著者
宮田 優希
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

腹膜透析(PD)導入患者にバンコマイシン(VCM)が投与されることも多いが、VCMはPDによつて除去されるため、PDによるVCM除去の影響を考慮した投与量設定が必要である。しかし、一般的なガイドライン等に記載された推奨投与量は用量幅が大きいにも拘わらず、その変動要因に関する情報はほとんど記載されていない。加えて、適切な薬物動態モデルが構築されていないことから、患者毎に大きく異なるPD実施条件とVCMのクリアランス(CLvcm)との定量的関係については検討が進んでおらず、PD導入患者に対するVCMの最適投与量設計は困難である。そこで、本研究ではPD実施条件を定量的に組み入れることが可能な薬物動態モデルであるPDモデルを構築し、PD導入中にVCMの投与を受けた患者の薬物動態解析に適用することで、その臨床的有用性を評価することを目的とした。まず、解析対象患者11名のうち2点以上の血清中VCM濃度測定値が入手可能であった5症例を対象に、初回測定値に基づくPDモデルを用いたフィッティングによる血清中VCM濃度予測値と実測値を比較したところ、実測値の85.7%を0.67~1.5倍の範囲内で予測することが可能であった。さらに対象患者11名のPD実施条件および背景情報を基に算出したCLvcm予測値と対応する実測値を比較したところ、11名全てを0.5~2.0倍の範囲で予測可能であった。さらに、CLvcm予測値に基づきPD実施条件に応じたVCMの推奨投与量一覧表を構築したところ、一般的なガイドラインでは大きな幅を持って示されている推奨投与量を、PD実施条件に応じて明確に区分することが可能となった。これらの結果から、本研究で構築したPDモデルを上述のVCM推奨投与量一覧表と合わせて利用することで、PD導入患者における適切な血清中VCM濃度コントロールが可能となると考えられた。
著者
山野上 祐介
出版者
東京大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

本研究ではフグ目及びその近縁群についてDNAに基づいた系統解析や分岐年代推定を行い,その多様な生息域の進化過程の推測や分類の整理を行った.その一例として,フグ科魚類の解析により南米,アフリカ,東南アジアに分断して生息する純淡水性のフグ類がそれぞれ独立に淡水域に進出したことを明らかにした研究が挙げられる.また,分類の整理に関しては,マンボウ科の研究ではマンボウの1種だけだと考えられていた日本産マンボウ属に2種を認め,新たな種に「ウシマンボウ」という和名を与えるなどの研究を行った.
著者
福士 謙介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本研究はバングラデシュやタイなどのヒ素による汚染が深刻な地域のヒ素除去プロセスのオプションとして、土壌、上水汚泥など高濃度にヒ素を含有している固形物から微生物の機能を用いヒ素を除去するプロセスを開発することが本研究の最終的なゴールであるが、それを達成するためにはヒ素気化に関する様々な基礎的な知見を得る必要がある。本研究で着目したのは一部のメタン生成菌などが有している無機ヒ素のメチル化能力である。本科学研究費補助金助成研究では主に微生物叢に着目し、その工学的な視点から見た生物学的機能を解明することを目的とする。1年目は様々な環境から採取された試料より得られた混合微生物叢の無機ヒ素のメチル化能力を調べた。試料はバングラデシュの汚染地域土壌、牛糞、高温消化汚泥を選択した。試験は試料を嫌気性反応槽で蟻酸と酢酸の存在下で半連続的に培養を行い、気化されたヒ素の速度を測定した。牛糞槽と汚染土壌槽は約35°、高温消化汚泥槽は55°で培養を行った。約100日の培養の結果、ヒ素のメチル化能力は牛糞>汚染土壌であり、高温消化汚泥からはメチルヒ素の確認はごく微量しかされず、アルシンガスの生成が確認された。いずれの場合も生成したメチルヒ素はメモメチルアルシンであった。2・3年目はヒ素メチル化微生物の詳細な微生物叢解析・酵素解析を行った。具体的にはヒ素をメチル化することが知られているメタン生成菌純菌を集積培養し、その微生物からヒ素をメチル化するのに深く関与している酵素を単離し、その後、その酵素情報からヒ素メチル化に関与する因子情報を得る手法をとった。単離微生物の研究からはヒ素メチル化にはアデノシルメチオニンよりもメチルコバラミンが深く関わっていることが解ったが、酵素を単離するには至らなかった。
著者
中村 廣治郎 東長 靖 飯塚 正人 鎌田 繁
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

