著者
中村 一美 樹野 淳也 米原 牧子 竹原 伸 山田 康枝
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.2003181, 2013 (Released:2013-08-14)

【目的】交通環境では排気ガスをはじめとする悪臭物質が自動車室内へと流れ込んでいる.そこで本研究では自動車の空調システムにおいて異臭原因物質の主成分であるプロピオン酸,吉草酸,酪酸に着目し,各物質がマウスの自発運動能におよぼす影響を調べた.また,定量的な評価をおこなうため,各物質の投与方法は腹腔内への注射による投与とした.【方法】本研究には18週齢のC57BL雄性マウス24匹を用いた.全てのマウスに対し,自発運動能測定システム(Wheel Manager, MED Associates Inc.)を用いて回し車(直径10.9cm)の回転数を60分間測定し,controlデータとした.次に24匹のマウスを,注射の有無による影響を調べるためのリンゲル液投与群,悪臭物質による影響を調べるためのプロピオン酸(1µg/kg)投与群,吉草酸(1µg/kg)投与群,酪酸(0.5µg/kg)投与群の4群各6匹ずつに分けた.なお,4群のcontrolデータにおいて一元配置の分散分析をおこなった結果,各群の間に統計学的な有意差はなかった(P>0.05).各物質をそれぞれの群のマウスの腹腔内に投与し,controlデータと同様に自発運動能を60分間測定した.各物質の投与による統計学的有意差の検定にはウィルコクソンの符号順位和検定を用いた.【結果および考察】リンゲル液を投与した群では投与の有無による統計学的な有意差はなかった(P>0.05)ため,注射による腹腔内投与の影響はないと判断した.プロピオン酸,吉草酸,酪酸を投与した群では,controlデータと比較して回転数が減少した.とくに酪酸を投与した群においては,統計学的な有意差があった(P<0.05).本研究を通して,悪臭物質がマウスの自発運動能に影響をおよぼすことがわかった.以上のことから,ヒトにおいても悪臭物質は快/不快の感覚に影響を与えるだけではなく,運動能に影響を与える可能性が示唆された.
著者
二口 充 徐 結苟 井上 義之 高月 峰夫 津田 洋幸 酒々井 真澄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.39, pp.O-31, 2012

タイヤのゴム補強剤やプリンターのトナーとして使用されているカーボンブラックは、IARCではGroup2Bに分類され、長期に吸入曝露した場合、ヒトに対する発がん性が示唆されている。我々は、 ナノ材料吸入曝露肺発がんリスク短期評価法を開発し、カーボンナノチューブなどの肺内噴霧による肺発がんのリスク評価を行っている。これに関連して本研究では、カーボンブラック(Printex90)の吸入曝露による肺発がん性を検索した。6週齢の雌雄のF344ラットにそれぞれ0.2%DHPNを2週間飲水投与した後、氷砂糖溶液に分散させたカーボンブラックを第4週から第24週まで1週間に1回の割合で肺内に噴霧した。1回の噴霧は500ug/mlの用量で、それぞれ0.5mlをマイクロスプレイヤーを用いて行った。第24週で屠殺剖検し肺を病理組織学的に検索したところ、雌雄いずれも肺内ではリンパ球、好中球など炎症細胞浸潤は軽度であった。カーボンブラックを貪食した肺胞マクロファージの集簇像が多数観察された。マクロファージ周囲の肺胞上皮細胞は腫大し、マクロファージの周囲を取り囲むように肺胞過形成様の病変が観察された。この病変は、DHPNで誘発された肺胞過形成、肺腺腫および肺腺がんとは別の部位に観察された。DHPNで誘発された病変の平均発生個数は、カーボンブラックの肺内噴霧により有意に上昇しなかった。マクロファージ周囲の肺胞過形成様病変の平均発生個数はDHPN誘発肺病変の発生個数よりも多かった。また肺胞過形成様病変の発生個数は、DHPNの処置に関わらずほぼ同数であった。これらの結果から、マクロファージの周囲に発生した肺胞過形成様病変が腫瘍性病変であるかどうかが、カーボンブラックの肺内噴霧による肺発がん性の評価に重要であることが示唆された。
著者
田中 利男 島田 康人 西村 有平
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.S20-1, 2015

