著者
水草 創斗 梶 克彦
雑誌
研究報告ユビキタスコンピューティングシステム(UBI) (ISSN:21888698)
巻号頁・発行日
vol.2021-UBI-69, no.29, pp.1-7, 2021-02-22

本研究では,スマートフォンと密封袋のみで心臓マッサージの練習が可能な心臓マッサージ練習アプリケーションを制作した.住宅や街中などの医療体制が整っていない場所での突然の心停止の際,その場に居合わせた人による一次救命処置が非常に重要であるとされている.しかし,日本における一次救命処置実施率は約半数に留まっており,実施率の低さが指摘されている.その主な原因として,一次救命処置への知識・経験の不足からなる心理的ハードルの高さが挙げられる.これまで,一次救命処置の実施を促進するため多くの研究が行われてきたが,未だ一般的には一次救命処置を練習する際は,どうしても CPR 練習用マネキンが必要になってしまい,練習コストが高くなってしまうという問題がある.そこで本研究では,世の中に広く普及している気圧センサを搭載したスマートフォンと身近にある密封袋のみを使って練習を可能にし,これまでよりも手軽な心臓マッサージ練習法を提案する.本研究では,スマートフォンの気圧センサから得た情報を基に,心臓マッサージの押し込み強さ推定処理・押し込み判定処理・押し込み間隔推定処理を行い,リアルタイムにスマートフォン画面へフィードバックを行うシステムや自身の心臓マッサージのスキルをテストするシステムの開発を行った.開発したアプリケーションの画面デザインや実用性を評価するため実施した評価実験では,心臓マッサージの押し込む間隔については,練習になるとの評価を受けたが,押し込む強さについては,要領を掴む程度との評価を受けた.また,練習コストに関しては CPR 練習用マネキンを使った練習法より手軽に練習可能なシステムとして評価を受けた.
著者
松原 孝志
出版者
電気通信大学
巻号頁・発行日
2018-03-23

