著者
大橋 喜隆 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.277-291, 2006-04-30
参考文献数
28
被引用文献数
9

1996年から2003年の典型的な夏季静穏日を抽出して,中部日本域の山岳域とその周辺の沿岸域についてGPS可降水量の日変化傾向を調べた.可降水量の日較差は,山岳域は5〜8mm,沿岸域は2〜4mmであった.熱的低気圧に伴う地上風収束の最盛期とGPS可降水量の極大には3時間ほどの遅れが生じていた.日変化では,山岳域で可降水量の増加が減少よりも急激である傾向を示し,増加期は山岳斜面に沿う水蒸気輸送とその収束,減少期は山岳上空での一様な水平発散を主に捉えていると考えられる.沿岸域や内陸では可降水量の日変化は一般に不明瞭であったが,濃尾平野や静岡県沿岸においては夜間に可降水量が増加する傾向がみられた.また,盆地内では夜間の可降水量の漸増あるいは一定値を保つ傾向が観測され,局地循環に伴って輸送される水蒸気が盆地上空で局所的に収束している可能性が示唆された.
著者
片岡 久美
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.705-714, 2003-09-30
参考文献数
14
被引用文献数
2

北太平洋西部中緯度を1961〜1990年に通過した台風について,気象庁編『TROPICAL CYCLONE TRACKS IN THE WESTERN NORTH PACIFIC 1951-1990』を用い,熱帯低気圧(TD)の期間や温帯低気圧化後の期間も含めて,経路の特徴を調べた.方法として,台風が,北緯25°〜45°の5本の緯線を通過した際の経度によって経路の東西方向の位置を,緯線を通過した回数によって北上の程度を,それぞれ代表させ,その特徴を全平均と月別平均の形で示した.また,中心気庄と経路との関係も調べた.得られた東西方向の特徴は,太平洋高気圧の影響で説明できた.北方向の特徴は,北上の程度が大きいほど25Nにおける中心気圧が低いなどの特徴が得られ,中心気圧の深さが,北上の程度に影響を与えている可能性が示唆された.また,この結果は,定義上の台風のみによる集計でも確認された.
著者
岩下 晴彦
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.42, no.12, pp.833-842, 1995-12-31
参考文献数
27
被引用文献数
5

1988年8月24日14時20分頃大阪国際空港(伊丹)付近で発生した突風を解析した結果,この突風は2つのダウンバーストによるものであり,約1時間半前に芦屋市付近で発生して東北東へ進んだエコーと北北西から南下したエコーが合体して成長し活発になった時に発生したことがわかった.ダウンバーストに伴う最大瞬間風速は,空港の滑走路南端寄りの風速計で14.6m/sと18.2m/sでその間隔は8分間であった.空港では強風の発生する約30分前から降水域に入って明瞭な気温降下と約1hPaの気圧上昇があった.2番目のダウンバーストの終了時には一時的で急激な湿度降下(humidity dip)と約1hPaの気圧降下が見られた.地上で降雹は報告されていない.
著者
神田 学 石田 知礼 鹿島 正彦 大石 哲
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.7-15, 2000-01-31
参考文献数
12
被引用文献数
14

局地的対流性豪雨とGPS可降水量の時空間変動の相関関係が, 首都圏における集中豪雨を1事例として検討された.解析には, 国土地理院GPS連続観測システムのRINEXデータ(GPS標準フォーマットの1つ)からGAMIT(GPS解析汎用ソフトウエアの1つ)により算出された30分解像度のGPS可降水量が用いられた.このGPS可降水量は, ゾンデ観測・SINEXデータ(GPS標準フォーマットの1つ)から得られた可降水量との比較, および可降水量を算出する際のパラメータ感度分析により, r.m.s=2.37mm程度の精度を持つ事が確認された.また, (1)GPS可降水量の時間位相が降雨量の位相に対して1〜2時間程先行する事, (2)GPS可降水量が増加すると1時間〜3時間後に降水量が増大する確率が高く, その確立はGPS可降水量の増加が大きい程高く, 又その際の降水量の増加量もGPS可降水量の増加が大きい程高くなる事, (3)降水量の最盛期に可降水量は既に減少を開始する事, が示され, 集中豪雨に対してGPS可降水量が先行指標として利用出来る可能性が示唆された.
著者
加藤 内蔵進 松本 淳 岩崎 博之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.1219-1234, 1995-12-25
参考文献数
34
被引用文献数
7

