Soybean Agglutinin (SBA)、Wheat Germ Agglutinin (WGA)およびMaackia Amurensis Lectin I (MAL I)を用いたレクチン組織化学的検索を行った。尿細管では、近位尿細管がLTL, UEA I, ConA, DBA, RCA I, SBA, WGA, MAL Iに陽性を、中間尿細管(ヘンレループの一部)が全てのレクチンに陽性を、遠位尿細管がUEA I, PNA, ConA, RCA I, SBA, WGA, MAL Iに陽性を、集合管がUEA I, PNA, ConA, RCA I, SBA, WGA, MAL Iに陽性をそれぞれ示した。糸球体では、ボウマン嚢上皮がPNA, ConA, DBA, RCA I, WGAに、血管内皮がConA, DBA, RCA I, SBA, WGAに陽性を示した。メサンギウム細胞はConAで弱陽性を示した他は陰性であった。各組織のレクチン反応性に、週齢による差は認められなかった。以上、G&ouml;ttingen系ミニブタにおいてもレクチンによる糖鎖の解析が可能であり、腎臓における糖鎖の解析は各細胞(尿細管の区分など)のマーカーとしての利用や、糖鎖分布からの機能解析に応用できるものと考えられた。
著者
秋山 雅博 外山 喬士 吉田 映子 鵜木 隆光 安孫子 ユミ 新開 泰弘 熊谷 嘉人
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-113, 2015

【目的】水俣病の原因物質としても知られるメチル水銀(MeHg)は, 高濃度の摂取により深刻な神経毒性を引き起こすことが示されているが, 我々は大型魚類などを介し日常的にMeHgに暴露されている現状にある. そのため, 生体におけるMeHgへの毒性防御機構の解明は急務の課題となっている. これまでに我々はMeHgの解毒代謝物の一つとして(MeHg)<sub>2</sub>Sを発見し, 生体内においてはシステインの代謝関連酵素によって産生される活性イオウ分子(reactive sulfur species, RSS)がこの解毒代謝に寄与している可能性を示してきた. しかし, これまでの研究は主に培養細胞を用いた<i>in vitro</i>レベルの研究であり, 実際に個体レベルでの知見は得られていない. そこで本研究では個体レベルにおいて, 生体内で産生されるRSSによるMeHgの解毒代謝機構を証明することを目的とした.<br>【方法】Cystathionine γ-lyase (CSE)は生体内においてRSSを産生するシステイン代謝関連酵素の一つである. 本研究ではこの<i>CSE</i>遺伝子を全身で欠損しているCSE ノックアウト(KO)マウスに対するMeHg毒性を評価することでCSEによって産生されるRSSがMeHgの解毒代謝機構に関与しているかを個体レベルで検証した.<br>【結果および考察】<br><i>CSE</i>-KOマウスは通常では神経毒性を引き起こさない低濃度のMeHgの投与によって振戦などの神経障害が現れ, その後死亡した. このことから個体レベルにおいてCSEはMeHgの解毒代謝機構に関与していることが示唆された. 近年, CSEから生じるRSSは硫化水素(H<sub>2</sub>S/HS<sup>-</sup>)ではなく, システインパースルフィド(Cys-S-SH)であるという事実が明らかとなっており, このCys-S-SHなどによるMeHgの捕獲に伴うイオウ付加体形成がMeHgの解毒代謝に寄与している可能性が高いと考えられる.
著者
村上 正樹 藤江 智也 松村 実生 藤原 泰之 木村 朋紀 安池 修之 山本 千夏 佐藤 雅彦 鍜冶 利幸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.P-2, 2014

