著者
和田 修 喜多 隆
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

光通信の大容量化の要求に伴って100Gb/s超の超高速化が必要となってくるものと考えられる。この際に光信号再生機能(増幅+波形整形2R,時間同期も含めた3R)は極めて重要となるが、簡単かつ実用的なものはまだ実現されてない。本研究では、我々独自の原子層制御量子ドットにより、単一の素子で超高速光信号再生機能を有する垂直構造光信号再生デバイスを目指して、研究を行った。本年度は、量子ドット成長法に関しては、単一ドットの透過電子顕微鏡測定(HAADF-STEM測定)を行って量子ドット構成原子構造の正確な観測に初めて成功し、ドット形状制御における多元パラメータ制御の重要性が確かめられた。また、量子ドットの光学的特性に関しては、多層化量子ドット構造における量子ドット間の電子状態の結合効果を発光特性測定によって検討し、スペーサ層の厚さ(10〜40nm)の制御によって発光波長、強度、減衰時間など光学特性制御が可能であることを明らかにした。さらに、半導体多層膜反射鏡構造と量子ドットを集積化した基礎的な光変調デバイス構造を作製して光学特性を評価して基本的な反射特性を確かめ、この構造が変調特性等の高度な特性の評価に適用可能であることが分った。これらの結果を総合的に考慮し、我々独自の多元制御量子ドットが面型光信号処理デバイスに適用できるものと考える。
著者
Nakagawa Norikazu Masuhara Kensaku Shimada Tomoaki
出版者
神戸大学
雑誌
Bulletin of health sciences Kobe (ISSN:13468707)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.87-94, 2004-03-25
被引用文献数
2

The purpose of this study was to clarify the effects of total hip arthroplasty on joint position sense at the hip. Firstly, 17 cases of postoperative dislocation were investigated retrospectively. The postoperative dislocation was classified as early or late depending on the interval after surgery. All cases (7/7) of late dislocation were clearly aware of their leg position at dislocation, while 40% cases (4/10) of early dislocation could explain their leg position at dislocation precisely. Secondly, 108 patients who had THA were investigated prospectively to clarify whether joint position sense at the hip was restored at 4 weeks after surgery. Using a goniometer for the hip, the patients' hips were passively rotated in the chair sitting position and rotation angles were measured every week when they detected as rotationally neutral (0° ). As a result, a significant shift to the internally rotated position was observed between the first 1 to 2 weeks and the next 3 to 4 weeks (p<0.01〜p<0.05). There was no significant relation between the detected angle and either their age or amount of leg lengthening. These results may suggest that intensive care should be taken for early dislocation especially during 2 weeks postoperatively.
著者
白浜 公章
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究では、データマイニング技術を映像処理に応用して、大量の映像が蓄積された映像アーカイブから、所望のイベントを効率的に検索するための3つの手法を開発した。1つ目は、ラフ集合理論と呼ばれる技術を用いて、所望のイベントに特有の特徴量(色、エッジ、動きなど)の組み合わせをパターンとして抽出する手法を開発した。2つ目は、イベント中に出現する概念(人、車、建物など)をビデオオントロジーとして体系化し、概念間の関係性に基づいて検索精度を向上させる手法を開発した。3つ目は、異常な編集パターンが使用されている映像区間を印象的なトピックとして抽出する手法を開発した。
著者
澁谷 啓 川口 貴之 鳥居 宣之 木幡 行宏 石川 達也 齋藤 雅彦 中村 努 加藤 正司
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010

