著者
イコノミデス キャサリン
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

非可換幾何学は1970年代からフランスのConnes氏に開発された分野です。その分野の色々な道具を使って、葉層構造の研究をしています。2010-2011年度の研究は以下の通りです。1-"ホロノミーをほとんど持たない"葉層構造を研究していて(葉層のコンパクトでない葉は、すべてホロノミーを持たないということ)、その葉層構造のC*環のK理論を計算しています。特に幾何学や接触構造の研究でよく出てくる"spinnable foliation"(open book decompositionから生まれる葉層構造のこと)という葉層構造の具体例の場合は、幾何学的な意味を持つ結果を得ました。K群の次元が、コンパクトな葉の数と一致しているという結果です。2-ConnesとMoscoviciの指数定理を研究しています。その指数定理とConnesの巡回コホモロジーを使って、Novikov予想を解ける方法について考えています。その方法は1990年代から研究されているので色々な群が考えられてきています。私の場合は、円の区分線形同相群の部分群であるThompson群の具体例を考えています。Thompson群のコホモロジーは、知られていますので、群のコホモロジー類を巡回コサイクルとして表して、指数定理を書いてみました。それを使って、Thompsonの群はNovikov予想を満たすことを示しました。
著者
松田 法子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本採択課題では、「近代保養地の形成に関する都市史研究」というテーマのもと、近代に巨大化した温泉町である熱海や別府をはじめ、大磯や鎌倉など主として海浜に形成された近代保養地を主な対象に、建築史および都市史の観点から検討を進めてきた。巨大温泉町は、近代日本のある現象面が集約された産業都市として捉えることができ、大磯や鎌倉などは保養と近代の居住にかんする諸問題を把握しうる事例である。本研究は、従来建築史学の分野から行われてきた都市史研究に対して、〔1〕地方地域の近代都市化過程への注目、〔2〕都市と地方地域の関係そのものを都市史の方法論として検討すること、〔3〕これまでほとんど未開拓である温泉町や保養地、観光地にかんする研究、〔4〕社会構造にかんする検討を積極的に空間に落とし込む方法の開拓、〔5〕場所のイメージと都市形成にかんする方法論の提示、などの視角において新規性と独自性をもち、具体的な研究過程においては、(1)近世近代移行期における伝統的社会および空間構造の変化にかんする検討をメインテーマとし、(2)伝統的社会および空間構造の解明、(3)資源開発と都市形成について、(4)伝統的権利と空間の関係について、(5)芸娼妓の社会および空間について、(6)保養都市、観光都市の形成と場所のイメージにかんする方法論的検討、などを主たるサブテーマとして報告を行ってきた。本年度はとりわけ(5)と(6)について重点的に考察をすすめた。その成果は「11.研究発表」に挙げるとおりである。また、本採択課題の研究テーマに関連したアウトリーチ活動を、本年度も継続的に実施した。
著者
安部 圭介
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.49-80, 2005-03-30

同時多発テロ後のアメリカにおいてはさまざまな面で市民的自由が切り詰めら札「法の支配」が根本から掘り崩される事態が生じている.諸々の手続や処分が秘密裡に進められる傾向が強まり,外国人に対する差別的な取扱いも横行しつつある.「法の下の平等」というアメリカ的価値の基盤にも罅が入りはじめている.このような中,2004年の合衆国最高裁判決Rasul v. Bushは,アフガニスタンなどで身柄を拘束された後,キューバ国内の米軍基地に移送され,弁護士の援助も裁判所へのアクセスも認められなしまま施設に収容されていた「敵性戦闘員」らに人身保護請求を提起する権利を認めた.権力に対する法的歯止めの必要性を否定するかのようなブッシュ政権の対応に警告を発したものであった.他方,他の分野や下級審の動きに目を転じれば,外国人の取扱いをめぐって裁判所や裁判官の間に意見の対立があることもまた見て取れる.アメリカにおける「法の支配」は今後,同時多発テロの衝撃から緩やかに立ち直り,裁判官らの紡ぎ出すさまざまな判決に彩られながら,長い時間をかけて織り成され続けてゆくものと思われる.
著者
橋本 毅彦
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

