著者
堀内 勇作 名取 良太
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.21-32, 2007-03

1994年に衆議院議員選挙(以下,衆院選)制度改革が実施された当時,小選挙区制の導入によって二大政党制(少なくとも選挙区レベルでは2人の有力候補者が議席を争う状況)の実現が,将来的に期待された.しかし4回の選挙を経験した現在においても,小選挙区における有効候補者数は必ずしも2へと収束していない.先行研究においては,その要因を解明する上で,新しく導入された選挙制度が比例代表制を並立させた制度であることの戦略的帰結に焦点を当ててきた.これに対して本論文では,地方レベルにおける選挙制度の効果に焦点を当てる.都道府県議会議員選挙(以下,県議選)では,定数1〜18の単記非移譲型選挙制度が採用されている.このため,地域によっては衆院選の選挙区と県議選の選挙区の定数の間に不均一が生じることになる.衆議院議員と都道府県議会議員の戦略的相互関係を仮定する限り,この不均一は,衆院選の小選挙区における政党間(候補者間)競争に影響を及ぼすであろう.具体的には,県議選の選挙区定数が多いほど県議選の有効候補者数が多くなり,その結果,衆院選の有効候補者数も増加すると考えられる.本論文では,同仮説を演繹的に導出した上で,衆院選の選挙区別集計データを用いて同仮説の妥当性を検証する.
著者
今田 和美
出版者
東京大学
雑誌
Slavistika : 東京大学大学院人文社会系研究科スラヴ語スラヴ文学研究室年報
巻号頁・発行日
vol.13, pp.183-195, 1998-03-31

さて、これまで述べてきたような「孤独」と「救済」「したたかに世間を渡っていくための武器」あるいは「作品の喜劇性を引き出す」といった語りの様々な役割は、作品のテーマ (不幸な人間とそれを取り巻く社会の冷酷さ・無常さ) や文体 (感情を排した客観的な語り口、高密度の語りの流れを伴う「意識の流れ小説」、口語や俗語といった低位の文体と官庁風事務文体すなわち高位の文体の混合による言葉の異化)、あるいは非常にペシミスティックで陰気な世界観と並んで、ペトルシェフスカヤの初期作品から一貫して見られる特徴である。いわゆる「ポストモダン」的な複雑で難解な作品が隆盛を極める90年代のロシア文学界において、あくまでリアリズムに徹し日常の細部描写を積み重ねる、というペトルシェフスカヤのスタイルには、批判もある。「口当たりの良さと刺激を求める一般読者層の要望にも前衛的な難解さを求める専門家の要求にもこたえず、現実逃避する読者にひたすら過酷な現実を突きつけている、という意味で非現実的である」という、最近文学新聞に載った批判は、決して唯一のものではない。確かに、「一貫性」とは裏を返せば「同じ事の反復」であり、ペトルシェフスカヤはその危険性を自覚するかのように『時は夜』以降「モノローグ」の執筆を一時中断し、その前後から詩や幻想的な童話、ポスト・ユートピア的な近未来小説、怪談風の作品など、積極的に他のジャンルや形式を開拓している。しかし、そうした新しいタイプの作品においても、多様な役割を持つ「語り」が核となっていることには変わりがないし、今後もそうであるだろうと考えられる。
著者
吉田 学 吉田 薫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

受精の過程において精子の運動能・受精能が調節されるメカニズムについて解明することを目的とし、本課題においては、主に精子走化性運動調節機構、及び精漿による精子の受精能調節機構の2点に研究内容を絞って研究を推進した。そして、精子走化性においては精子誘引物質による精子鞭毛内Ca^(2+)濃度上昇が鞭毛運動の変化となり、走化性運動に顕著な方向転換となっていること、マウス精子の受精能獲得は精漿タンパク質SVS2が精子表面のガングリオシドGM1と結合することで抑制されること、ヒト精子の受精能抑制は精漿タンパク質SgとZn^(2+)により制御されていることなどが明らかとなった。
著者
新野 宏 柳瀬 亘 伊賀 啓太 栃本 英伍
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

竜巻を生ずる温帯低気圧や熱帯低気圧の構造と環境場を解明すると共に、熱帯低気圧に伴う竜巻の可能性の評価には環境場の空気の連行を考慮した対流有効位置エネルギーが有効であることを見出した。また、稠密な地上観測網やドップラーレーダー観測網等のデータの同化により、竜巻を生ずるスーパーセルの下層メソサイクロン(LMC)の位置の予測の改善が可能であり、竜巻の強度はLMCの鉛直渦度や下層の相対湿度と相関が良いこと、従って竜巻のリスクを予測する上でアンサンブル予報によりLMCに遭遇する確率分布を求めることが有望であることを示した。さらに、超高解像度再現実験により現実事例の竜巻の多重渦構造の再現に成功した。
著者
森沢 正昭 小笠原 強 林 博司
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

