著者
石原 道博 世古 智一
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.27-32, 2007-03-31

表現型可塑性は、昆虫では翅多型や季節型および光周期による休眠誘導などの現象として一般的に知られ、季節適応にきわめて重要な役割を果たしている。これらの可塑性は異なる季節に出現する世代の間で見られ、季節的に変動する環境条件に多化性の昆虫が適応した結果、進化したと考えられている。しかしながら、これまでの研究は、可塑性が生じる生理的メカニズムについて調べたものばかりが目立ち、適応的意義まで厳密に調べた研究は少ない。表現型可塑性に適応的意義があるかどうかを明らかにすることは、表現型可塑性の進化を考えるうえでも重要なことである。この総説では、イチモンジセセリとシャープマメゾウムシの2種の多化性昆虫を対象に、世代間で見られる表現型可塑性が寄主植物のフェノロジーに適応したものであることを紹介する。シャープマメゾウムシでは、春に出現する越冬世代成虫は繁殖よりも寿命を長くする方向に、夏や秋に出現する世代の成虫は寿命よりも繁殖に多くのエネルギーを配分している。イチモンジセセリでは、秋に出現する世代のメス成虫は春および夏に出現する世代のメス成虫に比べてかなり大きな卵を産む。また、この世代が野外で遭遇する日長・温度条件下で幼虫を飼育すると、他の世代のものよりも大卵少産の繁殖配分パターンを示す。これらの表現型可塑性は、世代間で生活史形質問のエネルギー配分量の割合が変化するものであり、寄生植物のフェノロジーおよび寄主植物の質の季節変化に対する適応と考えられる。
著者
桐谷 圭治
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.506-513, 2005-12-25
被引用文献数
3

農業生態系をこれまでの短期的・局所的(作物別)視点から脱却して、長期的・広域的視点からながめる必要がある。そのためには土地利用の変化、害虫管理を含む作物管理手法、さらに気候変動も考慮にいれなければならない。害虫あるいは希少種といわれるものも、長期的にはそれぞれの地位が逆転する場合も起こる。これらは害虫管理と生物多様性保全を包括したIBM、すなわち総合的生物多様性管理の必要性を示している。戦後の「コメ1俵増産」連動に動員された一連の耕種技術が予想外のニカメイガの低密度化をもたらした。なかでもイネの早植えがその減少開始の動機となり、韓国、台湾、中国でも日本より数年ないし10数年のおくれを伴って起こっている。また発生ピークから最少になるまでに12-14年を要している。現在、カメムシ類が水稲と果樹の最大の害虫となっている。斑点米カメムシの多発生は減反にともなう休耕地などの繁殖場所の増加が要因となり、果樹カメムシでは1960年代の拡大造林により増加したスギヤヒノキの人工林が、その結実年齢をむかえ、球果で生育するカメムシ類の増加をもたらした。夏の高温は翌年の球果の豊作をもたらす。さらに地球温暖化が、カメムシ類の冬期死亡率の減少、年間世代数の増加、繁殖の活性化を通じて、両者の同時多発をもたらしている。カメムシとは逆に、夏の低温・多雨がニカメイガの大発生をもたらすため、地球温暖化はニカメイガにとっては不利に働く。減反が行われなかった韓国ではカメムシ類によるイネの被害は顕在化しなかったし、果樹カメムシ被害は日本に遅れること20年の1990年半ばに報告されだした。希少種の絶滅は、その生息地の崩壊によることが多いが、ニカメイガの生息地は現在も広大な面積で存在する。ニカメイガの絶滅を防いでいると考えられるのは、密度依存的に働くメイチエウサムライコマユバチであろう。カメムシ問題は土地利用政策の変化に根ざしたものであり、通常の害虫管理の範囲を越えたものである。また縦割り組織のため、稲と果樹カメムシは別個に扱われてきた。カメムシの戦略的害虫管理のためには、従来の枠を越えた「大規模・長期」的視点が不可欠である。ここでは密度の代わりに病害虫発生予察情報による警報数を、「実験」の対照区としては韓国を考えた。現在、日本では減反も限界で、地球温暖化が発生を助長するとしても斑点米カメムシによる被害は現在をピークに下火になると予想される。他方、人工植林面積は過去30年間漸減しているが、針葉樹林面積は減少せず樹齢の老齢化が進んでいる。したがって果樹カメムシによる被害は、なお漸増の傾向にあるといえる。
著者
SUZUKI Tokio
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.73-79, 1963-04-01

