著者
遠藤 秀紀 森 健人 細島 美里 MEKWICHAI Wina 小川 博 恒川 直樹 山崎 剛史 林 良博 秋篠宮 文仁
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine = 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.131-138, 2012-09-01
参考文献数
13
被引用文献数
4

軍鶏,タイゲーム(カイ・チョン),ソニア,ファヨウミ,ロードアイランドレッドに関して筋肉重量を比較し,闘鶏用を含む直立型ニワトリ品種における筋肉系の形態学的特徴と機能的意義を検討した。軍鶏とタイゲームに関して,闘鶏用品種の筋肉系の機能形態学的特徴を以下のようにまとめることができた。1)ソニア,ファヨウミ,ロードアイランドレッドよりも軍鶏やタイゲームにおいて,体重に占める骨格筋の総重量比が大きかった。2)軍鶏とタイゲームにおいて,筋肉重量は後肢に集中し,走行,跳躍,直立姿勢に適応していた。3)闘鶏において柔軟で速い頸部の運動が要求されるが,軍鶏とタイゲームの頸部構造における筋重量比や筋重量指数は他品種に比べて小さかった。4)軍鶏とタイゲームの間では,検討した各筋肉の筋重量比や筋重量指数は類似していた。
著者
川瀬 啓祐 椎原 春一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.43-47, 2020-06-23 (Released:2020-08-24)
参考文献数
21

近年,動物園や水族館における野生動物の飼育に対する疑念が世界的に広まりつつある。2015年に世界動物園水族館協会は「野生生物への配慮 世界動物園水族館動物福祉戦略」を打ち出し,動物園水族館における動物福祉向上に取り組んでいく姿勢を強めている。上述の戦略の中で,動物福祉向上の具体的な取り組みとして環境エンリッチメントとハズバンダリートレーニングを推奨しており,現在,日本の多くの動物園や水族館で取り組まれている。近年,日本の動物園では飼育動物の高齢化などの多くの課題があげられており,今後こうした課題に対してガイドラインの策定などが必要であると考えられる。
著者
石橋 治 阿波根 彩子 中村 正治 盛根 信也 平良 勝也 小倉 剛 仲地 学 川島 由次 仲田 正
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.35-41, 2006 (Released:2018-05-04)
参考文献数
43
被引用文献数
1 3

沖縄島北部において捕獲されたジャワマングース(Herpestes javanicus)133頭およびクマネズミ(Rattus rattus)54頭のレプトスピラ(Leptospira spp.)の保有調査を実施した。その結果,ジャワマングースにおけるレプトスピラの分離率は30.1%であり,クマネズミでは20.4%であった。ジャワマングースから分離したレプトスピラは,抗血清を用いた凝集試験およびflaB遺伝子配列に基づく種の同定により,33株がLeptospira sp.血清群Hebdomadis,内14株はL. interrogans,5株がL. sp.血清型Javanicaおよび2株がL. interrogans血清群Autumnalisと推定された。これまでにも沖縄島のジャワマングースから血清型HebdomadisとAutumnalisは分離されているが,血清型Javanicaを分離したのは今回が初めてである。クマネズミから分離されたレプトスピラは,11株すべてがLeptospira sp.血清型Javanica,内1株がLeptospira borgpetersenii血清型Javanicaと推定された。沖縄島北部のヒトにおける抗体調査では,血清群Hebdomadisに対する抗体の保有率が高く,また,近年この地域から血清型Hebdomadisに感染した事例が報告されている。これらのことから,沖縄島北部において,ジャワマングースがヒトへのレプトスピラの感染環の一端をになっていることが示唆され,クマネズミはマングースへのレプトスピラ媒介動物であることが推察された。
著者
齊藤 慶輔
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.73-78, 2017-12-22 (Released:2018-05-04)
参考文献数
3
被引用文献数
1

