著者
安田 喜憲
出版者
国際日本文化研究センター
雑誌
日本研究 : 国際日本文化研究センター紀要 (ISSN:09150900)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.205-272, 1989-05-21

インダス文明は、四五〇〇年前、突然といってよいほどに、インダス川の中・下流域に出現する。そして、三五〇〇年前頃、この文明は崩壊する。こうしたインダス文明の劇的な盛衰をもたらした自然史的背景に、ヒマラヤの気候変動が、深く関わっていることが、明らかとなった。西ネパールのララ湖の花粉分析の結果は、約四七〇〇年前以降、ヒマラヤの気候が冷涼化し、冬の積雪量が増加したことを、明らかにした。一方、冷涼化によって、南西モンスーンは弱化し夏雨は減少した。冬作物中心の原始的な灌漑農業は、インダス文明発展の基盤を形成していた。積雪量の増加は、冬作物にとって必要な春先の灌漑水を、安定的に供給し、インダス文明発展の契機をもたらした。夏雨の減少は、人々をインダス川のほとりに集中させた。こうしたインダス川沿いへの人口の集中は、文明発展の重要な契機となった。インダス文明は、三八〇〇年前以降、衰退期にはいる。日本を含めたユーラシア大陸の花粉分析の結果は、約四〇〇〇年前以降の気候の温暖化を指摘している。この温暖化は、ヒマラヤの積雪量を減少させ、春先の流出量の減少をもたらした。このヒマラヤから流出する河川の春先の流量の減少が、冬作物中心の農業に生産の基盤を置いたインダス文明に、壊滅的打撃を与えた。日本の縄文時代中期の文化も、五〇〇〇年前に始まる気候悪化を契機として、発展した。日本列島の気候は、五〇〇〇年前以降、冷涼・湿潤化した。とりわけ、海面の低下と沖積上部砂層の発達により、内湾の環境が悪化した。縄文人は内陸の資源を求めて、中部山岳などに移動集中した。この人口の集中が、縄文中期内陸文化の発展をもたらす契機となった。インダス文明と縄文中期文化の盛衰には、五〇〇〇-四〇〇〇年前の気候変動が、深い影を落としている。
著者
森勢 将雅 藤本 健 小岩井 ことり
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.63, no.9, pp.1523-1531, 2022-09-15

本論文では,統計的歌声合成に向けた日本語の歌唱データベース(以下ではデータベースをDBと呼称する)を構築した結果について報告する.歌唱DBは歌声のジャンルを統一して構築することが望ましく,著作権上の問題を勘案し,従来は著作権の切れた童謡が用いられてきた.一方,2019年に改訂された著作権法第三十条の四に基づき,利用条件に制約があるものの,既存の楽曲を用いた歌唱DBを研究者向けに公開する動きもある.本研究は,さらに利用条件を緩めるため,従来の歌唱DBと同程度の規模ですべてオリジナルの楽曲で構成される新たな歌唱DBを構築する.構築する歌唱DBでは,音高,音高遷移,音符の長さや,日本語で出現するモーラを幅広くカバーすることで,様々な楽曲の合成に対応できることを目指す.既存の歌唱DBと比較してカバーするモーラの種類が多いことを確認し,エントロピーによる評価では,全項目で最高値ではないものの,良好な結果を達成した歌唱DBであることが示された.
著者
山本 啓介
出版者
国文学研究資料館
雑誌
国文学研究資料館紀要 = National Institure of Japanese Literature (ISSN:18802230)
巻号頁・発行日
no.40, pp.117-151, 2014-03-14

飛鳥井家は『新古今和歌集』撰者の一人である雅経を祖とする和歌・蹴鞠の家である。本稿はその飛鳥井家の当主と周辺における蹴鞠の伝授書の整理分析を中心に行った。飛鳥井家による蹴鞠伝授書は、現在確認した限りでは、早くは応永一六年(一四○九)の雅縁のものから、慶長一八年(一六一三)の雅庸まで計三七種類がある。これらの書の伝授奥書には、対象や伝授の状況なども記されていることが多く、飛鳥井家と門弟との関わりや動向について知る手がかりとなる。その分析から、飛鳥井家が室町から近世にかけての長期にわたり、公家や守護大名、地方武士に至る広い階層に伝授を行っていたことや、地方下向中の伝授や口伝を筆記したものなどの様々な伝授形式があったことが知られる。また、被伝授者の中には飛鳥井家の和歌の門弟としての事跡も残っている人物もいるため、その他の蹴鞠伝授者の場合も同様に和歌の門弟であった可能性を考えてよいものと思われる。被伝授者の中にはその詳細が判然としない人物も少なからずあったが、むしろ本資料の紹介によって明らかとなる事実もあることだろう。This report is an analysis about the Initiation books of “kemari” written by Asukai family in Muromachi and Warring States period.These Initiation books exist 37 kinds. From these, a relation and the trend with the pupil are identified as a person of Asukai family. It lasted for a long term from Muromachi to the early modern times, and the Asukai family knew various instruction forms such as the things which took notes of in a downward direction instruction and learning through the grapevine to a thing and the district which I initiated the wide hierarchy before reaching a court noble and a feudal lord, the district samurai into.
著者
長谷川 眞理子 Mariko HASEGAWA
出版者
総合研究大学院大学 学融合推進センター
雑誌
科学と社会2010
巻号頁・発行日
pp.399-419, 2011-03-31

