著者
浅野 泰仁 今井 浩
雑誌
情報処理学会研究報告アルゴリズム(AL)
巻号頁・発行日
vol.1998, no.41(1998-AL-062), pp.1-8, 1998-05-20

単一始点最短路問題(SSSP)を解くためのアルゴリズムとしては、Dijkstraのアルゴリズムが有名である。過去、Dijkstraのアルゴリズムを高速化する研究が多く行われてきたが、ソート問題に相当するボトルネックのため、線形時間を達成することはできなかった1997年、M.Thorupが整数枝重み無向グラフでのSSSPを線形時間で解くアルゴリズムを発表した。しかしこのアルゴリズムで使用されている複雑なデータ構造のいくつかは理論通りには実装できない。本研究では、Thorupのアルゴリズムを現在の計算機上で実装するための変更を提案した上で、実際にThorupのアルゴリズムの実装をおこなった。さらに、既存のアルゴリズムとの比較実験および各部分の実行時間計測をおこなった。
著者
石綿 寛
雑誌
総合福祉研究 = Social welfare research bulletin (ISSN:18818315)
巻号頁・発行日
vol.22, pp.115-128, 2018-03-31

本論は,人文学不要言説の分析を実施した.既存の人文学を擁護する人文学擁護言説は,人文学の危機を人文学を聴く人々の無理解を巡る問題として議論していた.これに対し本論は,人文学の危機を人々の人文学からの撤退として議論する.この立場を取るならば,人文学の危機は,人々に人文学の意義を語ることでは解決されない.取り組むべきは,人々がなぜ人文学から撤退することが可能なのかという人文学と人々の距離を問うことである.このような問題意識にもとづき,本論は,人文学から距離を取り既存の人文学を不要とする冨山和彦の議論を分析した.冨山の論考から明確になったことは,社会構造を巡る理解の違いである.冨山にとって,技術革新などによって実現される社会構造は所与であり,その中でいかに効率的に政策を実施するかが重要な課題になっている.この理解の枠組みの中では,人間が社会構造を変えていくことを所与とする人文学は必要がないものとなる.
著者
吉岡 一男 Kazuo Yoshioka
雑誌
放送大学研究年報 = Journal of the University of the Air (ISSN:09114505)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.107-120, 2000-03-31

夜空が何故暗いか? という疑問が17世紀に指摘されて以来,一部の天文学者を悩ましていた.それは,恒星が宇宙空間に無限に広がって輝いているならば夜空が昼間よりもはるかに明るいことになる,という現実とは異なる結論が導かれるからである.これをオルバースのパラドックスという.それを回避するために,宇宙有限説,孤立宇宙説,無限階前説,吸収説など様々な説が唱えられた.しかし,いずれの説も成り立たないことがわかった. 現在,ハッブルの法則に従う宇宙の膨張によりこのパラドックスが回避されると考えられている.すなわち,宇宙の膨張から帰結される宇宙年齢の有限性と宇宙の膨張に伴う膨張効果(ドップラー効果と希釈効果)によりパラドックスは回避される. しかし,通俗書に書かれているパラドックスの記述には,歴史の記述が不正確であったり,パラドックスの回避の説の記述が誤解を招いたり誤っている本が見られる.また,宇宙年齢の有限性の効果の方が膨張効果よりも圧倒的に効くのにその記述も見られない. 一方,宇宙の膨張を持ち出さなくても恒星の寿命が有限で空間密度が低いことでパラドックスを回避できる,と考えることもできるが,その場合も現在恒星が輝いていることの自然な説明を宇宙の膨張が与えることを指摘した.また,パラドックスが認識されるためには,背景となる理論が確立されている必要のあることも指摘した.
著者
武石 みどり
雑誌
研究紀要
巻号頁・発行日
vol.33, pp.1-21, 2009-12-10
著者
山上 俊彦 Toshihiko Yamagami
雑誌
日本福祉大学経済論集
巻号頁・発行日
vol.41, pp.173-200, 2010-09-30

