著者
宮崎 綾子 田中 裕子 牧野 里美
出版者
札幌医科大学
巻号頁・発行日
2008-12-01

ひとりで耳鼻科受診時の椅子に座れない5歳児へ、キワニスドールとアンパンチ遊びによるプレパレィションを実施したところ、ひとりで座れるようになった。アンパンチ遊びとは、キワニスドール(5歳児が描き名前をつけた)の耳や鼻にバイキンマンシールを貼り、スプーンの柄にアンパンマンシールを貼り、このスプーンでバイキンマンシールを叩き、その時に筆者らが『あれ一』といいながら、バイキンマンシールをはがし、新しいバイキンマンシールを貼り付けることを繰り返す遊びである。今回、キワニスドールが「お守り」、つまり移行対象の役割を担い、アンパンチ遊びが5歳児へ診察の意味を伝え、「やらなくてはならない」と認知され、診察時の具体的な対処行動を児自身が考え出し、その行動によって自身をコントロールすることができたので報告する。
著者
本望 修 佐々木 祐典 浪岡 愛 中崎 公仁 浪岡 隆洋
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

脳主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞においては、閉塞血管の灌流領域の脳代謝および機能は低下し、脳実質や脳血管は脆弱化している。一方、近年、血栓溶解療法や脳血管内治療の急速な進歩により、閉塞血管の再開通率は80-90%に至っている。このため、脆弱化した脳実質組織や毛細血管に対して、急速に血流が再開されることよって、脳細胞障害や出血性合併症等を引き起こす再灌流障害は、極めて重要な病態となってきており、急いで対応すべき課題となっている。我々はこれまで、脳梗塞動物モデルを用いた基礎研究で、骨髄幹細胞(mesenchymal stem cell: MSC)の静脈からの全身投与が治療効果を有することを多数報告してきた。治療効果のメカニズムとして、①神経栄養因子を介した神経栄養・保護作用、②サイトカインによる抗炎症作用、③脱髄軸索の再有髄化、④損傷軸索の再生、⑤軸索のSprouting、⑥血管新生による血流増加、⑦神経系細胞への分化による脳細胞の再生、⑧免疫調節作用などが、多段階に作用することが判明している。更に近年、これらの作用メカニズムに加え、⑨血管内皮細胞やペリサイトを再生させ、血液脳関門(blood brain barrier: BBB)を修復する治療メカニズムも報告している。本研究では、一過性中大脳動脈閉塞モデル等を用いて、再灌流障害に対する骨髄幹細胞移植の治療効果を詳細に検討することを目的とする。さらに、血栓溶解療法(tPA静脈内投与)と細胞移植治療との相互作用を解析し、tPAの副作用に対する軽減効果についても検討しており、補助金は適切に使用されている。
著者
郷久 鉞二
出版者
札幌医科大学
雑誌
札幌医学雑誌 = The Sapporo Medical Journal (ISSN:0036472X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.5-20, 1974-04-30

