著者
鈴木 幹雄 堀 典子 長谷川 哲哉
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本科学研究費補助金研究では、事例カッセル・ドクメンタを手掛りに、芸術学校バウハウス第二世代が第二次世界大戦後ドイツにおける文化的・芸術的な文化創出システム《ドクメンタ》にどのような貢献を行ったかについて研究した。その為に、まず第一に、バウハウスを改革史的な文脈に生まれた学校と位置付け、戦後ドイツの教育界、芸術学校の世界の中でバウハウス第二世代がどのように活躍したかを明らかにした(対象:ハンブルク芸術大学、ベルリン芸術大学、デュッセルドルフ芸術大学)。当該研究の研究経過は次の通りであった。課題設定・分析・調査(平成14-15年度):(1)カッセル・ドクメンタの展開とA・ボーデの構想、(2)戦後ドイツにおけるバウハウス第二世代の教育思想と造形芸術観の形成過程・展開過程について(モティーフ:ハンブルク芸術大学長ハッセンプフルークの教育理念、同芸術大学「自由芸術」コース招待講師講義(1953-55年))、(3)デュッセルドルフ芸術大学の戦後改革とその学長代行E・マタレの芸術学校改革について、(4)ベルリン芸術大学の戦後改革について(モティーフ:同芸術大学教授G・フィーツの教育実践)。当該研究の成果(平成14-16年度):ドクメンタ参加芸術家と戦後の芸術運動団体Zen 49グループの活動を糸口に、ハンブルク芸術大学、カッセル芸術大学、デュッセルドルフ芸術大学、ベルリン芸術大学へ在職していた「バウハウス第二世代」教授達が、カッセル《ドクメンタ》の発展に重要な貢献を行ったことを解明した。
著者
木下 孝司
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究の概要は以下の通りである。1.理論的考察:幼児期における「心の理論」と時間的に拡がりをもつ自己の発達的関連について,時間的視点という観点から概観し,「いま・ここ」にない"不在のもの"に対する態度を測定する方法として遅延自己映像認知課題を提案した。また,過去と現在の時間的関係を理解し,時間的視点から自他理解を深める上で,過去をめぐる対話が重要な役割を果たしていることを,聴覚障害児の「心の理論」に関する研究から示した。2.実験1:3〜5歳の聴覚障害幼児と母親を対象に,絵日記を手がかりにして,過去の出来事を共同想起してもらった。その結果,(1)絵日記を用いることで,過去をめぐる対話がより持続すること,(2)子どもから母親を注視する頻度と,母親が過去の出来事に言及する頻度に相関があることが明らかになった。3.実験2:11組の健聴児(2,3歳)とその母親,5組の聴覚障害児(2,3歳)と母親が,写真を見ながら,過去の出来事について対話をするプロセスを分析した。その結果,次のようなことが明らかになった。(1)聴覚障害児が過去の出来事や心的状態に言及する頻度には個人差が大きく,子どもの言語スキルと母親の発話スタイルからの影響が大きい.(2)母親が聴覚障害者であるペアにおいては,手話を有効に用いて,過去や心的状態に関する話題が多かった.(3)母親の発話スタイルは子どもの言語発達に応じて,「新情報聴取型」,「情報共有(提供)型」,「相互構成型」に分類できた。4.結論:「いま・ここ」にない"不在のもの"である過去の出来事に関する対話には,2,3歳児が他者との視点の相違に気づく契機が多数含まれており,相互の心の理解を進めていく上で重要である。音声言語ならびに手話はそうした対話を成立させるものであり,心の理解や自己発達において不可欠な役割を果たしていると考えられる。
著者
神吉 博 安達 和彦 川西 通裕
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