Computers continue to evolve as a tool to expand human intellectual, creative, and emotional activities. Human-computer interfaces play an important role in utilizing the power of computers without interrupting human activities. In recent years, the collaboration between humans and computers has expanded, and the scope of human activity is expanding. Therefore, an interface between humans and computers becomes more important. An effective interface enabling real-world-oriented and intuitive operations is a major factor for increasing the appeal of using computers for information retrieval. Such an interface fundamentally affects human activities widely and generally. When using an interface, the natural action of looking at the screen and moving one's hand is most frequently used. Therefore, the purpose of this research is to develop an interface that extends the interactions between a human and a computer and enables intuitive operations by "seeing and moving." In recent years, intuitive operations by "seeing and moving" focus mainly on touch operations used in smartphones and tablets. Therefore, such operations are limited to short-distance interactions in small-to medium-sized environments with a display. In this research, as an approach to extend such interactions, we consider those in which basic elements such as size, interaction distance, and type of screen in real environments are not restricted. Furthermore, such considerations will enable the creation of an interface that uses a human's natural gestures. Therefore, we conducted research and development with the following two pre-requisites.I. Create an interface that can operate a large screen from an optimal viewing distance.A large screen is excellent for displaying content with a high degree of visibility. This advantage is secured when its content can easily be viewed from far away. Therefore, we will develop an interface that uses natural gestures from the optimum viewing distance of a large screen.II. Create a human interface that can be operated by touching a non-display surface. It is natural to approach a screen and touch it with your hands. However, if you do not have a physical display like a projector or wearable device, you can not touch the screen. Therefore, by enabling the operation of touching a non-display surface, we can extend the interactions.The third section describes a human interface that can operate a large screen from an optimum viewing distance. In this research, we decided to develop a gesture operation method for a digital signage system. We designed the graphical structure and operation methods of the digital signage system. In addition, a usability evaluation was carried out by general subjects to confirm the system's practicality. We determined the following three mechanisms of interaction.(i)As an interface with a graphical structure can be operated intuitively, it is effective to hierarchize the information to be operated and to visualize that hierarchy as a menu by using the depth direction of the screen.(ii)As gesture operations can be performed intuitively and efficiently, it is effective to recognize the movement of a hand approaching the screen and apply this gesture to the selection operation of the menu.(iii)As the position of a large screen affects the operations performed on it, forexample, if the screen is laid flat to improve visibility, consideration for reducing the burden on a person's body is necessary.The fourth section describes an interface that can be operated by touching a non-display surface. The most effective way to use this type of interface is to display an image from a projector or head-mounted display onto surrounding real-world surfaces and touch it directly. However, these surrounding surfaces are not always flat. For example, there might be outlets in a wall or magnets on a desk. In general, there are many surfaces where protrusions are present and/or objects are placed. Therefore, we propose a new touch detection method and a prototype system with an IR camera and two IR lights that requires no surface sensors and can detect a touch even on non-flat surfaces. There are three main contributions in this work. (i)We conducted experiments to determine the accuracy required for touch detection. As a result, nearly all touch operations could be detected if the position of a user's finger is 5 mm or more away from a surface.(ii)We propose a new touch detection method and a prototype system with an IR camera and two IR lights that requires no surface sensors and can detect a touch even on non-flat surfaces. To improve touch detection, we have developed two echniques: extraction of shadow area and detection of shadow shape change.(iii)We evaluated the accuracy of touch detection with our prototype system and found that a touch can be detected with high accuracy over a large (80 inches wide) operating surface.The fifth section concludes the results of this research. In this research, to extend human-computer interactions, we developed a real-world-oriented interface that enables intuitive operations by "seeing and moving" with various environments and devices. We want to further develop the interface not only to make it easier for a human being to use a computer but also develop technology that contributes to maintaining the quality and value of a sophisticated system.コンピュータは人の知的,創造的,感性的な活動を拡張するための道具として進化を続けている.人の活動を阻害することなくコンピュータのパワーを利用するために,ヒューマンインタフェースは重要な役割を担ってきた.近年では,人とコンピュータが高度に連携,融合するインタラクションの拡張により人の活動範囲が広がっており,人とコンピュータの界面となるヒューマンインタフェースがより重要度を増している.実世界指向で直感的な操作性を実現した快適なヒューマンインタフェースは,情報機器製品としてのコンピュータの魅力を高める大きな要因となっている.このような実世界指向インタフェースは,人が常に具体的な環境の中にいるが故に,人の活動において最も基本的であり,広く一般に影響を及ぼす.実世界指向インタフェースにおいて,特に「見て,手を動かす」操作は人が自然に利用でき,尚且つ,最も利用頻度が高い操作のひとつである.そこで,本研究では,実世界指向インタフェースによるインタラクション拡張のために,「見て,動かす」直感的な操作を可能にするヒューマンインタフェースを実現することを目的とした. 「見て,動かす」直感的な操作は,近年,スマートフォンやタブレットなどのタッチ操作を中心に洗練されてきた.これは「中小型」「手元」「ディスプレイ」という限定された実環境でのみ,直感的な操作が実現されていると言い換えることができる.そこで,本研究では,インタラクションを拡張するためのアプローチとして,実環境における画面の「大きさ」「距離」「種類」という基本的な要素が限定されることのないインタラクションを検討し,人の自然な行為を取り入れたヒューマンインタフェースを実現する.そこで,次の2つの観点で研究開発を行った.・大画面を最適視距離で操作できるヒューマンインタフェース 大画面は視認性や情報の一覧性に優れる.この長所は,大画面を見やすい距離 (以下,最適視距離)に離れて見るときに担保されるため,最適視距離で行う 自然な行為を操作に取り入れて,インタラクションの拡張を実現する.・非ディスプレイ面に触れて操作できるヒューマンインタフェース 画面に近づいて手を触れて操作することは直感的であり自然な行為として行わ れるが,プロジェクタやウェアラブルデバイスのように物理的なディスプレイ が存在しない場合,画面に触れて操作できない.そこで,このような非ディス プレイ面に触れて操作できるようにすることで,インタラクションの拡張を実 現する. 本論文は以下のように構成される.第1章は序論として,研究の背景とヒューマンインタフェースの役割を述べ,研究の目的とアプローチを明らかにする.第2章では,従来研究について論述し,その課題について議論する.第3章と第4章は,論文の主内容として研究開発したヒューマンインタフェースを整理する.第3章は大画面を最適視距離で操作できるヒューマンインタフェースについて論じる.本研究では,大画面の用途を具体的に定め,その用途を対象とした操作およびシステムを統合的に開発することで,大画面を最適視距離で操作するための基本技術を確立する方針とした.この具体的な用途として,ジェスチャ操作を用いてフロアガイドコンテンツをインタラクティブに操作できるデジタルサイネージを選定した.グラフィック構造および操作方法の設計を行い,デジタルサイネージのシステムを実装して試作検証した.また,一般被験者でのユーザビリティ評価により,利用方法を説明することなく目的の操作を実行できる,公共用途に適した実用性を確認した.インタラクションの仕組みとして以下の3つの成果を得て,これにより大画面を最適視距離で操作する基本技術を確立した.(i) 直感的に操作できるグラフィック構造として,操作対象の情報を階層化すると ともに,画面の奥行き方向を利用して階層を可視化する表現が有効である.(ii) 直感的かつ効率的に操作可能なジェスチャ操作として,手が近づく動きのジェ スチャを認識してメニュー階層の選択操作に適用することが有効である.(iii) 大画面の操作は,画面を寝かせて見やすくするなど,身体への負担軽減の配慮 が必要である. 第4章は非ディスプレイ面に触れて操作できるヒューマンインタフェースについて論じる.本ヒューマンインタフェースの最も有用な用途は,周囲の実空間の様々な面にプロジェクタやヘッドマウントディスプレイで画面を重畳して表示し,重畳した画面に直接タッチ操作することであると考える.しかしながら,身の回りにある机上や壁面などの様々な面上は,物が置かれる,突起物があるなどの状態が多い.そこで,面上や面の周囲の様々な状態に対応してタッチ検出する方法として,赤外カメラと2つの赤外照明を用いて指先の左右にできる影を利用して指先の接触を検出する新たな手法を提案する.提案手法を用いてタッチ検出を行うシステムを開発した.この開発を通じて,以下の3つの成果を得て,これにより非ディスプレイ面に触れて操作する基本技術を確立した.(i) タッチ検出に必要な精度を求める実験を行い,面から指が5mm以上離れたこと が判別できれば,ほぼ全てのタッチ操作が検出できることを明らかにした.(ii) 赤外カメラと2つの赤外照明を用いて,非ディスプレイ面でタッチ検出できる新 たな手法を提案し,高精度なタッチ検出を実現するために,影領域の抽出技術と影 の変化の検出技術の2つの技術を開発した.(iii) 提案手法の試作検証とタッチ検出精度の評価を行い,80インチの操作対象面の全 面で高精度にタッチ検出できることを確認し,提案手法の有効性を確認した. 第5章では本研究の成果を総括する.本研究では,人間とコンピュータのインタラクションの拡張に向けて,実世界指向インタフェースにおける「見て,動かす」直感的な操作を様々な実環境やデバイスで実現するヒューマンインタフェースの基本技術を確立した.ヒューマンインタフェースは,人間とコンピュータの界面としてインタラクションを支える役割を増している.ヒューマンインタフェースが人間にとっての使いやすさを超えて,高度なシステムの質や価値を維持するために効果を発揮する技術開発にさらに努めたい.
著者
川上 隼斗 笹田 裕太 五十嵐 覚 秋田 純一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.1174-1183, 2015-04-15