61年度の研究により単一の成功まで精製されたニジマス精子の運動関始の〓絡的な引き金をひくと考えられている15Kタンパン質について精製タンパク質及び15Kタンパク質の抗体の精子運動装置,軸系の運動性に対する影響について調べた. その結果,強い界面活性剤処理によって運動性も乗った軸系が15Kタンパク質を添加することにより運動性を回復すること,15Kタンパン質の抗体は15Kタンパン質のリン酸化を抑制すると同時に軸系の運動性も阻害することが明らかとなり,15Kタンパク質のリン酸化が真に粒子運動開始機構の重要なステップであることが示唆された. 一方,Protein kinaseの非特異的阻害試薬は15Kタンパク質を含む軸系上の全てのリン酸化タンパク質のリン酸化を抑制し,同時に軸系の運動も抑えること,Tyrosine kinaseに特異的な阻害試薬は15Kタンパク質のリン酸化のみを抑え,軸系の運動も抑えることなどから,CAMPは直接Tyrosine kinaseを活性化するのではなくCAMP→普通のProtein kinaseの活性化→tyrosline kinaseのリン酸化と活性化→15Kタンパン質のリン酸化という過程を経て精子運動開始が起ると考えられる. 更に種々のProteaseがCAMP無しで独果に精子運動開始を誘起すること,protease阻害試薬,基質が精子運動性を抑制する事からproteaseの精子運動開始への寄与が強く示唆された. 現在,上記三要因の軸系タンパクのリン酸化に対する影響について調べており,その結果の解析が3サケ科魚粘で精子運動開始機構の全貌が解明されることが期待される. 又,海産無稚動物,哺乳類についても15Kタンパク質の検索を行い,ウニ等では本タンパン質の存在が確認された. K^T/Ca^<Zr>→CAMP→Protein kinase→154タンパク質のリン酸化→Proteaseの関子というカスケードが多くの動物に共通の精子運動関始機構であることが明らかとなることはそう遠い将来ではないと考えられる.
著者
望月 公廣
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

海底下~10km以上深いプレート境界面上で、プレート間の固着が強い場所が、繰り返し発生する海溝型巨大地震の震源域である。なぜ固着強度が強くなるのか、その要因を解明するために、海域で人工震源を用いて行う構造調査で取得される波形記録の解析手法の開発を行った。これまでの手法では不十分であった解像度の向上に成功し、屈折波やプレート境界からの反射波に関して、到達エネルギーを明瞭に確認することができた。
著者
大森 裕浩 古澄 英男 日引 聡 渡部 敏明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2009-04-01

「金融リスクの評価」と「経済行動」のベイズ計量経済分析を行った.「金融リスクの評価」の分析では(1)1変量確率的ボラティリティ変動モデルの拡張,(2)実現ボラティリティと確率的ボラティリティ変動モデルとの同時モデリング,(3)多変量確率的ボラティリティ変動モデル,(4)最大値・分位点の時系列モデル,(5)実現ボラティリティ等を用いた計量ファイナン分析について研究を行った.「経済行動」の分析では,(1)ゲーム理論に基づく計量経済モデル分析,(2)選択行動の計量分析,(3)水道需要関数の計量分析・政策分析,(4)マクロ計量経済分析,(5)分位点回帰モデル,(6)環境経済の計量分析を行った.
著者
吉見 俊哉 ディマ クリスティアン ディマー クリスチャン DIMMER Christian
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、高まる世界経済競争と世界の都市部での社会格差の中、いかに政治家、プランナー、デベロッパー、市民に共通する「都市の公共空間」を明らかにすることである。しかし公共空間における過去のネオリベラルな規制緩和や民営化政策の結果、相互依存における発展の影響について適切な理解が深められることなく政府、地方自治体などの行政側から民間セクターへと移行することとなった。本研究では、公共性の高い都市空間の協力的(官民)計画方法、実際の建設、管理という全プロセスの流れを系統的に調査、分析する。研究の中では、現制度や社会的状況における「公開空地(privately owned public space、POPS)」(※「公開空地」は公共性の高い民間所有地)のあり方を特に詳しく精査する。それに加え、より新しい実例として着目しているのは特定地域における公共空間の民間による創出や管理が争いに繋がるケースである。下北沢の道路開発プロジェクトや銀座松坂屋の再開発プロジェクト、渋谷宮下公園の民間化と京都梅小路公園の中の民間デベロッパーで水族館工事といったものが挙げられる。都市化や都市構造の再編が進む中、民間化の拡大は日本に限った問題ではない。都市空間の問題はアメリカ・ニューヨーク、チリ・サンティアゴ、オーストラリア・メルボルン、ドイツ各都市でも見られるため、それらの都市と日本の都市との関連性も共同研究中である。共同研究結果の議論のため、2010年5月27日、28日、29日にはオーストラリア・メルボルンでアーヘン工科大学のペゲレース博士とメルボルン工科大学のヨナス教授主催のワークショップに参加して次の共同のワークショップは12月にドイツのアーヘン市で予定されている。また2010年7月10日上智大学の比較文化研究所主催の『Alternative Politics : Youth, Media, Performance and Activism in Urban Japan日本人若者政治参加と都市空間』と言うコンファレンスで東京における「奪い合われる空間」に関して発表し、複合的観点から見る現代都市日本の公共空間の社会文化特有性について議論した。また同じテーマに関して11月にドイツ、フランクフルト市でのVSJF学会と2011年の3月にホノルル市でのAASの学会発表する予定である。
著者
斎藤 寛
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.167-175, 1980-02-15

