著者
島津 好男
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.437-445, 1998-06-25
参考文献数
7
被引用文献数
3

通常レーダー網のデータを使って、成熟期から衰弱初期段階にあった日本周辺の16個の台風における、降水システムの大きさ・形・位置・寿命・動きを明らかにした。これらの特徴に基づき、中緯度前線帯から離れた台風における降水システムを、内側レインシールド・外側レインシールド・内側レインバンド・外側レインバンド・眼の壁雲に分類した。一方、中緯度前線帯に近づきつつある台風の北側にできるデルタ型の降水システムの存在を示し、これをデルタ型レインシールドと名付けた。
著者
気象庁予報部予報課
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.431-437, 2008-05-31

平成19年に発生した台風は24個(平年26.7個)とほぼ平年並みだった.日本に上陸した台風は,台風第4号,台風第5号,台風第9号の3個(平年2.6個)と平年並だった.また,日本本土への接近数は5個(平年5.2個),沖縄・奄美は8個(平年7.2個)とほぼ平年並みで,日本全体としては12個(平年10.8個)と,発生した台風の半分が接近した.第1表に台風の発生数,上陸数,接近数を,第2表に発生した台風の一覧を示す.平成19年の台風は,例年より北で発生し寿命が短い台風が多かったことが特徴である.また,平成19年の台風のなかでは,台風第4号が西日本を中心に大きな被害をもたらした.
著者
Wu Chun-Chieh Bender Morris A. Kurihara Yoshio
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.777-788, 2000-12-25
参考文献数
15
被引用文献数
1

GFDLにおいて開発されたハリケーンモデルをAVN及びNOGAPS全球解析のそれぞれと結合して、台風予報システムGFDSとGFDNがつくられた。GFDSシステムは、1995(1996)年に16(24)個の台風について、125(178)例の予報実験を行い、台風経路の予報で非常に良い成績を示した。12、24、36、48及び72時間後の予報位置の平均誤差は、1995(1996)年の場合、95(108)、146(178)、193(227)、249(280)及び465(480)kmである。CLIPER予報と比べると、約30%の精度向上となった。平均誤差と同時に誤差の標準偏差も減少したが, これは、低緯度では進路が北に偏る傾向があるものの、GFDSの予報精度と信頼度の高さを示すものである。一方、台風強度の予報は満足出来るものではなく、大西洋における誤差と同様に、弱い(強い)台風を実際よりも強く(弱く)予報し過ぎる傾向がみられた。1996年には二組の予報システム(GFDSとGFDN)で同時に予報が行われたので、二組の台風位置予報を比較した。台風の予報位置の誤差は、距離については両者は大体同程度であったが、それぞれの予報位置には、異なった方向に系統的に偏る傾向(系統的偏差、場所に依存する)が認められた。その結果、二つの予報の平均をとると、それぞれの予報にくらべて予報誤差が10%減少した。予報の向上は、それぞれの予報を系統的偏差で修正する補足実験でも認められた。系統的偏差は定常ではないが、それを熱帯低気圧の予報精度向上に役立てることができるかもしれない。
著者
斉藤 和雄
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.301-329, 1994-04-25
被引用文献数
10

放射ネスティング側面境界条件を用いた非弾性非静水圧3次元モデルが示され、1991年9月27日のやまじ風のシミュレーションに適用される。気象庁JSMに2重ネスティングした2.5km分解能非静水圧モデルにより、四国山地後面での内部ハイドロリックジャンプの出現と一般風の強まりに伴うジャンプの移動がシミュレートされる。モデルは既報Part2(Saito, 1993)で用いられた3次元非弾性方程式モデルを側面境界条件を通して変化する一般場の情報を表現出来るように改良したもので、上・下部の境界条件と非弾性の連続の式を満足するような初期場を変分客観解析を用いて作成した。側面境界条件として、内挿した親モデルの予報値を外部参照値に持つOrlanskiタイプの放射条件を用いた。3次元の山を越える流れの非静水圧線形解析解との比較でネスティングの有効性が確認された。1991年9月27日の台風19号によるやまじ風を例に、気象庁JSMとネスティングした10kmと2.5kmの分解能の非静水圧モデルによるシミュレーションを行った。10km分解能モデルの予報風は基本的にJSMによるものに近く、一般場の変化を良く表現するものの顕著なおろし風はシミュレートされなかった。2.5km分解能モデルでは、四国山地後面のおろし風・新居浜付近の逆風・やまじ風前線(ハイドロリックジャンプ)がシミュレートされ、観測された地上風の変化と概ね良く対応していた。シミュレーションで示された風系と一般風の強さの変化に対応するハイドロリックジャンプの消長は、より単純な設定の下で行われた数値実験や理論的考察(Saito, 1992)に基づいて提唱された既報(Part1=Saito and Ikawa, 1991a ; Part2)のやまじ風の概念モデルを概ね支持する。地面温度・地表面粗度の大小が、やまじ風の強さに影響する事を比較感度実験により確かめた。やまじ風の場合、既報で強調された四国の特徴的な地形(四国山地の風上側・風下側の非対称性、鞍部の存在)に加え、燧難の存在が、海陸の粗度の違いを通じて平野部での強風の発生に寄与している。
著者
小林 文明 菊地 勝弘 上田 博
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.125-140, 1996-02-25
参考文献数
11
被引用文献数
6