1.補助金交付の連絡を受けて6月に研究方針を話し合う会合を持ち、これまで主として国家論的見地からイスラム共同体思想を研究してきた飯塚が基調報告を行った。その上で、秋まで各自が個別研究を行い、10月以降報告と共同討議を行うこととした。2.6月の基調報告を受けて、10月からは以下のような研究発表が順次行われた。まず中村は、政府要人をイスラム共同体の外にある「不信仰者」と見なすことでテロをイスラム的に正当化しようとする現代のイスラム過激派運動に言及しつつ、「信仰者」とは誰かをめぐる神学論争史の検討を行った。ついで鎌田は、スンナ派とシーア派の権威のあり方の違い、とりわけシーア派の共同体論に特長的な隠れイマーム思想の意義を論じ、イラン革命に至る歴史の流れの中に位置づけた。東長は神秘主義者による教団設立を共同体思想のひとつの発露と見る立場から、特に18世紀以降大改革運動を繰り広げたネオ・スーフィズム教団の発生について分析した。また飯塚は現代イスラム国家論の系譜が大きくふたつの潮流に分類されることを示し、その根幹にはイスラム法の定義をめぐる中世以来の思想対立が存在することを指摘した。3.以上のように多様な観点から共同体思想が論じられたが、そこで常に意識されていたのは現代イスラムの動向を思想史的発展の中でとらえようとする共通の立場であった。イスラムが政治化する原因は何よりもその共同体思想にある。本研究を通じて、その個別局面の理解はかなり深まり、比較の作業も相当進んだと言えよう。しかし、一年間ではそれぞれの思想の相互連関および相互影響の理解が不十分でもあり、今後は私的研究会により研究を続けたい。その成果は2〜3年後をめどに公表するつもりである。
著者
林 光
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.239-272, 2004-03-19

内戦に関与した指導者や兵士連は,内戦終結と同時に収奪機会や権力の喪失,戦争犯罪での訴追等のリスクにさらされる.このため彼らは自己保身から意図的に内戦を継続する動機を持つ.この場合たとえ秩序回復が容易であるはずの事例においても内戦は終結しにくくなり,分析におけるセレクション・バイアスを生む.本研究は,ヘックマン(Heckman)流の二段階の統計手法によってこのバイアスを補正し,国連の介入や政治体制等が与える影響について新たな知見を導いた.すなわち,国連の介入は紛争終結には有効ではないが,秩序回復には非常に有効であった.一方,国連以外の介入は逆の傾向が認められた.その他,窮地に追い込まれた政治指導者は起死回生を図ってハイリスク・ハイリターンな政策を追求しがちであるという「起死回生のギャンブル」仮説,資源収奪の誘因に注目した「強欲」仮説等も支持された.以上の分析に基づいて秩序回復の確率に関する予測も試みた.
著者
土佐 弘之
出版者
東京大学
雑誌
社會科學研究 (ISSN:03873307)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.79-99, 2004-03-19

内戦状況や抑圧的政治体制の下における虐殺といった重大な人権侵害に対して如何なる対応を行うかといったことが,紛争後の社会をどう再建するか,平和構築を如何にして進めていくかといった課題もと絡みつつ,重要な現代的課題の一つとなっている.紛争の発生原因に遡って根本的に解決するためには,構造的な問題を一つ一つ解決していかなければならないのは言うまでもないが,そうした構造的な制約の中,過度期の正義についての的確な対応をとり続けていくことで,状況を改善していくことも可能なはずである.本稿では,赦しやアーカイブに関するジャック・デリダの議論などを補助線として使いながら,「移行期における正義(transitional justice)」の望ましい方向性について検討していった.そして,復讐へと傾斜したものについては赦しの方向へ,忘却へと傾斜したものについては記憶の方向へといったようにそれぞれ,いずれも何らかの形で不十分な対応を改めていく必要性があることを確認した上で,語りによる歴史物語の書き換えの動きの活性化,記憶再編の可動幅や共有化される記憶の地平の拡大が,沈黙を強いる抑圧的な構造的権力の解体と同時に重要であることを指摘した.
著者
荻野 亮吾
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
2014

審査委員会委員 : (主査)東京大学教授 牧野 篤, 東京大学教授 大桃 敏行, 東京大学教授 勝野 正章, 東京大学講師 新藤 浩伸, 東京大学准教授(社会科学研究所) 佐藤 香
著者
長野 晃三
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1992