戦前日本における空気力学の研究を東京帝大の航空研究所を中心として、友近晋、谷一郎らに注目しつつ、境界層の理論的実験的研究、ならびに特に谷一郎の層流翼の発明に代表される技術開発への応用について検討した。そのために航空学科の学生の卒論研究テーマを検討した。またそれとともに、これらの境界層研究の進展にあたって参照された欧米における研究動向についても調査した。
著者
三枝 麻由美
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度はまずワーカーズ・コレクティブを事例として取り上げ、日本においてオルタナティブ組織が体制の中で既存組織と競争する道を選択した場合に、どのような影響を受けるかという点について事例をもとに考察し、論文にまとめた(『年報社会学論集』16号参照)。考察の結果、オルタナティブ組織は外的圧力を受けて官僚制的側面が高まることが考察された。このことから、Weberの鉄檻の呪縛に現代社会は依然として囚われ続けていると結論づけざるをえない。しかしながらオルタナティブ組織の既存組織への挑戦は決して失敗ではなく、むしろその挑戦を高く評価すべきである。本研究で取り上げた二つのワーカーズは、外的圧力から運動体的側面が薄れたがどちらの組織も設立から10年間以上存在し続け、その間、共同体や平等のイデオロギーを色濃く保ちながら一定期間活動を続けた。運動面と事業面のジレンマについて、二つのワーカーズは運動面から事業面重視の組織体へと変容を遂げたが、組織運営において運動面と事業面は両立し得ないのであろうか。NPOやワーカーズを含めた社会運動組織において、この命題はとりわけ重要である。しかしながら、両立の仕方は組織の掲げる運動面の内容により異なる。ワーカーズのようにメンバー間の平等を運動理念とする組織に対する一つの答えとして、意志決定への直接参加を確保するために組織を小規模に押さえ、技術の専門化による分業化や差異化がおこらないように技術の高度化を防ぐことにより、事業面と運動面のジレンマを防いだり、また組織が拡大した場合には、スピン・オフ(分離独立)をすることにより、組織規模を小規模に保つことができるだけでなく、同様の組織を増やすことにより、運動全体の影響力を高めることにつながるであろう。また、本年度は日本における非営利組織研究の一例として、現在新たに創設されつつある法科大学院にも注目し、いくつかの大学へ聞き取り調査を行った。
著者
竹野 太三
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

平成16、17年度分の若手研究費(B)として給付を受けた本研究は貧困改善につながる段階的関税削減に関するものである。17年度は、16年度に行われた資料収集及び先行研究の把握を基に、未解決問題を特定し、これに考察を加えるべく、数理モデル構築に着手した。近年の国際貿易協定会議、WTOシアトルラウンドおよび、カンクーン(Cancun)ラウンドでは、開発途上国と先進諸国との対立が鮮明にされた。この対立の原因のひとつに挙げられるものは、先進諸国の、開発途上国における環境問題を軽視した開発政策への不満と、開発途上国の、先進諸国による閉鎖的貿易政策への不満である。本研究は、開発途上国と先進諸国間のこのような利益の不一致が解決され得る条件を数理モデルにより分析する。・数理モデルは、Edringtin(2001,2002)及びLimao(2004)によって提示された数理モデルを基に、Freund(2001,2003)を拡張したものである。Edrington(2001,2002)は二国間で貿易協定が締結されるにあたって、国内環境政策と貿易政策(関税削減)とがリンクされるべきか否かについて考察を加え、Limao(2004)は、Edrington(2001,2002)に、国内の環境団体が及ぼしうる影響を新たに考察した。Freund(2000,2003)は不完全競争市場が存在する国際社会でPTAおよびFTAが締結されうる条件を分析している。本研究では、南北問題を含む、不完全競争と環境問題が存在する国際社会で社会厚生水準が相互に上昇し、加盟国に締結を一方的に破棄するような誘引条件が発生しないような貿易協定が締結されるには、環境と貿易に関する協定はリンクして締結されるべきか否かについて、考察を加えた。17年度に行った海外出張では、得られた結果について世界銀行のエコノミストらと議論をし、Limao(2004)のような、環境団体或いは企業の献金など、貿易協定締結に影響を及ぼしうる団体が存在する場合の考察を加える事が今後の課題として有意義であると確認された。当研究はこの点の吟味を加えた後、学術雑誌に投稿する。
著者
宮本 有紀
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

