著者
伊集院 壮
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

細胞増殖や細胞内物質輸送など様々な細胞内シグナル伝達を司るホスファチジルイノシトール3リン酸(PIP3)は、PIP3の脱リン酸化酵素であるSKIPやPTENによって細胞内において時間的にも空間的にも精緻に制御されていることを明らかにした。この結果はがんや糖尿病の一因を知る上で有力な手がかりとなると期待される。
著者
伊藤 真之
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

X線天文衛星「あすか」の位置検出型ガス蛍光比例計数管GISのデータを用いて、太陽X線の地球大気アルベドのスペクトルおよび長期変動を調べた。この結果、太陽活動の極小期から極大期をほぼカバーして、太陽X線とその地球大気アルベドのスペクトルが、0.5-5keVのエネルギー範囲で、いくつかの元素のK輝線を識別できる程度のエネルギー分解能で得られた。スペクトルは、(a)2温度成分の高温プラズマの熱放射、(b)これに対する中性ガスによる反射・吸収の補正、(c)付加的輝線成分から成るモデルで記述された。主として成分(a)が太陽コロナX線の太陽全面にわたる観測期間内の平均スペクトルに相当する。太陽X線に関する主な結果は次のようにまとめられる。1.得られた太陽X線スペクトルは、温度3×10^6K程度および(5-10)×10^6K程度の熱放射としてほぼ記述できる。高温成分は主とし太陽フレアで生成される高温プラズマの放射であり、低温成分は主としてフレア以外のコロナの放射であると考えられる。2. 2成分の温度には、太陽活動周期にともなう大きな変化はみられなかった。3. 2成分の強度は太陽活動周期と同期した変化を示した。変化の割合は高温成分の方が大きく、太陽活動極大期において高温成分の占める割合が大きくなる。付加的輝線(c)には、地球大気のOおよびAr以外に、Mg、SiなどのK輝線が含まれ、これらは(a)の熱放射から期待される輝線に対してエネルギーが低く、強度が大きい。一つの可能性として、太陽コロナにおける電離非平衡の効果が考えられる。なお、研究の構想段階ではASTRO-E衛星も視野に入れていたが、軌道投入失敗のためこれは実現しなかった。ほぼ同じ設計の衛星ASTRO-EIIの打ち上げが予定されており、X線カロリメータによる高分解能のデータを用いて、本研究の方法による展開が期待できる。
著者
神吉 和夫
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

1.四上水の実像について「玉川上水大絵図」(東京都公文書館)、「正徳末頃ノ上水圖」等の絵図史料と江戸の都市図、『東京市史稿上水篇』第一、第二、『復刻 千川上水』、『江戸の上水と三田用水』、『本所区史』等の資料を用い、四上水の実像(配水区域、上水配管、分水断面)を具体的に明らかにした。2.四上水廃止と江戸の災害・防火政策との関係について江戸の災害(火災と水害)について『東京市史稿 変災篇』、吉原健一郎「江戸の災害年表」を基礎資料に用い、また、防火政策については池上彰彦「江戸火消制度の成立と展開」を基礎資料とし、四上水配水区域の災害を分析した。千川上水は江戸城の防火対策、本所上水は水害が廃止の理由として指摘できる。3.四上水廃止と武蔵野台地での新田開発の関係について「正徳末頃ノ上水圖」と『上水記』を比較して、亨保・元文期の武蔵野台地での新規の新田開発が、(1)千川・三田・青山三上水の上流側で行われている、(2)新規の取水量が廃止された三上水のそれより少ないことを明らかにした。この過程で重要な役割を担ったのが大岡越前守忠相であった。4.室鳩巣『献可録』の建言について室鳩巣『献可録』の建言の内容を詳細に検討し、(1)従来いわれてきた水道火災原因説は建言の一部である、(2)火災の原因について的確に把握している、(3)江戸城の火災対策として城の北方の水道、および南方の水道を撤去したいと主張したものであることを明らかにした。また、既往の研究が建言の水道火災原因説のみを取り上げ、その拡大解釈を行ったこと、通説は『中嶋工学博士記念 日本水道史』を嚆矢とし、『東京都水道史』で確立し『日本の上水』で広まったことを明らかにした。
著者
塚本 昌彦 義久 智樹
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

