著者
多田 明夫 田中丸 治哉 畑 武志
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会論文集 (ISSN:03872335)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.244, pp.599-608, 2006

本論文では, 面積12.82haの山林小流域において, 10分値の流量・水質データを用い, 約7.7ヶ月の期間中の流域からの総流出負荷量の推定値とその95%信頼区間について議論を行った. 負荷量算出には直線型LQ式, べき乗型LQ式, 非線形LQ式の三種類の算定方法を用いた. 対象とした水質項目は溶存イオンのCl<SUP>-</SUP>, K<SUP>+</SUP>, Na<SUP>+</SUP>, およカリウム水質時系列より生成した, 非線形性を強めた仮想水質項目である. 具体的には, 等間隔サンプリングにより全データ集団から抽出されたデータセットより算出される95%推定区間内に, 総流出負荷量の真値が期待される確率通り含まれるかについて検討を行った. この結果・直線型LQ式を負荷量算定に用いた場合, 適切な信頼区間を与えることのできるLQ式を決定するために必要なデータ数は, 本調査流域においては, 237個~947個 (6時間~1日間隔サンプリングに相当) と非常に多量であること, 特定期間にわたる総流出負荷量を算定する目的からはべき乗型LQ式を用いてはならず, 直線型LQ式を用いるべきであることが明らかとなった. また, 限られた観測データから期間中の総流出負荷量の期待値と信頼区間を提示するためのLQ式に必要とされる条件として, L-Q (流量-負荷量) プロット上での非線形なデータ分布を表現し, かつ総流出負荷量の計算値がより真値に近い式が望まれるが, 一般に利用される直線型LQ式, べき乗型LQ式ともにこの点では短所を有していることを指摘した.
著者
橋本 禅 松浦 正浩
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.75, no.5, pp.399-403,a1, 2007

司法制度改革の進展と軌を一にして, 行政においても, 公共事業の計画策定や建設工事における紛争の予防手段として, 裁判外紛争処理手法の一つであるメディエーションの活用に対する関心が高まりつつある。本報では, 紛争処理の実践および研究の両面での先進国である米国の農務省農業メディエーション・プログラム認証事業について, その制度の枠組と運用の実態について報告を行う。本認証事業は, 州政府の農業に関わる紛争の解決に向けたメディエーション・プログラムの設立と運営を認証・支援する事業制度である。本認証事業は, さまざまな農業紛争の当事者へ, 手ごろな価格で, 建設的かつ公正な話合いの場を提供し, 柔軟な問題解決を可能にしたと米国でも高い評価を受けている
著者
増島 博
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 = Journal of the Agricultural Engineering Society, Japan (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.15-18, 2001-01-01
参考文献数
7
被引用文献数
1

世界人口が静止人口に達するまで, あと200年かかる。その間, 世界の食料供給は保証されるであろうか。日本は潜在生産力は高いにかかわらず, 食料自給率を落としている。食料生産のための土地, 水, リン等の生産資源の調達は困難になる一方, 廃棄物は集積する。21世紀には環境保全型農業の確立が強く求められるが, 食料生産と環境保全を両立させるには, 農業を中心とする資源循環型社会の確立が必要である。<BR>20世紀における食料生産手法の問題点の反省から, 新しい循環型生産システムのライフ・サイクル・アセスメントの必要性について論議する。
著者
矢野 友久 小谷 住人
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会論文集 (ISSN:03872335)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.126, pp.25-30,a1, 1986

大豆の日蒸発散量を計量型ライシメータによって測定した。実測値とペンマン法による計算値との相関は弱く,その比と葉面積指数との関係をロジスティック曲線で近似させることによって葉面積指数の関数として作物係数を表現した° この係数をペンマン法による計算値に乗ずることによって,日蒸発散位を比較的に精度よく推定できた。生育のピーク時期までは発芽後の日数を葉面積指数の代りに用いることも可能であった。
著者
高木 強治 小林 宏康 浪平 篤
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会論文集 (ISSN:03872335)
巻号頁・発行日
vol.2003, no.226, pp.531-542, 2003-08-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
15