医療に対する「患者満足度」という概念の重要性については近年多くの医療関係者が認めており、関心の高まつているテーマである。精神科領域でも患者に対する処遇の改善や環境の改善が熱心に行われており、また、退院促進活動と関連して効果的な医療の利用が促進されている現在、患者による精神科医療の評価は、今後さらに広く試みられる必要がある。そこで、精神科疾患を有する患者の患者満足度に影響を与える因子を明らかにするために、平成17年度から平成18年度にかけて、精神科の入院医療を利用したことのある者に対し、インタビュー調査を実施した。調査対象は、精神科の入院医療を利用したことのある者で、研究協力に同意した者である。研究協力者は、調査対象者に次の対象者の候補となる者を紹介してもらう、精神科疾患を有する人の利用する施設等で募集するなどして研究者がアクセスすることのできた者である。調査の実施にあたり、研究の主旨と、研究への協力は自由意思によるものであり、答えたくないことを答える必要はないこと、いつでも協力を取り下げることができることを対象者に口頭および文書にて説明し、文書による同意を得た。また、インタビュー時に対象者から許可を得ることができた場合にはインタビュー内容を録音した。本研究で対象となった全ての者がインタビュー内容の録音に同意したため、その音声データを逐語録にした。対象者によって語られた内容を継続的に比較し、分析を行った。その結果、患者の精神科入院医療に対する満足に関連する要因として、医療者との関係性、疾患や症状の改善、入院環境や治療の構造などが抽出された。
著者
林 徹 木村 英樹 西村 義樹
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

中国語を中心に、日本語、日本手話、トルコ語、シベ語(中国)、ベトナム語、ラマホロット語(インドネシア)におけるダイクシス要素を詳細に検討した結果、ダイクシス要素の用法に影響する要因として、(1)話し手を基準とした距離や時間、(2)コンテクストの諸特徴(3)話し手のとる視点・態度、(4)地形に基づく空間軸、などを明らかした。また、ダイクシス要素の機能として発話を実際の場面に結びつけることが基本的であることを示した。
著者
出口 智之
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