【背景・目的】有機金属化合物はそれを構成する分子構造や金属イオンとは異なる生物活性を持ち得るため,生命科学への活用が期待される。メタロチオネイン(MT)は有害重金属の毒性軽減などに関与するが、誘導機構には不明な点が多い。本研究では,有機アンチモン化合物ライブラリーから見出された化合物(Sb35)によるMT誘導の特性について,ウシ大動脈由来血管内皮細胞(BAE)を用いて調べた。<br>【方法】BAEをSb35で処理し,MTサブタイプおよびMTF-1 mRNAの発現をReal-Time RT PCR法により評価した。金属応答配列MREおよび抗酸化応答配列AREの活性をDual Luciferase Assayにより測定した。<br>【結果・考察】Sb35は,BAEが発現するMTのすべてのサブタイプ(MT-1A,MT-1EおよびMT-2)のmRNA発現を濃度依存的に増加させたが,MREを顕著に活性化しなかった。しかしながら,転写因子MTF-1をノックダウンすると,すべてのMTサブタイプの発現が抑制された。一方,Sb35は転写因子Nrf2を活性化し,AREを強く活性化した。そこでNrf2をノックダウンしたところ,MT-1AおよびMT-1EのmRNA発現が有意に抑制された。MT-2の発現には変化は認められなかった。以上の結果より,Sb35はすべてのMTサブタイプの遺伝子発現を誘導するが,MT-1AおよびMT-1Eの誘導はMTF-1-MRE経路とNrf2-ARE経路の両方に介在されること,これに対しMT-2の誘導はNrf2-ARE経路に依存せず,MTF-1-MRE経路に介在されることが示唆された。Sb35がNrf2の活性化によってサブタイプ選択的にMT遺伝子の発現を誘導することは,この有機アンチモン化合物がMTの誘導機構解析の有用なツールであることを示している。
著者
横平 政直 山川 けいこ 成澤 裕子 橋本 希 松田 陽子 今井田 克己
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.46, pp.S6-3, 2019

<p> 現在でも胸膜悪性中皮腫の発生率は上昇しており、特にアスベストの生産・輸入に関する規制の緩い国ではその傾向が顕著である。我々はこれまでに、アスベストに類似したK<sub>2</sub>0・6TiO fiber (TISMO)の毒性についての評価を行ってきた。TISMOの胸膜への影響を検索するため、できるだけ多くの被験物質を胸膜に暴露させることを目的に、開胸下に直接被験物質を胸腔内に投与する方法を用いた。</p><p> A/Jマウスの左胸腔内に同成分でサイズや形状の異なる3つの微粒子(TiO<sub>2</sub> micro size particle、TiO<sub>2</sub> nano size particle、TISMO)を投与する実験を行った。実験開始21週目に針状のTISMO投与群のみ肺胸膜の肥厚が見られ、球状のTiO<sub>2</sub>微粒子投与群は大きさに関係なく胸膜の変化は認められなかった。TISMOはアスベストに似た形状を有する針状粒子であり、胸膜悪性中皮腫の発生原因も危惧される。そこでTISMOの左胸腔内投与後、長期間(2年以上)飼育する実験を行った。その結果、肺胸膜の著明な肥厚を再確認し、さらに異型を伴う中皮細胞の出現が観察された。驚くべきことに、TISMO粒子は胸腔内投与にも関わらず、多臓器(肝、腎、脾臓、卵巣、心、骨髄、脳実質)で確認され、広範な播種が認められた。</p><p> また、TISMOの経気道暴露を想定して、気管内投与による実験も行った。TISMOが誘発する肺実質内の炎症所見は軽度であり、人への吸入毒性が低いとされる炭酸カルシウム微粒子(チョークの粉)とほぼ同程度であった。このように、経気道的に侵入したTISMOは、気管支および肺実質内での炎症誘発作用は乏しいものの、胸膜に到達すると強い反応性変化を誘発することが判明した。</p><p> 以上より、TISMOの胸膜への影響、および呼吸器系から体内に侵入したTISMOが多臓器に分布するリスクが明らかとなった。</p>
著者
宇髙 麻子 吉岡 靖雄 吉田 徳幸 宇治 美由紀 三里 一貴 森 宣瑛 平井 敏郎 長野 一也 阿部 康弘 鎌田 春彦 角田 慎一 鍋師 裕美 吉川 友章 堤 康央
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.O-39, 2012 (Released:2012-11-24)

