著者
門脇 孝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2013-05-31

過食・運動不足による肥満を基盤病態とするメタボリックシンドローム・糖尿病・心血管疾患・癌・アルツハイマー病が激増している。そのような現状に対し、栄養状態に対する生体反応を適切にコントロールすることによって寿命の延長や若さを維持することが可能 だと考えられ、健康長寿を実現する方法が待望されている。我々はごく最近、抗糖尿病ホルモンであるアディポネクチン/アディポネクチン受容体(AdipoR)シグナルが新規の寿命決定に深く関わる重要なシグナルであることを明らかにし、その活性化低分子化合物(AdipoRon)の取得にも成功している。本研究課題では、それらのシーズを活かし、下記の(1)から(3)を目的とし、研究を推進した。(1)「寿命延長効果をもたらす高等生物に適したカロリー制限の科学と方法(栄養素の量と質)を明らかにする 」 カロリー制限を 一定とした上で、炭水化物、タンパク質、脂質の割合を変動させ、様々な栄養条件下におけるマウスの寿命を検討する実験を開始し、定期的に全身の糖・脂質代謝への影響に関するデータを取得し、寿命に対する観察を継続している。(2)「健康長寿を制御する普遍的シグナルを同定する」 AdipoR 各種遺伝子改変マウスとAdipoR活性化低分子化合物(AdipoRon)投与を組み合わせ、それぞれの代謝に重要な組織におけるメタボローム解析、トランスクリプトーム解析を開始し、候補分子の絞り込みを行った。(3)「代謝制御経路を基盤とした健康長寿実現に向けた科学と方略を確立する」昨年度Natureに報告したAdipoRonを展開し、さらに新たなAdipoR活性化低分子化合物を取得・選抜した。また、ヒトAdipoR発現マウスにAdipoRonを実際に投与し、抗生活習慣病の効果を検討し、ヒトへの有効性について確認した(未発表データ)。
著者
磯崎 行雄 松尾 基之 川幡 穂高 可児 智美
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2008

カンブリア紀初めと古生代末の地球環境変動・絶滅事件について、クロアチア、中国雲南省、さらに岐阜県赤坂・石山、宮崎県高千穂、宮城県気仙沼での野外調査/ボーリング掘削および炭素・ストロンチウム同位体などの分析を行い、古生代末事件が地球磁場強度低下と銀河宇宙線増化による地球規模の寒冷化で始まったこと、またカンブリア紀初期の爆発的進化が特異な南中国のプルーム活動域で局地的に始まったことを初めて解明した。
著者
牛島 廣治 西尾 治
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

