著者
近藤 純正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.269-277, 1998-04-30
被引用文献数
6

いろいろな気候域と各種地表面における蒸発散量を比較するために, 新しく導入されたポテンシャル蒸発量(可能蒸発量)で蒸発散量と降水量を無次元化し, それらの気候学的な関係を求めた.裸地面においては, 降水量の少ない乾燥域では年蒸発量は土壌の種類によらず年降水量にほぼ等しいが, 降水量が増加すると年蒸発量は土壌の種類に依存するようになり, さらに降水量が増加すると無次元年蒸発量は土壌の種類によって決まる上限値をもち, 無次元年降水量(気候湿潤度)に依存しなくなる.上限値は保水性のよいローム質土壌で0.6〜0.9, 排水性のよい粗砂地で0.3程度である.森林では, 葉面積指数が大きく雨の日の濡れた樹体からの遮断蒸発量が多く, 蒸発散量は降水量または降水日数と共に増加する.しかし, この傾向は芝生地や牧草地では明瞭ではない.無次元蒸発散量は暖候期の水田や森林では0.7〜0.9, 浅い水面では0.7程度, 芝生など草地では0.5〜0.6, 夏のツンドラや乾燥域のオアシスでは0.5前後である.また, 乾期・雨期の明瞭な地域については, 精度の高い観測資料が少なく確定的ではないが, 無次元蒸発散量の年間値は年降水量の増加と共に大きくなり, その最大値は0.4程度(主として草地)〜0.8程度(主として森林)に収束するように思われる.この値からのばらつきは雨の集中性, つまり雨季・乾期の顕著さに依存すると考えられる.今後の研究では, 蒸発散量は相対誤差10%以内の精度で観測し, これらの数値を確定することが重要である.
著者
糟谷 司 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.291-303, 2011-04-30
被引用文献数
1

典型的な夏季静穏日を抽出し,中国・四国地方と瀬戸内海におけるGPS可降水量の地域的な日変化傾向と熱的局地循環について調査した.日中のGPS可降水量,日照時間,地上風の分布から,四国山地で2つ,中国山地で3つの小規模な熱的低気圧の形成が見られた.両山地の可降水量の日変化とは全く対照的に,瀬戸内地域では海風卓越時に可降水量は減少,陸風時には増加していた.瀬戸内海は中国山地と四国山地に挟まれることで,日中には内海と周囲の陸地との間で顕著な熱的局地循環が形成され,その循環に伴う下降流が瀬戸内海上で卓越し,上空からの乾燥移流と海風による水蒸気の水平発散が午後から夕方にかけての地上混合比の減少をもたらしていると示唆される.日中に日本海側と太平洋側の沿岸部では海風の水平温度移流によって地上気温の上昇が抑制されるが,瀬戸内海ではその抑制効果が働かず,15時〜22時頃に瀬戸内地域は相対的に3℃程度高温となっている.内海と外洋間で生じたこのような熱的コントラストが瀬戸内海上に最大1.3hPa程度の熱的低気圧を生じさせたと考えられる.
著者
二宮 洸三
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.78, no.2, pp.141-157, 2000-04-25
参考文献数
29
被引用文献数
7

