著者
松本 令以 植田 美弥 村田 浩一 比嘉 由紀子 沢辺 京子 津田 良夫 小林 睦生 佐藤 雪太 増井 光子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.79-86, 2010 (Released:2011-03-01)
参考文献数
52

蚊媒介性感染症のベクターとなる蚊の生息状況解明を目的として,2005年5月から5か月間,横浜市立よこはま動物園内においてドライアイストラップ,グラビッドトラップおよびスウィーピング法を用いた捕集調査を行った。その結果,アカイエカ種群蚊(Culex pipiens group),ヒトスジシマカ(Aedes albopictus),トラフカクイカ(Lutzia vorax)など計9属14種2,623個体が捕集された。アカイエカ種群蚊およびヒトスジシマカが捕集蚊全体の約85%を占め,これらの蚊が園内における優占種であると考えられた。神奈川県内で生息が確認されている蚊26種のうち53.8%にあたる種が捕集されたことから,本動物園およびその周辺地域は,各種蚊が選好する多様な環境で構成されていると考えられた。なお,捕集蚊の10.6%で吸血が認められ,動物園動物を吸血源としている可能性が示唆された。動物園動物の蚊媒介性感染症を制御し,希少種の生息域外保全を行うためには,蚊種の生態に応じた防除対策が必要である。
著者
田中 祥菜 田口 勇輝 野田 亜矢子 野々上 範之 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.137-140, 2016-12-22 (Released:2017-06-09)
参考文献数
15
被引用文献数
3

広島市安佐動物公園で飼育繁殖され,死亡後,ホルマリン固定されたオオサンショウウオ(Andrias japonicus)の寄生虫検査を行ったところ,線虫類のSpiroxys sp.,Kathlaniidae gen. sp.,Physalopteroidea fam. gen. sp.,Capillariidae gen. sp.,吸虫類のLiolope copulansが検出された。また,同公園で飼育されていたオオサンショウウオの糞便中から原虫類Balantidium sp.およびEimeria spp.が見つかった。オオサンショウウオからこれら原虫類が検出されたのは初めてであった。今回検出された寄生虫に関して,飼育オオサンショウウオへの影響について論考した。。
著者
水尾 愛 大島 由子 今西 亮 北田 祐二 笠原 道子 橋崎 文隆 和田 晴太郎 松永 雅之 高井 進 大沼 学 翁長 武紀 萩原 克郎 真田 良典 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.77-80, 2009-03
参考文献数
16
被引用文献数
1

生体内の酸化ストレスを評価する一般的な生体指標である尿中8-hydroxyguanosine(以下,8-OHdG)量を国内飼育下の9頭のニシローランドゴリラにおいて定量した。検査対象個体に原虫感染が認められたが,臨床症状は観察されなかった。全個体の8-OHdG値(ng/mg creafinine)の範囲は4.3〜193.1,各個体の中央値の幅は6.8〜52.4であった。原虫陽性と陰性個体との8-OHdG値の比較を行い,有意差は認められなかった(>0.05)。
著者
西川 清文 森 昇子 白木 雪乃 佐藤 伸高 福井 大祐 長谷川 英男 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.27-29, 2014-03-31 (Released:2014-05-31)
参考文献数
8
被引用文献数
1 2

国内外来種化による寄生虫相の変遷を分析するため,2010年と 2011年に旭川市内で捕獲されたアズマヒキガエル Bufo japonicus formosusの蠕虫調査をした。その結果,このカエルで既報告の 3線虫種と 1鉤頭虫種が検出された。北海道における当該カエル種の調査はなく,新記録となったが,寄生蠕虫相は本州に生息していた時の状態をほぼ保持したまま定着していたことが判明した。
著者
押田 龍夫 ANTIPIN A. Maksim BOBYR G. Igori NEVEDOMSKAYA A. Irina 河合 久仁子 福田 知子 石田 彩佳 外山 雅大 大泰司 紀之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.11-16, 2016