抗原を粘膜面から接種する粘膜ワクチンは、全身面と初発感染部位である粘膜面に二段構えの防御を誘導できる優れたワクチンとなり得る可能性を秘めている。しかし抗原蛋白質は体内安定性に乏しく、単独接種ではワクチン効果が期待できない。そのため、免疫賦活剤(アジュバント)の併用が有効とされており、既に我々はTNF-αやIL-1α等のサイトカインが優れたアジュバント活性を有することを先駆けて見出してきた(J.Virology, 2010)。しかしサイトカインは吸収性にも乏しく、アジュバントの標的である免疫担当細胞への到達効率が極めて低い。そのため十分なワクチン効果を得るには大量投与を避け得ず、予期せぬ副作用が懸念される。言うまでも無く、現代のワクチン開発研究においては、有効性のみを追求するのではなく、安全性を加味して剤型を設計せねばならない。そこで本発表では、ナノ粒子と蛋白質の相互作用により形成されるプロテインコロナ(PC)を利用することで、サイトカイン投与量の低減に成功したので報告する。PCとは、ナノ粒子表面に蛋白質が吸着して形成する層のことを指す。近年、PC化した蛋白質は体内安定性や細胞内移行効率が向上することが報告されている。まず粒子径30 nmの非晶質ナノシリカ(nSP30)を用いてPC化したTNF-α(TNF-α/nSP30)を、ニワトリ卵白アルブミン(OVA)と共にBALB/cマウスに経鼻免疫し、OVA特異的抗体誘導能を評価した。その結果、有害事象を観察することなく、0.1 µgのTNF-αを単独で投与した群と比べ、TNF-α/nSP30投与群においてOVA特異的IgG・IgAの産生が顕著に上昇していた。以上、PCがTNF-αアジュバントの有効性と安全性を向上できる基盤技術となる可能性を見出した。現在、体内吸収性の観点からPC化サイトカインのワクチン効果増強機構やナノ安全性を解析すると共に、最適なPC創製法の確立を推進している。
著者
Myrtle DAVIS
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S6-1, 2021 (Released:2021-08-12)

CRISPR is an acronym for Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat that refers to the unique organization of short, partially palindromic repeated DNA sequences found in the genomes of bacteria and other microorganisms. Since that discovery, CRISPR-Cas9 is recognized as a powerful and flexible functional genomic screening approach that can be employed to provide mechanistic insight and advance or capabilities in toxicology. CRISPR is known for its role in gene editing and Toxicologists most often employ this technology to modulate gene expression in mechanistic investigations. When CRISPR is used as a modality to treat disease, the challenge for toxicologists in characterization of potential on-and off-target toxicities and informing human safety risks that may be caused by these unique treatments are significant. In this introductory segment, various methods and strategies that have evolved since the discovery of this special bacterial defense system will be discussed. The use of CRISPR for investigative work in toxicology, assay development and the challenges CRISPR-based therapies pose for toxicologists will also be reviewed. Last, an overview of some of the current challenges and potential for CRISPR in toxicology will be outlined to bridge to the main talks in the session.
著者
桜田 恵里 土山 博美 大信田 系裕
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.43, pp.P-137, 2016

<i>umu</i>テストはDNA修復におけるSOS反応を指標とした遺伝毒性評価法であり、その原理から幅広い遺伝毒性物質の検出に用いられている。Ames試験と比較して所要時間も短く、少量の被験物質で実施可能であり、遺伝毒性の簡便かつ迅速な評価法として有用である。しかしながら、従来の吸光度測定法では反応系内で析出物が生じる場合、析出物によって吸光度測定が妨害され判定が困難となる。<br>この問題を克服するため、SOS反応の評価に蛍光基質フルオレセイン-β-D-ガラクトピラノシド(FDP)を用いることにより、析出物の影響をほとんど受けずにSOS反応を感度良く検出できることが確認された(第41回年会)。<br>今回評価精度向上を目的として、被験物質による菌の生育阻害を評価するため、テスト菌の生菌数の指標を発光強度とし、SOS反応の指標を蛍光強度とする組合せ評価法(発光-蛍光法)を検討した。テスト菌を被験物質存在下で37°C、2時間インキュベートした後、発光試薬(BacTiter-Glo®、Promega社)および蛍光試薬FDG(SensoLyte®、Anaspec社)を添加し、発光強度および蛍光強度を測定した。判定は、蛍光強度測定値(SOS反応)を発光強度測定値(生菌数)で除した値、補正変異原性指標 relative β-galactosidase activity(RGA)を用いて行った。本評価系において複数の化学物質を評価した結果、吸光度に変化を生じる析出物が存在しても発光強度および蛍光強度にはほとんど影響がないことが示された。以上の結果から、本評価系は、析出物の存在下でも精度良く<i>umu</i>テスト評価ができることが確認された。
著者
松本 晴年 安藤 さえこ 深町 勝巳 二口 充 酒々井 眞澄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.44, pp.P-75, 2017