(1)現在、社会的に問題となっている下痢症ウイルスのノロウイルスGII主要株に対するイムノクロマト法を世界で初めて開発した。さらにノロウイルスの14 genotypeの中空粒子を遺伝子工学的に作製し、抗体を作りイムノクロマト法に応用する準備ができた。サポウイルスに関しても中空粒子の作製に成功し、ELISAによる検査を可能とした。(2)下痢症に関連する複数のウイルスを同時に検出できるmultiplex PCRを開発した。これはA、B、C群ロタウイルスとアデノウイルスを検出するA set、ノロウイルスG、GII、アストロウイルス、サポウイルスを検出するB set、A、E型肝炎ウイルス、インフルエンザウイルス、エンテロウイルスを検出するC setで下痢症ウイルスの遺伝子レベルでのスクリーニングおよび遺伝子解析を可能とした。また、全国の食品(貝)、河川水などからリアルタイムPCRを用いて定量的なノロウイルスの検出を可能とした。この方法は検出法精度、感度とも優れており、わが国の食品安全を評価できる。(3)分子疫学的手法による解析の結果ロタウイルス感染のピークは20年前には12月〜1月であったが、その後次第に遅くなり今では3、4月が中心となった。ノロウイルスは急に寒くなる11、12月に流行が始まった。従って小児の主な下痢症に2つのピークが見られた。ロタウイルスでは15年間優勢であったG1型(80〜90%)に代わり、G3、G4型が2〜3年前から優勢(各30%ずつ)になった。G9型は20%を占めた。(4)モノクローナル抗体を用いた抗原抗体反応、遺伝子解析でロタウイルスの各血清型を検査すると、同一血清型内でも特定の部位に変異があった。C群ロタウイルスの小流行が舞鶴で見られた。ノロウイルスやサポウイルスの遺伝子解析から新しいgenotypeや組換え体を報告した。また、genotype間での組換えも見られた。(5)乳児・高齢者施設で下痢症ウイルスの施設内流行があり、食品を介さないヒト-ヒト感染あるいは空気感染が示唆された。イムノクロマト法が迅速診断として有効であった。(6)脳炎・脳症の症例で、PCRでロタウイルス陽性の髄液があった。(7)ロタウイルスのNSP4が下痢症発症の原因として重要とされている。NSP4と脳炎・脳症との関係を調べる目的で新生ラット神経細胞にNSP4の活性部位の合成ペプチド、およびウイルス蛋白を直接作用させたが、アポトーシスを誘導することはなく、脳炎・脳症の発症メカニズムは明らかとならなかった。(8)siRNAを細胞内に導入し、ロタウイルス感染による細胞のアポトーシスを抑制することにより、アポトーシス誘導経路を明らかとした。(9)酸化チタンによる光触媒が抗ウイルス作用を有することがわかった。
著者
黒崎 勲
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部教育行政学研究室紀要 (ISSN:02880253)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-35, 1981-12-25
著者
加藤 孝久 崔 〓豪 田浦 裕生 田中 健太郎
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

ナノスケールの有機分子膜はナノインプリント、MEMS,磁気ディスクドライブなどのマイクロ・ナノシステムにおいて、摩擦摩耗特性、耐食性、離型性などを改善するために用いられている.有機分子保護膜を用いてマイクロ・ナノシステムを長寿命化するためには、有機分子と固体表面とで強い吸着性が必要である.有機分子と固体表面との吸着特性は、固体表面における吸着サイトの面密度に依存しており、固体表面の制御が重要因子である。一方、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜は、高硬度、低摩擦、耐摩耗性、耐薬品性を有する材料であり、磁気ディスクドライブの保護膜、工具や金型の表面処理等に実用化されている。本研究では、固体保護膜としてDLC膜上に有機分子を高密度かつ強く吸着させることで、高耐久性ナノスケール保護膜システムを開発することを目標にする。固体表面は以下の二つの観点で制御した。ひとつは、表面改質から潤滑膜固定まで連続したナノ表面処理システムを開発することでDLC表面を清潔に保った状態で有機分子を固定する方法である。真空中一環プロセスでDLC膜の作成と有機分子の吸着を行うことで、空気中の有機汚染物により、DLC表面の吸着サイトがターミネートされることがなくなり、より_0多くの分子がDLC表面に吸着できる。もうひとつは、DLC膜の組成を制御することでDLC膜表面上における吸着サイトの面密度を上げる方法である。DLC膜は作成時、炭化水素ガスを原料として用いるが、原料ガス中に窒素、シリコンなどを含むガスを混合することで様々な組成を有するDLC膜の作成が可能である。DLC膜中に種々の元素を添加することで、その表面組成も変化し、吸着サイトの面密度を制御することが可能になる。本研究では、表面改質から潤滑膜固定まで連続したナノ表面処理システムを開発することで潤滑分子の高い吸着性を実現した。また、様々な組成を有するDLC膜の表面に有機分子を吸着させることで、DLC膜の組成の違いによる潤滑分子の吸着特性を明らかにした。
著者
八重樫 徹
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

