著者
川瀬 啓祐 冨安 洵平 伴 和幸 木村 藍 小野 亮輔 齊藤 礼 松井 基純 椎原 春一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.83-89, 2018-12-25 (Released:2019-03-31)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

ライオンPanthera leoに行動的保定下で定期的な血中プロジェステロン(P4)濃度測定,腟粘膜上皮検査,外陰部粘液漏出量の変化の調査を行った。血中P4濃度,腟スメア像は周期的な変動を示し,腟スメア像において無核角化上皮細胞が主体となる期間は,血中P4濃度は基底値を示し外陰部粘液漏出量は多量であった。ライオンの発情周期は2.6±5.0日間,発情前期は8.3±1.5日間,発情期は6.2±2.7日間,発情後期と発情休止期を合わせた期間は37.2±4.6日間と推察された。
著者
加藤 雅彦 伴 和幸
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.129-134, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
21

本調査は,ある動物園において給餌される7種の一般飼料の表面と肉食獣に給餌される野生のニホンイノシシ5頭および野生のヤクシカ5頭のと体の表面について,一般生菌数および大腸菌群数を明らかにし比較した。なお,と体給餌は,生物資源の活用,環境エンリッチメントおよびそれらに関する教育のために試行された。これらのと体は,と体処理施設において消毒されていた。一般飼料の一般生菌数は1.96 log cfu/cm2から5.72 log cfu/cm2までであり,大腸菌群は4種の飼料から検出された。ニホンイノシシと体の一般生菌数は,胸部が1.52 log cfu/cm2から4.70 log cfu/cm2までであり,肛門周囲部が1.79 log cfu/cm2から6.00 log cfu/cm2を超えるものまであった。大腸菌群は,胸部が3頭のと体から検出され,肛門周囲部が3頭のと体から検出された。ヤクシカと体の一般生菌数は,胸部が0.20 log cfu/cm2から2.08 log cfu/cm2までであり,肛門周囲部が1.41 log cfu/cm2から3.46 log cfu/cm2までであった。大腸菌群は,胸部が1頭のと体から検出され,肛門周囲部が3頭のと体から検出された。これらから,一般生菌数および大腸菌群数で比較すると,対象園において給餌される一般飼料と野生動物のと体とは大きな差がなかったと考えられる。
著者
石坂 聡一朗 瀬川 太雄 石川 創 伊藤 琢也
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.121-127, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
26

紀伊半島沖で捕獲されたハンドウイルカの肛門から条虫のストロビラが排出された。生殖器の配置から裂頭条虫科Diphyllobothrium属(Diphyllobothrium Cobbold, 1858)であると推測し,COX-1遺伝子,リボソームDNA領域内のITS1領域および18S rRNAを標的とした分子学的解析を行った。その結果,DNAデータベース上のイルカ裂頭条虫と一致し,本種をイルカ裂頭条虫と同定した。本症例は,日本においてハンドウイルカからイルカ裂頭条虫が検出された初めての報告である。
著者
井上 春奈 森 悠芽 畑中 律敏 芝原 友幸 笹井 和美 松林 誠
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.103-106, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
11

野生鳥類の糞便101検体についてショ糖遠心浮遊法により寄生虫検査を実施した。その結果,寄生虫の陽性率は29.7%であり,内訳は原虫類(Eimeria 型もしくはIsospora 型のオーシスト)が20.8%,線虫類(毛細線虫類または回虫類)は8.9%であった。消化管寄生虫は糞便と共に排泄された後も長期間にわたり感染性を保持するため,間接的または直接的な糞口接触が比較的高率に生じている可能性が示唆された。
著者
川瀬 啓祐 紙野 瑞希 所 亜美 正藤 陽久 飯田 伸弥 生江 信孝 金原 弘武 楠田 哲士
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.73-80, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
31

