著者
黒田 有寿茂 石田 弘明 服部 保
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.159-167, 2011-11-30

水湿地に生育する絶滅危惧植物ツクシガヤ(イネ科)の保全に向け、その種子発芽特性と種子保存方法を明らかにするために数種の発芽試験を行った。段階温度法による試験の結果、本種は散布された段階では休眠状態にあり、休眠解除には2〜3週間程度の冷湿処理が必要であること、高温により二次休眠が誘導される性質をもつこと、発芽可能な温度域の下限は20℃付近にあることが示唆された。これらの結果から、本種の種子は秋季に散布された後、冬季に休眠解除され、春季に発芽していると考えられた。前処理の水分条件を変えた試験の結果、数ヶ月の冠水は種子の発芽能力に負の影響を及ぼさないこと、発芽時の水位条件を変えた試験の結果、数cmの冠水は種子の発芽を妨げないことがわかった。これらの水分・水位条件に対する性質は、頻繁に冠水する水湿地で定着するための有効な特性と考えられた。保存条件を変えた試験の結果、本種の種子の大部分は、遮光アルミパックへの抜気封入処理により、少なくとも3年は発芽能力を保持することが確認された。本種の保全に向けては、現存個体群の保護、生育立地の維持と共に、抜気封入処理による種子保存を補完的に進めていくことが有効といえる。
著者
内藤 和明 菊地 直樹 池田 啓
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.181-193, 2011-11-30
被引用文献数
1

2005年の豊岡盆地におけるコウノトリCiconia boycianaの放鳥に続き、2008年には佐渡でトキNipponia nipponが放鳥されるなど、絶滅危惧動物の再導入事業が国内で近年相次いで実施されるようになってきた。飼育下で増殖させた個体の野外への再導入事例は今後も増加していくことが予想される。本稿では、豊岡盆地におけるコウノトリの再導入について、計画の立案、予備調査、再導入の実施までの経過を紹介し、生態学だけでなく社会科学的な関わりも内包している再導入の意義について考察した。再導入に先立っては、IUCNのガイドラインに準拠したコウノトリ野生復帰推進計画が策定された。事前の準備として、かつての生息地利用を明らかにするコウノトリ目撃地図の作製、飛来した野生個体の観察による採餌場所の季節変化の把握、採餌場所における餌生物量の調査などが行われた。豊岡盆地では、水田や河川の自然再生事業と環境修復の取り組みが開始された。予め設定した基準により選抜され、野生馴化訓練を経た個体が2005年から順次放鳥され、2007年からは野外での巣立ちが見られるようになった。コウノトリは多様なハビタットで多様な生物を捕食しているので、再導入の成否は生物群集を再生することにかかっている。このことは、地域の生物多様性の保全を通じて生態系サービスを維持するという地域社会に共通の課題にも貢献することになる。
著者
山浦 悠一 天野 達也
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.261-276, 2010-07-31
被引用文献数
6

マクロ生態学は、大きな時空間スケールで生物の個体数・分布・多様性を扱う分野である。近年、人類が引き起こしている地球規模での環境変化が生物多様性に及ぼす影響が注目を集めるなか、マクロ生態学の重要性が認識されつつある。本稿では、まずマクロ生態学で扱われてきた課題とマクロ生態学の特徴を整理する。そして、マクロ生態学を発展させるための有望なアプローチの一つとして、生物の生態的特性の活用を挙げる。生態的特性とは、生物の形態的・生理的・表現的な特徴ことのを指し、生物の行動や環境への反応、資源(生息地)要求性、生態系内での機能、他の生物に及ぼす影響力なども含まれることもある。生態的特性を活用することにより、マクロスケールでの生物-環境の関係性の理解・予測が促進されるだろう。マクロ生態学の今後の課題として、局所生態学との統合や時間的視点の考慮などが挙げられるが、生態的特性の活用はこれら課題の解決に大きく貢献するだろう。人類が地球上で優占する現在、生物多様性を理解、予測、保全するうえで、マクロ生態学の更なる発展が望まれる。
著者
原 嘉彦
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.43-48, 1978-03-30
被引用文献数
1