まず、「幸田露伴の歴史小説-「風流魔」の構想と成立に即して-」(『日本近代文学』平成20年5月)において、形式上の破綻を抱えている幸田露伴「風流魔」(明治31年)の成立過程を追跡し、露伴が本作で行った試行錯誤が、古人を題材に勝手な想像を展開すべきでないという自己規範に起因することを指摘した。次に、「幸田露伴「椀久物語」論」(『東京大学国文学論集』平成20年5月)で幸田露伴の「椀久物語」(明治32〜33年)を取上げ、上に指摘した露伴の歴史小説の方法的問題が本作にも見出せることを確認した。さらに、この作品のプロットが樋口一葉「うもれ木」(明治25年)の翻案であることを指摘し、孤立した作家と見られがちな露伴が、同時代文学と浅がらぬつながりを持っていたことを明らかにした。また、鴎外研究会(平成20年12月26日)において発表した「露伴史伝の特徴と方法について-「頼朝」を中心に-」では、これまで古典研究の成果とされてきた露伴の史伝「頼朝」(明治41年)に用いられた資料を特定し、本作が学術性を備えないフィクションであることを明らかにした。また、この作品の随筆に近い様式に、小説形式を捨てた露伴が新しく開拓した文学の可能性を見出した。さらに、「生活人露伴の誕生-幸田文「終焉」の方法を中心に-」(『相模国文』平成21年3月)では、露伴の死後に娘である幸田文が「終焉」(昭和22年)を初めとする一連の作品を発表するにおよび、日常生活に「格物致知」の精神を発揮したという露伴像が生れたことを指摘した。これは、彼女が露伴の日常生活を題材とし、しかも尊敬すべき父と不詳の子という構図を用いることで、父の偉大さを効果的に演出してみせたことに由来する。この研究により、これまで無批判に受入れられていた「生活人」としての露伴像を相対化し、露伴の<知>のありかたについて客観的に捉えなおすことが可能になった。
著者
関口 豊和
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本年私は主に、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)を初めとする宇宙論的観測を用いた宇宙論パラメータの決定及び素粒子宇宙モデルに対する制限について研究を行った。主な研究成果は以下の通りである。一つ目は、ニュートリノや軽いグラビティーノといった軽い粒子の質量に対する制限の研究である。このような粒子は様々な素粒子理論における標準模型を超えたモデルで予言されるが、地上実験による検出は一般に困難である。しかし高温高密度の初期宇宙においては大量に生成された可能性があり、現在暗黒物質の一部を担っている可能性がある。そのため宇宙論的観測が制限に有効であり、制限は宇宙論、素粒子論双方に重要な知見を与えると期待できる。我々は、CMBにおける重力レンズ効果が、軽いグラビティーノの質量に対して感度があることを示し、現在進行・計画中のCMB観測により期待される制限を定量的に見積もった。また、近い将来のCMB観測ではニュートリノ質量とハッブル定数の間に依然強い縮退があることを示し、宇宙論的な距離観測によるニュートリノ質量に対する制限の向上について定量的な見積もりを与えた。二つ目は、初期ゆらぎ及びインフレーションモデルに対する制限である。これまでに多くのインフレーションモデルが提唱されているが、我々の宇宙でどのモデルが実際に起こったかは分かっていない。渡しはベイズモデル選択と呼ばれる統計手法に基づきインフレーションモデルを観測的に区別する方法を提案した。この方法は、現在進行中のCMB観測からモデルを区別する上で、有用な手法になると期待される。
著者
家永 真幸
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

『アジア研究』誌55巻3号に掲載された論文「南京国民政府期における中国『パンダ外交』の形成(1928-1949)」は、1941年に中国国民党中央宣伝部が対外宣伝活動の一環としてアメリカヘパンダ贈呈を行う背景となった歴史の重層的な文脈を明らかにし。その上で、それはパンダに対する振舞いが国家の「外部正統性」を構成する要素となりうるような国際関係に中国が組み込まれていく過程にほかならなかったと結論し、そのような状況は今日まで引き継がれているのではないかと問題提起した。▼同論文の続編として、台湾との交流シンポジウム『Academic Exchange Programme at Komaba Camnpus』で行った口頭報告『Why did pandas come to Japan in 1972?』では、1972年の日中国交正常化に際して行われたパンダ贈呈が、両国間の価値観の共有を前提にしている点や広告塔の存在などの点において、戦前からの中国の対外宣伝の延長上に捉えられるべきであることを指摘した。▼『中国研究月報』誌63巻7号に掲載された書評論文「北京オリンピック2008の歴史的意義-〔書評〕Xu,Guoqi, Olympic dreams : China and sports, 1895-2008, Harvard University Press, 2008.」では、一国内における国家と国民の身体の関係や、国際社会における国家間の関係を、スポーツという考察対象から総体的に捉えようと試みているという点に同書の重要性があることを指摘した。これは書評という場を借りて、報告者自身の問題意識であるところの、国家が国家としての正統性を獲得するプロセスにおいて文化的シンボルが果たす役割を明らかにすることの意義を説明した論考でもある。▼『新明社会学研究』誌に掲載された論考「語られ始めた陳紹馨-『台湾社会学の父』に見る現代史の断絶と連続」は、戦後の脱植民地化が日本ではなく中華民国に代行された台湾において、戦前日本ですでにキャリアを積んでいた台湾人研究者がどのような評価を受けることになったのかを論じたものである。外交や対外宣伝とは直接関わらないテーマであるが、「学知」という一種の文化的シンボルが国家の正統性とどのように関わるのかに関する試論として報告者の研究の中では位置づけられる。
著者
長澤 榮治 池田 美佐子 黒木 英充 鈴木 董 松本 弘 松井 真子(黒木) 黒木 真子(松井 真子)
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

