著者
古江 幸博 田村 裕昭 永芳 郁文 本山 達男 川嶌 眞之 尾川 貴洋 樋高 由久 川嶌 眞人
出版者
西日本整形・災害外科学会
雑誌
整形外科と災害外科 (ISSN:00371033)
巻号頁・発行日
vol.61, no.4, pp.707-710, 2012-09-25
参考文献数
7

内上顆下端の骨片を有する中学生投手に対して,骨接合術を行い,骨癒合,投手復帰の良好な結果を得た.中学3年生と1年生の投手2例が,1球の投球後に肘内側痛が出現したため,投球不能となって受診した.ともにX線像で内上顆下端に骨片を認め,手術を行った.手術では両者とも,骨片間に介在組織はなく海面骨が露出しており,新鮮化など行わずに引き寄せ締結法とアンカーを用いての骨接合術を施行した.いずれも骨癒合が得られ,投手に復帰できた.<BR>骨端線閉鎖間近あるいは閉鎖後の中学生,特に1球の投球後に発症した例では,急性要素があり,内上顆下端の骨片の骨接合術は治療選択肢の1つと考えられた.
著者
小松 正之
出版者
日経BP社
雑誌
日経ビジネス (ISSN:00290491)
巻号頁・発行日
no.1149, pp.113-116, 2002-07-08

今年5月、山口県下関市で国際捕鯨委員会(IWC)の第54回年次総会が開催されました。今回の最大の目標は、何と言っても商業捕鯨の再開でした。私が一員を務める日本政府代表団はその目標を実現するために、会議で議論する中身について周到な準備を重ね、本番を迎えました。

1 0 0 0 OA 太平記 40巻

出版者
荒木利兵衛
巻号頁・発行日
vol.[39], 1650

1 0 0 0 OA 三嶋暦

巻号頁・発行日
vol.[10], 1811
著者
山村 朝雄
出版者
東北大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

劣化ウランは全世界で120万トンを超える膨大な保管量があり、その有効利用法の開発は重要な課題である。ウランはIII価とIV価、V価とVI価の組み合わせにおいて電極反応が可逆であることは、アクチナイド固有の化学的性質である。このことを利用すれば、実用化しているバナジウム電池を超えるエネルギー効率を持つレドックスフロー電池の構築が期待できる。バナジウム電池では、正極反応VO2++e→VO2+は酸素の脱着を伴う遅い内圏反応であるため、電流密度70mA/cm2での充放電サイクルにおいてエネルギーの16%が活性化過電圧により失われる。これに対してアクチナイドでは両極反応は高速であり、活性化過電圧によるエネルギー損失はネプツニウムの場合2%にとどまる。このようにエネルギー効率の高いウラン電池の構築により、風力発電等の再生可能エネルギーの出力平滑化に資することを目指している。平成16年度には、ウラン電池セルを実際に構築し、U(V)を正極液、U(IV)を負極液とするウラン電池の動作を確認し、展示用モーターの回転に十分な電圧・電流を得られることが確認できた。その一方で、放電状態におけるウラン(V)錯体、充電状態におけるウラン(III)錯体の濃度は数時間程度の半減期で自然に減少し、ウラン錯体の安定性が十分とは言えないことも明らかとなった。そこで、平成17年度には、ウラン(V)およびウラン(III)錯体の検討を進め、半年を超す半減期をもつウラン(V)錯体溶液を調製することに成功した。また、ジアミドを配位子として有するウラン(III)錯体の調製と磁気的性質、分光的性質の検討に成功し、溶液中のIII価状態の半減期が11時間と短いことが判明した。しかしこの時間内に、U(IV)/U(III)の電極反応の検討を行うことに成功した。
著者
渡邉 典子 ワタナベ ノリコ Watanabe Noriko
出版者
同志社大学一神教学際研究センター(CISMOR)
雑誌
一神教世界 = The world of monotheistic religions (ISSN:21850380)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.43-59, 2011-03-31