近年モバイルコンテンツが急激に増え、人々は携帯電話などを用いてアウトドアでメールやWebなどのコンテンツを利用するようになってきている。本研究では、このような状況を支援するため、アウトドアでウェアラブルな入出力デバイスを用いて大量の情報の操作を行うためのインタフェースを開発している。本年度は昨年度開発したシステムやテストの結果から得られた各システムに対するニーズや問題点などのフィードバックをもとに、今までのシステムを統合したルール処理エンジンを作成した。また、このルール処理エンジンを組み込んだマルチモード型デバイスの試作も行った。さらにマルチモードデバイスを用いた様々な状況依存型の入力方法について検討し、いくつかのシステムを構築した。両手に加速度センサをつけて角度でポインティングを行うXANGLEや、ボタンの押下時間を利用して少数のボタンに多数の機能を割り当てる方式、アナログジョイスティックと多層パイメニューを用いる方式、フットステップの動きを用いる方式など、さまざまな状況下で有効に活用できるような手法を実現し、検証を行っている。本研究に関して、本年度は論文1編と国際会議3編、国内研究会等6編の研究成果が出ている。現在さらに何編かの論文をまとめ、投稿中となっている。この分野は、今後、ユビキタス社会が進展するに伴い、ますます重要となる分野であるため、本研究で生み出された手法が実際に世の中で有効に活用されるようになる日は近いうちに必ず来るものと考えられる。
著者
壁谷 喜継
出版者
神戸大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

平成6年度科研費支給期間において、以下のことを解明した。1)球対称解の構造を決定した柳田の条件が成立しないとき、正値rapid-decay解の近傍は振動解(無限個の零点を持つ解)のみであることを示した。従来、rapid-decay解は孤立していることが知られていたが、その近傍の様子は柳田の条件が崩れたときには、知られていなかった。このことにより、今までに知られていた解の構造以外のものがあることがわかった。これは、砲撃法(shooting法)と変分法を組み合わせることにより、スケール不変量をうまく見つけだしたことによるものである。いままでは、変分法(関数解析的手法)と常微分方程式の関係がはっきりしなかったのであるが、それを解明したものである。今後は大域的な構造も明らかにしたい。2)m-Laplace方程式の指定された零点を持つ解の存在を示した。この方程式は、Laplace方程式の自然な拡張であるが、技術的にいくつかの困難を伴っている。それを克服し、一般性のある方法にするため、r=1での初期値問題を考え、全域に応用したものである。方程式は、r=0,r=∞に特異点を持つため、r=1から問題を解くことの方がやさしい。さらに、零点の数が指定されているので極座標に変換して零点の数を指定に添うようにした。極座標にすることで、Dirichlet,Neumann以外の境界値問題にも応用が容易になった。
著者
興津 征雄
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

ドイツ法およびフランス法との比較において,2004年の行政事件訴訟法改正により新たに導入された義務付け訴訟と既存の取消訴訟との関係を分析することにより,行政訴訟において司法権と行政権が果たすべき役割について考察し,得られた視点を元に,改正行政事件訴訟法の解釈論と,さらなる立法論を探究した。
著者
三井 誠 大澤 裕 田中 開 酒巻 匡 長沼 範良 井上 正仁
出版者
神戸大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1987