本研究では,ジオシンセティックスを用いたL型排水盛土防水工を,補強土(テールアルメ)壁工法に適用し優れた効果を確認した.谷埋め盛土など背面側からの浸透水が懸念される箇所で有効に機能するものと思われる.排水機能が健全な状態では震度 6 強~7 強震動観測地区であっても被災を免れると考えられる.また,スラグおよびスラグ混合土を用いた土層の変位量が一般土を用いた場合より小さいこと,また,スラグ補強土壁の盛土造成時の締固め度 80~85%程度でも安全率が Fs=1.6 以上確保できた事実よりスラグ補強土壁が施工性に安全であると判断される.
著者
加古 敏之
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では政策評価を活用して地方自冶体の農林水産行政の改革について考察することを課題としている。兵庫県農政環境部は、農林水産ビジョンに掲げるめざす姿の実現に向けて、多様な行動主体と目標を共有化し、知恵や力を出しあい、適切な役割分担のもとに、ともに取り組んできた。ビジョンで目指す姿がどれだけ実現できたかを毎年評価し、県民に公表するという方法で、ダイナミック・マネジメント・システムを循環させる取組を7年間にわたり実施してきた。こうした取組は徐々にではあるが成果をあげている。より大きな成果を上げるためには、県民、納税者の視点からアウトカム指標に基づく評価をより一層推進することが必要であろう。事務事業評価は、行政機関に既に存在する事務や事業を取り出し、その効果、効率について「事務・事業」の品質チェックをするという特徴をもっており、「戦略」レベルの見直しからは、まだ距離がある。愛知県東海市では、このような状況の打開策としてベンチマーク方式の政策評価を導入した。しかし、住民のニーズを反映した指標は行政の事業から遠いので、住民のニーズと行政の事業を結びつけるロジックモデルを検討し、その後の政策形成につなげていくことが課題といえる。オレゴン州ティラムク郡は、社会指標型ベンチマーキングを活用して、高い成果をあげている。行政からは独立しているティラムク未来委員会は、地域住民から多くの意見・情報を集めて地域の問題を明らかにし、戦略ビジョンとコミュニティ・アクション・プランを策定した。また、達成度評価の結果を公表してきた。ティラムク郡の取組が高い成果を上げている理由として、困難であってもあきらめずに改革への取組を継続する未来委員会の能力、政策評価の実施に関する多くのノウハウを持つオレゴン大学CPWの協力、自分たちの住む地域をよくしたいという地域住民の強い意思と民主主義を実践する住民の能力、を指摘できる。
著者
嶋矢 貴之
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2005

マネーロンダリングへの刑事法的対応、非刑事法的対応、専門家の責任につき、下記のような成果を得た。【刑事的対応】わが国はマネーロンダリングにつき、組織犯罪等処罰法などにおいて、原則故意犯の処罰を定めているが、ドイツにおいては犯罪行為等に由来する財産であることを注意に認識せずマネーロンダリングを行った者も2年以下の自由刑若しくは罰金(故意の場合は3月以上5年以下の自由刑)を定め、これは故意犯(財産の由来の点以外の構成要件メルクマール)と過失犯の混合形態の犯罪であると理解されている。もっとも政策的必要性は理解可能だが、罪刑均衡やわが国の刑罰体系からすれば、慎重な対応が必要であると考える。【非刑事的対応と専門家の責任】平成18年度、わが国では犯罪収益流通防止法案が検討され、法律会計の専門家のマネーロンダリングに関する責任、届出義務が問題となった。ここでは弁護士が受ける対価が不法収益に当たるかという問題と、守秘義務との関係で届出を義務付けるべきかという問題がある。弁護士顧問料などは不法収益の規律に従うと考えることが可能と思われるが、具体的な刑事事件での弁護士費用の場合にはどのように考えるべきかは、ドイツなどでも問題となっている。差し当たり、被告人の弁護人依頼権、その政策的な保護という側面が否定方向に働き、不法収益は自由な処分は一切出来ない財産であるという理論的側面、不法収益を利用して高額な弁護士費用を正当化することになる帰結が肯定の方向に働くとの分析を行った。いずれにせよ、それらの調整を図った明確なルールが存在することが望ましいものを思われる。同じく専門家の責任については、イギリスでも一定の場合には、疑わしい取引の届出義務につき、弁護士に免責を与える判例があるが、それがどの段階から始まるかについては争いがあり、さらに検討を要する。
著者
窪田 幸子 曽我 亨 高倉 浩樹 内堀 基光 大村 敬一 杉藤 重信 丸山 淳子 PETRRSON Nicolas ALTMAN Jon
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2008

本研究は、20 世紀末から力を持つようになった国際的なイデオロギーとしての「先住民」概念を視野に入れつつ、国際世論と国家の少数民族政策のもとで、少数者である当事者の人々が、どのように先住民としての自己のアイデンティティを構築していくのかをあきらかにすることを目的とするものである。その結果、先住民としてのアイデンティティを選び取る・選び取らないという選択の幅がみられる現状には、グローバリゼーション、なかでもネオリベラルな経済的影響が大きいことが明らかになった。最終年に開催したとりまとめの国際シンポジウムではこのスキームをベースとして、代表者、分担者そして海外研究協力者の全員が研究発表を行った。
著者
高田 正三
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学医学部紀要 (ISSN:00756431)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.43-58, 1991-07