スペースシャトルやH II-Aロケットエンジンをはじめ超高圧蒸気タービン等軸流タービンの不安定振動問題や、石油、天然ガスの効率的な取出しに不可欠な超高圧リインジェクションコンプレッサー等の不安定振動問題の解決は、我が国の情報産業やエネルギー問題の解決に必要不可欠な課題である。そしてこの種の技術の高さが世界における日本の立場を支配する重要なポイントとなっている。本研究では軸流タービンに起こる不安定振動と遠心コンプレッサーで発生する不安定振動を統一的に見直し、現象解明を行うとともに、それぞれに適した防止対策を考慮し、これを理論的、実験的に検証することを目的とする。昨年までの研究で軸流タービンの不安定振動の解明と対策案の検証を完了し、新しく遠心圧縮機の不安定振動解明のための、独特の実験装置の開発を完了した。今年度はこの実験装置による実験を実施した。回転数と流量をパラメータにして新しい実験装置を運転し、各条件で運転中加振テストを実施し、不安定振動発生の傾向を調査した。現在の運転条件では、不安定振動は発生していないが、回転数上昇に伴い、減衰比の低下が見られた。さらに回転数を上げることにより、不安定振動を発生することができると考えられる。またベースとなっている減衰の要因の1つである。上部軸受部をよりスムーズに動かせて、振動再現性を良くする対策として、深溝玉軸受を自動調心軸受に改良した。今後さらに実験を続け、現象解明を推進する予定である。
著者
藤木 篤
出版者
神戸大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本年度は、技術者倫理の成立した背景とわが国でのこれまでの歩みに焦点をあてながら、昨年度に引き続き専門家としての技術者の責任に関する研究を行った。主要な業績は以下の二点である。1.「工学倫理の教科書の変遷」では、日米それぞれの主要教科書の内容を検討し、その傾向について分析を加えた。技術者倫理の教科書を網羅的に扱った先行研究としては、石原の論考(2003)が挙げられるが、以降の趨勢の変化を反映したものとしては本研究が現時点で唯一のものであり、その点において一定の意義が認められる。アメリカの教科書は従来より技術者倫理におけるプロフェッショナリズムの重要性を強調しており、近年に至ってますますその論調を強めている。本稿では、こうした論調の変化をどのように受け止めるかが、わが国の技術者倫理の今後を考える上で非常に重要な鍵となる、という点を指摘した。2.『21世紀倫理創成研究』に掲載された「工学倫理の国際普及における外的要因:技術者資格と技術者教育認定制度の国際化」では、アメリカで興った工学倫理が、わが国を含め世界中でなぜこれほどまでに急速に広まったかという理由について技術者資格と技術者教育認定制度の国際化という観点から詳述した。これらの研究活動の他に、優秀若手研究者海外派遣事業により、平成22年6月から翌23年3月まで、派遣先機関であるコロラド鉱山大学にて資料の収集を行った。具体的には、同大学附属のアーサーレイク図書館に所蔵されている、鉱業関連企業の会社報告書コレクションの内、アスベスト取扱企業に関する資料を収集した。また同館が所蔵する、アスベスト使用・規制の歴史に関する資料も併せて複写した。
著者
宮下 規久朗
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、1600年前後に初期キリスト教文化がいかに再評価されたかをあきらかにし、それが聖堂装飾をはじめとする当時のローマの美術活動に主題上・様式上いかに反映されたか、そしてそれが聖年における教皇庁や宗教団体の教義や政策、プロパガンダとどう関係したかを考察し、主要な画家の動向を追いながら、新たなバロック美術の誕生を促したメカニズムを総合的に解明しようとするものである。こうした調査によって、後期マニエリスムから初期バロックにいたる、イタリア美術史上もっともダイナミックな転換点の美術に、従来と異なる角度から光を当てることができ、また筆者が継続して行ってきたカラヴァッジョ研究にも、裏付けと深みを与えることができた。平成14年度は主として教皇庁における反宗教改革期の美術政策について研究を行った。反宗教改革期には、教皇庁の美術が当時の公的な美術様式と認定され、各教団の美術政策や個人の美術嗜好に強く影響していたからである。具体的には、16世紀から17世紀にかけての教皇権が、当時の欧米の歴史情勢の中でどのような政治的・社会的位置をしめていたのか、またそれが公的な聖庁であるヴァチカン宮殿と一族の居城であるパラッツォの美術装飾にどのように反映しているかについて調査した。平成15年度は、反宗教改革の国際的広がりという視点から、イタリア以外に普及した反宗教改革期の美術様式に注目した。また、わが国の禁教下から今日にいたるまでのいわゆる「隠れキリシタン」の美術については、その聖像(イコン)が存在するにもかかわらず、美術史上の研究対象となったことはほとんどなかった。