A study was made on five species cellular slime mold-Dictyostelium mucoroides BREFELD, D. purpureum OLIVE, D. discoideum RAPER, Polysphondylium pallidum OLIVE and P. violaceum BREFELD-in the forest soil in the Tenryu Valley, Central Japan. D. mucoroides was the species to occur most frequently throughout the year ; next was P. pallidum, to be followed by D. purpreum and P. violaceum ; D. discoideum occurred least frequently of the five. D. mucoroides occurred most frequently in winter, about fifty percent over other seasons. D. purpreum showed the highest frequency in autumn and the lowest in summer, while P.pallidum showed the frequency as high as D. mucoroides in spring and autumn, but lower one in winter and summer. P. violaceum was most frequent in autumn and least in winter. On the average, cellular slime molds of five species showed an increase in autumn and spring, and a decrease in winter and summer.
著者
藤村 玲子 佐藤 嘉則 難波 謙二 太田 寛行
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.211-218, 2011-07-30
参考文献数
29
被引用文献数
2

森林をはじめとする植物-土壌生態系では、光合成による一次生産と微生物による有機物分解のバランスが成り立ち、豊かな生物相が維持されている。しかし、火山噴火というイベントはこの生態系を壊してリセットしてしまう。新たに生じた火山灰などの火山砕屑物や溶岩に住み始める生物は、肉眼では見えない微生物である。本稿では、三宅島2000年噴火火山灰堆積物に住みつく微生物について、2003年から6年間にわたって調査してきた結果を紹介する。まず、調査初年時に採取した火山灰堆積物の細菌密度の測定結果では、すでに1gあたり10^8の高いレベルに達していた。直接試料から抽出したDNAの16SリボソーマルRNA遺伝子を解析した結果は、Leptospirillum ferroxidansやAcidithiobacillus ferrooxidansといった独立栄養性の鉄酸化細菌が優占する細菌群集構造を示した。供試火山灰堆積物にはCO_2吸収活性があり、十分に高いニトロゲナーゼ活性も検出されており、これらの活性は鉄酸化細菌に由来することが推察された。2009年の調査においても、三宅島雄山上部の火山灰堆積物は酸性状態に維持され、鉄酸化細菌の優占が続き、化学合成無機独立栄養代謝が中心の微生物生態系であることが示唆された。以上の結果をもとに、火山灰堆積物に形成される微生物生態系のエネルギー代謝と初成土壌への有機・無機物質の蓄積について推察する。
著者
ハ木橋 勉 松井 哲哉 中谷 友樹 垰田 宏 田中 信行
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.85-94, 2003-08-25
被引用文献数
8

1.ブナ林とミズナラ林の分布の気候条件の関係を定量的に明らかにするために,日本全国の植生と気候値の3次(約1k?)メッシュデータを用いて分類樹による統計解析を行った。2.気候値には,それぞれの分布域の温度(暖かさの指数と最寒月最低気温)と降水量(暖候期降水量と寒候期降水量)を用いた。3.その結果,上記の気候値によってブナ林とミズナラ林の分布が約9割の確立で分類された。4.ブナ林は多雪地域に多く,最寒月最低気温が-12.45℃未満の冬の寒さの強い地域,暖候期降水量760.5mm未満の成長期の降水量の少ない地域,暖かさの指数73.95以上または,寒候期降水量が441.5mm未満n積雪が少ないと考えられる地域で分布が制限されていると考えられた。5.分類のための気候要因は,地域によって異なっており,従来から指摘されていた低温にかかわる要因,夏季の湿潤さ,積雪の寡多がかかわっていることを裏付けた。全国的には,これらが複合的に作用して分布が決定していることが明らかになった。
著者
渡辺 仁治
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, 1979-06
著者
藤井 伸二
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.57-69, 1999-06-25
被引用文献数
12