飼育下ハートマンヤマシマウマ(Equus zebra hartmannae)の雌1頭において,血中および糞中の性ステロイドホルモン濃度の測定,腟粘膜上皮細胞像の観察および直腸温測定を実施し,発情周期を調査した。血中エストラジオール-17β 濃度がピーク値を示した後,血中プロジェステロン濃度の上昇がみられた。糞中プロジェステロン代謝物濃度動態は血中での動態と類似しており,血中濃度と採血日から2 日後の糞中の濃度は有意な正の相関(r=0.80)を示した。糞中プロジェステロン代謝物濃度の動態はプロジェステロン分泌をよく反映していることが明らかになった。糞中プロジェステロン代謝物濃度の動態は年間を通して周期的な増減を示し,平均23.1±2.3日間の発情周期が確認された。無核角化上皮細胞の割合は,糞中プロジェステロン代謝物濃度が低い非黄体期に増加する傾向がみられたが,有意な変化ではなかった。直腸温については非黄体期に増減変化がみられ,ヒトなどで一般的に知られている黄体期の基礎体温上昇は確認できなかった。
著者
日方 希保 諸橋 菜々穂 樽 舞帆 鈴木 雄祐 中村 智昭 竹田 正裕 桑山 岳人 白砂 孔明
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.127-134, 2021-12-24 (Released:2022-02-28)
参考文献数
13

ミナミコアリクイ(Tamandua tetradactyla)は異節上目有毛目アリクイ科コアリクイ属に分類される哺乳類の一種である。コアリクイの計画的繁殖には,基礎的な情報の蓄積による繁殖生理の解明が必要である。これまでミナミコアリクイの妊娠期間中の血中ホルモン変動に関しては,1個体で1回分の妊娠期間についての報告がされているが,同一個体で複数回の妊娠期間中のホルモン変動に関する報告は存在しない。本研究では,同一雌個体のミナミコアリクイに対して長期間における経時的な採血(約1回/週)を実施し,同一雌雄ペアで合計6回の妊娠期間における血漿中プロジェステロン(P4)またはエストラジオール-17β(E2)濃度の測定を実施した。全6回の妊娠期間中のP4濃度測定の結果から,妊娠期間は156.8±1.7日(152~164日)と推定された。各時期のP4濃度は,妊娠前では0.6±0.1 ng/ml,妊娠初期(妊娠開始~出産100日以上前)では13.2±1.8 ng/ml,妊娠中期(出産50~100日前)では28.1±4.3 ng/ml,妊娠後期(出産日~出産50日前)では48.2±11.8 ng/mlであった。出産後のP4濃度は0.4±0.1 ng/mlと出産前から急激に低下した。血漿中E2濃度は妊娠初期から出産日に向けて徐々に増加した。また,妊娠期間前後で6回の発情周期様の変動がみられ,P4濃度動態から発情周期は45.5±2.4日(37~52日)と推定された。以上から,ミナミコアリクイの同一ペアによる複数回の妊娠中における血漿中性ステロイドホルモン動態を明らかにした。また,妊娠初期でP4濃度上昇が継続的なE2濃度上昇よりも先行して観察されたことから,P4濃度の連続的な上昇を検出することによって早期の妊娠判定が可能であることが示唆された。
著者
斉藤 理恵子 川上 茂久 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.115-118, 2004 (Released:2018-05-04)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

南アフリカから搬入された5頭のケープハイラックスProcavia capensisから検出された内部寄生虫を検討したところ,Inermicapsifer hyracis, I.cf. beveridgei, Grassenema procaviaeおよびEimeria dendrohyracisが検出された。I.hyracis以外は日本の飼育下ハイラックス類では初めての記録であった。
著者
ピンヘイロ マルセロ・ホセ・ペドロサ 佐方 啓介 佐方 あけみ 牧田 登之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.113-116, 1997 (Released:2018-05-05)
参考文献数
7

野生動物の減少を防ぎ, 畜産的に飼育繁殖をはかる目的で, クビワペッカリー(学名:Tayassu tajacu, 現地名Catetuカテトウ)の飼育をはじめた。雄1頭雌2頭を一組として, 3組を1群とする。野生の3群と, 自家繁殖による3群を, 10m×12mの区画に1群ずついれ, 飼料(ペレット), メロンなどの果物, イモなどの根菜, を給餌する。各群内で雌は共有されるが, 他群の雌を混ぜると侵入者とみなし殺す。雄が死んだ場合は群内の雌を総入替えする。性周期が約24日で, 発情期は約4日間である。通年発情を示す。妊娠期間は142〜149日で, 通常1頭を出産するが2頭のこともある。出産時には産場に雌を移す必要がある。出産後2〜3時間で子供は歩ける。1日位母親についているが, 4〜5日で親からはなして育てる。泌乳期は6〜8週間で, 子供は背後から乳頭に吸いつく。乳質は低脂肪である。野生群, 自家生産群との境界における両群の成体の行動のパターンを目下観察中である。
著者
楠田 哲士 森角 興起 小泉 純一 内田 多衣子 園田 豊 甲斐 藏 村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.109-115, 2002 (Released:2018-05-04)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