ロシア連邦のサハリン島では,サハリン開発と呼ばれる石油・天然ガス開発が進められている。鉱区であるサハリン北東の沿岸は希少種オオワシの繁殖地にあたる。2000年より実施してきたオオワシの生態調査では,潟湖周辺に約300つがいが繁殖していると推察され,1000個近い巣も確認されている。オホーツク海に接するサハリン北東の潟湖は極めて浅く,この浅瀬や沿岸の湿地帯に敷設されたパイプラインが破断した場合,石油は瞬く間に湖底まで汚染し,ワシの重要な餌資源を根絶するばかりか,周辺の生態系も壊滅してしまう。この島は凍結と解氷を繰り返す脆弱な土壌や活断層が多く,パイプラインが破断した場合,石油が河川,隣接する湿原や潟湖,さらにはオホーツク海へと広がることが危惧される。2006年2月,知床半島に5500羽以上の石油に汚染された海鳥の死体が漂着した。東樺太海流に乗ってサハリン沖から流されてきたと思われたが,汚染源は特定されていない。漂着鳥の多くは,石油が身体に付着したことで浮力を失い,溺死もしくは低体温症により死亡したと診断された。消化管に石油が確認された個体も多く,羽繕い等の際に石油を経口摂取したと推察された。海鳥が漂着した海岸で2羽のオオワシも死体として収容され,胃内から黒褐色の油に汚染された海鳥の羽毛や骨が認められた。消化器系病変の他,副腎や甲状腺の肥大など重油を経口摂取した際に認められる病理所見も確認された。
著者
中川 拓也 井上 さゆり 横畑 泰志 佐々木 浩 青井 俊樹 織田 銑一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.13-20, 2012 (Released:2012-08-23)
参考文献数
42
被引用文献数
1 1

日本の中央部および西部で1982~2002年に収集された70頭のニホンイタチ(Mustela itatsi)および12頭のタイリクイタチ(M. sibirica)の寄生蠕虫類を調査した。吸虫1種(浅田棘口吸虫Isthmiophora hortensis(Asada, 1926)),線虫3種(日本顎口虫Gnathostoma nipponicum Yamaguti, 1941,Sobolyphyme baturini Petrow, 1930および腎虫 Dioctophyme renale(Goeze 1782))がそれぞれ岐阜および愛知県,兵庫県,石川および福井県および京都府,兵庫県産のニホンイタチから得られた。 鉤頭虫の1種,イタチ鉤頭虫 Centrorhynchus itatsinis Fukui, 1929が東京都および静岡,石川,福井,岐阜,三重,滋賀および鹿児島の各県産のニホンイタチおよび三重および滋賀県産のタイリクイタチから検出された。今回のS. baturiniの検出は,本種のニホンイタチからの,また中部および西日本からの初記録となった。他の種については新しい産地の報告となった。
著者
長竿 淳 野尻 あゆ美 進藤 順治 吉岡 一機
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.79-87, 2017-12-22 (Released:2018-05-04)
参考文献数
20

スローロリス(Nycticebus coucang)の上腕腺における組織学的特徴について検討した。上腕腺は組織学的ならびに超微細構造学的にアポクリン腺に類似し,形態の異なる3つの終末部と毛包に開口する導管から構成されていた。免疫組織化学的性状に関しては,上皮マーカーであるcytokeratin AE1/AE3抗体とエックリン腺マーカーであるS-100 Protein抗体ならびにCD44抗体に対して陰性で,アポクリン腺マーカーであるCD15抗体に対して陽性を示す終末部と,上皮マーカー,エックリン腺マーカー,アポクリン腺マーカーのいずれのマーカーにも陽性を示す終末部が認められた。以上より,スローロリスの上腕腺は形態的にアポクリン腺の特徴を示す3種の異なる終末部から構成され,免疫組織化学的性状に関しては,アポクリン腺と,アポクリン腺およびエックリン腺両者の特徴を有する腺の2種類の終末部から構成されると推察された。
著者
遠藤 秀紀 林 良博 山際 大志郎 鯉江 洋 山谷 吉樹 木村 順平
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.67-76, 2000-03
被引用文献数
1

太平洋戦争中の東京都によるいわゆる猛獣処分によって, 3頭のアジアゾウが殺処分となったことは, よく知られている。これら3頭のゾウに関しては, 東京大学や国立科学博物館などに遺体の一部が残されている可能性が示唆されていた。本研究では, 3頭のアジアゾウの遺体に関し, 文献と聞き取り調査を行うとともに, 関連が疑われる東京大学農学部収蔵の下顎骨に関しては, X線撮影による年齢査定を進めて処分個体との異同を検討した。その結果, 東京大学農学部に残された下顎骨は他個体のものである可能性が強く, 戦後発掘され国立科学博物館に移送された部分骨は標本化されなかったことが明らかになった。したがって, 東京都恩賜上野動物園に残る雄の切歯を除き, 該当する3頭の遺体は後世に残されることがなかったと判断された。また遺体から残された形態学的研究成果は, 剖検現場の懸命の努力を物語っていたが, 研究水準はけっして高いとはいえず, 十分な歴史的評価を与えることはできなかった。
著者
中山 侑 大宜見 こずえ 田名網 章人 小針 大助
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.65-72, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
22

