著者
丸山 正博
出版者
拓殖大学
雑誌
拓殖大学経営経理研究 (ISSN:13490281)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.77-91, 2007-03-25

書籍販売は市場全体では縮小傾向にあるが,ネット通販市場は拡大している。そこで(1)多品種小ロット生産などの商品特性,(2)再販制度といわゆる委託販売制度による取引システム,(3)大手取次のチャネル支配という流通システム,という書籍の流通構造を踏まえた上で,版元と書店が事業性の改善のために採りうる対応策を考察する。そして版元にとってはオンデマンド出版やデジタル書籍の積極的な導入,中小取次との取引や書店との直接取引の積極化,再販制度の不採用か少なくとも時限再販制度への移行が有効な施策であり,書店にとっては販売規模に応じた品揃えの主体的な選択と絞り込み,これを可能にするための返品を前提としない買切制度と,再販制度に代わる時限再販制度の積極的採用が有効な施策であると指摘した。
著者
西島 千尋 Chihiro Nishijima
雑誌
現代と文化 : 日本福祉大学研究紀要 = Journal of culture in our time
巻号頁・発行日
vol.132, pp.1-18, 2015-09-30

2006年の「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(以下,風俗営業法)の改正により,ダンス営業が規制されることとなった.この規制が,日本国憲法で保障される「表現の自由」を侵すものであるとして,2012年にはLet's DANCE署名推進委員会が立ち上がった.こうした動きのもと,2014年,内閣が風俗営業法改正について閣議決定を行い,ダンス営業規制が撤廃された.ダンス営業は新設される「特定遊興飲食店営業」に分類されることになったが,同委員会は「遊興」という形で規制対象が拡大されると懸念している.こうしてある種のダンスが規制される一方で,保護されたり,経済的な援助を受けたりするダンスもある.つまり,ハイカルチャーとされるダンスと,クラブなどのダンスは,扱われ方に差異があるのである.資料を探ると,この区別は江戸時代にはすでに「舞」と「踊」の差として生じており,さらに言えば,身分制度と並行していたことがわかった.本稿で取り上げるのは加賀藩の事例である.金沢市は,能を市のシンボルとしているが,かつてはすべての身分に許されていた訳ではない.能は武家の式楽であり,意図的に特権化されていたのである.その過程において,「舞」と「踊」の区別は色濃くなっていった.この過程を整理するために,本稿では『加賀藩史料』に着目している.加賀藩は,外交や藩内政治,ひいては親族間のコミュニケーションのために能という「舞」を重んじ特権化する一方で,一揆や風紀の乱れを恐れて「踊」を全面的に禁じていた.「踊」への為政者の危惧は,現代にも通じるものがあると言える.
著者
瀬戸 淳
出版者
プロジェクトマネジメント学会
雑誌
プロジェクトマネジメント学会誌 (ISSN:1345031X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.3-8, 2006-02-15

佐賀藩は1850年以降,長崎港警備強化のため築地に大砲製作所を設け,反射炉技術を採用し,射程の長い強力な鉄製大砲を開発製作することを目論んだ.この鉄製大砲を開発製作するために特別プロジェクトを設置して,独立組織のチームを作り,その製作に成功し,新設の砲台に配備した.ここでは,プロジェクトの組織と開発の工程について考究するものである.
著者
石橋 賢 宮田 一乘
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.26, 2012

オノマトペは,適切なフォントを用いることで直感的な情報伝達を促す.すなわち,フォントはオノマトペに重要な要素の一つであると言える.フォントの視認性に関する議論は行われるものの,情報伝達を促進する文字情報に適切なフォントは,デザイナの知識に依存している.本研究では,一般の人々がオノマトペに適切だと感じるフォントを視覚的特徴量から分析することで,オノマトペに適したフォントの要素について考察する.
著者
別府 玲子 村橋 けい子
出版者
Japan Audiological Society
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.142-146, 1999

