著者
青野 寿郎
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1949

博士論文
著者
小林 直樹 篠原 歩 佐藤 亮介 五十嵐 淳 海野 広志
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2015-05-29

本課題では、高階モデル検査の(1)理論的基盤の強化とそれに基づく高階モデル検査アルゴリズムの改良、(2)プログラム検証への応用、(3)高階モデル検査の拡張とそのプログラム検証への応用、(4)データ圧縮への応用、の4つを柱に研究を進めている。以下、それぞれの項目について、平成28年度(およびその繰越として遂行した平成29年度の一部の結果)について述べる。(1)理論的基盤の強化:HORSモデル検査とHFLモデル検査という2種類の高階モデル検査の間に相互変換が存在することを示すとともに、HFLモデル検査問題を型推論問題に帰着できることを示した。後者の結果に基づき、HFLモデル検査器のプロトタイプを作成した。また、高階文法の性質について調べ、語を生成するオーダーnの文法と木文法を生成するオーダーn-1の文法と間の対応関係を示した。さらに、高階モデル検査アルゴリズムの改良を行い、値呼びプログラムに対して直接的に高階モデル検査を適用する手法を考案、実装した。(2)プログラム検証への応用:プログラム検証で扱える対象プログラムや性質の拡充を行い、関数型プログラムの公平非停止性の検証、コード生成プログラムの検証、動的なスレッド生成を伴う高階並列プログラムの検証、などを可能にした。(3)拡張高階モデル検査:HORSに再帰型を加えて拡張したμHORSに対するモデル検査アルゴリズムの改良を行い、その有効性をJavaプログラムの検証を通して示した。(4)データ圧縮への応用:データをそれを生成する関数型プログラムの形に圧縮する方式(高階圧縮)について、圧縮後のプログラムをビット列に変換する部分の改良を行った。また、高階圧縮のための様々な要素技術について研究を進めた。
著者
田中 徳英
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2001

博士論文
著者
谷川 武
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

職業ストレスが、免疫系に及ぼす影響を明らかにする目的で某発電所の電気技術職に従事する男子124名を対象にJob Content Questionnaire(Karasek,1985)の日本語版(川上ほか、1992)に基づき、職場の主要な3つの心理社会的ストレスである仕事の要求度、仕事のコントロールおよび上司と同僚からの支援度(社会的支援)を調べた。これと同時に対象者の細胞性(T,BおよびNK細胞分画数)および液性(血清IgG,IgA,IgM,IgDおよびIgE値)の免疫能を測定した。仕事の要求度が中央値よりも高く、仕事のコントロールが中央値よりも低く、社会的支援が中央値よりも低い者を高ストレス群(年齢25-36,平均31歳,n=21)、仕事の要求度が中央値よりも低く、仕事のコントロールが中央値よりも高く、社会的支援が中央値よりも高い者を低ストレス群(年齢23-36,平均30歳,n=13)と区分した。高ストレス群は、低ストレス群より血清IgG値が有意に高く、CD8^<brioht>+CD11a-細胞分画(細胞障害機能を有するとされるCD8+CD11a+細胞の前駆細胞)数が有意に低かった。その他のリンパ球分画数および血清免疫グロブリン値には両群間で有意な差は認められなかった。本研究から、職業ストレスが高いことにより血清IgG値の上昇と末梢血中のCD8^<brioht>+CD11a-細胞分画数が低下することが示唆された。
著者
渡邊 嘉典 作野 剛士
出版者
東京大学
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2005