ゼブラフィッシュは、発生生物学のモデル動物として長い期間研究されてきましたが、最近15年間は特に創薬のすべてのプロセスに活用されるようになり、2008年以降ヨーロッパではラットを抜いてマウスに次ぐモデル生物になりました。ゼブラフィシュは、ヒトゲノムとの類似性、ゲノム編集の効率性、多産性、in vivoイメージングへの適合性、動物愛護管理法との調和性、ケミカルスクリーニングの最適性などから、創薬のあらゆるプロセスに活用され、欧米ではゼブラフィッシュの早期in vivoフェノタイプスクリーニング戦略により新しい医薬品開発が実現しています。さらに、ゼブラフィシュ創薬は、ターゲットバリデーション、前臨床薬効安全性スクリーニング、臨床個別化医療などにおける新しい脊椎動物モデルとして展開されています。たとえば、TALENやCRISPR/Casによるゲノム編集効率の高さは他の種を圧倒しており、世界的に多数の単一遺伝子疾患モデルが創生されております。さらに多彩な生活習慣病モデルも報告されており、病態機構解析だけではなく薬効スクリーニングがハイスループットで実現しています。我々は、ゼブラフィッシュの持つ薬効/安全性ケミカルスクリーニングや作用機構スクリーニングにおけるスループットをさらに増強するため、96、384、1536ウエルプレートシステムの構築とハイコンテンツフェノタイプイメージングへの統合を試みております。さらに、ヒト病態への外挿性を強化するために、ゲノムレベルにおけるヒト疾患遺伝子ノックインなどやヒト幹細胞移植などによるヒト化ゼブラフィッシュ創成に挑戦しています。さらに、ヒト臨床検体のゼブラフィッシュ移植後の治療薬感受性解析によるフェノミクスを基盤とする個別化医療への応用を試みております。これら最先端の次世代ゼブラフィッシュ創薬の国際的現状について報告し、近未来戦略を提案します。
著者
河原田 一司 是石 裕子 労 昕甜 上田 忠佳 住田 能弘 大津 見枝子 明石 英雄 出澤 真理 Luc GAILHOUSTE 落谷 孝広
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第42回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-202, 2015 (Released:2015-08-03)

【背景/目的】近年、ヒト初代肝細胞に替わる細胞として、多能性幹細胞から分化誘導・成熟化した肝細胞の利用が検討されている。我々は、間葉系組織に存在する多能性幹細胞「Muse細胞」に注目し、効率的な肝前駆細胞への分化誘導法を検討した。一方、我々はこれまでに、肝臓の成熟過程に関与するmicroRNAを網羅的に解析した結果、microRNA-148a(miR-148a)が肝細胞の成熟化を促進することを明らかにしている。そこで、Muse細胞を肝前駆細胞へ分化誘導し、得られた肝前駆細胞にmiR-148aを作用させ、肝細胞の成熟化を試みた。【方法】ヒト骨髄由来間葉系細胞からSSEA3陽性のMuse細胞を単離した。Muse細胞に発現する遺伝子Xを抑制し、分化誘導因子と組み合わせ肝前駆細胞への分化誘導を試みた。次に、分化誘導した肝前駆細胞にmiR-148aを作用させ成熟化させた。Muse細胞由来肝細胞にCYP酵素誘導剤を添加し、酵素誘導能を評価した。【結果】Muse細胞に発現する遺伝子Xを抑制することで、AFP、ALB、CK18、CK19陽性の肝前駆細胞への分化誘導を確認した。また、Muse細胞由来肝前駆細胞にmiR-148aを作用させることにより、肝特異的遺伝子の発現量は上昇し、miR-148aによる成熟化の促進を認めた。以上の結果から、肝細胞を誘導する出発の幹細胞として、Muse細胞の有用性が示唆された。今後は、フェノバルビタールやリファンピシンによるCYP2B6やCYP3A4誘導能のデータを得ることで肝毒性・薬物動態評価系への応用性を検討する予定である。
著者
坂本 雄
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.44, pp.S12-5, 2017

非臨床安全性評価に関する研究成果の蓄積や、非臨床及び臨床安全性に関する種々のガイドラインの策定がなされてもなお、臨床試験の実施中又は製造販売後に、安全性上の問題により開発又は製造販売の中止を余儀なくされる医薬品は依然として存在する。このことは、当該医薬品の投与を受ける被験者/患者に対し忍容できない危害をもたらす可能性がある点で重大な問題であるだけでなく、当該医薬品の開発者にとっての予期せぬ開発又は販売中止のリスクとしても軽視できない。安全性上のシグナルを非臨床試験の段階で検出することができれば、あらかじめヒトでの安全性の確保を考慮した適切な用量の設定、又は開発中止の決断に資することができる可能性がある。<br> 現在、医薬品開発で汎用されている安全性バイオマーカーであっても、感度及び特異性の点で課題を有するものがある。加えて、適当な安全性バイオマーカーがまったく確立していない組織又は臓器も存在する。したがって、新たな安全性バイオマーカーの研究開発は、将来的なヒトへの応用という展望も含めて、医薬品開発の成功確率や公衆衛生の向上へ寄与しうる重要な領域であると考える。本発表では、非臨床試験で認められた所見に関して確立されたバイオマーカーがなく、所見の意義及びヒトへの外挿性が論点となった審査事例を紹介するとともに、バイオマーカーを医薬品開発における意思決定の根拠として使用するに際しての留意点について議論する。さらに、バイオマーカー評価のための医薬品医療機器総合機構(PMDA)の体制を紹介し、新たな安全性バイオマーカーの研究開発に対する期待を述べたい。
著者
高橋 統一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第45回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S4-2, 2018 (Released:2018-08-10)

