著者
勝俣 学
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2006-03-15

食肉中には、パントテン酸(PaA)、パンテテイン(PaSH)、コエンザイムA(CoA)など各種PaA誘導体が含有される。これらには、血中コレステロール(CH)やトリグリセリド(TG)の値を減少させるなど脂質低下作用のあることが知られている。しかし、いずれの化合物も、含有量が少ない、生理作用が弱い、不安定で容易に酸化される、分解されやすい、工業的生産に不向きである等の欠点があるので、機能性食品として応用するためには、それらの欠点を解決する必要がある。本研究では、PaA誘導体の中で、比較的安定で酸化されにくく、工業的生産が容易なパンテテイン-S-スルホン酸(PaSSO_3H)に注目した。 PaSSO_3Hの生理作用に関する研究は、これまでビフィズス菌の成長促進因子としての観点から進められてきた。例えば、Bifidobacterium bifidum N4株を用いたPaSSO_3Hの代謝経路に関する研究では、PaSSO_3Hは、PaA誘導体の中で脂質低下作用を示し、機能性食品として用いられているパンテチン(PaSS)と、PaAから4'-ホスホパンテテイン(P-PaSH)を経てCoAに至る一連の代謝経路の中で、P-PaSH以降CoAまで同様の経路で代謝される。もし動物の生体内においても、PaSSO_3Hが細菌と同様の経路で代謝されるならば、PaSSと同様に脂質代謝に効果を持つ可能性がある。しかし、今までにPaSSO_3Hおよびその塩が脂質代謝に影響を及ぼすという報告はない。 PaSSO_3Hは粘稠性が高く結晶化が困難なので、本研究では、そのカルシウム塩のパンテテイン-S-スルホン酸カルシウム(PaSSO_3Ca)を用い、脂質低下作用およびその作用機序について以下の検討を行った。第1章 マウス、ラット、ハムスターおよびウズラの血中脂質に及ぼすPaSSO_3Caの影響 PaSSO_3Caの各種動物に対する脂質低下作用を調べた結果、脂質低下作用に種差が存在し、血中CH低下作用はマウス、ハムスターおよびウズラにおいて、血中TG低下作用はマウス、ラットおよびハムスターにおいて認められた。このような種差が見られた理由としては、動物種による脂質およびリポタンパク代謝の違い、また、リノレン酸、ビタミンE誘導体あるいはセサミンに見られるような動物種による投与化合物への感受性の違いが考えられる。第2章 高CH飼料給与動物の脂質動態に及ぼすPaSSO_3Caの影響 高CH飼料で飼育した時の血中脂質に及ぼすPaSSO_3Caの影響を、マウス、ラット、ハムスター、ウズラおよびウサギを用いて検討した。 その結果、1%CH(0.5%コール酸ナトリウム(CA)含有)飼料で2週間飼育したマウスではCH低下作用を示さなかった。ハムスターでは、1%CH(0.2%CA含有)飼料での3週間飼育による血中CH上昇に対し、有意ではないが、低下傾向を示した。一方、1%CH(0.5%CA含有)飼料で2週間飼育したラットでは、1週間から2週間で有意(p<0.05)な血中CH低下作用を示した。他方、ウズラを0.5%CH(0.1%CA含有)飼料で飼育すると、4週間で血中CHは正常群の約6倍に上昇し、16週間目まで上昇した。この血中CH上昇に対し、PaSSO_3Caは観察期間中すべての週で有意(p<0.05)な低下作用を示した。さらに、ウサギを0.5%CH飼料で30日間飼育すると、血中CHは10日から30日まで上昇し、この上昇に対しPaSSO_3Caは21日目に有意(p<0.05)な低下作用を示した。第3章 実験的高CH・TG血症ラットに及ぼすPaSSO_3Caの影響 卵黄の2週間反復経口投与(卵黄:卵白=3:1、2mL/日)による高CH・TG血症、甲状腺ホルモン合成阻害剤であるPTU(6n-propyl-2-thiouracil)の2週間反復経口投与(1mmol/kg/日)による甲状腺機能低下時の高CH・TG血症、およびトライトン(界面活性剤、400mg/kg、静脈内単回投与)誘発高脂血症のモデルラットに対するPaSSO_3Caの脂質低下作用を検討した。 その結果、卵黄投与ラットでは無処置群ラットと比較し、血中CHおよびTGが上昇したが、PaSSO_3Caはこの無処置群ラットの両脂質の上昇を有意(p<0.05)に抑制した。PTU投与ラットでも、無処置群ラットより血中CHおよびTGが上昇し、PaSSO_3Caは、この両脂質の上昇を有意(p<0.05)に抑制した。また、トライトン投与によりラット血中CHおよびTGは、他のモデル同様上昇するが、PaSSO_3Caはこれに対しても有意(p<0.05)な上昇抑制効果を示した。