体細胞が増殖分裂する過程で、複製された染色体のコピーが娘細胞へ均等に分配されるためには、染色体の中心部分にある動原体が反対方向からのスピンドル微小管によって捕らえられることが重要である。このためには、細胞分裂のときに、動原体部分の接着が維持されていることと、その向きが正しく制御されることが必要である。この過程には、我々が酵母において発見し命名したシュゴシンとMoa1というタンパク質が本質的な役割を持つことが明らかになった。この機構は、ヒトにおいても保存されていると考えられる。
著者
永井 美之 速水 正憲 内山 卓 足立 昭夫 山本 直樹 塩田 達雄 長澤 丘司 松下 修三 生田 和良
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は延べ約80名の研究者を、1。HIVの複製機構、2。病態のウイルス学的基盤、3。病態の免疫学的基盤、4。エイズの動物モデル、5。感染と病態の制御の5つの柱のもとに組織し、細胞、モデル動物、そして自然宿主であるヒトのレベルでのHIV感染機構の解明、感染に対する宿主応答の実体の解明をとおして、エイズ発症の仕組みを理解するとともに感染発症の阻止と治療のための新しい方法を開発することを目指した。3年間の取り組みの結果、HIVの複製過程におけるウイルスの各蛋白と細胞分子との新しい特異的相互作用の発見とその実体解明、病態進行速度と密接に関連するウイルスゲノムの特異的変異と宿主側蛋白および遺伝子多型の同定、ウイルス排除のための細胞傷害性T細胞エピトープの同定、HIV複製に必須のヒト因子を導入したマウスの開発、ヒト細胞移入SCIDマウスによるHIV感染評価系の確立、ウイルス病原性研究のためのサルモデルの開発、ウイルス特異的反応およびウイルスと細胞の特異的相互作用を標的とする新しい抗ウイルス候補剤の発見および開発、などの多くの成果をあげた。その結果、細胞レベルから個体レベルにわたって、感染と病態を制御する新たな局面の数々が分子レベルで解明されるとともに、それに基づくエイズ制御の新しい戦略を示唆することができた。今後の重要課題の一つとして、高リスク非感染者、長期未発症者などの解析により、HIV感受性と病態進行を決定する宿主の遺伝的基盤と免疫学的基盤の解明がある。また、多剤併用療法奏効例の解析による免疫能再構築の実体解明も重要である。さらに、エイズのすざましい世界的拡大に対処するために、ワクチン開発の取り組みの強化は必須である。
著者
土屋 一彬
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、生物多様性保全と生態系サービス維持向上のための課題である私有緑地の管理放棄問題の解決に向けて、社会的な観点から(1)緑地管理をとりまく多様な主体の間での地域生態知識の共有・継承プロセスの解明、そして経済的な観点から(2) 緑地管理のためのPESの実効性評価の2つの具体的課題に取り組んだ。その結果、(1)保全活動年数の増加は参加者の知識や経験を増加させる一方で、保全団体活動の継続性に対する問題も同時に発生していること、(2) PESを活用した管理促進策は、財源が確保されるだけでは十分ではなく、管理継続のための主体間の間での連携体制構築が重要になることが示された。
著者
松本 尚
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

マルチプロセッサ上の通信機構や同期機構の定量的な評価を行うために、従来からクロックレベルの動作が詳細に観測できる実行駆動型の共有バス型マルチプロセッサのシミュレータを開発した。本研究では、このシミュレータの構成要素であるスヌープキャッシュにキャッシュインジェクション機能を追加し、外部からデータをキャッシュに注入する主体である広域構造体ブリフェッチ機構を実装した。作成したシミュレータを用いて、キャッシュインジェクションを使用したプリフェッチ機能の性能を、SOR、SAXPY等の応用プログラムを実行することにより評価した。評価の結果、キャッシュインジェクションは要素計算機間を結合するバスのトラフィックを減少させる働き、キャッシュを有効に活用する機能が有効であり、著しい性能向上がえられた。現在、本マルチプロセッサシミュレータはワークステーション上で動作しており、研究代表者が在籍する研究室の最新鋭高性能ワークステーション上で、シミュレーション実験を行った。大規模なシステムをシミュレートするためには大容量のメモリが必要になるため、ワークステーションのメモリを増設した。また、シュミレーション時間もかなり長くなるため、シミュレーション時になるべく多くの情報をログとして保存して、そのログ情報を利用してシステムの性能評価やキャッシュインジェクション機構の動作の解析そして機構の改善法の検討に役立てた。交付された予算は、シミュレーションを行なうシステムの補強に使用した。シミュレーションでは評価不可能な規模のアプリケーションに対する評価を可能にするために、Elastic Barrierを実装した密結合マルチプロセッサプロトタイプ「お茶の水1号」の研究開発も行った。「お茶の水1号」は4台のRISCプロセッサからなる密結合マルチプロセッサであり、完成時のピークパフォーマンスは600MIPS,400MFLOPSである。交付された予算の一部はこのプロトタイプ作製の部品の購入に使用された。このプロトタイプの設計並びに各機能の性能見積りについては報告発表を行った。
著者
鈴木 譲
出版者
東京大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