2008年度から継続して、フッサールを中心とした初期現象学における倫理学と行為論の研究を行なってきた。2008年度後半からは研究指導委託によりドイツに滞在し、ケルン大学フッサール文庫で調査・研究を行なった。今年度前半も引き続き、同地でディーター・ローマー教授の指導のもと、研究を続けた。フッサール文庫では、主に未公刊草稿群『意識構造の研究』を題材として、フッサールの価値論および行為論の全体像を見定める作業を行なった。同草稿は以前からその重要性が指摘されているものの、未公刊ということもあり、十分な研究がなされてこなかった。今回の滞在中にその全体に目を通すことができ、大きな成果を得ることができた。その成果の一部は研究発表(2)-2および(2)-3に含まれているほか、現在執筆中の博士学位申請論文に盛り込まれる予定である。帰国後は、現代のメタ倫理学および規範倫理学と照らし合わせつつ、フッサールの倫理学上の立場を明確化する作業を行なった。研究発表(1)-1では、彼のメタ倫理学上の立場が、超越論的観念論に立脚した一種の道徳的実在論であることを示した。研究発表(1)-2では、彼の規範倫理学上の立場が、個別主義的でありながら非相対主義的な義務論であることを明らかにした。行為論に関しては、引き続き『意識構造の研究』などを題材にフッサールの行為論の理解を深める一方で、フッサールの影響を受けつつ独自の現象学的行為論を構築したヒルデブラントの著作をはじめとして、初期現象学派の行為論を研究した。これらの成果をまとめるかたちで、博士学位申請論文「道徳的行為の現象学(仮題)」を執筆中である。
著者
小林 繁子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

筆者は昨年度8月より継続して文書館史料や二次文献などを渉猟する調査を行った。具体的には、博士論文のテーマとして設定した「トリーア・ケルン・マインツ三聖界選帝侯領における魔女迫害の構造比較」のための史料としてとくに民衆からの「請願状」に着目し、これが魔女迫害においてどのような機能を果たしたのか分析し、そこから見られる君主一臣民間の複雑な関係を明らかにすることを目的としている。今年度は特に文書館の手稿史料の解読と分析に注力した。8月~9月には一時帰国し、それら史料調査の成果をまとめつつ、マインツ選帝侯領における魔女迫害について論文を作成し、2010年8月末に国内の学術雑誌に投稿した。さらにその後の史料調査によって得られた知見を加えた改稿を経て、現在審査中である。またトリーア大学のフォルトマー氏と同テーマに関する共同論文を現在準備中である。ここではフォルトマー氏がトリーア選帝侯領、ルクセンブルク大公領、聖マクシミン修道院領において行われた魔女迫害とそこでの請願状の役割について、また筆者はマインツ選帝侯領およびケルン選帝侯領レンス市における魔女迫害について執筆を担当することになっている。これは2011年中に発表される予定である。また、2010年9月にマルティン・ルター・ハレ・ヴィッテンベルク大学において行われた日独共同大学院秋季セミナーにおいて「近世における請願状の諸機能-マインツ選帝侯領における魔女迫害の事例から-」と題してこれまでの史料調査に基づきドイツ語での口頭研究発表を行った。
著者
小島 浩之 上田 修一 佐野 千絵 安形 麻理 矢野 正隆 吉田 成 内田 麻里奈 森脇 優紀 冨善 一敏 設楽 舞 野中 治 木部 徹 島田 要
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究では、記録媒体として紙に次ぐ歴史を有するにもかかわらず、これまで学術的な観点から調査・研究がなされてこなかったマイクロフィルムについて、図書館等への訪問実態調査(33機関)、および図書館と文書館への質問紙調査(大学図書館:1,378、都道府県立図書館:58、国立国会図書館:1、公文書館:75、大学文書館:88、専門図書館:380)を基軸とし、生産・出版・保存・活用・管理等の諸側面から総合的に分析した。
著者
横山 祐典 NOT Christelle
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