蛋白質の三次構造はそのアミノ酸配列によって決められる。蛋白質の折りたたみの過程は数ミリ秒という短い時間で終了してしまうので、幾何学的に可能なあらゆる組み合わせの構造を検討して、その中から最も安定な構造を選び出すのではなくて、ある限られた数の候補の部分的構造を組み合わせることによって、それらの調和した最適な構造が一つ選び出されるものと思われる。X線構造解析によってこれまでに蓄積されて来た蛋白質の三次構造をアミノ酸配列と比較すると、相同性が低いにも拘わらず、相互に非常に良く類似した三次構造が多いことが明らかとなった。それは三次構造の全体ではなく、ドメインと呼ばれる一部であることが多いのだが、αヘリツクス、βシート、ターン等の二次構造が相互に積み重なった様式のことで超二次構造と呼ばれている。統計的な予測性に基づいて、最も単純な予測を行うと、all-の蛋白質ではβシートと予測される部分でもしばしばαヘリックスとなり、all-β蛋白質ではαヘリックスになると予測された部分でも逆平行βシートとなることが多い。α+β蛋白質でも同様なことが起るが、α/β蛋白質では比較的良く予測が実際の二次構造と一致することがわかって来た。そこで、全ての蛋白質を同一の方法に従って正しく三次構造を組立てるために、先ず最初のステップとして、その蛋白質がα/β蛋白質であると仮定して折りたたんで見ることを考えた。アルゴリズムの詳細は省略するが、フラボチトクロームb5とエノラーゼという蛋白質についてシミュレーションを行い、Protein Data Bank中にある基本型の原子座標を用いて自動的に組立てるソフトウェアを作り、グラフィック・ディスプレイによって表示することに成功した。現在、20種類のα/β蛋白質について、それ自身の統計データを用いずに、常に第一位で正しい構造を見つけられるようにアルゴリズムを改良中である。
著者
河合 祥一郎
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、すでに平成9年度の時点でエリザベス朝の膨大な数の戯曲のデータベース化の5割程度を完成し、平成10年度はその継続に当たった。しかし、昨年度の時点で、これまでエリザベス朝研究の土台となってきたE.K.ChambersのThe Elizabethan StageおよびG.E.BentleyのThe Jacobean and Caroline Stageを抜本的に見直す必要があることが判明し、その方策を模索していたところ、ちょうどChambersやBentleyを書き直すようなAndrew Gurrによる新しい研究The Shakespearian Playing Companiesが刊行され、このため本研究は大幅な見直しを迫られることとなった。本研究をいずれ『イギリス・ルネサンス演劇事典』として公表する当初の計画に変更はないが、その実現には更に数年を要すると予測される。これとは別に、現在未発表の英語論文「ルネサンスにおける変装」を日本語の図書の形で公表する予定でいるが、この論文についても、「主体」の問題が現在文化唯物論批評と伝統的人文主義批評の間で大きな理解の齟齬を産んでいるために、この問題を一般に受け入れられる形で分析するためには極めて慎重に進めてゆく必要がある。特に変装と主体のテーマは演劇のみならず哲学・思想にも深く関わる点が研究を進めてゆくうちに一層確認されてきているために、容易な姿勢はとれない。幸いにして1999年度のシェイクスピア学会で変装と主体のテーマでセミナーを開く責任者に任じられたので、学会活動なども通じて本研究を更に発展させ、できるだけ早いうちにその成果を公表したいと願っている。
著者
馬場 章 吉見 俊哉 佐藤 健二 五百旗頭 薫 北田 暁大 研谷 紀夫 添野 勉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-10-21

本課題では、明治維新期から日独防共協定締結期、すなわち、1860年代から1930年代を対象に、日独交流の歴史を3期に分けて、日独関係史の再構築を行った。従来の日独交流史研究は、主として両国の政治家や学者の文献資料を基に描かれて来た。それに対して、本課題では、ドイツと日本の両国において歴史写真をはじめとするメディア資料と関連文献資料の調査・収集・分析を行い、日本とドイツ両国の国民の視点を重視した。ドイツにおける調査では、とくに、トラウツ・アーカイブ(ボン大学所蔵)、グラウ・アーカイブ(ヘルムート・グラウ氏所蔵)に重点を置おいて、写真資料・映像資料と関連する文献資料の調査を行った。
著者
堀部 直人
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