非臨床毒性試験に用いられる正常実験動物と,実際に薬剤を服用するヒトでの薬剤(化学物質)への反応性の違いは数多く報告され,このような違いが生じる大きな要因として薬剤を服用するヒトの個体差(人種・性別・年齢・生活環境・生活習慣・疾患の有無など)が報告されている。これらのヒトにおける個体差のうち,非臨床毒性試験で評価・対応可能な要素として生活習慣(疾患の素因)や病態(化学物質誘発あるいは自然発症病態モデル動物)があり,多くの研究者がヒトの病態に類似した実験動物を作出して化学物質の安全性や毒性発現機作を調べている。これらの研究で判明した知見,すなわち正常実験動物と病態モデル動物の化学物質への反応性の違いやその理由を,新たな薬剤の開発のために実施される非臨床毒性評価に生かす努力がなされているが,選択する病態モデル動物によって同一薬剤でも異なる結果が得られる等,病態モデル動物を利用した毒性試験の評価系確立には,さらに知見の収集や解析が必要と考えられる。このような背景から,我々はヒトの糖尿病と表現型が類似したSDTラットやSDT fattyラットを安全性評価に用いる試みを続けている。SDT fatty(SDT.Cg-Leprfa/JttJcl)ラットはSDTラット(自然発症の非肥満2型糖尿病モデル)に肥満遺伝子Leprfaを導入した肥満2型糖尿病モデル動物である。SDT fattyラットの糖尿病性合併症やその病態プロファイルは特に慢性病態において他の糖尿病モデルラットよりもヒトの病態に類似性が高いことが報告されている。さらに,SDT fattyラットでは糖尿病発症による栄養学的な修飾により,正常動物と比較し薬物代謝も異なる可能性があり,糖尿病に関連した研究に最適な病態モデル動物の1つであると考えている。我々はこれまでにいくつかの薬剤や化学物質について肝臓を中心に病態モデル動物における毒性修飾を調べており,これらの結果は非臨床安全性評価の向上に寄与するものと考える。
著者
金丸 千沙子 竹藤 順子 片桐 龍一 河野 健太 竹本 竜志 三浦 幸仁 池上 仁 千葉 修一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.42, pp.P-233, 2015

【背景・目的】近年、イヌをはじめとする社会生活を営む動物は、動物福祉向上の観点から複数頭で群飼育することが求められるようになっており、より生態に近い飼育環境へ改善することで、精度・再現性の高い実験となることが期待されている。一方で、群飼育下での安全性試験の実施は、動物同士の接触、干渉などが毒性評価へ影響を及ぼす懸念があるほか、飼育器材の改良も必要となり、わが国におけるGLP試験での実施例はまだ多くない。今回我々は、群飼育下でイヌにおける13週間反復投与試験を実施し、良好な成績を得ると共に、今後の課題を抽出したので紹介する。【方法】入手時8~9カ月齢のビーグル犬を2~3頭のグループで飼育した。通常の個別飼育ケージ(W 900×D 900×H 1590 mm)の両側面を開閉式に改良し、複数ケージを連結できるものを使用した。単飼育は投与、給餌、尿検査、心電図検査並びに獣医学的ケアの観点から必要と判断された場合に限定し、その他の期間は群飼育とした。群分けでは、馴化期間中のグループは考慮せず、個別の体重値に基づく層別割付を行った。層別割付後に同一投与群内で2~3匹の新たなグループを作成し、相性確認で問題がないことが確認された場合にグループ成立とした。【結果】群分けにおいて、新たなグループは全て成立した。各種検査項目には単飼育時との明らかな差は認められなかった。ケージ症状の観察では、個体の特定の可否を明確に記録することで、単飼育時との検出感度の差を最小限にとどめることができた。なお、雄の1グループで投与9週目に闘争による負傷が発生し、それ以降は単飼育としたが、その他のグループでは問題は認められなかった。【結論】本実験条件下では、既に単飼育で実施した短期間投与の試験成績と大きな齟齬は生じなかった。今後、住環境の改善など更なる動物実験における福祉向上を目指すと共に、リソースの有効活用も追求していく必要があると考えられる。
著者
井上 達志 菰田 俊一 千葉 絵理
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第36回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.3022, 2009 (Released:2009-07-17)

メラミンおよびシアヌル酸は単独では毒性は低いが、両者が体内に同時に存在すると毒性が高くなる可能性がある。そこで、マウスにメラミン(M)およびシアヌル酸(C)の単独、等量交互、等量混合の経口連続強制投与試験を行い、メラミンとシアヌル酸の相互作用による急性毒性について検討した。 C3N/HeNマウス20頭を対照区、M単独区、C単独区、MC交互区およびMC混合区に分け(n=4)代謝装置内で単飼した。それぞれの日投与量はいずれの区も合計12mg(300mg/kgbw)を生食1.2mlに懸濁させ(対照区は生食のみ)、11時から2時間おきに4回に分け7日間連続行った。これらの投与前後の2時間は絶食絶水とした。摂水量と排尿量は対照区、M単独区およびC単独区では大差なかったが、MC混合区では対照区の約2倍量となり(p<0.05)、MC交互区では1日後の量は多かったものの、その後急激に低下し4日後ではほぼ尿閉となった。また、MC交互区および混合区では腎重量が対照区、M単独区およびC単独区に比べ有意に重く(p<0.05)、BUNでは405mg/dlと、MC混合区の147 mg/dlあるいは正常範囲以内の他区に比べて上昇していた(p<0.01)。同様にCREではMC交互区が2.60 mg/dl、MC混合区が1.08 mg/dlと他区に比べて高く(p<0.01)、これらの区においては腎不全が示唆された。肝重量では全区とも大差なかったが、GOTはMC交互区では181U/Lと他区に比べ軽度の上昇が見られた(p<0.05)。また、腎組織像では、M単独区およびC単独区では正常であったが、MC交互区およびMC混合区では組織の壊死が認められ、MC混合区ではより高度であった。さらに、これらの区では組織内に茶褐色のメラミンシアヌレートと考えられる結晶の散在が認められ、これらは蛍光顕微鏡下では緑色蛍光として観察された。
著者
小野寺 博志 佐神 文郎
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.33, pp.44, 2006