視線計測はユーザインタフェースや心理状態の分析などインタラクション分野での幅広い応用が期待されている.サッケードと呼ばれる高速な眼球運動は,従来の視線計測システムではリアルタイムでの追尾が不可能であるものの,新しいインタラクションへの応用が期待されている.本稿では,サッケードを含む眼球運動を500[fps]以上の高フレームレート,かつリアルタイム(低レイテンシ)で計測・追尾が可能な視線計測システムの開発について,高速カメラとFPGAを用いた実動作検証システムと専用イメージセンサの設計のそれぞれについて述べる.またそれを用いて「サッケードが行き着く先」を先回りで予測する手法について検討した結果について述べ,さらにそのリアルタイムのサッケード予測を用いるインタラクションの可能性について考察する.
著者
谷釜 了正
出版者
日本体育大学オリンピックスポーツ文化研究所
雑誌
オリンピックスポーツ文化研究 (ISSN:24325538)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-9, 2020-06-30

本稿は2017年3月21日に行われた第3回マンスリー学術セミナー(主催日本体育大学総合スポーツ科学研究センターFD委員会)での講演が基となっている。
著者
田島 祐奈 山崎 洋史 岩瀧 大樹 Yuna TAJIMA Hirofumi YAMAZAKI Daiju IWATAKI
雑誌
學苑 = GAKUEN (ISSN:13480103)
巻号頁・発行日
vol.892, pp.105-111, 2015-02-01

The rate of young people leaving their jobs has increased in recent years. One reason given for this is their failure to develop interpersonal relationships in the workplace. We think educators must cultivate young people's communication skills and the ability to work in teams. This paper examines modern youths' interpersonal motivations and conforming behaviors. We conducted questionnaire research with 148 university students to obtain basic psychological data that we hope will enable us to support them in constructing smooth interpersonal relations. The analyses showed that interpersonal motivations had an influence on conforming behavior. One of the interpersonal relationship styles, conforming to others overtly, has led to difficulties in and dilution of reliable relationships. These characteristics may negatively affect interpersonal relationships in the workplace. Understanding the importance of interpersonal relationships and achieving self-understanding might help young people to develop healthier interpersonal relationships. In addition, we hope that these results will be helpful to those working to support young people in choosing and establishing careers.
著者
小坂 美保 Miho OSAKA
雑誌
女性学評論 = Women's Studies Forum
巻号頁・発行日
vol.31, pp.107-131, 2017-03-20