中国東部の大陸上のCb群(直径100m以上の積乱雲群)の出現状況、及びその日変化に関連した地表面温度や総観場の特徴について、1979年6〜8月のデータに基づく解析を行った。大陸上の梅雨前線帯の位置や特徴の季節遷移に準拠して、"Pre-Meiyu"(6月1〜17日、梅雨前線の華中への北上前)、"Meiyu"(6月20日〜7月22日、華中の梅雨最盛期)、"Mid-summer"(7月23日〜8月17日、華中の盛夏期)の3つの期間について調べた。主な結果は次の通りである。(1)"Meiyu"期の華中では昼夜を問わずCb群が多数出現したが、"Meiyu"期に梅雨前線帯北方に位置する華北・中国東北区(Area N1)や盛夏期の華中(Area C2)でも、12 UTC(北京標準時で20時)頃ピークとなる顕著な日変化を伴って、Cb群が多数出現した。(2)梅雨前線帯と寒帯前線帯にはさまれる"Meiyu"期の Area N1では、動きの遅い上層トラフに対応する大規模システムの雲域に組み込まれる形で、日変化するCb群が出現しやすかった。この時期にはまだ梅雨前線帯の北側にある本地域でも、梅雨前線帯が華南から華中へと北上した6月20日頃を境に、下層の比湿が増加した。この比湿の増大は湿潤対流に対する安定度の悪化をもたらし、上層トラフ接近、日中の地面加熱と組合わさって、日変化するCb群の頻出に好都合な気候学的条件を作ったものと考えられる。(3)盛夏期("Mid-summer")の華中(Area C2)では、亜熱帯高気圧に覆われ、かつマクロスケールでの領域平均の下層発散が夕方に強い傾向にも関わらず、Cb群出現頻度が夕方にピークをもつ日変化を示した。本地域で特に高い日中の地表面温度による加熱は、強い対流不安定を顕在化させるトリガーとしてのメソスケールでの上昇流を与える可能性があり、今後の検証が必要である。
著者
瀬古 弘 吉崎 正憲 楠 研一 つくば域降雨観測実験グループ
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.93-103, 1998-02-28
参考文献数
13
被引用文献数
5

1995年8月16日, 東北地方を横切って東西に延びる寒冷前線が南下した時に, 関東地方で南西から北東に線状に並んだスコールラインが見られた。このスコールラインの成熟期の構造を, つくばのドップラーレーダー, アメダス, 気象官署や地方自治体(群馬県, 埼玉県, 栃木県, 茨城県)の観測データなどを用いて解析した。スコールラインの中では, 強い降水域が進行方向前面に並び, 後側に弱い降水域が広がっていた。スコールラインの移動に相対的な地上風の分布を見ると, 降水域では冷気外出流に伴う発散があり, その前面では前方からの暖かい風との収束がみられた。一方, 高度2〜4 kmの水平風をみると, 強い降水域では後方へ吹き出し, 弱い降水域では後ろからの乾いた空気の吹き込みが見られた。地上の気圧のメソスケールの変動を見ると, 降水域の前面で低圧, 強い降水域で高圧, 降水の止むところでは低圧であった。規模は小さいけれども, 本事例のスコールラインはアメリカ中西部や熱帯で見られるものとよく似た特徴を持っていた。
著者
中根 英昭 笹野 泰弘 林田 佐智子 杉本 伸夫 松井 一郎 湊 淳 Mccormick M. P.
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.153-159, 1993-02-25

