著者
川間,健之介
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究
巻号頁・発行日
vol.33, 2009-03-25

算数文章題の理解に困難を持つ小学校4年生男児に、文章題の解決過程のうち統合過程の問題に対応するために具体物操作を行うなどの表象化指導を行なった。文章題は、特性に応じて加法6類型、減法12類型に分け、その問題類型に基づいて学習の経過を検討した。指導の終盤では具体物操作を行わなくても、文章題を解決できるようになった。しかし、学習の経過を見てみると、未知数が変化分や初期量である逆型の問題では、部分-全体スキーマの使用が困難なことから、具体物操作を行わなければ問題の理解が困難であった。量の差の比較型の問題は、指導の初期では具体物操作を行っても、問題構造の理解が困難であった。差分が未知数である問題では、1対1対応スキーマを用いていた。比較対象量や基準量が未知数の問題では、1対1対応スキーマが使用できず、さらに本児が用語から推測する演算と必要な演算が異なる問題では、習得に長期の時間を要した。
著者
園山 繁樹
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.195-208, 2017

<p>選択性緘黙を示した小学校1 年生男児について、担任教師、特別支援教育コーディネーターおよび母親に対して大学教育相談室においてコンサルテーションを実施し、 1 年9 か月後に選択性緘黙の症状が顕著に改善した経過を報告した。原則として月に 1 回、教育相談室で合同コンサルテーションを実施した。緘黙症状を改善するために刺激フェイディング法やエクスポージャー法を基盤にしたスモールステップを作成した。各スモールステップで、担任教師とコーディネーターは教室で実施可能な方法を検討・実施し、母親はそれらについて対象児の考えを確認したり、一部を家庭で練習した。その結果、3 年生の6 月には授業で通常の形での発表や、休憩時間での他児との会話も問題がないレベルとなり、終結した。5 年2 か月後のフォローアップにおいても、発話や学校生活について特別な問題は生じていなかったことが確認された。</p>
著者
佐々木 銀河 青木 真純 五味 洋一 野呂 文行
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.221-230, 2017-03-31 (Released:2017-10-06)
参考文献数
12

本研究では、自閉スペクトラム症のある大学生1 名に対して行動契約法を導入し、学生による自主学習が促進されるかを検討した。初回来談時のアセスメントの結果をもとに支援計画を立案した。まず、自主学習時において取り組む問題数を設定する目標設定を行った。その後、目標を書面化し、対応する強化子の提供等を明記した行動契約法を導入した。行動契約法の後で、再び目標設定のみによる自主学習の促進効果を評価した。その結果、目標設定のみでは自主学習は促進せず、行動契約法によって自主学習が促進されることが示された。この結果について、行動契約法で設定される強化子の設定・管理および障害学生支援としての意義について検討した。
著者
青木 康彦 野呂 文行
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.25-32, 2019-03-31 (Released:2019-10-01)
参考文献数
18

本研究では、自己刺激行動が多くみられ、食べ物、玩具を強化子とした随伴ペアリングによって、称賛の条件性強化子が成立しなかった自閉スペクトラム症児に対して、自己刺激性強化子を産出する玩具を強化子とした称賛の条件づけを実施し、その効果を検討することを目的とした。指導では、標的行動が生起した際に、日常生活で聞いた経験の少ない称賛コメントと自己刺激性強化子を産出する玩具を同時に与えた。その結果、自己刺激性強化子を産出する玩具を強化子とした随伴ペアリング後において、12ブロックの間、称賛は強化子として拍手の生起頻度を高めた。また、随伴ペアリングを行なっていない他の行動についても、ベースライン期よりもペアリングⅡ期後の称賛期で生起頻度が高いという結果が得られた。本研究の結果から、自己刺激性強化子を産出する玩具を強化子とした称賛の条件づけの有効性が示唆された。
著者
佐々木 順二
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.221-230, 2010