1970 年代の日本の新新宗教ブームを牽引したGLA(God Light Association)総合本部の二代目の教祖高橋佳子は会員に「ミカエル」1 と信じられており、会員にカウンセリング的なふりかえり(「神理」という教えの実践)技法やスピリチュアルなターミナルケア2 を提供している。現代のGLA 会員の活動からは、個人化・グローバル化社会で競争を強いられている人々や、感情労働3 を求められるサーヴィス業の人々に支持されるようなスピリチュアルな「心の技法」が見出せる。この「心の技法」へのニーズにより、刺激反応図式の古典的パラダイムの主体が刺激に反応する受動的な存在であったことに対し、現代の主体とは、自己の行動をコントロールする能動的な存在であることを示し、そこに至る心身管理の自己責任性の重視を考察する。そして、GLA の神観、初代教祖高橋信次や弟子らのチャネリング4、瞑想や座禅などの「心の技法」を題材に、後期資本主義時代の新新宗教の教説の「心理主義化」傾向を分析するKeiko TAKAHASHI, the present leader of God Light Association (GLA), one of the Japanese neo new religious movements from the 1970's, is called as "Mikhail" by members, and she offers terminal care for members, which is a kind of spiritual counseling. We can observe from GLA activities a desire for "the technique of the heart" by the people in the service industry doing emotional labor, and they are forced to compete in individualized and globalized society. By analyzing the technique of the heart, it is argued that the old modern self was just a passive actor who behaves in response to external stimulation, and that today's self should actively control his or her own behavior with the emphasis on self-responsibility. Also, from the view point of GLA's God image, channeling by the founder Shinzi TAKAHASHI and his disciples, and Zen meditation, doctrines of neo new religions in the late capitalism are fairly "psychologized".
著者
笹本 裕大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

Ⅰ はじめに<BR> 報徳社とは,地縁による組織の1つであり,地域の財産の構築や相互扶助を行うための報徳仕法を実践するものとして各地で組織化された.近年,地縁によるつながりが薄れつつあるといわれるなかで,この報徳社も減少傾向にある.ただし,存続しているものも少なからずあることから,本報告では,報徳社の存続や解散と現存する報徳社の活動実態に関わる地域的要因を明らかにする.<BR><BR>Ⅱ 報徳社の全国的動向<BR> 報徳仕法は江戸時代後期から近代にかけて,二宮尊徳およびその弟子らによって全国各地に伝えられ,大正末期の最盛期には全国に1,000社もの報徳社が存在していた.<BR>高度経済成長期を経た1976年の時点でも,主に第一次産業に従事する住民の割合が比較的高い地域において211の報徳社が存続していた.しかし,その後も報徳社の解散は相次ぎ,2010年には91社が存続しているにすぎない.<BR> 1975年に報徳社が存続していた地域でも第一次産業に従事する住民の割合低下は続いており,高齢化も進行している.そうした地域性の変化に加えて世帯数が大幅に増加した地域では報徳社の解散がみられる.このほか,1976年の時点で報徳社が存在し,その後解散した地域では,その3割で世帯数の減少が確認できた.すなわち,都市化が進行した地域や集落機能が低下したと考えられる地域において報徳社の解散が進んだと推察できる.<BR> 報徳社が存在している地域は,1975年以降の世帯数の増加が比較的少ない.また,持ち家の比率が高い地域が多く,出生時から居住している,もしくは居住歴が20年以上にわたる住人の占める割合が相対的に高い地域において,報徳社は存続する傾向にある.すなわち,報徳社が存続している地域は,都市化の影響が少ない地域であることがわかる.一方,都市化の影響がある地域でも,報徳社員数の変化が少ない地域もある.こうした地域では,報徳社員を含む旧来からの住民同士のつながりが強固であると推察できる.そして,このつながりが報徳社の存続の一因として考えられる.<BR><BR>Ⅲ 現存する報徳社の活動実態<BR> 現存する報徳社の活動実態を探るため,都市化の影響が少ない地域の事例としてM報徳社を,また都市化が進行してきた地域の事例としてK報徳社をそれぞれ取りあげ,各々の活動実態を比較した.<BR> M報徳社のあるM集落に報徳仕法が伝えられたのは1900年頃とされている.当時のM集落は農業が盛んな地域であった.こうした地域にあって農業および農村の振興を目的に全世帯を社員として1903年にM報徳社を法人化した.しかし,現在では地域の農業に関わる活動は盛んではない.これは,地域の農業の衰退や高齢化,社員の減少が関係している.ただし,M集落の世帯数は法人化時点から近年に至るまであまり変化がなく,一般世帯のうち持ち家の世帯が占める割合は9割を超えている.すなわち,現在は社員ではないものの,かつては報徳社とかかわりがあった世帯が多く,それらの世帯では報徳社の活動に対して理解があると推察できる.そのため,報徳社は地域住民全体に交流の場を提供するものとして活動を続けている.<BR> K報徳社のあるK集落に報徳仕法が導入されたのは,1870年頃とされている.その後,地域の財産である共有地の所有権が失われる危機に際し,共有地を法人の所有地とすることで対応するため,1967年に報徳社を法人化した.また,K集落の自治会参加者の大半を報徳社の社員が占めていた.そのため,同社は自治会的な活動も兼ねていた.しかし,K集落では1960年代以降転入者が増加しており,旧来の共同体とは無関係な世帯から報徳社の活動が自治会的な活動を兼ねていることに対して批判が生じるようになった.このため,現在,報徳社では自治会的な活動を行っていない.ただし,土地の管理と保全は現在も行っており,旧来からの住民に交流の場を提供するものとして活動が継続されている.<BR><BR>