本研究は「1984年警察・刑事証拠法」および「1985年犯罪訴追法」の制定によってもたらされた、イギリスにおける刑事司法制度の大改革の全体像を分析するものである。両法典の制定前の状況、法改革の提言、圧力団体の動向、イギリス議会・委員会での審議過程、法律制定後の実務上の変化などの調査結果は、わが国刑事司法のあり方を再考するための重要な素材となろう。1.第1年度には、両法典を翻訳したうえこれを出版するとともに、上記の関連基礎資料・文献の収集・分析をひとわたり終えることができた。2.第2年度には、前年度の基礎作業をふまえて、両法典を6分野に別けて各担当者を定め、各担当者が、担当部分について従前の法と実務法改革の提案、同辺圧力団体・マスコミの動向、1984年法律審議過程と法律成文との関係、法律制定後の実務の様相、新しい判例の動きをふまえたうえで、その調査・分析結果を報告し、それを素材に全員で討議するという方法を数回繰り返した。3.また、両法典成立後、「刑事裁判法」の全面改正はじめ、いぜん刑事司法をめぐるイギリスの状況は流動的であるので、英国の諸機関や滞英中の研究者をとおして最新情報を逐次入手した。4.報告と全体討議が終了した部分については、担当者が論文を作成し、順次、法律雑誌『ジュリスト』に提起連載の形式で発表することとし、937号(1989年7月1日号)より隔号に連載予定である。5.わが国刑事司法制度への影響についてはなお検討を要するが、イギリスにおける捜査、訴追活動の改革は質量ともに重要な意義を有するだけに、日本刑事司法の改善に、制度面でも運用面でも、いくつかの貴重な示唆を与えるであろうことは疑いないといえる。
著者
向井 正 中村 昭子 岡田 靖彦 平田 成
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

小惑星表面を模擬した物質の光散乱特性を明らかにするために、(1)室内での光散乱実験を実施し、不規則形状体の光散乱データベースの構築を目指すと共に、(2)不規則形状体の光散乱を理論的に検討する手法としての数値計算ツールの開発を実施した。それらの基礎過程の研究を基に、(3)小惑星表面画像の解析から、小惑星表面物質を演繹した。
著者
乙藤 洋一郎 KIDANC Tesfaye Birke KIDANE Tesfaye Birke
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2005

古地磁気学的方法によってアフリカ大陸東北部にあるアファー三角帯内部の地殻ブロックの運動様式を明らかにすることを目的として、Main Ethiopia Riftのファンターレ地域を研究対象地域とした。この目的のために、2006年11月にファンターレ地域において岩石試料採取をおこなった。52箇所において鮮新・更新生層の溶結凝灰岩と玄武岩溶岩層から採取した600個の試料を、研究対象岩石とした。ファンターレ地域東部域のカレーユロッジに見られる高低差300mのアワシュ川の崖の24層で採取した溶結凝灰岩に関しては、古地磁気の測定を10月末に完了した。ファンターレー地域中央部から採取した28箇所の古地磁気測定もすでに終了している。52箇所の古地磁気方向の分散の大きさから、試料採取した岩石厨は地磁気永年変化を平均できるだけの十分長い時間間隔で形成されることがわかった。カレーユロッジの磁気層序から、Reunion subchronに相当する正磁極期がみつかったことは、52箇所の岩石層の形成に永年変化を平均化できる十分な時間がかかったことをうらずけるものである。52箇所の古地磁気方向は、アフリカで予想される地球磁場より束へ7.1°±4・3°偏っていることがわかった。以上のことから、ファンターレー地域はリフトバレーが形成されたあとに、7度の時計周り回転を経験したと結論した。大陸の分裂初期の大陸地殻の拡大に伴い、リフトバレー内部で新たにブロックが形成されるとともに、形成されたブロックはさらにリフトの拡大とともに回転運動することが、世界で始めて発見されたことになる。この研究について、現在投稿のために論文が準備されている。
著者
藤 秀樹
出版者
神戸大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