Psychological considerations for the treatment in the field of ohstetrics and gynecology arc reported in this study as a result of a psychosomatic approach. 1) Psvcological tests were carried out in 213 cases of sterile women, using the Cornell Medical Index (CMI) and the Yatabe-Gilford test (YG). 148 cases showed normal patterns. 65 cases showed neurotic patterns. 57 cases, 38.4% in the former and 43 cases, 66.1% in the latter required hormone therapy alone or combined with other therapeuitic means. 5mg of Diazepam were administrated intravenously in the course of the Rubin's test, and the resultant patterns were studied. The group which showed a normal pattern in the psychological tests showed a 34.4% effectivity to Diazepam and others showed no change or somewhat spastic patterns. On the other hand, the group that showed neurotic patterns in the psychological tests showed a 4.2 effectivity to Diazepam while others showed no response or somewhat spastic patterns. 2) 33 cases suffering from symptoms of climacterium were treated with hormone therapy alone. All 10 cases showing a normal pattern of CMI showed good results, and 43% out of 23 cases showing neurotic patterns showed good results. 82% out of 22 cases showing a normal pattern in YG showed good results and 33% out of 6 cases showing an abnormal pattern gave good results. 8 cases showing no effect in response to hormone therapy were treated dy psychosomatic therapy. 3) The cases of frigidity and colpospasm were classified by their resistence to the treatments. 4)Two cases of the pseudocyesis were studied. 5) The group of pregnant women who gained 30 points or ovea of the N and E scorings in the Maudsley test (MPI) suffered from hyperemesis graviclarum (P<0.05.) 6) The scoring of Tayler's Anxiety test (MAS) and MPI for pregnant women showed different patterns according to the period of the pregnancy and especially in the case of 29-36 weeks of nulipara they showed a high scoring. It seems that the high scorings of MAS had a relationship to a subinvolution of uterus namely, a hypogalactia, resulting in birth of smoll for date babies (P<0.10). 7) The neurotic group had an unreasonable tense attitude psychologically speaking. These cases showed a small subjective effect in painless delivery in which fluothane gas was administered and complaints of the first stage of the laber were noted. 8) In testing pregnant women in whom labor lasted for 10 hours and running a comparison against the results in pregnant women in whom labor lasted more than 10 hours, it was found by MPI that those who had a higher tendency toward extroversion and neurotic patterns had longer labor (P<0.01).
著者
遠藤 俊明
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

多嚢胞性卵巣症候群polycystic ovary syndrome(PCOS)の原因が、男性ホルモンの暴露によるのではないかと考えられている。今回、男性ホルモンとPCOSの関係を、男性ホルモンを投与された性同一障害のfemale to male taranssexuals(FTM)をPCOSモデルとして検討した。結果は男性ホルモン投与により、内分泌学的にも、組織学的にも部分的ではあるが2次性のPCOS状態になることが判明した。このことにより、男性ホルモンの暴露がPCOSの原因の一つであることが示唆された。
著者
欠ノ下 郁子 澤田 いずみ 吉野 淳一
出版者
札幌医科大学
雑誌
札幌保健科学雑誌=SAPPORO MEDICAL UNIVERSITY SAPPORO JOURNAL OF HELTH SCIENCES (ISSN:2186621X)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.14-20, 2017-03-01

目的:思春期に統合失調症を発症した人が不調を感じてから精神科病院へ受診し、統合失調症との認識を持つまでのMHLの様相を明らかにすることである。研究方法:研究協力者4名を対象に半構成的面接を行い、質的記述的研究法を用い分析を行った。結果:本研究の結果として、MHLは4つのカテゴリーで構成され、初回受診過程におけるMHLの様相は(健康状態への自己認識)の変化に沿って4つのフューズに分かれた。対象者は(病気になって初めてわかる精神疾患に関する知識)を語り、病気になるまでは知識がない中で(必死に模索してきた自己対処行動)を行っていた。初回受診に至ったのは、(周囲の人の健康状態への認識)の変化によるものだった。結論:初回受診過程におけるMHLは4つのフューズに分かれ、このMHLに影響する要因は個人特性、思春期の特徴、対象者を取り巻く人々のMHLが考えられ、DUP短縮に向けた看護の可能性が示唆された。
著者
石田 肇 近藤 修
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