「有用で安全な医薬品をより早く必要とする患者さんに届ける」ことは創薬に携わるヒトの目的でもあり使命と考える。新薬を開発する過程で初めてヒトに投与する場合に重要なのは安全性の確保である。そのために必要な非臨床試験の種類や実施時期については種々のガイドラインや通知がなされている。しかしながらそれらガイドラインは時代と共に改訂や追加を行っているが現在の全ての医薬品について有用な情報を得るには限度がある。特に新しい科学や技術で開発された、あるは今後開発されるであろう医薬品については問題が多い。本ワークショップでは始めに現行のガイドラインや通知の目的や内容が、安全性を確認する試験としての要点を述べる。続いて安全性を評価している立場からガイドラインに沿って行われた非臨床毒性試験で実際に問題となる事例や必要な情報とは何かについて考えてみたい。もちろん共通の考え方も含まれるが、全ての医薬品に適応するとは限らず現時点ではCase by case で対応することになる。<BR> 実際に新しい科学・技術を駆使した医薬品の開発を行っている立場から現在の状況と今後の動向について中澤先生から紹介いただき問題点や方向性を考えてみたい。川西先生からは今後主流となると思われるバイオ医薬品について研究サイドからの新しい生体メカニズムの発見や解析が創薬、毒性以外からの安全性評価について紹介いただきます。続いて小野先生からは医薬品の直接の毒性学とは違った方向から医薬品の安全性についての現状や考え方についてお話いただけると思います。<BR> 結論を出すのは困難ですが、今後の新しい医薬品の非臨床安全性評価のあり方について問題提起する場としたい。
著者
梅村 隆志
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.2032, 2013 (Released:2013-08-14)

「遺伝毒性発がん物質にはその作用に閾値が存在しない」という概念は,DNA塩基修飾の定量解析やin vivo変異原性試験の進歩に伴い,科学的観点からは否定的な傾向にあるものの,リスク評価の実際では,この概念に基づいた考え方から無毒性量(NOAEL)は設定できないとされている。従って,食品添加物などの意図的な食品中化学物質では,その際に使用を禁ずる処置などで対応できるが,食品製造過程で生じてくる化学物質や汚染物質などの非意図的食品中化学物質の場合,その含量をゼロにすることは困難であり,また,食品添加物においてもその製造過程等で生じる副生成物などがそれに該当する場合など,NOAELが設定できない遺伝毒性発がん物質へのリスクマネージメントが求められている。そのような背景の中で,1995年に国際保健機関(WHO)・国連食糧農業機関(FAO)合同食品添加物専門家会議(JECFA)はアクリルアミドに対して,ベンチマークドーズ(BMD)を用いた暴露マージン(MOE)アプローチを実施した。現在この方法は,他の国際機関においても追随され,我が国唯一の食品安全のリスク評価機関である食品安全委員会においてもその使用が検討されている。具体的には,実験動物を用いた発がん性試験の用量反応曲線から求められるBMD(通常は95%信頼限界からのBMDL)と当該物質の推定ばく露量との差を求めていくと言うものである。本シンポジウムでは,これまで6年間にわたり参加しているJECFA会議での実例を紹介しながら,MOEアプローチの問題点を議論したい。また,JECFAのみならず,食品安全委員会でもすでに実施しているMOEをその評価手順に組み込んだ香料の安全性評価(この場合はBMDLではなくNOAEL)について概略し,香料評価の際の遺伝毒性発がん物質への対応,また,その算出の際に最も重要な推定ばく露量の考え方等についても,併せて紹介していきたい。
著者
福山 朋季 渡部 優子 田島 均 田食 里沙子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第46回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S14-3, 2019 (Released:2019-07-10)