【背景】これまでに我々は沖縄県産植物のがん細胞への細胞毒性を明らかにした(Asian Pac J Cancer Prev 6: 353-358, 2005, Eur J Cancer Prev 14: 101-105, 2005, Cancer Lett 205: 133-141, 2004)。芭蕉の葉身からの抽出物 (アセトン(A)あるいはメタノール(M)抽出)を用いてヒト大腸がん細胞株に対する細胞毒性とその機序を調べた。【方法】各抽出物をヒト大腸がん細胞株HT29およびHCT116にばく露し、コロニーあるいはMTTアッセイにて細胞毒性を検討した。細胞毒性の程度をIC<sub>50</sub>値(50%増殖抑制率)にて判定した。アポトーシスの有無と細胞周期への影響をフローサイトメトリーおよびウェスタンブロット法で検討した。【結果と考察】コロニーアッセイでのIC<sub>50</sub>値は、HT29株では118 μg/mL(A)、>200 μg/mL(M)、HCT116株では75 μg/mL(A)、141 μg/mL(M)であった。MTTアッセイでのIC<sub>50</sub>値は、HT29株では115 μg/mL(A)、280 μg/mL(M)、HCT116株では73 μg/mL(A)、248 μg/mL(M)であった。アセトン抽出物にはより強い作用を持つ有効成分が含まれると考えられた。HT29株では、アセトン抽出物(100 μg/mL)のばく露によりcontrolと比較してG1期が5.4%有意に上昇し、これに伴ってG2/M期が減少した。つまり、G1 arrestが誘導された。アポトーシスに陥った細胞集団が示すsubG1 populationは見られなかった。HT29およびHCT116株では、アセトン抽出物のばく露によりcyclinD1およびcdk4タンパク発現レベルが濃度依存的に低下した。一方、HCT116株では、p21<sup>CIP1</sup>タンパク発現レベルが濃度依存的に増加した。これらの結果より、芭蕉葉の抽出物には細胞毒性をもつ物質が含まれ、アセトン抽出物はcyclinD1およびcdk4タンパク発現を減少させ、p21<sup>CIP1</sup>タンパク発現を増加させることで細胞周期を負に制御すると考えられる。
著者
下村 和裕
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.40, 2013

製薬企業では新薬の開発にあたり生殖発生毒性試験として,3種類の動物実験を実施し,妊娠と授乳に及ぼす影響を評価している。生殖発生毒性試験のガイドラインは1961年のサリドマイド事件を契機に,1963年に通知されたのが始まりである。1975年には3節試験ガイドラインに改訂が行われ,さらに,1994年には国際協調されたICHガイドラインへと発展した。試験の結果として,母動物の一般毒性学的影響,母動物の生殖に及ぼす影響,次世代の発生に及ぼす影響の3つのカテゴリーごとに無毒性量が評価される。<br>受胎能及び着床までの初期胚発生に関する試験は交配前から交尾,着床に至るまでの被験物質の投与に起因する毒性および障害を検索する試験である。雌では性周期,受精,卵管内輸送,着床および着床前段階の胚発生に及ぼす影響を検索する。雄では生殖器の病理組織学的検査では検出されない機能的影響(例えば性的衝動,精巣上体内の精子成熟)を検索する。<br>出生前及び出生後の発生並びに母体の機能に関する試験は着床から離乳までの間,雌動物に被験物質を投与し,妊娠および授乳期の雌動物,受胎産物(胎盤を含む胚・胎児)および出生児の発生に及ぼす悪影響を検索する試験である。この試験で誘発される影響は遅れて発現する可能性があるので,観察は出生児が性成熟期に達するまで継続する。出生前および出生後の児(胚,胎児および出生児)の死亡,成長および発達の変化,行動,成熟(性成熟を含む)および生殖を含む出生児の機能障害を検索する。<br>胚・胎児発生に関する試験は着床から硬口蓋の閉鎖までの期間中雌動物に被験物質を投与し,妊娠動物および胚・胎児の発生に及ぼす悪影響を検索する試験である。着床から硬口蓋の閉鎖までの期間は胎児の器官が形成される時期であり,妊娠期間中で最も奇形が起こりやすい期間である。胚・胎児の死亡,成長の変化および形態学的変化を検索する。
著者
小松 真一 土本 まゆみ 松井 元 真木 一茂 松本 峰男
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第41回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S5-3, 2014 (Released:2014-08-26)

