著者
吉田 邦一 上林 宏敏
出版者
社団法人 物理探査学会
雑誌
物理探査 (ISSN:09127984)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.15-23, 2018
被引用文献数
2

<p>従来からSPAC法において用いられている二重正三角形アレイの水平成分から回転成分波形を求め,それを用いてラブ波の位相速度を推定する手法を考案した。水平面内の回転成分はラブ波のみに依存し,レイリー波の影響を受けないので,回転成分を適切に求められれば,その位相速度はラブ波の位相速度となる。ここでは回転成分を計算するために必要な空間微分を,正三角形アレイの記録を用いてテイラー展開により求めた。検証のため,全波動場を計算したものと,SH波動場のみを計算したものの2種類の理論微動アレイ記録を作成し,それらに対しこの手法を適用した。全波動場とSH波動場のアレイ記録それぞれから得られた回転成分波形は,ほぼ一致し,P-SV波動場を含む全波動場からSH波動場(ラブ波)のみによる成分を良好に取り出すことができることが確認できた。この方法をもとに,二重正三角形の中心点を除く6観測点の内の3点の組み合わせから,中心1点と円周上3点の計4点からなる正三角形アレイの回転成分波形を求めた。得られた回転成分アレイ波形に対しSPAC法あるいは<i>f</i>-<i>k</i>法などを適用することで位相速度を推定できる。ここでは回転成分アレイ波形にSPAC法を適用し,ラブ波の位相速度を推定できることを確認した。また,想定しているサイズのアレイで観測されるべき回転成分は,通常用いられる観測システムで十分求められるべき振幅を持つことを示した。</p>
著者
藤平 武文 北澤 正樹 高橋 聡 吉川 厚
出版者
一般社団法人 国際P2M学会
雑誌
国際P2M学会研究発表大会予稿集 2021 秋季 (ISSN:24320382)
巻号頁・発行日
pp.82-89, 2021 (Released:2021-10-16)
参考文献数
11

金融機関のトレーディングチームは、様々な経験や知識を持ったトレーダーが構成員となり、それぞれの相場観に従ってトレーディングを行う。チームはリーダーにより束ねられるが、リーダーも自身の相場観を持ち、構成員の判断に介入を行う。トレーディングチームは当初多様性のある集団だが、リーダーの介入により画一的なチームとなることも、多様性を維持したチームとなることもありうると考えられる。本研究では、リーダーの行動がトレーディングチームのパフォーマンスに及ぼす影響を明らかにすることを目的に、リーダーの介入が組織特性に及ぼす影 響について、エージェント・ベース・モデリング(ABM)の手法を念頭に、投資実態をトレーディングチームリーダーに対して行ったインタビューの結果を報告する。
著者
鈴木 創三 田中 治夫 浮田 美央 斉藤 政一 杉田 亮平 高橋 直史 古川 信雄 矢野 直樹 双胡爾 竹迫 紘 岡崎 正規 豊田 剛己 隅田 裕明 犬伏 和之
出版者
千葉大学
雑誌
千葉大学園芸学部学術報告 (ISSN:00693227)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.9-16, 2005-03-31
被引用文献数
1

千葉大学森林環境園芸(利根高冷地)農場内の森林土壌および果樹園土壌(地点名は各TNF-3およびTNO-5)の無機成分および粘土鉱物組成を分析した結果,以下のことが明らかとなった.1.両土壌ともに,現在の表層と下層の土壌の下に過去の表層と下層の土壌が埋没し,それぞれA/Bw/2A/2Bw層およびAp/2BC/3BC/4Bw/5AB/6A層の配列であった.2.両土壌ともに可給態リン酸含量は表層(A, Ap層)が下層よりも高く,とくにTNO-5のAp層はTNF-3のA層より8倍程度も高かった.逆にリン酸吸収係数はA, Ap層が下層より低く,リン酸吸収係数とアロフェン推定含量とは高い正の相関関係が認められた.3.陽イオン交換容量はTNF-3ではA層のほうがBw, 2A, 2Bw層より高かったが,TNO-5ではAp層より5AB, 6A層のほうが高かった.交換性のカルシウム,マグネシウム,カリウム含量および塩基飽和度はTNF-3よりTNO-5が大きかった.4.両土壌ともに,A, Ap層は下層よりも粗砂の割合が大きく,粘土,シルトおよび細砂の割合が小さかった.5.両土壌ともに,A, Ap層の酸化物(OX),非晶質粘土鉱物(AC)および結晶性粘土鉱物(CC)の割合は概ね30, 40および30%であった.しかし,TNF-3の2A層,TNO-5の4Bw, 5ABおよび6A層ではOX, AC, CCの割合は約10, 30および60%で,A, Ap層よりOX, ACの割合が小さく,CCの割合が大きかった.6.両土壌ともに,結晶性粘土鉱物組成はいずれの層もアルミニウム-バーミキュライト(Al-Vt)およびクロライト(Ch)を主体とし,これにアルミニウム-スメクタイト(Al-Sm),スメクタイト(Sm)およびバーミキュライト(Vt)が含まれる組成であった.
著者
井口 正寛
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1318-1324, 2020-11-15