1 0 0 0 OA 貞操園朝顔

巻号頁・発行日
vol.[2], 1000

1 0 0 0 OA 古画備考 50巻

著者
朝岡, 興禎
出版者
巻号頁・発行日
vol.[13],
著者
前河 正昭
出版者
広島大学
雑誌
Memoirs of the Faculty of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University. IV, Science reports : studies of fundamental and environmental sciences (ISSN:13408364)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.195-198, 1997-12-28

第I章序論 ニセアカシアは日本で大型帰化植物として成功した数少ない木本植物である。しかしその分布拡大や更新維持機構は不明であり,かつ,ニセアカシア群落に対しての在来植生への林相転換技術も確立していない。そこで本研究は,ニセアカシアが分布を拡大している防災緑地を対象として,その生物学的侵入の実態を把握するとともに,ニセアカシア群落の林相転換および,同群落を含めた流域レベルでの景観管理について考察することを目的とした。第II章防災緑地周辺におけるニセアカシア群落の分布拡大過程 治山緑化工としてニセアカシアが導入された長野県牛伏川流域を対象にエコトープ図を作成した。そしてニセアカシア群落の分布およびその集団枯損の発生の立地依存性とその集団枯損後の在来植生への遷移の可能性について検討した。ニセアカシア群落の分布は渓畔域に集中しそのパッチ面積が現存する植生型のなかで最も大きく,様々な立地にまたがって分布していた。したがって,当地のニセアカシアは河川を主なコリドーとし,撹乱の発生,波及に伴って分布を拡大してきたことが推察された。渓畔域での拡散は,主として種子の流水散布と実生更新によってなされ,それに後続する局地的な拡散は主として定着個体の根萌芽更新によるものと推察された。ニセアカシア集団枯損林分の大部分では,在来植生への遷移は停滞し,ニセアカシアの根萌芽による更新もほとんど起きていなかった。次に,ニセアカシアとケショウヤナギがともに分布する長野県梓川の下流域において,46年間にわたる渓畔域の景観構造の変化を調べた。ケショウヤナギ群落は主として,流路変動によって新規に形成され,他の樹木が存在しない中洲や,河岸段丘で分布を拡げていた。それに対してニセアカシア群落は主として河岸段丘のなかでも護岸に接する所でまず成立し,その後にヤナギ林やアカマツ林の存在する立地へと侵入していた。特に1975年から1989年にかけては景観の多様性が増大したが,これは中洲や河岸段丘が安定化し河原の面積が減少し,木本群落へと置き換わったことと,ニセアカシアの在来植生への侵入が進んだため植生型の種数が増加したことによるものであった。これらの景観構造の急速な変化には,上流部のダム建設による土砂流出量の減少や,ニセアカシアの薪炭や農業用品の支柱としての利用が途絶えたことなどが関係していると考えられた。ニセアカシア群落の分布拡大は,今後の自然撹乱の頻度・規模を縮小させ,他の渓畔林の更新の機会を減少させる恐れがあることも示唆された。またニセアカシア群落と,在来性木本種との混交群落の相対優占度の総計は,1994年にはすでに52%に達し,寡占状態となっていることから,今後もニセアカシア群落の急速な増加が進むことが予想された。さらに,石川県安宅国有林を対象として,海岸防災林に成立する成帯構造と植生構造を把握し,そのなかのニセアカシアおよびニセアカシア群落の位置づけを明らかにするためベルトトランセクト法による植生調査を行った。クラスター分析から合計11個の植生型を区分し,このうちニセアカシア群落には,優占度が低いながらもクロマツが混交し,林床で草本植物の優占するニセアカシア群落と,ニセアカシアが単独で林冠を優占し,林床で低木種が優占するニセアカシア-コウグイスカグラ群落の2型が認められた。植生帯は,打ち上げ帯,草本帯,小木本帯および木本帯の4帯で,その境界は汀線からの距離で29m,50mおよび158mであることが判った。ニセアカシア群落は,高木林にまで成長可能な群落でありながらも,木本帯よりはむしろ小木本帯要素の群落と判断され,在来植生により形成されるべき成帯構造に不調和をもたらしていた。またニセアカシア群落の種多様性は,在来群集やクロマツ群落の傾向とは反対に,環境傾度に沿って減少する傾向があった。このことからニセアカシア群落は草本帯,小木本帯の潜在立地に関しては,群集の種多様性を高める反面,木本帯の潜在立地においては,群集の種多様性を低下させていることが推察された。第III章樹形からみたニセアカシアの生態的特性 梓川下流域にはニセアカシアの除伐という人為的植生管理によって相観的にはケショウヤナギ-ニセアカシア混交林だった所がケショウヤナギの純林に誘導された区域が存在する。そこでこのケショウヤナギ林を対象に毎木調査を行った。ニセアカシアは除伐された後には,親個体ともケショウヤナギの樹幹とも離れ,かつ光環境の比較的良好な領域である林縁部に多数の根萌芽を分散させていることが判った。萌芽の樹幹の傾斜角度は林縁,林冠下の個体群でギャップ個体群に対して有意に大きかった。しかし根萌芽の傾斜角度は,全ての立地で大きい値を示し,立地間には有意差は認められなかった。
著者
小川 和夫 江草 周三
出版者
日本魚病学会
雑誌
魚病研究 (ISSN:0388788X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.95-99, 1980
被引用文献数
11