本研究は、近代都市公園という空間において「女性」がどのように表象されてきたのかについて明らかにしようとしたものである。具体的には、明治時代に誕生した日比谷公園に焦点をあて、女性が公園においてどのように過ごしていたのかを、錦絵に描かれた「女性」から分析することとした。錦絵は、明治期以降、視覚的イメージを流布する一つのメディアとして顕著な存在となっていった。明治維新後の文明開化の光景を視覚的情報として民衆へ提供してきた。言語的メッセージに比べ、視覚的メッセージである錦絵は、多くの人びとに日比谷公園という新しい空間を知らしめるだけでなく、そのような新しい空間において人びとがどのように過ごすべきなのかをも伝えたのではないだろうか。このような視点から、日比谷公園が描かれた7枚の錦絵を「女性」を中心に詳細な分析を行った。錦絵には、多くの女性が描かれていた。どの女性もきれいに着飾り、流行の装いをし、日比谷公園内を逍遥している。7枚の絵は、発行年をみると一番古いものから新しいものまで30数年の開きがある。しかし、7枚の絵に描かれる「女性」の姿は、髪型の違いや着物の柄の違いはあるが、大きな変化はみられない。男性の場合は、洋装や自転車に乗る人が描かれるようになっているのに対し、女性は、着飾り、こどもの手を引き、妻として夫についていく、という「型」からの逸脱がほとんどみられない。つまり、錦絵によって伝えられる「女性」のイメージは画一的である。このことは、公園という場所にふさわしい「女性」の「像」があり、人びとへの視覚的情報として「望ましい女性像」を浸透させていったのではないだろうか。日比谷公園をモチーフにした錦絵からは、女性がまさに近代都市公園にふさわしい「可視的な情報としての "身体"」として、目にみえるように図像化されていたといえる。
著者
藤岡 里圭
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.197, pp.127-143, 2016-02-29

百貨店が成立するまで,小売業は呉服や小間物といった業種ごとに店が形成されていた。したがって,婚礼のための商品を買い求める際,複数の専門店を買い回りながら多くの商品を短期間で購入しなければならなかった。しかし,百貨店が陳列販売を導入し,取扱商品を呉服だけでなく雑貨などにも拡大したことによって,ひとつの店舗内で業種の異なる複数の商品を購入できるワンストップショッピングが可能となった。ワンストップショッピングは,消費者の商品探索の費用を削減し,短期間で複数の商品を購入しなければならない婚礼需要にとっては非常に有効であった。しかし,百貨店の成長とともに店舗面積が広がり,取扱商品が拡大すればするほど,ワンストップショッピングは可能でありながら必要な商品を見つけるための時間が増加し,消費者は商品を効率的に探索することができなくなった。そこで,三越は,御婚礼調度係を設置し,消費者のワンストップショッピングが有効に機能するよう売場を再編成したのである。大正時代,消費市場が飛躍的に拡大したことによって,百貨店は都市部だけでなく地方都市でも設立されるようになり,また,都市の百貨店が通信販売や出張販売を行うことによって,地方の消費者も百貨店を利用することができるようになった。その中で,婚礼は,百貨店の既存顧客だけでなく,地方客や都市部のこれまで百貨店を利用していなかった消費者にまでターゲットを広げる貴重な機会であった。そして,この婚礼支度という大きな需要に的確に応えた百貨店は,売上高を増加させていったのである。ところが,第一次世界大戦後の景気低迷によって,婚礼需要が抑制されると,自らの立場に相応しい支度をしたいけれども,ある一定の予算内で収めたいという中間所得者層の顧客に対して,三越は,婚礼支度の標準を示し,必要以上の出費を抑える工夫を施した。つまり,百貨店は,顧客層を下方に拡大しながら成長するマーケティング戦略を採用したのである。
著者
前田 譲治
出版者
北九州市立大学文学部
雑誌
北九州市立大学文学部紀要 = Journal of the Faculty of Humanities, the University of Kitakyushu (ISSN:13470728)
巻号頁・発行日
no.73, pp.41-52, 2007

