著者
浅岡 悦子
雑誌
人間文化研究 = Studies in Humanities and Cultures (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.68-44, 2017-01-31

卜部氏の職掌は亀卜を行うことだけではなく、大祓にも従事していた。卜部氏の氏文である『新撰亀相記』では卜占の起源のみでなく、大祓の元となったスサノヲ追放神話を詳しく述べ、卜部氏の関わる祭祀の起源を説く。亀卜・大祓などの神祇祭祀に供奉していた卜部氏は、『新撰亀相記』や『延喜式』によると伊豆・壱岐・対馬の三国の卜部氏から取られた卜部である。この三国の卜部氏の系譜には異同や混同が含まれるが、概ね中臣氏と同祖と見て問題ない。宮中の卜部は宮主―卜長上―一般の卜部という昇叙形態をとっており。『養老令』の段階で宮主三人、卜長上二人、一般の卜部最大十五人が取られていた。『新撰亀相記』では卜部の他に中臣・忌部などの祭祀氏族がわずかに確認できるが、『新撰亀相記』に記される神話の殆どが、卜部が関わる神祇祭祀について触れたものである。
著者
堀内 一徳
出版者
奈良大学史学会
雑誌
奈良史学 (ISSN:02894874)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.82-90, 1989-12

トリアー、リヨン、アルルのローマ帝国のガリアの造幣所は五世紀に公の貨幣鋳造を中止し、メロヴィング・フランク王国ではローマ帝国の模造貨が発行されたが、六世紀にはビザンッ皇帝アナスタシウス、ユスティヌス一世、ユスティニアヌス一世、ユスティヌスニ世などの貨幣を模した金貨ソリドゥス(solidus)とその三分の一のトレミシス(tremissis)芭貨が鋳造された。五世紀末からマルセーユで発行された青銅貨はテウデリヒ一世、テオデベルト一世、テウデバルトの諸王によって鋳造が試みられたが、その後絶え、銀貨もクローヴィスの長子テオドリックからアウストラシァのジギベルト一世の時代まで鋳造されたのち発行を停止した。六世紀後半にジギベルト、グントラムによって王名を刻銘した金貨が発行されるとともに、多数の造幣人(moneta-rius)によって金貨が鋳造され、七〇〇年頃にアングロサクソン・フリースランド人のスケアタス(sceattas)貨やデナリウス(denarius)銀貨が流通し始めるまで、造幣人の鋳貨トレミシス貨ないしはトリエンス(triens)貨が主要な通貨として流通した。本稿では、造幣人の貨幣鋳造の盛期である七世紀を中心にトリエンス貨の鋳造とメロヴィング朝アウストラシァの流通経済および租税との関係を古銭学の成果にもとついて検討してみたい。
著者
小西 瑞恵 コニシ ミズエ Mizue KONISHI
雑誌
大阪樟蔭女子大学研究紀要
巻号頁・発行日
vol.3, pp.3-14, 2013-01-31

7 0 0 0 OA 経口免疫寛容

著者
後藤 真生
出版者
社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.9, pp.526-526, 2006-09-15 (Released:2007-09-29)
参考文献数
3