絶滅危惧植物の生育環境別の危険度を「高危険度率」(「絶滅」,「絶滅?」もしくは「絶滅寸前」と判定された種類数の合計がレッドリストの掲載種類数に占める割合を各生育環境別に算出したもの)にもとづいて考察した.その結果,水湿地環境と草地環境で高危険度率が高く,森林環境と岩石地環境で低いことが明らかになった.また,レッドリスト掲載種(亜種,変種等を含む)の多さと高危険度率は必ずしも一致せず,リスト種が多いからといってその環境に生育する植物がさらされている危険性が高いとは言えないことが確かめられた.今回検討したレッドデータブックの掲載種類数は,近畿版862種類,愛知県版350種類,神奈川県版432(シダ類の雑種を除く)種類であるが,このうち3〜4割は高危険度率が比較的低い森林性の種類であった.近畿地方についての分析からは,水湿地・草地環境の中でもとりわけ強い人為によって維持されてきた二次的自然環境(水田,水域,カヤ草地)での高危険度率が高いことが示された.これまでにもウェットランドや二次的自然の保全についての緊急性が訴えられてきたが,この二つの要素を持つ環境は「種の絶滅の危険性」という観点から危機的状態であることが確認された.
著者
安藤 滋 小笠原 昭夫
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.137-144, 1970-08-01

A Pale Thrush (Turdus pallidus, ♀, 82.0 grams) was netted, in the Heiwa Park, Nagoya City, on Jan. 3,1969. She was immediately released with a transmitter and then tracked for four days. The location was determined every 30 minutes from sunrise to sunset during the period, and the home range and the activity related to light intensity were studied as determined by telemetry. The results obtained were : 1. The area of the home range was about 100m×100m. 2. The location of the roost changed every night but it was always in clamps of a broadleaved tree. 3. The light intensities for her first movement in the early morning as well as for the last movement in the evening were almost the same every day. The former was lower than the latter. The transmitter used was 17.5×16.0×20.0 (mm) in size and 8.5 grams in weight. The frequency of the carrier wave was 50.2 MHz. The battery life was about 10 days. The receiver used was designed especially for this study.
著者
菊沢 喜八郎
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.189-203, 1986-12-31
被引用文献数
9

Existing literature on seasonal replacement in forest tree-leaves was reviewed from the viewpoints of phenology, leaf biomass, leaf fall, leaf survivorship-curves and defoliation by insects. Many of the investigations which had focused on phenological and leaf fall analyses were found to be inadequate to obtain accurate information about the life span of individual leaves. Life table analysis of leaves should be introduced into this type of investigation in order to construct an economic life table from a combination of life-tables with photosynthetic or respiratory activities. Leaf longevity is considered to be determined by the balancing of the cost of leaf construction, leaf maintenance, and the benefit or photosynthetic gain from the leaves. Therefore, leaf longevity is one adaptive strategy of plants to environmental conditions. The leaf survival strategy of pioneer species is characterized by long term leaf-emergence and short leaf-longevity, whereas tree species which are members of climax forests show simultaneous leaf-emergence and leaf-fall. Leaf longevity of forest-understory species is usually long. Leaf survival strategies are considered to have resulted from the evolutionary adaptive radiation of each species to various environments, accompanied by the evolution of morphological features such as shoot structure.
著者
丸井 英幹 山崎 俊哉 梅原 徹 黒崎 史平 小林 禧樹
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.173-182, 2004-12-25
参考文献数
12
被引用文献数
2

兵庫県神戸市に計画された高速道路の予定地で,着工直前になって絶滅危惧種のハリママムシグサが発見された.路線の変更による影響の「回避」は困難で,道路建設の影響圈に自生するすべての個体の移植によって個体数の維特をはかる保全対策をとった.移植に先だって自生地で分布,個体形状,性表現,光環境,土壌条件,植生を,移植先の候補地で光環境,土壌条件と植生を調査した.調査の結果,ハリママムシグサは林冠がうっ閉するまでの早春の光環壌にめぐまれる谷沿いの落葉広葉樹林の林床で,乾きにくい砂質土壌の場所に自生することがわかった.種子繁殖にかかわる性表現は個体サイズに依存しており,雌個体はもっとも明るい場所に自生することから,雌への成長には一定の年限,光環境にめぐまれる必要があると考えられた.調査結果をもとに移植先の候補地から適地をえらび,個体形状を測定して可能なかぎり適期に移植した.
著者
桑村 哲生
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.133-148, 1987-08-31
被引用文献数
2

