著者
Roseline KF YONG Koji FUJITA Patsy YK CHAU Hisanaga SASAKI
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.237-246, 2020-04-15 (Released:2020-05-08)
参考文献数
32

Objectives This study aimed to assess the relevance of hikikomori to a variety of socio-demographic characteristics and socio-psychological conditions and examined these relationships by gender.Methods The study employed a cross-sectional design. A questionnaire survey was conducted among 2,459 participants aged 15-64 years and living in Happo-cho, Akita. The outcome variable, hikikomori, was characterized by “not having participated in any social events nor interacted with others besides family members for more than six months.” Exposure variables included sex, age, marital status, occupational status, outdoor frequencies, health, socio-psychological well-being, and availability of social support. Using Chi-square test of independence and multiple logistic regression, the results indicated the impact of the individual factors and the combined impact of all potential variables on the likelihood of being hikikomori in both participant groups: men and women.Results The effective response rate was 54.5%. Those who socially withdrew for six months or more (n=164 (6.7%); 53.7% men, 46.2% women) were classified as being hikikomori; of these, 45.7% had been withdrawn for more than 10 years. Hikikomori men were more likely to have severe symptoms of mental illness, poorer overall self-rated health, feelings of distress, and passive suicidal ideation than non-hikikomori men, but not hikikomori women. Furthermore, after adjusting for all tested variables as possible confounding factors, being jobless and having fewer outdoor frequencies were associated with being a hikikomori man, and being a homemaker and having no social support were associated with being a hikikomori woman.Conclusion Occupational status and outdoor frequencies are relevant factors for assessing the likelihood of being a hikikomori. Characteristics of hikikomori manifest differently in men and women. Having social support may help women avoid transitioning into a hikikomori. Incorporating emotional and mental health management into intervention programs may help better target potential beneficiaries among Japanese men.
著者
Taeko SHIMAZU
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.8, pp.377-385, 2018-08-15 (Released:2018-09-14)
参考文献数
22

Objectives The Japanese government has supported public health nurses’ systematic career development and preceptors’ learning. Previous studies on precepting public health nurses indicated the value of precepting for career development. However, assessment scales for preceptor learning were not found. The purpose of this study was to develop the “PHN Precepting Experiential Learning Scale” (PHN-PELS) based on Kolb's experiential learning theory.Methods This study included three phases of questionnaire development. First, the preliminary qualitative pilot study resulted in the PHN-PELS. The second pilot study was a questionnaire survey, returned by 52 (54.2%) public health nurses (PHNs) who had examined the validity and modified the items. Finally, a nation-wide questionnaire survey was conducted for PHNs who precepted novice PHNs in public health units from 2012 to 2016.Results Of the 868 questionnaires mailed to 86 public health units, 438 (59.4%) were returned with 378 (43.5%) valid responses. PHN-PELS has 20 items forming four sub-scales, with confirmed content validity, construct validity, and reliability (α>.7). Sub-scales were: “Role Performance of Fostering Novice PHN,” “Self-development as a PHN,” “Sharing to Foster Novice PHN,” and “Improving Career Development Environment.”Conclusion Scale development of the PHN-PELS resulted in four sub-scales with 20 items; its validity and reliability were supported. The PHN-PELS measures experiential learning in precepting novice PHNs, therefore, its usability is recommended for preceptors to evaluate their experiential learning and for preceptor training program in selecting sub-scales as appropriate.
著者
大西 聖子 谷内 佳代 田中 英夫
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.246-253, 2007

<b>目的</b> 喫煙歴のある入院患者に対して,郵送による退院後の喫煙状況調査を行った。すぐに返信する者と督促によって返信する者とで,退院後の断面禁煙率(以下,禁煙率という)の違いや喫煙行動関連要因の違いを調べた。これらの結果から,患者への郵送による喫煙状況調査の問題点を検討する。<br/><b>方法</b> がん(成人病)専門診療施設に入院した喫煙患者(入院当日の喫煙状況が喫煙中,あるいは禁煙後31日以内であった者)556人に,入院から12か月後の時点の喫煙状況を郵送で尋ねた(初回調査)。返信のない者には最多で 2 回の督促状を,調査用紙とともに郵送した(2 回目調査,3 回目調査)。計 3 回の喫煙状況調査の返信行動別に各調査回の禁煙率を求め,比較した。また,返信行動の違いと入院時点の喫煙行動に関連する属性との関係を多重ロジスティック回帰分析で調べた。<br/><b>結果</b> 全対象者に占める回答者の割合は,初回調査から順に53%,20%,4%であった。各調査回において返信があった者での禁煙率は,初回調査63%(184/294),2 回目調査29%(32/112),3 回目調査33%(7/21)と,2 回目,3 回目調査は,初回調査に比べて有意に禁煙者の占める割合が低かった(<i>P</i><0.01)。<br/> 対象者の属性を初回調査の返信者と 2 回または 3 回目調査の返信者とで比較すると,後者は前者に比べて女性の割合が高く(オッズ比2.1,95%信頼区間(CI):1.20-3.81),また入院当日に喫煙中であった者の割合が高かった(同2.1,95%CI:1.28-3.46)。つぎに,初回調査の返信者と最終的な未返信者との属性を比較すると,後者は前者に比べて女性(同2.4,95%CI:1.38-4.29),年齢が59歳以下の者(同1.9,95%CI:1.15-3.28),入院当日に喫煙していた者(同2.9,95%CI:1.70-4.96)の割合が高かった。<br/><b>結論</b> 退院後の郵送による喫煙状況調査において,督促によって返信した者では禁煙者の割合が低く,また,督促によって返信した者や未返信者では,初回調査で返信した者に比べて禁煙しにくい属性を有する者の割合が有意に高かった。以上の成績から,退院後の郵送による喫煙状況調査においては複数回の督促等によって未返信者の割合を最小限にすることが正確な喫煙状況の把握のために必要であると考えられる。
著者
中野 匡子 金成 由美子 角田 正史 紺野 信弘 福島 匡昭
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.6, pp.535-543, 2002-06-15
参考文献数
16