今年度は、海水および炭酸塩のウラン系列年代を決定するために、高精度セクター型誘導プラズマ質量分析装置(SF-ICPMS)の分析を中心に行うとともに、有孔虫の飼育試料の局所分析をレーザーを使ったICPMS(LA-ICPMS)によって行った。ウラン系列年代測定法の確立は、機器の不安定な挙動や化学処理中の混入元素除去方法の確立などに時間がかかったため、高精度の分析は行うことができなかったが、誤差がまだ大きいものの、安定な分析は行えるに至った。また、飼育有孔虫の局所分析については、共同研究者から提供された、複数の異なるpH区で飼育した有孔虫試料について、微量金属の挙動をLA-ICPMSにより分析した。この研究は現在進行中の人為起源気候温暖化に伴う、大気二酸化炭素上昇と並行しておこるとされる海洋酸性化が、海洋生態系へどのような影響を与えるかについて、予測する上で重要なデータを与える研究である。海洋酸性化が、特に炭酸塩の殻を持つ生物に与える影響は、マイナスであるとするものの他に、pH区間によってはプラスに作用するという報告もあり見解の一致は見られていない。今回の研究では、特に過去の水温復元やpH復元に利用されている微量金属の挙動について明らかにした。その結果、全ての種において一致した挙動を示すのではなく、また元素によっても異なる挙動を示し、問題の複雑さが明らかになった。しかし、一般的に言えることは、共生藻をもつ種と持たない種によっての挙動の一致は認められ、今後の実験のデザインをする上で貴重な情報となった。この研究はこれまで報告が無いことなるpH環境下で飼育された有孔虫試料の局所分析を行った世界で初めての研究となり、結果を国際誌に投稿した。
著者
柳瀬 亘
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-28

地球上には熱帯低気圧(台風やハリケーンの総称)、温帯低気圧、ハイブリッド低気圧(複数のメカニズムが影響)など、実に様々な低気圧が形成していることが衛星画像や天気図からもわかる。このような低気圧の多様性を理解するため、低気圧の気候学的な分布を解析した上で、低気圧の発達と環境場との関係を高解像度の数値モデルによる理想化実験で調べた。この結果、気候学的な低気圧の発達や性質は単純化した環境場でも説明できることが確認された。また、亜熱帯は熱帯低気圧の発達にとっても温帯低気圧の発達にとっても中途半端な環境場であること、海洋の西部はハイブリッド型の低気圧が発達しやすい環境であることなどが示された。
著者
百生 敦 矢代 航
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

X線Talbot干渉計を含め、X線透過格子を用いる微分位相計測技術と、フレネルゾーンプレートを用いたX線結像顕微鏡を組み合わせることにより、位相敏感X線顕微鏡の開発し、高分子材料や生体組織などの弱吸収物体の高感度・高分解能観察技術を立ち上げた。さらに、試料を回転させて複数の投影方向で撮影を繰り返し、試料内部構造の三次元屈折率分布画像の再構成(X線位相トモグラフィ)も実現した。
著者
一木 絵理
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、詳細な環境史を時間軸に、日本列島における縄文海進像を再構築し、海進および海退による海域生態系の変化と人間活動を明らかにすることが目的である。海進・海退の地域比較を明らかにした初年度に加え、当該年度は対象地域のさらなる調査と新たな地域を加えて、海域生態系の復原および編年を明らかにすることに努めた。対象地域は(1)古本荘湾と菖蒲崎貝塚(秋田県)、(2)古青谷湾と青谷上寺地遺跡(鳥取県)、(3)上北平野と長七谷地貝塚(青森県)、(4)常呂平野とトコロ朝日貝塚(北海道)である。(1)では、菖蒲崎貝塚周辺で重要なボーリング・コアが得られ、沖積層の層序を解明することができ、本荘平野の変遷史の中で貝塚を位置づけることができた。特に縄文時代早期後半の段階で内湾奥部まで海が侵入して古本荘湾が形成され、貝塚は水深の深い海辺に形成されたことがわかった。(2)では、古青谷湾の海進および海退、平野の形成を明らかにし、さらに縄文時代後半期の浅谷形成と弥生の小海退も新たに認めることが出来た。環境史の中に遺跡を位置づけ、その特異性が明らかになった。(3)では、長七谷地貝塚周辺でボーリング・コアの採取を行い、火山灰編年と層序を対応させることができ、災害の影響と遺跡群の変遷を捉えることができた。(4)では、常呂平野とサロマ湖でのボーリング・コアの採取によって、海退の現象を追うとともに比較研究が可能となった。本研究によって、日本列島における縄文海進および海退による海域生態系の復原を行い、地域ごとの実態を年代測定を加え詳細に対応させていくことで、地域間の共通点と相違点が明らかになった。海進・海退による大きな変化期が人間活動とどのように結びつくかということは、各地域を成り立たせている基盤-地形地質や河川形態、内湾形態といった要素と切り離せず、今後も各地域においてその様相を把握し明らかにしていきたい。
著者
鈴木 雄志
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