1991年7月1〜10日に揚子江流域を中心とする東アジアに豪雨をもたらした梅雨前線の大規模およびメソ-α-規模の様相と、その維持に寄与する周辺循環系の作用を解析した。この期間、大平洋亜熱帯高気圧の西方伸張に伴って、梅雨前線は著しく強化された。前線帯下層における水蒸気流束の収束は、大平洋高気圧の北西縁で極大となり、特に南北収束が大きい。これに対し、南シナ海の高気圧圏内では大きな東西収束と南北発散が見られる。前線帯の大きな潜熱放出による熱源は、同時的に前線帯の鉛直循環の維持に寄与する。梅雨前線帯下層の相当温位のシンクは相当温位傾度を弱めるが、大規模場の合流収束場の移流過程は相当温位傾度を強め、両者がほぼ均衡して強い相当温位傾度を維持する。また、対流活動は前線帯の鉛直不安定を解消するが、3次元的デファレンシャルアドベクションは鉛直不安定を増加させ、両者がほぼ均衡し豪雨域で湿潤中立に近い成層を維持する。梅雨前線帯下層の強い収束とその南側の強い発散は、大平洋高気圧西北縁の大きな曲率を持つ流れの加速度に対応する強い非地衡風によってもたらされ、多降水域と寡降水域の著しいコントラストを生じる。この期間、〜50N、〜110Eに切離低気圧があり、その後面では中高緯度から擾乱が南下し梅雨前線に接近して、梅雨前線帯の対流活動を活発化した。〜30Nゾーンの90-100Eでは積雲対流の日変化が大きいが、〜105E以東では東進するメソ-α-規模雲システムが顕著である。それらは下層の低気圧性循環を伴い豪雨域で強化され、梅雨前線の中立に近い湿潤安定層の傾圧ゾーンを東進しつつ小低気圧に発達する。
著者
高野 功
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.5, pp.673-694, 1996-10-25

寒候期に日本の南岸では中部山岳の影響によるシアーラインと、それに関係した下層のメソ雲システムがしばしば発生する。こうした雲システムのうち、低気圧の発生を伴う顕著な発達が見られた1991年10月14日の事例について、JSMを基にした高分解能モデルによる数値シミュレーションを行った。シミュレーションの結果の解析から、このじょう乱の発生発達過程は次のようにまとめられる。雲域の発生初期には、下層の北風が中部山岳を迂回して吹いていた。中部山岳の両側での強い北風に対し、山岳の風下では風は弱く台風によってもたらされた高相当温位の気塊が滞留していた。南岸域では徐々に東風が強まったが、この東風は雲システムを西に移動させ、また中部山岳の西端から伸びる北西-南東走向の正渦度を持つシアーラインを強化した。このシアーラインの北東側ではバンド状の降水域が予想されたのに対し、南西側は山の斜面を下降した乾燥した気塊が占めた。初期値から18時間後にはシアーライン上に浅いメソ低気圧が発生したが、低気圧性の循環とほぼ地衡風バランスにある。その後下層の低気圧は南岸沿いに進んできた中層のトラフと結合して更に発達し、総観規模の低気圧となった。シミュレーションの結果から、このじょう乱の発生初期には山岳の影響が大きく、発達期には中層のトラフとの結合が寄与したことが示された。
著者
小池 仁治
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, 2008-04-30
被引用文献数
1
著者
榊原 保志 森田 昭範
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.901-911, 2002-11-30
参考文献数
13
被引用文献数
5

長野県白馬村において,ヒートアイランドの時間的な変化を検討するために,自動車による全73地点の移動観測を83回行った.ヒートアイランド強度は全測定地点のうち市街地気温の上位3地点の観測値の平均と郊外気温の下位3つの平均の差として求めた.さらに約1年間にわたり郊外の水田域中央部に臨時に設置した定点観測を実施し,市街地にある白馬アメダスの観測値との差をとることにより,都市と郊外の気温差を求めた.その結果,次のことが明らかになった.積雪期のヒートアイランド強度は他の時期よりも大きく,その変動も大きい.都市と郊外の気温差が大きくなる月は夜間(20時)においては1月,3月,4月と9月であり,日中では7月・8月が大きい.積雪期の気温差の日変化パターンはその他の期間と類似し,日の出後急激に小さくなり2〜3時間後には上昇に転じ,その後日の入り前後まで急激な増加は続く.灌水期の特徴は14時から15時において極大になる時間帯がある.気温差が最大になる時刻は日の出前ではなく,19時から22時が多い.
著者
渡辺 幸一 永尾 一平 田中 浩
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.74, no.3, pp.393-398, 1996-06-25
被引用文献数
1