<b>目的</b> 医学教育の中で地域指向型教育の重要性が指摘されている。我々は,医学部 4 年生の公衆衛生学実習において,小人数グループでの地域指向型教育を 3 年間実施し,実習の教育的効果の評価を試み,今後の実習の方向性を検討した。<br/><b>方法</b> 1. 実習の概要:医学部 4 年生(70~80人)は小人数(2~3 人)グループに分かれ,福島市周辺の保健・医療・福祉・教育等関連施設で週 1 回(約 4 時間),計 3 回実習した。学生は施設の事業に参加し,体験実習の中から,解決すべき健康問題を把握し,施設の取り組みと今後の課題を検討した。施設実習後,学生は,報告会を行い,グループごとの報告書と,個別の自由記載の感想文を提出した。<br/> 2. 評価:平成11年度 4 年生73人(男42人,女31人,平均年齢23.6歳)について,実習の教育効果の評価を行った。1) 報告書の中で学生が挙げた「解決すべき健康問題」と,自由記載の個別の感想文を分類し,実習目的の理解度をみた。2) 社会意識の測定方法である ATSIM (Attitudes Toward Social Issues in Medicine)質問表を用い,実習前後の得点の変化を検討した。ATSIM 質問表は 7 群(社会因子,医療関係者間の協力,予防医学の役割,医師-患者関係,政府の役割,進歩対保守主義,社会への奉仕に対する意識)から構成され,得点が高いほど社会意識が高いと評価される。<br/><b>結果および考察</b><br/> 1. 報告書の中で取り上げられた健康問題は,精神障害者の社会復帰のための環境整備,難病患者の在宅支援,学校での養護教諭と担任らの連携,知的障害児の地域生活のための環境整備などであった。また,個別の感想文においては「現場を体験・実感できた(73人中60人,82.1%)」,「医師として地域の人々や施設とどう関わるか考えることができた(26人,35.6%)」,「予防の必要性に気づいた(4 人,5.5%)」,「回数の増加を望む(5 人,6.8%)」等の意見がみられた。<br/> 2. ATSIM の得点は,7 つの群の各々および総計の平均点に,実習前後で有意な差はみられなかった。<br/><b>まとめ</b> 学生は施設での体験の中から地域の健康問題を把握した。個別の感想文では実習の意図を理解し実習に肯定的なものもみられた。ATSIM 質問表で測った社会意識には,実習の前後で有意な変化はみられなかった。今後,施設の選定,実習時間,学内での討論方法,評価法などに修正を加え,「公衆衛生の精神を体得した」医師養成のために,より有効な教育形態としていきたい。
著者
今井 忠則 長田 久雄 西村 芳貢
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.433-439, 2012

<b>目的</b> 「生きがい」を測定する簡便な尺度の実用化のために,9 項目から構成される「生きがい意識尺度(Ikigai–9)」の信頼性と妥当性を検討した。<br/><b>方法</b> 60歳以上の地域中高年者428人(男性128人,女性300人,平均年齢65.4±4.3歳,範囲60~85歳)を分析対象として,尺度の得点分布,信頼性(Cronbach の α 係数),SF–36v2 との併存的妥当性,因子的妥当性を検討した。尺度は,「生きがい概念の高次因子モデル」を構成概念とし,モデルの観測変数である 9 項目で構成された。回答は各 5 件法で求め,各素点を合計して総得点(範囲 9~45点)および 3 つの下位尺度得点(範囲3~15点)を算出した。<br/><b>結果</b> 得点の分布は,総得点および下位尺度得点ともに分散していた(とくに,総得点では統計学的正規性が認められた)。尺度の信頼性は,全体で α=.87,下位尺度ごとでは α=.76~.82であった。総合点と SF–36v2 の身体的健康度(PCS)との相関は無相関(rs=−.05, <i>P</i>=.33),精神的健康度(MCS)との相関は正の相関(rs=.33, <i>P</i><.001)であり,理論的予測と一致し,併存的妥当性が確認された。また,確認的因子分析の結果,高次因子モデルの適合度は GFI=0.95等と良好であり,因子的妥当性が確認された。<br/><b>結論</b> 60歳以上の地域中高年者を対象とした場合の Ikigai–9 の得点分布•信頼性•妥当性は良好であり,高い実用性が示された。
著者
谷本 芳美 渡辺 美鈴 河野 令 広田 千賀 高崎 恭輔 河野 公一
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.383-390, 2009-06-15
被引用文献数
6