しかし、キリスト教主題を持つ原図が閉ざされた社会でいかに変容し、異種の図像にいたるかというきわめて興味深い問題を提示しており、長崎県生月島で今も信仰されている聖画(納戸神・御前様)について若干の調査研究を行い、小論文を執筆した。平成16年度は著書『カラヴァッジョ 聖性とヴィジョン』をまとめるため、今までに書いた諸論文を点検して書き直す作業に従事した。とくに第二章「1600年前後のローマ画壇とカラヴァッジョ」は、かつて書いた論文をほぼ全画的に書き直し、大幅に加筆してほとんど新しい論文にしてしまった。このように、1600年前後の混沌とした美術の状況と、反宗教改革とキリスト教考古学の流行に鼓舞されて起こった新たな潮流を、カラヴァッジョの革新という座標軸を設定することであきらかにすることができた。
著者
中川 丈久
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

最初の2年間(平成15年度及び16年度)の研究調査の成果は,次のとおりである。第1に,行政法の伝統的な教育が,主として行政官(すなわち国の行政職員)を念頭に,国法体系及びその執行を教授するものであったこと,またそれを克服しようとして提唱された新しい行政法教育が,主として地方行政職員の視点にたつものであったことを踏まえて,法科大学院においては,こうした行政機関の視線ではなく,法曹の視線から行政法教育を行う必要性があるという観点から従来の行政法教育を組み替えるための基礎的研究を行った。第2に,行政訴訟と民事訴訟の通約可能性,憲法論と行政法理論との共通言語化作業、民刑事実体法と行政法(個別法の仕組み)の間の共通言語化作業を行って異なる領域をシームレスに考察するための理論的環境整備である。最終年である平成17年度においては,これらの理論的成果を法科大学院における教育に応用するべく,教材として成果を結実させた。すなわち,法科大学院・における公法系の「実務と理論の融合」のための教育教材案を作成し,授業で試用した。その教材は,政上の紛争が実際に生起し,解決されるプロセスに即して,教材を組み立てて授業を行うというものである。この教材においては,とりわけ,紛争の発端における原告側及び被告側の弁護士の役割及び裁判所の役割という視点を明確に分けて,それぞれの立場において,憲法や民事訴訟とあわせて,行政法・行政訴訟の理論がどのように実務家にとって有効であるのかを示したものである。同時に,実務への導入教育ともなっている。平成18年度においては,この試用経験をもとに,さらに教材案を改定した。
著者
田中 克己
出版者
神戸大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

数学あるいは科学に価値を感じ、興味を持つ生徒に育てたい。それが、科学的思考ができ、社会の不合理や不条理に気づき、社会を良くしていく力を有する社会人を育てることにつながると考え、数学が生活や社会で生きることを実感できる教材を開発しようとした。また、そこに生きている人の知恵のすばらしさ、ひいては人間の素晴らしさに気づかせられるのではないかと考えた。そこで、前回の研究を通して知った天文航法を中学生向けの学習単元として開発することを目指した。まず、天文航法の基本となる、北極星や太陽を観測することによって船の現在地を知る方法について書籍等で調べた。また、地球の公転や自転、太陽や北極星との関係などの空間における図形の〓きや位置関係、さらに球面座標としての緯度・経度との関係に関する考察と理解が必要であるため、関連する社会科や理科の教師と情報交換を行い、何を学び何を学んでいないかを調査して、単元構成を考え、2,3年生を対象とする講座制の選択学習としで実践した。他教科との情報交換では、緯度・経度については第1学年に社会科で学習するが、緯度は角度を表すものとしての学習はあまりなされていない。地球の公転と太陽の南中高度の関係は、第3学年に理科で学習する。しかし、ある緯度の地点での夏至、冬至における太陽の南中高度を求めること程度で、1年を通しての緯度と太陽の南中高度や赤緯との関係、特に、太陽の南中高度から緯度を求める考え方は学習しないことがわかった。これらを踏まえて単元を開発し、天文航法の基本は中学3年生での学習が適切であることがわかった。さらに、海事科学部の教員との連携によって、生徒たちは航海士が実際に使用する六分儀を使用して太陽の南中高度を測定することも体験でき、数学が実際に役立っていること及び人間の知恵の素晴らしさを感じられることがわかった。