本研究は, 新規エキゾチック超伝導体や新しい層状およびカゴ状構造を有する物質系において発現する低温量子状態を核磁気共鳴を用いて解明を目的とした。本年度は籠状クラスレート化合物であるBa_8Ga_<16>Sn_<30>の研究を中心に、ラットリングに関して微視的観点からの機構解明を行った。加えて、新しい2元系の鉄系層状化合物FeSeについても研究を開始した。これまでの研究から以下のような結果を得た。1. Ba_8Ga_<16>Sn_<30>は2種類の籠状構造をとる1型(β相)と1種類の籠状構造をとる8型(α相)が知られており、籠形状の違いにより内包原子の大振幅原子振動(ラットリング)が異なることが指摘されている。本研究では主としてGa-NMR研究を行い、Type Iでは30K付近にラットリングによるスピン格子緩和率の増大を見いだした(2008年9月日本物理学会・分科会)。一方Type VIIIでは、Type Iとは異なりコリンハの関係式に従い、低温で緩和率に異常が見られないことを明らかにした。2. 新しい鉄系超伝導体FeSeについてSe-NMRを行い、低温の超伝導状態においてNMR緩和率の測定から、BCS超伝導体特有のコヒーレンスピークが見えないこと、緩和率の温度依存性がT3に従っていることを明らかにし、異方的超伝導の可能性を指摘した。また、類似化合物である反強磁性体SrBa_2As_2について圧力下電気抵抗実験を研究協力者の小手川等とともに行い、3.7GPa程度の圧力下での反強磁性が消失し、34K級の超伝導相が出現することを示した。平成20年11月12日をもって, 当初予定していた研究は遂行した。
著者
小谷 通泰 山中 英生 秋田 直也 田中 康仁
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究は、貨物車に搭載したプローブ機器(GPSとデータ記録用のロガー)から得られたデータをもとに、貨物車の基礎的な運行挙動を把握するとともに、これらの運行挙動を組み込んだ環境制約下における配送計画モデルを定式化する。そして、複数の運行形態の貨物車を対象として最適配送計画を提案し運行コストの削減と都市環境の改善の両面からその効果を評価することを目的としている。得られた主たる成果は以下の通りである。まず、貨物車の運行挙動については、取得したプローブデータにもとづき、貨物車の走行時間や荷さばき時間にみられる不確実性を考慮し、指定時間がある配送地点への出発時刻の決定行動や複数の配送先への巡回経路の選択行動をモデル化した。また同様にプローブデータをもとに、高速道路と一般道との間における大型貨物車(海上コンテナ輸送トラック)による走行経路の選択要因を抽出した上で、経路選択モデル(非集計行動モデル)の構築を行った。さらに明らかになった運行挙動を踏まえて、一般の貨物車(宅配貨物輸送トラック)と大型貨物車(海上コンテナ輸送トラック)の2通りを取り上げて、環境制約下における配送計画を作成した。宅配トラックについては、貨物輸送需要を与件としてデポ、集配拠点の最適配置計画を提案し、貨物車の運行効率の向上と環境改善効果の視点からそれらを評価した。また海上コンテナ輸送トラックについては、構築した貨物車の経路選択行動モデルを用いて、市街地の環境改善を図るため通行料金格差の導入や賦課金徴収を行った場合の、貨物車の市街地から湾岸部の高速道路への迂回誘導効果を評価した。
著者
影山 裕二
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ショウジョウバエpolished rice(pri)遺伝子がコードしている、11 および 32 アミノ酸のごく短いペプチド(PRI ペプチド)は、細胞外に分泌されない新しいタイプの活性ペプチドと考えられている。PRI ペプチドの作用機構を明らかにするため、遺伝的相互作用を示す遺伝子を探索したところ、転写因子をコードするshavenbaby(svb)遺伝子が同定された。SVB タンパク質は上皮細胞の形態形成を制御するマスター因子であるが、PRI ペプチド存在下では SVB タンパク質の活性化が起こることが明らかになった。
著者
泉水 文雄
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

市場支配的事業者規制、とりわけ私的独占、それに至らない不公正な取引方法、優越的地位の濫用に対する規制について解釈論、課徴金導入に関係する立法論を提言した。また市場支配的事業者を形成、強化等するおそれのある企業結合規制の分析方法、ネットワークに関係する市場における競争上の規制の比較法研究の成果を公表した。さらに、モバイル市場の競争のあり方等の事業法と競争法の交錯について研究成果を公表した。
著者
石 瑾
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