1. 1975年2月から1979年6月にかけて,養殖ウナギのGyrodactylus寄生を調査した結果,ニホンウナギからGyrodactylusの得られた池は19(千葉・静岡・徳島・宮崎県),ヨーロッパウナギからGyrodactylusの得られた池は5(静岡・徳島県)であった。2. Gyrodactylusを同定した所,ニホンウナギ寄生種は全てG.nipponensisであり,ヨーロッパウナギ寄生種はG.anguillaeとG.nipponensisであった。3. ニホンウナギとヨーロッパウナギの間には,G.nipponensisに対する感受性に大きな差はないと思われる。最も重篤な寄生例では,ニホンウナギ(体長約45cm)1尾当り約20,000虫体のG.nipponensisが鰓弁から得られた。4. G.anguillaeは日本初報告種であり,種を再記載した。5. 今回得られたG.anguillaeは,ヨーロッパウナギとともにフランスから持ち込まれたものと判断された。我が国のニホンウナギからは,現在までに,G. nipponensisしか見出されず, G. anguillaeが日本に定着したという証拠は得られなかった。ヨーロッパウナギ寄生のG.nipponensisはニホンウナギから伝播していったものと推測される。
著者
飯田 貴次 若林 久嗣
出版者
日本魚病学会
雑誌
魚病研究 (ISSN:0388788X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.77-83, 1983
被引用文献数
1 9

1. ウナギ,ニジマス,コイ,ティラピア,クロダイの新鮮血清の殺菌作用について,E. coliを用いて調べた。2. すべての魚種の新鮮血清に殺菌作用が認められ,ザイモサン処理,EDTA, EGTA添加が殺菌作用に及ぼす影響により,この殺菌作用は補体の代替経路によるものと判断された。3. しかし,各種処理が及ぼす影響に違いがみられ,魚種により代替経路活性過程が一様でないことが示唆された。4. 魚病細菌V.anguillarum, E. tardaに対する殺菌作用も調べたが,E. coliに対する結果よりもその程度は低かった。
著者
室賀 清邦
出版者
広島大学水畜産学部
雑誌
広島大学水畜産学部紀要 (ISSN:04408756)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.p101-215, 1975-08
被引用文献数
2