明治末期から昭和戦前期の日本の聴覚障害教育の方法的整備に耳鼻咽喉科学が果たした役割を明らかにするために、九州帝国大学医学部耳鼻咽喉科学教室の臨床・研究環境の整備が国内の聾唖教育の方法的整備にどのように関与したのかを分析した。同教室による聾唖教育の方法的整備への関与の内容を要約すれば、(1)無響室、声音及言語障碍治療部等の設置による聾唖や残聴利用の基礎的・臨床的研究の促進、(2)臨床・研究上の知見に基づく、福岡盲唖学校の口話教育・残聴利用の教育との連携、(3)聾唖教育関係者への日本初の検査設備・機器の紹介という三点であった。今後、同時期における聴力検査の実質的効果、耳鼻咽喉科医師による聾唖教育の制度的・方法的整備への影響等、さらに解明していく必要がある。
著者
古山 貴仁 川間 健之介
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.163-172, 2018-03-31 (Released:2018-10-06)
参考文献数
29

二分脊椎症は、先天的に脊椎骨が形成不全となって起こる神経管閉鎖障害の1つであり、脳と脊髄の機能不全により神経学的認知特性を伴う。教科学習においても、これらの認知特性が要因となり、学習上の困難を呈すると思われるが、二分脊椎症児の学習の困難さに焦点を当てた研究は少ない。本研究では、二分脊椎症児12名を対象に、認知特性が算数学習に及ぼす影響について検討を行った。二分脊椎症児の知能検査(WISC-Ⅳ) の指標得点の分析を行った結果、全検査IQは標準の範囲内であるが、知覚推理・処理速度の指標得点の低さが指摘された。また、教研式標準学力検査( CRT)を用いた算数の学習習得状況の把握を行い、WISC-Ⅳの指標得点との相関関係を検討した結果、知覚推理と図形関連の問題の間で正の相関がみられた。これらの結果から、二分脊椎症児の算数学習において、図形や計算等の処理に困難さが見られることが示唆される。
著者
井口 亜希子 原島 恒夫 田原 敬
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.137-148, 2019-03-31 (Released:2019-10-01)
参考文献数
56

指文字は、表記文字に対応した手型であり、それにより単語を視覚的に綴ることができる。本稿では、聴覚障害幼児の初期言語獲得における指文字の役割について検討する基礎的な資料とするため、指文字の性質と特徴を整理した上で、聴覚障害児の指文字の獲得過程、語彙獲得における指文字の役割について、欧米圏と我が国の研究を概観した。米国を中心に乳幼児期の指文字獲得過程や、親や教員による語彙獲得や文字移行を意図した指文字の使用方略に関する検討が進められている。我が国においてはそれらの研究が進んでおらず、日本の指文字の特徴を踏まえた指文字獲得過程や、日本語の語彙獲得における指文字の使用方略とその効果について検討する必要がある。特に語彙獲得における効果が期待される指文字と複数のモダリティ(手話単語、文字、音声言語等)を組み合わせた提示方略について、聴覚障害幼児の言語獲得等と関連させた研究が求められる。
著者
趙 成河 園山 繁樹
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.227-236, 2018-03-31 (Released:2018-10-06)
参考文献数
31
被引用文献数
1

本研究では、選択性緘黙の有病率に関する先行研究を概観し、有病率の推定値とその根拠資料を把握することを目的とした。対象とする先行研究は英文および和文の学術誌に掲載された選択性緘黙の有病率を調査した論文を選定した。選定基準に適合した16編の論文を分析対象とし、12の項目について分析した。調査研究の対象年齢は3.6~17歳で、有病率は0.02~1.89%であった。また幼稚園および学校で調査を実施した論文が12編、クリニックで実施した論文は4 編であった。選択性緘黙の診断基準としてDSM-III-Rを用いた論文は1 編、DSM-IVを用いた論文は8 編、DSM-5を用いた論文は1 編、記載のない論文は6 編であった。和文誌は4 論文と少なく、最近の日本の選択性緘黙の有病率に関する大規模の調査は見当たらず、今後、日本における選択性緘黙の現状を把握する必要がある。また、今後の研究では選択性緘黙の発症時期について検討する必要がある。
著者
末富 真弓 五味 洋一 佐々木 銀河 中島 範子 末吉 彩香 杉江 征 名川 勝 竹田 一則
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.163-172, 2019-03-31 (Released:2019-10-01)
参考文献数
14