治療用ペプチドワクチンを含む「治療用がんワクチン」は、がんの治療法として、外科的療法、放射線療法、化学療法に次ぐ「第4の治療法」として期待されているが、未だ臨床試験において主要評価項目を達成した能動免疫療法に該当する「治療用がんワクチン」は承認されていない。治療用ペプチドワクチンを対象とした非臨床安全性評価に関するガイドラインは、いまだ国内外を問わず存在しない。また、WHOのGuidelines on the nonclinical evaluation of vaccine adjuvants and adjuvanted vaccines(2013)では、原則のいくつかが、がんなどに対するアジュバント添加治療ワクチンの非臨床試験にも当てはまるかもしれないとされているに過ぎない。厚生労働科学研究費補助金(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究事業)「ワクチンの非臨床研究ガイドライン策定に関する調査研究」の活動として、治療用ペプチドワクチンのための非臨床安全性試験について検討した。今回、研究成果として投稿した“Considerations for non-clinical safety studies of therapeutic peptide vaccines”(治療用ペプチドワクチンのための非臨床安全性試験に関するコンシダレーションペーパー)を基に、調査研究班が考えた治療用ペプチドワクチンのための非臨床安全性試験について解説する。
著者
黒田 顕 木島 綾希 金 美蘭 松下 幸平 高須 伸二 石井 雄二 小川 久美子 西川 秋佳 梅村 隆志
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-115, 2012 (Released:2012-11-24)

【目的】鉱物由来ワックスであるオゾケライトは、主にC29~C53の炭化水素から構成される高分子化合物であり、既存添加物としてチューインガムのガムベースに使用されているが、その毒性に関する報告は少ない。そこで今回、オゾケライトの長期投与の影響を検討するため、 ラットにおける慢性毒性・発がん性併合試験を実施した。【方法】6週齢の雌雄F344ラット各190匹を7群に分け、慢性毒性試験では0、0.05、0.1および0.2%(各群雌雄10匹)の用量で1年間、発がん性試験では0、0.1および0.2%(各群雌雄50匹)の用量で2年間、混餌投与した。実験期間中の一般状態観察、体重および摂餌量測定、剖検後の病理組織学的検査、慢性毒性試験ではさらに血液学検査、血液生化学検査、肝臓のGST-P陽性巣の定量解析を行った。【結果】慢性毒性試験では、雄0.1%以上で体重増加抑制、雌雄0.05%以上で貧血所見、AST・ALTの増加、TP・Albuminの減少、雄0.2%および雌0.1%以上で白血球数の増加、雌0.2%でBUNの増加が認められた。また雌雄0.05%以上で肺重量の増加、雌雄0.1%以上で肝臓および脾臓重量の増加、雄0.2%で腎臓重量の増加が認められた。病理組織学的には、雌雄0.05%以上で肝臓の泡沫細胞集簇、雄0.2%および雌0.05%以上で肝臓およびリンパ節の異物肉芽腫が認められた。肝臓のGST-P陽性細胞巣は、雌雄0.05%以上で数あるいは面積が増加した。発がん性試験では、雌雄0.1%以上で体重増加抑制、雌雄0.1%以上で肺、脾臓、肝臓および腎臓重量の増加が認められた。また、雄の0.1%以上で肝細胞腺腫の発生率および肝臓における総腫瘍発生率の増加が認められた。【考察】リンパ節ならびに肝臓で認められた泡沫細胞集簇および異物肉芽腫は、難吸収性高分子化合物の大量投与により惹起される病変と考えられた。また、GST-P陽性細胞の定量解析ならびに発がん性試験結果からオゾケライトは雄ラットの肝臓に弱い発がん性を有すると考えられた。
著者
成田 正明 江藤 みちる 大河原 剛
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.41, pp.S13-4, 2014