小笠原諸島母島において大気中のH_2O_2濃度やO_3濃度を1995年4月及び7月の2度にわたり測定した. 4月においては, 小笠原諸島が大陸性気団に覆われた時にO_3やH_2O_2が高濃度となった. 7月のO_3濃度は4月より低かったが, H_2O_2濃度の平均値は4月より高かった. これは, 日射量の違いによるものと考えられる. 過酸化水素濃度は通常, 日中に高く夜間に低くなったが, 相対湿度が比較的低い時には, H_2O_2濃度が夜間に増加する現象がしばしば観測された. 夜間におけるH_2O_2濃度の減少は相対湿度に強く依存していた. 海洋大気中では夜間におけるH_2O_2の消失は不均質過程 (heterogeneous process) によるものである. この消失割合 (loss rate) は, 0.3〜6.5×10^<-5> s^<-1>程度で, 相対湿度が高くなると大きくなることがわかった. このような過程は海洋大気中におけるHO_x濃度に重要な影響を与えているものと考えられる.
著者
川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.1009-1027, 1998-12-25
参考文献数
30
被引用文献数
16

1973年から1995年までのNCEP/NCAR再解析データを用いて、夏季アジアモンスーンとENSOとの相互作用を調べた。インド亜大陸上の20°Nを境とした、対流圏上層(200-500hPa)の夏季平均層厚偏差の南北傾度で定義されるモンスーン・インデックスとモンスーンに先立つ春季のNino-3地域のSST偏差との相関はかなり高い。これはENSOに伴うSST forcingの変化が間接的に夏季アジアモンスーンに影響を与えていることを示唆する。エルニーニョ現象によるウォーカー循環の弱化は、冬季から春季にかけての熱帯インド洋北部・海洋大陸上の積雲対流活動を抑制する。春季におけるこの熱帯対流活動の弱化から、赤道から離れた対流加熱に対するロスビー型応答により、チベット高原西方に低気圧性循環が生じる。誘引された低気圧性循環は陸域の降水量増加、土壌水分の増加をもたらし、インド亜大陸北西の中央アジア地域の地表面温度を減少させる方向に作用する。一方、モンスーンのオンセット前の春季後半に、熱帯インド洋では、下層の北東風偏差の卓越と雲量減少に関係した、海表面の熱フラックスやwind forcingに対する海洋の力学的応答の変化により、SSTの高温偏差が形成される。陸域と海域にみられるこれら異なる二つの物理プロセスは共に、海陸間の熱的コントラスト(あるいは対流圏気温の南北傾度)を弱める方向に作用し、夏季アジアモンスーンの弱化をもたらす。モンスーンが強い年は全く逆のシナリオになる。このようなプロセスで、夏季モンスーンがそのモンスーン前期に一旦弱く(強く)なると、熱帯インド洋SSTの高温(低温)偏差はさらに発達する。本研究で提案されたメカニズムは、モンスーンの強弱年が分類された1970年代後半から1990年代前半までの時期において有効である。この時期Nino-3地域のSST偏差は、先行する冬季から夏季にかけて異常に持続する傾向にあり、冬季に卓越するENSOと夏季モンスーン偏差をつなぐブリッジとして働いていた。しかしながら、モンスーンとENSOのカップリングの如何にかかわらず、ウオーカー循環の強弱と関連した春季の熱帯インド洋に卓越する外向き長波放射量偏差と下層風偏差は、夏季アジアモンスーンの予測可能性の観点から、依然として重要な因子であることも確かである。
著者
冨山 芳幸
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.811-822, 2001-11-30

関東地方の降雪は南岸低気圧によって起こることが多い.このとき, 気温の急降下をともなうために, 思わぬ雪となることがしばしばある.1999年2月11日の事例についてこの気温急降下の仕組みを調べた.この事例では, 気温の急降下は総観的寒気移流によってもたらされたものではなかった.地域によっては, 寒気移流が気温降下に無関係だったわけではないが, 降水相を雪とするほどの急激な気温降下をもたらした寒気移流は局地的なものであった.その寒気はもとからあったものではなく, 上空からの降水粒子の蒸発によって短時間の間に形成されたものであった.降水粒子の蒸発によって急激に冷却された地域には局地高気圧が形成され, 地上風は弱かった.このような気温の急降下が起こるための条件となったのは, 温暖前線面の下に乾燥した寒気塊が滞留していたことである.上空からの降水粒子がこの気層中で蒸発して, この気層を急冷却したことが気温の急降下をもたらしたのである.
著者
青梨 和正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.393-406, 1993-06-25
被引用文献数
1