(本論文はすでに発表した実験結果に未発表の実験結果を付け加えてまとめたものである。)第I章アユおよびその他の養殖魚の病魚からVibrio anguillarumを分離し,我が国における本菌感染症を確認した。1) 浜名湖産稚アユは採捕後の蓄養期間中における歩留りが著しく悪いが,その斃死原因には,主として蓄養初期の死亡をもたらす物理・化学的要因と,主として蓄養開始後3日目頃からの死亡をもたらす細菌感染症の2つのものがあることが確認された。2) 前者の死亡は淡水順化を短時間に実施することにより,後者の死亡はchlortetracycline薬浴を行なうことにより,それぞれかなり抑えることができた。3) 後者の細菌感染症には1種類の細菌が関与していることがわかり,また稚アユは蓄養水槽に収容した時点ですでにその病原菌の感染を受けていると考えられたが,感染している個体の比率,あるいは感染を受けている組織(初感染部位)を明らかにすることはできなかった。4) 1965年,1966年および1967年に浜名湖産稚アユ病魚から分離された病原菌(11株)は,その形態学的および生化学的性状からいずれもVibrio anguillarumと同定された。5) 利根川河口産稚アユ(1967年)および静岡県伊豆の海産稚アユ病魚(1970年)からV. anguillarumが分離され,各地の海産稚アユの歩留りの不良には多くの場合本菌感染症が関与しているものと考えられた。6) 1969年夏,滋賀県彦根周辺および長野県佐久地区の淡水養殖アユ(琵琶湖産種苗)にビブリオ病が発生し,いずれの病魚からもV. anguillarumが分離され,完全なる淡水域にも本菌感染症が存在することが確認された。7) 1973年,全国的に養殖アユのビブリオ病が流行し,徳島県,岡山県および愛知県下の病魚からV. anguillarumが原因菌として分離された。この年の流行は,従来は本病に対し有効であった治療薬(サルファ剤ならびにchloramphenicolなどの抗生物質)の効果がほとんど認められないことから大きな被害をもたらした。同年の分離菌株はin vitro試験によってもこれらの薬剤にかなり耐性化していることが示された。8) このようなV. anguillarumの薬剤耐性化は薬剤の過度の使用がもたらしたものと考えられ,抗菌剤による本病の予防・治療対策には大きな問題のあることが指摘された。9) 1971年,徳島県松茂町の養鰻池においてニホンウナギの本菌感染症が確認され,以後同地区の塩分を含む養鰻池には継続して本病が存在した。10) 1965年および1966年,愛知県伊川津において実験を目的として海水に蓄養されていたニホンウナギから本菌が分離された。11) 1966年,浜名湖において海水順化試験を行なったニジマスに本菌感染症が発生した。12) 1966年,静岡県沼津の養殖ハマチおよびカンパチ,1972年島根県神西湖の天然ボラなどの病魚から本菌が分離された。13) 岡山県水産試験場で行なっているアユの種苗生産においてビブリオ病による著しい減耗が大きな問題となっており,その原因菌はV. anguillarumであることが確認された。(1973年,1974年)。14) 魚の本菌に対する感受性,魚の一般的な抵抗力,および種苗の取り扱い方などを総合してみると,アユ特に海産稚アユに本菌感染症が多発するのはかなり必然的なことであると考えられ,アユのビブリオ病を抑えるためには根本的な養殖方式の再検討が必要と考えられた。第II章著者がこれまでに分離したV. anguillarumについて,その性状を整理し,それらと外国から分離・報告された本菌の性状を比較するとともに初めてBergey's manual of determinative bacteriology(8th ed. 1974)に記載された本菌のtype descriptionについて考察を加えた。また我が国で報告された他のfish-pathogenic vibrios,更にはVibrio parahaemolyticusあるいはVibrio alginolyticusと本菌の性状との比較を試みた。15) 1965年から1974年にかけて,アユ,ニホンウナギ,ニジマス,ハマチ,カンパチおよびボラから分離したV. anguillarum 61菌株の性状を整理したところ,糖分解能その他でいくつかの相違点はあるにしても主要な項目およびウナギに対する病原性などの点で完全に一致した。それらの性状を新しいBergey's Manualのtype descriptionと比較した結果,すべての分離株はV. anguillarumと同定しうることが再確認された。16) 著者の分離株の性状および外国から報告されたV. anguillarumの性状を総合して検討した結果,Bergey's Manualのtype descriptionにはindole産生能についての記載など,若干訂正されるべき点があると考えられた。17) Bergey's Manualに記載されたように,Vibrio piscium, V. piscium var. japonicusおよびV. ichthyodermisをV. anguillarumのsynonymとすることは現段階では一応妥当なことと考えられたが,今後特に本菌の病原性についての検討を行ない,将来は生化学的性状だけでなく病原性の違いをも考慮して本菌をいくつかのtypeに分ける必要があると考えられた。18) 我が国で他の研究者により報告された種名の明らかにされていないfish-pathogenic vibriosの性状を検討したところ,ニジマスにはV. anguillarumとは別種の病原菌も存在していると考えられ,また海産魚の潰瘍病の原因菌をそのままV. anguillarumとすることには問題があると考えられた。19) V. anguillarumとV. parahaemolyticusを比較検討したところ,arginine dihydrolase, lysine decarboxylase, sucrose利用,Voges-Proskauer reaction,塩分耐性などの生化学的性状,およびウナギに対する病原性に違いのあることが確認された。20) V. anguillarumとV. alginolyticusを比較したところarginine dihydrolase, lysine decarboxylase塩分耐性およびウナギに対する病原性などに違いのあることがわかった。第III章V. anguillarum (PB-15株,アユ由来)に対する数種淡水魚および海産魚の感受性を検討したのち,ニホンウナギを実験材料魚に選び,病原性確認の実験方法について検討した。この接種実験の過程において,接種菌量のわずかな違いによって90%以上のウナギが死亡する場合とまったく死亡魚が出ない場合があったので,その現象に着目し,接種菌の動態および接種した魚の内的変化を明らかにすることによりhost-parasite relationshipの一局面をとらえてみた。21) V. anguillarumを数種の淡水魚および海産魚に接種したところ,ニホンウナギ,ヨーロッパウナギおよびドジョウは本菌に対し高い感受性を示し,ニジマス,クロダイおよびハマチも比較的高い感受性を示したが,コイ,フナおよびキンギョは極めて低い感受性しか示さなかった。22) 感受性が高い点や飼育が比較的容易であることなどからニホンウナギを本菌の病原性確認の材料魚として選び,感染方法を検討したところ,接触法(培養菌水中懸濁法)あるいは経口投与法によっては発病させることができず,注射法,それも筋肉内注射が最も確実に発病させうる接種方法であることがわかった。