本研究は飼育下のオオアリクイ(Myrmecophagga tridactyla)に対して新奇物(novel object)を3種提示し,行動に及ぼす影響と効果の持続期間の違いを明らかにすることを目的とした。2009~2010年に3園のオオアリクイ5頭を対象とした。新奇物3種(横木, 土山, ホース)を提示して5〜7日間の行動動観察を行った。新奇物に対する反応(行動様式・反応時間)を連続サンプリング,個体維持行動(移動・探査・休息・その他)を1分間隔の瞬間サンプリング,土山とホースは常同行動も1分間隔の1-0サンプリングにて記録した。その結果,新奇物に対する行動様式は,土山とホースにおいて特異的な行動(土山:擦り付け, 掘る, 警戒,威嚇,ホース:遊戯)がみられた。反応時間は新奇物間で長さが異なった(横木≧ホース≧土山)。また,新奇物への反応時間はどの新奇物も提示後1~3日目にピーク日を迎え,5~7日にピーク日の-70%以下となった。維持行動のうち,主たる行動の移動と探査行動は,新奇物の種類の影響がなかった。また,常同行動への影響は個体ごとに異なっていたが,コントロールよりも低い日数の割合の平均は,土山:78.8±0.3%,ホース:82.1±0.2%であった。以上のことから,オオアリクイへの新奇物提示は,新奇物の種類により反応行動の様式が異なるが,どの種類でも1-3日を過ぎると反応時間が低下する可能性が示唆された。一方で,反応時間が低下した後も少なくとも7日間は新奇物の存在自体が環境刺激となり常同行動が減少する可能性が考えられた。
著者
大石 和恵 丸山 正
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.81-89, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
44

この数十年の間に鰭脚類において何回かの感染症による大量死が報告され,鰭脚類と海洋の保全について,世界的な関心がもたれている。日本沿岸ではそのような大量死は今のところ見られていないが,北海道沿岸に棲息する鰭脚類において,インフルエンザウイルス,モービリウイルス,ブルセラ菌,トキソプラズマ,ネオスポラの5つの病原体の血清疫学調査がなされ,全ての病原体に対して特異的抗体が検出されている。この総説では,これらの血清疫学の結果を,この分野の近年の重要な知見を交えながら概説する。これらの病原体は接触や摂餌を通して種を超えて伝播する可能性があり,鰭脚類の保全に加え,感染症のハブとしての鰭脚類にも着目して,陸と海を繋ぐ生態系に棲息する他の哺乳類や,それ以外の動物,例えば鳥類,餌となる小動物,寄生虫などを含む大きな枠組みの中で捉える必要がある。近年の環境の変化は,動物の棲息域や行動に影響を与え,種間伝播のリスクを高める可能性がある。鰭脚類のみならず,より広い動物群におけるモニタリングの継続が重要である。
著者
福田 桂子 杉山 広 熊沢 秀雄 多々良 成紀 金崎 依津子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.21-24, 2017-03-31 (Released:2017-06-08)
参考文献数
15

高知県立のいち動物公園で飼育されていたマンドリル(Mandrillus sphinx)1頭が死亡し,肺に形成された虫嚢に吸虫の寄生を認めた。成虫と糞便内虫卵の形態および成虫DNAの塩基配列から,虫体は宮崎肺吸虫(Paragonimus miyazakii)と同定された。マンドリルは,飼育施設に侵入したサワガニ(Geothephusa dehaani)を摂食して感染したと考えられた。本事例は,日本においてヒト以外の霊長目が宮崎肺吸虫に自然感染した初めての報告である。
著者
大原 佳世子 川西 秀則 伊藤 大 正岡 亮太 藤井 光子 福本 幸夫
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.99-104, 2000 (Released:2018-11-03)
参考文献数
10