発達期の化学物質のばく露は子どもの正常な発達に悪影響を及ぼし得る。なかでも妊娠中の化学物質のばく露は様々な外表奇形・内臓奇形を引き起こすことはよく知られているが、情動や認知行動への影響についての詳細はわかっていない。<br> 自閉症は人との関わりを主症状とする、先天的な脳の機能障害に基づく発達障害である。しかし胎生期のどの時期に、どういうことが原因で(遺伝的因子、ウイルス感染、薬剤・化学物質)、どんな機能障害が脳のどの部分におきているか、はわかっていなかった。<br> これまで報告されている自閉症の原因としては、遺伝的因子、胎内感染症、化学物質(薬物・毒物)などがある。遺伝的因子の関与は強く指摘されているが、スペクトラムとしてヘテロな症候を持つ自閉症の病態を、単一の遺伝子異常で説明するのは本来困難である。妊婦の抗てんかん薬バルプロ酸などの薬物、アルコール、その他の化学物質の胎内ばく露も自閉症発症原因になり得るとされている。化学物質の胎内ばく露を巡っては、有機水銀摂取なども懸念事項であり、妊婦の魚介類摂取許容量が見直されるなども関連しているといえる。<br> 私たちはヒトでの疫学的事実、即ち妊娠のある特定の時期にサリドマイドを内服した母親から生まれた児から通常発症するよりもはるかに高率に自閉症を発症したことに着目し、妊娠ラットにサリドマイドやバルプロ酸を投与する方法で自閉症モデル動物を作成してきた。自閉症モデルラットでは、これまでにセロトニン神経系の初期発生の異常、行動異常などがあることを報告してきた。<br> 今回の講演ではサリドマイドによる自閉症モデルラットについての知見のほか、有機水銀ばく露実験なども含め、最近の知見も含めて述べていきたい。
著者
今野 裕太 中浴 静香 吉田 映子 藤原 泰之 山本 千夏 安池 修之 鍜冶 利幸
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-71, 2015

【背景・目的】有機-無機ハイブリッド分子は合成試薬として広く利用されてきたが,生命科学への貢献は皆無に等しい。当研究室では,有機ビスマス化合物(PMTABiおよびDAPBi)の強い細胞毒性がそのアンチモン置換体(PMTASおよびDAPSb)では消失することを見出した。また, これらの化合物に感受性低下を示す有機ビスマス化合物感受性低下細胞(RPB-1γ,RPB-2,RPB-3およびRDB-1細胞)を樹立した。本研究の目的は,有機ビスマス化合物の毒性発現機構の解明を目指し,有機ビスマス化合物の感受性と細胞内金属蓄積量の関係を明らかにすることである。<br>【方法】チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-GT細胞)および有機ビスマス化合物感受性低下細胞に,<br>PMTABi,PMTAS,DAPBi,DAPSbを曝露し,形態学的観察を行うとともに,それぞれの化合物の細胞内蓄積量をICP-MSで測定し,Bi量またはSb量で評価した。<br>【結果・考察】PMTABiの蓄積量は,CHO-GT細胞に比べ,20 µMまでは全ての耐性細胞において高かったが,50 µMではRPB-1γ,RPB-2およびRPB-3細胞への蓄積量はCHO-GTよりも低くなった。DAPBiの蓄積量は,CHO-GT細胞に比べ,50 µMまでRPB-3およびRDB-1細胞において高かった。しかしながら,RDB-1細胞へのDAPBiの蓄積量は50 µMまで濃度依存的であったが,RPB-3細胞では50 µMで減少した。RPB-2細胞には有機ビスマス化合物が蓄積しなかった。PMTABiを曝露して獲得したRPB-1γ,RPB-2およびRPB-3細胞がDAPBiに対しても耐性を示すことが確認された。アンチモン置換体は全ての細胞種において細胞内に蓄積せず,形態学的観察による細胞毒性も確認されなかった。以上より,有機ビスマス化合物の細胞毒性は,その細胞内蓄積量だけでなく,細胞種と有機ビスマス化合物の濃度によって異なるメカニズムが存在することが示唆される。
著者
櫻井 治彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.44, pp.S26-2, 2017