高等教育機関において発達障害学生数は年々増加しており、進路・就職に関する課題も様々検討されるようになった。発達障害学生の就職支援を考える際には、発達障害学生特有の課題を理解し、個々の障害特性に応じ包括的に検討することが重要となる。しかしながら、専門性も求められるため、学内リソースだけではなく学外の支援機関や各種プログラムなどとの連携も支援の柱となる。そこで、本研究では、発達障害学生を対象に学外リソースを活用した模擬職場体験を中核とする「就職準備講座」プログラムを開発・提供し、その効果について検討した。結果、2016年度及び2017年度の本プログラムに参加した学生12名より協力が得られ、就職に対する準備性の向上、及び障害特性のアセスメント機能についての効果があったことが考察された。
著者
小菅 英恵 熊谷 恵子
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.23-32, 2017-03-31 (Released:2017-10-06)
参考文献数
21
被引用文献数
1

車両の運転者や歩行者は、注意を働かせながら主体的に情報を収集しなければならない。多くの交通事故や道路交通違反の発生は、この注意機能の不全に起因している。 成人ADHD者や健常高齢者は特に注意不全が生じやすいが、彼らの運転時や歩行時 の注意不全に関わる特性は解明されていない。本研究では、これら特性解明のため定型発達成人の特徴と比較・照合可能なツールとして、運転時や歩行時の注意不全尺度を試作し、30代~50代の一般成人208名を対象に質問紙調査を実施した。その結果、 (1) 試作した尺度が、「注意の制御不全」「注意の変更機能」「覚醒水準の低下」「注意の転導性」の4 因子構造をもつこと、(2) 得られたα係数値から尺度の信頼性が示されたこと、(3) 各下位尺度得点と既存のDSM-5・ADHD項目の合算得点との間に理論上一致する相関パタンを示し妥当性が示されたこと、を確認した。本結果より、当該尺度の信頼性および妥当性は示されたと考えられる。
著者
神山 努
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.45-57, 2017-03-31 (Released:2017-10-06)
参考文献数
63

本研究は、米国において2010年から2016年までに公表されたSWPBISの効果に関する研究と、SWPBISの実施・維持の要因調査に関する研究を俯瞰し、我が国においてSWPBISの導入を検討する際の研究上、実践上の課題について提案することを目的とした。SWPBISの効果研究は20本が該当し、高等学校など特定の学校におけるSWPBISの実施方法を検討した研究や、対象学校数の多い大規模な効果研究が報告されていること、独立変数や従属変数の評価に特定の指標が用いられていることなどが示された。SWPBISの実施・維持に関する研究は8本が該当し、質問紙調査や聞き取り調査により、校内チームの機能や管理職の支援など、詳細に検討した研究が報告されていた。我が国でSWPBISの研究を進める上での課題として、我が国の学校種別でのSWPBIS実施の促進手続きの検討、独立変数や従属変数の指標の開発、SWPBISの実施を促す環境の整備について考察した。
著者
佐々木 銀河 青木 真純 五味 洋一 竹田 一則
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.247-256, 2018

<p>大学の障害学生支援部署で修学支援を受ける発達障害のある学生9名を対象に、学生による修学支援の効果評価を予備的に実施した。研究の目的は、修学支援の効果を肯定的に評価した学生および修学支援の効果が見られなかった学生の特徴を明らかにすることであった。各学生に対して支援開始前(4~6月)および支援を行った後(翌年1~3月)において修学支援の効果に関するアンケートへの回答を依頼した。その結果、修学支援の後にアンケート得点の有意な増加が見られた。修学支援の効果を肯定的に評価した学生の特徴として「音声の聞き取り」や「時間管理」に関する課題を有していたことが明らかとなった。一方で、支援の効果が見られなかった学生では「講義の出席」に関する課題を有していた。今後は、講義に出席すること自体に困難を有する学生への修学支援のあり方について検討すること、修学支援の効果評価における信頼性や妥当性を向上させることが課題として挙げられた。</p>
著者
丹治,敬之
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究
巻号頁・発行日
vol.38, 2014-03-31