第Ⅲ部 生命科学と社会2009 第4章 生命科学と社会(4)
著者
中谷 康司
出版者
保健体育研究所紀要編集委員会
雑誌
中央大学保健体育研究所紀要 = Bulletin of the Institute of Health and Sports Science, Chuo University (ISSN:09104046)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.23-38, 2022-06-30

This study investigated the origin and diffusion of “Begins and Ends with a Bow.” in Japanese martial arts. Takaharu Naito first used this term in 1905. However, I revealed that Sanemichi Kumamoto wrote an idea similar to that in 1891. The Dai Nippon Butoku Kai played an important role in the diffusion of this expression. As a result, itʼs phrase became popular in the martial arts industry by the early Showa period. In addition, this study considered about the proper implication of this slogan, and found an affinity between martial arts and civility in terms of worldly wisdom or self-defense. Consequently, I propose that those peoples who practice martial arts should eventually reach the ultimate stage on mastering civility as a survival strategy.
著者
金子 直矢 伊東 孝紘 勝田 肇 渡辺 敏暢 岡田 和也 阿部 博 大西 亮吉
雑誌
研究報告インターネットと運用技術(IOT) (ISSN:21888787)
巻号頁・発行日
vol.2022-IOT-56, no.3, pp.1-8, 2022-02-28

自動車の遠隔運転では,従来運転者が車内で知覚していた車の視覚・聴覚情報を遠隔地にいる運転オペレータに対して安定的に伝送しなければならない.本研究は,移動体通信回線を備えた自動車から遠隔地のオペレータ端末への映像伝送に WebRTC を用いる環境を想定し,通信品質向上への MP-QUIC プロトコルの適用可能性検証を行う.WebRTC は,インターネットにおいて端末・サーバ間で P2P 通信路を確立し通信を行うため,遠隔運転に必要な低遅延な通信を実現できる可能性がある.しかし,移動する自動車からの通信は不安定になることもあり,遠隔運転の安全性を高めるためにより安定した通信方式を確立しなければならない.そこで,本研究では複数の異なる通信回線を利用して通信を行うマルチパス通信プロトコルの一つである MP-QUIC を採用することにより,WebRTC 通信の可用性および品質の向上を試みる.MP-QUIC は,ユーザランドで動作し低遅延なトランスポートプロトコルである QUIC を対象にマルチパス通信技術を導入しており,遠隔運転に必要な通信品質を安定的に提供できる可能性がある.評価では,WebRTC を用いた映像伝送システムに対して MP-QUIC の組み込み,市街地を走行する自動車から複数の移動体通信回線を用いた映像メディアの伝送を実施し,遅延および映像品質の計測を行う.
著者
杉本 真理子 Mariko SUGIMOTO
出版者
神戸芸術工科大学
雑誌
芸術工学2011
巻号頁・発行日
2011-11-30

この報告は、2010年10月17日~27日まで、神戸市のギャラリーにて開催された「OTOME展」についてのものである。「おとめ」とは何か、ただ単に「女性」や「少女」をテーマにしただけのイラスト展ではなく、インターネットのない時代から現代まで「カルチャーの原点は雑誌である」という仮説のもと、日本で最初の「少女まんが」は何か、少女まんがに影響された「叙情画」とは何か、昭和初期と現在の少女の文化はどう変化していったかということと、サブカルチャーの今までのあり方、さらにこれからのあり方を想定し、社会的背景や、ジェンダーの問題がどのように少女文化に影響を与えたのか、などの問題をふまえた上で、現在流行している「タレント本」から、細分化された「まんが」「ゲーム」「ライトノベル」などに登場するキャラクターの変化や、また別の切り口として「少女まんがは異端の文化」である事を理論付け、男性から見た現代の「OTOME」の姿と、女性から見た原点の「OTOME」の像を、イラストという形態でアウトプットし、展示した時に生じる何らかの差異が表面化できるかどうか試みたのが、今回の主旨でもある。