感染の場であり,防御の最前線となる粘膜組織には,腸管におけるパイエル板のような特殊なリンパ組織の存在が哺乳類では知られているが,魚類では明確ではない.そうした中で,魚の鯛にリンパ球集塊が存在することを見出した.この組織がリンパ器官としての機能を持つのではないかとの仮説を立て,その検証を進めた.組織学的な観察によりリンパ球集塊の表皮内に存在することが明確になったことから,トラフグ上皮間隙白血球の単離を行った.メイギムザ染色観察の結果,リンパ球が多数を占め,次いでマクロファージ,そして少数の好中球,好塩基球が認められた.さらに,哺乳類の粘膜リンパ組織で抗原の取り込みに重要な働きをするM細胞をUEA-1染色により探索した.しかし、鰓のリンパ球集塊近傍のUEA-1陽性細胞は形態的には塩類細胞であった。魚類ではM細胞は存在しない、あるいは同じ系統の細胞が哺乳類とは異なる機能を持っているものと考えられる.鰓におけるRT-PCRの結果,B細胞のマーカーであるIgM,IgT,ヘルパーT細胞のCD4,細胞障害性T細胞のCD8の発現が認められたが,In situ Hybridizationの結果,IgT陽性細胞はリンパ球集塊に特に多く蓄積しており、防御の最前線である末梢でその役割を果たしているものと推測された.一方,IgM,CD4,CD8陽性の細胞は比較的少数であり,哺乳類腸管に見られる胸腺外T細胞分化を示す材料は認められなかった.組織特異的に発現するケモカインが,それぞれの部位に必要な白血球を誘導することが哺乳類では知られている.トラフグのケモカインを明らかにし,鰓で発現する種類から機能の推定を試みた.7種類のCCケモカインの発現をトラフグで調べたところいずれも鰓での発現が認められ,鰓のリンパ球集塊とヒトの各リンパ組織との相同性を類推することはできなかった.しかし、このように多くのケモカインが発現していることから,鰓が免疫系において重要な役割を担っているものと推測された。
著者
赤池 弘次
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1961

博士論文
著者
東條 英昭 山内 啓太郎 内藤 邦彦 小野寺 節
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1.EGFPをマーカーとしたTg胚の選別法について検討した。マウス受精卵前核にCMV/β-actin/EGFP遺伝子を顕微鏡注入し、体外培養後、桑実胚ないし胚盤胞期に蛍光顕微鏡で観察が、偽妊娠マウスへ移植した。生まれたマウスのDNA解析の結果、胚全体で蛍光を発する胚の移植から、76.9%、モザイク様蛍光胚の移植から21.6%のTgマウスが得らた。2、CAG/EGFP遺伝子にWAP/hGH遺伝子を連結した連結遺伝子を受精卵前核に顕微鏡注入し、同様な方法でTg胚を選別した後、仮親に移植した。生まれたマウスのDNAおよび緑色蛍光を調べた結果、生まれたマウスのうち約82%がTgマウスであった。また、血液ならびに乳汁中のhGHを測定したところ、それぞれ、hGHが検出され、EGFPを発現しているマウスの全てで、hGH遺伝子が発現していた。3、Cre/loxp系を利用した遺伝子導入が試みられているが、この系を利用する場合には、creを発現するトラスジェニック(Tg)動物とloxp遺伝子を導入したTg動物の2系統のTg動物の作出が必要であり、家畜に利用するには難点がある。最近、酵母や細菌で見い出されたloxpと相同な配列を持つ偽(ψ)loxp部位がマウスのゲノムム内にも発見された。このcre/ψloxp系を利用し培養細胞系で外来遺伝子のsite-specificで高率な導入の結果が得られている。本年度は、このcre/ψloxp系を利用したTgマウスの作出を試みた。まず、受精卵の前核内でcre/ψloxp系が作用するかどうかを調べるために、CMV/loxp/stuffer/loxp/lacZプラスミドとcre酵素を共に前核に顕微鏡注入した結果、laczの発現が観察された。つぎに、cre酵素に変えてCAG/creプラスミドを共注入し、胚を借親に移植した結果、胎児ならびに新生小マウスの25%でTgマウスが得られた。以上、本研究で得られた成果は、Tg家畜を作出する上で極めて有効な手段として利用できることが示された。
著者
松原 望 土井 陸雄 斉藤 寛 北畠 能房 池田 三郎 阿部 泰隆
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