第4章 実験的高TG血症および脂肪肝ラットに及ぼすPaSSO_3Caの影響 高TG血症および脂肪肝には、(1)血中TG分解酵素活性の低下による高TG血症モデル(アロキサン(AX)、イントラリポス(IL))、(2)外因性TG投与による高TG血症モデル(IL)、(3)脂肪組織からのFFA動員による高TG血症モデル(AX)、(4)脂肪の合成亢進による高TG血症モデル(フルクトース(FW)、AX)、(5)FFAの酸化障害性高TG血症・脂肪肝モデル(急性エタノール(ET)投与、慢性ET投与)、(6)VLDL合成障害による肝臓からのTGの血中への放出抑制による脂肪肝モデル(テトラサイクリン(TC)、オロチン酸(OA)、エチオニン(EN))、および(7)VLDL合成亢進による脂肪肝モデル(FW)などが知られている。そこで、それぞれのタイプの高TG血症および脂肪肝ラットを作成し、PaSSO_3Caの高TG血症および脂肪肝に対する効果について検討した。 その結果、AX、IL、FW、ETで誘発した高TG血症のラットにおける血中TG、およびET、TC、OA、ENで誘発した脂肪肝のラットにおける肝臓のTGに対して、PaSSO_3Caは有意(p<0.05)な低下作用を示すことを明らかにした。第5章 PaSSO_3Caの脂質低下作用機序の検討 第1節 高CH飼料給与ラットを用いたCH低下作用の機序 PaSSO_3Caの血中CH低下の作用機序について、1%CH(0.5%CA含有)飼料で2週間飼育したラットを用いて、PaSSO_3Caの、(1)CHの吸収、分布および胆汁中への排泄に及ぼす影響、(2)胆汁中への胆汁酸(BA)およびCHの排泄に及ぼす影響、(3)低比重リポタンパク(LDL)-CHの血中からの消失に及ぼす影響、(4)CHのふん中への排泄に及ぼす影響、および(5)肝臓における酢酸およびメバロン酸(MA)からのCH合成に及ぼす影響について、それぞれ検討した。 その結果、PaSSO_3Caは、(1)[^3H]-CH経口投与後の経時的な血中放射能レベル(48時間まで観察)から、CH吸収に影響しなかった。胆汁中への[^14C]-CH(静脈内投与)および[^3H]-CH(経口投与)由来の放射能の排泄量(CHあるいはBAを含む。48~50時間の2時間分)をそれぞれ高CH群の118%および120%に上昇させた。(2)高CH群に比較し、胆汁中へのBA排泄量を0~6時間で高CH群の118%に上昇し、CH排泄量に影響を与えなかった。(3)[^14C]-CHで標識したLDL-CHを多く含む血清を静脈内投与(3.7×10^6dpm/ラット)した後の、血中放射能([^14C]-CH)を経時的に測定したところ、血中からのCHの消失時間を0~30分で高CH群の約1/3に短縮した。(4)ふん中への[^14C]-CHおよび[^14C]-BAの排泄量を、高CH群の108%に上昇させた。(5)肝臓での[^14C]-酢酸および[^14C]-MAからの[^14C]-CH合成を、それぞれ高CH群の70%および68%に低下させた。 これらの結果から、PaSSO_3Caは腸管でのCHの吸収に影響を与えず、吸収されたCHのBAへの変換を促進し、BAの腸肝循環を阻害し、胆汁中およびふん中へのCHの排泄を早め、血中からのCH消失を促進することがわかった。一方、肝臓においても、PaSSO_3CaはMAからCHまでの合成経路を阻害することにより、肝臓中のCHを減少させることが判明した。 第2節 ラットの脂質動態に及ぼすPaSSO_3Caの作用 第1章において、市販ラット飼料で飼育したラット(正常群)に対し、PaSSO_3Caの2週間反復投与が血中CH値に影響を与えないことを明らかにした。この原因について、PaSSO_3Caの、(1)CHの吸収、分布および胆汁中への排泄に及ぼす影響、(2)胸管リンパからのCH吸収に及ぼす影響(摂食および絶食下で8時間まで観察)、(3)肝臓における酢酸からのCH合成に及ぼす影響について、それぞれ検討した。 その結果、PaSSO_3Caは、(1)[^3H]-CH経口投与後の経時的な血中放射能レベル(48時間まで観察)から、CH吸収を上昇させることが示された。胆汁中への[^14C]-CH(静脈内投与)および[^3H]-CH(経口投与)由来の放射能の排泄(CHあるいはBAを含む。48~50時間の2時間分)を、それぞれ正常群の117%および137%に上昇させた。胆汁中のBAおよびCHを測定したところ、BAは正常群の116%に上昇し、CH量に変化はなかった。(2)絶食下で胸管リンパ中へ分泌される累積CH量を、6および8時間で有意(p<0.05)に低下した。