遺構「鼻ぐり井手」は, 加藤清正が新田開発のため, 慶長13年 (旦608年) に開削した延長390mの用水路である.鼻ぐり井手では, ヨナと呼ばれる阿蘇火山灰が水路底に堆積しないよう, 底部に穿孔を有する隔壁を一定の間隔で残したまま水路を開削し, 土砂の掃流力を高めたといい伝えられている.本研究では, 鼻ぐり井手の現況および過去に存在したと考えられる隔壁を模型に再現し, 水理実験によってそれらの通水機能, 掃砂機能および流れの構造を明らかにした.その結果, 鼻ぐり井手では, 連続する隔壁を通過する流れが常に噴流状態にあり, 掃砂機能が通常の開水路より格段に強化されていること, さらにこの掃砂機能に係わる流速の増加が穿孔面積を縮めることによってもたらされ, 掃砂機能と通水機能がトレードオフの関係になっていることを明らかにした.
著者
酒本 義司 小木曽 凡芳 渡邉 圭四郎
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.74, no.10, pp.899-902,a1, 2006-10-01 (Released:2011-08-11)
参考文献数
10

湖底にヘドロが堆積すると, 湖沼内の水を浄化しても, ヘドロより栄養塩類が溶出し湖沼の浄化は進まない。したがって, 現在はヘドロを湊深し水質浄化を図っている。しかし, ヘドロの湊深は工事費用が高価である。今回, 湖底に堆積したヘドロを, 湖面まで吸い上げ, 酸素を供給した後湖底に沈殿させることにより湖底のヘドロを浄化する安価な技術を開発し, 現場で実験した。同実験結果を得たので以下に報告する。(1) 実験結果の要約汚泥の色: 灰色→茶色。硫化物: 0.06→0.01mg S/g/d(2) 経済比較 (計算値) 湊深の場合=1,625円/m2提案技術の場合=53.5円/m2
著者
近田 昌樹
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.1171-1176,a2, 1994

中山間地域の振興は, 過疎地が多く地理的にも不利な地域が多いため成功例は少ない。そこで, 四国山地に位置する久万 (くま) 町の成功しつつある事例を紹介し, その特徴と課題を考察する。<BR>久万町では, 農林兼業の農家が中心であるが, 1960年から町全域の振興計画をたて, 圃場整備を行い高原トマト, 大根等の野菜により農業を発展させてきた。観光では, ふるさと村, 国民宿舎やラグビー場, スキー場等により日帰り, 宿泊客を増やしている。<BR>こうした取組みは, 町主導で行われてきたが, それに続いて民間の参入もでてきている。その特徴は, 活性化計画の早期樹立, 国庫補助の有効利用, 生産基盤と営農との協調, 地域資源の利用等である。
著者
牧山 正男 伊東 太一
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.73, no.9, pp.793-796,a1, 2005

水田や水路を主な生息場所とする外来種, スクミリンゴガイは, 関東以北ではなじみが薄いものの, 九州・四国地方を中心にそのイネに対する食害, 特に直播イネへの初期生育期における食害が今日では深刻な問題となっている。こうした食害の抑制には浅水管理が有効とされているが, それに対する水田管理の観点からの検討は行われていない。本報ではこのスクミリンゴガイのわが国における移入の経緯や生態について紹介し, 分布や被害の実態などについて独自のアンケートによって把握した上で, 水田浅水管理によるスクミリンゴガイ食害の抑制について, 田面均平精度と湛水深管理に着眼してモデル的に検討し, その有効性と限界について言及した。
著者
上田 正勝 工藤 郁二 高間 玉城 佐藤 正昭 居城 勝四郎 濱田 幸博
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.74, no.12, pp.1083-1087,a1, 2006