脊髄損傷者に,社会復帰後の生活状況をアンケート調査し,社会復帰に影響を及ぼす要因を検討した。対象は頸損54例,胸損43例,腰損21例の計118例で,退院後,87%が自宅生活をし,日常生活動作や車いす動作で介助を要するものが,それぞれ41%,31%で,介助者の多くは配偶者・親・子供で86%を占め,介助者のうちの65%が50才以上であった。社会福祉サービスの利用は19%と低く,住宅改造は72%,就労は41%,有配偶者率は51%で,11%が結婚し,11%が離婚していた。車の保有率は76%で,免許証取得者は73%であった。脊髄損傷者の社会復帰に影響を及ぼす要因は,損傷部位,年齢も大きな因子であるが,介助者の存在・住宅改造の有無・就業の有無・運転の可否・配偶者の有無などの社会的要素も大きく関与し,これらは個人的努力はもちろん,社会的合意のもとに,公的制度により解決が図られるべきものと考える。
著者
河野 誠司 中町 祐司 笠木 伸平
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

本研究は、関節リウマチ(RA)の病態におけるmiRNA-124の関与をインテグリンβ1制御の面から明らかにし、miRNAによるRAの病態解明と診断・治療への応用を図ることを目的とし、以下の結果を得た。(1)RA患者培養滑膜細胞にmiR-124を強制発現させると、インテグリンβ1の発現減少が見られた。(2)ラット・アジュバント関節炎モデルで、miR-124を投与したところ、関節炎の軽減が認められた。さらに関節組織において、インテグリンβ1の発現低下を認めた
著者
向井 正 LYKAWKA P.S. P.S. Lykawka
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

海王星軌道以遠に発見されている氷天体(太陽系外縁天体;TNOsと呼ぶ)の空間分布とそれらの起源について、諸天体の軌道進化の数値シミュレーションに基づく研究を行った。加えて、木星以遠の巨大ガス惑星や、惑星系外縁部の初期環境や、その後の進化の過程を明らかにした。大規模数値シミュレーションは、N体系の軌道進化を50億年にわたって追跡するもので、得られた結果は、現在の観測量と比較検討した。その結果、TNOsのみならず、巨大惑星の軌道進化や、天体軌道の力学共鳴の過程、太陽系の起源と進化について有益な成果が得られた。主な成果を列挙すると、(1)カイパーベルト全域の太陽系外縁天体の軌道分布に基づく分類を突施し、それらの空間構造の起源を明らかにした。この際、「新惑星」の存在を仮定すると、太陽系外縁天体の軌道分布の特異性が説明できるというモデルを提案した。(2)地球サイズの新惑星による影響が、太陽系の起源と進化シナリオに与える制約を明らかにした。(3)海王星軌道に発見されているトロヤ群の起源と軌道進化の数値シミュレーションから、海王星トロヤ群がその場で生まれたものと、海王星移動時に捕獲されたものの混合群である事を示した。(4)カイパーベルトに発見されているハウメア衝突族の起源を明らかにするために、衝突破片の軌道進化の数値シミュレーションを実行し、この族が生まれてきた過程を明確にした。また、今後、新メンバーが観測によって発見される可能性を示唆した。これらの結果は、4件の雑誌論文と6件の国内外の学会で発表した。
著者
尾崎 まみこ 高野 敏行 伊藤 雅信 伊藤 雅信
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

食環境への適応と、摂食調節は、生物の生命維持に必要不可欠である。私達は、キイロショウジョウバエを用いたショ糖に対する吻伸展反射実験から、24時間絶食により対照区のMe16G59系統(Me16)に比べ100倍もの吻伸展反射感度の上昇を、さらに実際の摂食量測定からも顕著な食欲亢進を示すTaiwanG23系統(TW1)を見出した。味覚器の糖受容細胞の電気生理学的実験から、このTW1系統においては、飢餓が進むにつれ糖受容細胞のショ糖感度が約10倍上昇することを証明した。
著者
光末 紀子 宗像 惠 曽根 ひろみ 須藤 健一 山崎 康仕 三浦 伸夫
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