アラビア文字圏とは、アラビア語・ペルシア語・オスマントルコ語などアラビア文字を用いる文化的世界を指す。これまで同地域に関する研究は、思想・宗教分野への関心が強く、また伝統的資料利用法による印象論的分析が中心であり、基礎資料の体系的利用にもとづくに政治社会分析の体制が十分に整ってはいなかった。本研究は、近現代の同地域に関する政治社会分析のために、議会議事録・官報・法令集・政府年鑑・地誌など基本資料を用いたデータベース形成のための手法を構築することを目指した。具体的な作業として、これらの原資料のデジタル化を行い、デジタル化した資料の索引・目次などを利用して用語検索システムのためのアラビア文字入力作業とデータベース設計のモデルの構築を試みた。また、上記の作業に当たっては、未所蔵分の資料の補充や関連する資料の収集、そして現地専門家との意見のために海外調査を実施した。今回アラビア文字圏データベースの構築に向けて基礎的な作業の対象に選んだのは、(1)オスマン帝国官報、(2)エジプト議会議事録、(3)エジプト新編地誌の三資料である。(1)オスマン帝国官報については、マイクロフィルム化とデジタル化を行い、全刊行号に関する書誌情報を入力し、そのデータの整理作業を行うとともに、検索システムのための準備作業を完了した。(2)のエジプト議会議事録は、索引のデジタル化と会期・会議別一覧表の作成を行った。(3)アリー・ムバーラク著『新編地誌』は、エジプト近代社会経済史資料の宝庫であるが、全文のデジタル化と索引のアラビア語入力、キーワード検索のための入力データの選定・整理作業を実施し、パイロット版の検索システムを作成した。上記のデータベースについては、今年度中に試験的に公開する予定である。
著者
板尾 清
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1995

光ファイバと導波路の組立,しゅう動形磁気ディスクのトラッキング等の情報機器におけるしゅう動形位置決め機構のマイクロ化においては,一般に,摩擦力が精度低下の要因になる.特にマイクロ領域では,表面力である摩擦力が支配的になり,不感帯の増大やスティックスリップの発生により,位置決め精度はさらに低下する.しかしマイクロ領域の機械(マイクロメカジズム)では,センサの組み込みが難しく,また微小質量のため慣性力がほぼ0に等しい系を扱うことになる.このため,大きな摩擦力が働く柔軟体を,オープンループで位置決めする設計法の確立が必要となっている.本研究では,マイクロメカニズムの特徴である微小質量のしゅう動位置決め系として片持梁を対象にし,まず,固定端をステップ駆動した際に発生する不感帯とスヒックスリップの特性を明らかにした.この結果,スティックスリップの発生により,位置決め誤差やばらつきが,スティックスリップのタイミングに依存してしまうため,増大することがわかった.ついでこれに基づき,微小質量の地位決め系設計法の1つとして,スティックスリップが発生してもパ-プンループで位置決めできる設計法を確立した.この方法は,アクチュエータを位置決め系の固有周波数より高い周波数で振動させることで,微小質量の位置決めが可能であることを示している.これは,微小質量がスティックスリップを生じても,スリップ中の周期が位置決め系の固有周波数の約半分となるので,スリップ中に,アクチュエータを目標位置よりプラス側に移動することができ,微小質量は目標位置を超えないため,オープンループでの位置決めが可能となっている.さらに微小質量の典型例として光ファイバの位置決め系に適用し,使用可能であることを示した。
著者
小川 裕充 板倉 聖哲 桝屋 友子 田中 秀隆 朴 亨國 大田 省一 羽田 正 秋山 光文 浅井 和春 後小路 雅弘
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