<b>目的</b> 高齢期における介護予防のための口腔機能の維持・向上を目的に,地域高齢者における咀嚼能力の客観的な評価方法として色変わりチューインガム(以下,色変わりガムとする)が有用であるか検討する。<br/><b>方法</b> 2007年 4 月~5 月に T 市に在住する65歳以上の高齢者210人(男性69人,女性141人)を対象に色変わりガムを用いた咀嚼能力と残存歯数および咬合力の測定を行い,同時に自記式質問紙調査を用いて咀嚼能力の主観的評価を行った。調査実施前に,5 人の高齢者について色変わりガムの測定方法の精度を検討した。測定は「普段の食事をするようにガムをかんでください」と指示し,2 分間咀嚼させた後,色彩色差計を用いて色変わりガムの「赤み」を示す咀嚼能力 a∗値(以下,a∗値とする)を測定した。質問紙項目は①食物が普通にかめるか②かたい食物がかめるか③まぐろのさしみ,かまぼこ,らっきょう,ビフテキ,ピーナッツの咀嚼の可・不可について調べた。解析は a∗値と残存歯数,咬合力および質問紙調査との関連について行った。<br/><b>結果</b> 対象者 5 人の a∗値の変動係数は2.15~3.75%で,測定方法は高い精度を示した。地域高齢者の色変わりガムの平均 a∗値は男性26.0,女性22.8であった。年齢別では,男性は全ての年齢群で有意な差を認めず,加齢に伴う変化は示さなかった。女性は80歳までは年齢による差を示さなかったが,80歳以上に有意な低下を示した。性別では,どの年齢群においても有意な差を認めなかった。男女とも a∗値は残存歯数および咬合力と正の相関関係を認めた。質問紙調査では,全ての項目で咀嚼可群の方が有意に a∗値が高かった。また,残存歯数が20歯未満の者に限っても咀嚼難易度の低い「まぐろのさしみ」と「ビフテキ」を除く全ての項目において咀嚼可群が有意に a∗値が高く,色変わりガムと主観的な質問紙調査との関連を認めた。<br/><b>結論</b> 色変わりガムの測定方法は簡便で,測定精度が高いことが認められた。また,色変わりガムは残存歯数や咬合力および主観的咀嚼能力評価と関連することを認めたことから,地域高齢者の健康づくりにおける咀嚼能力の客観的評価方法として有用であると考える。
著者
橋本 由利子 大谷 哲也 小山 洋 岩崎 基 笹澤 吉明 鈴木 庄亮
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 = JAPANESE JOURNAL OF PUBLIC HEALTH (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.54, no.11, pp.792-804, 2007-11-15
被引用文献数
2

<b>目的</b> 花粉症発症には花粉への曝露の他に様々な修飾要因が関わっていると考えられているが,その詳細は未だ十分に明らかにされていない。そこで「花粉症有り」の人の宿主要因を中心に花粉症の修飾要因を広範囲に調べることにした。<br/><b>方法</b> 1993年に開始した群馬疫学コホート(こもいせ)調査結果およびその第 2 波として2000年に行った47-77歳の男女住民10,898人の生活と罹病・死亡リスクについての調査結果を利用した。既往歴の「花粉症有り」を目的変数として,その他の基本属性,生活習慣・行動,既往症,職業などの項目を説明変数として,ロジスティック回帰分析によって検討した。この分析では,性・地域・年齢で調整した。<br/><b>結果</b> 花粉症の既往がある者は全回答者の17.1%であった。「花粉症の既往有り」は男性より女性の方が多く[調整オッズ比(aOR)=1.31, 95%信頼区間(CI):1.17-1.46],村より市の居住者の方が多かった(aOR=1.56, 95% CI:1.39-1.76)。40歳代より70歳代の方が花粉症は著しく少なく(aOR=0.19, 95% CI:0.15-0.24),花粉症の最近 1 年の寛解者は年齢が高くなるにつれ増加した(傾向検定 <i>P</i> 値<0.001)。<br/> 健康面では,「花粉症有り」は,寝つきが悪い・眠りが中断されること,および心臓病・高脂血症・喘息・消化性潰瘍・腰痛・うつ病有りとの間に有意な関連がみられた。糖尿病有りとは逆の関連がみられた。<br/> 生活面では,「花粉症有り」は,収入のある仕事をしている,サラリーマンである,仕事で精神的ストレスが多い,間食をよくする,お腹一杯食べる,食事が規則正しい,甘いものをよく食べる,日本酒・ワインを月 2, 3 回飲む,ビール・発泡酒を飲む,焼酎・ウイスキーをほぼ毎日飲む,よく長い距離を歩く,よく運動をする,よく家の掃除をする,芝居・映画・コンサートなどに行く,食料品・衣類などの買い物に行く,結婚経験がある,子どもが問題を抱えている,年収が1,000万円以上であることと有意な関連が見られた。農業従事者,たばこを吸っていること,パチンコやカラオケによく行くこととは有意な逆の関連がみられた。<br/> 過去の食生活では30歳代の頃パンを摂取したことと弱い関連がみられた。<br/><b>結論</b> 花粉症の既往と生活習慣・行動など多くの要因との間に関連性がみられた。花粉症は,老年より比較的若年層に,農村より都市地域に,農業従事者よりサラリーマンに,ストレスの多いことや食べ過ぎあるいは洋風の食生活に,生活水準が高く近代化の進んだ生活により強く関係しているなど,宿主・環境に関る一群の修飾要因とその重みが明らかにされた。
著者
豊田 泰弘 中山 厚子 藤原 秀一 真 和弘 松尾 吉郎 田中 博之 高鳥毛 敏雄 磯 博康
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.55, no.4, pp.247-253, 2008