23) 発病を目的として筋肉内注射を行なう場合,接種菌量は魚体重100g当り1㎎(湿菌重量,生菌数8×108 cells)が適当であること,魚は体重10g以上であれば大きさにあまり関係なく材料魚として使用しうること,水温は10℃でも実験可能であるが20℃が適当であることがわかった。24) ニホンウナギに本菌(PB-15株)を魚体重100g当り1㎎を接種すると90%以上のウナギが死亡したが,接種量を0.1㎎とすると死亡魚は1尾もでなかった。25) 1㎎を接種されたウナギの血液,肝臓,脾臓および腎臓において接種菌は徐々に増加し,死亡寸前(接種36時間後)の菌数は106/ml or gのlevelに達していた。これに対し0.1㎎を接種されたウナギの各組織中の接種菌の数は時間経過とともにすみやかに減少し,72時間後にはほぼ消失していた。26) 1㎎を接種されたウナギおよび0.1㎎を接種されたウナギのいずれにおいても,hematocrit値,hemoglobin量あるいは赤血球数における変化は認められなかった。27) 白血球の変動においては,1㎎を接種されたウナギと0.1㎎を接種されたウナギの間には大きな違いが認められた。特に菌接種6時間後に急激に増加した好中球は,前者のウナギ(1㎎接種)ではその後減少し続けたのに対し,後者のウナギ(0.1㎎接種)では更に増加し,好中球が本菌の処理に大きく関与していることが示唆された。28) 病理組織学的に検討を加えた結果,接種された菌は接種部位の筋肉組織および結合組織において増殖し,それが血流に乗り各組織に運ばれ全身感染をひき起こし,典型的な敗血症をひき起こしていることが確められた。29) 本菌を超音波処理した上澄み液にはウナギに対する毒性成分は認められなかった。30) 本菌は多くの場合マウスに対する病原性を示さなかった。実験によっては病原性を示す菌株もあったが,その程度はV. parahaemolyticusのマウスに対する病原性に比べると弱く,本菌は一般的にはマウスにほとんど病原性を示さないと考えられた。補ニホンウナギを材料魚に用い,本菌感染症の予防法の検討を目的として免疫学的基礎実験を試みた。31) 本菌の死菌をウナギに筋肉内接種すると,凝集素抗体が産生され,生菌接種攻撃に対しても顕著な防禦作用を発揮した。32) 死菌接種免疫によるウナギの抗体産生には水温が大きく関与することが確められた。すなわち水温11℃ではウナギは抗体を産生せず,水温15℃以上で抗体を産生しその速度は水温が高い程増した。しかし水温を27℃にまで上げても抗体産生の速度は水温23℃の場合と変わらず,水温23~27℃位がニホンウナギの抗体産生のための好適水温であると考えられた。33) 水温23~27℃の場合,通常最初の免疫から2週間後に凝集素抗体が初めて確認されたが,最も早い例では1週間後に確認された。また維持の点では,Freund's incomplete adjuvant vaccineを接種し水温7~15℃の下においた場合,最初の免疫から約4カ月後でも抗体が確認された。34) 経口免疫実験を試みたところ,merzonin死菌投与区においては抗体は産生されなかったが,生菌投与区においては低いtiterながら凝集素抗体の産生が認められた。なおそれらの抗体を産生した生菌投与区の魚に生菌攻撃を試みたが,あまり顕著な防禦作用は認められなかった。Part I Vibrio anguillarum was identified as the causative organism of epizootics of vibriosis in Ayu (Plecoglossus altivelis) and in some other fishes cultured in Japan. 1) In every spring from 1965 to 1967, young Ayu, which were caught in Lake Hamana, a salt lake, as seed fish for pond-culture, showed heavy mortalities during the period of acclimatization to freshwater. A considerable part of the mortalities was caused by an infectious disease. The causative bacterium of this infection has been identified as Vibrio anguillarum. 2) In 1967 and 1970, similar disease occurred in stocked young Ayu caught in an estuary of the River Tone and along the sea-shore of some other districts, respectively. V. anguillarum was isolated from these diseased fish in each case. 3) In the summer of 1969, an epizootic occurred in Ayu in freshwater ponds in Shiga and Nagano prefectures. The causative organism was identified as V. anguillarum. Since these fish were caught as seed in Lake Biwa, a freshwater lake, this was the first time for the bacterium to be isolated as the etiological agent from Ayu which had exclusively inhabited freshwater environments. 4) In 1973, Vibrio anguillarum infection was prevalent in Ayu in freshwater ponds in various parts of Japan, and led to heavy losses due to the ineffectiveness of sulfa drugs and antibiotics, which had been frequently used before in controlling efficiently. 5) In 1971, V. anguillarum was isolated from the diseased eel (Anguilla japonica) cultured in freshwater ponds in Tokushima prefecture. The water of these ponds contained a slight amount of sea-water. Ever since then, this infection of cultured eel has repeatedly occurred in that district. In contrast, such infection has never been observed so far in eel ponds in other districts of Japan. 