1.斜里町知床博物館の協力により斜里町ウトロ神社山遺跡を発掘し、男性人骨1体を追加することができた。2.東京大学文学部常呂実習施設保管の稚内市大岬遺跡出土人骨、北海道大学文学部保管の稚内市オンコロマナイ遺跡ならびに大岬遺跡出土人骨の調査を行なった。3.断片的な資料ながらも,サハリンの南部,北海道のオホーツク海岸,千島列島に,一つのまとまった群としてオホーツク文化を担った集団が存在したらしいことがわかってきた。4.頭蓋形態小変異22項目の頻度から四分相関係数を用いて生物学的距離を推定してみた。距離では,オホーツク文化人骨から近い集団として,サハリンアイヌ,バイカル新石器時代人骨,アムール集団を挙げることができる。国立遺伝学研究所の斎藤成也氏の開発した近隣結合法で集団間の関係をみると,オホーツク文化人骨はアムール集団を中心としてバイカル新石器時代人を含むシベリア集団とアイヌの間に位置することがわかった。5.アイヌについては、北海道の中で脊稜山脈を挟む地域間での変異が大きい。これはアイヌの生活についての民族学的データや、遺伝学的なデータに見られる川筋を単位とした地域変異とは違った様相を見せる。アイヌの起源を縄文人とすると、縄文時代から近世までのアイヌ成立過程における外来要素の影響が無視出来ないが、遺伝的、文化的な要素がどの程度頭骨の形態変異に影響したのかはこれからの課題である。
著者
藤井 美穂 寒河江 悟 豊田 実 時野 隆至
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

MCA法による新しい遺伝子の同定:卵巣癌細胞株を用いMCA(methylated CpG island amplification)法により、正常細胞とでサブトラクションを行うことにより、卵巣癌での異常メチル化している多数の遺伝子を同定した。これは卵巣癌に抑制的に働く新たな遺伝子の発見につながるもので、現在遺伝子データベースを利用し各遺伝子について検討している。同時に各遺伝子のエピジェネティクな異常と卵巣癌での分子生物学的特徴について検討中である。TCF2遺伝子についての解析:上記のMCA法により、メチル化によりサイレンシングしている遺伝子の一つとしてTCF2遺伝子を同定した。TCF2は細胞の分化に関与する転写因子であり、各種腫瘍において発現異常が報告されている。実際卵巣癌ではTCF2遺伝子のメチル化は、卵巣癌細胞株16例中8例(50%)、卵巣癌症例68例中16例(23.5%)に認めた。メチル化を認める細胞株においては、発現の低下あるいは消失を認め、DNAメチル化阻害剤により遺伝子の再発現を認めた。また、プロモーター領域のヒストン脱アセチル化を認め、メチル化による遺伝子発現抑制にヒストン修飾が関与することが示唆された。さらに組織型別では明細胞性腺癌ではメチル化による抑制は少なく高頻度な発現が認められた。これは卵巣癌の中でも予後不良な明細胞性腺癌の生物学的解明につながる可能性がある。(投稿中)癌での細胞周期M期の制御の解析:これまで細胞周期M期に関わる遺伝子の異常と微小管阻害剤の感受性を検討してきた。ドセタキセルを暴露させたMitotic Indexの高い細胞株は抗癌剤に高い感受性を示し、CyclinBの核への集積が認められた。発現を調節している分子としてBUB1,MAD, Auroraなどの分子について検討中である。さらにCHFR遺伝子を細胞株に導入することによって、M期での分子制御機構の解明や抗癌剤の感受性の変化についても検討中である。
著者
高田 弘一
出版者
札幌医科大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2011

Stabilized Alpha-Helix of BCL9 peptide (SAH-BCL9) を設計・合成し,SAH-BCL9 が Wnt/β-カテニン転写活性を特異的かつ効果的に阻害し,大腸癌細胞株の増殖を抑制するのみならず、大腸癌の浸潤・転移、血管新生を抑制することを明らかにした. SAH-BCL9 は BCL9/Wnt シグナルが活性化している大腸癌において新たな分子標的薬として有用である可能性が示唆された.
著者
栗林 景晶 渡邉 直樹
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

再生不良性貧血(Aplastic anemia;以下AA)は、汎血球減少症を呈する症候群である。本研究では、AA患者血清中に特異的に発現する8種類の自己抗体を同定した。これらの自己抗体のうち3つは、健常人と比べAA患者で上昇していた。また、免疫抑制療法不応例よりも反応例で自己抗体価は高く、また、それらが高いほど免疫抑制療法に対する奏功率も高かった。これらの自己抗体は、汎血球減少症の中から免疫異常を有する患者を抽出し、免疫抑制療法の効果を予測するマーカーとなると考えられた
著者
平田 公一 佐藤 昇志 鳥越 俊彦 古畑 智久 大村 東生 亀嶋 秀和 木村 康利 九冨 五郎
出版者
札幌医科大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