北海道の北東部に位置する国後島において,北海道に広く分布する樹上性の3種の小型哺乳類(タイリクモモンガPteromys volans,ヒメネズミApodemus argenteus,キタリスSciurus vulgaris)の分布調査を行った。タイリクモモンガおよびヒメネズミの生息を確認するため,国後島の南部に位置する寒帯性の針広混交天然林に30個の木製巣箱を2年間(2013年7月〜2015年8月)設置した。加えて,2012年7月には,キタリスを目撃した経験の有無について30名の島民を対象にアンケート調査を実施した。巣箱調査の結果,タイリクモモンガおよびヒメネズミの個体或は巣材等の痕跡は一切観察されず,また,アンケート調査の結果でもキタリスを目撃したことがある島民はいなかった。国後島におけるこれら3種の分布記録はこれまでも無かったが,本島でこれまでに用いられたことのない巣箱調査法によってもタイリクモモンガ・ヒメネズミが確認できなかったことから,本島には樹上性小型哺乳類が生息しないことが改めて示唆された。更新世氷期に生じたと考えられる国後島内の森林の縮小は,これら3種を含む森林性哺乳類にとって生息の可否を決定づける重要な環境変化であり,森林の縮小に伴い森林環境によく適応した哺乳類種は絶滅したのかもしれない。
著者
坪田 敏男 瀧紫 珠子 須藤 明子 村瀬 哲磨 野田 亜矢子 柵木 利昭 源 宣之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.69-74, 2002-03

人間の営みによって作り出された化学物質が,長期間分解されることなく環境に蓄積し,内分泌攪乱化学作用によって人や野生動物の生殖に異常をもたらすことが解明されつつある。内分泌攪乱化学物質には,DDTなどの農薬,PCB類などの工業化学物質,ダイオキシンなどの非意図的生成物,合成女性ホルモンとして使われたDESなどの医薬品などが含まれる。これまでに,アメリカ合衆国のアポプカ湖でのワニの個体数減少,ミンクやカワウソの繁殖率の低下,猛禽類の卵殻の薄化や孵化率の低下,イルカやアザラシの大量死,イボニシでのインポセックス,コイの雌雄同体化,ホッキョクグマの生殖能力の低下や間性といったさまざまな生殖異常が内分泌攪乱作用によって引き起こされている。日本においては平成10年度より内分泌攪乱化学物質およびダイオキシン類による野生生物への影響実態調査が開始され,さまざまな野生動物,とくに海獣類や猛禽類における内分泌攪乱化学物質の蓄積が認められた。今後さらに影響実態を究明し,内分泌攪乱化学物質問題を解決していく必要がある。
著者
岡元 友実子 ハン ソンヨン 木村 順平
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.57-61, 2015-09-30 (Released:2016-01-20)
参考文献数
23
被引用文献数
2

韓国におけるユーラシアカワウソの個体群は近年急激に減少し,国の天然記念物(No. 330) および絶滅危惧種Ⅰ類に指定されている。本種の保全をより効果的にするため,アジア地 域で唯一のカワウソ専門研究機関として,韓国の江原道華川に韓国カワウソ研究センター(KORC)が設立された。本資料では,KORCの歴史と研究活動を通し韓国におけるユーラシアカワウソ保全について紹介する。またKORC は本種の繁殖に関わる貴重な情報を海外へも提供している。その成果が活かされた例として,台北動物園における人工哺育の成功についても述べる。
著者
ルンカ グリシュダ シリアロンラット ボリパット カンワンポン ダオルン 増田 隆一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.39-43, 1999-03

約30年前, タイ農業組合省林産公団は子ゾウ訓練学校(YETS)を創立した。創立目的は, 森林伐採に使用する若い使役ゾウの訓練と子ゾウを保育することであった。最近, この訓練学校は拡張され, 名前もタイ国立ゾウ保護センターと改称された。このセンターの名称と役割は, タイにおけるゾウの保全のために再度検討されたのである。現在のゾウ保護センターの活動は, 保全対策, ゾウ使いとゾウの訓練, 治療活動, およびツーリズムを管理していくことである。その他, 移動式のゾウ病院, 学校生徒の見学会, ゾウに関する展示館など市民に向けた活動も行っている。さらに, 繁殖計画および家畜ゾウの野生復帰計画も最近の研究目的となっている。センターの年間経費は1, 300万タイバーツであり, そのうち約700万タイバーツが林産公団から支給されている。残りの経費は, NGO, 寄付, またはツーリズムによる収入によって支えられている。
著者
シリアロンラット ボリパット アンカワニシュ タウィポケ カンワンポン ダオルン 増田 隆一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.65-71, 1999-03