国立環境研究所オゾンレーザーレーダー(つくば市、北緯36度、東経140度)を用いて測定されたオゾン濃度高度分布を、衛星搭載センサーSAGEIIのそれと比較した。比較にあたっては測定時間、測定場所の差についていくつかの基準をおいてSAGEIIのデータを選択した。すなわち、SAGEIIの測定対象域の緯度・経度について(1)それぞれつくばから5度及び15度以内に入るデータ、(2)北緯31度から41度までの緯度帯に入るデータの経度方向平均、また測定時間についてレーザーレーダー観測時刻の前後1日、3日、及び5日間に入るデータを用いることとした。比較の結果、個々の分布(1)および経度方向の平均分布(2)とも良い一致が見いだされた。レーザーレーダーとSAGEII測定値の相対差の平均は15-50kmの範囲について約10%程度である。
著者
加藤 輝之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.355-363, 1996-06-25
参考文献数
15
被引用文献数
10

1993年8月6日に起こった鹿児島豪雨を対象として静水圧モデルと非静水圧モデルとで雨の降り方にどのような違いが生じるかについて調べてみた. 数値モデルとして気象庁の現業用日本域静水圧モデル(Japan Spectal Model)を親モデルとしてネスティングすることができる3次元非弾性非静水圧モデル(Saito, 1994)とそのモデルの静水圧バージョン(Kato and Saito, 1995)を用いた. 降水生成過程として雲水, 雨水を直接予報する雲物理過程と湿潤対流調節をそれぞれ単独にまたは併用して用いた. 雲物理過程を用いた5kmと10km格子の非静水圧モデルは観測とよく一致した連続的な集中豪雨を再現した. Kato and Saito (1995) が理想的な湿潤対流を対象とした比較実験で指摘した通り, 静水圧モデルは非静水圧モデルに比べ雨を過大に降らせ, 降雨域を過大に広げた. また, water loadingの効果が非静水圧の効果より対流の発達には重要であった. さらに, 5km格子の静水圧モデルはKato and Saito (1995) で取り扱った理想的な湿潤対流の場合に比べかなり過大に雨を降らした. 以上の結果より, 高分解能の数値予報モデルにはwater loadingを取り入れた非静水圧モデルを用いることが望まれる.
著者
加藤 輝之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.97-128, 1998-02-25
被引用文献数
15

1993年8月1日南九州で発生し, 豪雨をもたらしたライン状のレインバンドを雲水・雨水を直接予報する降水過程を持った3次元非庄縮非静水圧モデルを用いて再現することができた。この日, 日本域スペクトルモデル(JSM)は停滞性のレインバンドを再現することができずに降水域を東側へと次第に移動させた。先ず, JSMが停滞を再現できなかった原因について調べた。降水過程を取り替えて調べてみた結果, 湿潤対流調節に原因があって, 粗い分解能やwater loadingの未導入の問題ではなかった。湿潤対流調節スキームは不安定層を安定化させることによって下層を冷やし乾燥化させるので, 地表面付近の比湿が下がってしまった。その結果, 高比湿気塊が風上で存在しなくなり, レインバンドそのものが維持できなくなった。次に, このレインバンドの発生・維持機構について2 kmまたは5 kmの分解能を持つモデルで詳しく調べてみた。南西風によって下層の高比湿気塊が梅雨前線に対応する南北温度傾度が大きい領域に運ばれ, 凝結が起こった。最初, 下層の西風に平行な背の低いロール状の対流が形成され, 発達するにともない個々のセルは活発な対流システムへと組織化された。その結果, 凝結後2時間で下層に(100 km)^2の領域で1.5 hPaを越える著しい気圧低下が生じた。その気圧低下が風の収束・南北温度傾度の増大を引き起こし, 強い収束ラインが形成され, レインバンドが出来上がった。このレインバンドの維持過程としてはバックビルディング型の特徴を示し, レインバンド風上での対流セルの繰り返し発生には風速の鉛直シアが重要であった。今回の降水システムの強化・維持には, 雨滴の蒸発の効果は重要ではなく, 梅雨前線域に存在する相対的に強い南北温度傾度が重要な役割を果たしていた。さらに, 今回のケースについて平均水平運動量収支を計算し, 気塊を追跡することにより下層ジェットの維持・強化過程を調べた。対流活動が引き起こした低圧部によって作られた気圧傾度力による加速が水平移流による減速を打ち消すことにより下層ジェットが維持され, 九州南部に停滞していた。また, 高度1 km以下の層では収束ラインに吹き込む南西風が気圧傾度力によって積分開始後150分で6 ms^<-1>程度加速されていた。その加速された水平風が対流によって上方に輸送され, その一部がレインバンド北側の下層ジェットを強めていた。
著者
加藤 輝之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.54, no.5, pp.395-398, 2007-05-31
参考文献数
10
被引用文献数
3