外来性エストロゲンは免疫機能に影響を及ぼす事が知られており、我々はこれまでに、幼若期の外来性エストロゲン曝露が成熟期のアレルギー病態を悪化させる事を証明した。しかし、外来性エストロゲンに関するこれまでの動物実験の報告は、胎児期ないし幼若期にエストロゲンを曝露し、休薬期間後の成熟期におけるアレルギー病態の増悪しか見ておらず、エストロゲン曝露とアレルギー病態増悪の直接的な因果関係は不明である。本発表では、我々が調査したエストロゲン曝露とアレルギー病態増悪の直接的な因果関係について概要を紹介する。In vivo実験では、Th2型ハプテン誘発皮膚ないし気道アレルギー炎症モデルのアレルギー惹起直前にPPT (エストロゲン受容体α (ERα) アゴニスト) およびDPN (ERβアゴニスト) を経口投与し、惹起後の皮膚ないし肺の炎症、痒み反応さらに各標的組織における免疫担当細胞数と炎症性サイトカイン産生量を測定した。In vitro実験では、ヒト角化細胞およびヒト気道上皮由来細胞株にPPTおよびDPNを24時間曝露し、免疫刺激後の炎症性サイトカイン産生量を測定した。結果、皮膚アレルギーモデルでは、皮膚の炎症反応および痒み反応がPPT曝露のみで増加したのに対し、気道アレルギーモデルでは、肺の炎症反応がPPTおよびDPNのいずれの曝露によっても増加した。TSLPやIL-33といった炎症性サイトカインも、皮膚アレルギーモデルではPPT曝露によってのみ増加したのに対し、気道アレルギーモデルではPPTおよびDPN曝露のいずれによっても増加した。In vitro実験においても、ヒト角化細胞はPPT曝露のみで炎症性サイトカイン産生量が上昇したのに対し、ヒト気道上皮細胞ではPPTおよびDPNいずれの曝露によっても炎症性サイトカイン産生量が増加した。以上の結果は、エストロゲン曝露がアレルギー病態悪化に直接的に寄与している事を証明していると同時に、皮膚アレルギーおよび気道アレルギーでは、依存するエストロゲン受容体が異なる可能性が示唆された。
著者
あべ松 昌彦 Hsieh Jenny Gage Fred H. 河野 憲二 中島 欽一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第35回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.41, 2008 (Released:2008-06-25)

遺伝子発現はクロマチンを構成するヒストンのアセチル化や脱アセチル化によってそれぞれ正、負に精妙に制御されている。我々はヒストン脱アセチル化酵素阻害剤により神経幹細胞内のヒストンアセチル化状態を亢進させ、それが分化に及ぼす影響を検討した。実験には長らく抗癲癇薬として利用され最近ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤としての活性が明らかにされたバルプロ酸を使用した。その結果、バルプロ酸による神経幹細胞の劇的なニューロン分化促進が観察された。さらに神経幹細胞の分化をグリア細胞(アストロサイト及びオリゴデンドロサイト)へと向かわせる培養条件下においてもバルプロ酸はグリア細胞分化を阻害しつつニューロン分化を促進できることが分かった。ところで、損傷脊髄などでは神経幹細胞からアストロサイトへの分化を誘導するIL-6を含めた炎症性サイトカインの高発現が誘導される。そのため内在性及び移植神経幹細胞のほとんどがアストロサイトへと分化してしまい、結果としてグリア性瘢痕を形成することで、ニューロン新生や軸索伸長が妨げられてしまうという問題点が明らかとなっている。そこで我々は「アストロサイト分化を抑制し、ニューロン分化を促進できる」というバルプロ酸の作用に着目した。そこで、脊髄損傷モデルマウスにバルプロ酸処理した神経幹細胞を移植したところ、通常はほとんど見られないニューロンへの分化が観察され、また非移植対照に比して顕著な下枝機能回復が見られた。以上の結果は、抗てんかん薬バルプロ酸の新たな用途として、損傷神経機能回復へと応用できる可能性を示唆している。
著者
平澤 由貴 倉田 昌明 中島 実千代 坂本 憲吾 小田部 耕二 佐藤 伸一 野村 護
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.38, pp.20157, 2011

【目的】一般毒性試験における血液凝固系検査では,血小板数,PT,APTT及びフィブリノーゲン(Fbg)がルーチンに測定されるが,これらの項目だけでは血小板機能や線溶系の異常は検出できない.薬物の血液凝固系への統合的な評価には,これらの測定を補足する必要がある.今回,ヒトに類似する実験動物であるカニクイザルについて,血小板機能検査である血小板凝集能,また血管異常も含め凝固異常を総合的に評価できる出血時間,FDPについて測定したので報告する.また,ルーチン項目に関し,産地間差(フィリピン,中国,ベトナム,インドネシア)も含め基礎的に検討した.【方法】(1)出血時間:市販の注射針を一定の深さに穿刺できるように加工して,穿刺器具とした.無麻酔下で尾背部を穿刺部位とした.湧出血を一定間隔で濾紙に吸い取り,吸着血痕が1mm以下となった時間をエンドポイントの出血時間とした.(2)血小板凝集能:無麻酔下に大腿静脈からクエン酸加採血し,遠心分離(200×g)して多血小板血漿(PRP)を分取し,さらに遠心分離(2000×g)し乏血小板血漿(PPP)を分取した.PRPの血小板数が約35×10<SUP>4</SUP>/μLになるようにPPPで希釈調製した.凝集誘発剤はADP 5,20 μmol/L及びコラーゲン3 μg/mL(いずれも最終濃度)を用い,光透過法により凝集率を測定した.(3)その他のルーチン項目(血小板数,PT,APTT,Fbg)は自動分析装置,FDPは用手法にて測定した.【結果】(1)出血時間:出血時間は1~3.5分であった.2回の繰返し穿刺でも出血時間に差はなかった.今回の方法では,穿刺傷は小さく出血量も限られており,生体に対する侵襲性は小さいと考えられた.(2)血小板凝集能:最大凝集率はADP 5 μmol/Lで約63%,ADP 20 μmol/Lで約75%,コラーゲン3 μg/mLで約75%あった.また,ADP 20 μmol/Lで誘発した凝集の日内と日差変動に大きな変動はなかった.(3)血小板数,PT及びAPTTに産地による大きな違いはみられなかった.【結論】ルーチンの血液凝固系検査項目に加えて,血小板凝集能(ADP,コラーゲン凝集)及び出血時間について基礎的なデータを得ることができた.これらの検査は侵襲性が小さく,さらに線溶系検査を組み合わせることで,一般毒性試験でより詳細かつ統合的な血液凝固異常の評価が可能である.
著者
長澤 孝真 田中 裕有 関本 征史 根本 清光 出川 雅邦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第39回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-162, 2012 (Released:2012-11-24)