本研究は、発達障害学生の支援事例が報告された論文を、支援内容別に支援方法と支援体制を分析することを通して、発達障害学生支援の現状と今後の課題を明らかにすることを目的とした。31本の対象論文を分析した結果、授業、試験、対人関係スキル、生活スキル、就職など支援内容は多岐に渡り、特に対人関係スキル、生活スキル、授業の支援が多く報告されていた。対人関係スキル支援では、個別面談による支援方法がとられることが多く、授業支援では、個別面談に加えて担当教職員との連携支援、生活スキル支援では、個別面談と家庭との連携支援が多く報告されていた。このように、各支援内容においてどのような支援方法がとられ、どのような支援体制で対応されてきたのかが明らかとなった。一方で、キャリア支援の検討、心理教育的アセスメントツールの活用、支援の評価方法とチーム体制の整備の検討、合理的配慮の決定過程の検討等、今後取り組むべき課題も示唆された。
著者
渡邉,正人
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究
巻号頁・発行日
vol.33, 2009-03-25

視力検査視標のコントラストが視力に及ぼす効果を明らかにすることを目的として、弱視シミュレーションレンズを用いて晴眼者20名に視力検査を実施した。弱視シミュレーションとして、屈折異常条件と混濁条件を設定した。視力検査は、コントラストポラリティが異なる視力検査表と対比視力表を用いて実施した。その結果、屈折異常条件と混濁条件について、コントラストポラリティが黒背景に白文字条件の方が白背景に黒文字条件よりlogMAR値が有意に低いことが明らかとなった。対比視力表についてのlogMAR値は、屈折異常条件ではコントラストレベルが51.6%と31.6%の間ならびに17.8%と10%の間に、また、混濁条件では51.6%、31.5%、17.8%、10%の間にそれぞれ5%水準で有意差が認められた。以上より、弱視シミュレーション下の見え方は、コントラストポラリティでは白黒反転効果があり、コントラストレベルではコントラスト感度に影響を受けることが示唆された。
著者
烏雲畢力格 柘植 雅義
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 = Japanese journal of disability sciences (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.29-42, 2018

本研究は自己調整方略の主炭な要素であるメタ認知の調整、行動の調整、環境の調整に含まれている6つの方略を用い、知的障害者の作業遂行力を促進する自己調整方略の尺度を作成することを目的とした。併せて知的障害者の就労における自己調整方略の使用の実態を検討した。既存の尺度や、職員に対する調査から項目を収集し、また内容的妥当性の検討を経て項目を選定した。このように収集・選定された項目を基に、成人期知的障害者366名を対象に調査を実施した。その結果、48項目からなる知的障害者の就労における自己調整方略尺度が作成された。因子分析の結果、この尺度は、(1)「目標設定」「柔軟的調整」「援助要請」「作業方略」「環境の管理」の5つの下位尺度から構成されていること、(2) 得られたα係数値から尺度の信頼性が示されたこと、(3)「作業方略」「援助要請」「柔軟的調整」「目標設定」「環境の管埋」の順に得点が高いことが、それぞれ確認された。Self-Regulation Strategy at Employment are important variables to promote work performance in people with intellectual disabilities. The purpose of this study was to develop a scale of Self-Regulation Strategy at Employment and to examine the current condition of Self-Regulation Strategy at Employment in people with intellectual disabilities. Strategy items were collected from an existing scale form and a questionnaire survey to Employee support staff. After the content validity, the selected items were completed by 366 people with intellectual disabilittes. As a result, a 48-item Self-Regulation Strategy at Employment Scale in people with intellectual disabilities was developed. (1)Factor analysis yielded 5 subscales: "goal setting" "Flexible regulation" "Help seeking" "Task strategy" "Environment structuring", (2)The scale was confirmed moderately reliability from Cronbach's alpha coefficient, (3)Using level was high in the order of "Task strategy" "Help seeking" "Flexible regulation" "goal setting" "Environment structuring".
著者
野本 有紀 長崎 勤
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.21-31, 2007-03-30