Parental-care patterns of fishes are surveyed to examine their evolutionary courses and the factors influencing the care-taker's sex. The Agnatha are nonguarders, the Chondrichthyes are internal bearers (with internal fertilization), and in 99 (24%) out of 418 families of the Osteichthyes guarding, external bearing or internal bearing are exhibited in 69,21,and 24 families, respectively. Male care is the most common among guarders, but only females perform internal bearing. The care-taker's sex is believed to be determined primarily by the ancestral mating system and the method of care : 1. Because rates of gamete production are faster in males than in females, male mating territories will predominate among nonguarders. From ancestors of this mating system, guarding by males but bearing by females will evolve, because males can take care of multiple clutches by guarding but not by bearing. 2. A portion of external bearing is derived from guarding, and prolonged guarding after the end of internal bearing is rarely developed in fishes. The sexes of the secondary care-takers are usually the same as those of the ancestral ones, but are also influenced by the new methods of care and the ancestral mating systems. These and other predictions are examined in relation to current hypotheses.
著者
辻田 有紀 遊川 知久
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.121-127, 2008-05-30
被引用文献数
3

遺伝的多様性を確保しつつ野生植物の自生地復元を実施するためには、栄養繁殖ではなく、種子繁殖での個体増殖が望ましい。ところが、ラン科植物では、自生地に種子を播種し、個体を増殖することが困難である。ラン科の種子は、自然条件下での発芽に共生菌からの養分を必要とするため、生育に好適な共生菌のいる場所に播種しなければ発芽しない。しかし、自生地で共生菌が生育する場所を特定することは非常に難しい。共生菌が生育する場所を特定するためには、種子を入れた袋を地中に埋設し、定期的に回収することで発芽を観察する野外播種試験法が有用である。そこで本報では、絶滅が危惧されているマヤランとサガミラン(サガミランモドキ)を対象に、野外播種試験を行った。その結果、一部の試験区で多くの発芽が観察され、自生地における共生菌の分布を特定することができた。さらに、発芽に好適な深さや時期なども推定でき、野外播種試験法の有用性が示された。本手法は、ラン科植物の自生地内保全を行う上で実践的な技術となるばかりでなく、発芽の環境や種子休眠など、学術的な知見も得られる有用な手段として、幅広い応用が期待できる。
著者
飯田 全秀 志村 義雄
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.81-84, 1958-07-30

In Izu Peninsula, Histiopteris incisa J. SMITH is found on the western coast particularly both in the Shinden and Yagisawa districts of Toicho, Jinden, Kamo-mura, Kamo-gun, and also in the Kumomi district of Matsuzakicho (Fig. 1). As a result of our research, it has been proved that the Shinden district is the northernmost habitat of this fern in Japan as well as in Izu Peninsula. The mentioned four districts taken together occupy an area of about 1000m^2 ; such a large area of habitat is rarely found in Honshu. In Izu Peninsula, the habitats of this species are near streams, in swamps, by ditches, and in places influenced by springs or dripping water from cliffs. The floristic composition and structure of the community (in this paper, those of Yagisawa habitat are chosen) are presented in Table 1. It is a noticeable fact that so far as the distribution of the fern genera are concerned, these habitats are found on and near the line of annual mean temperature of 15.5℃, which corresponds to the mean temperature of 6℃ in these districts in winter (December, January and February).
著者
蓮井 秀昭
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.p75-82, 1977-06
被引用文献数
2