タイ北部のメーホンソン県ナムトクメースリン国立公園周辺に生息する野生ゾウについて, 予備的情報を収集した。この国立公園内および周辺における数多くの村落は, アジアゾウ(Elephas maximus)の生活に影響を及ぼしている可能性がある。そこで, 野生ゾウの痕跡に関する野外調査を行うと共に, カレン族の人々から聞き取り調査を行った。その結果, 2頭のメス成獣の足跡を認めた。前脚足跡は円周を測定した結果, これらの2頭のゾウの肩高さは各々2.9mおよび2.3mと推定された。ゾウの糞およびゾウによって木の幹につけられた泥が発見された。また, 体毛も採取されたが, これは将来の野生集団の遺伝分析のために用いることができるであろう。さらに, 少数民族の人々と自然との関係について紹介した。
著者
山本 かおり 河村 篤紀 坪田 敏男 釣賀 一二三 小松 武志 村瀬 哲磨 喜多 功 工藤 忠明
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine = 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.103-108, 2002-09-01

本研究では,飼育条件下のニホンツキノワグマにおいてDNAフィンガープリント法による父子判定の有用性を検討した。制限酵素Hinf Iおよび(GATA)_4プローブを用いたDNAフィンガープリントはニホンツキノワグマの個体識別および父子判定に有用であることが示された。1995年から1997年の間に11頭の母グマから生まれた13頭の子グマと22頭の父親候補の雄グマについて父子判定を行った結果,7頭の雄グマが父親と判定された。特に2頭の雄グマが8頭の子グマの父親と判定された。本研究では,飼育条件下において雌グマが多くの雄グマとの交尾の機会をもっても,ある特定の雄の繁殖成功が高くなることが示された。
著者
伊藤 英之 遠藤 千尋 山地 明子 阿部 素子 村瀬 哲磨 淺野 玄 坪田 敏男
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.79-84, 2005-09

タカ目の多くの種は他の多くの鳥類と同様に外部形態から性判別をすることが困難である。この問題は, タカ目に関する生態学の研究を妨げ, 保存のための計画を作製することを困難にする。そのため, タカ目における性判別方法の開発が望まれていた。我々は, CHD1WとCHD1Zの遺伝子間のイントロンの長さの違いを利用する方法を用いて, 日本に生息する8種類のタカ目において, 性判別を試みた。今回用いた方法は, これまでに開発された他の性判別方法よりも容易で迅速に行うことができる。また, 今回調査したすべての種において性判別が可能であった。さらに, わずかなサンプルから抽出したDNAからでも性判別が可能であり, この方法が野生個体/集団の研究に適用することが可能であることが示唆された。結論として, この研究において用いた方法は, タカ目の性判別に非常に有用であり, 希少なタカ目の将来の保全に大きな価値があると考えられた。
著者
片山 敦司 坪田 敏男 山田 文雄 喜多 功 千葉 敏郎
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.26-32, 1996-02
参考文献数
24
被引用文献数
8

1991年3月から1993年8月までの間に, 岐阜県および京都府で捕殺された雌ニホンツキノワグマ(Selenarctos thibetanus japonicus)19頭の生殖器の肉眼的および組織学的観察により, 性成熟年齢, 排卵数, 着床数, 一腹産子数および繁殖歴などを推定した。卵巣の重量および大きさは加齢に伴って増加の傾向を示した。その傾向は未成熟個体で顕著であり, 性成熟個体で緩やかであった。黄体および黄体退縮物の存在を性成熟の基準とした場合, 4歳以上の全ての個体は性成熟に達していると判定された。しかし, 4歳未満でも性成熟に達する例も存在することが示唆され, 性成熟に達する年齢には個体差があることがうかがわれた。黄体, 黄体退縮物および胎盤痕の観察と連れ子の数から平均排卵数は1.89, 平均着床数は2.00, および平均連れ子頭数は, 1.86と算定された。さらに, 黄体退縮物の組織学的観察により, 捕殺時点における過去の総排卵数の推定を試みた。その結果, 黄体および黄体退縮物の数と交尾期経過回数には正の相関が認められた。しかし, 黄体およびその退縮物の数にはばらつきがあり, 交尾期経過回数との間に大きな差が認められる例もあった。
著者
佐藤 寛子 羽山 伸一 高橋 公正
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.81-86, 2007
参考文献数
22