日本における花粉学的研究は, 1930年ころ, 植物社会学の発達とほぼ時を同じくして, 京都と仙台の2つの中心から発達していった.そして時代的に, 氷河期以後の新しい堆積物の研究と, 第3紀の亜炭の研究とにわかれる.したがつて第3紀以後の植物社会変遷の歴史をまとめるには, 花粉分析の成果を肉眼的植物遺体の研究も, あわせて考察する必要がある.主として粘土の中から取り出された針葉樹類の遺体, ヒシの実, ブドウの種子等の肉眼的植物遺体の研究から, 三木茂は, 第3紀をスギ科時代とマツ科時代とに区別し, スギ科時代の終末は極の移動による海退をともなわない低温によるものであると推定し, 洪積世を通ずる針葉樹の変遷と共に間氷期にあらわれる温暖気候のフロラを証明した. 仙台の神保忠男, 相馬寛吉らは第3紀亜炭の花粉分析の結果から, 三木茂の指摘した気候変化をみとめた.京都の山崎次男は同じく亜炭の花粉分析から, スギ科時代の終末を最上層群の中で断定することを試みた.なお第4紀については, カラフト, 北海道の湿原泥炭の花粉分析と, 現在の森林におけるエゾマツ対トドマツの混合率とから, 洪積世のある時代に現代よりも寒い時代があつて, その時代には現在北海道にないグイマツが北海道に生育していることを明らかにした.仙台の流れをくむ高知の中村純は尾瀬ガ原をはじめ, 主として中部以西の湿原の花粉分析から, 中部および西南部日本において, 世界各地に対応する気候変化が, RIという氷河期につぐ寒い時代の後, RIIという今よりも暖い時代がきて, その後再びRIIIという低温の時代がきたと主張している.堀正一は中部日本において, 8m以上の厚い泥炭層の詳細な花粉分析から, 気候変化の時間を大まかに推定している.以上の花粉, ならびに肉眼的遺体の研究を植物社会学的に考察すると, 日本列島がアジア大陸東岸との間に日本海をはさむ海中山脈であるという地理的位置に運命づけられて, 大陸性気団と海洋性気団との間に生ずる季節風によつて, 中軸山脈を境として島弧の内側と外側とに対立する気候型を生じ, さらにこれによつて植生配置が主動的に支配されている事実が, 第3紀以後の気候変動によつて, どのように変化をしてきたかを問題としなければならない.この極盛相森林の植物社会学的対立関係は, 垂直森林帯の上位のものにおけるほど, 刻である.低地帯と丘陵帯の極盛相であるスダシイ群団にあつては, 対立関係はほとんどみとめられない.低山地帯の針葉樹林は, 日本海岸では固有の植生帯を形成しないが, 太平洋岸では, それがみとめられる.なお, この植生帯は北方針葉樹林とインド・マライ系の常緑植物との複合体である.山地帯のブナ群団では, 立関係は一層明瞭となり, 対立する2つの群集がみとめられるばかりでなく, この群団を指標として日本を植物社会学的に, 裏日本と表日本にわけることができる.その上の亜高山帯では, 対立関係は極度に強化され, 北半球亜寒帯の針葉樹林の一部であるアオモリトドマツ群団の林帯は東北日本の日本海岸に全く欠け, これに対応する日本海岸の群集は針葉樹の林冠を欠くササの低木林である.以上のごとく, 気候型にもとづく対立関係は西南日本においては, 内帯と外帯とをわかつ中央構造線による地史的原因によつて強化され, 温度による植生の帯状配置にいちじるしいひずみを与えている.また第3紀以来の気候変動にともなう植生の北上, 南下において, ほぼ南北に走る日本列島の中軸山脈は, 西に走るヨーロッパのアルブス山脈や地中海のような障壁とならず, むしろ通路となつた. しかしながら, 気候変化にともなう海面の上昇下降は当然日本海の大きさを, 大いに変化させた筈であるから, 海進の時代と海退の時代が交互するにつれて, 日本海岸の気候は海退時には大陸的乾燥に傾き, 海進時には, もし温度気候に温帯的な部分があれば, 多雪気候を, また亜熱帯的な気候であれば, 多雨気候を生ぜしめた筈である.現在ササとこれに伴う地這性の常緑低木は雪の下に保護されて北海道まで北上しているが, これらのフロラはいわゆる遺存植物ではなく, 新しい環境に対して順応進化して生じた-群の生物であろう.日本列島の生物界そのものが, 北からの針葉樹フロラの影響と南からのインド・マライ系の常緑広葉フロラとの複合体である.日本の花粉学はすでに北からの針葉樹の南進をたしかめ得た.もし, 南からの広葉樹の北進に眼をそそぐ時, 特に多雪気候に適応したササならびに地這性常緑低木に注目したならば, その植物社会学的意義は増大されるであろう.
著者
吉田 正人 河内 直子 伸岡 雅裕
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.119-128, 2003-12-30
被引用文献数
2

