- 著者
-
鈴木 三男
能城 修一
- 出版者
- Japan Association for Quaternary Research
- 雑誌
- 第四紀研究 (ISSN:04182642)
- 巻号頁・発行日
- vol.36, no.5, pp.329-342, 1997-12-31 (Released:2009-08-21)
- 参考文献数
- 55
- 被引用文献数
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4
5
遺跡から出土する木材化石の樹種を調べることにより推定される縄文時代の植生の変遷と,縄文人の木材利用による植生の改変について概観した.最終氷期には亜寒帯性針葉樹林が全国的に拡がっている.それ以降の気候温暖化に伴って冷温帯落葉広葉樹林を経て,縄文時代前期には西南日本ではアカガシ亜属,シイ類を中心とする照葉樹林に,関東地方ではトネリコ属,クヌギ節,コナラ節,クリなどの落葉広葉樹林が,本州北部の三内丸山遺跡ではトネリコ属,モクレン属,カエデ属,ブナ属などからなる冷温帯落葉広葉樹林になっていた.トネリコ属(ヤチダモ)林は,縄文時代に中部~関東,東北日本の低湿地に広く分布していたが,弥生時代以降,ほとんどが失われた.同様に,スギの平地林,モミの丘陵地林も,縄文時代以降に失われた.縄文社会が拡大し,人口が増えて集落が拡大することにより,これらの自然林は改変され,クリ,コナラ節,クヌギ節,エノキ属などからなる二次林が成立し,これは現在の雑木林(里山)へとつながっているものである.このような森林環境から縄文人は燃料材,さまざまな器具材,建築材,土木用材等に樹種を選択的に,あるいは非選択的に利用し,そのような利用がまた森林の改変に拍車をかけた.そして,縄文時代を通して大量に利用されたクリ材は,自然状態での再生産のみでは需要に追いつかず,人間が積極的に栽培・管理した可能性を指摘した.