飼育下ブラジルバク(Tapirus terrestris)雌2頭から週1回の採血を行い,エンザイムイムノアッセイ(EIA)法により血漿中プロジェステロン(P4)濃度を測定した。P4濃度の周期性から発情周期は約4週間であることが推察された。また,国内の動物園におけるこれまでのブラジルバク出産例を調査した結果,出産は年間を通して見られたが,3月から6月にかけてピークが存在した。P4動態からは明確な繁殖季節は存在せず,周年繁殖が可能であると考えられたが,年間の出産数に偏りが見られることを考え合わせると,気候的要因によって繁殖が影響を受けていることが示唆された。
著者
小針 大助
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.19-23, 2023-04-05 (Released:2023-06-05)
参考文献数
10

近年,動物園における研究や教育活動は必ずしも珍しいものではなくなってきているが,一般的には,まだ研究や教育の場という認識が根付いているとは言い難い。一方で大学も,市民の目に見える形で公開されている研究成果が少なく,地域に根ざしたより実践的な研究の実施とその成果の社会への還元が強く求められている。そこで本学では「地元の大学が,かかりつけの研究機関として地域の動物園をサポートすることで,双方の研究と教育機能強化を図る」ことを目指し,農学部・工学部・教育学部の教員が集まり,2015年から日立市かみね動物園と, 2020年からは千葉市動物公園と研究と教育に関する連携活動を実施している。取り組みとしては,動物園を利用した研究の推進や飼育員による研究活動の支援,動物園のイベント等に大学教員や学生が協力する一方で,大学の授業やインターンシップ等で動物園に協力いただいたりしているが,特にそれぞれの活動の中で,スタッフ一人一人の顔が見え,互いに気軽に相談できるような連携関係を作っていくことを重視している。我々の実施している連携活動は,従来他の大学と動物園の間でも実施されてきている内容で,特に斬新なものではないが,地方大学と地域の動物園が,研究と教育の連携活動を通じて地域の学術文化拠点として根付いていくための一つのモデルになればと考えている。
著者
竹鼻 一也 川上 茂久 Chatchote Thitaram 松野 啓太
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.17-27, 2022-03-01 (Released:2022-05-02)
参考文献数
46

若齢アジアゾウに致死的出血病を引き起こす原因とされるElephant endotheliotropic herpesvirus(EEHV)は,世界中のゾウ飼育施設において多くの死亡例をもたらし,直近20年の間で飼育下アジアゾウの最も主要な死亡原因となっている。EEHVはゾウを自然宿主とし,他のヘルペスウイルス種と同様に潜伏感染する。若齢ゾウにおいては,何らかの原因で血中ウイルス量が異常上昇することに伴い,致死的出血病に至ることがある。発症後の治療には反応が乏しく,有効な治療法が確立されているとは言い難いものの,発症初期に積極的な治療を行うことで救命率向上が認められる。そのため,飼育施設においては日常的な検査体制の確立による早期診断および早期治療開始が求められる。
著者
牧田 登之 Henry WIJAYANTO
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.31-35, 1998 (Released:2018-05-05)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

ジャワのジョクジャカルタのスローロリスは, 手の第2指が短小化し, 足の第2指のみがかぎ爪になって, 把握には第2指が余り機能していないようであった。
著者
大野 晃治 福井 大祐
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.11-16, 2021-03-31 (Released:2021-06-11)
参考文献数
18