(3)肝臓で、[^14C]-酢酸からの[^14C]-CH合成を正常群の82%に低下した。 これらの結果から、ラットにおいてPaSSO_3Ca投与によりCHの消化管からの吸収が上昇し、これにより血中CHは正常値より一時的に上昇することが推察された。一方、肝臓において、CH生合成の抑制および胆汁中へのBAの排泄が増加することを明らかにした。また、血中ではCH消失が亢進して血中CHは減少し、正常値に戻ることを示した。このように、PaSSO_3Caは正常ラットの血中CHを低下させない機序を究明した。 第3節 ラットに対するPaSSO_3CaのTG低下作用の機序 第3章および第4章において、PaSSO_3Caは各種高TG血症または脂肪肝モデル動物の、血中および肝臓中のTG低下作用を示すことを、明らかにした。そこで、PaSSO_3Caの血中および肝臓中のTG低下作用の機序を究明するため、ラットを用いPaSSO_3Caの、(1)オリーブオイル(OO)吸収に及ぼす影響(OO投与後24時間まで観察)、(2)胸管リンパからのTG吸収に及ぼす影響(摂食および絶食下で8時間まで観察)、(3)絶食およびノルエピネフリン(NE)静脈内投与時の脂肪組織から血中への脂肪酸(FFA)遊離に及ぼす影響、(4)酢酸からのTG合成に及ぼす影響、(5)肝臓中のCoA量に及ぼす影響、(6)外因性TGの血中からの消失に及ぼす影響、(7)TG代謝関連酵素活性に及ぼす影響(1%CH飼料で飼育したラットおよびTC誘発脂肪肝ラット)、および(8)in vitroでのTG分解に及ぼす添加効果について、それぞれ検討した。 その結果、PaSSO_3Caは、(1)OO投与後の血中TG量を、12時間~24時間で有意(p<0.05)に低下させた。(2)絶食下で胸管リンパ中へ分泌される累積TG量を、4、6および8時間で有意(p<0.05)に低下させ、摂食下でその効果は消失した。(3)絶食およびNE投与により、上昇した血中FFAを有意(p<0.05)に低下させた。(4)[^14C]-酢酸からの[^14C]-TG合成を有意(p<0.05)に上昇させた。(5)肝臓中のCoA量を変化させなかった。(6)脂肪乳剤静注後の血中TGの消失を、対照群の60%に短縮させた。(7)高CH群に比較し、血中lipoprotein lipase(LPL)と肝性TG lipase(HTGL)の活性を上昇させた。TC処置群に比較し、血中LPLとHTGL活性を上昇させた。また、TC処置による肝臓中のTG上昇、血中TG低下を有意(p<0.05)に抑制した。(8)血中TG分解を亢進させ、LPL活性を上昇させた。 これら(6)、(7)および(8)の結果から、PaSSO_3Caによる血中TGの低下は、TGのFFAへの分解(異化)が原因であることが明らかとなった。さらに(3)の結果より、FFA動員の抑制もTG低下に影響を与えることを究明した。また、TC処置時の肝TG上昇、血中TG低下を有意に抑制したことで、PaSSO_3CaによるTGの肝臓からの放出促進が脂肪肝改善の作用機序として示唆された。 このように、脂質代謝の正常なマウス、ハムスター、ウズラに対しPaSSO_3Caは血中CHおよびTGの値を低下させる作用を有し、高CH飼料で飼育したラット、ウズラ、ウサギに対しても血中CH低下作用を示した。一方、PaSSO_3Caは卵黄、PTUおよびトライトン投与により作成した高脂血症ラットに対しても血中CHおよびTG低下作用を示し、AX、IL、FW、ET、TC、OAおよびENによって誘発される高TG血症と脂肪肝に対しても、TG低下作用を有することを見出した。さらに、PaSSO_3Caの持つ血中CH低下作用機序は、主に肝臓でのCHからBAへの変換の促進と、BAの腸肝循環の阻害によることを示した。また、血中TG低下作用機序は、TG分解系の酵素活性を上昇させることに起因することを究明した。
著者
山田 昌史
出版者
常葉大学外国語学部
雑誌
常葉大学外国語学部紀要 = Tokoha University Faculty of Foreign Studies research review (ISSN:21884358)
巻号頁・発行日
no.33, pp.107-114, 2017-03-01