設備備品につては、「西洋人アジア旅行記」5,663点(マイクロフィッシュ16,453枚)、「西洋人アジア伝道旅行記」231点(マイクロフィッシュ1,585枚)を一括購入し、ヨーロッパの世俗・宗教両面から伝統アジアを捉える旅行記を基本研究資料として公開している。絵画班:小川は、平成17年度、シンガポール亜州文明博物館新収の中国絵画コレクション50数点の悉皆調査を行った。また、板倉・田中・五十嵐とともに、オーストラリア所在中国・日本絵画調査を実施し、オーストラリア絵画のディジタル・ファイルを購入した。18年度は・板倉とともに、東アジア・東南アジア所在中国絵画調査を実施した。調査対象は台湾:石允文コレクションなど3個所、シンガポール:呉起駒コレクションなど2個所、香港:香港中文大学文物館・香港藝術館、計7個所であり、撮影作品数無慮7百点に上る。彫刻班:浅井・朴は、東京国立博物館収集東南アジア仏教彫刻スライド資料2万点のディジタル画像化、及びプリントアウトをすべて完了し、資料整理の基礎となる基本カード作成もほぼ半数の1万点に及ぶ。また、東博資料のデータの不備を解消し、画像資料をさらに充実させるべく実施した、インドネシア調査(17年度)では、調査撮影対象は、ボロブドゥル遺跡など約70個所、作品4千点に上り、データを再点検し、ディジタル画像資料3万点を追加した。タイ・マレーシア・カンボジア調査(18年度)では、調査撮影対象は、バンコク国立博物館など、約10個所、ディジタル画像資料1万6千点、作品数約2千5百点を追加した。絵画班・彫刻班の調査作品は、個人研究とは別に、班として目録を収載する。なお、絵画班:西・後小路・桝屋・井手、建築班:羽田・大田は、別途、調査研究を進めたため、基盤Aの研究成果としては、研究成果報告書に論文1点を全文掲載し、他は本概要にリストアップするにとどめる。
著者
二通 信子 大島 弥生 佐藤 勢紀子 因 京子 山本 富美子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

学術的な論文の論述プロセスを、研究行動の表現としての論文の構成要素の出現情況に着目して分野横断的に分析することによって、分野を超えた論文のタイプの類型化を行った。同時に、論文の各構成要素を形成する表現を抽出した。さらに、レポート・論文の構想段階のプロセスに沿った指導法を提案した。これらの成果をもとに、幅広い分野の学生が、論じる行為への理解を深め、レポート・論文に使われる文型や表現を学ぶための教材(『留学生と日本人学生のためのレポート・論文表現ハンドブック』)を開発した。
著者
大六 一志
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

子どもがかな文字の読みを習得する過程において,拗音(小さい"ゃ""ゅ""ょ"を伴う音節)は基本音節文字よりも習得時期が遅いので,その習得のためには基本音節文字の習得以上の何らかの必要条件が存在すると考えられる。本研究ではその必要条件について,発達遅滞事例に対する実験的教育手法を用いて検討した。まず先行研究の検討により,必要条件の候補を2つ見出した。すなわち,音素を客観的にとらえ操作できるようになること,および,二文字で一音節を形成するという規則の習得である。次に,両者が実際に拗音習得の必要条件になっているかどうかを検討するために,発達遅滞事例に訓練を行った。先に音素を操作する技能を育てる訓練を行ったが,この訓練は困難で,結局被験事例は音素を操作できるようにはならなかった。続いて二文字で一音節を形成するという規則に気付かせる訓練を行ったところ,この課題ができるようになるのとほぼ時期を同じくして,拗音節も正しく音読できようになった。なお,すべての拗音節が正しく音読できる段階に至っても,音素の操作は依然困難であった。以上より,二文字で一音節を形成するという規則の習得は,拗音節が音読できるようになるための必須条件であると結論した。一方,音素操作技能は拗音節音読習得の必要条件ではないと結論した。しかしながら,両者の間に相関関係が存在することが報告されているところから,むしろ拗音節の音読の習得が音素操作技能の必要条件となっていることが示唆された。
著者
新谷 寛
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