産業の場では、従来利用されたことのない化学物質が今後も次々と導入されることが予想される。特に研究開発、製造等の川上側では、労働者が相対的に高いリスクを負うことが危惧される。<br> 産業衛生の目的は労働者の健康を守ることであり、そのための化学物質管理では、労働者の曝露の特徴をまず念頭に置く必要がある。1日8時間、週5日を基本とする吸入経路の断続曝露が主に起こっており、その場合のトキシコキネティックスに関する定量的な情報が求められる。特に粒子状物質の吸入では、気道と肺での沈着、粘液繊毛輸送系による排出、肺胞領域での生体防御機構による処理、肺間質への蓄積等についての、その物質固有の性質に関する情報が必要である。経皮吸収による発がん等の重大な毒性影響もしばしば発生しており、考慮すべき課題である。<br> 曝露期間からみると災害性の高濃度曝露から、数十年もの長い期間にわたる比較的低い濃度の曝露まで、幅広い曝露状況における毒性発現についての情報が求められる。<br> 毒性影響の種類、強さ等については包括的な情報が必要とされるが、吸入曝露による肺への局所的影響(炎症、繊維症、肺がん等)は産業衛生における特徴的な課題である。<br> リスク評価の基本ツールである曝露限界値は、産業衛生においては人の観察と動物実験による情報を基に設定してきたが、今後は後者への依存度が高くなると考えられる。その際に用いる不確実性係数の妥当な選択について、科学的根拠をより明確にすることは毒性学全体の課題である。特に産業衛生においては、労働者の健康をモニターすることを前提として、小さい不確実性係数を採用してきた経緯があるので、個人曝露の評価及び早期の毒性影響の検出を目的とする方法を確立することが常に求められている。<br> さらに将来に向けては、比較的低い濃度で長期の曝露における毒性とそのメカニズムを解明し、化学構造からの予測を目指すことが期待される。
著者
山添 康
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.1, 2010 (Released:2010-08-18)

薬効解析が最も鋭敏な作用を指標に薬理作用を選抜するのに対して,過剰な薬物によって生じた混 乱にうごめく群衆の中から毒性箱の鍵を開けた者を見つけ出すような毒性機序の解析は指標を見つけ にくく,複雑で,多面的なアプローチを必要としている。このため毒性学における,化学物質の毒作 用の記述から機序の解明そして予測への歩みはゆっくりとしたものであった。 近年,機能タンパク発現機序の解析,in vitro手法の開発,分析手段の発展,網羅的手法の導入によっ て同時に起こる複数の生体内変化を,時間的推移を含めて知ることができるようになった。これら手 法の導入で毒作用の全体像を迅速に理解し,鍵を見つけることが可能になりつつある。 化学物質の毒作用にはしばしば種差が認められ,その現れ方にも相対的な感受性の差,標的臓器の 違い,さらには特定に種のみあるいはヒトでのみ毒作用が出現するような違いがある。このような違 いは,機序解析のツールとして利用されてきたが,一方でヒトにおける安全性評価を難しくしている 要因の1つでもある。 上記の手法の導入で,現在,動物種間の毒性感受性の違いを,特定機能の能力差として理解できる ようになってきている。毒性要因は,大きく薬理と動態に区別できるが,化学物質が起こす明瞭な種 差には両者がともに関与していることが多い。そこで分子レベルで毒性との関連解析が進んでいる薬 物および脂質の代謝動態の研究から幾つかの毒性事象を例に取り上げ,代謝能力の違いと毒性の種差 がどのように関連するのかを考察したい。
著者
佐藤 洋美 上野 光一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S20-2, 2018 (Released:2018-08-10)

薬物治療において薬効や副作用に男女差が現れる場合がある。実際には薬力学的および薬物動態学的な発現機構が組み合わさって臨床的性差として現われる。 薬物の体内動態の観点では、薬物の血中濃度は主に分布容積とクリアランスにより決定されるので、分布容積に差を与える要因、すなわち脂肪含量・循環血液量・筋肉量・肺胞面積等の違いや、腎クリアランスが女性で小さいことなどから、一般に女性で血中薬物濃度が高くなりがちである。 薬物代謝の観点では、ヒトの多くの薬物代謝反応に関与するCYP3A4の性差については女性で活性が高いとする報告が比較的多いが、肝臓と小腸で状況は異なる。一方、近年のヒトCYP3A4導入マウスを用いた検討で、雌性マウスにおいて肝臓CYP3A4発現および活性が雄性ラットよりも高いことが示されている。他のCYP分子種の性差も報告されているが、見解が一致するものは少ない。また、薬物の吸収や排泄に影響を与えるトランスポーターの性差もクリアランスに影響を与える要因であるが、薬物排出トランスポーターであるP-gpの性差も示唆されている。 薬理作用の観点では、片方の性で強めに薬効が発現する例として、塩酸ピオグリタゾン、トリアゾラム、SSRIなどは男性に比べて女性で強く現れる。さらに、薬剤性肝障害やアレルギー性皮膚炎も女性に多い。これらの要因には、性ホルモンや免疫機能あるいはセロトニンなどの受容体の性差が関与することが明らかにされつつある。 性差は加齢によって変動する場合もある。加齢による性ホルモン分泌量や生理機能変化の影響は考慮が必要である。動物種間で性差の出方も異なる。どのような人(動物)を対象に、いつ何で観察された事象であるのかも含めて、情報を整理する必要がある。本発表では、薬物動態や代謝に性差の見られる医薬品について、最近の知見も含めて紹介する。
著者
今井 則夫 河部 真弓 土井 悠子 中島 弘尚 小川 三由紀 古川 文夫 白井 智之
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第37回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.330, 2010 (Released:2010-08-18)