沖縄島の最大の海草置場は名護市辺野古沖の173 ha, 第二の海草藻場は沖縄市泡瀬沖の112 haであるが,いずれも米軍普天間飛行場の移設や埋め立て計画によって消失の危機にある. これらの開発活動に先立つ環境影響評価には問題点も指摘されており, その監視のためには, 開発サイドから独立した市民による科学的な調査が有効であると考えられる. そこで, 日本自然保護協会は, 2002年5月より, 沖縄県名護市において, 市民参加による海草藻場モニタリング調査「沖縄ジャングサウォッチ]を実施した. 調査では, まず, ボランテイアとして参加した一般市民を対象に,海草の識別方法や調査方法の講習を行ったうえで, スノーケル潜水を利用して, 実際の海草藻場において被度調査を行った.得られた調査データについては,目視による被度判定の個人差を補正し海草各種の分有および被度を解析した.海草は,海岸線からの距離に応じて,種ごとに特徴的な分布を示した.また,辺野古の海草藻場については, 空中写真による分布域の読みとりでは, 実際の分有面積を過小評価していることが判明した.したがって, 米軍飛行場移設にともなう環境影響評価においては, 空中写真に基づいた予測では不十分であり, 現地調査から得られる海草の種ごとの分布および被度の変異も考慮したうえで環境保全措置をとる必要が示唆された.今後の市民参加のモニタリング活動においては, 特定事業の監視のためだけでなく, 赤土流出等の局所的な環境汚染, および温暖化問題等に代表される地球規模の環境変動の影響などを視野に入れた, より広域かつ長期的な調査体制を整えることが望まれる.
著者
川那部 浩哉
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.144-151, 1970-08-01
被引用文献数
15

The immigration number from the sea in spring, and population density, body-length distribution and social behaviour during the settling season (summer) of the Ayu-fish (Plecoglossus altivelis) were investigated from 1955 to 1969 in the River Ukawa. The population density varied between 0.03 and 5.5 indiv./m^2,but the natural mortality from spring to summer was stable being about a half to onethird. It was confirmed that the social behaviour was changed by its population density and that the growth was not limited directly by algal production but mediated by its own social structure. When overall population density was about four times to that the all fish had their own territories, territorial structure was established only in certain types of river-bed. The difference resulted from the relation between the value of the feeding or resting site and its closedness against the invasion of non-territorial ones. Territorial structure of Ayu had probably evolved as a self-regulatory process but was not so distinct as at the present time.
著者
関根 達郎 佐藤 治雄
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.241-248, 1992-12-10
被引用文献数
24

Bark stripped from tree trunks and butts by Sika deer, Cervus nippon TEMMINCK, was surveyed in twelve 20×20m^2 plots within 3 forest types on Mt. Odaigahara, Nara Prefecture, Japan. About 90% of Picea jezoensis (SIEB. et ZUCC.) CARRIERE var. hondoensis (MAYR) REHDER and 57% of Abies homolepis SIEB. et ZUCC. trees were barked while deciduous broad-leaved trees such as Fagus crenata BLUME and Quercus mongolica FISCHER ex TURCZ. var. grosseserrata (Bl.) REHDER et WILSON were not barked. The percentages of barked trees in 5 Picea jezoensis var. hondoensis-Sasa nipponica MAKINO et SHIBATA plots on the eastern part of the mountain (1550-1600 m in alt.) were 57% whereas they were 49% in 3 Fagus crenata-Sasa nipponica plots (1450-1550 m) and 17% in 4 Fagus crenata-Sasamorpha borealis (HACK.) NAKAI plots (1300-1450 m) on the western part of the mountain. These percentages appeard to be closely correlated with the intensity of the habitat utilization by Sika deer, assessed by the grazing intensity on Sasa and Sasamorpha leaves and fecal pellet density.
著者
森下 正明
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.269-289, 1996-04-25
被引用文献数
26