本稿は、英語の口語表現にみられるgo get 構文について、これまで観察されてきた事実に、Corpus of Contemporary American English (= COCA) からの検索例を加えて、この構文に特異的に見られるbare-stem condition(cf. Carden & Pesetsky(1977))について確認した。そして、この構文の理論的な説明を試みるBjorkman (2010)を批判的に検討して、形態統語論の立場から新たな分析を提示した。具体的には、既に複合している複合語の外側には新たな形態素を複合できないとするMyers(1984)の一般化を援用することで、複合動詞の外側に新たな形態素が付与できないと分析することで、この構文が動詞の原形しか生じることができないことを理論的に説明した。
著者
熊野 陽人 Kumano Akihito 湘北短期大学
巻号頁・発行日
no.35, pp.131-136, 2014-03-31

本研究の目的は,女子学生を対象に,立ち幅とび跳躍距離と体格の関係性を検討し,立ち幅とびを体力テスト項目として行う有用性を検討することであった.検討の結果,以下のことが明らかになった.女子学生において,立ち幅とびの跳躍距離と身長,体重,BMI の間に有意な相関関係は認められなかった.また,女子学生において,立ち幅とびの跳躍距離と5 種目 (握力,上体起こし,長座体前屈,反復横とび,20m シャトルラン) 合計得点の間に,有意な正の相関関係 (r=0.555,p<0.01) が認められた.
著者
秋吉 亮人
出版者
麻布大学
巻号頁・発行日
2017-09-30

【緒言】犬・猫における慢性肝疾患には血管異形成・肝炎・腫瘍など様々な疾患が報告されている。犬においては、しばしば持続性の肝酵素上昇の症例が見られ病理組織検査の結果、原発性門脈低形成(PHPV)と診断される。PHPVにおいては後天性門脈体循環側副血行路(APSCs)の発現を伴うPHPVの発生例も報告されており、APSCsを伴うと肝機能が不可逆的に重度に低下するため、早期発見・診断が必要である。しかし、現状では本症を迅速かつ的確に検出しうるスクリーニング項目や予後は文献上においても報告されていない。そこで、今回PHPVの症例をスクリーニング検査する上で有用なマーカーの検討と、予後調査を行った。また、猫においては、肝リピドーシスが多く発生しており、基礎疾患に併発して発生する二次的な肝リピドーシスが大多数を占める。しかし、リピドーシス自体に対する特異的な治療はなく、栄養療法主体で時にはリピドーシスの改善に数週間以上を要することもあり、難治性疾患である。犬と猫で動物種は異なり、病態の発生要因は異なるが、これらの疾患は、病理組織学的変化の共通事項として肝細胞がグリコーゲン変性や脂肪変性を起こし、肝機能が著しく低下し重篤化することが挙げられる。現在、肝細胞の変性に対する特異的な治療薬は存在しない。そこで、肝細胞の変性自体に特異的な治療薬の検討を猫の肝リピドーシスに対して行った。【第1章】犬のPHPVにおける臨床病理学的検討1.目的本研究の目的は、現在までに報告されていない犬のPHPVにおける早期診断に有用なスクリーニング検査項目の検討および本疾患の予後を調査することである。2.材料・方法一次診療施設(一般開業動物病院)において、血液化学検査によりALT・AST・ALP・GGTなどの肝酵素上昇、BUN・TCHO・Glu・Albなどの減少、あるいはT-Bil・NH3の増加などいずれかの異常が2カ月以上認められ、かつ利胆剤、抗生物質など標準治療に反応せず、組織検査により確定診断された犬52頭を対象とした。腹部X線、腹部超音波、TBA測定、CBC、血液凝固系検査(PT・APTT・Fib・ATⅢ)を複数回実施した後、開腹下肝組織生検を3葉において行い病理組織検査を実施した。結果は、多重ロジスティックス解析により統計処理を実施し、P値0.05未満で有意差ありとした。生存期間はPHPVと診断された症例において病理検査の診断日を開始日として算出した。3.結果PHPVと診断された個体は30頭で、他の22頭は腫瘍性疾患、炎症性疾患、門脈シャント等様々であった。PHPV群30頭と非PHPV群22頭に分け解析したところ、TBAのPHPV検出感度は33.3%(10/ 30頭)、特異度は40.9%(9/ 22頭)、血漿Fib濃度の検出感度は66.6%(20/30頭)、特異度は72.7%(16/ 22頭)、超音波検査による右肋間走査におけるカラードプラでの肝動脈陰影の確認の検出感度は56.7%(17/30)、特異度90.9%(20/ 22頭)であった。また、TBA、血漿Fib濃度の両方をマーカーとして用いた場合のPHPVの検出感度は76.6%(23/30頭)であった。統計解析ではPHPV群では血漿Fib濃度の低下(P=0.022)、肝動脈陰影の確認(P=0.015)で有意差が見られた。従来から肝機能検査に特異度、感度共に高いとされていたTBAでは、両群間に有意差を認めなかった。