著者
東元 春夫
出版者
日本スポーツ社会学会
雑誌
スポーツ社会学研究 (ISSN:09192751)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.95-101, 1994

この研究はスポーツの社会における「言いわけ」を分析することにより、その社会における「正当な」社会ルールの本質をさぐろうとする試みである。通常「言いわけ」は失態のとりつくろいなど事後的に行われる副次的自己防衛行為であるが、逆に最初に社会的に蓄積された「言いわけの在庫」があり、それに触発されて行為が行われることも多い。ここでは1991年の新聞紙面に現れたプロ野球の契約更改交渉事例を対象に分析を行った。中日・落合選手による「夢」や「子供たちの野球離れ」「世間を騒がせたくない」という発言および調停委員会の (持込み続出)「懸念表明」には日本のプロ野球界の旧態依然とした体質が見られアメリカとの文化的相違が対照的である。スポーツの集団および下位集団には「言いわけ」の在庫が存在し、それらはその集団の成員によって学習され共有されるとすれば、スポーツ独自の、あるいはそのスポーツが行われる社会独自のボキャブラリーが存在するものと推察される。
著者
石坂 愛
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2016, 2016

1980年代~1990年代の商業空間の変容により,地方都市における中心市街地のシャッター通り化は我が国の深刻な問題となった.この傾向は地方都市においてまちおこしという意識を喚起させ,日本の観光形態にも影響を与えた.各々の地域における観光協会や自治体は商品価値を生む地域資源の探索に尽力し,その中で注目されるのがテレビアニメ(以下,アニメ)作品の舞台や映画のロケ地を新たな資源とし,アニメファン(以下,ファン)による「聖地巡礼」を促す動きである(山村,2009).聖地巡礼とは,アニメ作品のロケ地,またはその作品や作者に関連する場所,かつファンによってその価値が認められている場所を「聖地」とし,そのような場所を訪ねることと山村(2008)は定義する.聖地巡礼に関する研究の多くは商工会や自治体によって展開されるイベントに着目し,その開催経緯や参加するファンの目的という点に言及している.しかし,まちおこしの背景にある課題に中心市街地の衰退があると考えれば,アニメを題材としたイベント等の展開やアニメファンによる聖地巡礼が,中心市街地において商業を営む地域住民に対していかに影響をもたらすかを考察する必要がある.本研究は,茨城県大洗町を作品の舞台とするテレビアニメ「ガールズ&パンツァー」(以下,ガルパン)が,大洗町の中心市街地に立地する小売店にもたらす社会・経済的変化を明らかにすることを目的とし,中心市街地の小売店経営者における地域住民やファンとの人間関係およびガルパンへの意識の変化と,ファン来店後の売り上げの変化を震災以前とアニメ放送以降に区分して分析した.その際,店舗の業種や立地特性を考慮するために2つの商店街における小売店について検討した.アニメ劇中に多くの店舗が登場した曲がり松商店街は,早期から聖地巡礼目的のファンの通行する様子がみられた.対する大貫商店街は劇中での登場も乏しく,店舗は分散して立地している.<br> 調査の結果,飲食店および酒類,海産物,軽食を販売する食料品店はほぼ全店来店者数および売り上げが増加している.また,買回り品販売店や理美容室等のサービス業においても一部増加がみられた.各小売店はリピーターを獲得し,アニメ放送終了2年後も震災以前の2割以上の来店者数を維持している.なお,店舗におけるファン誘致の成功と来店者数・売り上げ増加率において,小売店の業種や店舗の立地はほとんど関係なく,ファン誘致を成功させた小売店は共通して「ガルパンらしさ」の創出などにより,ファンを受け入れる姿勢を見せている.「ガルパンらしさ」は,各小売店が所有する店舗においてガルパンに関連するイラストやフィギュアなどの装飾品を展示することで,店内および店頭におけるガルパンの景観的要素を強化している様子を意味する.ファンは商店会主催のクイズラリーや店舗に展示されるガルパンに関連グッズの見学など,消費行動以外を目的として来店した店舗においても消費行動をとる傾向にあるため,来店者数増加を経験した小売店は売り上げも増加している.<br> 経営者のアニメやファンに対する理解は,店舗における来店者数の増加や「ガルパンらしさ」の有無に関わらず好転する傾向にある.一方で,「ガルパンらしさ」の創出やファン誘致に積極的な経営者はガルパンを通じて地域住民との交流が活発になっているのに対し,コマーシャルツールとしてのガルパンに一線を画す経営者に関しては地域住民間の交流が活発になったケースが少ない.後者にあたる経営者は地域住民という立場でガルパンを受け入れているものの,既存の客層や販売商品を考慮して,店舗においてファンの誘致を控えている傾向が強い.まちおこしという課題を振り返るならば,このような小売店の経営者の意向を汲み取り,地域コミュニティの紐帯を強めていく必要がある.<br>山村高淑(2008):アニメ聖地の成立とその展開に関する研究―アニメ作品「らき☆すた」による埼玉県鷲宮町の旅客誘致に関する一考察―.北海道大学国際広報メディアジャーナル7,145-164.<br>山村高淑(2009):観光情報革命が変える日本のまちづくり インターネット時代の若者の旅文化と新たなコミュニティの可能性.季刊まちづくり22,46-51.
著者
前田 潤 齋藤 和樹 槇島 敏治
出版者
室蘭工業大学
雑誌
室蘭工業大学紀要 (ISSN:13442708)
巻号頁・発行日
no.59, pp.11-20, 2010-03

