著者
加藤 輝之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.241-245, 1995-04-25
被引用文献数
12

新たな雨滴落下スキーム(box-Lagrangianスキーム)を開発した。従来のEuler型のスキームでは、雨滴の混合比qの時間変化をδq/δt=Vδq/δzから計算しているので、タイムステップΔtを雨滴の落下に対するCFL条件(VΔt/Δz<1、ここでVは雨滴の落下速度、Δzは鉛直の格子間隔)をも満足するように決定しなければならない。そこで、新しいスキームでは1鉛直格子箱にある雨滴の総量(可降水量)が完全に保存するように雨滴の落下を考え、そうすることにより雨滴の落下に対するΔtの束縛条件を取り除くことができた。すなわち、可降水量を一定のVで落下させ、Δt後の落下位置にある格子に配分する方法である。雨滴の落下に対するCFL条件から考えられる最大のタイムステップΔt_c(=Δz/V)よりも小さいΔtに対してはbox-LagrangianスキームはEuler型のスキームと一致する。さらに、ΔtをΔt_cの数倍にした場合でもbox-Lagrangianスキームは精度良く安定に雨滴の落下を計算した。数値モデルの下部の格子間隔を大気境界層を表現するために細かく取る場合、box-Lagrangianスキームは特に有効な手段となる。
著者
松山 洋 西村 照幸 佐藤 信夫
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.199-215, 1999-03-26
被引用文献数
2

1987〜1988年のFIFEの観測値と、ISLSCP Initiative I CD-ROMの入力データおよびJMA-SiBの出力を比較した。検証にはA.K.BettsとJ.H.Ballによってまとめられた領域平均値を用いた。 JMA-SiBでは、1988年の暖候期における5cm以深の土壌水分量が系統的に過少評価されている。これは1987年秋から1988年春にかけての地表面熱収支・水収支の違いによる。この期間の総降水量は観測値・モデルの入力データともに等しい。しかし、前者では降水量がほぼ土壌水分量の増加に寄与しているのに対し、JMA-SiBでは大半が蒸発散量として失われている。1988年春の土壌水分量の違いが生じる原因は、(1)冬季の混合比がモデルの入力データによって系統的に過少評価されており、JMA-SiBの蒸発散量が大気中の湿度に反映されず乾燥し続けていること、(2)この期間の総降水量の半分が、実際には土壌水分量の観測再開直前の11日間に集中して降っているのに対し、これをモデルの入力データが過少評価していること、などであると考えられる。 このように、モデルの入力データと観測値の間に違いが見られたので、GSWPでは、モデルで得られた土壌水分量と観測値だけを比較して両者の違いを議論すべきではない。FIFEの観測値をモデルの入力データとする別の検証実験が必要である。
著者
大村 浩王 遠峰 菊郎 細川 尚
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.365-375, 1999-06-30
被引用文献数
2

1997年8月4日および8月9日の2日間,群馬県の榛名山山麓においてオメガゾンデによる高層気象観測を行い,状態曲線の日変化と雷雲の発生・発達との関係を調べた.その結果,雷雲が観測された8月4日には,朝から日中にかけて,接地混合層の上端高度は上昇し,自由対流高度(LFC)は下降した.その結果,雷雲が発生した時刻にはCIN (convective inhibition)の値も小さくなり,対流が発生しやすい状態であった.さらに,LFCから大気上層の間には顕著な安定層が見られず,背が高い対流が発達可能な状態にあったことが示された. これに対し,雷雲が発達しなかった8月9日には,日中は接地混合層の上端高度は上昇した.しかし大気中層への暖気移流により顕著な安定層が形成され,上空の気温が高かったためにLFCは存在していなかった.このため,対流雲は存在していたが,背は低いままで発達しなかった.また,雷雲発生の有無にかかわらず,2日間とも日中から夕方にかけて大気安定度は同程度減少する日変化が認められた.
著者
渡辺 幸一 石坂 隆 田中 浩
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.1153-1160, 1995-12-25
被引用文献数
6

大気中における過酸化物や他の微量気体(O_3,SO_2)の濃度の測定を夏から初秋にかけて、中部日本に位置する乗鞍岳の山頂付近(標高2770m)で行った。過酸化水素(H_2O_2)やオゾンは真夜中に濃度が最も高くなり、真昼に最も低くなった。深夜にH_2O_2やO_3濃度が高くなるのは上層大気の沈降によるものと考えられ、このような日変化は低地での変動とまったく逆である。また、夏の乗鞍岳では、SO_2(S(IV))をH_2SO_4(S(VI))へと酸化させる能力の指標とされている[H_2O_2]/[SO_2]の比がほとんどの期間で1より大きく、SO_2の酸化剤が十分に存在していることがわかった。すなわち、夏期においては、水滴中でのSO_2の不均質酸化が非常に速いものと考えられる。
著者
高野 功 瀬上 哲秀
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.377-391, 1993-06-25
被引用文献数
1