<b>目的</b> 地域の救急活動記録を元に自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)の特徴を分析し,今後の自殺対策に資することを目的とした。<br/><b>方法</b> 2004年 4 月から2006年 3 月までの岸和田市消防本部の救急活動記録より,246例(延べ人数)・196人(実人数)の自殺企図者(自殺未遂者・自殺死亡者)を把握した。これらにつき,性,年齢,調査期間内の自殺企図回数,企図手段,月,曜日,救急覚知時刻(救急隊に連絡のあった時刻)について集計解析した。<br/><b>結果</b> 196人の自殺企図者のうち,自殺死亡者は52人(男性32人,女性20人),自殺未遂者は144人(男性32人,女性112人)であり,2 回以上にわたって自殺企図を繰り返した実人数は29人(男性 3 人,女性26人)であった。<br/> 男性の自殺死亡者は40歳代から70歳代の中高年に多く,女性の自殺死亡者は40歳代に多かった。男性の自殺未遂者には30歳代になだらかなピークがあり,女性の自殺未遂者は20歳代から40歳代の比較的若年者に急峻なピークがあった。<br/> 自殺死亡者の主たる手段は男性では縊頸,ガス,女性では縊頸,飛び降り・飛び込みであった。自殺未遂者の主たる手段は男女ともに服薬,四肢切創であった。<br/> 月については,男性の自殺死亡者は 4 月から 6 月に多く,女性の自殺死亡者は11月に多かった。男性の自殺未遂者は 7 月,8 月,9 月に多く,女性の自殺未遂者は 1 月,8 月,9 月に多かった。<br/> 曜日については,男性の自殺死亡者は月曜,水曜が多く,女性の自殺死亡者は日曜が多かった。男性の自殺未遂者は金曜が多く,女性の自殺未遂者は月曜と火曜に著明なピークがあった。<br/> 覚知時刻については,自殺死亡者は男女とも夕方から夜半に少なく,未明から日中に多かった。男性の自殺未遂者は午前日中と夕方に多かった。女性の自殺未遂者は午前日中にきわだって少なかった。<br/><b>結論</b> 救急車が出動する自殺企図者の大部分は女性の自殺未遂者であった。女性の自殺未遂者は男性に比べて若年者に多く,自殺企図を頻回に繰り返すという特徴があり,これらを考慮した対策がのぞまれる。
著者
駒田 陽子 塩見 利明 三島 和夫 井上 雄一
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.1066-1074, 2010

<b>目的</b> 本研究の目的は,運転免許保有者の中で睡眠時無呼吸症候群(Sleep apnea syndrome: SAS)に罹患している者の実態,居眠り運転や居眠り運転事故に関連する要因,運転免許更新時等における申告制度等の認識度を明らかにすることである。<br/><b>方法</b> 警視庁府中運転免許試験場において,運転免許証の更新者5,235人に対し,回答は無記名,任意とした上で,運転中の眠気や居眠り運転,SAS の自覚もしくは診断を受けたことがあるか等に関するアンケート調査を実施した(回収3,235人,回収率61.8%)。<br/><b>結果</b> 運転中に眠くなることがあると答えた者は1,306人(40.4%),居眠り運転をしたことがある者は658人(20.3%),居眠り運転により事故を起こしそうになったこと,または実際に事故を起こしたことがある者は336人(10.4%)であった。ロジスティック回帰分析の結果,居眠り運転に関連する要因として,男性であること,免許保有期間が長いこと,週あたりの走行距離が多いこと,運転開始後短い時間で眠気を感じること,SAS の自覚もしくは診断を受けていることが抽出された。また,居眠り運転事故等に関しては,男性であること,免許保有期間が長いこと,運転開始後短い時間で眠気を感じること,SAS の自覚もしくは診断を受けていることが関連要因であった。運転免許保有者のうち SAS に罹患している者の実態を検討したところ,調査対象者のうち7.5%が「自分が SAS ではないかと思う」と回答し,また,1.1%が「SAS と診断されたことがある」と回答した。<br/><b>結論</b> SAS ではないかと自覚している者の割合に対して,実際に受診して SAS の診断を受けている者の割合はかなり低いことから,SAS に対する診断と治療の重要性をより強く啓発していくことが,居眠り運転や居眠り運転事故等を防止するために重要であると考えられた。また,運転への慣れ,長時間運転による疲労が居眠り運転や居眠り運転事故に強く関連していることを広く周知すべきである。道路交通法では「重度の眠気の症状を呈する睡眠障害」は免許停止・取り消しの要件の一つで,免許試験の受験や更新申請の際,症状を申告しなければならない。しかし,「申告制度を知っている」と答えたのは,罹患の可能性がある人の22.2%であった。SAS に罹患した運転免許保有者が症状を自覚し治療することにより,安全な運転パフォーマンスを保持できるよう,これらの制度について広報啓発を行う必要があると思われた。
著者
中村 好一 伊東 剛 千原 泉 定金 敦子 小谷 和彦 青山 泰子 上原 里程
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.9, pp.807-815, 2010-09-15
被引用文献数
2