Psychosocial support is a significant issue in emergency settings for effective and efficient support activities not only to affected people but also to aid worker themselves.We presented the field research report on one month after Abruzzo Earthquake in 2009 as a case of psychosocial support activities in emergency settings.It was found that Italy has an unique system called 'Protezione Civile' and it was constituted by many types of organizations like Italian Red Cross police, water service and scientists etc.We pointed out that this system is conformed with psychosocial support system on IASC guideline. And Dr.Clown in Italian Red Cross was a special psychological aid worker suitable with cultural context in Italian Red Cross.Various national system have to be investigated.学術論文
著者
山田 斗志希 上山 輝
出版者
富山大学人間発達科学部
雑誌
富山大学人間発達科学部紀要 (ISSN:1881316X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.93-103, 2020

本来,ビデオゲーム(以下「ゲーム」)とは,コンピュータを応用したインタラクティブな遊びを探求・追求するデジタルコンテンツである。このため,悪役は必要ないはずであるが,現在ではゲームのストーリーに悪役が登場する状況は当然になっている。この状況に至った通説として考えられるのは,主にハードウェアの発展の影響を加味した議論であるが,悪役といった定性的な要素と強く関連するのは,むしろソフトウェアの発展ではないだろうか。そこで本稿では,対戦相手の変容とストーリーの定着過程に注目してゲームの歴史を構築し,それに基づいて,対戦相手が悪役へと至るプロセスと開発者たちのクリエイティビティとの関係について考察を行った。
著者
Nozomu Sato Kosuke Watanabe Kiyobumi Ohta Hiroaki Tanaka
出版者
The Japanese Society of Internal Medicine
雑誌
Internal Medicine (ISSN:09182918)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.503-507, 2011 (Released:2011-03-01)
参考文献数
25
被引用文献数
11 15

Acute transverse myelitis (ATM) has been described as an uncommon complication of vaccinations and is rarely accompanied by inflammatory peripheral neuropathy. We report a case of a 77-year-old woman who developed ATM and acute motor axonal neuropathy (AMAN) following vaccinations against seasonal and 2009 A/H1N1 influenza. She manifested ophthalmoplegia, quadriparesis and sensory impairment. MR imaging showed a longitudinally-extensive spinal cord lesion, and nerve conduction study revealed motor axonal polyneuropathy. Despite prompt treatment, her symptoms poorly recovered. While concurrent ATM and AMAN may suggest the presence of a common antigen, their scarcity indicates the importance of other factors causing immunologic disruptions.
著者
池田 清治
出版者
北海道大学大学院法学研究科
雑誌
北大法学論集 (ISSN:03855953)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.123-144, 2018-03-30