【目的】CYP3A4遺伝子の発現はプレグナン X受容体(PXR)やビタミン D受容体(VDR)により、それぞれ正の制御を受けることが報告されている。しかし、CYP3A4遺伝子発現におけるこれら受容体の相互作用については未だ明確にされていない。最近、我々はPXRやVDRの活性化を介してLuciferaseを発現するHepG2由来レポーター細胞株(HPL-A3)の樹立に成功した。そこで、本研究では樹立したHPL-A3株を用い、PXR活性化剤とVDR活性化剤のそれぞれ単独、あるいは複合処理によるCYP3A4遺伝子発現への影響を検討した。【方法】PXR活性化剤としてRifampicin(RIF)を、また、VDR活性化剤として1,25-dimehydroxyvitamin D3(VD3)を用いた。HPL-A3細胞に対し、RIF(1 µM)とVD3(0.1 µM)をそれぞれ単独あるいは複合処理し、PXR/VDR活性化(CYP3A4プロモーター活性化能)への影響をLuciferase assayおよびReal time RT-PCR法を用いて測定した。【結果】RIF単独処理では72時間まで経時的に、またVD3の単独処理では24時間をピークとして、LuciferaseおよびCYP3A4遺伝子の有意な発現誘導が観察された。また、これら発現量はRIFとVD3を24時間複合処理することで相加的に増加した。【考察】以上の結果より、PXRリガンドとVDRリガンドの複合暴露により、CYP3A4プロモーター活性化が相加的に増強されることが明らかとなった。CYP3A4酵素は異物(医薬品を含む)の代謝に関わる主要酵素であり、その発現変動は異物の薬効・毒性発現に大きな影響をもたらす。したがって、適切な薬物治療や人の健康維持(異物の安全性・毒性評価)を考える上で、環境化学物質(医薬品を含む)のPXR活性化能やVDR活性化能について検索・評価し、さらに、その相互作用についても考慮することが重要であると考えられた。
著者
畑 竜也 宮田 昌明 吉成 浩一 山添 康
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第38回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.20018, 2011 (Released:2011-08-11)

胆汁酸の肝内濃度上昇は細胞を障害し、肝障害を誘起する。このため、肝内の胆汁酸レベルは厳密に制御されている。肝内胆汁酸レベルは、肝臓におけるコレステロールからの胆汁酸の合成調節によって維持されている。近年、胆汁酸合成を抑制する因子として、回腸で発現するfibroblast growth factor (FGF) 15/19が注目されている。最近当研究室では、マウスへの抗菌薬投与時に認められる肝内胆汁酸レベルの上昇に、ヒトFGF19の相同分子種であるFGF15の発現低下が関与することを明らかにした。FGF15/19の発現は胆汁酸によって調節されると考えられているが、転写レベルの発現調節の機序に関しては不明な点が多い。そこで、本研究では、胆汁酸による転写レベルのヒトFGF19の発現調節を検討した。FGF19遺伝子のプロモーター領域約9 kbを含むレポーターコンストラクトを作製し、ヒト結腸がん由来LS174T細胞を用いてレポーターアッセイを行った。ヒトの主要胆汁酸のchenodeoxycholic acid (CDCA)を単独処置した時、コントロール群に比べて明確な応答が見られなかったが、同時に胆汁酸をリガンドとする核内受容体のfarnesoid X receptor (FXR)を細胞に発現させると、CDCA処置時に応答が見られた。次に、約9 kbのプロモーター領域を段階的に欠失させ、応答を解析したところ、複数の胆汁酸/FXR応答領域の存在が示唆された。また、ゲルシフトアッセイによりFXRの結合が確認された。さらに、本研究で見いだした胆汁酸/FXR応答領域とこれまでに報告されているFGF19遺伝子の第2イントロン上のFXR結合配列が胆汁酸によるFGF19遺伝子の転写活性化に対しどの程度寄与しているかレポーターアッセイにより検討した。その結果、本研究で見いだした胆汁酸/FXR応答領域を含むプロモーター領域のコンストラクトではCDCA/FXRで約8倍、第2イントロンを含むコンストラクトでは約4倍活性が上昇した。さらに、両コンストラクトを同時につなげた時は約16倍活性が上昇し、相乗的な作用が見られた。以上の結果より、胆汁酸はFXRを活性化し、第2イントロンのFXR結合配列のみならずプロモーター領域の複数のFXR応答領域を介して相乗的にFGF19遺伝子の転写を亢進している可能性が示された。
著者
首藤 康文 福山 朋季 藤江 秀彰 小嶋 五百合 富田 真理子 小坂 忠司 原田 孝則
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
vol.36, pp.4151, 2009