人為起源物質のリスクの動的管理システムを開発するための第2のステップを踏み出した。第1のステップは動的管理のコンセプトをi)観測可能性,ii)費用計算可能性,iii)制御可能性の三つを中心として抽出する段階で、これはあくまで抽象的コンセプトであった。これに具体性を与えるための枠組を探り、2,3年目の最終具体化段階へ移行させる最初の踏み出しが、第2のステップである。次の事項を抽出した。I.制御可能性 「個体差」「安全係数」を重視し、初期対応の機会を逃さず、全体のモニタリングを欠かさない。制御の法的可能性も重要である。II.観測可能性 「統計死」がリスク管理の対象であり、リスク管理の理論が必要となる。III.基用計算可能性 リスク管理は、「個人の選択」を基本としつつ、その情報サポ-ト、効果の社会経済計算で支えられる。
著者
大竹 二雄 天川 裕史
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

アユ、ビワマス、ウナギを主要な研究対象に耳石のSr安定同位体比(^<87> Sr/^<86> Sr)や酸素安定同位体比(δ^<13> O)を用いて産卵場所を含む回遊履歴を明らかにした。耳石^<87> Sr/^<86> Srからアユの母川回帰性がないことを示し、ビワマスには母川回帰性があるもののその性質は弱く、母川近隣河川に遡上する傾向が強いことを明らかにした。耳石^<87> Sr/^<86> Srに基づいて、ウナギ産卵海域で採捕された親ウナギの成長場所の推定を行い、一部のウナギが日本列島太平洋岸の河川、汽水域で育ったことを示した。また、シラスウナギの耳石中心部分のδ13Oから卵の分布が水温26. 0℃、水深150-170mであることを明らかにした。この結果は2009年、2011年の学術研究船白鳳丸によるウナギ卵の採集に大きく貢献した。
著者
下浦 享 道正 新一郎 鎌田 裕之 大田 晋輔
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

中性子多体系のダイナミクスの情報を得るために、不安定原子核の内部エネルギーを利用した原子核反応-発熱型荷電交換反応-を用いて軽い中性子過剰核および4中性子系の生成過程を調べることが目的である。これを実現するために、反応高分解能磁気分析装置(SHARAQスペクトロメータ)および高分解能ビームラインにおいて飛跡を分析する検出器を設計・製作し、4中性子系の生成に最も適した原子核反応(8He, 8Be→2α)で測定する2個のα粒子の検出システムを開発した。発熱型荷電交換反応による高励起状態および二重荷電交換反応による中性子過剰核12Beの生成に成功し、2012年前半に実施予定の4中性子系生成実験の礎が固められた。
著者
坪野 公夫
出版者
東京大学
雑誌
新学術領域研究(研究課題提案型)
巻号頁・発行日
2008