<b>目的</b> 警察のデータを用いて栃木県の自殺の実態を明らかにし,自殺対策を進める上での要点を示すと共に,警察データの利点と問題点を検討する。<br/><b>方法</b> 栃木県警察本部から提供を受けた2007年,2008年 2 年間の自殺データ(小票)を集計解析した。<br/><b>結果</b> 栃木県における観察した 2 年間の自殺は1,166件(男865件,女301件)であった。人口あたりの自殺件数は全国と比較して高い傾向にあった。男では50歳代が最も多かったのに対して,女では30歳代から70歳代までほぼ同じ人数であった。20歳代,30歳代で人口あたりの件数が全国よりも高い傾向が観察された。平日の早朝や午前10時台に多い傾向が観察された。自殺場所は自宅が最も多く,手段は縊死が最も多かった(いずれも全体の約 6 割)。自殺の原因・動機(1 件の自殺について 3 つまで選択)では健康問題が最も多く(61.3%),次いで経済・生活問題(22.7%),家庭問題(17.3%)であった。健康問題では身体疾患と精神疾患がほぼ半数ずつを占めていた。経済・生活問題は20~60歳代の男で圧倒的に多く,中でも多重債務が多かった。約 3 分の 1 の者が遺書などを残していた。15.9%は自殺未遂の経験があった。以上のような結果をもとに検討した結果,栃木県の自殺対策を推進する上で,(1)学校保健や職域保健のさらなる充実,とくに20歳代および30歳代男への対応,(2)自殺のリスクが高い者に対して,家族への指導などにより常に他者の目が届くようにしておくことの重要性,(3)自殺未遂経験者へのハイリスク者としての対応,(4)相談窓口(とくに多重債務)の充実と住民への周知,(5)身体疾患をもつ患者の心のケアの充実,(6)精神疾患をもつ患者の治療を含めた管理の充実,の 6 点が重要であることを示した。さらに,警察データにおける原因・動機は,現場を捜査した警察官が判断しているために,心理学的剖検と比較すると情報の偏りが大きく妥当性は落ちるが,全数を把握しているために選択の偏りはなく,この点は心理学的剖検に勝るものであることを議論した。<br/><b>結論</b> 警察のデータを用いて栃木県の自殺の実態を明らかにし,栃木県での自殺対策を進める上での要点を提示した。利点と問題点を理解した上で利用すれば,警察のデータも自殺予防対策に有用な情報を提供することを示した。
著者
間瀬 知紀 宮脇 千惠美 甲田 勝康 藤田 裕規 沖田 善光 小原 久未子 見正 富美子 中村 晴信
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.6, pp.371-380, 2012
被引用文献数
2

<b>目的</b> 本研究は,女子学生を対象として,若年女性における正常体重肥満者,いわゆる「隠れ肥満」の体組成に影響を及ぼすと考えられる食行動,運動習慣および身体活動量について検討した。<br/><b>方法</b> 対象は京都府内の大学 6 校に在籍する18~21歳の女子学生530人である。体脂肪率,歩数の測定および無記名自記式の質問紙調査を2010年 1 月~2010年 7 月にかけて実施した。質問紙調査項目は生活環境,体型認識,体型への希望,ダイエット経験,運動習慣,睡眠時間および食行動に関する 7 項目であった。食行動調査は EAT–26(Eating Attitude Test 26:摂食態度調査票)を実施した。BMI が18.5以上25.0未満の「標準体重(n=439)」判定者の中で,体脂肪率が75%タイル以上の者を「High group(n=115)」,体脂肪率が25%タイル以下の者を「Low group(n=111)」,この 2 群以外の者を「Middle group(n=213)」と分類し,3 群について比較検討した。<br/><b>結果</b> 質問紙調査より,グループ間に体型認識,体型への希望,やせたい理由,ダイエット経験の有無,ダイエットの失敗の有無および睡眠時間についての回答の比率に有意な差がみられた。しかしながら,身体活動量はグループ間に差がみられなかった。さらに,EAT–26を用いて食行動を検討すると第 3 因子「Oral control」においては High group は Low group と比較し,有意に高値が認められた。<br/><b>結論</b> 標準体重者で体脂肪率が高い者は,やせ願望やダイエット行動が関連していた。やせ願望の強い学生に対し,適正な体組成の維持と適切な食生活を確立させるための健康教育の必要性が示された。
著者
中村 美詠子 近藤 今子 久保田 晃生 古川 五百子 鈴木 輝康 中村 晴信 早川 徳香 尾島 俊之 青木 伸雄
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.881-890, 2010