広島県(農林水産部)が1994年から実施したツキノワグマ保護管理計画に基づいて捕獲された野生ニホンツキノワグマの, 薬物による不動化を実施した。不動化の方法は, 箱罠またはくくり罠で捕獲された個体に対して, 20%塩酸ケタミンと2%あるいは5%塩酸キシラジンの混合液を, 吹き矢, 麻酔銃または注射器によって筋肉内注射した。実施した26例のうち, オス12例, 雌3例の合計15例で, 初回の注射で不動化することができた。基準投与量は体重1kg当たりケタミン10mg, キシラジン1mgとし, 推定体重に基づいて投与量を計算し, 不動化後に実測した体重から体重1kg当たりの投与量を逆算した。実際の投与量は体重1kg当たり, 最低ケタミン6.25mg+キシラジン0.625mgから, 最高ケタミン20.00mg+キシラジン2.00mgで, 注射後3〜11分で不動化した。また, この不動化に要した注射液の注入量は, 最少が体重26kgの個体に対する1.75ml(20%ケタミン液+5%キシラジン注射液使用), 最多が体重75kgの個体に対する15ml(20%ケタミン液+2%キシラジン注射液使用)であった。不動化薬投与による副作用と思われる症状は, 1頭において軽度の全身性痙攣と唾液分泌昂進を認めたが, 無処置で覚醒した。
著者
増井 光子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.17-23, 1996 (Released:2018-05-05)
参考文献数
21

最近は, 動物園でも種保存事業が重要視されるようになってきた。そのためには, 動物園動物の累代飼育繁殖に力点を置く必要がある。しかし, 累代繁殖を続けていくと, 幾つかの問題が生じてくる。その問題点の主なものは, 動物舎の汚染による感染症の発生, 個体の早熟化, 骨密度の低下, 体格の矮小化と体形の微妙な変化, 毛色の変化, 人工飼育動物でしばしば認められる, 社会性の欠如による繁殖障害, 集団の活性度の低下などである。これらのことは, 既に順化された動物の家畜化の経過の中で生じたことと同様であると思われる。動物園は野生動物が本来もっているものをできるだけ維持しようとするならば, 家畜化現象は好ましいものではない。一定面積の動物舎での適正飼育頭数を把握することは, 集団の健康管理上大切である。過密になれば新生子の死亡率は高まるし, 動物舎の汚染も進み, 感染症も発生しやすくなる。早熟化は, 多くの動物種に認められるし, 骨密度の低下は, 矮小化や体形の変化を招き易い。異種の動物に刷り込まれてしまう現象は, 人工哺育や人工育雛を行う場合, 特に注意を要する。基礎個体が少ない集団は, そのままにしておくとたとえ一時期繁殖成績が上がっても, 次第に衰退していく。活性化をはかるためには新規個体の導入が必要である。
著者
柳井 徳磨 酒井 洋樹 後藤 俊二 村田 浩一 柵木 利昭
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.45-51, 2002 (Released:2018-05-04)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

近年,動物園では飼育技術の向上に伴い,動物の長期生存が可能になり様々な腫瘍性病変に遭遇する機会が増えた。これらの腫瘍性病変を検索し,情報を蓄積することは,ヒトの同様な腫瘍の発生原因を解明するうえで有用である。我々は,ヒト腫瘍との比較のために,ヒトに類縁なサル類の様々な腫瘍,アジア産クマ類の胆嚢癌に着目して症例を蓄積し,データベース化を試みている。以下に概要を紹介する。1) サル類の腫瘍:サル類における腫瘍発生の報告は極めて少ない。動物園で飼育した各種のサル約600例を検索して,13例に腫瘍性病変が認められた。神経系では,カニクイザルの大脳に星状膠細胞腫,消化器系では,ニホンザルの下顎にエナメル上皮歯芽腫,ブラッザグエノンに胃癌,シロテテナガザルおよびボウシラングールの大腸に腺癌が認められた。内分泌系では,ワタボウシタマリンの副腎に骨髄脂肪腫,オオガラゴの膵臓に内分泌腺癌が認められた。造血系では,ニホンザル2例の脾臓にリンパ腫,ハナジログエノンのリンパ節にリンパ腫が認められた。その他,ムーアモンキーの卵巣に顆粒膜細胞腫,ニホンザルの皮膚に基底細胞腫が認められた。これらサルの腫瘍の形態学的特徴は,ヒトの同種のものと酷似していた。2) クマ類の胆嚢癌:動物園で飼育されているナマケグマとマレーグマに,胆嚢癌が好発することが知られている。7例のクマ類に発生した胆嚢癌を検索し,その病理学的特徴を調べた。組織学的には管状腺癌の浸潤と線維化が高度である。クマ類の胆嚢癌はヒト胆嚢癌の有用なモデルとなりうると考える。
著者
浜 夏樹 村田 浩一 野田 亜矢子 川口 美保子 酒井 洋樹 柵木 利昭 SASSEVILLE Vito G. 柳井 徳磨
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.53-58, 1998
参考文献数
16
被引用文献数
2