非線形光学結晶を用いた2次の非線形光学効果を用いたスクイーズド真空場生成装置を開発し、8dBのスクイージングに成功した。そしてプロトタイプ重力波検出器を設置し、生成したスクイーズド真空場を入射することにより、スクイーズド真空場を用いた重力波検出器の散射雑音の低減に初めて成功した。
著者
増原 英彦
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、自己反映並列オブジェクト指向言語ABCL/R3の言語設計および、インタプリタ処理系の作成を行い、従来のものより、より記述が容易で効率的な実行が可能となる言語処理系作成のための方向付けが得られた。具体的には、以下のとおりである。(1)ABCL/R3の言語設計、特にメタオブジェクトプロトコルに関しては、継承と委譲(delegation)による拡張を念頭に置き、細分化されたメソッド群によって定義を行った。特にこの細分化は、部分計算による実現を前提とすることで、プログラマが利用しすい形で定義することが可能になっている。そのため、報告者らがこれまで設計・実現を行ってきたABCL/R./R2に比べて、メタオブジェクトの拡張に継承機構が利用でき、再利用性を向上させている。また、メタインタプリタ設計に関しては、新しく委譲にもとづいた設計を行った。これによって、インタプリタ実行時にインタプリタ定義を拡張することが可能になり、動的かつ局所的な変更を容易にしている。さらに委譲オブジェクトは、関数定義への変換できるように制限されているため、部分計算を用いたコンバイルを容易にしている。(2)Schemeの並列オブジェクト指向拡張であるSchematicをもとにして、ABCL/R3のインタプリタ処理系を作成した。現在のところ、メタレベルの変更を含めた簡単なサンプルプログラムが動いている。Schematic処理系は、並列環境に対応しているため、ABCL/R3処理系を並列に動作させることは容易であると思われる。また、コンパイル方法については、メタオプジェクトを部分計算した結果を、他のオブジェクトと同様に扱うための枠組が必要であることが分かり、現在はその解決方法を新たな研究課題として検討している。
著者
和田 杏実
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

第一年度目はまず、これまでの研究成果を整理し、追加・修正を行なうことで、本研究テーマの基礎を固めることを目標とした。本研究テーマの基礎とは、19世紀末から第一次世界大戦までのイギリスが、帝国防衛という観点から戦時国際法形成にどのような態度で取り組んだのかを検証することであり、この作業によって、同時代の他国の態度との比較および戦間期イギリスの態度との比較検証が容易になると考える。そこで、特別研究員奨励費を使用して2008年8月15日から21日までロンドンに滞在し、ロンドン国立公文書館において、イギリス外交文書の収集を行なった。その成果を「20世紀初頭イギリスにおける海戦法政策:軍事的観点からみた国際規範形成」として論文形式でまとめた。従来の研究では実際の政策担当者たち以外の言説、つまり傍系の閣僚の理想主義的見解や野党の批判を主に参照していたため、イギリスの海戦法政策は"変則的"あるいは"不合理"と評価されてきたことを指摘する。そこで、実際にはどのような権利と軍事戦略が重視されて海戦法政策が立案されていったのかを、政策形成に直接携わった閣僚と将校の見解を分析対象として再構築することで、そうした従来の評価の修正を試みた。その結果、海軍省と外務省の大臣や国際会議に出席した実務家は、第一回ハーク会議当初から一貫して、イギリスの交戦国の権利を主張し、海上における通商戦争に勝利できるような軍事戦略と海戦法政策を構想していたことを明らかにした。重要な主張を他国に認めさせることができた1909年ロンドン宣言はイギリス海軍省によれば「決定的勝利」であったが、イギリスが第一次大戦中に宣言を放棄したことは、"不合理"ではなく当然の帰結であった。というのも、イギリスの基本的な態度は帝国防衛のためには自国の規則が海戦に関する戦時国際法より"優れて"いるというものであったからだ。さらに、ハーグ会議や戦時国際法に関する研究は国内外で積み重ねられてきたが、戦争違法化の第一歩という今日的意義で捉えられることが多く、その"善きイメージ"が実態と乖離しているように思われる。しかしながら、戦争が政治紛争を解決する最終手段として合法であった当時においては、軍事行動を拘束するいかなる措置も認められるべきではないという見解が主流であり、各国の軍事行動に影響を及ぼす一連の国際法規範形成から自ら手を引くことが結局は国益を損なうことを意味した。二つのハーグ会議とロンドン会議は、軍事力を規定する規範形成における各国の攻防が繰り広げられた舞台であったと言えよう。以上の研究成果を、2009年2月付けで、東京大学大学院総合文化研究科の国際関係論研究会が発行する『国際関係論研究』に投稿した。現在、当該論文は査読中である。