心因性難聴に健忘を伴った2症例を経験した。 健忘は精神医学的には意識の障害を呈する解離性障害の一症状である。 症例1は年齢16歳, 症例2は15歳と, 思春期の女性であり, 難聴, 健忘以外にも多彩な症状を示した。 症例1は精神科において全生活史健忘との合併と診断された。 症例2は, 幼少時より両側高度感音難聴のため経過観察をしており, 既存の難聴が高度で, 他覚的聴力検査で閾値が確認できないので, 精神医学的状況から心因性難聴と推定した。 心因性難聴の場合は, 十分な心理的ケアが必要であり, 特に他の重篤な精神症状を合併している場合は精神科のカウンセリングを要すると考えられた。
著者
金 泰憲 李 允碩
出版者
龍谷大学国際文化学会
雑誌
国際文化研究 (ISSN:13431404)
巻号頁・発行日
no.11, pp.119-128, 2007

韓国人の家族に対する価値観は伝統的に儒教思想に基づいている。儒教思想は、人間は子孫を通して永生を得ることができ、子孫は親を通して命を得ることができると考える。従って、子孫は家系を継承し、父母の老後面倒を見てあげなければならず、祖先を祭る責任を果たさなければならない。このような思想からは拡大家族制が理想とされ、長男を中心に家系と家産が相続される直系家族形態が普遍化してきた。韓国の伝統家族観は、日本の植民地と韓国戦争を経験しながらも相変わらず韓国の中枢的価値観としての位置を占めてきた。しかし、最近社会変化とともに韓国の伝統的な家族観は大きく、早く変わっている。多くの韓国人は老後子どもに頼るより独立して生きていくことを望んでいる。夫婦が葛藤を解決できなければ離婚も可能であり、自分のためなら子どもを生まないか、一人で満足するという考え方が広がっている。一人の子どもが男ではなく娘であってもかまわないし、必ず結婚する必要もないと考えるようになってきている。このような価値観の変化は、1960年代から進められた経済発展とともに起こっているが、最近そのスピードが大変早くなりつつある。
著者
Masaaki Kotera Susumu Goto
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
Biophysics and Physicobiology (ISSN:21894779)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.195-205, 2016 (Released:2016-07-15)
参考文献数
86
被引用文献数
15

Metabolic pathway reconstruction presents a challenge for understanding metabolic pathways in organisms of interest. Different strategies, i.e., reference-based vs. de novo, must be used for pathway reconstruction depending on the availability of well-characterized enzymatic reactions. If at least one enzyme is already known to catalyze a reaction, its amino acid sequence can be used as a reference for identifying homologous enzymes in the genome of an organism of interest. Where there is no known enzyme able to catalyze a corresponding reaction, however, the reaction and the corresponding enzyme must be predicted de novo from chemical transformations of the putative substrate-product pair. This review summarizes studies involving reference-based and de novo metabolic pathway reconstruction and discusses the importance of the classification and structure-function relationships of enzymes.
著者
小花和 宏之 早川 裕弌 齋藤 仁 ゴメス クリストファー
出版者
一般社団法人 日本写真測量学会
雑誌
写真測量とリモートセンシング (ISSN:02855844)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.67-74, 2014 (Released:2015-05-01)
参考文献数
6
被引用文献数
13 23

In the last few years, SfM (Structure from Motion) based on photographs taken from UAV (Unmanned Aerial Vehicle) has attracted a tremendous amount of interest for the creation of DSM (Digital Surface Model) and other morphometric products. However, the accuracy of the derived DSM hasn't been sufficiently evaluated yet. Therefore, the present contribution aims to compare UAV-based SfM data against TLS (Terrestrial Laser Scanning) derived DSM data. The fieldwork was carried out on a wave-cut bench in Kanagawa Prefecture (Japan). Results have indicated that DSM data derived from UAV-SfM can create a point cloud of comparable density to the one created by TLS, with a maximum deviation of 10 cm from the TLS data. The UAV-SfM technique has a great potential for a wide range of application, because of its high data accuracy, low acquisition and operational costs, allowing high spatial and temporal data recording.
著者
細川 聖二
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.156-164, 2016

電子ジャーナルの安定的利用と長期的保存に対応するため,世界中の図書館や出版社がさまざまなアーカイブ・プロジェクトに取り組んでいる。本稿では,グローバルなダーク・アーカイブの代表的な事例として,学術コミュニティー(大学図書館,出版社)による共同運営事業であるCLOCKSSについて,どのような仕組みでアーカイブを実現しているのか,その概要を説明するとともに,日本において国立情報学研究所や大学図書館がCLOCKSSに参加し,電子ジャーナル等の長期的保存の一翼を担うに至った経緯について紹介する。