5・6歳児に対し、視覚的手がかり(中心要素・周辺要素)と手がかりなしの3条件を用いて、ナラティブ(フィクショナルストーリー)を聞かせ、その理解とリテリングによる産出の差異を検討した。その結果、理解においては5・6歳児では物語の中心要素は理解されていること、さらに6歳児の方が5歳児より物語を理解しており、中でも6歳児では周辺要素手がかりが理解を促進することが示された。産出においてはミクロ構造とマクロ構造の両面から分析し、両面において産出数では6歳児において周辺手がかりが最も産出を促進し、より長いリテリングが得られたが、産出される結束性の種類やストーリー構造は限定されていた。本研究の結果と先行研究の結果を合わせて考えると物語の理解と産出の双方において、中心から周辺要素へと獲得されていく過程が示唆されるとともに、5・6歳児がより高次なナラティブ産出のレベルへと移行する過渡期にあることが示唆された。
著者
野口 晃菜 米田 宏樹
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.99-112, 2010-03-25

日本では特別支援教育支援員の活用が始まっている。一方、米国は1950年代からParaeducatorと呼ばれる教育補助員を活用しているが、連邦法上に位置付けられたのは、1997年障害者教育法と2001年初等中等教育改正法からである。本稿では1950年代から現在までのParaeducatorの数、役割、養成制度の変遷を概観した。Paraeducatorの活用は、社会的要請の変化にともない、教員不足への対応として、マイノリティーへの公教育保障・雇用機会の提供として、さらには、障害のある児童生徒への適切な教育の提供のためなどへと拡大し、人数も増加してきた。また、当初Paraeducatorは、児童生徒に直に接することのない事務を担当したが、その役割は徐々に変化し、指導業務が中心となった。Paraeducatorの養成にあたっては、その役割を明確にし、それに見合った研修を実施する必要がある。
著者
丹治 敬之 野呂 文行
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.87-97, 2010-03-25

本研究では、既に平仮名の読みが可能であった自閉性障害児2名に対して、片仮名単語の構成反応見本合わせ課題を用いた指導を行い、直接指導していない平仮名-片仮名文字間において等価関係が成立するかどうかを検討した。研究1では、1名の自閉性障害児において、絵を見本刺激とする片仮名単語構成課題を実施した。その結果、直接指導していない片仮名文字や片仮名単語の読み獲得および、平仮名文字-片仮名文字間における等価関係の成立が示された。研究2では、1名の自閉性障害児に対して、音声を見本刺激とする片仮名単語構成課題を実施した。プレテストおよびポストテストを導入したことで、構成反応見本合わせの指導の結果によって、平仮名-片仮名文字間の等価関係が成立したことを明らかにすることができた。これらの結果から、先行研究で示されてきた平仮名や漢字の指導だけではなく、片仮名の指導においても刺激等価性を用いた指導の適用可能性が示された。
著者
倉光 晃子 趙 慶恩 園山 繁樹
出版者
障害科学学会
雑誌
障害科学研究 (ISSN:18815812)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.159-171, 2008-03-25
被引用文献数
1

本研究は、無発語の広汎性発達障害児1名に対して、PECS(写真カード交換式コミュニケーションシステム)訓練を行い、機能的なコミュニケーション行動の形成と拡大への効果について検討した。生態学的アセスメントによって、家庭での対象児が要求行動を生起しやすい状況を把握し、訓練場面を設定した。PECS訓練は、対象児の家庭において母親が訓練者となって実施された。訓練手続きについては、写真カードと文シートを用いた要求行動を課題分析して、各段階の行動が着実に形成されるように配慮した。対象児は、比較的短期間でカードを用いて欲しいものを要求する行動を獲得した。また、家庭における非訓練場面においてもPECSを利用した要求行動の般化や、訓練者でない父親に対するPECSを利用した要求行動の生起が確認された。今後の課題として、家庭場面や食事の文脈以外の状況において、PECSを利用した要求行動の般化を検証する必要性が示唆された。