パラチオン(P)とメタミドホス(M)、2種の有機リン剤を2週間にわたり雌性ラットに反復経口投与し、一般毒性、神経毒性および免疫毒性関連項目を指標に複合曝露影響を検索した。<BR>供試動物:8 週齢のWistar Hannover系雌ラット 8匹/群<BR>実験群:溶媒対照群(コーンオイルと1% Tween80の1:1混合乳化液)、パラチオン単剤投与群(P0.6 mg/kg)、メタミドホス単剤投与群(M0.8 mg/kg)、複合投与群(P0.6 mg/kg+M0.2 mg/kg、P0.6 mg/kg+M0.4 mg/kg、P0.6 mg/kg+M0.8 mg/kg)の計6群<BR>投与方法:胃ゾンデを用いた14日間反復強制経口投与<BR>検査項目:一般毒性(体重、一般状態、血液・生化学的検査)、神経毒性(神経症状、瞳孔径、自発運動量、高架式十字迷路検査、脳重量、血漿および脳コリンエステラーゼ(ChE)活性測定)および免疫毒性関連項目(胸腺の細胞数測定およびフローサイトメータを用いたリンパ球サブセット解析)<BR>結果・考察:一般毒性指標および免疫毒性指標に変化は認められなかった。神経毒性学的検査では、複合曝露によってChE活性阻害作用の増強、有機リン剤曝露における鋭敏な臨床指標である縮瞳の重篤化などの神経作用が強く認められた。また、末梢神経性の症状は速やかに、中枢性の症状はやや遅れて発現する傾向が認められた。さらに、自発運動量の測定結果から、ChE活性阻害による運動量低下と認知機能低下による運動量増加の、相反する作用が混在している可能性が考えられた。認知機能低下については、症状観察において警戒性低下が認められたことおよび高架式十字迷路検査において開架/閉架間の移動回数が減少していたことから、複合曝露による注意力あるいは作業空間記憶への影響が疑われた。(平成20年度 厚生労働省科学研究事業)
著者
新見 伸吾
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第40回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.2041, 2013 (Released:2013-08-14)

これまでに多くのバイオ医薬品が医療の現場に提供され,患者が恩恵を受けているが,有効性及び安全性の観点から世界的に最も問題となっているのが免疫原性である。一般的に,抗原が抗体の産生や細胞性免疫を誘導する性質を免疫原性と呼ぶが,バイオ医薬品の場合は,バイオ医薬品に対して抗体が産生されることを指す。 免疫原性の予測方法として使用頻度の高いのは,T細胞エピトープのin silico予測方法とT細胞を用いたアッセイである。T細胞反応の検出は,通常,ヒト由来の抗原提示細胞とT細胞存在下において,バイオ医薬品あるいはそのペプチドを添加し,T細胞の増殖あるいはサイトカインの遊離を測定することにより行なう。 臨床において免疫原性の主な原因として問題となっているのは,IFN-β等における凝集体,抗体医薬品における特に相補性決定領域のマウス及びヒト由来配列及び酵素補充療法における内在的な酵素欠損による異種タンパク質としての認識である。 産生された抗体は,バイオ医薬品のクリアランスの増加あるいは機能の中和により有効性を低下させる場合があるが,影響を及ぼさない場合もある。また,安全性についてはⅠ型アレルギー,Ⅲ型アレルギー,インフュージョン反応を起こす可能性がある。バイオ医薬品の免疫原性軽減戦略としては,methotrexateのような免疫抑制剤の投与,IVIG (intravenous injection of immunoglobulin)によるレギュラトリーT細胞の誘導,バイオ医薬品投与量の増加により免疫寛容の誘導等が考えられる。 本講演では上記について具体例を示し,免疫原性予測法の現状と問題点,臨床における免疫原性評価のポイント,免疫原性軽減戦略の現状と問題点について考察したい。
著者
坂井 祐子 岡田 晃宜 廣田 里香 松尾 成喜 伊藤 伸 藤原 道夫
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第36回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.4032, 2009 (Released:2009-07-17)