数値予報モデルの降水の立ち上がりを改善するため、気象庁の局地モデル(JSM)を用い、メソスケールの対流雲システムを対象として初期値をいくつか変えた実験を行った。実験では、予報解析サイクル(FAサイクル)、非断熱加熱を含むNNMI、および水蒸気の初期値化の効果を調べた。またNNMIの非断熱加熱にはモデルの物理過程の計算したものと、雨量強度の観測値から推定したものの2種類の取扱いを試みた。現業システムによる基準予報では、降水の立ち上がりは悪く、雨が降り出した後もその位置に誤差がみられた。その要因としては初期値に雲システムに関わるメソスケールの情報が適切に表現されていなかったことが考えられる。FAサイクルを適用した事例では、下層の渦度パターンに見られるように初期値が改善された。その結果、基準予報にみられた予報後半の降水域の誤差は小さくなった。モデルの物理過程を使った非断熱NNMIの結果は発散成分をほとんど変えなかった。NNMIでの非断熱加熱を調べてみると非常に弱く、それが断熱の場合とほとんど同じ結果をもたらした原因と考えられる。一方、雨量強度を用いたNNMIでは初期値に降水域に強い発散成分と上昇流が生じた。しかしこの場合も予報では非断熱加熱は弱く、こうした運動場は維持されず急速に減衰してしまった。水蒸気場の初期値化はモデルの物理過程が観測された雨量強度と整合した潜熱を放出できるための条件を満たすことを意図している。解析でのFAサイクルと雨量強度を用いたNNMI、それに水蒸気場の初期値化の3つの手法を組み合わせた事例では、予報開始直後から観測値に近い降水が予想され、初期値の効果は長時間認められた。
著者
遠峰 菊郎 小林 文明 道本 光一郎 緒方 秀明 和田 保徳 郷津 寿夫 酒井 勉
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.13-22, 1994-01-31
参考文献数
7
被引用文献数
2

3,4時間先の冬季雷予測の可能性を探るために,1992年1月22日から同月24日まで,レーウィンゾンデによる3時間間隔の観測を実施した。観測期間中に雷活動が活発であった時間帯は3回あった。これらの雷活動の中にはいわゆる気団雷も含まれるが,それぞれ熱的に不安定な小領域や小さい収束線が観測された.このことから,これらの小擾乱の存在を確認することができれば,冬季雷の予測はより精度が高まると考えられる.
著者
松山 洋
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.921-926, 2001-12-31
被引用文献数
2
著者
佐藤 昇
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.187-197, 1998-03-31

大阪管区異常気象報告(大阪管区気象台)によれば, 近畿地方の降雹の機会は少なく、過去30年間、各府県で1回/年以下の頻度でしか観測されていない。また、直径5cm以上の大きさの雹粒の観測記録はない。1994年6月16日16時10分過ぎ大阪市南部で、上空寒気移流による成層状態の不安定化から発達したと思われる積乱雲からの降雹が観測された。この積乱雲のレーダー・エコーは大阪府内で約2時間停滞した。近畿地方では雹粒のエンブリオを観測した例はないので、今回採集された雹粒の薄片観察を行った。その結果、エンブリオとしては霰よりも、凍結水滴のものが多かった。これは雲中の気温が高いことによるものと考えられる。
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.785-790, 2006-10-31
参考文献数
13
被引用文献数
3

本州〜九州では,5月下旬〜6月初めの半月程度の期間,梅雨入りに先立って一時的な少雨期になる.その実態を,44年間(1961〜2004)の日別資料に基づいて記述する.少雨期は九州〜近畿の南岸では5月24日ごろ,東海〜関東では5月29日ごろ,東北では6月1日ごろを中心として現れ,その期間は降水率(≧1mm)や降水量が前後に比べて20〜30%少ない.この期間は大雨日数もやや少ないが,東日本を中心として雷や雹が多発する.850hPa相当温位の解析結果から,5月後半には本州付近の傾圧性が一時的に弱まることが確認される.
著者
石井 正好 栗原 和夫
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.597-606, 2002-08-31
被引用文献数
1
著者
糟谷 司 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.917-925, 2012-10-31

1997年から2009年までの期間について全国規模でGPS可降水量を算出し,その季節変化の気候学的な特徴について調べた.冬期から春期への季節進行と共に可降水量は全国的に増加していくが,西日本では5月末の少雨期の直前に可降水量の増加が停滞し,その後約20mm程度の可降水量の急増に伴って6月中旬に梅雨入り(オンセット)を迎える.オンセット時の最大増加率は1mm/dayを超え,増加率の極大後約10日後に降水量が最大値を示す.また,盛夏期の可降水量の上限値は50mm程度である.秋期に可降水量が急激に減少する時期は西日本では2回,東日本では1回で,特に9月中旬の減少傾向は全国規模である,可降水量の夏期前後の季節変化にみられる非対称性は西日本で特徴的であるが,北海道では8月初めを極大とする対称性が際立っており,可降水量の季節変化に地域的な特徴が見出された.
著者
田中 創 守屋 岳 岩淵 哲也 日下 博幸
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.213-228, 2010-04-30
被引用文献数
1

近年,GPS可降水量の解析技術の進歩,計算機の高性能化,データ通信回線の大容量化等により数値予報のデータ同化に利用できる精度のリアルタイム解析が可能になった.本論文では,GPS可降水量のリアルタイム解析データの同化について事例解析で予測が改善した例について報告した後,予測ルーチンでの運用を想定した夏季(2007年7-8月)の同化実験を行い,GPS可降水量データのWRFモデルへの同化の影響を評価した.GPS可降水量データに関してはリアルタイム解析でも一定の精度のデータが得られた.事例解析の同化実験では,局地的な強雨の予測に成功した例を示した.統計解析を目的とした夏季2ヶ月間(2007年7-8月)の同化実験では,弱い雨,強い雨ともに降水頻度が増加し,スコア(ETS)がやや悪化した.そのため改善策として同化の際の条件設定について再考した.全期間のスコアでは弱い雨(0〜1mm/h程度)については若干スコアの改善が見られた.気象現象別のスコアでは前線性の降水や台風など比較的スケールの大きな現象についてはスコアの改善は見られなかったが,雷雨などの不安定性降水については陸上の水蒸気の詳細な分布を同化することによりスコアが改善し,GPS可降水量の同化が有効であることがわかった.
著者
松本 久
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.40, no.7, pp.493-498, 1993-07-31