ダイオキシン類は,実験動物あるいは野生生物が暴露した場合,甲状腺の機能や形態に影響を及ぼす。今回我々は野生ニホンザル(Macaca fuscata)の甲状腺におけるダイオキシン類の影響について報告する。野生サルはヒトの居住地の周辺で生活しており,生物分類学的にヒトに最も近い動物種である。野生サルの脂肪組織,肝臓,骨格筋からダイオキシン類(PCDDs,PCDFs,Co-PCBs)の残留濃度を分析した。また,甲状腺については病理組織学的に検索し,画像解析を用いて濾胞上皮細胞の肥大を定量的に評価した。PCDDs,PCDFs,Co-PCBsの残留濃度はいずれも0.2〜26pgTEQ/g-fatの範囲だった。病理組織学的検索において,TEQに関連した甲状腺の変化は認められなかった。さらに,濾胞の数や濾胞上皮細胞の大きさにもTEQに関連した変化は認められなかった。このように,野生ニホンザルは自然環境からダイオキシン類に暴露されてはいたが,検出されたレベルでは甲状腺の機能や形態に影響を及ぼさなかったと考えられた。
著者
寺沢 文男 高橋 公正 山本 和明 篠崎 隆 浜田 和孝 奥山 康治
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.93-97, 2006
参考文献数
15
被引用文献数
1

推定12歳の雄ミナミゾウアザラシが突然死亡した。死亡する2日前まで臨床兆候を示すことなく解説にも参加し,それまでの10日間の平均摂餌量は35.8kgだった。解剖,病理組織学的所見より,肺気腫,急性カタル性腸炎,腎盂結石を伴う慢性間質性腎炎,リンパ節萎縮が示された。死亡後1時間以内の血液からClostridium perfringens A型,Clostridium sp.を含む5種類の細菌を分離した。
著者
寺沢 文男 高橋 公正 大下 勲 北村 正一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.117-122, 2005
被引用文献数
3 1

推定25歳以上の雌オキゴンドウが, 慢性化膿性肺炎で死亡した。肺を含む検体よりVibrio alginolyticusを分離し, 組織学的には肺にグラム陽性球菌を含む化膿巣を認めた。実施した血液検査で, 総蛋白が早期に, 次に月平均体温, 最後にフィブリノーゲンと白血球数が増加し, 総蛋白以外の項目は類似した傾向を示した。菌血症4回中3回(血液細菌培養検査13回実施)で, 白血球数は20,000/μl以上だった。
著者
三根 恵 松本 淳 加藤 卓也 羽山 伸一 野上 貞雄
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.101-104, 2010 (Released:2011-03-01)
参考文献数
17

2006年~2007年に,神奈川県逗子市および葉山町で捕獲されたアライグマProcyon lotorから直腸便と消化管内容を採取し,消化管内寄生蠕虫相を調査した。検出された寄生蠕虫種は合計8種で,その内訳は,不明線虫が2種,棘口吸虫科の吸虫類が2種,鉤頭虫類がSouthwellina hispida,Porrorchis oti,Sphaerirostris lanceoides,不明鉤頭虫の4種であった。調査地域のアライグマの寄生虫相は比較的単純であり,アライグマの原産地(北アメリカ)で認められる寄生虫種は確認されなかった。
著者
石本 明宏 山中 美佳 荒木 由季子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.87-95, 2007-09
参考文献数
18