PHPV群の予後調査の結果は、平均観察期間は865.1日、死亡症例は5頭であり、生存期間中央値は得られなかった。このうち10%(3/30頭)が、APSCsによる肝性脳症が死因であった。4.考察今回の研究により、犬の慢性肝疾患としては、PHPVが最も多く30/52(57.7%)であり、これは過去の二次診療施設における報告の29.4%と比較しても上回っており、日本国内で最も多く発生する肝疾患である可能性が示唆された。このPHPVに関しては、血漿Fib濃度測定、超音波検査における肝動脈陰影の確認という2点において有意差がある結果が得られた。従来のTBA検査に、これらの検査を組み合わせることがPHPVの早期発見、早期診断に繋がる可能性が示唆された。予後に関しては、生存期間中央値が得られなかったため、臨床的には良好である可能性が示唆された。しかし、死亡症例5頭中3頭がAPSCsを引き起こし、肝性脳症で死亡しているため、APSCsを呈した場合は予後不良であることが考えられる。APSCsを引き起こさない限り比較的生存期間は長いと考えられた。【第2章】猫の肝リピドーシスに対するヒトプラセンタ(HPC)製剤の治療効果の検討1.目的現在、犬・猫の肝疾患の治療薬は非常に少ない。医薬品では、ウルソデオキシコール酸など数種類しか使用されておらず、医薬品以外のものとして、SAMeやシルマリンなどのサプリメント、食事療法として低脂肪食などが使用されるのみで、肝細胞の変性に対する特異的な治療薬は現在報告されていない。本研究の目的は、肝細胞再生物質を用いて、肝細胞の変性に対する特異的な治療薬を検討することである。2.材料・方法2011年4月~2015年3月の間に一次診療施設(一般開業動物病院)を受診した19頭であり、現病歴、臨床症状から肝疾患が疑われ、CBC・血液化学検査、尿検査、腹部超音波検査、肝臓細胞診を実施した。血液化学検査においてALT, AST, ALPの上昇を認め、肝臓の細胞診で肝細胞に明瞭な空胞変性を認め続発性肝リピドーシスと診断した。特異的な治療薬としてヒトプラセンタ製剤(商品名:ラエンネック)を使用した。なお、ヒトプラセンタ製剤の中に肝細胞再生物質が含まれている。ラエンネック投与群は10頭、非投与群は9頭であり、投与群は前向き調査、非投与群は後ろ向き調査である。明確にインフォームドコンセントを実施した上で、肝リピドーシスと診断した日より、基礎疾患の治療と栄養療法にラエンネックの皮下注射を併用した。投与量は1日1アンプル2mlとし、投与頻度は、入院治療のものは連日、通院希望の猫は来院の日とした。投与終了は、血液化学検査の改善が見られ、自力採食が可能になった日とした。また、ラエンネック非投与群9頭の猫においては、肝リピドーシスと診断した日より、基礎疾患の治療と栄養療法のみを行った。ラエンネックの効果を比較検討するために、ラエンネック投与群10頭とラエンネック非投与群9頭において、ALT、AST、ALP、T-Bilの改善度合い、入院期間においてカイ2乗検定、Log rank試験による統計処理を実施し、肝リピドーシスに対するラエンネックの効果を検討した。3.結果ラエンネック投与前の10頭における平均値はそれぞれ、ALTが605±357U/l、ASTが339±154U/l、ALPが392±296U/l、T-Bilが1.7±1.50mg/dlであった。ラエンネック投与終了後の平均値はそれぞれ、ALTが221±142U/l、ASTが158±153U/l、ALPが239±320U/l、T-Bilが0.7±0.90mg/dlであった。自力採食が可能となった退院までの入院期間の幅は3~7日であり、平均で4.9日であった。ラエンネック非投与群の入院治療前の9頭における平均値はそれぞれ、ALTが1257±1615U/l、ASTが697±653U/l、ALPが354±402U/l、T-Bilが2.9±2.76mg/dlであった。入院治療終了後の平均値はそれぞれ、ALTが755±889U/l、ASTが286±298U/l、ALPが375±451U/l、T-Bilが2.3±1.90mg/dlであった。また、食欲不振が改善し自力採食可能となる退院までの入院期間の幅は、6~16日であり、平均で12.3日であった。統計処理の結果、明らかな有意差が認められたものはALTの改善度合い(P=0.026)及び入院期間(P=0.001)であった。4.考察今後、ラエンネックを使用する症例数を増やし前向き研究を継続し、さらなる治療効果確認、投与量、投与間隔などを具体的に決定することが可能となれば、ラエンネックが肝リピドーシスの有効な補助療法となる可能性が示唆された。【第3章】総括近年、犬ではPHPV、猫では肝リピドーシスの発生が増加傾向にある。