平成12年度には、各研究領域に内在するジェンダー問題の摘出と分析が行われ、平成13年度には、研究会の開催と討議によってジェンダーに関する本格的な共同研究が進められた。平成14年度はこれをさらに推し進め、「現代社会における文化的性差を支える価値観と諸規範を根底から問い直す」という共通テーマに対する各人の研究成果を持ち寄って数回の研究会で意見交換を行い、共同討議を通じて研究の成果を統合することがめざされた。この研究計画にもとづき、3年間に合計9回の研究集会が開かれた。それぞれの報告者とテーマは以下のとおりである。第1回 曽根ひろみ「公娼制と梅毒」、桜井徹「『女としての自然』の収奪」。第2回 ブライディ・アンドリュース(ハーバード大学科学史・科学哲学科助教授)「アメリカにおけるジェンダー研究」。第3回 藤目ゆき(大阪外国語大学助教授)「公娼制度と日本軍慰安婦制度」。第4回 ロバート・フローデマン(コロラド鉱業大学教授)"Corrosive Effects : Environmental Ethics, Eco-feminism, and the Metaphysics of Acid-mine Drainage"。第5回 カリーム・ベナマル"Theory of Abundance and Scarcity"、土佐桂子「ミャンマーにおけるトランスヴェスタイト-男装者(ヤウチャシャー)のジェンダー論」。第6回 金野美奈子「性別職務分離研究再考-ジェンダー分析の方法論的リスク」。第7回 三浦伸夫「『レディーズ・ダイアリー』にみる18世紀英国の女性と数学」。第8回 光末紀子「B.パッペンハイムの思想と行動-ドイツにおける第一波フェミニズムの一動向」。第9回 曽根ひろみ「日本近世の法制とジェンダー」。いずれの研究集会においても、濃密な内容の報告をめぐって活発な討論が交わされ、本科研の共通テーマに関する研究分担者間の共通認識はいっそう深められた。その結果、新たな性差規範に基づく個々人のジェンダー・アイデンティティの確立と、あるべき「両性の共同性」への展望とを獲得するための基礎が築かれたと言えよう。さらに、各々の研究分担者における研究の進展の一部を紹介すれば、以下のごとくである。(1)光末は、19世紀末から20世紀初頭にわたるフェミニズム第一波の時代に、多くのフェミニストたちがジェンダーをめぐる様々な論争に参加したが、それらの論争を「母性」というキーワードのもとに検証した。(2)曽根は売買春についての歴史学、民俗学、社会学の研究史を批判的に検討し、それを一冊の単著にまとめた。(3)阪野は、ブレア政権の家族政策が、就労促進型給付の拡大や選別主義の強化といった点で保守党政権との連続性が強いことを明らかにした。(4)宗像は、フロイトのセクシュアリティ論を再検討し、男根中心主義とされるフロイト理論に伏在する、女性的セクシュアリティの始原性の契機を探求した。(5)土佐は、90年代のミャンマーの主要な雑誌に見られるジェンダー関係の記事を収集調査した。(6)上野はフランクフルト学派にみられる家父長制批判の論理とその逼塞を検討し、塚原はハーディングとハラウェイの観点観測論および強い客観性の概念を吟味した。
著者
楯岡 求美
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