6) From 1966 to 1974, V. anguillarum was isolated occasionally also from diseased specimens of such fishes in sea- or brackish waters, as cultured rainbow trout (Salmo gairdneri), yellow tail (Seriola quinqueradiata) and Kampachi (S. purpurascens), and wild grey mullet (Mugil cephalus). 7) As described above, vibriosis has recently become a serious problem in fish culture, especially in Ayu culture in Japan. It is wished that the actual method of Ayu culture should be examined radically anew, in view of controlling the occurrence of this infectious disease. Part II The microbiological characteristics of V. anguillarum isolated by the present author were studied comparatively and comprehensively. The type description of V. anguillarum listed in Bergey's manual of determinative bacteriology (8th ed. 1974) was discussed on the basis of the characteristics of the strains isolated by the present author and some other strains reported by foreign workers. Furthermore, some comparative studies of the present strains of V. anguillarum with other fish-pathogenic vibrios reported in Japan, and also with Vibrio parahaemolyticus and Vibrio alginolyticus were carried out. 8) The characteristics of V. anguillarum isolated from various fishes as described in the previous part proved to be identical with each other (not serologically), and these isolates were reaffirmed to be classified as V. anguillarum in referrence to Bergey's new Manual. 9) From investigations of the present isolates, it seems necessary to revise the type description of V. anguillarum in the Manual for some items such as indole production, growth at 5℃ and some sugar utilizations. 10) It seems reasonable to combine V. anguillarum, Vibrio piscium, V. piscium var. japonicus and Vibrio ichthyodermis as a single species, under the name of V. anguillarum. At the same time, however, it is suggested that V. anguillarum should be divided into separate types on the basis of the differences in pathogenicity and in some biochemical characteristics. 11) It was indicated that some vibrios from rainbow trout and marine fishes in Japan, as reported by other authors, can be differentiated from V. anguillarum by certain biochemical characteristics and by their pathogenicity. 12) From comparative experiments, it was demonstrated that V. anguillarum differs from V. parahaemolyticus in the following points; arginine dihydrolation, lysine decarboxylation, sucrose fermentation, Voges-Proskauer reaction, NaCl-tolerance and pathogenicity for the eel. Likewise, V. anguillarum differs from V. alginolyticus by arginine dihydrolation, lysine decarboxylation, NaCl-tolerance and pathogenicity for the eel. Part III The Japanese eel (A. japonica) was selected as test-material for the evaluation of pathogenicity of V. anguillarum, and a method to confirm the pathogenicity was sought for. In the latter section of this part, some host-parasite relationships in experimental infection were investigated. 13) Susceptibilities of several freshwater and marine fishes against V. anguillarum (strain PB-15, from Ayu) were tested by means of intramuscular injection. As a result, it appeared that the Japanese eel, the European eel (A. anguilla) and loach (Misgurnus anguillicaudatus) possess a remarkable susceptibility; that rainbow trout, black sea bream (Mylio macrocephalus) and yellow tail have a relatively high susceptibility too, but that carp (Cyprinus carpio), goldfish (Carassius auratus) and crucian carp (C. carassius) have a low susceptibility. 