ゴマフアザラシ(Phoca largha),24歳齢,雌が慢性の吐出,嘔吐,食欲不振を示した。ミダゾラムとブトルファノールによる鎮静下で造影CT検査を行ったところ,食道と肝臓およびその周囲に多発する腫瘤が認められ,剖検と病理組織検査により,肝臓と膵臓への転移を伴う食道原発の扁平上皮癌(SCC)と診断した。鰭脚類の造影CT検査の報告は少なく,本症例は食道SCCの生前診断につなげるための貴重な報告である。
著者
岡野 司 大沼 学
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.145-151, 2012 (Released:2013-03-16)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

長崎県対馬において野生の雄チョウセンイタチ19頭を1997年8月から2011年4月にかけて収集し供試した。精巣と陰茎骨を計測し,精巣組織を採取し組織学的に観察した。亜成獣において,精巣サイズと精細管直径は11月から急激に増大する傾向があり,2月ごろに最大となった。成獣において,精巣サイズと精細管直径は2月から6月に増大する傾向があり,9月から1月頃に縮小する傾向にあった。若い個体において4月以降から精巣上体に精子が認められたため,生まれた翌年の4月頃に性成熟に達していると考えられた。成獣の陰茎骨は発達したかぎ状の先端とこぶ状の基部を呈していた。
著者
若松 小百合 中村 美里 松代 真琳 角川 雅俊 嶋本 良則 遠藤 大二 郡山 尚紀
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.71-80, 2020-06-23 (Released:2020-08-24)
参考文献数
16

海棲哺乳類の排泄物は海洋環境において重要な栄養源となっているが,飼育下の海棲哺乳類はその水質によって健康を損なう可能性がある。本研究ではその水質に着目し,細菌の群集解析を行うことで,それぞれの動物種の飼育水の細菌学的特徴を明らかにすると共に感染症を引き起こす原因菌のスクリーニングを行うことを目的とした。おたる水族館で飼育されている鰭脚類と鯨類を含む計10の飼育水と元の海水について次世代シークエンサにて細菌の塩基配列を調べ,細菌の群集解析を行った。その結果,飼育水の特徴としては,Proteobacteria,Bacteroidetes,Firmicutesが元海水と共通して見られたが,FusobacteriaおよびOD1・GNO2といった培養不能細菌門は飼育水に特徴的であった。各動物の飼育水細菌叢は鯨類や鰭脚類においてそれぞれ特徴的であったが,鰭脚類においてワモンアザラシは他との類似性が低かった。飼育水には環境中に存在する日和見菌がわずかに見つかったが,伝染性細菌やその他公衆衛生上特に注意すべき細菌は認められなかった。今後,他の水族館の飼育水についても調べることで,より理想的な海棲哺乳類の飼育環境づくりに繋がることが期待される。
著者
宇根 有美
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.117-123, 2014-12-22 (Released:2018-05-04)
参考文献数
19

感染症対策に関連する動物園の特性として,動物園という管理された環境下では,感染症の発見,その発生状況,病原体保有状況などが把握しやすく,感染症対策も立てやすいといった点があげられる。その一方で,生息地域や生態も異なる多種多様の動物が飼育されており,自然界では起こりえない動物種の間接的・直接的接触が,病原体に新たな宿主を提供することになったり,動物種による病原体への感受性の差が感染症の流行に結びついたりすることがある。また,飼育環境も,必ずしも自然界における生息環境を忠実に反映しているわけではなく,不適切な飼育環境が感染症発生の要因になることがある。そして,往々にして個体密度が高くなり,病原体の伝播および大量暴露を容易にし,流行のスピードを加速することもある。さらに,汚染された飼料などによる感染症の発生も起こり得る。ここでは,動物園における「感染症」について,いくつかの事例を提示して紹介する。
著者
伊藤 英之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.109-113, 2019-09-25 (Released:2019-11-25)