特に犬に多いPHPVは無症候性であることが多く、早期診断方法や治療方法、予後は過去の文献上においても報告されていない。第1章では、各種検査項目を統計処理することにより、血漿Fib濃度の低値と超音波検査における肝動脈陰影の確認という2点の検査に有意差が認められ、これらを従来からの検査項目に併用することが早期にPHPVを疑うスクリーニング検査項目になる可能性が示唆された。ただし、超音波検査においては、機種や検査者、犬の体型などによっても誤差が生じる可能性があり、今後これらを踏まえた検討が必要である。また、PHPVの1年生存率は90%以上、平均観察期間は865.1日で死亡症例は30頭中5頭であり、生存期間中央値は得られなかったため、APSCsの併発がなければ、予後は概ね良好であることが明らかになった。第2章では、ラエンネック投与群と非投与群を比較検討した結果、ALTの数値の改善、入院期間の短縮に明らかな有意差が認められ、ラエンネックが肝リピドーシスに有効である可能性が示唆された。ただし、ラエンネックの治療効果や予後に関しては、基礎疾患によって大きく異なる可能性が高く、その正確な効果判定には、さらなるデータの集積に加え基礎疾患の種類の統一化が必要である。さらに本研究はラエンネック非投与群が後ろ向き研究であるため、今後は前向き研究さらには二重盲目試験を実施する必要がある。
著者
谷口 榮
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.118, pp.137-164, 2004-02-27

東京都東部に広がる低地帯を東京低地と呼んでおり,隅田川以東の現在の葛飾・江戸川・隅田・江東区域は歴史的に葛西と呼び慣わされてきた。江戸時代,葛西は江戸近郊の行楽地として,多くの江戸庶民が足を運んだ。その様子は,十方庵敬順の『遊歴雑記』や村尾正靖の『嘉陵紀行』など当時の史料からうかがい知ることができる。本稿では,江戸人が訪れた葛西地域の景観はどのようなものであったのかを探り,その景観的特徴から東京低地に位置する葛西の地域性の一端を明らかにすることを目的とした。分析の結果,葛西の景観の特徴として,眺望の利く「打闢きたる曠地」と,川辺を中心とした川沿いの風景であると指摘することができた。葛西は,河川が集中し,低地ならではの起伏の乏しい平らな土地といえる。その土地には「天然なる奇麗にして眺望いわんことなし」と,水辺には蘆荻が繁茂し,開けた土地には草花・木・鳥などの自然の織り成す「天然」があり,また眺望の素晴らしさが江戸の人々から好まれていたことがわかった。中川や小合溜には釣人が集う格好の憩いの場ともなっていた。18世紀以降,江戸庶民の「延気」の場として『江戸名所図会』の中でも紹介されるようになった葛西は,江戸の人々を受け入れるために,寺社仏閣や信仰だけでなく,茶屋などの休み処が設けられ,川魚料理などの名物や花名所を整備したり,江戸と行楽地葛西を結ぶ曳舟川に引舟を運行するなど,行楽地としての舞台装置が整えられていったのである。しかし近代以降,荒川放水路開削に伴いかつて葛西と呼ばれた広大な開けた土地が分断されてしまう。さらに関東大震災と第二次世界大戦という二つの災害を契機として,都市化という波に浸食されながら,江戸の人々に愛された葛西の風景は,川の汚れとともにその面影を失ってしまった。
著者
千葉 美保子 Mihoko CHIBA
出版者
甲南大学教育教職センター
雑誌
甲南大学教育学習支援センター紀要 = Memoirs of Learning Utility Center for Konan University Students (ISSN:24322334)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.71-79, 2021-03-23

甲南大学では,2015年度より学修支援の一環として,ラーニングアシスタント制度を導入し展開している。ラーニングアシスタント制度は「Teaching is Learning」(教えることで学ぶ)ことをコンセプトとし,3種目の支援を展開している。本稿では,この3種目のうち,授業内ファシリテーション支援を取り上げ,初年次科目の導入事例を対象とし,学生アシスタントによる学びへの効果とその課題について,受講生を対象としたアンケート調査を行った。分析の結果,受講生の多くがラーニングアシスタントによる学修支援の効果を実感している一方,過剰介入の傾向が見られ,場面や状況に応じた介入方法などを検討する必要性が示唆された。
著者
西村 政人 ニシムラ マサヒト Masahito Nishimura