ガラスは工業的に非常に重要であるが、ガラス転移転移の基礎的メカニズムに対する回答は未だに得られていない。この問題に対し我々は、「局所安定構造形成による短距離秩序化」と「結晶化による長距離秩序化」との競合によるフラストレーションが過冷却液体には存在し、それがガラス転移現象の本質と深く関わっているという「二秩序変数モデル」を提案している。そこで、相互作用ポテンシャルに上記のフラストレーションを導入することで、結晶化からガラス化までを続一的に扱えるモデルを構築した。ガラスには、ガラス転移現象の他にも、ボゾンピークと呼ばれる未解決問題が存在する。ボゾンピークとは、THz領域に存在する、デバイの状態密度(低温での結晶の振動状態密度を良く記述できるモデル)よりも過剰の振動状態密度である。しかし、ボゾンピークがガラス転移現象と関連があるのかどうかや、その起源に関しては未解明のことが多い。我々は、前述したモデル用いて、分子動力学シミュレーションを行った。このモデルの圧力やフラストレーションを制御することで、ボゾンビーク振動数を幅広く変化させ、系統的に研究することにより、ボゾンピーク振動数と横波の音波の Ioffe-Regel limit(ガラスのランダムネスの影響のため、音波が強い散乱を受け伝播できなくなる振動数)とに深い相関があることを発見した。さらに、この事実は次元性やポテンシャルの詳細によらない普遍的なものであることも明らかにした。このことは、ガラス(非晶質)の振動ダイナミクスの理解に大きく寄与するものと考えられる。
著者
藤田 英典 紅林 伸幸 酒井 朗 油布 佐和子 名越 清家 WONG SukーYin
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究は、日本、カナダ,アメリカ、イギリス第8カ国の国際比較共同研究「教師の専門性と教師文化に関する国際比較研究(略称:PACT)」の一環として、PACT日本チームによって行なわれたもので、学校教育及び教師の仕事の改善に資することを目的として、文献研究、エスノグラフィ調査、及び質問紙調査を行い、日本における教職の専門性と教師文化の構造・特質について考察したものである。その成果と知見は多岐にわたるが、主なものは以下の通りである。1.教師文化と教育実践に関するエスノグラフィ的研究平成6年度に1年間にわたって4地域の小・中学校各1校(計8校)でフィールドワークを行ない、教師の仕事と教師文化について考察を行った。その成果の一部は、「II.研究発表」欄に記載の論文等にまとめられている。また、その知見の一部としては、教師の仕事が多種多様な作業(ワーク)によって構成されており、それが重層的に展開していることのなかに、教職の専門性や教師の多忙感の基盤があることが明らかにされた。2.教師の生活と意識に関する質問紙調査平成7年7月〜9月に全国8都県の小・中学校教師2053人を対象に実施し、教師の生活と教師文化の構造について考察した。その成果の一部は、「II.研究発表」欄に記載の研究報告書にまとめられている。同報告書において、教師の同僚性、教職の専門性、教員集団の構造、学校の組織構造などが考察・解明されている。3.PACT国際会議等での研究成果の発表平成7年4月の全米教育学会大会(AERA)、同年同月のロンドンでのPACT国際会議等、研究成果の一部を発表した。なお、今後さらに、英文で研究成果をまとめ公表する予定である。