Larval and egg populations of P.rapae crucivora were affected by mechanical detachment of eggs from host plant leaves, drowning of larvae by rainfall and by such natural enemies as spiders, Polistis wasps, Hyla arborea japonica, Apanteles glomeratus and Pteromalus puparum. In April, a remarkable reduction in the numbers of eggs and 1st instar larvae was mainly induced by abiotic factors while that of 5th instar larvae was mainly caused by biotic factores. In June and July, a remarkable reduction in the numbers of eggs, 1st and 2nd instar larvae was observed mainly due to the predation of micryphantids. Then, the suriving mature larvae were preyed on mainly by Polistis wasps. Therefore the surviorship curves were concave in June and July. In October, only eggs and 1st instar larvae were affected by abiotic factors before the survivorship curve levelled off.
著者
赤坂 卓美 柳川 久 中村 太士
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.87-93, 2007-11-30
被引用文献数
2

北海道帯広市におけるコウモリ相とコウモリ類による橋梁の利用実態(日中のねぐら)を調査した。調査地域内において6属11種のコウモリ類の生息を確認し、うち2属6種において橋梁の利用を確認した。橋梁は裏側の構造に基づいて3タイプに分けられた(平底型:平らで溝が無い、小部屋型:梁により数個の小部屋に仕切られている、縦溝型:細い溝が橋梁と平行に数本ある)。3タイプの橋梁のうち小部屋型および縦溝型の2タイプをコウモリが利用していた。コウモリ類は小部屋型を最も多く利用しており、利用個体数も多かった。縦溝型は単独での利用がほとんどであり、幼獣の利用率が最も高かった。また、縦溝型は利用種数が最も多かった。コウモリ類における日中のねぐらとしての橋梁の利用は、利用するコウモリの繁殖ステージにより、選択する橋梁の構造が異なることが明らかになった。新たな構造の橋梁である合成床板橋の増加によって、コウモリ類のねぐら場所として潜在的に利用可能な橋梁は減少すると推測される。
著者
清水 健太郎
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.28-43, 2006-04-25
被引用文献数
8

DNAの遺伝情報を生態学研究に活用する分野として、分子生態学が発展してきた。しかしながら、これまで使われたDNA情報としては、親子判定や系統解析のためのマーカーとしての利用が主であり、遺伝子機能の解明は焦点になっていなかった。ゲノム学の発展により、これまで生態学や進化学の中心命題の1つであった適応進化を、遺伝子機能の視点で研究しようという分野が形成されつつある。これを進化生態機能ゲノム学Evolutionary and ecological functional genomics、または短縮して進化ゲノム学Evolutionary genomicsと呼ぶ。進化ゲノム学は、生態学的表現型を司る遺伝子を単離し、DNA配列の個体間の変異を解析することにより、その遺伝子に働いた自然選択を研究する。これにより、野外で研究を行う生態学・進化学と、実験室の分子遺伝学・生化学を統合して、総合的な視点で生物の適応が調べられるようになった。本稿では、モデル植物シロイヌナズナArabidopsis thalianaの自殖性の適応進化、開花時期の地理的クライン、病原抵抗性と適応度のトレードオフなどの例を中心に、進化ゲノム学の発展と展望について述べる。
著者
中島 真紀 松村 千鶴 横山 潤 鷺谷 いづみ
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.57-63, 2004-06-30
被引用文献数
7

温室栽培トマトの授粉用に導入されたセイヨウオオマルハナバチの野生化の状況を把握するために,2003年5月下旬から8月下旬にかけて北海道勇払郡厚真町および鵡川町において踏査による営巣場所探索の調査を行った.のべ18人日の調査により,8つのセイヨウオオマルハナバチの野生化巣と11の在来マルハナバチの巣が発見された.巣の発見場所は,主に水田の畦や畑地の用水路の土手であり,特にセイヨウオオマルハナバチとエゾオオマルハナバチ,エゾトラマルハナバチは営巣場所の選択において類似性が高いことが示された.さらに在来種であるエゾオオマルハナバチの1つの巣から,セイヨウオオマルハナバチの働き蜂が出入りしていることが確認された.在来マルハナバチ類とセイヨウオオマルハナバチが同じ巣を利用することにより,寄生生物の異種間感染をもたらす可能性が示唆された.