消化器領域あるいは乳腺領域の超進行切除不能癌あるいは再発癌に対し、サバイビン2Bペプチドを用いた癌ペプチド療法を8例に実施した。6例に明らかな免疫学的反応を認め、臨床効果についてはrecist基準では6例にSD、2例にPDであった。尚、注射局所反応を除くと、有害事象についてはグレードIの発熱以外に面倒なものを認めなかった。したがって全例でプロトコル上の臨床研究は可能であった。一方、従来よりMHCクラスI発現が無いか極めて低い癌細胞のあることが知られており、それらについては、発現亢進のためにHDAC阻害剤の投与の有用性が動物実験的研究において知られていた。そこで適応症例については、ワクチン療法前にHDAC阻害剤の経口投与を試みた。登録症例研究計画期間終了直前に生じたことにより、現在、進行中であり、今後の分析対象とする。研究については安全に実施できたと言えるが、登録症例数の円滑な増加がみられないことが課題として残った。
著者
高後 裕 加藤 淳二 越田 吉一 新津 洋司郎 茂木 良弘
出版者
札幌医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

Long-Evans Cinnamon(LEC)ラットは金属(銅および鉄)代謝異常を有し、肝炎・肝癌を自然発症することが知られている。本研究では申請当初、長期エタノール摂取の中止による肝癌発症に与える影響を検討することを目的として本ラットにエタノールを投与したが、数日以内に死亡することが判明したため、平成5年度は本ラットに存在するエタノール代謝異常について検討した。LECラットの腹腔内にエタノールを投与し(2g/kg体重),血中エタノールおよびアセトアルデヒド濃度をガスクロマトグラフィーで測定すると,両者の血中濃度は,対照に比べエタノール投与4時間後まで約2倍遅延していた。次にLECラット肝のエタノール代謝関連酵素解析を行った結果、アルコール脱水素酵素(ADH)およびアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)活性(とくにlow KmALDH活性)は,対照のWistarラットに比べ約25%低下していた。そこで両酵素の活性低下の原因を明らかにする目的で、LECラット肝のADH-1遺伝子およびALDH-2遺伝子を解析した結果、LECラット肝ADH-1遺伝子の第1イントロンに16塩基のinsertionが存在するとともに、ALDH-2遺伝子の第67codonにCAG→CGG(Gin→Arg)の点突然変異が存在することを見い出した。すなわち、LECラット肝のADH-1およびALDH-2遺伝子は異常を有しているためにこれらの2つの酵素が不活性型となっているものと考えられた。
著者
木島 輝美
出版者
札幌医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は,認知症高齢者が落ち着いて過ごすことができる状態が一定して変わらずに維持される暮らし,すなわち「定常化された暮らし」の要素をとらえ,ショートステイを利用する認知症高齢者を安定した暮らしへ導くための援助について検討することであった。対象者は認知症高齢者とその家族の2事例(A氏,B氏)であった。研究方法は,対象者がショートステイを利用する前・後の自宅での面接およびショートステイ利用中の観察データにもとづき,施設入所中の様子と自宅での様子が異なる場面を事例的に分析した。認知症高齢者が安定した暮らしを営むために定常化することが望ましい要素として以下のようなものが見出された。A氏は日常生活の殆どに援助を必要としており,「時間のズレによる排泄や睡眠の変調」「食事内容や介助方法の違いによる食事拒否」が見られた。B氏は自宅での日常生活動作の殆どは自立しており,「自由に行動でき自立性が保たれると落ち着く」,「さりげなくサポートしてくれる存在により安心する」という様子がみられた。また,2事例に共通して,「普段のデイケアで利用している場所にくると安心できる」という様子がみられた。これらの結果より,日常生活に多くの援助を必要とする場合には生活時間や介護方法を一定に保つことが重要であると考えられる。よって,自宅での生活時間や介護方法についての詳細な確認を行い出来るだけ再現することが必要である。また自宅である程度自立している場合には,その自立性を保つことが重要であり,誇りを傷つけないように分かりやすい表示やさりげない誘導などが必要である。そして,ショートステイにおいて定常化された暮らしを維持するためには,家族と施設職員との情報交換の重要性が示唆された。
著者
吉崎 栄泰
出版者
札幌医科大学
雑誌
札幌医学雑誌 (ISSN:0036472X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.p321-338, 1983-06
著者
池田 望 澤田 いずみ 小塚 直樹 山田 惠子 影山 セツ子 乾 公美
出版者
札幌医科大学
雑誌
札幌医科大学保健医療学部紀要 (ISSN:13449192)
巻号頁・発行日
no.8, pp.59-65, 2005-12
被引用文献数
1