1988年9月22日13時すぎ石狩平野内で発達したsevere stormに伴って千歳市内で発生した竜巻を, 詳細な現地調査, 連続写真, ビデオテープやドップラーレーダー観測データから解析した. この千歳竜巻は20分間のライフタイム, 漏斗雲(funnel)の直径150mを有しF1スケールの被害をもたらした. ライフサイクルは漏斗の形状と被害特性の顕著な変化から, 発生期, 最盛期, 衰弱期および消滅期の4つに分けられた. この竜巻の発生には直径7kmのメソサイクロン(mesocyclone)が高度2〜3km程度で時間的に先行して存在していた. 雲底における漏斗雲の形状とメソサイクロンの北西象限で発生した直径1kmのマイソサイクロン(misocyclone)とはほぼ同時に観測され, 発生場所も一致していた. 地上の被害, 漏斗雲および親雲の時間変化の特徴もまた明らかにされた. すなわち地上の被害幅(200m)は高度400mまで舞い上がった "dust cloud(土挨)" のスケールと一致し, dust cloudおよび雲底の竜巻渦(1km)はそれぞれ地上と雲底における漏斗雲の直径のほほ10倍のスケールを有していた. 竜巻の発生時点では, 地上と雲底の竜巻渦の位置はほぼ一致していたが, 両者の移動速度の違いから時間とともに雲底下の漏斗雲および竜巻渦の挙動はかなり異なった様相を呈した.
著者
青梨 和正 柴田 彰 劉 国勝
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.617-637, 1996-10-25
被引用文献数
7

本研究はSpecial Sensor Microwave Imager (SSM/I)の多波長輝度温度データを用いた海上での降水強度リトリーバルアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムの考え方の特長は、多波長の輝度温度の観測値との差が最小になる輝度温度の計算値を与える、降水強度の水平方向の分布の"最適値"を求めることである。このためLiu and Curry(1993)の放射伝達モデルを用い、25km毎の格子点での降水強度からSSM/IのFOV(field of view)の19.35、37、85.5GHzの垂直偏波の輝度温度の計算値を求めた。垂直偏波の輝度温度を選んだのは海上風速の影響を最小限にするためである。この計算の際に、降水雲のモデルとしてGARP Tropical Experiment(GATE)のデータから得られた、降水の非一様性と鉛直プロファイルの統計的特性を利用した。多波長の輝度温度の計算値の観測値に対するfitnessを表すのに各波長の観測値と計算値の差を統計的に求めた標準偏差で規格化した値の2乗の和で表されるcost functionが用いられた。このcost functionのgradient equationを解くことで25kmの水平解像度を持つ降水分布の最適値が求められた。このアルゴリズムを用いた降水のリトリーバルを2つの事例(1990年9月17日21UTCの台風9019号、1988年4月28日21UTCの温暖前線の降雨)について行った。リトリーバルされた降水量は気象庁の現業レーダ網で観測された降水量と比較された。その結果、本研究のアルゴリズムは大規模な降水域内のメソスケールの降水のパターンを増幅している、またこの増幅がリトリーバルされた降水量をレーダで観測された降水量とより線形に対応させている事が分かった。この改善は本研究のアルゴリズムが高周波のチャンネルのデータの有効な利用によるものである。高周波のチャンネルのデータは大規模な降水域内の降水域の再分配に役立っている。またTOGA-COARE(Tropical Ocean-Global Atmosphere Coupled Ocean-Atmosphere Respose Experiment)期間中の船舶レーダデータとこのアルゴリズムの降水リトリーバル値の統計的比較も行われた。この期間平均の(降水リトリーバル/レーダ降水強度)の比は0.944であった。この比は降水の非一様性と鉛直プロファイルに大きく依存するので、上記の比の統計値は本研究のこれらのパラメータの値が妥当なものであることを示すと考えられる。
著者
立平 良三 瀬古 弘 鈴木 智広
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.8, pp.633-642, 1998-08-31
参考文献数
9
被引用文献数
2