免疫系は,病原体などの異物を自分自身を傷害することなく排除する非常に精巧なシステムである.一方で,摂取された食物のように異物でありながら明らかに無害なものについては,食物アレルギーなどを除き,通常,免疫応答を起こさない.実際には抗原の経口投与によってその抗原に対する全身免疫系の応答は減少するが,粘膜面での防御応答は増加する.よって免疫系は経口的に摂取した異物に特異的に応答を制御していることが理解できる.この現象を経口免疫寛容という.漆職人が漆かぶれの予防に漆を飲む,ネイティブアメリカンがツタウルシかぶれを防ぐためにツタウルシを食べる,など様々な民間伝承もあり,現象としては古くから知られていたようである.しかし,科学的な解析が始まったのは1911年にはWellsによって,鶏卵蛋白をあらかじめ餌として投与したモルモットで全身アナフィラキシーが抑制される現象が報告されたことをもって開始されてからである.経口免疫寛容のメカニズムは解析が進むほど非常に複雑であることが判明し,その全容は解明されているとは言えないが,現在のところ,T細胞が大きな役割を果たしており,抗原の投与方法,特に投与量によって,クローナルデリーション,アクティブサプレッション,アナジーの大きく三つに分けられる異なる寛容誘導メカニズムが働いていることが強く示唆されている.大容量の抗原投与で誘導され,経口抗原特異的な末梢T細胞がアポトーシスによって減少する機構がクローナルデリーションと呼ばれる.抗体は抗原特異的CD4 T細胞が対応するB細胞に産生させるため,T細胞が減少することで,抗体の産生も抑制される.一方,少・中程度の抗原経口投与ではクローナルデリーションは誘導されず,免疫抑制活性を持つ経口抗原特異的なT細胞が出現する.これらによって誘導される免疫抑制をアクティブサプレッションと呼ぶ.実際に,経口免疫寛容を誘導した際に,抗原特異的に抑制的サイトカインを産生するT細胞が腸管膜リンパ節に出現することが発見されている1).また,近年,制御性T細胞と呼ばれる一部の末梢CD4T細胞が,自己免疫疾患の発症を抑制していることが明らかになった.この抑制は主に制御性T細胞と自己応答性T細胞の接触で入る抑制性シグナルによると考えられている.制御性T細胞が食物などの外来抗原に応答するかは不明であるが,多量の抗原の経口摂取によってアクティブサプレッション活性を持つT細胞が腸管パイエル板に出現し,それらには制御性T細胞の特徴が見いだされた.これらから,経口免疫寛容には末梢で分化した経口抗原特異的な制御性T細胞が関わる可能性が示唆されている.またT細胞が抗原刺激に効率よく応答するためには,抗原刺激以外の共刺激を必要とする.共刺激のない状態でT細胞が抗原刺激を受けると,その抗原に対して不応答状態(アナジー)になり,IL-2によって回復することが知られているが,経口寛容誘導マウスの不応答T細胞をIL-2処理すると同様に応答能が回復するため,経口免疫寛容のメカニズムにT細胞のアナジー化が含まれることが示唆されている2).近年,自己免疫疾患やアレルギーの治療,移植時の拒絶反応の抑制などに経口免疫寛容を利用する気運が高まっている.抗原特異的でないステロイド剤や免疫抑制剤は副作用の危険性が高いが,特定抗原への応答のみを抑制する経口免疫寛容は,治療に応用できれば,副作用の危険性がより少ないと考えられている.動物実験では一定の成功を見ており,食物アレルギー3)などで行われたヒト臨床試験で好成績を収めた例も報告されている.しかし,効果が見られなかったケースや病態が悪化したケースもあり,経口免疫寛容を実際に治療に応用するにはまだ課題が多いと考えられる.
著者
渕野 昌
出版者
科学基礎論学会
雑誌
科学基礎論研究 (ISSN:00227668)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.33-47, 2018 (Released:2018-11-01)
参考文献数
36

Since Gödel's Incompleteness Theorems were published in 1931, not a few mathematicians have been trying to do mathematics in a framework as weak as possible to remain in a “safe” terrain. While the Incompleteness Theorems do not offer any direct motivations for exploring the terrae incognitae of the alarmingly general and consistency-wise strong settings like the full ZFC or even ZFC with large large cardinals etc., Gödel's Speedup Theorem, a sort of a variant of the Incompleteness Theorems, in contrast, seems to provide positive reasons for studying mathematics in these powerful extended frameworks in spite of the peril called the (in)consistency strength. In this article of purely expository character, we will examine a version of the Speedup Theorem with a detailed proof and discuss the impact of the Speedup Theorem on the whole mathematics.
著者
飛田 良文
出版者
日本語学会
雑誌
日本語の研究 (ISSN:13495119)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.48-68, 2008-01-01

明治初年の英語教育は、大学南校と慶応義塾から始まった。そのとき使用された英文典のテキストが、クワッケンボスとピネヲの二つの英文典であった。教育課程には外国人教師が正しい発音で教授した正則と、日本人教師が発音におかまいなく翻訳を目的とした変則とがあった。正しい発音を示し、その訳語を普及するために、大学南校と慶応義塾とは、テキストの翻刻とその翻訳書「英文典直訳」を公刊した。そこには言語構造が異なるため、英文に則した逐語訳には、新訳語、新しい訳し分けが必要となった。その中には定着したもの、消滅したものがある。消滅したものの一つが六時制の訳し分けであるが、これこそが欧文直訳体の文末表現の特徴であることを提示した。
著者
ビートン 著
出版者
青山堂
巻号頁・発行日
vol.附録, 1876
著者
福田 早紀子 吉永 健 平田 奈穂美 石塚 洋一 入倉 充 入江 徹美 興梠 博次
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.1521-1529, 2009-11-30 (Released:2017-02-10)
参考文献数
17
被引用文献数
3