【緒言】本研究では,心拍数増加作用を有するbetaアドレナリン受容体作動薬であるisoproterenol(ISO)を用いて,ウサギ胎児への影響について検討した。また,選択的beta1アドレナリン受容体遮断薬であるmetoprolol(MET)の同時投与による心拍数増加抑制の影響について検討した。【方法】ニュージーランドホワイト種ウサギにISOの3から100mg/kg/dayを経口投与し,妊娠29日に帝王切開して胎児の形態検査(外表・内臓)を実施した。初回及び最終投与時には,血漿中ISO濃度及び母体心拍数を経時的に測定した。次に,ISOの50mg/kg/dayに加えてMETを同時投与し,母体心拍測定と胎児の形態検査(外表・内臓)を実施した。【結果】血漿中ISO濃度及び母体心拍数は投与量依存的に増加し,胎児の形態検査では大動脈弓拡張の発現頻度が増加した。MET同時投与によりISOによる母体の心拍数増加は抑制され,同時に胎児の大動脈弓拡張の発現頻度も低下した。【結論】本研究により,beta受容体作働薬によるウサギ胎児の大動脈弓拡張作用が確認された。本作用は,選択的beta1遮断薬の同時投与により抑制されたことから,化合物自体が有する催奇形性によるものではなく,心拍数増加と関連した二次的な機能的変化である可能性が示唆された。今後,胎児心拍数との関連性についても検討を加える予定である。
著者
Rafiqul Islam Promsuk Jutabha Arthit Chairoungdua 平田 拓 安西 尚彦 金井 好克 遠藤 仁
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本トキシコロジー学会学術年会 第32回日本トキシコロジー学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.36, 2005 (Released:2005-06-08)

アミノ酸輸送系B0は、中性アミノ酸の経上皮輸送を担当するトランスポーターであり、小腸及び腎近位尿細管の管腔側膜に存在するNa+依存性トランスポーターである。水俣病の起因物質であるメチル水銀は、生体内においてシステインと非酵素的に容易に反応し、メチオニンと類似構造をもつ化合物を生成するため、アミノ酸トランスポーターを介して吸収され、血液組織関門を通過すると考えられている。われわれはすでに、輸送系Lアミノ酸トランスポーターLAT1及びLAT2が、血液・脳関門、胎盤関門に存在し、メチル水銀輸送を媒介することを明らかにした。本研究は、メチル水銀の腸管吸収の分子機序を明らかにするために、最近同定された輸送系B0トランスポーターB0AT1をアフリカツメガエル卵母細胞に発現させ、メチル水銀輸送活性を検討した。B0AT1によるロイシンの取り込みは、メチル水銀-システイン抱合体により濃度依存的に抑制され、そのIC50値はアミノ酸輸送のKm値に比して有意に低く、B0AT1はメチル水銀-システイン抱合体を高親和性に受け入れることが明らかとなった。B0AT1によるメチル水銀-システイン抱合体輸送を確認する目的で、アフリカツメガエル卵母細胞に発現させたB0AT1において、14C-メチル水銀の輸送活性を測定した。その結果、14C-メチル水銀単独では輸送されないが、システイン存在下で14C-メチル水銀がB0AT1によって輸送されることが示された。このシステイン存在下でのメチル水銀のB0AT1を介する輸送は、B0を抑制するインヒビターであるBCH(2-aminobicyclo-(2,2,1)-heptane-2-carboxylic acid)により有意に抑制され、システイン存在下での14C-メチル水銀のB0AT1を介する輸送が確認された。本研究によりメチル水銀がシステイン抱合体としてB0AT1を介して小腸から吸収されることが示唆された。
著者
上田 泰己
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S14-1, 2016 (Released:2016-08-08)

2000年前後の大規模なゲノム配列決定を契機に分子から細胞への階層における生命科学・基礎医学研究が変革した。ゲノムに基づくシステム科学的アプローチは分子から細胞への階層の生命現象の理解に有効であるものの細胞から個体への階層の生命現象への応用は難しい。細胞から個体の階層におけるシステム科学的アプローチを実現するためには、細胞階層での基幹技術の確立が必要不可欠である。そこで我々は、成体組織を丸ごと透明化し1細胞解像度で観察できる技術の開発に取り組んだ。我々が開発したCUBIC法は、透明化が困難な血液を豊富に含む組織をアミノアルコールによる色素除去作用により透明化することで、マウス成体全身の透明化を世界で初めて実現することに成功した(Susaki et al, Cell, 2014, Tainaka et al, Cell, 2014)。我々は、CUBIC法の持つパフォーマンス・安全性・簡便性・再現性の高さをさらに生かすために、複数のサンプルを定量的に比較可能な計算科学的な手法の開発に取り組み、取得したイメージングデータを標準臓器画像に対してレジストレーションすることで、同一領域の細胞活動変化を直接比較する計算科学的な手法の開発にも成功している。全身や各種臓器を用いた全細胞解析は、細胞と個体の階層においてシステム科学的なアプローチを提供し、解剖学・生理学・薬理学・病理学などの医学の各分野に対して、今後の貢献が期待される。参考文献1. Ueda, H.R. et al, Nature 418, 534-539 (2002). 2. Ueda, H.R. et al, Nat. Genet. 37, 187-92 (2005).4. Ukai H. et al, Nat Cell Biol. 9, 1327-34 (2007).5. Ukai-Tadenuma M. et al, Nat Cell Biol. 10, 1154-63 (2008).6. Isojima Y. et al, PNAS 106, 15744-49 (2009).7. Ukai-Tadenuma M et al. Cell 144(2):268-81 (2011).8. Susaki et al. Cell, 157(3): 726–39, (2014). 9. Tainaka et al. Cell, 159(6):911-24(2014).10. Susaki et al. Nature Protocols, 10, 1709–27 (2015)11. Sunagawa et al, Cell Reports, 14(3):662-77 (2016)12. Susaki and Ueda, Cell Chemical Biology, 23, 137-57 (2016)