19世紀末から第二次大戦までの時期のヨーロッパ文化はモダイズムとよばれ、20世紀パラダイムの確立期として近年文化研究での再評価が進んでいる。ロシア・アヴァンギャルドもそのような社会変革の機運を背景に「新しい社会の創造」と「新しい芸術表現の構築」を一体化させる運動であったことはすでに多くの研究によって明らかにされている。しかし、あまりにもその革新性・前衛性ばかりが強調されてきた。また、アヴァンギャルド運動を担った当時の芸術家のおかれた状況を美化しすぎたり、芸術家の発言を検証することなく、そのまま肯定してきてしまった面がある。近年、このような短所に注意を払い、ロシア帝政およびソ連時代の政治社会システムを包括的に分析し、その社会状況の中にアヴァンギャルド(もしくはロシア文化の変容といてもよい)を位置づけようとする動きが定着しつつある。それでもなおかつ、ロシア/ソ連を特異領域として強調してしまうエリアスタディーの領域にとどまっているのは演劇・文学研究の今後の課題を逆に明確にしていると思う。ソ連の政治・社会システムがロシア独特の歴史的要素を持っているとはいえ、あくまで19世紀に顕在化したヨーロッパ近代社会のグローヴァル化が、周縁であるがゆえに先鋭化したものであることは考慮されるべきである。本研究の過程でロシア・アヴァンギャルドを他のドイツ、イタリア、フランスなどの芸術活動とは別個に語ってきた従来の方法は、やはりロシアに対するヨーロッパ的なエキゾチズム=オリエンタリズムの視点だったことが明らかになってきた。1917年のロシア革命を、絶対的な断絶点とする考え方は見なくなってきたものの、あくまで国境によって区切られた空間を芸術表現の文化圏と一体化させる考え方が主流である。しかし、本研究の関心の中心的存在であるメイエルホリドも、ドイツ語を自由に解し当時の先端の演劇情報や戯曲をフランス・ドイツから取得し、ダイレクトに実践していたことは、レパートリーにメーテルリンクやクロムランク、ハウプトマンらが名を連ね、演劇論はニーチェ等に依拠していることからもわかる。また、人的交流としては、1910年にすでにディアギレフがロシア・バレエの斬新さでパリに衝撃を与え、シャガールはパリへと絵の修行に出かける。そのパリにはピカソなどがスペインから来ていたことを考えれば、ヨーロッパ大陸はひとつの大きな芸術領域であったことがわかる。アヴァンギャルド運動を考察する際、この時期が現在の演劇概念の基礎となる近代劇が確立した重要な時期であることも考慮すべきである。ヨーロッパ社会が近代化されるに連れ、思想も表現も大きな変化を遂げた。演劇でも、劇作家ではイプセン(ノルウェー)やチェーホフ(ロシア)等が、演出家ではスタニスラフスキー(ロシア)が日常生活を演劇のテーマとして取り上げ、市民社会への移行期にあって新しい観客を獲得した。このような規範の確立が、同時に近代への反発として新しい芸術手法の探求という欲求を生み、実験的なアヴァンギャルド演劇が展開される。これらも、従来はアンチ・リアリズムという固定的なカテゴリーの中にとどめられていたが、今後はリアリズムもまた「新しい社会の表現」であることに留意し、逆にアヴァンギャルドもまた近代批判でありながら、結局は進歩主義的、科学主義的パラダイムという近代の枠組みの中にとどまらざるを得なかったことを両方の手法の展開を統合するような総合的な分析によって明らかにすべきだと思う。
著者
住野 公昭 江原 一雅 山下 長司郎 石井 昇 正井 栄一
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

通信設備など災害時に使用する設備は、災害直後に素早く稼動するものほど価値が高い。被災者は災害直後から2〜3日の間が一番困難な状況にある。阪神淡路大震災被災直後に医療機関は様々な情報を必要とした。他の医療機関/個人/災害対策本部/などに連絡をし、それらから情報を得、あるいは情報を提供したりするには、電話連絡よりも、メールやInternetのホームページのような形式の通信システムが優れている。その理由は、通信時間が短くて済む事、相手がいなくても情報を得る事が可能であるからである。そのような用途に使え、さらに、1)被災後すぐに使用でき、2)個人でも所有できる程度に安価で、3)電池で稼動し、4)可搬性が優れていて、5)画像も含めたメールが扱え、6)携帯電話/衛星電話/でも使用できるシステムを作成した。Internetと比較すると以下の点で、本システムの方が優れている。1)メール送受のリアルタイム性、2)メール受け取り確認の必要性、3)災害時のネットワーク資源の効率的利用、4)セキュリティが高い。例えば、Internet mailでは、メールがメールサーバに受信された時刻とメールが実腺に読まれる時刻の間には時間的ずれが生ずる。本システム(kU-Net)ではメールは直接相手のコンピュータに届くので、受信者はメールが届いたことを即座に知ることが可能であり、メール受信時刻とメールが読まれる時刻との間に遅れが生じにくい。セキュリティに関して、本システムでは、ネットワーク媒体に電話回線だけを使用するので、運ばれるデータがInternetのように多くのコンピュータを経由することがないので、覗き見される危険が少ない。ユーザーが勝手に電話番号の変更をできないので、送信者の確認がとりやすい。などの利点があり、災害時の通信システムとして適している。
著者
山本 道雄 森 匡史 嘉指 信雄 松田 毅 喜多 伸一 鈴木 泉 山本 道雄
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