単一ドップラーレーダーのデータから風の場を推定するには, 解析領域内で風が一様とか線形といった仮定が必要である.台風に適した仮定としてはまず軸対称風系が考えられる.この場合は, 台風中心の周りの同心円上で風の流入角が一定となる.本論文ではさらに現実に近付けて「解析領域内で流入角はある曲線にそって一定」と仮定し, 同心円上では流入角が変化しうるようにした.この曲線は円弧で近似できるものとし, その曲率を求める手法をモデル風系を用いたシミュレーションによって導いた.モデル風系としてはランキン渦(最大風速50ms^-1)を基本とし, 流入角が台風中心の周りを波数3で最大±30°正弦関数的に変化するものを用いた.中心から65km離れたドップラーレーダーでモデル風系を観測した時の動径速度分布にこの手法を適用し, 風を推定したときの誤差ベクトルの大きさは, 絶対値の平均で約8ms^-1であった.一様風を仮定した場合の誤差は約41ms^-1であったから, 大幅な改善が達成されている.
著者
中西 幹郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.117-128, 2002-02-28
参考文献数
25
被引用文献数
2

1方向ネスティング手法に適した側面境界条件を提案する.放射境界条件に,広域モデルとの接続項を付加した境界条件である.この境界条件の最大の利点は,余分な計算領域を必要としないことである.放射境界条件の本質である波の位相速度は,境界に直交する風速成分に対しては,境界内側の格子点での風速値を使って求め,そのほかの予報変数に対しては,境界上の直交風速と代表的な重力波の位相速度の和で与える.この境界条件を用いて,気象庁のRegional Spectral Model(RSM)にメンスケールモデルをネストし,寒冷前線,台風,冬の季節風および移動性高気圧の影響を受けた事例の結果を示した.前線および台風の移動は,RSMにほとんど遅れることなくシミュレートされた.また,どの事例においても,境界付近の振動はほとんど見られず,不自然な降水域も現れなかった.
著者
立原 秀一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.43-45, 2006-01-31
参考文献数
2
被引用文献数
3
著者
植村 八郎 寺島 司 杉田 明子
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.56, no.5, pp.325-335, 2009-05-31
参考文献数
12

1992年9月4日に関東北部で発達した雷雨は,突風と降ひょうにより主に農作物に多大の被害を発生させた.この雷雨を落雷位置データ,レーダーエコーおよび他の気象観測データを用いて解析した.解析には,主に10分間落雷位置データを取り扱った.落雷活動が活発なときには落雷位置が密集し団塊状に分布することが多い.これを本論文では落雷セルと仮称した.落雷セルの移動と,レーダーによる降水域の移動はよく一致し,さらに突風等被害の発生と落雷セルの通過との間に明確な関連が見られた.
著者
大久保 篤
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.241-250, 1997-04-30
参考文献数
9

1995年2月5日午後, 若狭湾沖で特別観測を行っていた啓風丸の近くを渦状擾乱が南東進した. この渦状擾乱について, 主に啓風丸の資料を用いて解析を行った. 渦状擾乱は水平スケール約100kmで, 700hPaより下層の擾乱であった. そして, 約半日前に北陸地方の沿岸を東北東進した渦状擾乱と2つで, 1つのメソαスケールの擾乱を形成しており, 上方には上層の擾乱が位置していた. 渦状擾乱は温暖前線, 寒冷前線の様相を示すシアーラインを伴っており, 温帯低気圧に似た構造をしていた. 啓風丸の10分間隔の海上気象観測値によると, これらと別のシアーラインが検出できた. シアーライン通過時の観測値の変化やレーダーエコー分布は「Tボーン構造をした温帯低気圧」に似ていた. なお, 海上風は渦状擾乱後面のシアーライン通過後が最も強く, その強風は下降してきた寒気によるものと考えた.