雑誌
雲雀野 = The Lark Hill
巻号頁・発行日
vol.30, pp.11-26, 2008

Boccaccio's Il Filostrato is essential for studying Chaucer's Troilus and Criseyde. However, while reading this work, it was apparent that there are many verbs whose conjugations are different from those in contemporary Italian. The purpose of this paper is to clarify the conjugations of the verbs used in Il Filostrato. First, the present author discusses the overall features of the Italian verbs that appear in this work from both morphologic and syntactic viewpoints. Second, the author deals with the verbs, avere and essere, and makes their special conjugations clear. Part of the conclusions in this paper are stated below. 1. Il Filostrato is a poetic work. Therefore, poetic rules affect the conjugations of the Italian verbs. 2. Boccaccio uses special conjugations if verbs are placed at the end of the line. 3. Different conjugations of avere and essere can be observed in the future, imperfect, past historic, present subjunctive and present conditional tenses.
著者
飯田 昭人 佐藤 祐基 新川 貴紀 川崎 直樹
出版者
北翔大学
雑誌
人間福祉研究 = Human welfare studies (ISSN:13440039)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.159-170, 2008

The purpose of this study was to clarify the structure of the "Pain of living" among undergraduate students. A questionnaire was administered to 117 students (36 males, 81 female; mean age 20.4 years; SD=1.13 years). The results indicated that the structure of Pain of living among undergraduate students comprised of 3 categories with five subgroups in each category. The three categories were : "Pain of living that originates in own thinking and feelings," "Pain of living that originates in relations between self and others," and "Pain of living that originates in relations between society and environment and the self." The three categories were found to influence each other. These findings suggest that it is helpful to know the structure of Pain of living, in order to determine how students can be supported.