- 著者
-
堤 純
- 出版者
- The Association of Japanese Geographers
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- pp.100188, 2014 (Released:2014-03-31)
本報告は,オーストラリア統計局(以下,ABS)が提供する機能(カスタマイズ可能な詳細な国勢調査データ)を活用して,人口急増の著しいオーストラリアのシドニーにおけるジェントリフィケーションの特徴を考察した。1990年代後半以降に進展したグローバリゼーション下において,シドニーはオーストラリア国内では最も急速に,かつ顕著に成長した都市である。アジア太平洋地域の拠点として,国際金融機能や外資系企業の地域本社も集中した。シドニー都心部およびその周辺部ではオフィスと高層コンドミニアムを組み合わせた複合的な再開発事業が数多く行われ,ダーリングハーバー地区,ワールドスクエア地区,さらにはシドニー湾を越えてノース・シドニーへのバックオフィスの拡大などが急速に進展した。表1は,ABSが提供する国勢調査のうち,前回2006年実施および最新の2011年実施のデータに着目し,同局が提供するデータのカスタマイズ機能(Table Builder)を用いて,過去5年間の人口移動を集計したものである。表中のMarrickville (A)とSydney (C)-South の2つのSLA(≒中統計区)は,いずれもシドニーのCBDに隣接した近接性の高い地区であり,近年の現地の新聞等でも急速なジェントリフィケーションが引き起こす様々な社会問題について報道される機会の多い地区である。2006年から2011年にかけて住所変更のない住民は約40%にすぎず,それ以外の住人は過去5年の間に当該地区に流入してきた。図1(2006年)および図2(2011年)は,各年次の国勢調査の小統計区を対象に,世帯収入(常住地)に基づいて世帯数を集計し,週給2,000豪ドル(≒19万円,年収約1,000万円以上,@95円/豪ドル換算)以上の割合を示したものである。これらの図によると,2006年の段階では高所得者の割合の高い地区はシドニー湾に面した(とくに北部の)眺望のよい地区が中心であったが,わずか5年後の2011年には,シドニーのCBD(図中★)の西南西約3kmのNewtown地区や約3km南のWaterloo地区を中心に,各統計区内に占める高所得者の割合が50%を越える地区が急増した様子がみてとれる。こうした急速なジェントリフィケーションの進展により,立ち退きを余儀なくされる住民も少なくない。紙面の都合により,社会・経済的な特徴の詳細については当日報告する。