札幌医科大学保健医療学部教務委員会は、平成16年5月に、『大学が今後、組織的に学生にどんな支援ができるのか』を検討するための学生支援ワーキンググループを立ち上げた。検討に際し、学生の実態を知るために学生生活を『学業』、『経済』、『健康』面に分類し、全学生に対してアンケート調査を行い、今後の学生支援の方向性をさぐるための基礎データを得ることができた。その結果、1)専門科目への早期暴露の必要性、2)学業に関わる困難感を相談できる窓口の確保、3)奨学金や授業料減免制度などの受給機会を得やすくするシステムづくり、4)カウンセリング制度などの相談体制の周知徹底を図ること、などの課題が明らかとなった。さらに、アンケート調査から見えてきた学生の問題点について考察した。The committee of Educational Affairs of the School of Health Sciences established a Working Group for student support in May 2004 to determine what the school could do to support students systematically. The lifestyles of students categorized by educational, financial and health problems were investigated by a self-administered questionnaire survey. It was found that there was 1)a need for earlier exposure to advanced courses, 2)the establishment of a section for students to consult about academic problems, 3)the arrangement of a system making it easier to receive a scholarship or reduced tuition, and 4)the making sure the students are aware of counseling and consulting system. Some of the other issues of students are also discussed.
著者
塚本 泰司 三熊 直人 舛森 直哉 宮尾 則臣 伊藤 直樹
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1996

‘老化'と前立腺肥大症の発生との関係の一端を解明するために、1)ヒト前立腺の加齢による形態変化、2)前立腺平滑筋の機能、3)前立腺上皮、間質細胞の増殖と抑制、について臨床的、生理学的および分子生物学的検討を行った。その結果以下の知見を得た。1) Community-based studyにおける検討により、加齢にともなう経直腸的超音波断層上の前立腺の形態は、一部の男子では50歳前後にかけて、それまで均一であった前立腺が結節を呈するようになり、これらのうちの一部の男子でさらに肥大結節が増大するという経過を辿ると推測された。したがって、臨床的な前立腺肥大出現のtumingpointは50歳にあると考えられた。2) 前立腺平滑筋細胞の培養細胞株をguinea-pig前立腺より確立した。この細胞は形態学的および機能的所見からも平滑筋細胞であり、今後のin vitroの実験モデルとして有用と考えられた。3) 前立腺平滑筋の加齢による機能的変化の検討から、8週齢の若年guinea-pigと比較すると12か月の高齢guinea-pigでは収縮張力の低下が認められ、加齢が前立腺平滑筋の機能に影響を及ぼす可能性が示唆された。4) 前立腺肥大症の一部には下部尿路閉塞に対する治療のみでは排尿障害を改善できないことがあり、膀胱平滑筋の機能を改善させる治療が必要であることが示された。5) 前立腺の上皮および間質細胞はandrogenおよび各種の成長因子regulationを受けているが、TGF-betaを中心とするこれらの間のネットワークの解明を試みた。今回の結果とこれまでの知見を総合すると、androgen存在下では増殖に作用する成長因子により上皮および間質の恒常性が保たれ、androgen低下時にはTGF-beta発現が亢進し上皮細胞はapoptosisにより減少する。一方、TGF-beta発現増加によりFGF産生が刺激され間質の増殖が起こる。これが加齢にともなう前立腺肥大の発生機序の一つと推測された。
著者
一宮 慎吾 氷見 徹夫 佐藤 昇志
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