The influences of sample size on the index values of species diversity were examined for various indices which have been used hitherto in community studies, together with several indices newly proposed in this paper. Samples of various sizes ranging from 50 to 4,000 individuals were taken randomly from each of nine types of artificial communities which were set up using paper tips, each representing an individual, and the calculated index values of these samples were compared with each other for each community. The paper tips were made by cutting a card board in about 1×1 cm size. The indices which were least affected by sample size were divisible into three groups. The first group included the β index and allied ones. The indices of the second and third groups had values corresponding to the square root and the logarithm of the respective index values in the first group. The first and the second group satisfied the following quantitative relationship, which has preferable characteristics of diversity index : diversity=richness×evenness. A new method was proposed for estimating the total number of species in the mother community from a sample. The results of comparison between the estimated and actual numbers of species in artificial communities showed that the method might be effective for practical use. The samples of artificial communities were compared with the samples of natural communities, and a number of examples which showed fairly good similarity of structure were found in both communities. It is suggested that not only in artificial communities but also in natural ones, the number of species found in a sample would not reach half the number of species in the mother community when the sample size is smaller than 100 and the value of the β index is larger than 10.
著者
佐々木 顕
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.53-62, 2006-04-25
被引用文献数
4

ショウジョウバエにはコマエバチ科の寄生蜂に対して、包囲作用による抵抗性を持つ系統がある。この抵抗性には遺伝的変異があり、抵抗性の低いショウジョウバエ系統を寄生蜂存在下で継代飼育すると、わずか数世代で抵抗性(寄生蜂卵に対する包囲作用で寄生を阻止する確率)は急上昇する。本稿ではこのような寄主抵抗性と捕食寄生者の毒性(ビルレンス)の共進化理論を紹介する。寄主と捕食寄生者の個体数変動はニコルソン・ベイリー型動態に従い、それぞれの集団は抵抗性の程度とビルレンスの程度の異なる多数の無性生殖クローンからなるとする。また抵抗性や毒性への投資にコストを仮定する。この共進化モデルから二つの重要な結果が導かれる。第一に、抵抗性のコストが毒性のコストと比較して大きいとき、捕食寄生者は有限の毒性を維持するのに、抵抗性に全く投資しな、寄主が進化する。このとき寄主にとって寄生のリスクよりも抵抗性のコストの方が重いのである。この結果に該当するかもしれない実例をいくつか報告する。第二の結論として、上記を除く広いパラメータ領域において、寄主の抵抗性と捕食寄生者の毒性の軍拡競走が起きることが分かった。抵抗性と毒性はお互いに進化的に上昇し、寄主の抵抗性がコストに耐えかねるほど大きくなり、ついに寄主が抵抗性を破棄する(抵抗性最小の寄主遺伝子型が侵入して置き換わる)まで続く。寄主の抵抗性放棄につづいて捕食寄生者の毒性も低下し、系は共進化サイクルの出発点に戻る。この共進化サイクルは報告されている抵抗性と毒性に関する高い相加遺伝分散の維持を説明するかもしれない。また、共進化サイクルによる寄生リスクの分散は個体群動態の安定性にも寄与する。
著者
依田 恭二
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.247-254, 1974-12-31
被引用文献数
8