Babinski徴候は、足底のやや外側を後ろから前にこすると、母趾が背屈する(原著では足趾が伸展する)徴候である(図11))。「錐体路障害」の存在を示唆する、最も名の知られた神経徴候と言っても過言ではない。フランスの神経学者Joseph Babinski(1857〜1932)が、後述する1896年のたった28行の論文2)で報告したことに端を発する。 この徴候は、医学書のみならず、芸術作品にも多く登場する。「シュール」の語源でもあるシュルレアリスムの創始者André Breton(1896〜1966)は、若き日にBabinskiのもとで医学の勉強をしていた時期があり3)、代表的な著作『シュルレアリスム宣言』(1924)4)には、「私はかつて、足の裏の皮膚の反射作用の発見者が仕事をしているところを見た」という形でBabinski徴候が登場する。また、谷崎潤一郎(1886〜1965)の小説『鍵』(1956)5)にも、Babinski徴候の描写が複数回みられる。新生児では正常でもBabinski徴候が陽性となるが、Babinski徴候が報告される400年以上前の中世の絵画にはすでに、足底の刺激やBabinski徴候の変法のような刺激で母趾が背屈していることが数多く描かれている6,7)。新生児が描かれた絵画にこの徴候を探すことは、筆者の美術館巡りでの楽しみの1つである。
著者
横田 恭平
出版者
環境技術学会
雑誌
環境技術 (ISSN:03889459)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.278-283, 2019

<p> 本研究の目的は,2016年の阿蘇山噴火時に噴出した火山灰の影響を濃度と負荷量より確認する.火山灰により,河川水のAlなどの濃度が上昇したが,その影響は2ヵ月以内であった.負荷量については,噴火から5日後には影響を確認できなかった.影響の期間に差異が生じた理由は,河川の流量の違いによるものであった.火山灰の影響度は,F<sup>-</sup>で0.3%と低いが,流量が少ない時期の影響度は5.3%となり,水質基準を超過した可能性があった.</p>
著者
影山 貴彦
出版者
日本笑い学会
雑誌
笑い学研究
巻号頁・発行日
no.17, pp.91-99, 2010-07-10

映画「ディア・ドクター」。昨年、2009年に劇場公開されたこの作品は極めて高い評価を各界より受け、多くの賞を受賞している。本論文においては、「ディア・ドクター」を題材として取り上げ、作品がより優れたものになった大きな理由として「笑い」を掲げ、その仮説提起によって論を進めたものである。作品の原作・脚本・監督を手がけた西川美和、そして本作品で主演を務めた老若男女を問わず人気を博している芸人・笑福亭鶴瓶という二人をキーワードに据え、互いを具に考察するなかで、両者の出会い、キャラクターの絡み合いが、映画に独特の化学反応とも呼ぶべき相乗効果を生み出したと唱えている。また、作品における「脚本・演出の笑い」と「演者のアドリブの笑い」についても言及し、それぞれの「笑い」の存在が反発することなく融合したことにより、作品に極めて効果的な深みを生み出す結果となった、と展開させている。
著者
丁 茹
出版者
鹿児島大学
雑誌
地域政策科学研究 (ISSN:13490699)
巻号頁・発行日
no.12, pp.91-109, 2015-03