現在の日本において貧困は深刻な社会問題となっている. 1990 年代後半以降, 格差問題が活発に議論されていたが, 焦点は貧困問題へと移行している. 先進諸国において, 従来の社会保障制度は働く貧困層 (ワーキング・プア) の増加に対応できない状況となっている. 貧困問題に真摯に対応することは社会の基盤を構築する上で重要であり, 最低所得を保証するものとして負の所得税やベーシック・インカムが提起されてきた. 欧米の先進諸国では, ワークフェアの一環として, これらを基礎とした税額控除制度が実施されているところである. 福祉国家という概念は, リベラリズムや自然権のみならず, 自由主義思想の影響も受けている. 日本においても社会保障制度を再構築するために制度の哲学的基盤を整備する必要性がある.
著者
岡野 裕行
出版者
皇學館大學人文學會
雑誌
皇學館論叢 = KOGAKKAN RONSO (ISSN:02870347)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.137-154, 2022-01-10
著者
許 憲春 李 潔 作間 逸雄 谷口 昭彦
出版者
埼玉大学経済学会
雑誌
社会科学論集 (ISSN:05597056)
巻号頁・発行日
vol.119, pp.55-67, 2006

本稿では、中国サービス業の範囲および生産面のGDP推計におけるその分類の変化を考察し、中国サービス業統計に存在する問題を検討し、国家統計局によるサービス業統計の改善措置について述べる。
著者
松尾 剛次
出版者
山形大学大学院社会文化システム研究科
雑誌
山形大学大学院社会文化システム研究科紀要 = Bulletin of Graduate School of Social & Cultural Systems at Yamagata University
巻号頁・発行日
vol.1, pp.256-246, 2005-03-31

羽黒山といえば、月山・羽黒山・湯殿山とともに出羽三山を構成する修験の山として知られている。すなわち、山岳修験の霊場としてイメージされる。こうしたイメージは、戸川安章・岩鼻通明氏らによる近世を中心とした民俗学的・地理学的成果によって形成されてきた。他方、伊藤清郎氏らの歴史学的研究は、八宗兼学の地方有力学問寺院としての姿に光を当てた。ようするに、羽黒山寂光寺は、一方では修験の寺として、他方は、僧位・僧官を有する官僧の住む学問寺としての羽黒山に注目している。前者は近世に、後者は古代・中世に注目した結果といえる。いずれの指摘も、それぞれに説得力あるもので、示唆にとんでいるが、本稿では、中世の羽黒山に注目することで、両者を止揚する新たな像を提示したい。より言うなら、有力官僧寺院から(近世においても、その性格を完全に失うわけではないが)、どのようにして修験の寺に性格を変化させていったのか、見てみよう。しかし、羽黒山の中世史は、なぞに包まれている。それは残存する史料が極端に少ないことによる。だが、そのことは、奥州・出羽・佐渡・越後・信濃は羽黒権現の敷地といわれ、「西二十四ヶ国は紀州熊野三所権現の、九州九ヶ国は彦山権現の、東三十三ヶ国は羽黒山権現の領地だ」といわれた羽黒山の中世史が貧弱であったことを意味してはいない。たとえば、承元三(一二〇九)年に、羽黒山の僧侶たちが大泉庄地頭大泉氏平を所領「千八百枚」を押領し、羽黒山内の事に介入したとして鎌倉幕府に訴え、幕府も羽黒山の言い分を認めたことはよく知られている。一枚を一町とすれば千八百町の所領を有する地方の巨大寺院であった。また、『太平記』に見られる雲景未来記の作者雲景は羽黒の山伏であった。このように、中世の羽黒山はその存在を日本中に知られていたのである。そこで本稿では、中世の羽黒山の実態に迫ることを主眼とする。けれども、やはり資料の少なさは遺憾ともしがたい。しかし、幸いにも今回、以下のような注目すべき二点の新資料を見いだすことができたので、それらを紹介しつつ中世の羽黒山の実態に迫ろう。