<b>目的</b> 本研究は,児童生徒における「学校に行きたくないとしばしば感じる気持ち」(以下,不登校傾向)の保有状況と自覚症状,生活習慣関連要因との関連を横断的に明らかにすることを目的とする。<br/><b>方法</b> 平成15年11月に小学校 2・4・6 年生,中学校 1 年生,高等学校 1 年生の5,448人と小学生の保護者1,051人を対象として実施された静岡県「子どもの生活実態調査」のデータを用いた。自記式の調査票により,児童,生徒の不登校傾向,自覚症状,生活習慣,および小学生の保護者の生活習慣を把握した。<br/><b>結果</b> 有効な回答が得られた小学生2,675人,中学生940人,高校生1,377人,小学生の保護者659人について分析を行った。不登校傾向は,男子小学生の11.4%,男子中学生の12.1%,男子高校生の25.3%,女子小学生の9.8%,女子中学生の19.6%,女子高校生の35.9%にみられた。不登校傾向を目的変数,自覚症状,生活習慣関連要因をそれぞれ説明変数として,性別,小学(学年を調整)・中学・高校別に,不登校傾向と各要因との関連を多重ロジスティック回帰分析により検討した。男女ともに,小学・中学・高校の全てでオッズ比(OR)が統計学的に有意に高かったのは,活力低下(OR: 3.68~8.22),イライラ感(OR: 3.00~6.30),疲労倦怠感(OR: 3.63~5.10),朝眠くてなかなか起きられない(OR: 1.98~2.69)であり,また強いやせ希望あり(OR: 1.83~2.97)のオッズ比は中学男子(OR: 2.09, 95%信頼区間:0.95–4.60)以外で有意に高かった。一方,小学生において保護者(女性)の生活習慣関連要因と不登校傾向との間に有意な関連はみられなかった。<br/><b>結論</b> 不登校傾向の保有状況は小学生では男女差は明らかではないものの,中高生では女子は男子より高かった。また,不登校傾向は,不登校者においてしばしば観察されるような様々な自覚症状と関連していた。
著者
阿江 竜介 中村 好一 坪井 聡 古城 隆雄 吉田 穂波 北村 邦夫
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.665-674, 2012-09-15

<b>目的</b> 全国的な疫学調査である「第 5 回 男女の生活と意識に関する調査」のデータをもとに,わが国の自傷行為についての統計解析を行い,自傷経験に関連する要因を明らかにする。<br/><b>方法</b> 全国から層化二段無作為抽出法を用いて選出された2,693人に調査票を配布し,自傷経験に対する回答の解析を行った。自傷経験があると答えた群(以下,自傷群)とないと答えた群(以下,非自傷群)の 2 群間で比較を行った。<br/><b>結果</b> 1,540人(回収率57.2%)の対象者が回答した。全体の7.1%(男の3.9%,女の9.5%)に少なくとも 1 回以上の自傷経験があり,男女ともに自傷経験者の約半数が反復自傷経験者であった。16–29歳における自傷経験率が9.9%と最も高く,30–39歳,40–49歳はそれぞれ5.6%,5.7%とほぼ同等であった。男女別では,年齢階級別(16–29歳,30–39歳,40–49歳)で,女はそれぞれ15.7%, 7.5%, 5.8%と若年ほど自傷経験率が高く,男は3.0%, 3.4%, 5.5%と若年ほど低かった。群間比較では,喫煙者(自傷群47.5%,非自傷群28.2%,調整オッズ比[95%信頼区間]:2.18[1.32–3.58]),虐待経験者(23.6%, 3.7%, 4.24[2.18–8.25]),人工妊娠中絶経験者(30.3%, 12.7%, 1.93[1.13–3.30])の割合が自傷群で有意に高く,中学生時代の生活が楽しかったと答えた者(41.1%, 78.6%, 0.45[0.25–0.79])は有意に低かった。調整後有意差は認めなかったが自傷群では,すべての性•年齢階級において,両親の離婚を経験した者,中学生時代の親とのコミュニケーションが良好ではなかったと答えた者,親への敬意•感謝の気持ちがないと答えた者の割合が高い傾向を認めた。<br/><b>結論</b> 多くの先行研究と同様に,自傷経験率は16–29歳の女で高く,また,喫煙者や虐待経験者で自傷経験率が高いことが示された。自傷行為の予防には,これらに該当する者に対して重点的にケアを提供する必要がある。また,社会的な観点から言えば,これらの要因を持つ家庭環境についても,今後明らかにしていく必要があろう。
著者
石原 融 武田 康久 水谷 隆史 岡本 まさ子 古閑 美奈子 田村 右内 山田 七重 成 順月 中村 和彦 飯島 純夫 山縣 然太朗
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.106-117, 2003