"This paper compares the Chinese translations of Hoshi Shinichi's fiction published between 1980 and 2014 with the publishing condition of the Japanese versions and discusses how the Chinese versions were received in China from three standpoints. First of all, by investigating the change or distribution type of the conditions of Hoshi Shinichi's fiction over different years, which means the given examples of the Chinese translation collection, magazines and fiction in other publications, we can deduce how his fiction was received in China. Next, we put forward two featuresof the Chinese translations, namely, the translating boom period and the sudden change in the genre of works translated. Here we see the translation and publication of Hoshi's works undergo boom and stagnation periods, and the works are categorized as either science fiction of short-short stories. Investigating the reasons behind these two features, we can put light on the characteristics of Chinese translations and their publication. In addition, the fact that Hoshi's fiction is taken up in Chinese school 2 5textbooks suggests the uniqueness of how it has been received in China. That is to say, Hoshi's fiction is highlyregarded in Chinese educational circles and his audience is becoming younger. By comparing the adoption ofHoshi's fiction in both Chinese and Japanese school textbooks, we were able to analyze the reasons why theworks were adopted and thus discuss the characteristics of his Chinese readers. To a conclusion, based on the materials which collected during 30 years from now on and produced by theChinese translation and reception condition of Hoshi Shinichi's fiction in China, this article is to interpret the3 characters: the boom of the translating, the change of the works' genera and the younger-age trend of thereception readers."本論文は1980年から2014年までに中国で出版された中国語訳の星新一小説の状況と,日本における星新一小説の出版状況とを比較し,星新一小説の中国における受容の特徴を三つの面に分けて論ずるものである。第一に,中国語訳の作品集,雑誌及びその他の出版物に収録された星新一小説の翻訳点数と出版点数を挙げ,星新一小説出版の年代による変化や類型分布などの状況の分析を行い,それを通して中国における星新一小説の出版現状を明らかにする。第二に,星新一小説の中国における翻訳時期の集中及び翻訳された作品のジャンル区分の突然の変化という二つの特徴を取りあげる。すなわち,中国における星新一小説の翻訳及び出版には明らかにブームと停滞期があり,彼の作品を「SF」に分類するか「ショートショート」に分類するかという区分の変化も中国における独特の現象である。この二つの特徴の原因を分析し,星新一小説の中国語訳出版の特徴を論ずる。第三に,星新一の小説は中国で教科書に収録されたことに見られるように,中国における星新一小説の受容対象には顕著な特徴がある。すなわち,教育界からの高い評価を受けたことで,星新一小説の受容対象もより若くなる傾向があるのである。中日両国における星新一作品の教育用図書における採用状況を比較し,その原因を分析し,中国における星新一小説受容対象の特徴を論ずる。以上,本論文は,現在までの30年間に,中国における星新一小説の中国語訳及びその受容状況には,中国社会国有の特徴,すなわち,翻訳時期の集中,作品ジャンル区分の変化,および受容対象の低年齢化という三つの顕著な特徴が存在したことについて論述したものである。
著者
サトウ タツヤ
出版者
言語文化教育研究学会
雑誌
言語文化教育研究
巻号頁・発行日
vol.16, pp.2-11, 2018

<p>ナラティブという概念の起源や,主として心理学においてナラティブという概念がどのように注目を浴びたのかについて概説する。また,ナラティブモードがもつ論理科学的モードとは異なる機能やこれら2つのモードの相補性について注意を促し,あわせて TEA(複線径路等至性アプローチ)を用いた研究の可能性についても論じていく。</p>
著者
秦 正樹
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.45-55, 2016

本稿は,18・19歳の新有権者における政治関心の形成メカニズムについて,サーベイ実験を通じて明らかにした。若者の政治行動に関する先行研究では,主として政治的社会化理論を背景に議論される。しかし先行研究では,初期社会化と後期社会化の効果を独立に検証するがゆえに,各社会化の相互の影響については明らかにされていない。そこで本稿では,初期社会化が含意する政治規範の伝播と,後期社会化における政治利益の追及に関するシナリオを用意し,それぞれの情報が,新有権者(若年層)と既存有権者(年長層)に与える影響を明らかにすべくサーベイ実験を行った。実験結果より,新有権者は政治規範にのみ,逆に既存有権者は政治利益にのみ反応して政治関心を高める傾向が示された。以上の分析結果より,新有権者は利害に関わらず,政治システムそのものの在り方に関心を向ける傾向にあることが示唆された。