日米が各々制作した2種のゴジラのcharacterizationの比較と、日米の映画題名の方向性の比較と、アメリカ映画の素材の検討を行った。これらの作業を通して、アメリカ人は荒唐無稽な映画内容を、現実との連続性を有した、現実と近しい世界と眺める傾向が強いのに対して、日本人は、映画内容を現実と完全に乖離した別世界と認識する傾向が強いことを明確化した。次に、現実の日本人とアメリカ人の行動形態に注目した。まず、日本人とは異なり、アメリカ人は映画内容に対して、それが現実であるかの如き反応を示す点を明らかにした。次いで、日本人が決して現実とは認識できない荒唐無稽な噂を、アメリカ人は現実として受容する点に注目した。以上の在り方を論拠として、アメリカ人が現実として受容可能な領域は、日本人よりも格段に広く、日米間では現実認識のあり方に多大な差異が存在すると結論付けた。
著者
篠原 聡子
出版者
国立歴史民俗博物館
雑誌
国立歴史民俗博物館研究報告 = Bulletin of the National Museum of Japanese History (ISSN:02867400)
巻号頁・発行日
vol.171, pp.65-81, 2011-12-25

日本住宅公団によって昭和34年から建設がはじまった赤羽台団地(所在地:東京都北区,総戸数:3373戸)は,団地としての様々な試みが実現した記念的な団地ということができる。本稿では,その中に配置された共用空間と居住者ネットワークに着目して,その関係について考察する。その後の団地計画の中で普遍的な位置づけをもつ共用空間として集会所があげられるが,当初,計画者の中にどのように使用されるか確たるイメージはなかった。韓国の集合住宅団地の共用空間との比較から,日本の団地空間に出現した集会所や集会室は,本来,住宅の内側にあった「寄り合い」や「集会」という社会的機能を私的領域から分離する役割を果たし,その空間的な設えも日本の伝統的な続きの構成が採用されていた。また,幼児教室,葬式などにも使用され,集会所は,都市的な機能の補完の役割もはたした。しかし,集会所が既存の建築の代替的,補完的なものであっただけではなく,高齢者の集まりである「欅の会」のような集会所コミュニティともいうべき,中間集団の形成に関与したことも特筆されなければならない。一方で,居住者によって設立された,牛乳の共同購入のための牛乳センターは,極めて小規模ながら,自治会という大規模な住民組織の拠点となった。また,住棟によって,囲われた中庭は,夏祭りなどに毎年使われ,赤羽台団地の居住者の,その場所への愛着を育む特別な場所となり,居住者の間に緩やかな連帯感を形成する役割を果たした。団地という大空間にあっては点のような存在でありながら自治会という大組織の拠点となった象徴的な空間としての「牛乳センター」,一列の線のように配置され,とくに機能もさだめられず,分節されながら多目的につかわれ,多様な中間集団の形成に関与したユニバーサルな空間としての「集会所」,それらを時間的,空間的に繋ぐ基盤面となった包容する空間としての「中庭」は,居住者ネットワーク形成に多面的にかかわり,それらが連携して使われることによって,団地という抽象的な集合空間は,赤羽台団地という生活空間となった。
著者
遠藤 俊郎 下川 浩一 安田 貢 布施 洋 袴田 敦士 伊藤 潤二
出版者
山梨大学教育人間科学部附属教育実践総合センター
雑誌
教育実践学研究 : 山梨大学教育人間科学部附属教育実践総合センター研究紀要 = 教育実践学研究 : 山梨大学教育人間科学部附属教育実践総合センター研究紀要 (ISSN:13454161)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.84-94, 2009-03-31

本研究は,大学における運動部活動(バレーボール)の練習場面における現代の集団規範の実態を把握するとともに,競技水準によってどのような違いがあるかを明らかにし今後のコーチングに役立てるための一資料にする.また,10年前の選手の集団規範と比較することによって今日の選手の特徴を明確にすることを目的とした.その結果,男子における集団規範下位尺度得点において,競技水準の高いチームに所属している選手が競技水準の低いチームに所属している選手に対してすべての下位尺度得点で高い値を示した.男子における社会的アイデンティティ各項目得点においては,競技水準の高いチームに所属している選手が競技水準の低いチームに所属している選手よりも高い評価が得られた.このことから,男子において競技水準が高いほうが集団帰属意識は強く,規範も厳しいことが示唆された.また,90年代と現代の集団規範の比較においては,「現代の選手」が3つの下位尺度得点(態度規範・上下序列規範・奉仕規範)で高い値を示した.このことから「現代の選手」において規範に対する耐性が低下している可能性があることが示唆された.