著者
藤井 勝 佐々木 衞 首藤 明和 小林 和美 魯 ゼウォン 奥井 亜紗子 高井 康弘 福田 恵 竹内 隆夫 橋本 泰子 樫永 真佐夫 長坂 格 日下 渉 黒柳 晴夫 北原 淳 橋本 卓 油井 清光 白鳥 義彦
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、東アジアの地方社会を「地方的世界」という観点から、地方社会の形成の論理、現代的な変化の特質、そして今後の発展の可能性や課題を明らかにした。東アジアの地方社会では村落と都市(町)は対立しているのではなく、歴史的文化的伝統の上に成り立つ両者の有機的な関係が形成されてきた。そして、それに立脚して「地方的世界」が存在してきた。したがって村落はもとより、地方都市(町)、そして両者の関係の繁栄や再生こそ、地方社会、延いては東アジア自身の豊かな発展に不可欠であることを明らかにした。
著者
江口 浩二 高須 淳弘 大川 剛直
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本課題では、内部構造や外部構造を持つテキストデータとネットワークデータに対して確率的に表現された潜在構造を推定する技術を開発する。ここでいう内部構造とは、たとえば、テキストデータにおいてトークン(単語)が属性で特徴づけられたものを指し、ネットワークデータにおいては各頂点または辺が属性で特徴づけられたものを指す。また、外部構造とは、たとえば、所与のネットワーク構造における各頂点にテキストデータ群が関連付けられた状況を指す。このような複雑な構造をもつ大規模なデータから低次元の潜在構造を推定することで、様々な実問題に利用可能な「知識」を抽出する。情報の検索、推薦、予測と、時系列解析などに応用する。
著者
増本 浩子
出版者
神戸大学
雑誌
DA (ISSN:09176896)
巻号頁・発行日
no.7, pp.31-39, 2010
著者
早川 和男 山崎 寿一
出版者
神戸大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2009

本研究では、激甚災害の被害を受けた中山間地域の被災集落を対象に、被災後の高齢者の居住継続と転居、被災者の転出と帰還に焦点をあて、「居住福祉」実現のための条件について、石川県輪島市門前地区におけるフィールド調査を行った。また国際居住福祉会議においてこれまでの成果を論文にまとめ、研究発表を行った。具体的に、(1)居住福祉資源調査、集落コミュニティ・環境調査(被災前後の比較)、(2)震災復興における住宅や神社、農地、山林、公民館、集会所、公共施設の果たす役割、(3)被災後の居住動向、家族構造の把握、(4)高齢者居住調査(居住継続と転居の実態)、(5)被災者居住調査(転出と帰還状況の把握)の5項目について検討し、以下の諸点を明らかにした。1)高齢者の居住とコミュニティの持続を支えている居住福祉資源の存在と役割、2)災害を契機とする人口流出が起きなかった原因と被災者が帰還または地域に止まれた要因3)震災を契機に地域外に転出した人々の居住地選定理由、4)母村の住宅・土地財産の管理・活用の実態、母村コミュニティとの関係さらにこれまでの研究成果を再分析し、『日本の居住貧困』(藤原書店)を出版した。
著者
角松 生史
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では、「情報処理システムとしての行政」という観点からの都市法の現代的展開に関する分析を目指し、都市空間についての意味/情報の産出/処理過程の行政法的位置づけに重点を置いた。(1)「生成途上の規範意識」:論文「景観保護と司法判断」(矢作弘/小泉秀樹編『成長主義を超えて』所収)において、(i)「審美的判断の主観性」(ii)地域空間の意味の「物語性」などについて論じた。(2)「開かれた社会における財産権」:論文「建築紛争と土地利用規制の制度設計」では、地域空間形成に関する調整・分配ルール」を「権利配分」の動態的具体化過程と捉え、段階モデルによる考察を試みた。論文「まちづくり・環境訴訟における空間の位置づけ」では、「土地所有権=財貨秩序」と「人格秩序」の協働を捉える視点を強調した。財産権のイノベーション的役割を指摘するカール・ハインツ・ラデーア論文を翻訳公表した。