研究計画通り、研究指導を頼んだパリ第4大学ギュイヨー教授の指導を受けながら、フランス、パリでの資料・文献収集を引き続き行った。研究対象となる18・19世紀の文献、特に近年になっても校訂版やファクシミリ版さえ出版されず、日本の図書館にも所蔵されてない作品を、パリの国立図書館等で調査し、必要に応じて収集した。また、パリやフランス各地の学会にも参加し、最先端の研究に触れることで有意義に研究を進めることができた。研究実績としては、調査した内容の一部を、日本国内のフランス文学会にて二度発表した。詩と造形芸術との関連、造形芸術における官能性と詩におけるその表現を示した発表内容に関し、学会誌の査読委員会から執筆依頼を受け、提出した論文が現在審査中である。来年度にかけて、今年度の研究成果を学会や論文誌等で発表するために、現在論文準備を進めている。資料調査のために海外で研究を進めることで、日本におけるフランス文学研究が遅れている領域について書かれた研究に多く触れることができた。特に当研究者が取り組んでいる18世紀リベルタン文学と19世紀文学の関わりは、間にフランス革命という大きな断絶が存在しているために、従来フランスでも研究が遅れている領域であった。しかし、近年多くの研究者たちが革命期の文学についての論文を多く発表し、革命という断絶を繋ぐ文学史の流れを再構築しようとしている。その流れに沿ったところに位置づけられる本研究によって、フランス文学研究全体が近年行っている文学史、そして文学の意義の再検討する研究活動の一端をになう成果を挙げることができた。
著者
両角 亜希子
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、アメリカの大学の中でも、とくに授業料依存型の財務構造をもつ大学における経営戦略の実態を明らかにし、日本の大学経営に対する具体的な示唆を導きだすことにある。アメリカの私立大学のなかでも、潤沢な基本財産をもつ大学に注目が集まりがちだが、アメリカにおいても数の上では大半を占める授業料依存型の私立大学である。こうしたタイプの大学の多くは研究機能より教育機能で個別化戦略を立てていることが多い。そこで、アメリカで近年盛んにおこなわれている学生の学習状況調査(とくにインディアナ大学が行っているNational Survey of Student Engagementを中心に検討)で高い評価を上げている大学を探し、その中から、授業料依存率の高い大学をいくつか抽出してその特徴を検討した。
著者
田中 理恵 (市川 理恵)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究は、正倉院文書を用いて「石山寺造営事業・二部大般若経写経事業・宝亀年間の一切経写経事業」の財政を解明することで、古代国家の銭貨政策の内容・意図を追究することを目的とした。本年度は、1石山寺造営事業と宝亀年間の一切経写経事業の財政構造をあきらかにし、論文にまとめ、さらに2古代国家の銭貨政策の内容と意図をあきらかにした。まず(1)正倉院文書による価格調査を行い、先行研究が指摘する宝亀元年の物価高騰が存在しなかったこと、天平宝字末年の物価上昇は二段階あり、第一段階は天平宝字六年の米価高騰、第二段階は天平宝字八年の全品目の物価高騰であったことを発見した。さらに(2)新銭の流通状況を調査し、特に天平宝字四年(七六〇)に発行された万年通宝は、和同開珠を基準とする価値体系のなかにその十倍の価値を持つ万年通宝が投入されたことを確認した。すなわち藤原仲麻呂が推進する事業を掌る中央官司に、新銭を下賜するという方法で、財政的に支援していたことをあきらかにした。これに対し、宝亀年間の一切経写経事業の帳簿を検討した結果、天平神護元年(七六五)の神功開宝発行時は、和同開琳と万年通宝の価値をそれぞれ十分の一にしたうえで、万年通宝と同価値の神功開宝を発行していたことを発見した。これまで古代国家は、下落した銭貨価値を取り戻すために次々と旧銭の十倍の価値をつけて新銭を発行してきたと考えられてきた。しかし神功開宝は、天平宝字八年以来の物価高騰を収束させるために発行されたと考える。今後、論文「奈良時代の銭貨政策-万年通宝・神功開宝を中心に-」としてまとめる予定である。
著者
エリス 俊子 OTOMO RIO
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