1 0 0 0 OA 2005年の大雨

出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.430-432, 2006-05-31

今年の梅雨入りは南西諸島を除いて平年より遅く,特に,九州南部,北陸,東北北部では平年に比べ2週間程度遅れた.梅雨明けは沖縄と東北で遅く,東北では平年に比べ10日前後遅かった.その他は平年並みか平年より早い梅雨明けとなった.梅雨時期の雨量は,九州南部から東海にかけては,平年より少なかったが,南西諸島では,6月に活発な梅雨前線の影響を受け平年よりかなり多かった.6月には梅雨前線が南西諸島から本州南岸に停滞することが多く,南西諸島では記録的な大雨となったが,6月終わりごろからは梅雨前線が本州に停滞することが多くなり,北陸地方などで大雨となった.梅雨入りは概ね平年よりも遅く,東北地方を除き梅雨明けはほぼ平年並か早かった.9月初めに上陸した台風第14号の影響で九州,中国,四国地方では降り始めからの総雨量が9月の月間平均雨量の2倍を超え,特に宮崎県では総雨量が1,000mmを超えた.
著者
高橋 暢宏 上田 博 菊地 勝弘 岩波 越
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.4, pp.539-561, 1996-08-25
参考文献数
32
被引用文献数
5

1988年7月に梅雨末期集中豪雨の特別観測(浅井, 1990)が行われ, ドップラーレーダーや時間・空間的に密なサウンディングデータ(〜100km, 3〜6時間)が得られた. 本論文では, 主にドップラーレーダーのデータを用いて梅雨末期の豪雨現象のメソスケールと対流スケールの特徴を下層の風系に着目して解析した. 用いたデータは主に長崎県西海町に設置した北大理学部のドップラーレーダーのデータである. 解析した事例は, 1988年7月17, 18日に観測した梅雨前線に伴う降水イベント, 2例(ケース1, ケース2)である. これら2つのケースともクラウドクラスターに伴う降水イベントであった. 降水はメソスケール現象として現れ, 降水量はケース1, ケース2それぞれ局所的に100mmを超した(例えば, 諌早で3時間にそれぞれ165mm, 104mm). ドップラーレーダーの観測からそれぞれのケースをまとめると, ケース1では大雨をもたらすエコーの組織化の原因としては, 発達したエコーから発生したガストフロントによる梅雨前線帯の収束の強化, 及び梅雨前線上に発達したレインバンドと南西海上で発生した孤立したエコーとの合流によるエコーの発達の効果であった. その結果としてレインバンドは大きく発達した. ケース2では, ケース1の約4時間後にケース1で大雨がもたらされた領域とほぼ同じ所に, 弧状に組織化したエコーによって大雨がもたらされた. エコーの弧状に組織化するプロセスにはやはりガストフロントが重要な役割を果していた. さらに, エコーの組織化の直前に暖かく湿った南西風の流入があり, これもエコーの発達に大きく貢献していた. これらの事例解析から明らかになったメソスケールと対流スケールの特徴は, (1)ガストフロントによる梅雨前線帯の収束の強化, (2)エコー同士の合流によるエコーの発達, (3)メソスケールの場での気温, 降水量のコントラストであった.