(3)「都市空間管理の制度設計」:論文「景観保護と司法判断」および論文「建築紛争と土地利用規制の制度設計」において、利害関係者の情報構造の観点から現行土地利用規制制度を分析した。コース論文の読み直しの上に立って、「事前確定型規制」の過度の重視を批判し、「まちづくりアセスメント」「協議型まちづくり」の重要性を主張した。論文「条例制定の法的課題と政策法務」では、「規範抵触論」的思考枠組を前提として法律と条例の関係を再検討し、自治体の認知的・試行的先導性を活かした創造的まちづくりのための制度設計にも触れた。論文「まちづくり・環境訴訟における空間の位置づけ」「都市計画の司法統制」判例評釈「騒音問題と都市計画事業の適法性-小田急訴訟上告審本案判決」において、都市空間に関わる行政争訟の制度設計を検討した。(4)「都市空間における『公共性』」:このサブ・テーマを直接に論じた公表業績はなかったが、現在住民参加に関する論文を執筆中であり、研究を継続する(論文"Recent Development of Decentralization, Deregulation and Citizens' Participation in Japanese City Planning Law"において既に簡単に触れた)。
著者
浦長瀬 隆
出版者
神戸大学
雑誌
國民經濟雜誌 (ISSN:03873129)
巻号頁・発行日
vol.190, no.3, pp.19-30, 2004-09
著者
松尾 博哉 丸尾 猛 佐本 崇
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

3種類の絨毛細胞、細胞性栄養膜細胞(cytotrophoblast:C細胞)、合胞体栄養膜細胞(syncytiotrophoblast:S細胞)ならびに絨毛外栄養膜細胞(extravillous trophoblast:EVT)に関して以下の研究成果を得た。1.Bcl-2蛋白はS細胞の機能分化を誘導すると共に、分化したS細胞のアポトーシス抑制を介して妊娠維持に関わると推察され、Bcl-2蛋白発現の障害とPIHの関連が示唆された。2.妊娠時の多価不飽和脂肪酸の上昇はPPARを介して絨毛細胞の増殖能を抑制し、分化機能を誘導することが推察された。また、PPARとRXRとの間にinteractionの存在が示唆された。PIH胎盤では多価不飽和脂肪酸による絨毛細胞の分化誘導が障害され、その結果VLDL-R発現が低下し、これが胎児発育の障害につながる可能性が示唆された。3.部分胞状奇胎、胞状奇胎、絨毛癌の順に増殖能は高く、アポトーシスは抑制されるが、腫瘍性絨毛細胞でのアポトーシス抑制にはBcl-2蛋白は関与しないことが示唆された。4.EVTのアポトーシス発現はFas/Fas-Lとbcl-2 familyにより調節され、脱落膜浅部に比して深部のEVTでアポトーシス発現は高いが、脱落膜深部でtrophoblastic cleftを形成するEVTはBcl-2蛋白発現が著しく強く、例外的にアポトーシスから回避されていることを認めた。PIH胎盤では細胞接着関連因子の発現が抑制され、EVTのアポトーシス発現が高まり、EVTの脱落膜侵入が損なわれる可能性が示唆された。また、甲状腺ホルモンはEVTのアポトーシス抑制とVEGF発現促進を介して妊娠初期の胎盤形成に重要な役割を担うことが推察された。
著者
五百旗頭 真 久米 郁男 細谷 正宏 増田 弘 五十嵐 武士 天川 晃
出版者
神戸大学
雑誌
総合研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究の目的は、占領期日本に関する資料状況・研究状況を全般的に検討し、それにもとづいて、政治・外交をはじめ、経済・社会・文化の諸領域にまたがる占領期日本の変動を総合的に研究するための組織を企画し準備することにあった。その目的は十分に達成されたと考える。たび重なる研究・打合せ会議を、神戸・東京などで行い、活発な意見交換を通して、平成3年度の重点領域研究を申請することを決定し、11の班と70名余の研究者によって構成される研究グル-プを作りあげることができた。諸分野の専門家から成る学際的研究である点は当初の予定通りであるが、研究テ-マと問題関心については、討議を通して大きな拡がりを持つに至った。