14) On account of this high susceptibility and for practical convenience, the Japanese eel was chosen as the test-material fish, and a method for the evaluation of pathogenicity was sought. The conclusions were as follows: intramuscular injection proves to be the most reliable method and 1 mg of the bacterium in wet weight (8×108 cells) per 100 g of fish body weight is the adequate dose for inoculation. Even small eels (more than 10 g in body weight) can be used as materials. The experimental results can be obtained by a water temperature of 10℃, but show up more rapidly at 20℃. 15) Under the above mentioned experimental conditions, more than 90% of the Japanese eels that received a dose of 1 mg of cells of the bacterium died within a week, while none of the eels that received only 0.1 mg died. It was confirmed that the number of the bacterium in the blood and in some other tissues of the former eels augmented slowly up to 106 cells/ml or g; and that on the contrary, the bacterium in the latter eels diminished in number and at 72 hours after the inoculation the bacterium disappeared in every tissue. 16) From hematological studies of the inoculated eels, it was proved that no change had occurred in the hematocrit value, the hemoglobin content and the number of erythrocyte, even for the eels that had received a lethal dose (1 mg). But changes in number of leucocytes, especially of neutrophil, were markedly contrasted between the eels that received 1 mg and those received 0.1 mg. 17) From the histological studies, it could be shown that the eels which had received a lethal dose fell into a systemic septisemia. 18) A supernatant fluid of the sonicated cell suspension of the strain PB-15 was proved to have no toxic effect on the eel. 19) Most of the strains of V. anguillarum showed no pathogenicity for mouse, but in a few 'experiments some strains exhibited pathogenicity, though weaker than that of V. parahaemolyticus.Supplementary part Some immunological laboratory experiments were carried out, using the eels as test-material. 20) The eels produced agglutinins and protective immunity by receiving the merzonin-killed cells intramuscularly. 21) Water temperature played an important role on the formation of antibodies in the eel; within a temperature range from 15℃ to 23℃, the maximum titer, viz. 800~1,600, were attained more rapidly at higher temperature, but no difference was found between 23℃ and 27℃. No measurable antibody was produced at 11℃. 22) The agglutinating antibody induced by Freund's incomplete adjuvant vaccine were maintained for about 4 months at a low temperature of 7 to 15℃. 23) An attempt was made on oral immunization of the eel against V. anguillarum. The group fed on merzonin-killed cells did not produce antibodies, but the group fed on viable cells produced circulating agglutinating antibodies after three month's feeding. It was shown that the protective immunity of the eel fed on viable cells was very weak however, even after four month's feeding.本研究の一部は,昭和46年度および昭和47年度文部省科学研究費補助金(奨励研究A)によって行なわれたものである。

1 0 0 0 OA 色道大鏡

著者
藤本箕山
出版者
巻号頁・発行日
vol.[1],