斜網地域は, ばれいしょ・てんさい・小麦を主な輪作作物とした大規模畑作地帯であるが, 年間降水量800mmの全国有数の寡雨地帯であり, 農業生産性の向上, 高収益作物の導入, 防除・施肥・洗浄等の多目的用水の確保および散水労力節減等のため, 大規模な畑地灌漑システムの導入が期待されていた。<BR>大規模畑地灌漑システム導入に際しては,(1) 散水の省力化,(2) 圧力と流量の安定供給,(3) 供給過剰の抑制,(4) 維持管理費の公平負担,(5) 建設コスト縮減, の課題を克服するため, 仏国の自動定圧定流量分水栓・自走式散水機等について検証を行い, その有効性を確認してわが国で初めて導入を決定した。<BR>本報では, わが国最大の18千haの畑地を対象とした大規模畑地灌漑システムの探求について報告する。
著者
高木 強治 吉田 修一郎 足立 一日出
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会論文集 (ISSN:03872335)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.761-770, 1997-12-25
参考文献数
12

大規模水路網の流況解析において, 開水路1次元流れの数値解法にPreissmamスキームを用い, 体系的なモデル作成手法と効率的な流況解析アルゴリズムを提案した. 水路網のモデル化では, 水路を分合流点で切断して樹枝状水路と見なし, 有向グラフで表された水路にトポロジカルソートを適用し, 格子点の計算順序を定めた. 解析手法は, 掃出しアルゴリズムと低次元化された連立1次方程式によって構成され, その計算効率は, 水路網全体に対し, 閉路が占める割合と水路を切断した分合流点が少なくなるほど向上する. 大規模水路網への適用では, 疎行列のための直接解法として有力な内積形式ガウス法と比較して, 計算時間を大幅に削減できた.
著者
菅家 雄太郎 黒須 正幸 渡邊 長 齋藤 剛
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会誌 (ISSN:18822770)
巻号頁・発行日
vol.76, no.10, pp.926-927,a3, 2008

中山間地域総合農地防災事業井野目堰地区は福島盆地の北西部に位置しており, 約150haの水田に灌漑用水を供給している用水路である。しかしながら, 老朽化が著しく, 大雨により水路の脆弱化が進み, 水路決壊, 法面崩壊等による災害発生の危険性があることから, 平成14年度より水路改修工事を実施している。本報では改修を実施した区間の中で, 本用水路の最上流部に位置し, 亀裂性岩盤部に施工した水路トンネルの事例を紹介する。
著者
山岡 賢 端 憲二 小松 康人
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会論文集 (ISSN:03872335)
巻号頁・発行日
vol.1996, no.184, pp.587-601,a1, 1996-08-25 (Released:2011-08-11)
参考文献数
33

農業集落排水施設における窒素除去のための最適曝気条件を得るため, 実施設規模の回分式活性汚泥方式の実験プラントでの調査結果を基に, 回分槽内のDO, ORP, pH等の硝化速度への影響を検討した. 本調査結果では, 回分槽内のDO, ORP, アンモニア態窒素濃度の硝化速度への影響はほとんど見られなかった. 硝化速度は酸素供給速度が律速となっていた. このため, 一般にいわれている水温が10℃上昇で硝化速度が2倍となる. 硝化速度がMLSS濃度と比例するといった関係は見られなかった. 試算によると水温上昇に対して曝気条件が同じであっても硝化速度を維持することが可能との結果を得た.
著者
若杉 晃介 藤森 新作
出版者
社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業土木学会誌 (ISSN:03695123)
巻号頁・発行日
vol.73, no.9, pp.785-788,a1, 2005-09-01 (Released:2011-08-11)
参考文献数
5
被引用文献数
3

農村の生物多様性低下の要因に乾田化の増加が挙げられている。そこで, 乾田化が水田に生息するトンボ幼虫の生息環境に与える影響を調べ, それに対するビオトープ整備の指針と対策を検討した。通年湛水を行った水田では一年中生息が確認されたが, 非灌漑期に用水供給がないと多くのトンボ種が採取されなくなった。中でも乾燥に弱いアオモンイトトンボ幼虫は湛水深がなくなってから砂質土で4日, 重粘土で8日, 関東ロームで23日後に死滅した。また, 土壌硬度を測定した結果, 土壌によってはコンバインの走行に必要な硬度を得た時も生息していたことから一般的な水稲栽培管理とトンボの保全が両立する可能性が示唆された。