既存研究が示唆したように、小売の国際化プロセスにおいては、進出先が市場環境の類似性が高い市場である場合、集権-標準型ビジネスシステムをもつ企業が短期的志向になり、分権-適応型ビジネスシステムをもつ企業が長期的志向になる。しかし、進出先を類似性の高い市場から異質性の高い新興市場に切り替えられるとき、既存研究の想定したビジネスシステムと成果スパンの対応関係が依然として成立するのか、それとも反転するのか、本研究はそれを問題意識とする。そこで、本研究は、まず小売の国際展開に関する先行研究のレビューを行った。そして、新興市場の代表として中国を取り上げ、新興市場の異質性をまとめた。さらに、本研究の分析視点と分析枠組みを提示し、それに基づいて理論的な分析を行い、新興市場では、集権-標準型ビジネスシステムをもつ企業が長期的志向になり、分権-適応型ビジネスシステムを持つ企業が短期的志向になるという仮説を導き出している。続いて、仮説検証を行うために、カルフール中国とウォルマート中国の事例を取り上げた。本研究は膨大な二次データと12回にわたる現地でのインタビュー調査によって収集した一次資料を用いて詳細な分析を行い、これまでほとんどブラックボックスとされてきた中国市場における両者のビジネスシステムの内実を明らかにした。さらに、本研究は両事例の比較分析を行い、理論的なインプリケーションをしている。最後に、従来の研究で示されているビジネスシステムと経営成果スパンとの対応関係が、新興市場において反転する論理をまとめた。さらに、集権-標準型ビジネスシステムと分権-適応型ビジネスシステムの識別、新興市場における小売外資と現地市場のさまざまな主体との相互作用といった問題に関するインプリケーションも示している。本研究の詳細を、2005年1月19日に経営学研究科に提出した博士論文「新興市場における小売外資のビジネスシステム-カルフール中国とウォルマート中国の事例-」に参照されたい。
著者
乙藤 洋一郎 松田 高明
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

北上地塊,西南日本東部,そして沿海州シホテアリン山地の研究結果から次のような興味深いテクトニクスが明らかになってきた.北上地塊は日本海が拡大する直前にアジア大陸に付加した可能性を指摘した.北上地塊に分布する114Ma-119Maの年代を示す原地山層と62-71Maを示す閉伊崎火山岩類の古地磁気データは,伏角が-20度から9度の低伏角を示した.今回発見した北上地塊の低伏角は,北上地塊が太平洋プレートに押されて25-30Maにアジア縁辺にやってきたとすることで説明ができる.北上地塊がアジア大陸に付加したのは日本海が拡大する直前であったことになる日本海拡大が起こっている際の,西南日本弧の回転のテクトニクスについて次のようなモデルを提出した.20〜15Maにおこった日本海拡大に伴い,九州から関東山地にわたる西南日本弧は対馬の西方にある同転軸の周りで時計回り回転運動を行った.西南日本弧が30度ほど時計回り回転すると,現在の諏訪湖近辺で,関東山地とそれ以西の小西南日本ブロックの2つの独立に運動するブロックに分かれた.関東ブロックは諏訪湖近辺を回転軸として時計回り回転運動を続け,60度回転した.小西南日本弧は引き続き対馬の西方にある回転軸の周りの回転運動を行い,20度ほど回転した.回転の際,小西南日本弧の東端は現在の赤石裂線に沿って滑って南下した.中央線の折れ曲がりは島弧の塑性変形ではなく,二つの剛体,関東ブロックと小西南日本弧,の回転運動が原因で造られたと結論した.このモデルは,西南日本で観察される中央線の折れ曲がりに新しい見方を提供する.
著者
冨山 明男 細川 茂雄 宋 明良
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2006

沸騰水型原子炉燃料集合体設計における実規模試験依存度低減に資する流動評価手法として, (a)ロッドバンドル及びロッド支持体(スペーサ)構造を適正に考慮し, かつ目的に応じた適正な空間分解能で気泡流動を評価できるハイブリッド計算技術、及び(b)ロッド間隙部形状及びスペーサ構造が気泡挙動と液相速度場に及ぼす影響を正確に測定し, ハイブリッド計算遂行に必要な実験相関式を構築するための複雑流路内気泡・液相流動実験技術を開発するとともに, (c)この2種の技術を融合統合化したロッドバンドル内スペーサ近傍気泡流動評価技術を開発した.
著者
津田 英二
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2004