2008年に京都市と京都大学は,京都市動物園と京都大学野生動物研究センターをそれぞれの中核として,「野生動物保全のための研究と教育に関する連携協定」を締結した。本協定に基づき,京都大学の教員が京都市動物園に常駐し,研究・教育活動を実施してきた。2013年に学術研究と環境教育をより一層推進するために動物園内に研究・教育機関「生き物・学び・研究センター」を設置するとともに,当時京都大学野生動物研究センターの准教授が京都市動物園生き物・学び・研究センター長として着任した。2017年6月には文部科学省の競争的学術研究費である科学研究費等補助金(科研費)を申請できる「学術研究機関」として同省の指定を受けることを目指し,「生き物・学び・研究センター」に職員を増員し,博士号取得者5名の体制となった。2018年1月に科研費取扱規程に規定する研究機関の指定を受け,科研費への申請が可能となった。今後は,科研費等の外部資金を獲得し,希少動物の研究を一層推進し,その成果を,飼育動物の長寿命化や繁殖の成功率向上等の種の保存の取組,動物福祉の向上に生かしていくことが目的となる。研究体制を構築したことにより,京都市動物園は国内で有数の動物園研究機関になったと思われる。本稿では,京都市動物園における研究・教育体制,研究機関としての現状と課題について紹介する。
著者
中津 賞
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.43-47, 2012-06-29 (Released:2018-07-26)
参考文献数
2
被引用文献数
1 1

体重200g程度の鳴禽類の脛足根骨の骨折において,骨折後3~4日以内であれば,牽引によって整復が可能である。十分に牽引しながら,シアノアクリルレートを羽毛に塗布することで骨折部位を固定する。塗布は遠位および近位の関節運動を阻害しない範囲に留める。エリザベスカラーを装着し,直ちに止まり木のあるケージに収容して自由運動をさせる。10日後にエリザベスカラーを除去する。この新しい手技は鳴禽類の大腿骨,中足骨,指骨の骨折時にも応用できる。体重が200gを超える鳥では骨髄内釘固定法,創外固定法が強度の点から推奨される。
著者
松本 直也 伊藤 めぐみ 山田 一孝 豊留 孝仁
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.101-107, 2020-09-30 (Released:2020-11-30)
参考文献数
14
被引用文献数
2 4

飼育下の鳥類においてアスペルギルス症は重要な疾患であるが,その予防策や診断方法,治療法は確立されていない。アスペルギルス症の主な起因菌であるAspergillus fumigatusは自然環境中に普遍的に存在するため,ときとして飼育鳥類に感染し,死に至らしめる。登別マリンパークニクス飼育下のキングペンギン(Aptenodytes patagonicus),ジェンツーペンギン(Pygoscelis papua),ケープペンギン(Spheniscus demersus)のA. fumigatus感染を防ぐことを目的とし,本研究では飼育環境中に存在するA. fumigatus汚染源の調査を行った。エアーサンプリングおよび土壌サンプリングのデータから主な汚染源が土壌であると推定されたため,土壌とペンギンの接触を最小限とする対策を行った。その結果,アスペルギルス症の発症は認められなくなった。本研究から,A. fumigatusの感染予防において,予め飼育環境下の汚染源を推定することは有効であり,屋内での対策とともに屋外の環境への対策も重要であることが確認された。
著者
米田 久美子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.55-61, 2012-06-29 (Released:2018-07-26)
参考文献数
25
被引用文献数
1

日本の野鳥においては過去4回,H5N1亜型高病原性鳥インフルエンザウイルス感染があった。2004年のハシブトガラスの感染は家禽からの二次感染と考えられたが,2007年のクマタカ,2008年のオオハクチョウの感染からは野鳥の間で感染が起きていることが示唆された。このため2008年10月以降,全国的に死亡野鳥調査が実施されるようになった。その結果,2010年10月から2011年5月までの間に約5,600羽の野鳥の死体が調査され,12月から3月の間に全国17道府県において水鳥類と猛禽類の7種63個体から当該ウイルスが検出された。そのうち在来種ではないハクチョウ類3個体は飼育下個体であった。過去4回の感染確認事例ではいずれも,ウイルスの性状から韓国やモンゴル,中央ロシアなどの地域との関連性が推測された。また日本の死亡野鳥調査においては,ハクチョウ類とキンクロハジロが早期に感染を検出しやすい種類と考えられた。2010~2011年に野鳥の感染が認められたのは27地域あったが,5羽以上の感染が確認されたのは鳥獣保護区など5地域のみで,感染個体のうち死亡するのは一部のみではないかと考えられた。飼育下の野生鳥類が野鳥と混在する飼育環境では,感染を防ぐのは不可能であり,抜本的な管理方法の見直しが必要と考えられた。