動物園で飼育していた雌マヌルネコの1例が突然元気がなくなり, 食欲が廃絶した。血液および生化学検査では, 貧血, 著明な好中球の左方移動, 低リンパ血症, 高蛋白血症, 尿素窒素およびクレアチニンの上昇, 電気泳動像ではガンマーグロブリン分画の著明な増加が認められた。尿検査では, 蛋白尿と潜血が認められた。血清抗体検査では, ネコ伝染性腹膜炎(FIP)抗体の著明な上昇(25,600)がみられたが, ネコ白血病ウイルス(FLV)抗原およびネコ免疫不全ウイルス(FIV)抗体はそれぞれ陰性であった。剖検では, 左右腎臓は腫大し, 巣状多中心性, 一部は癒合しつつある白色結節が皮質に認められた。肝臓では, 実質内に小壊死巣が散見された。胸水および腹水の貯留は認められなかった。組織学的には, 血管炎を伴う壊死あるいは好中球の浸潤を伴う肉芽腫性反応が, 腎皮質, 肝臓, リンパ節および肺胸膜に種々の程度に認められた。直接蛍光抗体法によりFIPV抗原が肉芽腫病変内に浸潤する大食細胞に認められた。以上のことから, 本例は非滲出型ネコ伝染性腹膜炎と診断された。また, 動物園における野生ネコ科動物への同ウイルスの感染および発病の可能性が示された。
著者
楠 比呂志 長谷 隆司 佐藤 哲也 土井 守 奥田 和男 上田 かおる 大江 智子 林 輝昭 伊藤 修 川上 茂久 齋藤 恵理子 福岡 敏夫
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.25-30, 2006
参考文献数
29
被引用文献数
3 3

国内の3施設で飼育されていた18頭の成熟雄チーターから,経直腸電気射精法で採取した31サンプルの精液の性状を分析した。なお18頭中13頭は,繁殖歴がなかった。18頭の雄の精液の性状は,精液量が0.91±0.11ml,精液pHが8.1±0.1,総精子数が32.6±5.4百万,生存精子率が84.9±1.9%,精子運動指数が53.7±3.8,形態異常精子率が66.1±3.4%,正常先体精子率が68.5±5.1%で,これらの値は,他のチーターにおける報告値の範囲内であった。繁殖歴がある雄とない雄の精液を比較したところ,先体正常精子率以外のパラメーターについては,両者間で有意な差はみられず,繁殖歴がない雄の正常先体精子率(59.8%)も致命的なほど低くはなかった。以上の結果から,飼育下の雄チーターにおける低受胎の主因が,精液性状の低さである可能性は少ないと考えられた。
著者
中津 賞
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.97-102, 2011-09-30 (Released:2018-07-26)
参考文献数
2

大阪の一動物病院に来院する外国産野生動物について詳細に分析した。2005年9月1日から2009年8月31日までの4年間に来院した新患動物数から検討した。新患動物総数 20,987頭で,エキゾチックスは14,855頭であった。9,152頭がペット用に繁殖された動物と看做された。残りの5,703頭(27.1%)が野生由来の疑いのある動物であった。 この調査の結果,日本では各人が好む動物を世界中から輸入し,飼育できる実態がよく現されていた。いったん輸入された鳥は原産地に送り返されることもなく,また繁殖された個体が現地に戻されて個体数の回復に寄与することも皆無であることを考えると,こうした生命が消費されていることに注目する必要がある。 バラ苗などの輸入時には,土壌は一切持ち込みが認められないので,根は洗浄される。土壌中のあるゆる微生物群の日本への侵入を拒否している。動物は体内に多数で,複雑な,細菌をはじめとする微生物叢を保有して健康を保っている。これらの無数ともいえる生物群を同時に日本に輸入していることには無頓着であるのに驚かされる。ペットとして飼育する動物はいわゆる古典的なペット,例えば,犬,猫,鳥ではブンチョウ,セキセイインコ,ジュウシマツなどの数百年に渡ってペット化されて維持されている種が飼いやすく,ペットとして最適の動物であるので,外国産野生動物に代わってこれら古典的ペットの飼育に留めればと思う。
著者
村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.131-135, 2014-12-22 (Released:2018-05-04)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