【目的】気管支喘息の薬物治療には,吸入薬が多く使用されている.しかしながら,不適切な操作やアドヒアランスの不良により,症状の改善につながらない場合もあるために,吸入治療には適正操作を習得できるように吸入指導が必須である.そこで,我々は,従来行っていた吸入指導よりも効果的な吸入指導方法を立案し,その有用性について検討した.【方法】2008年4月から8月の5ヵ月間に,熊本中央病院呼吸器科を外来受診した気管支喘息患者で,保険薬局に吸入薬を含む処方箋を持参した患者28名を対象とし,薬局で手技実演および視覚的ツールを活用した新たな吸入個別指導方法を導入し,操作改善について評価した.さらに,19名については,喘息コントロールテスト(Asthma Control Test:ACT)を用いて治療効果を評価した.【結果】保険薬局での新たな吸入個別指導法の導入によって,吸入操作が適切でなかった20例において,不適正操作項目の有意な改善がみられた.さらに,対象者のうち19名においては,ACTスコアの有意な上昇(19.1から21.4)が得られ,症状の改善が証明された.【結論】喘息治療に対して保険薬局における吸入手技実演および視覚的効果を生かした吸入個別指導の有用性が確認された.さらに,病院・薬局間での連携(病薬連携)が治療向上につながったと考える.
著者
長池 卓男
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.94, no.4, pp.196-202, 2012-08-01 (Released:2012-09-13)
参考文献数
93
被引用文献数
2 2

単一種植栽人工林に代わるオプションとして注目されている混交植栽人工林について, 利点・不利点, 物質生産機能への影響とそれをもたらすメカニズムや今後の課題などを論じた。混交植栽人工林は, 複数の種が植栽されることで生態的・生産的な便益がもたらされ, 広範な物品や生態系サービスを供給することが多い。これらの利点は, 多様な種へのハビタットや生態的ニッチが供給され林分レベルでの種多様性や生物間相互作用が維持・向上すること, 物質生産機能が高まることが多いこと, 等による。単一種植栽人工林に比較して混交植栽人工林で高い物質生産機能がもたらされるメカニズムとしては, 競争緩和と促進のプロセスが作用している。混交植栽人工林は実験的に造成されていることが多いが, 樹木や種の空間配置が規則的であること, 解析対象の多くが若齢林分であること, 等が問題点として指摘されている。混交植栽人工林をどのような目的を持つ人工林として造成するのかによって管理方法は異なるため, 導入にあたっての整理すべき課題は多い。多様な生態系サービスを供給するようにデザインされた人工林管理においては, 混交植栽人工林の利点が活かされるであろう。
著者
山内直一 編
出版者
興信社出版部
巻号頁・発行日
vol.第1編, 1910

7 0 0 0 OA 官報

著者
大蔵省印刷局 [編]
出版者
日本マイクロ写真
巻号頁・発行日
vol.1916年12月13日, 1916-12-13
著者
堀毛 裕子
出版者
一般社団法人 日本健康心理学会
雑誌
健康心理学研究 (ISSN:09173323)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.1-7, 1991 (Released:2015-07-05)
参考文献数
6
被引用文献数
22 15

The purpose of this paper is to develop a Japanese version of the Health Locus of Control (JHLC) Scales after the Multidimensional Health Locus of Control(MHLC) Scales (Wallston, K.A., et al., 1978). Horike (1988) gave a Japanese translation of the MHLC Scales which simply consist of three 6-item subscales (internal, powerful others, and chance), and found that the Scales are inapplicable to measuring Japanese way of thinking about health and illnesse. In order to revise the inadequacy, this study started with making a 91-items questionnaire, based on a number of statements on health and illness by Japanese subjects.From a pretest of 328 college students and through factor analysis, five factors (subscales) were picked up: I (internal), F (family), Pr (professional), C (chance), and S (supernatural). By selecting 5 items for each of the 5 subscales, a new set of JHLC Scales was developed which consist of a total 25 items. When applied to 233 (male and female) subjects, alpha reliabilities for the JHLC Scales range from 0.68 to 0.87., showing the usefulness of the Scales.