6 0 0 0 OA 東京警吏要覧

著者
第二方面第四分署 編
出版者
警視局
巻号頁・発行日
vol.初版, 1879
著者
高艸 賢
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.55-67, 2017 (Released:2020-03-09)
被引用文献数
1

本稿の目的は、A. シュッツにおける学問と生の区別と連関の論理を明らかにすることである。シュッツによる理解社会学の基礎づけの議論は日常知と科学知の関係づけを模索するものとして捉えられてきたが、常識と科学の二分法の下では、シュッツの論じる生の論理的重層性が見えにくくなるという問題がある。そこで本稿は、ウィーン時代に書かれた著作および草稿を扱い、シュッツが生における体験次元と意味次元という区別を導入していることに注目する。ベルクソンに依拠したこの概念化は、人間の思惟の基盤を分析するという点で、科学知への批判的視点と日常知に埋没することへの警戒を同時に含意している。シュッツは主著『社会的世界の意味構築』において、両次元の区別に基づいて社会的世界の機制を解明している。意味次元についてシュッツは、他者理解が所与の知識に基づく意味付与として遂行されるという「自己解釈」の機制を明らかにし、他方で体験次元については、他者の体験の連続的生成を見遣るという「持続の同時性」を論じている。体験次元と意味次元は日常的行為者においては主観的意味という形で統一を形成しているが、「主観的意味連関の客観的意味連関」としての社会科学は必然的に体験次元を欠く。理解社会学の認識限界を踏まえたシュッツは、生きられる日常における体験と意味の統一に、純粋に哲学的な思惟や社会科学的分析によっては得られない社会学的反省の基盤を見いだしている。
著者
堀 恵子
出版者
大阪教育大学
雑誌
大阪教育大学紀要. I, 人文科学 (ISSN:03893448)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.87-97, 2000-01

松谷みよ子の育児日記とそこに記された子供たちの感性豊かな言葉を母体として誕生した「モモちゃんとアカネちゃん」シリーズ。ママとモモちゃん,アカネちゃんの微笑ましい関係に読者の関心が集中しがちなこのシリーズにおいて,登場場面は少ないが,おおかみに変身するなど,一人,異彩を放っているのがパパである。本論文では,そのパパの存在に焦点を当て,パパと子供たちとの関係,そしてパパの描かれ方の変化と人間以外の存在への変身の背後にあるものは何かを考察したい。その際,事実関係を理解するために『松谷みよ子全エッセイ』全三巻と自伝的な『小説・捨てていく話』および神宮輝夫『現代児童文学作家対談』を参考にしたいと思う。This paper focusses on the unique character of Papa in "Momo-chan and Akane-chan" series by Matsutani Miyoko. Careful examinations of the author's essays, interview, and autobiographical novel, reveal that the metamorphoses of Papa in the series correspond with the changes of the author's feelings toward her former husband, and her consideration for the people concerned. The Papa Wolf, created by the author's second daughter's remark, enabled the author to depict her former husband without becoming sick or hurting anybody around her. As time went on, the Papa Wolf seemed to bear a more human-like character. But it was not until the author wrote a book of poetry which exposed all her indignation against her former husband that she could bring in a truly humane Papa who showed deep parental love to his daughters. The bond of affection between Papa and his daughters after the parents' divorce, is an important theme in the series, and Papa can be called a hidden hero. Having a divorce was not common in those days. Seeing a parent after the divorce was even more unusual. But they are becoming more and more common recently. There are more readers who could sympathize with the characters in the series from their own experience. The "Momo-chan and Akane-chan" series, in which Matsutani Miyoko dealt with those contemporary themes for thirty years, would be a perfect series of books for all the family members to read. The series would give them an opportunity to seriously think about their family ties.