本研究では認識における超越論的立場と自然主義的立場との対立を、概念史的・問題史的方怯によって研究した。とりあげた哲学者は主として、スピノザ、カント、フッサール、ジェイムズ、ドゥルーズである。スピノザについては、自然主義的と解釈される彼の哲学における超越論的契機が、「原因」概念を中心に考察されている。カントについてはその超越論哲学の可能性が予定調和説という形而上学原理に依っていて、この形而上学的原理を避けるには自然主義的還元か、あるいは演繹論の意味論的転回をとる他ないことが論じられている。フッサールについては、最近の志向性概念の自然主義化の試みに対して、その「還元主義の誤謬」がD.W.スミスの議論を手がかりに批判的に論究され、志向性を自然主義的還元から守るために、それが因果的依存性と区別されるという主張に着目されている。ジェイムズに関しては、「非超越論的現象学」としてのジェイムズ根本的経験論とフッサール現象学との類似性および差異性を明らかにすることによって、「非超越論的」哲学の一つの可能性が、最近の研究成果をふまえながら探求されている。ドゥルーズについては現代フランス哲学における超越論的原理の考察という目的の下に、ドゥルーズにおける超越論的経験論の解明が試みられている。さらにこれらの研究に加え、実験科学である心理学の分野から、人間の記憶の再生と再認を比較に関する研究成果が寄与されている。この比較のために新しい方法が考案され、この方法によって、再認成績の方が再生成績よりもすぐれているという結果が判明した。この結果から、検索空間が同一であっても,検索の手がかりの差さえあれば,再認の方が再生よりも好成績となること知見が獲得された。
著者
滝口 哲也
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

従来の音声認識システムでは,背景雑音や残響の影響を抑圧するために,ユーザはマイクロフォンの前で(マイクスイッチを押してから),音声入力を行なう必要がある.そのような音声認識装置では,音声を使うメリットの一つである"ハンズフリー"なインターフェースを提供しているとは言えない.本研究課題では,マイクスイッチレスな音声認識の実現を目指し,雑音に頑健な音声特徴量抽出法,雑音除去手法,音源方向推定の研究を行い,その有効性を示した.
著者
奥野 達也
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2008

病態時における細胞においては、疾患関連タンパク質の分泌およびプロテアーゼなどの分解により、さまざまに代謝・分解された代謝産物が生成される。このような疾患特異的な低分子量代謝産物を網羅的、包括的に解析した研究は、さまざまな問題から十分に成果を達成していない。申請者は、消化器がんに発現、生成が認められる低分子代謝産物を中心に網羅的に解析してがんバイオマーカーを同定し、将来の臨床応用をめざす。
著者
小野 玲
出版者
神戸大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究の目的は、食道癌の診断による食道切除再建術施行患者について、術前より行動変容技法を用いた術前運動指導プログラムを実施することが術後呼吸器合併症予防につながるかを検討することである。対象は、当院食道胃腸外科にて食道癌と診断され、食道切除再建術を施行した患者100 名(男性87 名、女性13 名、平均年齢66.5±8.6 歳)であった。これらを、7 日以上運動プログラムを実施できた群(実施群)63 名(男性44 名、女性9 名、平均年齢67.0±9.3 歳)と実施できなかったまたは7 日未満しか実施できなかった群(非実施群)31 名(男性28 名、女性3 名、平均年齢64.6±7.9 歳)の2 群に分け、術後呼吸器合併症の発症率を比較検討した。主要アウトカムは術後呼吸器合併症の発症率とした。2 群間の比較にはχ2 検定とロジスティック回帰分析を使用し、交絡要因で調整を行った。術後呼吸器合併症は実施群で4 名(6.4%)、非実施群で9 名(24.3%)と実施群において有意に術後呼吸器合併症が低下(p = 0.01)しており、その関係は交絡要因で調整を行っても同じであった(オッズ比; 0.14)。食道切除再建術施行患者において、術前からの積極的な呼吸リハ介入により術後呼吸器合併症が予防できることが示唆された。