Education is a part of production of human life in any age or in any society. In modern civil society it is established and controlled by the historical structure of "Gemeinwesen", the category of which stretches from one extreme form of family to another extreme one of nation, and by the historical aspect of human intellect. Such structure and aspect derive from the relation of a human being to another and to the nature, and from his/her image of the world, his/her "mentalite" in our age. Through profound investigation of these points, we may recognize that modern national system of education does not stand innately the value but that Lit is a product of the social structure accompanied with the inevitable alienation and ruling, and is woven there. On such recognition, therefore, only when reform of educational system is put from the view of human history on a way of the political and social change, the theory of educational reform can link to human liberation.
著者
加藤 淳子 CROYDON Silvia
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

裁判員裁判の事件の大多数において被害者参加人陳述が使われる中で、被害者参加精度のあり方やその有無の実証的評価を行うことにした。検討の対象は、被害者参加人陳述が豊富に採用されたある殺害事件とした。そこで述べられた被害者参加人陳述の効率を、歴史的に考慮された刑罰を与える目的として、もっとも影響力があったとされる3つ基準、「修復的司法」、「応報的正義」「更生司法」の促進効果に照らして評価した。「修復的司法」に関しては、検討対象の事件から言うならば、遺族陳述に遺族の心的回復のような精神治療効果がなかったとは言えない。しかし、「望んだ結果にならなかったことは大変残念で【ある】。裁判官・裁判員の方々には一定の理解をしていただけたと信じて【いる】が、それでも超えることのできない司法の壁を痛感してい【る】」という裁判後に新聞で発表された遺族の言葉からすると、彼らが期待した判決が下されなかったことで消えることの無いところの苦痛に制度への失望が加わったことを認めざるを得ない。遺族に、当事者が求めたのと異なる刑を判断者に要請するような陳述が認められたことで、彼らにその後下される刑への誤った・非現実的な希望を持たせ、修復的司法の可能性をむしろ損失させた。次に、量刑をより当犯行に匹敵するようなものにするというこの遺族陳述の応報的効果については、遺族陳述は確かに多くの情報を裁判官・裁判員に与え、法廷で流された涙からすると、少なくとも何人かの裁判員の心も動かせた。しかし、「感情を抑えて、法にのっとって判断した」、「遺族の悲痛な声に胸が痛くなったが、冷静さを保って判断するよう努めた」と裁判員2人が後に話したように、刑を決める際、遺族陳述から受けた影響を故意に抑えたならば、それらの陳述の量刑判決への貢献が妨害されたことになるであろう。最後に、「更生司法」に関しては、犯人を自分が犯した悪事の破壊的影響に立ち向かわせ、それを把握させることによって、当人の更生を助け、再犯防止をする、とされる遺族陳述の更生効果が存在するかどうかというのは、服役後の態度を長い期間見守らないと評価しかねる。しかし、当事件を一目見た限りで言えるのは、被告人が遺族から厳しい言葉を聞かされ、反省を示したからと言って、再犯に走らない確信は得られない。なぜなら、彼は今回の事件を起こすまで犯罪を2度も犯してきたが、そのたびに謝罪記録を残している。3度目の謝罪こそが誠実であるという保証は全くない。
著者
武内 和彦 LASAS Ainius
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