濾胞ヘルパーT細胞(Tfh細胞)は高親和性抗体の産生に重要で、また可塑性を示す一方、ヒトTfh細胞の機能制御機構や疾患との関連については未だ不明な点が多い。本研究では臨床検体を用いてヒトTfh細胞の医学的意義や機能制御機構を探ることを目的とした。研究の結果、Tfh細胞は閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因である肥大扁桃に多く含まれ、またアレルギー性鼻炎や気管支喘息患者の末梢血液中のTfh細胞サブセットの構成比が健常人と比較して異なっていた。不均衡な分化を示すTfhシフトあるいはTfh2シフトに、ALOX5関連脂質メディエーターやPOU2AF1転写制御因子が関係している可能性が見出された。
著者
目黒 誠
出版者
札幌医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

我々は新規の保存法である過冷却グラフト保存法の開発のため、基礎的実験を行った。グラフト肝の一部(1cm角ほどの肝臓組織片)をUW液に入れ、過冷却状態を検証してみたが、-5℃以下になるとUW液が凝固してしまい臓器保存不可能であった。そこで、-4℃で15時間保存した群と従来法である4℃で保存した群とで比較検討した。-4℃で保存した群で有意にUW液中のAST/ALT値が低値であったことから、-4℃での臓器保存が有用である可能性が示唆された。
著者
小林 皇 伊藤 直樹 舛森 直哉 高橋 聡 小林 皇
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

Androgenの減少は骨に対しては代謝の亢進につながることが明らかとなったが、短期間では骨粗鬆症の発症のレベルまでは骨密度の減少はなかった。握力などの筋力には経過中に変化を認めなかった。メタボリック症候群で注目される物質のひとつであるアディポネクチンも経過中は両群に変化を認めなかった。脳に対する影響として、認知障害の有無をミニメンタルステート検査を行ったが経過中に両群とも変化は確認できず、認知能に対する影響は確認できなかった。このように、アンドロゲンの低下が早期より影響を及ばす臓器としては生殖器以外では骨が注目される結果であった。
著者
新津 洋司郎 佐藤 康史 瀧本 理修 加藤 淳二
出版者
札幌医科大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

組織線維症は現在全く治療法のない病態である。その責任細胞は星細胞であり、組織が傷害を受けると、それが活性化しコラーゲンを分泌するようになる。この分泌過程にはコラーゲンに特異的なシャペロン蛋白HSP47が補助的に関与する。本研究ではsiRNAHSP47を用いる事により活性化星細胞からのコラーゲン分泌を抑制する事を意図し、ラット肝星細胞での効果を検討したところ、明確に抑制効果が確認された。次いで星細胞がVitamin A(VA)を取り込み貯蔵するという性質を利用して、liposomeにVAを結合させその中に、siRNAHSP47(ラットではsiRNAgp46)を含ませてComplexを作製し、3種類(DMN,CCL4,DBL)の肝硬変ラットモデルでその抗線維活性を調べたところ、いづれのモデルにおいても明確な効果が見られた。また致死的なDMN モデルでは100%の生存率も確保できた。さらに同様な抗線維効果はDBTC膵炎ラットモデルに於いても確認された。本治療効果の機序としてはsiRNAHSP47によりコラーゲン分泌が抑制されると同時に組織中のコラゲナーゼ(一部は活性化星細胞からも分泌される)により既沈着のコラーゲンが分解される事によると考えられる。以上により本研究での開発された臓器線維症の治療法は、今後臨床への展開が多いに期待されるところである。