1. 1971年7月と1973年2月に, 西マレーシア・ネグリセンビラン州のパソー保護林にあるIBP研究地域で, 光合成有効日射量および林内相対照度の日変化, 垂直分布, 水平分布に関するくわしい測定を行った. 2. 乾期にあたる1973年2月中旬の光合成有効日射量は, 平均約260cal/cm^2・dayで, その0.4%が地表に透入した. 3. 林内のいろいろな高さでの相対照度の日変化曲線は, 朝やや低く夕方やや高い傾向を示したが, これは測定場所の特性のようであった.また, その変動は直射光照度の変化とマイナスの相関を示した. 4. おなじ高さにおける林内相対照度の頻度分布曲線は, 対数正規分布とよく一致した.したがって, 相対照度の代表値としては, 測定値の幾何平均を用いるのが適当であることがわかった. 5. 林内相対照度の平均値の垂直分布は, 森林の垂直成層構造と密接な関係を示し, 高さ48-55mにある巨大高木の樹冠層, 4-32mの範囲にわたる連続的な高木層, 4m以下の低木層の3層が区別できることを示した.各層内では, 相対照度は高さとともに指数関数的に減少し, 層内の葉面積密度の垂直分布がほぼ一様であることが推定された. 6. 上記各層の直下での平均相対照度は, それぞれ30%, 1%および0.4%であった. 7. 森林内の相対照度の三次元的配列があきらかにされた.
著者
道下 雄大 梅本 信也 山口 裕文
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.81-89, 2009-05-30
被引用文献数
1

観賞利用を主な目的とした植物の人為的移動が及ぼす生物多様性への影響を考察するために、長崎県、和歌山県および静岡県の民家庭園にみられるRDB掲載植物の種類と常在度を調べ、導入経緯の聞き取りを分析した。環境庁または県のRDB掲載植物は、3県の民家庭園に25科53種みられ、82%の民家庭園に少なくとも1種確認された。聞き取りでは、自生地よりの採集が89例、親戚や知人等よりの贈呈が45例、購入による導入が12例あり、この傾向には地域による違いはなく、調査した民家庭園では採集による導入が多い傾向にあった。集落ごとにみられるRDB掲載植物の種数と多様度は、漁業を主とする海岸の集落では低く、農林業を主とする中山間地の集落で高い傾向にあった。民家庭園のRDB掲載植物には地域外からの導入や園芸品種化した植物があり、これらは野生化や近隣の自生個体との自然交雑をとおして生物多様性の劣化要因となると考えられた。
著者
亀山 剛 森田 敏弘 岡田 純 内藤 順一 宇都宮 妙子
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.158-166, 2006-12-05

山陽地方に生息するダルマガエルRana porosa brevipoda岡山種族は、現在日本で最も絶滅が危倶されているカエル類の地域個体群のひとつである。その中で、土地区画整理事業によって2003年11月に生息地が消滅した広島県神辺町産の個体群を飼育下に緊急避難させ、新たな生息地へ試験的に再導入をおこなった。ダルマガエルの生息には水田環境が絶対条件で、なおかつ、生活史に合わせた人為的な水管理が重要であった。したがって、導入場所の選定にあたっては、地権者である農家の理解と協力が得られるかどうかに重点を置いた。その結果、広島県世羅郡の水田地帯にある休耕地を試験湿地に設定し、2004年5月-6月にかけて幼体117個体、幼生2,947個体の導入を行った。その後のモニタリングでは、2004年10月には、成体18個体、幼体248個体、合計266個体のダルマガエルが確認された。翌2005年6月には少なくとも3クラッチ分の自然産卵が確認され、同年10月には、成体15個体、幼体60個体、合計75個体のダルマガエルが確認された。以上により、飼育集団をある程度残した上で、自立した野外集団の創出に成功した。この結果を受けて、2005年には新たな導入地を設定し、幼生の導入を始めている。今後は追加導入およびモニタリングを実施し、定着へ向けての活動を継続する予定である。
著者
西村 三郎
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.6-11, 1960-02-01

1. From the materials concerning the occurrence and distribution of pelagic larvae and the drift of youngs, the main spawning area of the porcupine puffers, Diodon holacanthus LINNAEUS, immigrating to the Japanese waters was estimated to be found in the coastal regions of Luzon, Formosa, the Yaeyama Islands and their vicinity, while their spawning season to extend over April to July(Fig. 1 and Table 1). 2. A discussion was made on the migration of young porcupine puffers in the surrounding waters of Japan, with particular reference to the influences upon their drift of the main streams of the Kuroshiwo and the Tsushima Current as well as the drift currents generated by the northwest monsoon winds, and maps showing their probable migration routes were presented. (Figs. 2 and 3). 3. The migration of this Diodontid fish to the Japanese waters may be classified into the "propagative migration", i.e., a migration of a passive nature during the planktonic or pelagic juvenile stage, and so far as the fish schools that entered into the Japan Sea are concerned, their migration can be termed as "abortive", for most of them are considered to be stranded to perish on the seashore during the stormy winter days.
著者
杉田 久志
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.217-227, 1988-12-31
被引用文献数
10