日本域スペクトルモデルにレーダーアメダス雨量解析データを導入する初期値化手法を開発した。本研究の初期値化手法は、Takano and Segami(1992)と同様な、降水過程を含むノーマルモードイニシャリゼーションの前に、Physical Initializationによって初期値の熱力学場及び力学場を較正し、較正された初期値から計算したモデル降水強度が実測降水強度と等しくなるようにするものである。この初期値化手法による降水情報導入の降水予報へのインパクトを、梅雨前線上の擾乱の事例(1990年6月30日)に対する予報実験によって調べた。その結果は以下のとおりである:1)降水初期値化は、降水予報のスピンアップエラー、位置ずれ誤差ともに改善した。2)降水域の位置ずれの改善は熱力学場の較正による相対湿度の改変が寄与する。ただし、モデル降水域で実測の降水域でない領域では、熱力学場の較正は、相対湿度を経験的に決めたしきい値まで下げるというprimitiveな方法をとっている。3)力学場の較正は、初期の上昇流場の決定に寄与し、予報早期の降水強度の改善をする。4)Takano and Segami(1992)は、降水過程を含むノーマルモードイニシャリゼーションが非断熱加熱が弱いために初期の発散場を余り変えないと指摘しているが、本研究ではこのノーマルモードイニシャリゼーション自体は、強いモデル降水域でも初期場の鉛直速度をほとんど変えない。降水過程を含むノーマルモードイニシャリゼーションは降水に伴う発散場を保持することで、断熱的なノーマルモードイニシャリゼーションが与える、降水域の立ち上がりの遅さをを減らしている。
著者
山本 哲 菊地 時夫
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.361-368, 1998-05-31
被引用文献数
4

1996年10月29日〜31日にかけて, 関東地方の広い範囲で発生した霧について, インターネットを通じて気象の専門家でない一般からの情報の収集を試みた.今回の現象は, 発生頻度が低く出現すると人の目を引きやすいものであること, 長時間観察されること, 専門家でない人でも容易に認知できる現象であること, 人口密度の比較的高い地域に人間活動が盛んな時間帯に発生した現象であることなど, 一般からの情報提供が得やすい現象の特徴に合致したものであった.事前の準備がなかったにもかかわらず, 既存の観測ネットワークを補う, 比較的質の高い, 詳細な情報を少ない負担で得ることができた.今後インターネットの普及がさらに進めば, これを利用した, 全く新しい気象情報ネットワークが生まれる可能性が秘められているといえるであろう.
著者
北畠 尚子 三井 清
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.11, pp.827-840, 1998-11-30
被引用文献数
3

1995年11月7日から8日にかけて日本海で急発達した低気圧について, 総観〜メソαスケールの前線の構造を中心に解析を行った.日本付近にはもともと南北2組のジェット・前線系があり, 低気圧は北側のジェット・前線系に発生したもので, 最盛期には南の前線系の雲とともに1つの閉塞した低気圧の雲パターンになったinstant occlusionであった.実際には, 地上低気圧に伴う(北の系の)下層前線は最盛期にもかなりの温度傾度を持ち, 閉塞はしておらずfrontal fractureもなかった.閉塞前線の雲のように見えたのは実は上空の寒冷前線(UCF)の雲で, 南の系の前線の遷移層から北上・上昇した高θ_e空気と, dry intrusionとによって生じたものである.この新たな高θ_e気流とそれに伴う雲の発達が, 低気圧・前線系全体の発達に寄与したことが考えられる.