<b>目的</b> 思春期の肥満は成人肥満に移行することが多く,学童期あるいは,それ以前の肥満の対策が重要とされている。本研究は,縦断研究により思春期の肥満と幼児期の生活習慣,家族関係および体格等との関連を明らかにすることを目的とした。<br/><b>対象と方法</b> 1987年 4 月から1991年 3 月に山梨県塩山市で出生した児を対象として,1 歳 6 か月,3 歳児健康診査時の質問票とその時の身長,体重の実測値,また,思春期は2000年 4 月の健康診断時の身長,体重の実測値を解析に用いた。平成12年度の学校保健統計調査結果の年齢,性,身長別の平均体重を標準体重として,肥満度を算出し,20%以上を肥満と判定した。1 歳 6 か月,3 歳時の体格についてはカウプ指数を用い,生活習慣については健康診査時の調査票の生活習慣項目を用いて,思春期の肥満との関連について解析した。<br/><b>結果</b> 1 歳 6 か月児健康診査時の質問票の回収数は883人で,思春期まで追跡可能であった児が737人であった(追跡率83.5%)。平均追跡期間は10年11か月であった。<br/> 1 歳 6 か月時と 3 歳時のカウプ指数高値群において有意に思春期の肥満者が多くオッズ比はそれぞれ2.61 (95%信頼区間:1.11-6.12)と5.34 (2.54-11.23)であった。また,母親の肥満群において有意に思春期の肥満者が多く,オッズ比は5.32 (2.67-10.60)であった。<br/> 生活習慣項目では,1 歳 6 か月時の「室内で一人で遊ぶことの多い」のオッズ比が3.01 (1.01-8.99),また,3 歳時の「おやつの時間を決めずにもらっていた」のオッズ比が2.12 (1.25-3.61)で思春期の肥満のリスクであった。食品項目では,「牛乳」摂取頻度のみが思春期の肥満と有意な関連を示し,オッズ比0.63 (0.41-0.95)であった。<br/> 共分散構造解析を行い逐次因果最適モデルを求めた。3 歳時の体格,母親の体格,遊び方,おやつの取り方,牛乳摂取は思春期の体格に影響を与えていた。また,母親の体格は子どもの要求の応じ方に影響しており,子どもの要求の応じ方はおやつの取り方に影響を与えていた。<br/><b>結論</b> 思春期の肥満は,1 歳 6 か月と 3 歳時の体格,母親の体格,幼児期の遊び方,おやつの取り方,牛乳摂取と関連があった。遺伝要因が強いことが確認されたが,幼児期の生活習慣も思春期の肥満と関連していることが示唆された。
著者
岩澤 聡子 道川 武紘 中野 真規子 西脇 祐司 坪井 樹 田中 茂 上村 隆元 MILOJEVIC Ai 中島 宏 武林 亨 森川 昭廣 丸山 浩一 工藤 翔二 内山 巌雄 大前 和幸
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.39-43, 2010

<b>目的</b> 2000年 6 月に三宅島雄山が噴火し,二酸化硫黄(SO<sub>2</sub>)を主とする火山ガス放出のため同年 9 月に全住民に島外避難命令が出された。火山ガス放出が続く中,火山ガスに関する健康リスクコミュニケーションが実施され,2005年 2 月に避難命令は解除された。本研究では,帰島後 1 年 9 か月経過した時点における,SO<sub>2</sub> 濃度と小児の呼吸器影響の関連について,2006年 2 月から11月の 9 か月間の変化を検討した。<br/><b>方法</b> 健診対象者は2006年11月時点で,三宅島に住民票登録のある19歳未満の住民を対象とした。そのうち,受診者は,141人(受診率50.4%)で,33人は高感受性者(気管支喘息などの気道過敏性のある呼吸器系疾患を持つ人あるいはその既往のあり,二酸化硫黄に対し高い感受性である人)と判定された。<br/> 健康影響は,米国胸部疾患学会の標準化質問票に準拠した日本語版の自記式質問票により,呼吸器に関する自覚症状調査,生活習慣,現病歴,既往歴等の情報を収集した。努力性肺活量検査は,練習の後,1 被験者あたり 3 回本番の測定を実施した。<br/> 環境濃度は,既存の地区名を一義的な括りとし,当該地区の固定観測点での SO<sub>2</sub> モニタリングデータをもとに,避難指示解除より健診までの22か月間のデータについて,その平均値により居住地域を低濃度地区(Area L),比較的曝露濃度の高い 3 地域(H-1, H-2, H-3)と定義し,SO<sub>2</sub> 濃度(ppm)はそれぞれ0.019, 0.026, 0.032, 0.045であった。<br/><b>結果</b> 自覚症状では,「のど」,「目」,「皮膚」の刺激や痛みの増加が,Area L と比較すると,H-3 で有意に訴え率が高かった。呼吸機能検査では,2006年 2 月と2006年11月のデータの比較において,高感受性者では%FVC,%FEV1 で有意に低下(<i>P</i>=0.047, 0.027)していたが,普通感受性者では低下は認めなかった。<br/><b>結論</b> 高感受性者では呼吸機能発達への影響の可能性も考えられ,注目して追跡観察していくべきである。
著者
大和 浩 太田 雅規 中村 正和
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.130-135, 2014