At higher elevations on Mt. Asakusa, one of the mountains characterized by deep snow accumulation in Japan, the relationship between snow depth and the distribution pattern of plant communities was studied in connection with topographical conditions. Dwarfed Fagus crenata forests in the northwestern〜western part (N〜W slope), and scrubs and meadows in the southern〜eastern part(S〜E slope). The snow depth in meadows was the deepest among the four plant communities, and that in scrubs was deeper than those in Fagus crenata forests and dwarfed Fagus crenata communities. However, little difference in snow depth was found between Fagus crenata forests and dwarfed Fagus crenata communities. Therefore, it is difficult to explain the distribution of plant communities only by the snow depth. It is presumed that topographical conditions affect not only the distribution of snow depth but also the effects of the snow on plants, and that consequently the distribution pattern of plant communities is determined through the influence of the topography.
著者
塚田 松雄
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.371-383, 1981-12-30
被引用文献数
1

A theoretical examination of pollen dispersal suggests that : (1) in a forested region containing about 40% Cryptomeria japonica trees, 5.0% Cryptomeria pollen is found ca. 10 km away from the source forest ; and (2) an increase to 5.0% from a lower percentage indicates the actual arrival of trees sparsely distributed in the forest within 500 m. After its initial arrival, the Cryptomeria forest shows a logistic increase under climatically near optimal growing conditions. The standard empirical equation for this increase is expressed by p=50.0/(1+14.16 e^<-0.0014t>), where p is Cryptomeria pollen percentage at time t (yr). Combined pollen frequencies against time that are obtained from six bogs become scattered at higher levels, since the carrying capacity for the population is variablea among these sites. However, sigmoid curves of the Cryptomeria increase toward respective asymptotes are essentially identical from the initial rise up to the 25% level. It normally takes about 1,000 years for pollen percentages to increase from 5% to 10%, and an additional 1,500 years to reach ca. 35%. The fact that Cryptomeria increases logistically implies indeed that even when its pollen percentage is low at the beginning of the rise, climatic conditions must already be favorable for maximum growth of the species.
著者
三好 教夫 波田 善夫
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.285-290, 1977-12-30
被引用文献数
1

Makura moor is situated at the place of 720 m above sea level at Geihoku-cho within the Chugoku Mountains, in the northern part of Hiroshima Prefecture. From the results of pollen analysis, four major vegetational changes for approximately the last 10,000 years were recognized in the pollen diagram from the bottom to the surface. 1. Tsuga, Pinus (Haploxylon type), Picea, Betula stage (190-170 cm, 10,000-9,000yr B.P.) (R-I zone). 2. Cyclobalanopsis, Lepidobalanus, Alnus stage (170-80 cm, 9,000-4,000yr B.P.) (R-II zone) 3. Lepidobalanus, Cyclobalanopsis, Alnus stage (80-60cm, 4,000-1,500yr B.P.) (R-IIIa zone) 4. Pinus (Diploxylon type), Cryptomeria, Lepidobalanus stage (60-0 cm, after 1,500yr B.P.) (R-IIIb zone) The vegetational history can be regarded as the common one for the period from the postglacial age to the present time in the Chugoku Mountains, with one exception of Cryptomeria, the number of pollen of which is included in low percentage in the second and third stage compared with the results of another moors, such as Yawata moor, Sugawara moor, Kabosaka moor and etc.
著者
高原 光 竹岡 政治
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.105-116, 1986-08-31
被引用文献数
3