2004年2月3日〜4月18日までに搬入された野鳥30種254羽の傷病の種類および死亡または瀕死の原因を病理学的に検索した。傷病の種類は,外部損傷が138例(54.3%),非外傷性の内臓の出血35例(13.8%),病原体の感染26例(10.2%),栄養障害24例(9.4%)およびリンパ組織の障害1例(0.4%)が認められ,30例(11.8%)には著変がなく,46例(18.1%)は材料の劣化により検査不能であった。死亡または瀕死の原因が特定されたものは,143例(56.3%)であり,内訳は,外部損傷による死亡135例(53.1%),感染症5例(2.0%)および栄養障害3例(1.2%)であった。病原体の感染26例の病原体の内訳は,寄生虫13例(50.0%),細菌9例(34.6%),細菌と寄生虫の混合3例(11.5%)および真菌1例(3.8%)であった。感染症により死亡したとみられたものは5例であり,結核様肉芽腫の形成,線虫の多数寄生を伴う筋胃潰瘍,壊死性腸炎,頭蓋骨Airspaceの化膿性炎およびアスペルギルス様真菌による深在性真菌症などがみられた。ウイルス分離を試みた184検体から鳥インフルエンザウイルスおよびニューカッスル病ウイルスは分離されなかった。今回の調査から,傷病野鳥の多くは,人と野鳥の生息環境の接触により発生していること,また,高率に各種病原体を保有していることが示唆された。今後,さらなる検討のためには,日頃からのモニタリング検査が重要である。
著者
柳井 徳磨 後藤 俊二 杢野 弥生 平田 暁大 酒井 洋樹 柵木 利昭 吉川 泰弘
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.41-48, 2003-03

サル類,特にマカク属において結核症は依然として重要な感染症である。アカゲザルに発生した牛型結核症および非定型抗酸菌症(鳥型結核菌症)の病理学的特徴について示す。アカゲザルの群れに牛型結核菌症が集団発生した。13例が急性の経過で瀕死に陥り,剖検では,肺,脾臓,肝臓,リンパ節および胸壁に著明な黄白色結節が認められた。組織学的には,いずれも肺および付属リンパ節,肝臓および脾臓に中心部が高度な乾酪壊死を示す結節状病変がみられた。結節状病変では,中心部は高度に乾酪壊死し、これを取り囲んで類上皮細胞,稀にランゲルハンス型巨細胞,さらにリンパ球の浸潤が認められた。抗酸菌染色では,乾酪壊死巣内には,少数の陽性桿菌が認められた。一方,非定型抗酸菌は,SIVに感染し免疫抑制状態にあるアカゲザルの腸管の粘膜と腸間膜リンパ節に肉芽腫性病変を引き起こした。多数の抗酸菌を容れた泡沫様大食細胞が肥厚した腸管粘膜および腸間膜リンパ節に認められた。マカク属は結核菌と非定型抗酸菌の双方に高い感受性を示すことから,集団発生の可能性に留意する必要がある。
著者
白水 博 野村 靖夫
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.45-51, 1997-02

バンドウイルカ(Tursiops truncatus)の2例に接合菌症(Zygomycosis)が発生した。2例とも主症状は, 元気消失, 食欲低下, 湿性雑音を伴う努力呼吸であった。臨床病理学的検査では, 好中球の増加とγ-グロブリン値の上昇がみられた。症例1には, 喉頭を狭窄する鶏卵大腫瘤と気管気管支リンパ節の腫大, 症例2には, 肺と気管に散在する黄白色病巣と気管気管支リンパ節の腫大が認められた。これらの病変部には, 隔壁が乏しく, 直角に分岐する傾向を示し, 太さが一定でない真菌が無数に存在することから, 接合菌症(zygomycosis)と診断された。
著者
福士 秀人
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.11-17, 2003-03
被引用文献数
1

ヘラジカおよび鳥類を感染源とするクラミジア症の集団発生が2001年に2件報告された。これまでのオウム病の報告例は家族内発生および孤発例を含め,個人の飼育鳥ないし野鳥が原因であり,動物の飼育施設における罹患報告はほとんどなかった。動物園などで感染したオウム病の例は国内では,姫路のサファリパークを感染源とする患者が一名,1996年に報告されている。2001年の11月から12月にかけて鳥類展示施設を感染源とするオウム病の集団発生があった。来園者12名,従業員5名が発病した。この事例は動物飼育施設での感染としては国内2例目,集団発生として1例目である。動物園のヘラジカの出産に関連して出産に立ち会った5名に不明熱が発生した。当初はブルセラはじめ種々の病原体が疑われたが,抗体検索からクラミジア抗体の上昇が見いだされ,最終的にヘラジカからクラミジアが分離された。分離されたクラミジアは鳥類のクラミジアとほぼ同一であった。これはほ乳類から人に鳥類クラミジアが伝播し発生した事例であると考えられた。