本年度はこの研究助成の最終年度であり、3年間の研究成果をまとめ、次のステップにつなげる努力をした。第一に、この研究機関中に整備した研究フィールド(特に神戸大学大学院総合人間科学研究科ヒューマン・コミュニティ創成研究センターのサテライト施設のびやかスペースあーち」)において、インフォーマルサービスの形成過程とその支援のあり方について実践的研究を遂行し、データの獲得と分析を行なった。第二に、インフォーマルサービスの充実に向けた先駆的実践について、継続して情報収集と分析し、研究ネットワークの形成を行った。第三に、2006年9月に群馬大学で行われた日本特殊教育学会での口頭発表、同月にイギリスのオープンユニバーシティで行われた研究集会で口頭発表を行なった。第四に、研究論文として『Brithish Journal of Learning Disabilities』誌や『福祉教育ボランティア学習学会年報』、神戸ヒューマンコミュニティ創成研究センター編『人間像の発明』などに研究成果を発表した。第五に、理念や概念の検証、実践的研究に関するデータ、先駆的実践の整理や分析などを整理し、口頭発表や研究論文発表などをふまえて3年間の研究成果を『インクルーシヴな地域社会をめざす拠点づくり』という冊子にまとめ、刊行した。
著者
窪薗 晴夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、これまで体系的な研究に乏しかった複合語の音韻構造を対照言語学・一般言語学的な観点から考察し、日本語と英語の複合語音韻構造の中の普遍性と言語個別性を明らかにすることを目的としている。この研究から次の4点が明らかになった。1.日本語のアクセント現象の記述・説明のためには、従来から言われてきたモーラという単位に加え、音節という単位が不可欠であり、この単位を用いて分析することにより、日本語と英語のアクセント現象に見られる抽象的なレベルでの共通性を捉えることができる。2.複合語を構成する二つの要素のうち、どちらのアクセント(強勢)が複合語のアクセント(主強勢)として生き延びるかを対照言語学的観点から考察すると、多くの言語において複合語の修飾語(modifier)が主要部(head)を統率するという共通した特徴が観察される。ただし日本語の東京方言はこの例外となる。3.音声素性という概念を用いると、「蝶々」という反復複合語が「てふてふ」から「ちょうちょ」へと母音部分の発音を変えたという歴史的事実を、「痛い」が「いてえ」となるような共時的母音融合の現象と同一の音声過程として記述できる。4.複合語アクセント規則をはじめとするアクセント規則と、母音挿入や子音削除のような分節音変化との関係を多言語について考察した結果、分節音変化が生じる前の音節構造(つまり一昔前の表層構造)を入力としてアクセント規則が適用されるケースが観察された。
著者
濱本 正太郎
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

本年度も、引き続き、基本的資料の収集・読解に重点を置いた。初年度の報告書でも述べたように、この作業については、短期聞で明確な成果を生むことを期待するよりも、精密にテキストを読み進む作業を続けるほかないと考えられる。また、初年度からの継続的作業として、国際政治学・国際関係論、さらには哲学・政治思想の観点から「世界帝国」を扱った文献の読解も試みた。「事実上の国際政府」概念は、ヨーロッパ協調に起源を持ち、ウィーン会議(1814-1815)、パリ会議(1856)、ベルリン会議(1878)などの会議外交を経て、第一次世界大戦・第二次世界大戦の戦後処理過程においてより明確に現れることとなった。とりわけ、このような実行についてある程度の理論化が図られたのは第一次世界大戦・第二次世界大戦の戦後処理の過程においてであるため、第二次世界大戦の戦後処理過程の分析は重要である。この点、本年度は、2ヵ月の短期在外研究の機会を得たため、フランス外務省外交史料館において、第二次世界大戦の戦後処理過程において「大国」が果たした役割について、大量の一次史料を渉猟する機会を得ることができた。これら研究の成果は、残念ながら最終年度である今年度内に発表することはできなかった。しかし、来年度の前半にはある程度まとまった形でフランス語で発表する論考に本研究の成果を示すことにしており、現在、フランス語の校閲と校正の過程にある。