近年,高病原性鳥インフルエンザ,口蹄疫等の家畜感染症が世界各地で発生し,野生動物との関わりが懸念されている。これらの感染症は,野生動物の生物学的移動や商業的な移動に伴い広域的に伝播し流行する可能性があるため,そのリスクを正しく評価し対応するには,野生動物感染症情報ネットワークの構築と感染症発生に対する早期警報システムの導入が必須であり,これらに関する基盤的調査研究を国際連携の下で実施する必要がある。国立の野生動物医学研究機関による家畜と野生動物の共通感染症防御を目的としたサーベイランス体制の構築が望まれるが,経済的もしくは社会的事由に加え,本分野に関与する専門家の少なさもあって実現は容易でない。そこで,世界中の動物園で日常的に野生動物の健康管理に従事している専門家としての獣医師に着目し,国際的な動物園ネットワークと動物園獣医師との協働による野生動物感染症の監視・制御体制を提案したい。その人的交流と感染症対策技術が広域的に共有され活用されることで,野生動物感染症情報ネットワークおよび野生動物と家畜の共通感染症発生に対する早期警報システムが構築され,将来的により組織的な野生動物感染症防御へ発展することが期待される。国際的な動物園獣医師の連携は,保全医学に基づく家畜を含む動物とヒトと生態系の健康,すなわち生態学的健康(Ecological Health)の維持に貢献できる。
著者
高見 一利 渡邊 有希子 坪田 敏男 福井 大祐 大沼 学 山本 麻衣 村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.33-42, 2012-06-29 (Released:2018-07-26)
被引用文献数
1

2010年度に,日本各地で野鳥から高病原性鳥インフルエンザウイルスが確認され大きな問題となるなか,発生地や調査研究機関など各所で体制作りが進められた。日本野生動物医学会も,野生のツルへの感染が確認された鹿児島県に専門家の派遣を行い現場作業に貢献した。これらの取り組みから一定の成果が得られ,情報収集や体制構築の検討も進んだ一方で,様々な課題や問題点も明らかとなった。一連の活動や検討を踏まえた結果,野生動物感染症対策を効果的に促進するためには,感染症の監視と制御に役立つ体制を構築することが必要であると考えられた。従って,本学会は体制整備として,以下の取り組みを進めることを提言する。1.野生動物感染症に関わる法律の整備2.野生動物感染症に関わる省庁間の連携3.野生動物感染症に関わる国立研究機関の設立4.野生動物感染症に関わる早期警報システムの構築5.野生動物感染症に関わる研究ネットワークの構築6.野生動物感染症に関わる教育環境の整備この提言は,本学会の野生動物感染症に対する方向性が,生態学的健康の維持にあることを示すものである。
著者
鈴木 希理恵
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.111-113, 2011-09-30 (Released:2018-07-26)
参考文献数
8

外国産野生動物ペットを一般家庭で飼育する場合,捕獲による絶滅,外来生物,感染症と体内細菌群,適正な飼養,密輸と違法販売の5つの問題がある。捕獲による絶滅の背景として大規模な自然の開発があり,その副産物として野生動物ペットが大量に輸出されている。しかしこのような生息地の現状は知られていない。密輸と違法販売で規制強化と普及啓発に効果があった事例としてスローロリスがあげられる。スローロリスは日本では2000年以降許可された輸入はないが,販売されていた。2007年9月からワシントン条約で国際取引が原則禁止され,2008年1月にスローロリスの密輸販売者が逮捕される事件が報道されると,購入が控えられるようになり,2008年,2009年と密輸はなくなった。JWCSはスローロリス研究者を招き,密輸・違法販売の取締まりのための識別と押収後の対応についてのワークショップを関係者に対して行った(2009年2月)。外国産野生動物ペット問題の解決策として規制と普及啓発は効果があると思われる。そのためには獣医師・研究者による研究が必要であり,それを基盤としてNGOは規制強化の政策提言や一般への教育普及を担うことができる。