6月までに主な研究プロジェクトを計画したとおり終了させ、Foreign Policy Analysis誌に査読のため論文を提出した。JSPSフェローとしてのこれまでの研究をもとに、近い将来本の執筆を予定しているため、今後も論文の改定を続ける計画である。この本はPalgrave Macmillan出版社より今後3年以内に出版される見込みである。2011年4月から9月の間、自身の理論的興味の補足プロジェクトとして、アメリカ・ルワンダに関する事例研究の最新の学術文献と人々の経歴談の包括的な見直しを完了し、これにより研究論文を仕上げることができた。2011年3月にスイス・ローザンヌ大学で開催された"Emotions in a Globalized World"(「グローバル化した社会における感情」)をテーマとした会議において、論文の初期ドラフトを発表した。この論文は私のアドバイザーであったベセリン・ポポフスキー氏による編集予定著書「国際関係における感情」(仮題)(シカゴ大学出版社刊)の1章として掲載される予定である。自身の研究に関連する2008年のグルジア戦争とオランダ・セルビア関係における2つの論文もEurope-Asia Studies誌とPolitical Psychology誌に査読依頼のため提出し、どちらも改訂依頼を受け、現在必用な訂正と補足的な研究を行っている。これらの改訂は10月末には完了する予定である。7月前半はイスタンブールにて開催されたInternational Society of Political Psychology(国際政治心理学会)の年次会議に出席した。その後行われた政治心理学の基礎と最先端の研究に関する3日間のワークショップ形式の夏季アカデミーにも参加した。この研修では自身の研究技術の強化、そして新しい研究手法を得る機会を与えてくれた。また同様に、将来の学術キャリアに有用な面識を得ることもできた。最後に、2011年9月には国連大学サステイナビリティと平和研究所において、最終発表を行った。発表に引き続いて行われたフォーマルな討論では、討論参加者から主な研究プロジェクトに対して今後の改善となる有益なコメントや提案があった。
著者
村上 晋
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

抗ウイルス薬であるリバビリンに耐性化するために必要な変異を持ったポリオウイルスは複製忠実度が高く、抗原変異しにくく、そして病原性が低くなることがわかっている。同じくRNAウイルスであるインフルエンザウイルスにおいても、リバビリン耐性ウイルスを獲得できれば、安全な生ワクチンが作製できる可能性がある。そこで本研究においては、インフルエンザウイルスでリバビリン耐性に必要な変異を同定し、その変異を導入した新規弱毒生ワクチンの作製を目的とした。インフルエンザウイルスの増殖に対するリバビリンの効果を調べた。ポリオウイルスでは、リバビリン存在下で培養すると、ウイルスゲノムRNA上のCがUにあるいはGがAとなる変異がランダムに挿入され、その結果ウイルス増殖抑制される。インフルエンザウイルスの場合でも同様の作用機序で増殖が抑制されるか調べた。MDCK細胞にウイルスを感染後、リバビリン存在下で培養し、上清を回収した。ウイルスRNAを抽出し、RT-PCRにてウイルス遺伝子を増幅後、クローニングし、ウイルスゲノムのシークエンスを調べた。その結果、28クローン中13クローンで変異が導入されており、そのすべてがCからUあるいはGからAの変異であった。これらの結果からインフルエンザウイルスでもポリオウイルスと同様の機序でウイルス増殖が抑制されており、複製忠実度の高いウイルスを獲得できる可能性があることが示唆された。リバビリンの有効濃度を調べたところ、20μMでウイルス増殖を50%抑制することがわかった。そこで、20μMおよび40μMのリバビリン存在下でインフルエンザウイルスを継代した。11代まで継代したが、耐性ウイルスは獲得されなかった。ポリオウイルスでは6代目で耐性ウイルスが出現したと報告されている。したがってインフルエンザウイルスではポリオウイルスよりもリバビリン耐性化がおきにくい構造のポリメラーゼを有しているものと考えられる。
著者
畑尾 直孝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は,屋内外環境での自由な行動の実現を目指すパーソナルモビリティロボットプラットホームの研究の一環として行われた.本研究は,将来のパーソナルモビリティの普及による高齢者に対する"バリア"のない社会に向けた歩みに貢献するものである.採用第1年度の研究により,パーソナルモビリティによる歩行者の存在する屋内環境における自律移動機能,ならびにレーザーレンジスキャナなどを用いて障害物を識別し,パーソナルモビリティが危険な領域に進入しないように制御する操縦アシスト機能を実現した.今年度は,歩行者,自転車,自動車などが行き来する屋外環境において,より安全な自律移動のために有効な意味情報を付加した「セマンティックマップ1の構築システム並びにそれを用いた屋外自律移動機能を実現した.これにより,搭乗者が前述の操縦アシスト機能を用いて屋外環境を移動すると,そのセンサのログデータからパーソナルモビリティがマップを構築し,その道のりを自律移動で辿ることができるシステムが完成した.本研究では,従来の"空き領域""障害物領域"といった単純な情報だけのマップでは,パーソナルモビリティが辿っている道路の向き,歩道・車道の区別,分岐点の位置といった地理的情報,周囲の移動体の速度や頻度などの交通流情報,道路標識や通行可能方向指示記号などの記号的情報を付加した「セマンティックマップ」をロボットが自動的に取得する.このシステムの実現のための要素技術として,上下にレーザーレンジスキャナをスイングすることで3次元地形情報を取得し,そのデータから大規模な屋外トポロジカルマップを構築する手法や,水平に固定したもう1台のレーザーレンジスキャナを用いた自動車,歩行者,自転車などの移動物体の検出,位置・速度推定,識別を行う手法などを開発した.
著者
桑澤 保夫
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