The pollen analysis of core samples from the Hatchodaira moor (alt. 810m) in the montane zone at the northern part of Kyoto City, revealed seven vegetational changes to have occured there during the last 25,000 years. 1. Conifer・Betula stage (ca. 25,000-15,000 y.B.P.) : subarctic coniferous forest. 2. Fagus・Lepidodalanus-Conifer・Betula stage (ca. 15,000-12,000 y.B.P.) : the ecotone between subarctic coniferous and cool temperate broad-leaved forests. 3. Conifer・Betula stage (ca. 12,000-10,000 y.B.P.) : subarctic coniferous forest. 4. Fagus・Lepidobalanus・Betula stage (ca. 10,000-9,000 y.B.P.) : the ecotone between subarctic coniferous and cool temperate broad-leaved forests. 5. Fagus・Lepidobalanus・Carpinus stage (ca. 9,000-4,500 y.B.P.) : cool temperate beech (F. crenata) forest. 6. Lepidobanlanus・Carpinus・Betula stage (ca. 4,500-1,500 y.B.P.) : cool temperate oak (Quercus mongolica var. grosseserrata) forest. 7. Pinus stage (ca. 1,500 y.B.P.-present) : pine (P. densiflora) forest reflecting the destruction of natural forests by human activities.
著者
中川 尚史
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.291-307, 1996-04-25
被引用文献数
9

Studies on food selection in non-human primates were reviewed from the viewpoint of optimal food selection. Key factors in the classical model of optimal food selection were "maximization" of the "intake rate" of "energy". Later, the key factors were changed to "maximization" of the "contents" of "energy-essential nutrients" and "minimization" of the "contents" of "digestion inhibitor-toxins" in a modified model for herbivores. Most studies on food selection in herbivorous non-human primates have been based on the modified model, and revealed that primates choose food so as to maximize protein, and to minimize digestion inhibitiors (fiber, condensed tannin). However, the present review points out that the above key factors of the classical model are also important because food availability relating these factors correlates positively with feeding frequency.
著者
佐藤 拓哉 名越 誠 森 誠一 渡辺 勝敏 鹿野 雄一
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.13-20, 2006-06-25
被引用文献数
2

世界最南限のイワナ個体群キリクチSalvelinus leucomaenis japonicusの主要生息地において、過去13年間にわたって、キリクチおよびそれと同所的に生息するアマゴOncorhynchus masou ishikawaeの個体数変動を調べた。また、調査水城におけるキリクチ個体群の現在の分布構造を把握するために、流域に11カ所の調査区間を設定して、それぞれの場所での生息密度と体長組成を調べた。調査水城に設定した約500m区間におけるキリクチとアマゴの推定生息個体数はともに減少傾向にあり、特に2000年以降、キリクチの個体数は低い水準で推移していた。2004年時点では、アマゴの推定生息個体数は、キリクチの約2倍であった。2004年に生息範囲のほぼ全域で行なった捕獲調査において、キリクチは本流の下流域ではほとんど捕獲されず、上流域と支流を中心に分布していた。一方、アマゴの生息個体数はすべての調査区間で大差はなかった。また、キリクチ当歳魚はほとんどが支流で捕獲されたが、アマゴ当歳魚は支流と本流で大差なく捕獲された。標準体長の季節変化を調べた結果、キリクチ当歳魚はアマゴ当歳魚に比べて浮出時期が1-2ヶ月遅いと推察され、その平均値は、すべての月においてアマゴ当歳魚よりも低かった。また、1歳以上のキリクチの平均体長は、すべての調査区間でアマゴよりも小さい傾向が認められた。これらの結果から、本調査水域におけるキリクチの生息個体数と生息範囲はともに減少傾向にあることが確認された。また、キリクチはアマゴとの種間関係において劣勢にある可能性が示唆された。このような現状のもとでの、キリクチ個体群の保護・管理策について考察した。
著者
久保 拓弥
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.187-196, 2009-07

観測データの背後にある生態学的なプロセスを特定するときに,データの空間構造に由来する空間的自己相関(空間相関) のある「場所差」はとりあつかいの難しい「ノイズ」である.空間相関のある「場所差」はrandom effects として統計モデルの中で表現するのがよい.近年よく使われているGLMM など簡単な階層ベイズモデルでは空間相関のあるrandom effects をうまくあつかえない.そこで空間相関をうまく表現できるintrinsic Gaussian CAR model の概要を説明し,単純化した架空データから得られる推定結果を示す.また階層ベイズモデルが威力を発揮する,欠測のある観測データが与えられた状況での推定結果も示した.