昨年度までのニューラルネットワークを用いたコンピューターシミュレーションならびにキイロショウジョウバエを用いた研究に引き続き、運動における記憶の効果、ならびに多様な運動の生成機構を解析するため、自律運動を行う油滴の運動について解析を行った。この油滴は無水オレイン酸とニトロベンゼンを混合したものであり、pHを調整した微量の界面活性剤を含む溶液中で不規則な運動を行う。これは、単純な履歴情報を用いて運動するシンプルな系であり、運動における記憶の効果を調べるのに適したものである。キイロショウジョウバエと同様の解析を行った結果、油滴からもLevy walkを見いだすことで、効率の良いとされる運動の生成にさほど記憶情報を参照する必要がないことを示した。さらに、油滴の運動軌跡を自己組織化マップを用いて分析し、運動要素を特定、油滴の形と対流との相互作用で多様な運動要素が生成されることを示した。複雑な運動が、さほど記憶情報を用いることなしに生成されていることを示すとともに、油滴の形といったなんらかのパラメーターを変化させるだけで多様な運動が生成されうることを示している。小数のパラメーターを調整することで、記憶情報に頼らずに複雑で多様な運動を次々と生成していくことは、生物の適応的な行動にとっても重要と考えられる。本研究は、この機構がシミュレーション上ではなく、実際に存在する物理系で起こることを発見したという点で、新奇で意義深いものである。
著者
橋本 健二
出版者
東京大学
雑誌
東京大学教育学部紀要 (ISSN:04957849)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.249-257, 1988-02-10

The state is one of the central problems in a recent social science. There are two key problems in theories of the capitalist state. One is determinant of forms and functions of the state, another is functions of the state to the structure of capitalist society. Many theorists have been engaged in these problems in various way. We need to unify these previous approaches and have a more generalized theory. I try to this by distinguishing Levels of Analysis and Modes of Determination. Functions of the state, to secure reproduction of structure of capitalist society, can be analized on four levels of analysis : levels of mode of production, class structure, social formation, and concrete society. Determinants of functions of the state can be understood as complex of structural limitation, conducts of members of state apparatus and influences of social classes. These theoretical considerations are part of sociology of state activities in general.
著者
松野 泰也 谷川 寛樹 藤本 郷史 村上 進亮 中島 謙一
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究では、世界全体での鋼材のダイナミックMFAを実施した。具体的には、鋼材の最終用途(自動車、土木、建築、機械など)に関して2050年までのストック量を推計するとともに、需要量、使用済み製品からのスクラップ発生量を推計した。統計データ等ダイナミックMFAを実施するためのデータが得られない地域に関しては、夜間光衛星画像やGISを用いて、ストック量を推計した。さらには、国際貿易に伴う取引量(グローバルマテリアルフロー)を推計するとともに、途上国でのスクラップの回収状況を調査、推計することで、将来需要を鑑みたスクラップの利用に関して提言を得た。
著者
馬場 一雄
出版者
東京大学
巻号頁・発行日
1951

博士論文
著者
立川 真樹 松島 房和 久世 宏明
出版者
東京大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

原子分子の共鳴線を用いたレーザーの長期周波数安定化は、モードジャンプを抑制して干渉計を安定に連続運転するために必要不可欠であるとともに、将来宇宙空間において観測可能になるであろう超低周波重力波にも対応しうる干渉計を開発するうえでも重要な要素技術である。我々は、極低温イオンの超高分解能スペクトルを利用した干渉計用レーザーの長期周波数安定化を目的として、原子イオンのトラッピングとレーザー冷却を行った。RF(Paul)トラップに蓄積したMg^+に288nmの紫外光を照射したところ、レーザー冷却効果を反映してドップラー幅が著しく狭窄化された蛍光スペクトルが観測された。このスペクトルは、イオンの共鳴周波数よりも低周波側でピークを持ち、高周波側では急激に減衰する非対称形になるものが特徴である。我々は、レーザー光の輻射圧による冷却効果とRF電場下でのイオン同士の衝突による加熱効果を考慮したモデルを導入し、イオン運動の解析を行うとともに、観測されたスペクトル形を精密に再現した。その結果、イオン運動はスペクトルがピークを持つときに最も冷却されており、温度に換算して1K程度になっていることが明らかになった。更に、イオン数が減少し衝突による加熱が弱くなると、蛍光スペクトルには不連続な変化が現れる。これはイオン運動が、比較的大きな軌道を衝突を繰り返しながらカオス運動している状態から、トラップポテンシャルとイオン間のクーロン力で決まる平衡点に結晶化した極低温状態へ一次相転移を起こしたことを示していることが明らかになった。このように、レーザー冷却によって比較的多数のイオンが1K以下にまで冷却できることが示され、ドップラーフリーの高分解能分光の基礎技術が確立した。