<b>目的</b> 飲食店の全客席の禁煙化が営業収入に与える影響を,全国で営業されている単一ブランドのチェーンレストランの 5 年間の営業収入の分析から明らかにする。<br/><b>方法</b> 1970年代より全国で259店舗を展開するファミリーレストランでは,老朽化による改装を行う際に,全客席の禁煙化(喫煙専用室あり),もしくは,喫煙席を壁と自動ドアで隔離する分煙化による受動喫煙対策を行った。2009年 2~12月度に全客席を禁煙化した59店舗と,分煙化した17店舗の営業収入の相対変化を,改装の24~13か月前,12~1 か月前,改装 1~12か月後の各12か月間で比較し,客席での喫煙の可否による影響が存在するかどうかを検討した。改装が行われておらず,従来通り,喫煙区域と禁煙区域の設定のみを行っている82店舗を比較対照とした。解析は Two-way repeated measures ANOVA を行い,多重比較検定は Scheffe 法を用いた。<br/><b>結果</b> 全客席を禁煙化した52店舗,喫煙席を壁とドアで隔離する分煙化を行った17店舗,および,未改装の82店舗の 3 群の営業収入の相対変化(2007年 1 月度比)は,12か月単位の 3 時点の推移に有意差が認められた(<i>P</i><0.0001)。改装によりすべての客席を禁煙とした店舗群の営業収入はその前後で増加したが(<i>P</i><0.001),喫煙席を残して壁と自動ドアで隔離する分煙化を行った店舗群の営業収入は有意な改善を認めなかった。<br/><b>結論</b> ファミリーレストランでは,客席を全面禁煙とすることにより営業収入が有意に増加するが,分煙化では有意な増加は認めらなかった。
著者
植村 直子 マルティネス 真喜子 畑下 博世
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.762-770, 2012-10-15

<b>目的</b> 在日ブラジル人妊婦が,妊娠から出産までの日常生活をどのように過ごしているのか,日本の保健医療システムの中で,どのような点に戸惑いや困難を感じているのかを調査し,在日ブラジル人妊産婦の保健医療ニーズを考察した。<br/><b>方法</b> 対象者は A 県在住で,日本語理解が不十分で,日本での出産が初めてであるブラジル人妊婦10人とした。2007年 8 月から2009年 7 月に,研究者と通訳者が対象者の妊婦健診への同行,および家庭訪問によるフィールドワークを実施した。分析は,フィールドノートより各対象者の妊娠•出産についての思いや考え,日常生活の様子,保健医療の場面での戸惑いや困りごとに関する記述からラベルを作成し,意味の共通するものをグループ化する作業を繰り返しカテゴリー化した。<br/><b>結果</b> 対象者の年齢は20歳代が 8 人,30歳代が 2 人で,在日期間は 3 年未満が 8 人,10年未満が 2 人であった。出産経験は「なし」が 8 人,「あり」が 2 人であった。労働状況は10人とも妊娠後期までに退職し,経済状況は夫の収入のみでは生活は厳しい状況であった。同居家族は「夫」が 6 人,「夫,子ども」が 2 人,「夫,親」が 2 人であった。家族の支援状況は,実際に身近に手伝ってくれる者がいるのは 6 人で,友人等の交流状況は,退職後は10人とも「なし」であった。<br/>  日常生活の様子や保健医療場面での困難では,4 つの大カテゴリー:I. 身内との支えあいは強いが,友人や近所との日常的なつきあいはあまりない,II. 過酷な仕事により,不規則な生活を送らざるを得ず,体に負担がかかっている,III. 日本での出産に関する情報が十分得られておらず,理解できていないことによる不安がある,IV. 母国と違うシステム,習慣に戸惑う,に整理された。<br/><b>結論</b> 在日ブラジル人妊婦の日常生活は孤立しがちで,不規則な生活状況であった。保健医療の場面では,日本での妊娠•出産に関する情報を十分に得られておらず,体重増加など日本とブラジルの基準の違いに戸惑っていた。こうした在日ブラジル人妊婦の生活状況を理解し,産後孤立させないことを見越した妊娠期からの関係の形成や,ブラジルの情報を踏まえた対応が求められる。また,市町村や保健所,産科•小児科医療施設,国際協会や民間支援団体,雇用者(企業)などが協力し,通訳の配置,対訳表•異文化理解のためのマニュアル普及やセミナー実施,相談日を実施するなどの支援体制づくりが望まれる。
著者
小嶋 美穂子 辻 元宏 丹後 俊郎
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.352-360, 2002-04-15
被引用文献数
4

<b>目的</b> 死亡指標として標準化死亡比(SMR)等がよく利用されているが,人口が大きく異なる地域の比較を行う場合に,適切な指標とはならないことがある。そこで,本研究では,人口の調整を行った SMR の経験的ベイズ推定量(EBSMR)を算出し,滋賀県50市町村の死亡状況を知るとともに,死亡と栄養の関連について検討する。<br/><b>方法</b> 1987年~1996年の10年間における滋賀県内50の市町村別死亡数を用いて,全国死亡率を標準とした EBSMR を算出し,疾病の地域集積性の検討に Tango の集積性の検定を適用した。また,EBSMR を目的変数,栄養素摂取量等を説明変数として重回帰分析を行った。<br/><b>結果</b> 全死因で男女共,近江八幡市に集積性がみられた。重回帰分析で,正の因子として,貝類,いか・たこ,肉類,油脂類,漬物,塩魚など,負の因子として,海草類,牛乳乳製品,茸類,豆類,ビタミン B<sub>1</sub> などが抽出された。大津市と湖東地域は,食生活が異なり,集積する死因も対称的であった。<br/><b>結論</b> ベイズ推定による SMR を用いることで,人口が調整され,地域の比較が可能になった。さらに,どの地域にどの死亡が集積しているか検討することにより,滋賀県の死亡状況が明らかとなった。また,栄養素摂取量等との解析より,関連が明らかとなり,今後の保健医療対策を考える上での基礎的資料となった。