すなわち、研究対象をたんに「占領期日本」に局限するのではなく、占領期を中心に高度成長が構造化するまでの「戦後日本の形成」を総合的に検討し、戦後日本の全体像を提示することを目的とすることになった。現在の日本が「戦後日本」をあとに、歴史の新しい局面に進もうとしていることは、「戦後日本とは何か」に答えることを急務としているのみならず、資料状況・研究状況も本格的な研究を可能にしていると判断されるからである。国際的に理解可能な総合的研究とするため、多様な分析視角を導入することとした。戦後日本の国際的要因と国内的要因、戦後社会の国際比較、戦前・戦後の連続と非連続、戦後の外交・政治・社会文化の継承と変容などを主要な共通的問題関心とし、占領改革、1950年代の戦後体制の形成を通しての高度成長への帰結を、各レベル・各分野で分析しつつ、全体像の解明を試みる。以上のような重点領域研究「戦後日本の形成の総合的研究」(代表者・渡辺昭夫東京大学教授)を申請するという目的を達成したことを御報告申しあげたい。終りに、この企画につき相談に乗っていただいた故砂子田忠孝氏の御冥福を祈りたい。
著者
山本 博昭 山本 昇
出版者
神戸大学
雑誌
神戸大学農学部研究報告 (ISSN:04522370)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.467-475, 1985-01-31

本報では, 国内果樹園の地理条件, 栽植密度にできるだけ合致しうる小型で自走式の果実振動収穫機と捕果専用機を設計・試作し, それらの基本的な作動特性を明らかにした。1) 試作したリム・シェーカは, クローラ型走行部, スライダ・クランク機構を利用した振動発生部, 枝をつかむブームとクランプ部, クランプを任意の位置へ移行させる位置決め機構部及びエンジンと動力伝達部から構成され, 走行部以外はすべて油圧駆動とした。したがって, 振動数, 振幅も適宜変更することができ, 枝をにぎるきよう握力も調節が可能である。2) 本機は定格8馬力のエンジンを塔載したが, クランプシリンダ等のアクチュエータ作動に約3馬力の動力が消費され, 枝を加振するのに使用可能な限界動力は5馬力程度となる。また振動する枝の正味仕事量を求め, 油圧駆動系加振部の動力伝達効率を計算すると, その値は40%以下となった。したがって, ゆすられる枝の振動負荷が約2馬力を越すとエンジンの動力不足が生じ, 本試作機の加振可能な限界振動数は, 設定振幅20mmで約17Hz, 28mmで15Hz, 43mmで14Hzとなった。より高い加振振動数, 振幅を確保するためには, さらに高馬力のエンジンを塔載する必要がある。3) 試作したキャッチングフレームは, クローラ型走行台車の上に装着された円形捕果面を有し, 油圧揺動モータの作動により瞬時の開閉が可能となる。捕果面は, 中心から円周方向に18°の登り匂配を持ち, その面積は約7m^2と12.5m^2の2通りに変えることができる。4) 捕果面上の各点に加速度計を埋設した木球を落下させ, 衝突時の最大衝撃加速度, 反発率等を測定した。落下高さ1.2mの場合を例にとると, 捕果面上での最大加速度は10∿40gの範囲に分布し, 全般には捕果面を支持するアーム上に近づくほどその値は大きくなるが, 直接地面に落下させた値(硬い地表面で150g, 柔かい地表面で約100g)に対比すると高い緩衝効果が認められた。
著者
中村 覚 吉川 元 伊勢崎 賢治 高橋 和夫 中西 久枝 澤江 史子 栗栖 薫子 森 伸生 北澤 義之 立山 良司 坂井 一成 泉 淳 小林 正英 細井 長 齊藤 嘉臣 末近 浩太 土佐 弘之 木村 修三 小塚 郁也 福田 安志
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

本プロジェクトは、国際関係論、安全保障論、中東地域研究の専門家による協働研究を通じて、日本における中東の安全保障問題に関する本格的な研究の基盤づくりを目的とした。また、中東における武力紛争の傾向や特質に関して論ずるのみではなく、短期的な紛争解決と、中長期的な予防レジームの構築に関する課題と可能性に関して考察した。その際に特に、日本への政策的示唆を生み出す視点を重視した。また当該の研究課題の遂行のために必要とされる国外の研究者とのネットワーク作りと同時に、国外への研究成果の発信で成果を上げた。
著者
吉田 典子