1.金原ひとみに関して書いた論文に推敲を重ね、「少女を読む少女」(青山とも子編Routledge社)の一章として2008年の出版を予定している。この論文は1995年以降に登場した村上春樹以降の若手作家に現れる傾向を探りつつ、女性、文体、近代的主体の行方を追った研究の一環である。2.その後村上作品に戻って、脱ジェンダーが実は女性性を隠蔽するシステムとなっている点を分析し、最近の作品「アフターダーク」における日常と非日常の空間の表象を考察した。この研究は「少女、身体、そして国家」、「文学と言語における空間と時間」という二つの学会に向けて書かれ、共に、単行本の一章として出版が予定されている。3.さらに、「やおいマンガの語りと欲望の消費」という小論文を書き、マンガやライトノベルのジャンルの語りに現れる日常性にも目を向け、現在出版に向けて推敲中である。4.ウェブ・ジャーナル「日本近代文学:フェミニズム文学批評」の立ち上げは、若干の遅れはあるものの進行中で、来年9月にタスマニア大学(豪州)にて「日本研究科で文学を教えるためのワークショップ」を開催し、その際同時にこれを立ち上げる予定。
著者
武山 健一 今井 祐記 岡田 麻衣子 藤木 亮次
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2010-06-23

「研究の目的」本研究では、性差構築におけるエピゲノムコードの解明を研究課題として、ピストン修飾やそれに伴うクロマチン構造変化等のエピジェネティクスの性差を見いだすことである。これまで、エピジェネティクスの現象に性ホルモンや性染色体依存的性差は判然としていない。そのため、本研究アプローチでは、細胞レベルでの性ホルモンによるエピゲノム調節を解析することとした。「研究実施計画とその成果」性差の認められる組織や器官において、それらを構成する細胞の分化や維持について着目した。特に、間葉系幹細胞は骨芽細胞、脂肪細胞、B細胞など多様に細胞分化することが明らかであるが、これら細胞数や細胞分化には性差が認められる。本研究では、これら細胞分化に必須となるZincfingerタンパク質(Zfp)に着目し、核内におけるZfpやタンパク複合体精製を行った。興味深いことに既知のクロマチンリモデリング因子複合体構成因子に加え、これまで染色体上では着目されていない酵素を見いだした。この点をより詳細に検討するため、タンパク精製を繰り返し、複合体構成因子の全貌を解明することができた。更にこの酵素活性が複合体中に存在することが判明した。また、この酵素遺伝子を不活性化させると、間葉系幹細胞の分化促進や細胞系譜に異常が生じることが明らかとなった。これらのことから、細胞分化における新たな分子機構が明らかとなり、今後、細胞分化における性ホルモンやY染色体とのシグナルクロストークを解明する糸口を提案できた。以上、細胞分化制御における新たな性差のエピジェネティクスの分子機構解明の一端を見いだすことに成功した。
著者
加藤 久典
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

食品を摂取した動物がどのような応答を示すかを、多数の分子を網羅的に解析するオミクス解析という手法で解析した。遺伝子発現量、タンパク質量、代謝物量など、様々な網羅的解析を組み合わせた。この方向の研究を推進するためのデータベースや解析ツールを改良し、その有効性を実証した。食品のみならず、運動や日内リズムなど関係する生活習慣の影響も合わせて解析することに成功した。