【目的】現在,あるいは将来,携帯電話などから発生する電波により,人が多世代にわたってばく露されることは明らかである。しかし 電波の多世代のばく露試験はこれまでに報告がされていない。そこで,携帯電話で用いられている2GHz帯電波を妊娠期から授乳期, 離乳後のラットに多世代にわたって全身ばく露し,脳の発達及び機能への影響について検討した。【方法】ばく露箱内の照射用ケージに ラットを入れ,ばく露箱内上部に直交させたダイポールアンテナで,周波数2.14GHz,W-CDMA方式の電波をばく露した。ばく露は 1日20時間を妊娠動物の妊娠7日目から分娩21日目まで,さらに児動物が6週齢に至るまで行い,これを3世代にわたって実施した。照 射レベルとしては全身平均SAR(Specific absorption rate)が0 W/kg(対照群),0.08 W/kg(低ばく露群)及び0.4 W/kg(高ばく露群) の3段階を設けた。児動物は,ばく露終了後に脳への影響を確認するために行動機能(オープンフィールド検査)及び学習・記憶テスト (モーリス水迷路検査)を実施した。その他の検査項目として,体重,摂餌量,妊娠期間,着床痕数,産児数,出産児数,死亡児数,反 応性検査(痛覚反応,平面正向反射,背地走性,空中正向反射,耳介反射,聴覚反射,瞳孔反射,角膜反射),生殖能(性周期,交尾所 要日数,交尾率,受胎率),器官重量及び脳の病理組織学的検査についても実施した。【結果】ばく露期間中,あるいはその後の検査期 間中を通して,体重,摂餌量に電波ばく露の影響はみられず,生殖器能,反応性検査,オープンフィールド検査,モーリス水迷路検査, 器官重量及び脳の病理組織学的検査のいずれに対しても,電波ばく露による影響はみられなかった。【結論】SD系雄ラットに2GHz帯電 波を3世代にわたって,妊娠期から授乳期,離乳後のラットに全身ばく露させた結果,電波ばく露の影響と考えられる変化はみられなかっ たことから,電波ばく露による脳の発達及び機能への影響はないと判断した。(なおこの研究は生体電磁環境研究推進委員会(総務省) の支援によって,また藤原修(名工大),王建青(名工大),渡辺聡一(情報通信機構),和氣加奈子(情報通信機構)との共同研究で実施した。)
著者
西谷 春香 水野 洋 円城寺 克也 則武 健一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.47, pp.P-175, 2020

<p>【Introduction】We compared body temperature (BT) in non-rodents between a temperature-sensing microchip (IPTT-300, BMDS) and traditional rectal thermometer (RT) or telemetry devices. We also compared the BT changes in several implantation sites to seek the optimal implantation site for microchips.</p><p>【Methods】Microchips were implanted subcutaneously at 3 sites (chest, thigh, and interscapular region) in telemetered monkeys (4 males), and at 3 sites (chest, neck, and interscapular region) in dogs (2 males and 2 females). Animals were dosed intramuscularly with medetomidine (α2 adrenergic agonist) at 0.15 mg/kg (monkeys) and 0.2 mg/kg (dogs) , and BT was measured predose and at 15 min intervals postdose until recovery using the microchips, RT, and telemetry devices (monkeys only).</p><p>【Results】All three methods recorded decreases in BTs with medetomidine. In monkeys, The interscapular microchips BTs were similar to the rectal and telemetry temperatures, and other 2 sites were lower than them. In dogs, there were no clear differences in BTs in the 3 sites, and degree of changes in BT by microchips was similar to the RT.</p><p>【Conclusion】Microchips are useful tools for BT measurement. The advantage of microchips include that there are quick and less invasive compared to a RT. The best implantation site of microchips was interscapular subcutis in both dogs and monkeys.</p>