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

本研究は19世紀後半のフランスの自然主義小説、とりわけエミール・ゾラの作品の分析を通じて、近代の資本主義社会の形成と、そこにおける階級やジェンダーの問題を検討するものである。『ルーゴン=マッカール叢書』第8巻の『愛の一ページ』は、その前後に位置する『居酒屋』および『ナナ』と一種の3部作を構成する。『居酒屋』は性的規範の曖昧な労働者階級の世界を描くのに対し、『愛の一ページ』は家庭に閉じこめられた貞淑なブルジョワ階級の女性を描く。そして『ナナ』では、階級とジェが交錯し、金銭に基づく性的交換がおこなわれるモダニティの空間(グリゼルダ・ポロック)が舞台となる。ゾラはこれら3つの領域をパリの都市空間の中に位置づけるとともに、それぞれの領域における女性のセクシュアリティの様相と、遺伝に基づく精神疾患の様々な発現を探求している。一方『ボヌール・デ・ダム百貨店』はモダニティの最前線というべきデパートを舞台にした小説である。ここでも階級要素は混交し、客であるブルジョワ女性と女店員として働く労働者階級の対立があるが、ゾラによれば日々贅沢に接している女店員は、労働者とブルジョワの中間に位置する曖昧な階級を形成する。彼女たちの多くは低賃金であったため、愛人を持たざるを得なかったり、売春をおこなうものもいたが、それに拍車をかけたのは、陳列される商品と売り子の関係の曖昧性である。交換価値が使用価値に取って代わる消費社会においては、あらゆるものが商品となる。そうした状況下で、誘惑に抵抗し、忍耐強く賢明な「女性性」によって経営者のムーレを征服するヒロインのドゥニーズは、資本主義社会における理想の女性像として提示されており、そこにある種の人間味と倫理性を付与する役割を果たしていると思われる。本研究の特色は、これらゾラの小説におけるさまざまな女性のモチーフを、同時代の印象派画家たち-マネ、モネ、ルノワール、ベルト・モリゾなど-との共通性において提示したことである。
著者
木村 修三
出版者
神戸大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

1.平成4年度においてはとくに、冷戦の終結とソ連の解体及び湾岸戦争が中東紛争の構造に及ぼしたインパクトの分析に重点を置いた。とりわけ冷戦の終結とソ連の解体に関しては、(1)従来、対ソ戦略上の観点からイスラエルの戦略的価値に重きを置いていた米国の中東政策の転換と米イスラエル関係の変化、(2)従来、旧ソ連から政治的・軍事的支援を受けていたアラブ対決諸国及びPLOに及ぼした影響、(3)旧ソ連からの大量のユダヤ人移住者の流入がイスラエル社会に及ぼした影響、(4)それに伴う入植地建設の増大が西岸・ガザ地区のパレスチナ人社会に与えた影響などをイスラエル、米国、アラブ諸国及びパレスチナの文献によって把握に努めた。2.また湾岸戦争に関しては、(1)イラクからのスカッド・ミサイルの攻撃にさらされたイスラエル政府及び市民の安全保障観の変化、(2)イラクのサダム政権に支持を寄せた西岸・ガザ住民の挫折感とそれがインティファーダに及ぼした影響、(3)いわゆるリンケージ論がパレスチナ問題に与えた国際的影響、(4)湾岸産油諸国、とくにクウェートのパレスチナ問題に対する支持の低下及びパレスチナ人追放がインティファーダに与えた影響などの把握に努めた。3.さらに湾岸戦争後に開始された中東和平国際会議は、いわゆる占領地住民の自治による解決策を浮上させることになったが、(1)これがイスラエル社会に与えた影響、とくにリクード政権から労働党政権への交代の背景、(2)それが西岸・ガザ住民に与えた期待と幻滅感、(3)自治に期待を寄せるPLO支持勢力と占領地イスラム過激派勢力との分裂、(4)イスラム勢力ハマースの過激なテロ行為によるインティファーダの変質、(5)それに対するイスラエル政府の過剰な反応が中東和平交渉に及ぼしつつある影響などの分析に努めた。
著者
城戸崎 和佐 仲 隆介 松本 裕司
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

外部と内部の明快な境界を持たず環境として連続する概念としてのに着目して、オフィスデザインに外部環境を直接的・概念的に取り入れるための基礎的な調査と実践を行い、オフィスデザイン上の要点とその効果を明らかにした。