近年、地球環境に対する関心の高まりから省エネルギーの叫ばれることが多くなってきた一方で、高齢化社会を迎えるにあたって快適・健康的な環境に対する要求も大きなものがある。そのような状況を念頭に置いて、これまでにも変動風の影響について検討を行ってきたが、被験者を用いる実験である温熱環境に対して心理・生理的な応答を得るためには比較的時間のかかることや、装置や実験室の都合上同時に1人のみに対する実験しかできないといった状況から、これまでに蓄積されたデータでは解析上必要とされる数にはおよんでいなかった。そこで、今年度は風向は前方からの場合のみに絞りデータ数の充実を当面の目標として研究を行った。実験は、椅座位の被験者に前方より0.4〜1.0m/s程度の定常風、また周波数特性や振幅を変化させた変動風を暴露し、そのときの環境条件として気温、風速など、生理量として皮膚温、心理量として温冷感、快適感をそれぞれ測定した。いずれも皮膚温の経時変化をリアルタイムでモニタして、ほぼ定常となったことが確認されるまでで最低でも15分間以上暴露した。被験者は20歳前後の健康な男性9名を用いた。解析では既往の実験結果も併せて用いてより信頼性の高い値を求めることとした。その結果、測定された環境条件と皮膚温をもとに、風速と平均対流熱伝達率の関係式を求めた。次に、ある条件における平均皮膚温と、そのときの温冷感申告値が「どちらでもない」よりも暑い側、もしくはさらに快適感申告値が「どちらでもない」よりも不快側となる比率の関係は、probit modelで仮定できるとして、モデル中の平均値および標準偏差に相当する数値を、実験結果をもとに同定した。
著者
内藤 まりこ
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

平成24年度は、アメリカ合衆国ハーバード・イエンチン研究所において一年間在外研究を行った。当該研究所に併設されるハーバード・イエンチン図書館は、所蔵する東アジア地域に関する資料の量と種類の豊富さにおいてアメリカ有数の図書館である。こうした図書館の特性を享受するべく、報告者は滞在中に以下の3つの作業に取り組み、次のような成果を得た。(1)日本の大学及び図書館では入手することの難しい中国、韓国及びベトナム地域の資料調査:イエンチン図書館及びハーバード大学に付属するその他の図書館、ニューヨークのコロンビア大学付属図書館が所蔵する中国、韓国及びベトナム地域で記された資料及びそれらの地域に関する研究書・論文を調査し、〈七夕伝説〉に言及した資料を採集した。こうした調査の結果、当初予想していたよりも遥かに膨大な数の〈七夕伝説〉に言及する資料を見つけ出すことができた。とりわけ、中国大陸の口頭伝承を集めた資料群の調査からは、〈七夕伝説〉が非常に広大な地域において浸透し、現在も人々の生活規範の一つを形成していることが明らかになった。(2)日本の〈七夕伝説〉に関する資料の調査:イエンチン図書館及びハーバード大学付属サックラー美術館が所蔵する江戸期の刊本及び浮世絵の調査から、〈七夕伝説〉を主題とする活字資料及び絵画を見つけることができた。(3)〈七夕伝説〉に関する英語資料の調査:〈七夕伝説〉に関する英語による研究書・論文を収集した。その数はそれほど多くはないが、日本では見つけることのできなかった研究論文を集めることができた。また、1920年代にアメリカで記されたく七夕伝説〉を題材とする戯曲を発見し、アメリカにおける東アジア文化の受容という研究テーマを得ることができた。